説明

アレイ超音波探傷装置

【課題】アレイ探触子を用いた自動探傷を行う際に、表面エコーをきずエコーに対して相対的に低減させ、SN比の改善を図ったアレイ超音波探傷装置を得る。
【解決手段】励振信号を受信することにより駆動される複数の励振素子を有し、接触媒質を介して超音波ビームを試験体へ向けて照射し、試験体表面および試験体内部の音響的不連続部で反射された超音波を、接触媒質を介して受信して電気信号に変換するアレイ探触子(10)と、励振信号を送信してアレイ探触子を駆動し、電気信号を受信することで試験体の探傷を行う送受信器(20)とを備え、送受信器は、励振信号の送信および電気信号の受信を行う際に、試験体の探傷に要求されるカバー範囲の励振素子のうち、真ん中の数素子あるいは単一素子を励振せず、両端の数素子あるいは単一素子に相当する部分的励振素子に対して前記励振信号を送信し、部分的励振素子で変換された電気信号を受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体に発生したきずを、非破壊で検査する超音波探傷に関し、特に、SN比の向上を図ったアレイ超音波探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
まず、従来の自動探傷装置による探査方法について、試験体対象が丸棒である場合を例に説明する。図4は、従来の自動探傷装置における丸棒自動探傷を行う際の垂直探傷の説明図であり、図5は、従来の自動探傷装置における丸棒自動探傷を行う際の斜角探傷の説明図である(例えば、非特許文献1参照)。図4および図5においては、丸棒1の自動探傷に用いられる垂直探触子11、および斜角探触子12が示されている。なお、図5における斜角探触子12は、2つ配置されており、それぞれ12aおよび12bとして示している。
【0003】
丸棒の自動探傷は、図4に示すように、垂直探触子11を用いて丸棒1内に超音波ビームを垂直に入射して、丸棒1の内部を探傷する。または、図5に示すように、斜角探触子12aおよび12bを用いて丸棒1に対して斜めに超音波ビームを入射して、丸棒1の表層部を探傷する。この際、図示はしていないが、丸棒1の周囲には接触媒質として水などの液体が満たされている。
【0004】
従来の丸棒自動探傷では、丸棒の周囲を探触子が回転することにより、全面探傷を行っている。この方式に対し、近年では、アレイ探触子を周囲に配置し、探触子が回転する代わりに、超音波ビームの励振位置を回転させる方式の自動探傷装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1には、アレイ探触子を丸棒周囲に配置し、表層部のきずを探傷する装置が示されており、超音波ビームを斜めに入射している。これは、先の図5に示した斜角探傷に相当する。当然、図4に示した垂直探傷も、アレイ探触子を丸棒周囲に配置することにより実現できる。
【0006】
図6は、従来のアレイ超音波探傷装置による垂直探傷の説明図である。図6に示す従来のアレイ超音波探傷装置は、アレイ探触子10および送受信器20を有しており、アレイ探触子10を丸棒1の周囲に配置することで、丸棒1の中心にあるきず2を垂直探傷する状況を示している。
【0007】
ここで、アレイ探触子10は、外部からの励振信号を受信することにより駆動される複数の励振素子を有している。さらに、アレイ探触子10は、水などの接触媒質を介して超音波ビームを試験体である丸棒1へ向けて照射し、試験体表面および試験体内部の音響的不連続部で反射された超音波を、接触媒質を介して受信して電気信号に変換する。
【0008】
一方、送受信器20は、励振信号を送信することでアレイ探触子10を駆動し、その応答として、アレイ探触子10で変換された電気信号を受信することで、試験体である丸棒1の探傷を行う。
【0009】
図6では、時間経過に伴う(a)〜(c)の3つの状態が示されている。図6(a)は、アレイ探触子10の左側にある素子を励振し、探傷する状態を示している。同様に、図6(b)は、アレイ探触子10の中央付近にある素子を励振し、探傷する状態を示しており、図6(c)は、アレイ探触子10の右側にある素子を励振し、探傷する状態を示している。
【0010】
