説明

アレルギー性疾患を処置するための胸腺間質性リンホポエチン受容体に対する抗体

本発明では、ヒトTSLP受容体を特異的に認識し、拮抗する抗体、およびTSLPシグナル伝達により媒介される疾病または障害を処置または緩解するためのこれらの抗体の使用方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
サイトカインおよび免疫細胞は、例えば種々の炎症性障害に至る経路など、特定の生理学的機構または経路を媒介する。ヒト胸腺間質性リンホポエチン(TSLP)は、ヒト上皮細胞から生産されるIL−7様サイトカインである。これはB細胞の分化を促進し、また、胸腺細胞と成熟T細胞の双方を同時刺激することもできる。TSLPはヒトCD11c+樹状細胞(DC)上の特異的ヘテロ二量体受容体と結合する。この受容体ヘテロ二量体は、共通γ様受容体鎖(TSLP受容体;TSLPR)とIL−7R−α鎖からなる。例えば、Tonozuka et al., Cytogenet. Cell Genet. 93:23-25, 2001; Pandey et al., Nat. Immunol. 1:59-64, 2000; L. S. Park et al., J. Exp. Med. 192:659-670, 2000;およびReche et al., J. Immunol. 167:336-343, 2001参照。この受容体に結合するリガンドは、DCのT2誘引ケモカイン、TARC(thymus and activation-regulated chemokine)およびMDC(macrophage-derived chemokine)分泌を誘導する。さらに、TSLPはまた、強いDCの活性化、ナイーブCD4+T細胞の拡大、続いてのT2表現型への分極、プロアレルギー性サイトカインインターロイキン4(IL−4)、IL−5、IL−13および腫瘍壊死因子−αの産生も誘導する。
【背景技術】
【0002】
また、TSLPシグナル伝達の結果、Stat5転写因子の活性化がもたらされることも判明している。さらに、急性および慢性アトピー性皮膚炎患者は皮膚病変部においてTSLPを過剰発現することが報告されており、TSLPの発現がin vivoにおいてアレルギー性炎症に関連していることが示唆される。皮膚ケラチノサイトの他、気管支上皮細胞、平滑筋および肺繊維芽細胞でも高レベルのTSLP発現が見出されており、このことも同様に呼吸器系アレルギー性適応症におけるTSLPの役割の可能性が示唆される。さらに、IgEにより活性化された肥満細胞は、T2表現型の維持に関与し得る機構である極めて高レベルのTSLPを発現する。
【0003】
西洋諸国人口の約20%が、例えば、喘息、鼻炎、アトピー性皮膚炎および食物アレルギーを含むアレルギー性疾患などの炎症性障害に罹患している。アトピー性皮膚炎患者の50%〜80%は喘息またはアレルギー性鼻炎を有しているか、または発症する。現在までアレルギーにより誘発される喘息、アトピー性皮膚炎およびアレルギー性鼻炎の治癒法は無い。喘息に対するβ−2アドレノセプターアンタゴニスト、アトピー性皮膚炎に対するElidel、およびアレルギー性鼻炎に対するH1−抗ヒスタミンなどの現行療法は対症療法として用いられている。よって、当技術分野では、これらの炎症性障害、特に、アレルギー性炎症を処置するためのより良い治療法の必要性がますます高まっている。本発明は、この問題、また他の問題に取り組むものである。
【発明の開示】
【0004】
発明の概要
本明細書において本発明の態様は、標的タンパク質ヒト胸腺間質性リンホポエチン受容体(hTSLPR)に特異的な抗原結合領域を有する単離されたヒトまたはヒト化抗体またはその機能的フラグメントおよびhTSLPRと結合する抗体またはその機能的フラグメントを提供する。関連の態様では、このhTSLPRとの結合は少なくとも細胞表面hTSLP受容体結合により決定され、炎症性メディエーターの放出を妨げる。
【0005】
さらに別の態様では、本発明は、抗体またはその機能的フラグメントの単離された抗原結合領域を提供する。ある特定の態様では、この単離された抗原結合領域は、アミノ酸配列TYGMS(配列番号7)を有するH−CDR1領域とその保存的変異体を含む。本明細書に記載されるように、保存的変異体は、特定されているアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸残基を含む。関連の態様では、この単離された抗原結合領域は、アミノ酸配列WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)を有するH−CDR2領域、およびその保存的変異体である。別の関連の態様では、この単離された抗原結合領域は、アミノ酸配列EGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)を有するH−CDR3領域、およびその保存的変異体である。
【0006】
別の態様では、この単離された抗原結合領域は、アミノ酸配列KASQDVGTAVA(配列番号10)を有するL−CDR1領域、およびその保存的変異体である。さらに別の関連の態様では、この単離された抗原結合領域は、アミノ酸配列WASTRHT(配列番号11)を有するL−CDR2領域、およびその保存的変異体である。なおさらに別の関連の態様では、この単離された抗原結合領域は、アミノ酸配列QQYSTYPT(配列番号12)を有するL−CDR3領域、およびその保存的変異体である。
【0007】
別の態様では、この単離された抗原結合領域は、可変領域アミノ酸配列である配列番号5と、そのCDR領域において配列番号5のCDR領域と少なくとも60、70、80、90または95%の配列同一性を有する配列を有する重鎖である。関連の態様では、この単離された抗原結合領域は、可変領域アミノ酸配列である配列番号6と、そのCDR領域において配列番号6のCDR領域と少なくとも60、70、80、90または95%の配列同一性を有する配列を有する軽鎖である。
【0008】
別の局面において、本発明は、hTSLPRに対するモノクローナルアンタゴニスト抗体を提供する。本発明の抗TSLPR抗体のいくつかは、配列番号5の重鎖可変領域配列と配列番号6の軽鎖可変領域配列を含む参照抗体と同じ結合特異性を有する。これらの抗体のいくつかは参照抗体と同じ結合特異性を示す完全ヒト抗体である。これらの抗体のいくつかはTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)もしくはEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)の重鎖相補性決定領域(CDR)配列、またはKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)もしくはQQYSTYPT(配列番号12)の軽鎖CDR配列を有する。
【0009】
抗hTSLPR抗体のいくつかは重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)と、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)およびQQYSTYPT(配列番号12)を有する。本発明の他のいくつかの抗体は、配列番号5と少なくとも85%同一である重鎖可変領域アミノ酸配列と、配列番号6と少なくとも85%同一である軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。本発明の他のいくつかの抗hTSLPR抗体は、配列番号5と同一である重鎖可変領域アミノ酸配列と、配列番号6と同一である軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する。
【0010】
本発明のいくつかの抗hTSLPR抗体はマウス抗体である。他のいくつかはキメラ抗体である。キメラ抗体のいくつかはヒト重鎖定常領域とヒト軽鎖定常領域を有する。本発明の他のいくつかの抗hTSLPR抗体はヒト化抗体である。本発明の他のいくつかの抗hTSLPR抗体は、配列番号5の重鎖可変領域配列と配列番号6の軽鎖可変領域配列を含む抗体と同じ結合特異性を示す完全ヒト抗体である。また、本発明では、単鎖抗体、例えばFabフラグメントも提供される。抗hTSLPR抗体のいくつかはIgG1イソ型のものである。他のいくつかの抗体はIgG4イソ型のものである。