これら(a)〜(c)の状態を連続的に行うことにより、励振位置が丸棒周囲を回転することになるので、探触子が回転する代わりとなる。励振素子数は、システムで要求されるビーム幅を満足するように決められる。励振素子数がカバーする範囲を、ここでは、カバー範囲と呼ぶことにする。なお、励振位置を移動させる距離やスピードは、システムによって異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−150679号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】(社)日本非破壊検査協会編、「新非破壊検査便覧」p 972、日刊工業新聞社(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来のアレイ超音波探傷装置では、垂直探傷を行う際に、丸棒表面で反射された表面エコーが、探傷ゲート内に侵入することによるSN比の劣化が問題であった。ここで、信号成分Sはきずエコーであり、ノイズ成分Nは表面エコーの尾引きである。SN比を向上させるには、表面エコーをきずエコーに対して相対的に低減させる必要があり、SN比の改善によるアレイ超音波探傷装置の性能向上が望まれている。
【0014】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、アレイ探触子を用いた自動探傷を行う際に、表面エコーをきずエコーに対して相対的に低減させ、SN比の改善を図ったアレイ超音波探傷装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るアレイ超音波探傷装置は、励振信号を受信することにより駆動される複数の励振素子を有し、接触媒質を介して超音波ビームを試験体へ向けて照射し、試験体表面および試験体内部の音響的不連続部で反射された超音波を、接触媒質を介して受信して電気信号に変換するアレイ探触子と、励振信号を送信してアレイ探触子を駆動し、アレイ探触子で変換された電気信号を受信することで試験体の探傷を行う送受信器とを備えたアレイ超音波探傷装置において、送受信器は、複数の励振素子の中で、試験体の探傷に要求されるビーム幅を満足するようなカバー範囲の励振素子を特定して励振信号の送信および電気信号の受信を行う際に、カバー範囲の励振素子のうち、真ん中の数素子あるいは単一素子を励振せず、両端の数素子あるいは単一素子に相当する部分的励振素子に対して励振信号を送信し、部分的励振素子で変換された電気信号を受信するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアレイ超音波探傷装置によれば、アレイ探触子においてカバー範囲内の真ん中の数素子あるいは単一素子を励振しないことにより、アレイ探触子を用いた自動探傷を行う際に、表面エコーをきずエコーに対して相対的に低減させ、SN比の改善を図ったアレイ超音波探傷装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1におけるアレイ超音波探傷装置による垂直探傷の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるアレイ超音波探傷装置のSN比向上に関する説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1における表面エコーおよびきずエコーのシミュレーション結果を示した図である。
【図4】従来の自動探傷装置における丸棒自動探傷を行う際の垂直探傷の説明図である。
【図5】従来の自動探傷装置における丸棒自動探傷を行う際の斜角探傷の説明図である。
【図6】従来のアレイ超音波探傷装置による垂直探傷の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のアレイ超音波探傷装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0019】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるアレイ超音波探傷装置による垂直探傷の説明図である。この図1は、従来法を説明した図6に対応するものであり、アレイ探触子10の励振方法が相違している。
【0020】
まず、図1を参照して、本実施の形態1におけるアレイ超音波探傷装置の構成について説明する。図1に示した本実施の形態1におけるアレイ超音波探傷装置は、アレイ探触子10および送受信器20を備えており、被探傷対象である丸棒1の中心にあるきず2の検出を行う。ここで、丸棒1とアレイ探触子10は、同じ方向の曲率を有しているものとする。すなわち、図1を示した紙面と垂直方向には曲がっておらず、曲率中心は、図1の下側にあるものとする。
【0021】
送受信器20は、アレイ探触子10を電気的に励振するとともに、アレイ探触子10からの電気信号を処理する。図1では、従来法を説明した図6と同様に、時間経過に伴う(a)〜(c)の3つの状態が示されている。