【0011】
別の局面において、本発明は、本発明の抗hTSLPR抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含むポリペプチドをコードする単離された、または組み換えポリヌクレオチド(例えばDNA)を提供する。例えば、このポリヌクレオチドは、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)を含む抗体重鎖をコードすることができる。これらのポリヌクレオチドはまた、CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)およびQQYSTYPT(配列番号12)を含む抗体軽鎖をコードすることもできる。本発明のいくつかのポリヌクレオチドは、配列番号5の成熟領域と少なくとも90%同一である成熟重鎖可変領域配列をコードする。他のいくつかのポリヌクレオチドは、配列番号6の成熟領域と少なくとも90%同一である成熟軽鎖可変領域配列をコードする。これらのポリヌクレオチドのいくつかは、配列番号5の成熟領域と同一である成熟重鎖可変領域配列または配列番号6の成熟領域と同一である成熟軽鎖可変領域配列をコードする。
【0012】
別の局面において、本発明は、(1)本発明の抗hTSLPR抗体の重鎖をコードする組み換えDNAセグメントと(2)該抗体の軽鎖をコードする第二の組み換えDNAセグメントを担持する単離された宿主細胞を提供する。これらの宿主細胞のいくつかでは、組み換えDNAセグメントはそれぞれ第一および第二のプロモーターに作動可能なように連結され、かつ、宿主細胞で発現することができる。これらの宿主細胞のいくつかは、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)と、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)およびQQYSTYPT(配列番号12)を有するモノクローナル抗体を発現する。他のいくつかの宿主細胞は、配列番号5の成熟領域と少なくとも90%同一である成熟重鎖可変領域配列と、配列番号6の成熟領域と少なくとも90%同一である成熟軽鎖可変領域配列を含む抗hTSLPR抗体を発現する。これらの宿主細胞のいくつかは、配列番号5の成熟領域と同一である成熟重鎖可変領域配列と配列番号6の成熟領域と同一である成熟軽鎖可変領域配列を含む抗hTSLPR抗体を発現する。これらの宿主細胞のいくつかは非ヒト哺乳類細胞である。
【0013】
別の局面において、本発明は、対象、例えばヒト患者において炎症性障害を処置する方法を提供する。これらの方法は、その対象に有効量の抗hTSLPR抗体を含む医薬組成物を投与することを伴う。一般に、この抗hTSLPR抗体は、配列番号5の重鎖可変領域配列と配列番号6の軽鎖可変領域配列を含む抗hTSLPR抗体と同じ結合特異性を有する。これらの治療法のいくつかでは、完全ヒト抗体が用いられる。いくつかの方法では、この抗TSLPR抗体は、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)と、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)およびQQYSTYPT(配列番号12)を担持する。いくつかの方法では、使用される抗hTSLPR抗体は、配列番号5の成熟領域と同一である成熟重鎖可変領域配列と配列番号6の成熟領域と同一である成熟軽鎖可変領域配列を含む。これらの方法のいくつかは、アレルギー性炎症性疾患に罹患している対象の処置に向けられる。当該処置に適するアレルギー性炎症性疾患の例は、アトピー性皮膚炎、喘息またはアレルギー性鼻炎を含む。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、抗体またはそのフラグメントである第一の成分と第二のアミノ酸配列を有する第二の成分とからなる免疫複合体を提供する。例えば、免疫複合体は細胞毒素であるか、または免疫複合体は、hTSLPRとは異なる標的に結合特異性を有する結合タンパク質または抗体である。
【0015】
別の態様において、本発明は抗体またはその抗体フラグメントを有するキットを提供する。いくつかの態様では、このキットはさらに医薬上許容される担体またはその賦形剤を含む。他の関連の態様では、キット内の抗体は単位用量で存在する。さらに別の関連の態様では、キットは対象への投与における使用説明書を含む。
【0016】
本発明の性質および利点のさらなる理解は本明細書の残りの部分および特許請求の範囲を読めば明らかとなるであろう。
【0017】
図面の簡単な説明
図1はBaF3/hTSLPR/hIL7Rα細胞においてhTSLP依存性細胞増殖アッセイを用いた抗TSLPRアンタゴニスト抗体のスクリーニングを示す。
図2A〜2Cはマウスおよびキメラ抗hTSLPRモノクローナル抗体の精製を示す。A:キメラIgG1抗体;B:キメラIgG4抗体;およびC:マウスIgG1抗体。
図3A〜3Cは細胞増殖アッセイおよびルシフェラーゼリポーターアッセイによる精製マウス抗hTSLPR抗体(クローン1D6.C9)のアンタゴニスト活性を示す。A:Ba/F3−hTSLPR−hIL7Rα細胞の増殖;B:BaF3/hTSLPR/hIL7Rα/Stat5−Luc細胞の増殖;およびC:BaF3/hTSLPR/hIL7Rα/Stat5−Luc細胞のルシフェラーゼ活性。
図4はマウス抗hTSLPRモノクローナル抗体1D6.C9クローンの可変領域のヌクレオチド配列を示す。
図5はマウス抗hTSLPR抗体クローン1D6.C9の可変領域アミノ酸配列を示す。相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FR)は下線の残基または斜体の残基で示される。
図6はhTSLPR、hIL7RαおよびStat5−Lucを過剰発現するBa/F3細胞における精製マウスおよびキメラ抗hTSLPR抗体のアンタゴニスト活性を含むルシフェラーゼリポーターアッセイの結果を示す。
図7はマウスおよびキメラ抗hTSLPR抗体によるヒト単球由来TSLP媒介TARC分泌(section)の阻害を示す。
図8は抗体結合ドメインの同定を示す − TSLPR抗体は不連続エピトープと結合する。
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、一部分は本発明者らによるヒトTSLPRに対してアンタゴニスト抗体の開発に基づくものである。マウスにおいて生成した抗hTSLPR抗体またはin vitroで作製されたキメラ抗hTSLPR抗体が、TSLPシグナル伝達により媒介される活性、例えばTSLPにより媒介される細胞増殖を阻害できることが判明した。よって、これらの抗体は、TSLPシグナル伝達活性により媒介される、またはTSLPシグナル伝達活性に関連するいくつかの疾病または障害、例えば、アトピー性皮膚炎および喘息などのアレルギー性炎症性疾患に対する治療薬または予防薬として有用である。次の節で、本発明の組成物を作製および使用するため、また、本発明の方法を実施するための指針を示す。
【0019】
I. 定義
特に断りのない限り、本明細書で用いる技術用語および科学用語は全て、本発明の属する技術分野の通常の技術者に共通に理解されているものと同義である。以下の参照文献は本発明で用いられる用語の多くの一般定義を当業者に示す:Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology, Smith et al. (eds.), Oxford University Press (revised ed., 2000); Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, Singleton et al. (Eds.), John Wiley & Sons (3PrdP ed., 2002);およびA Dictionary of Biology (Oxford Paperback Reference), Martin and Hine (Eds.), Oxford University Press (4PthP ed., 2000)。さらに、本発明の実施において読者の助けとなるために以下の定義を示す。
【0020】
本発明がより容易に理解できるよう、まず、特定の用語を定義する。さらなる定義は詳細な説明を通じて示す。
【0021】
「免疫応答」とは、侵入病原体、病原体に感染した細胞もしくは組織、癌細胞、または自己免疫性炎症もしくは病的炎症の場合には正常なヒト細胞または組織の選択的傷害、破壊またはそれらの身体からの排除をもたらす、例えばリンパ球、抗原提示細胞、食細胞、顆粒球およびこれらの細胞または肝臓により産生される可溶性高分子(抗体、サイトカインおよび補体を含む)の作用を指す。
【0022】
「シグナル伝達経路」とは、細胞のある部分から細胞の別の部分へシグナルを伝達する役割を果たす様々なシグナル伝達分子の間の生化学的な関係を指す。
【0023】
本明細書において「抗体」とは、完全な抗体および抗原結合フラグメント(すなわち、「抗原結合部分」)またはその単鎖を含む。天然「抗体」は、ジスルフィド結合により相互連結された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではVと略す)と重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3からなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではVと略す)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は1つのドメインCからなる。このVおよびV領域はさらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる相補性の高い領域が散在した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に細分することができる。各VおよびVは、アミノ末端からカルボキシ末端へと次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で並ぶ3つのCDRと4つのFRからなる。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫グロブリンと、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第一の成分(Clq)を含む宿主の組織または因子との結合を媒介し得る。
【0024】
本明細書において抗体の「抗原結合部分」(または簡単には「抗原部分」)とは、抗原(例えばTSLPR)と特異的に結合する能力を保持する抗体の全長または1以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントにより遂行され得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語の範囲内に含まれる結合フラグメントの例は、V、V、CおよびCH1ドメインからなる一価フラグメントであるFabフラグメント;ヒンジ領域においてジスルフィド橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab)フラグメント;VドメインとCH1ドメインからなるFdフラグメント;抗体の単腕のVドメインとVドメインからなるFvフラグメント;VドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546);および単離された相補性決定領域(CDR)を含む。
【0025】
さらに、Fvフラグメントの2つのドメインVとVは独立した遺伝子によりコードされているが、それらは組み換え法を用い、V領域とV領域が対となって一価分子を形成している1本のタンパク質鎖として作製可能とする合成リンカーにより連結することができる(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Bird et al., 1988 Science 242:423-426;およびHuston et al., 1988 Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883参照)。このような単鎖抗体も抗体の「抗原結合部分」という用語の範囲内に含むものとする。これらの抗体フラグメントは当業者に公知の常法を用いて得られ、これらのフラグメントは完全抗体と同様にして有用性に関してスクリーニングされる。
【0026】
本明細書において「単離された抗体」とは、抗原特異性の異なる他の抗体を実質的に含まない抗体を指す(例えば、TSLPRと特異的に結合する単離された抗体は、TSLPR以外の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、TSLPRと特異的に結合する単離された抗体は、他種由来のTSLPR分子などの他の抗原に対して交差反応性を持ち得る。さらに、単離された抗体は他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まない。
【0027】
本明細書において「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」とは、単一の分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は単一の結合特異性と特定のエピトープに対する親和性を示す。
【0028】
本明細書において「ヒト抗体」とは、フレームワーク領域とCDR領域の双方がヒト起源の配列に由来している可変領域を有する抗体を含むものとする。さらに、抗体が定常領域を含む場合、この定常領域も、例えば、ヒト生殖細胞系配列または突然変異型ヒト生殖細胞系配列などのヒト配列に由来する。本発明のヒト抗体はヒト配列によってはコードされていないアミノ酸(例えば、in vitroランダムもしくは部位特異的突然変異誘発により、またはin vivo体細胞突然変異により導入された突然変異)を含み得る。
【0029】
「ヒトモノクローナル抗体」とは、フレームワーク領域とCDR領域の双方がヒト配列に由来している可変領域を有する、単一の結合特異性を示す抗体を指す。一態様では、ヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合させ、ヒト重鎖導入遺伝子と軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、例えばトランスジェニックマウスから得られたB細胞を含むハイブリドーマにより産生される。
【0030】
本明細書において「組み換えヒト抗体」とは、ヒト免疫グロブリン遺伝子が遺伝子導入または染色体導入された動物(例えばマウス)またはそれから作製されたハイブリドーマから単離された抗体、ヒト抗体を発現するように形質転換された宿主細胞(例えば、トランスフェクトーマ)から単離された抗体、組み換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体などの組み換え手段により作製、発現、産生または単離されたあらゆるヒト抗体、およびヒト免疫グロブリン遺伝子配列の全部または一部の、他のDNA配列へのスプライシングを含む他のいずれかの手段により作製、発現、産生または単離された抗体を含む。このような組み換えヒト抗体は、そのフレームワーク領域とCDR領域がヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来している可変領域を有する。しかしながら、ある特定の態様では、このような組み換えヒト抗体はin vitro突然変異誘発(またはヒトIg配列が遺伝子導入された動物を用いる場合には、in vivo体細胞突然変異誘発)を受けてもよく、従って、組み換え抗体のV領域とV領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系V配列およびV配列に由来し、それに関連するが、自然界でin vivoにおけるヒト抗体生殖細胞系レパートリー内には存在しない配列である。