【0022】
次に、本実施の形態1におけるアレイ超音波探傷装置の動作について説明する。送受信器20は、電気的な励振信号をアレイ探触子10に送信する。先の図6を用いて説明した従来法における送受信器20は、励振信号をカバー範囲内のアレイ素子へ伝達していた。これに対して本発明における送受信器20は、カバー範囲は同じであるが、真ん中の数素子あるいは単一素子を励振せず、両端の数素子あるいは単一素子を励振するような励振信号を伝達する。
【0023】
このようにして部分的に励振された素子からは、超音波ビームが放射され、丸棒1の中心にあるきず2へ超音波ビームが照射される。そして、丸棒1の中心にあるきず2で反射された超音波は、伝搬経路を逆に辿って、アレイ探触子10で受信される。
【0024】
受信時においても、カバー範囲内の素子の内、真ん中の数素子あるいは単一素子を無視して受信する。このような励振および受信を、図1(a)〜(c)で示すように、時間的に連続的に行うことにより、励振位置が丸棒1の周囲を回転することになるので、探触子が回転する代わりとなる。
【0025】
次に、本発明におけるアレイ超音波探傷装置において、垂直探傷のSN比が向上する理由を説明する。図2は、本発明の実施の形態1におけるアレイ超音波探傷装置のSN比向上に関する説明図である。図1を用いて説明したように、本発明では、カバー範囲内の真ん中の数素子あるいは単一素子を励振しないことを技術的特徴としている。そこで、励振しない素子を挟んで左側の数素子をアレイA、右側の数素子をアレイBとする。この場合、送受の状態としては、
(ケース1)アレイAで送受信
(ケース2)アレイBで送受信
(ケース3)アレイAで送信、アレイBで受信
(ケース4)アレイBで送信、アレイAで受信
という4ケースに分けて考えることができる。
【0026】
(ケース1)および(ケース2)は、表面エコーときずエコーが同様に受信されるので、両エコーに差異はない。しかしながら、(ケース3)および(ケース4)は、両エコーに差異が生じる。そこで、(ケース3)の場合を例に、両エコーに差が生じることを、図2を参照しながら説明する。
【0027】
まず、きずエコーの受信について、図2(a)を用いて説明する。アレイAで励振された超音波ビームは、音軸中心の主成分が丸棒1の中心部へ向かって伝搬し、丸棒1の中心にあるきず2で反射される。丸棒1の中心にあるきず2は、小さいので、反射波は、四方八方へ伝搬し、指向性がないような状態となる。したがって、アレイBでも十分受信可能となり、きずエコーは、アレイAで受信した場合と同様に、大きな振幅でアレイBにより受信される。
【0028】
これに対し表面エコーは、状況が異なることを、図2(b)を用いて説明する。アレイAで励振された超音波ビームは、丸棒1の表面で反射されるが、音軸中心の主成分は、アレイBの方向へは伝搬しない。一方、音軸から少し異なる角度で伝搬した成分が、丸棒1の表面で反射され、アレイBで受信され、表面エコーとなる。音軸から少し異なる方向で伝搬した成分は、音軸中心の主成分に比べてビーム強度が小さいので、きずエコーと比較すると相対的に振幅は小さくなる。
【0029】
(ケース4)は、(ケース3)と送受が反転しているだけなので、同様に、表面エコーの振幅は、きずエコーと比較すると相対的に小さくなる。したがって(ケース3)および(ケース4)の全体として考えても、表面エコーの振幅は、きずエコーと比較して小さくなる。ここで、表面エコーは、ノイズ成分であり、きずエコーは、信号成分であるので、結果としてSN比が向上することになる。
【0030】
カバー範囲内の真ん中の数素子あるいは単一素子を励振しないと、表面エコーがきずエコーと比較して相対的に小さくなることを確認するため、シミュレーションでエコーを求めた。図3は、本発明の実施の形態1における表面エコーおよびきずエコーのシミュレーション結果を示した図である。
【0031】
アレイ探触子10の応答特性は、周波数7MHzで広帯域なものとし、丸棒1は、直径20mmとした。また、アレイ探触子10のカバー範囲は、16チャンネル分とし、
(パターン1)16チャンネル全てを送受信
(パターン2)16チャンネルの内、真ん中の6チャンネルを無視して送受信
という2つのパターンで、エコーを求めた結果が図3に示されている。
【0032】
図3(a)は、表面エコーおよびきずエコーを示している。また、図3(b)は、図3(a)だけでは、きずエコーの比較が困難なため、図3(a)の縦軸を拡大したものを示している。
【0033】
なお、図3中、実線で示したエコーが、16チャンネル全てを送受信した(パターン1)の場合に受信されたエコーである。また、点線で示したエコーが、16チャンネルの内、真ん中の6チャンネルを無視して送受信した(パターン2)の場合に受信されたエコーである。
【0034】
図3(b)に示すように、表面エコーについて、(パターン1)による実線の振幅と(パターン2)による点線の振幅とを比較すると、真ん中の6チャンネルを無視して送受信することで、表面エコーの振幅は、−13,9dBとなる。一方、きずエコーについて、(パターン1)による実線の振幅と(パターン2)による点線の振幅とを比較すると、きすエコーの振幅は、−8.2dBにとどまっている。このように、カバー範囲内の真ん中の数素子あるいは単一素子を励振しない(パターン2)の場合には、表面エコーの振幅がきずエコーの振幅と比較して、相対的に小さくなることが確認できた。
【0035】
実際のシステムでは、探傷ゲート内にある表面エコーの尾引きがノイズ成分となるが、表面エコー自体が低減されれば、このような尾引きによるノイズ成分も低減される。したがって、カバー範囲内の真ん中の数素子あるいは単一素子を励振しないことにより、SN比の向上を図ることができる。
【0036】
なお、図3におけるシミュレーション結果では、16チャンネルの内の真ん中の6チャンネルを無視して送受信した場合を示したが、このような励振条件が最適であるとは限らない。丸棒1の径や周波数によって最適条件は変化すると考えられる。従って、送受信器20は、丸棒1の径や周波数によって励振条件を変更して設定できる機能を有することで、丸棒1の径や周波数に応じた最適な探傷を実施することができる。
【0037】
なお、上述した実施の形態1では、試験体が丸棒1である場合について説明したが、本発明は試験体が丸棒に限定されるものではない。パイプやビレット等の試験体の探傷にも、適用可能である。この場合、アレイ探触子10の音響放射面の曲率は、試験体と同様である必要はない。
【0038】
以上のように、実施の形態1によれば、アレイ探触子においてカバー範囲内の真ん中の数素子あるいは単一素子を励振しないことで自動探傷を行うことにより、表面エコーの振幅をきずエコーの振幅に対して相対的に低減させることができる。この結果、SN比の改善を図ったアレイ超音波探傷装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 アレイ探触子、20 送受信器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励振信号を受信することにより駆動される複数の励振素子を有し、接触媒質を介して超音波ビームを試験体へ向けて照射し、前記試験体表面および前記試験体内部の音響的不連続部で反射された超音波を、前記接触媒質を介して受信して電気信号に変換するアレイ探触子と、
前記励振信号を送信して前記アレイ探触子を駆動し、前記アレイ探触子で変換された前記電気信号を受信することで前記試験体の探傷を行う送受信器と
を備えたアレイ超音波探傷装置において、
前記送受信器は、前記複数の励振素子の中で、前記試験体の探傷に要求されるビーム幅を満足するようなカバー範囲の励振素子を特定して前記励振信号の送信および前記電気信号の受信を行う際に、前記カバー範囲内の励振素子のうち、真ん中の数素子あるいは単一素子を励振せず、両端の数素子あるいは単一素子に相当する部分的励振素子に対して前記励振信号を送信し、前記部分的励振素子で変換された前記電気信号を受信する
ことを特徴とするアレイ超音波探傷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアレイ超音波探傷装置において、
前記送受信器は、前記試験体の特性および周波数に応じて励振条件を変更して前記励振信号を送信する機能を有することを特徴とするアレイ超音波探傷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアレイ超音波探傷装置において、
前記アレイ探触子は、前記試験体と対向する音響放射面が前記試験体と同様の曲率を有するように構成されていることを特徴とするアレイ超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−214891(P2011−214891A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81113(P2010−81113)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】