【0031】
「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(可変領域)が異なるもしくは変更されたクラスの定常領域、エフェクター機能および/または種、またはキメラ抗体に新たな特性を付与する全く異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、増殖因子などと連結されるように、定常領域またはその一部が変更、置換または交換されているか、あるいは(b)可変領域またはその一部が、異なるもしくは変更された抗原特異性を有する可変領域で変更、置換または交換されている抗体分子である。例えば、以下の実施例に示されるように、マウス抗hTSLPR抗体は、その定常領域をヒト免疫グロブリン由来の定常領域で置換することにより修飾することができる。ヒト定常領域で置換するため、このキメラ抗体はヒトTSLPRの認識においてその特異性を保持することができるとともに、元のマウス抗体に比べてヒトでの抗原性が低減されている。
【0032】
「ヒト化」抗体とは、非ヒト抗体の反応性を保持しつつ、ヒトでの免疫原性が低い抗体である。これは、例えば、非ヒトCDR領域を保持しつつ、抗体の残りの部分をそれらのヒト対応物(すなわち、定常領域ならびに可変領域のフレームワーク部分)で置換することにより達成することができる。例えば、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855, 1984; Morrison and Oi, Adv. Immunol., 44:65-92, 1988; Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536, 1988; Padlan, Molec. Immun., 28:489-498, 1991;およびPadlan, Molec. Immun., 31:169-217, 1994参照。ヒト工学技術の他の例は、限定されるものではないが、米国特許第5,766,886号に開示されているXoma技術を含む。
【0033】
本明細書において「ヒューマネリング(humaneering)」とは、非ヒト抗体を操作されたヒト抗体へと変換する方法を指す(例えば、KaloBios’ HumaneeringTM technology参照)。
本明細書において「イソ型」とは、重鎖定常領域遺伝子により提供される抗体クラス(例えば、IgM、IgE、IgG1またはIgG4のようなIgG)を指す。
【0034】
「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗体」と互換的に用いられる。
本明細書において「ヒトTSLPRと特異的に結合する」抗体とは、ヒトTSLPRとK 200×10−12M以下、150×10−12M以下または100×10−12M以下で結合する抗体を指す。
【0035】
本明細書において「結合特異性」とは、ただ1つの抗原決定基と反応する個々の抗体結合部位の能力を指す。この抗体の結合部位は分子のFab部分に位置し、重鎖および軽鎖の超可変領域から構成されている。抗体の結合親和性は、抗体上の単一の抗原決定基と単一の結合部位の間の反応の強さである。それは抗体の抗原決定基と結合部位の間で働く誘引力と反発力の和である。親和性は抗原抗体反応を表す平衡定数である。
【0036】
2つの物の間の特異的結合は、平衡定数(K)が少なくとも1×10−1、10−1、10−1、または1010−1である結合を意味する。抗体(例えば抗hTSLPR抗体)と「特異的に(または選択的に)結合する」とは、タンパク質および他の生物工学品(bioligics)のヘテロな集団において同族抗原(例えば、ヒトTSLPRポリペプチド)の存在の決定因子となる結合反応を指す。上記の平衡定数(K)に加え、本発明の抗hTSLPR抗体は一般に約1×10−2−1、1×10−3−1、1×10−4−1またはそれ以下の解離定数(K)も有し、ヒトTSLPRと、非特異的抗原(例えばBSA)との結合に関するその親和性よりも少なくとも2倍大きい親和性で結合する。「抗原を認識する抗体」および「抗体に特異的な抗体」は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗体」と互換的に用いられる。
【0037】
「エピトープ」とは、抗体と特異的に結合し得るタンパク質決定基を意味する。エピトープは通常、アミノ酸または糖側鎖などの化学的に活性な表面分子群からなり、通常、特異的な三次元構造特性ならびに特異的な電荷特性を有する。コンフォメーションエピトープおよび非コンフォメーションエピトープは、変性溶媒の存在下において前者との結合は消失するが、後者との結合は消失しないことで区別される。
【0038】
「核酸」は、本明細書では「ポリヌクレオチド」と互換的に用いられ、一本鎖型または二本鎖型のいずれかのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびそのポリマーを指す。この用語は既知のヌクレオチド類似体または修飾された主鎖残基または結合を含む核酸を包含し、これらは合成され、天然に存在し、および天然に存在せず、参照核酸と同様の結合特性を有し、参照ヌクレオチドと同様にして代謝される。このような類似体の例は、限定されるものではないが、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)を含む。
【0039】
特に断りのない限り、特定の核酸配列はまた暗に、その保存的に修飾された変異体(例えば、縮重コドン置換)および相補配列、ならびに明示されている配列を包含する。具体的には、以下に詳説するように、縮重コドン置換は、1以上の選択した(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を作製することにより達成することができる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081, 1991; Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608, 1985;およびRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98, 1994)。
【0040】
「アミノ酸」とは、天然および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸摸倣体を指す。天然アミノ酸は遺伝コードによりコードされているもの、ならびにその後修飾されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメートおよびO−ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を化合物、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基と結合しているα炭素、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムである。このような類似体は修飾されたR基(例えばノルロイシン)または修飾されたペプチド主鎖を有するが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。アミノ酸摸倣体は、アミノ酸の一般化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同様に機能する化学化合物を指す。
【0041】
本明細書では「ポリペプチド」および「タンパク質」はアミノ酸残基のポリマーを指して互換的に用いられる。これらの用語は、天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーだけでなく、1以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的化学摸倣体であるアミノ酸ポリマーにも当てはまる。特に断りのない限り、特定のポリペプチド配列はまた暗にその保存的に修飾された変異体も包含する。
【0042】
「保存的に修飾された変異体」という用語はアミノ酸配列および核酸配列の双方に当てはまる。特定の核酸配列に関して、保存的に修飾された変異体は、同一または本質的に同一のアミノ酸配列を、または核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列をコードする核酸を指す。遺伝コードの縮重のために、機能的に同一の多数の核酸が、何らかの所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全てアミノ酸アラニンをコードする。よって、コドンによりアラニンが指定されているどの位置でも、そのコドンを、コードされているポリペプチドを変化させずに、記載されている対応するコドンのいずれかに変更することができる。このような核酸変異体は、保存的に修飾されている変異体の一種である「サイレント変異体」である。ポリペプチドをコードしている本明細書の核酸配列はいずれも、その核酸の可能性のある全サイレント変異体も表す。当業者ならば、核酸の各コドン(元々メチオニンの唯一のコドンであるAUGおよび元々トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)は、機能的に同一の分子が得られるように修飾することができる。従って、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異体が記載されている各配列に含まれる。
【0043】
ポリペプチド配列に関して「保存的に修飾された変異体」は、あるアミノ酸の化学的に同等なアミノ酸での置換をもたらす、ポリペプチド配列に対する個々の置換、欠失または付加を含む。機能的に同等なアミノ酸を示した保存的置換表が当技術分野ではよく知られている。このような保存的に修飾された変異体はその他のものとして本発明の多型変異体、種間ホモログおよび対立遺伝子があり、これらを排除するものではない。次の8つの群は互いに保存的置換となるアミノ酸を挙げたものである。
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)参照)。
【0044】
2以上の核酸配列またはポリペプチド配列に関して「同一」または「同一性」%とは、同一である2以上の配列または部分配列を指す。2つの配列が、比較ウィンドウまたは以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いて判断された指定領域で最大一致が得られるように比較およびアラインした場合に、または手動アライメントと目視により、示された同じアミノ酸残基またはヌクレオチド%(すなわち、示された領域または示されていない場合には全配列にわたって60%の同一性、場合により65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の同一性)を有している場合に、2つの配列は「実質的に同一」である。場合により同一性は、少なくとも約50ヌクレオチド長(または10アミノ酸長)の領域、またはより好ましくは100〜500もしくは1000以上のヌクレオチド長(または20、50、200以上のアミノ酸長)の領域にわたって存在する。
【0045】
配列比較では一般に、1つの配列が参照配列として作用し、これと試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験配列と参照配列をコンピューターに入力し、必要に応じて配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。デフォルトプログラムパラメーターを使用することもできるし、あるいは別のパラメーターを指定することもできる。次に、配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメーターに基づき参照配列に対して試験配列の配列同一性%を算出する。
【0046】
本明細書において「比較ウィンドウ」は、20〜600、通常には約50〜約200、より通常には約100〜約150からなる群から選択される連続する位置の数のいずれか1つに対する参照を含む(なお、配列は2つの配列を最適にアラインした後に同数の連続する位置の参照配列と比較すればよい)。比較のための配列アライメント法は当技術分野でよく知られている。比較のための最適な配列アライメントは、例えば、Smith and Waterman (1970) Adv. Appl. Math. 2:482cのローカルホモロジーアルゴリズムにより、またはNeedleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970のホモロジーアライメントアルゴリズムにより、またはPearson and Lipman, Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988の類似性検索法により、またはこれらのアルゴリズムのコンピューター化された実施により(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、または手動アライメントと目視により行うことができる(例えば、Brent et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (ringbou ed., 2003)参照)。
【0047】
配列同一性および配列類似性%を決定するのに好適なアルゴリズムの2つの例として、それぞれAltschul et al., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402, 1977;およびAltschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990に記載されているBLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムがある。BLST分析を実施するためのソフトウエアはthe National Center for Biotechnology Informationから公的に入手可能である。このアルゴリズムは、まず、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインされる場合に、いくつかの陽性評価された閾値スコアTに合致するか、または満たす検索配列中の長さWの短いワードを特定することにより、高スコア配列対(HSP)を特定することを含む。Tは隣接ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschul et al., 前掲)。これらの最初の隣接ワードのヒットは、それらを含むより長いHSPを見つけるべく検索を開始するための核として働く。これらのワードヒットを、累積アライメントスコアが増加し得る限り、各配列の両方向に拡張される。累積スコアは、ヌクレオチド配列に関してはパラメーターM(一致残基対のリワードスコア、常に>0)およびN(不一致残基のペナルティースコア、常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列では、スコアリングマトリックスを用いて累積スコアを算出する。各方向におけるワードヒットの拡張は、累積アライメントスコアがその最大達成値から未知数Xだけ遠ざかる場合;累積スコアが、1以上の負のスコアリング残基アライメントの累積のために0以下になる場合;またはいずれかの配列の末端に到達する場合に停止される。BLASTアルゴリズムのパラメーターであるW、T、およびXはアライメントの感度およびスピードを決定する。BLASTプログラム(ヌクレオチド配列用)は、デフォルトとして、ワード長(W)11、期待値(E)または10、M=5、N=4、および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列では、BLASTプログラムは、デフォルトとして、ワード長3、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915, 1989参照)アライメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。
【0048】
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計解析も行う(例えば、Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5787, 1993参照)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、最小合計確率(P(N))であり、これは2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間の一致が偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、参照配列に対する試験核酸の比較において最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは0.01未満、最も好ましくは0.001未満である場合、核酸は参照配列に類似するとみなされる。
【0049】
上記の配列同一性%の他、2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であるというもう1つの指標は、下記のように、第一の核酸によりコードされるポリペプチドが第二の核酸によりコードされるポリペプチドに対して生成された抗体と免疫学的に交差反応するということである。よって、ポリペプチドは一般に、例えば2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合に第二のポリペプチドと実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であるというもう1つの指標は、下記のように、2つの分子またはそれらの双方物がストリンジェント条件下で互いにハイブリダイズするということである。2つの核酸配列が実質的に同一であるというさらにもう1つの指標は、同じプライマーを用いて配列を増幅することができるということである。
【0050】
「作動可能なように連結される」とは、2以上のポリヌクレオチド(例えばDNA)セグメントの間の機能的関係を指す。一般に、これは転写調節配列と転写配列の機能的関係を指す。例えば、プロモーターまたはエンハンサー配列は、それが適当な宿主細胞または他の発現系においてコード配列の転写を刺激または調節する場合に、そのコード配列と作動可能なように連結されている。一般に、転写配列に作動可能なように連結されているプロモーター転写調節配列は転写配列と物理的に連続しており、すなわち、それらはシス作用型である。しかしながら、エンハンサーなどのいくつかの転写調節配列は、それらが転写を増強するコード配列と物理的に連続しているか、または近接して存在する必要はない。
【0051】
「ベクター」とはそれが連結されている別のポリヌクレオチドを移入し得るポリヌクレオチド分子を指すものとする。ベクターの一種に「プラスミド」があり、これは付加的DNAセグメントが連結され得る環状二本鎖DNAループを指す。もう1つのベクター種としてウイルスベクターがあり、このウイルスゲノムにさらなるDNAセグメントを連結してもよい。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳類ベクター)内で自律複製することができる。宿主細胞へ導入する際に他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)を宿主細胞ゲノムに組み込み、それにより宿主ゲノムとともに複製されることもできる。さらに、ある特定のベクターはそれらが作動可能なように連結されている遺伝子の発現を命令することができる。このようなベクターは本発明において「組み換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般に、組み換えDNA技術で有用な発現ベクターはプラスミドの形態である場合が多い。本明細書では、「プラスミド」および「ベクター」は互換的に用い得るが、プラスミドは最も一般的に用いられるベクターの形態である。しかし、本発明は同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターも含むものとする。
【0052】
「組み換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)とは、組み換え発現ベクターが導入されている細胞を指す。このような用語は特定の対象の細胞だけでなく、そのような細胞の後代も指すと理解すべきである。突然変異または環境的影響のいずれかにより、連続する世代にある特定の修飾が起こることがあるので、このような後代は実際には親細胞と同一ではない場合があるが、これらもやはり本明細書において「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。
【0053】
「炎症性疾患または状態」とは、傷害部位または感染部位における局部的炎症を特徴とする全ての状態を指し、自己免疫疾患、ある特定の形態の感染炎症状態、臓器移植または他の移植片に特徴的な望ましくない好中球の活性、および事実上、局部的組織部位における望ましくない好中球の蓄積を特徴とする他の状態を含む。これらの状態には、限定されるものではないが、髄膜炎、脳浮腫、関節炎、腎炎、成人性呼吸窮迫症候群、膵炎、筋炎、神経炎、結合組織疾患、静脈炎、動脈炎、脈管炎、アレルギー、アナフィラキシー、エーリキア症、痛風、臓器移植および/または潰瘍性大腸炎が含まれる。
【0054】
「対象」としては、ヒトおよび非ヒト動物が含まれる。非ヒト動物には、あらゆる脊椎動物、例えば、哺乳類および非哺乳類、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、および爬虫類が含まれる。示されている場合を除き、「患者」または「対象」は本明細書では互換的に用いられる。
【0055】
「処置する」とは、症候、合併症または疾病(例えば、アレルギー性炎症性疾患)の生化学的徴候の発生を予防または遅延させるために化合物または薬剤を投与すること、症候を緩和する、または疾病、状態または障害のさらなる進行を停止もしくは抑制することを含む。処置は予防的(疾病の発生を予防もしくは遅延させるため、またはその臨床徴候または無症候の発現を予防するため)または疾病の発現後の症候の治療的な抑制もしくは緩和を含む。
【0056】
「シグナル伝達経路」または「シグナリング経路」(例えば、TSLPシグナル伝達経路)とは、細胞と刺激性化合物または薬剤との相互作用から生じる少なくとも1つの生化学的反応を指すが、より一般的には一連の生化学的反応を指す。よって、刺激性化合物(例えばTSLP)と細胞との相互作用はシグナル伝達経路を通じて伝達される「シグナル」を生じ、最終的には細胞応答、例えば免疫応答をもたらす。
【0057】
II. ヒトTSLPRに対するアンタゴニスト抗体
1. 概要
本発明は、ヒトTSLPRと特異的に結合する抗体を提供する。これらの抗hTSLPR抗体はTSLPにより媒介されるシグナル伝達活性、例えば、以下の実施例に記載されるようなTSLPにより媒介される細胞増殖に拮抗作用を示し得る。モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の一般的な作製方法は当技術分野でよく知られている。例えば、Harlow & Lane, Using Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1998; Kohler & Milstein, Nature 256:495-497, 1975; Kozbor et al., Immunology Today 4:72, 1983;およびCole et al., pp. 77-96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, 1985参照。
【0058】
好ましくは、本発明の抗hTSLPR抗体は以下の実施例に記載されるような、ヒトTSLPR(クローン1D6.C9)に対して生成されたマウスモノクローナル抗体のようなモノクローナルである。モノクローナル抗体とは、単一のクローンに由来する抗体を指す。モノクローナル抗体を作製するいずれの技術を用いても、本発明の抗hTSLPR抗体、例えば、Bリンパ球のウイルスまたは発癌形質転換を産生することができる。ハイブリドーマを産生する1つの動物系としてマウス系がある。マウスにおけるハイブリドーマの産生は非常によく確立された手法である。以下の実施例で示すように、モノクローナル抗hTSLPR抗体は、非ヒト動物(例えばマウス)をhTSLPRポリペプチドまたはそのフラグメント、融合タンパク質もしくは変異体で免疫化することにより作製することができる。次に、この動物から単離されたB細胞を骨髄腫細胞と融合させて抗体産生ハイブリドーマを作製する。モノクローナルマウス抗hTSLPR抗体は、hTSLPRポリペプチドまたは融合タンパク質を用い、これらのハイブリドーマをELISAアッセイでスクリーニングすることにより得ることができる。免疫プロトコールおよび融合のための免疫化脾細胞の単離技術は当技術分野で公知である。融合遺伝子相手(例えばマウス骨髄腫細胞)および融合手順も当技術分野でよく知られている(例えば、Harlow & Lane,前掲参照)。
【0059】
以下の実施例に記載される例示的なマウス抗TSLPR抗体の重鎖可変領域(配列番号5)および軽鎖可変領域(配列番号6)のアミノ酸配列が図5に示されている。また、この図面に示されているように、この抗体の重鎖可変領域のCDR配列はTYGMS(CDR1;配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(CDR2;配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(CDR3;配列番号9)である。軽鎖可変領域のCDR配列はKASQDVGTAVA(CDR1;配列番号10)、WASTRHT(CDR2;配列番号11)およびQQYSTYPT(CDR3;配列番号12)である。
【0060】
抗体は主として、6つの重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)に存在するアミノ酸残基により標的抗原と相互作用する。一般に、本発明の抗hTSLPR抗体は、図5に示されている対応するCDR配列と同一のそれらの重鎖CDR配列または軽鎖CDR配列の少なくとも1つを有する。本発明のこれらの抗hTSLPR抗体のいくつかは以下の実施例に開示されている例示的マウス抗TSLPR抗体(クローン1D6.C9)と同じ結合特異性を有する。これらの抗体はhTSLPRとの結合をめぐってマウス抗hTSLPR抗体(クローン1D6.C9)と競合し得る。本発明のいくつかの抗hTSLPR抗体は、それらの重鎖および軽鎖の可変領域にそれぞれ、図5に示されている対応するCDR配列と同一の全てのCDR配列を有する。よって、これらの抗hTSLPR抗体はそれぞれ配列番号7、配列番号8および配列番号9と同一の3つの重鎖CDR配列と、それぞれ配列番号10、配列番号11および配列番号12と同一の3つの軽鎖CDR配列を有する。
【0061】
それぞれマウス抗hTSLPR抗体(クローン1D6.C9)の対応するCDR配列と同一のCDR配列を有することに加え、本発明の抗hTSLPR抗体のいくつかは、それぞれ図5に示されている、対応するマウス抗体の可変領域配列(すなわち、配列番号5および配列番号6)と同一の全重鎖および軽鎖可変領域配列を有する。他のいくつかの態様では、これらの抗体は同一のCDR配列以外、図5に示されている対応するアミノ酸残基とは異なる可変領域のフレームワーク部分のアミノ酸残基を含む(例えば、下記の数種のヒト化抗hTSLPR抗体)。しかしながらやはり、これらの抗体は一般に、図5に示されている対応する可変領域配列と実質的に同一(例えば75%、85%、90%、95%または99%)のそれらの全可変領域配列を有する。
【0062】
本発明の抗hTSLPR抗体は2本の重鎖と2本の軽鎖を含む完全抗体であり得る。それらはまた、完全抗体または単鎖抗体の抗原結合フラグメントであってもよい。本発明の抗hTSLPR抗体は、非ヒト動物で産生された抗体(例えば、図5に示されているマウス抗hTSLPR抗体)を含む。それらはまた、図5に示されているマウス抗hTSLPR抗体の修飾型である修飾抗体も含む。多くの場合、これらの修飾抗体は例示されたマウス抗体と同じ特性を有するか、または特性の改善された組み換え抗体である。例えば、以下の実施例で例示されるマウス抗hTSLPR抗体は、定常領域を欠失させ、それを、抗体の半減期(例えば血清半減期)、安定性および親和性の増強をもたらし得る異なる定常領域で置換することにより修飾することができる。修飾抗体は例えば、異なる特性を有する異なる抗体に由来するフレームワーク配列にグラフトされたマウス抗体由来CDR配列を含む発現ベクターを構築することにより産生することができる(Jones et al.. 1986, Nature 321, 522-525)。このようなフレームワーク配列は公開DNAデータベースから得ることができる。
【0063】
修飾抗体のいくつかは部分的ヒト免疫グロブリン配列(例えば定常領域)と部分的非ヒト免疫グロブリン配列(例えば図5に示されているマウス抗hTSLPR抗体可変領域配列)を含むキメラ抗体である。他のいくつかの修飾抗体はヒト化抗体である。一般に、ヒト化抗体は非ヒトである供給源からそれに導入された1以上のアミノ酸残基を有する。非ヒト抗体をヒト化する方法は当技術分野でよく知られている(例えば、米国特許第5,585,089号および同第5,693,762号;Jones et al., Nature 321: 522-25, 1986; Riechmann et al., Nature 332: 323-27, 1988;およびVerhoeyen et al., Science 239: 1534-36, 1988)。これらの方法は、非ヒト抗hTSLPR抗体由来のCDRの少なくとも一部を対応するヒト抗体の領域で置換することにより、本発明のヒト化抗hTSLPR抗体を作製するために容易に使用することができる。いくつかの態様では、本発明のヒト化抗hTSLPR抗体は、対応するヒトフレームワーク領域にグラフトされた、図5に示されているマウス抗hTSLPR抗体由来の各免疫グロブリン鎖において3つ全てのCDRを有する。
【0064】
上記の抗hTSLPR抗体は、結合特異性もしくはエフェクター機能、または結合親和性の許容できないような低下なく、可変領域と定常領域の双方で決定的でないアミノ酸置換、付加または欠失を受けてもよい。通常、このような変更を組み込んだ抗体は、それらが由来する参照配列(例えば、図5に示されているマウス抗hTSLPR抗体)と実質的な配列同一性を示す。例えば、本発明の抗hTSLPR抗体のいくつかの成熟軽鎖可変領域は、図5に示されている抗hTSLPR抗体の成熟軽鎖可変領域の配列と少なくとも75%または少なくとも85%の配列同一性を有する。同様に、抗体の成熟重鎖可変領域は一般に、図5に示されている抗hTSLPR抗体の成熟重鎖可変領域の配列と少なくとも75%または少なくとも85%の配列同一性を示す。修飾された抗hTSLPR抗体のいくつかは、図5に示されているマウス抗hTSLPR抗体(クローン1D6.C9)と比べた場合に同等の特異性と高い親和性を有する。通常、修飾された抗hTSLPR抗体(例えばヒト化抗体)の親和性は元のマウス抗体と同等であるか、またはより良い結合親和性を有する。これらの修飾抗体の結合親和性は元のマウス抗体の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%である。
【0065】
2. キメラおよびヒト化抗hTSLPR抗体
本発明の抗hTSLPR抗体のいくつかは、ヒト抗体の領域とともに非ヒト抗hTSLPR抗体アンタゴニスト由来の領域からなるキメラ(例えばマウス/ヒト)抗体である。例えば、キメラH鎖はヒト重鎖定常領域の少なくとも一部と連結されたマウス抗TSLPR抗体の重鎖可変領域の抗原結合領域(例えば配列番号5で示される配列)を含み得る。このキメラ重鎖は、ヒト軽鎖定常領域の少なくとも一部と連結されたマウス抗hTSLPR抗体の軽鎖可変領域の抗原結合領域(例えば配列番号6で示される配列)を含むキメラL鎖と組み合わせることができる。
【0066】
本発明のキメラ抗hTSLPR抗体は以下の実施例の開示ならびに当技術分野で公知の方法に従って作製することができる。例えば、マウス抗hTSLPRモノクローナル抗体分子の重鎖または軽鎖をコードする遺伝子を制限酵素で消化してマウスFc領域を除去し、ヒトFc定常領域をコードする遺伝子の等価部分で置換することができる。組み換え抗体および特にヒト化抗体の発現に好適な発現ベクターおよび宿主細胞は当技術分野でよく知られている。抗hTSLPR免疫グロブリン鎖をコードするキメラ遺伝子を発現するベクターは、標準的な組み換え技術、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press (3rd ed., 2001);およびBrent et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (ringbou ed., 2003)を用いて構築することができる。ヒト定常領域配列は、限定されるものではないが、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, U.S. Government Printing Office, 1991に挙げられているものを含む、種々の参照配列から選択することができる。DNA組み換えによりキメラ抗体を作製するさらに具体的な教示も当技術分野で教示されている(例えば、Robinson et al., 国際特許公報PCT/US86/02269;Akira, et al., 欧州特許出願第184,187号;Taniguchi, M., 欧州特許出願第171,496号;Morrison et al., 欧州特許出願第173,494号;Neuberger et al., 国際出願WO86/01533;Cabilly et al.米国特許第4,816,567号;Cabilly et al.., 欧州特許出願第125,023号;Better (1988) Science 240:1041-1043; Liu (1987) PNAS 84:3439-3443; Liu (1987) J. Immunol. 139:3521-3526; Sun (1987) PNAS 84:214-218; Nishimura (1987) Canc. Res. 47:999-1005; Wood (1985) Nature 314:446-449; Shaw (1988) J. Natl. Cancer Inst. 80:1553-1559)。
【0067】
非ヒト抗体由来の全可変領域を有するキメラ抗体は、ヒトにおける抗体の抗原性を軽減するためにさらにヒト化することができる。これは一般に、Fv可変領域(フレームワーク領域または非CDR領域)の特定の配列またはアミノ酸残基をヒトFv可変領域由来の等価な配列またはアミノ酸残基で置換することにより達成される。これらのさらに置換された配列またはアミノ酸残基は通常、抗原結合に直接的には関与しない。多くの場合、非ヒト抗体のヒト化は、非ヒト抗体(例えば図5に示されているマウス抗体)のCDRのみをヒト抗体のCDRで置換することにより行う。場合によっては、その後、ヒトフレームワーク領域のいくつかのさらなる残基を非ヒトドナー抗体由来の対応する残基で置換する。抗原との結合を向上させるにはこのような付加的グラフトが必要である場合が多い。これは非ヒト抗体からグラフトされたCDRのみを有するヒト化抗体が非ヒトドナー抗体に比べて、完全な結合活性に満たない場合があるためである。よって、本発明のヒト化抗hTSLPR抗体は多くの場合、CDRの他に、非ヒトドナー抗体(例えば図5に示されているマウス抗体)由来の対応する残基で置換された、ヒトフレームワーク領域のいくつかのアミノ酸を有する。置換のためのフレームワーク残基を選択する基準を含む、CDR置換によるヒト化抗体の作製方法は当技術分野でよく知られている。例えば、キメラ抗体の作製に関連する上記の技術の他、ヒト化抗体を作製するさらなる技術が例えば、Winter et al., UK特許出願GB2188638A(1987), 米国特許第5,225,539号; Jones (1986) Nature 321:552-525; Verhoeyan et al., 1988 Science 239:1534;およびBeidler (1988) J. Immunol. 141:4053-4060に示されている。また、CDR置換は、例えば、ヒト単核食細胞上の免疫グロブリンGのFc受容体に対するヒト化抗体と題されたWO94/10332に記載されているようなオリゴヌクレオチド部位特異的突然変異誘発を用いて行うこともできる。
【0068】
本発明のキメラまたはヒト化抗hTSLPR抗体は一価、二価または多価免疫グロブリンであり得る。例えば、一価キメラ抗体は上記のように、ジスルフィド橋を介してキメラL鎖と結合されたキメラH鎖により形成される二量体(HL)である。二価キメラ抗体は少なくとも1つのジスルフィド橋を介して結合された2つのHL二量体により形成される四量体(H)である。多価キメラ抗体は鎖の凝集に基づく。
【0069】
3. ヒト抗hTSLPR抗体
本発明には、キメラまたはヒト化抗hTSLPR抗体の他、同等の結合特異性および匹敵するまたはより良好な結合親和性を示す完全ヒト抗体も含まれる。例えば、これらのヒト抗体は、配列番号5の重鎖可変領域配列と配列番号6の軽鎖可変領域配列を含む参照ヒト抗体と同等かまたはより良好な特徴を持ち得る。キメラまたはヒト化抗体に比べ、本発明のヒト抗hTSLPR抗体はさらにヒト対象に投与された場合に、さらに抗原性の低減を示す。
【0070】
ヒト抗hTSLPR抗体は、当技術分野で公知の方法を用いて作製することができる。例えば、非ヒト抗体と同等の結合特性を維持する、またはより良好な結合特性をもたらしつつ、非ヒト抗体可変領域をヒト可変領域で置換するin vivo法が米国特許出願第10/778,726号(公開番号20050008625)に開示されている。この方法は、エピトープによりガイドされる、非ヒト参照抗体可変領域の完全ヒト抗体での置換に基づく。得られるヒト抗体は一般に参照非ヒト抗体と構造上無関連であるが、参照抗体と同じ抗原上の同じエピトープと結合する。簡単に言うと、このエピトープによりガイドされる一連の相補的置換アプローチは、「競合因子(competitor)」と参照抗体の多様なハイブリッドのライブラリー(「試験抗体」)との間に、試験抗体と抗原の結合に応答するリポーター系の存在下で限られた量の抗原との結合をめぐる競合を設定することにより可能となる。競合因子は参照抗体または単鎖Fvフラグメントなどのその誘導体であり得る。競合因子はまた、参照抗体と同じエピトープに結合する抗原の天然リガンドまたは人工リガンドであり得る。競合因子の唯一の要件は、参照抗体と同じエピトープに結合することと、それが抗原結合をめぐって参照抗体と競合することである。これらの試験抗体は一般に非ヒト参照抗体由来の1つの抗原結合V領域と、ヒト抗体レパートリーライブラリーなどの異なる供給源から無作為に選択された他のV領域を有する。参照抗体由来の共通V領域は、選択が参照抗体に対して最高の抗原結合適合度に偏向するよう、試験抗体を抗原上の同じエピトープ上に同じ配向で配置するガイドとして役立つ。TSLPR結合ドメインの同定はエピトープマッピングにより確定され、図8に示されている。このTSLPR抗体は不連続のエピトープと結合する。
【0071】
試験抗体と抗原の間の所望の相互作用を検出するためには多くの種類のリポーター系が使用できる。例えば、相補的リポーターフラグメントを抗原および試験抗体にそれぞれ結合させて、試験抗体が抗原と結合したときにのみフラグメント相補によりリポーターの活性化が生じるようにすればよい。この試験抗体−リポーターフラグメント融合物および抗原−リポーターフラグメント融合物が競合因子と同時に存在する場合、試験抗体が競合因子と競合する能力に依存してリポーターの活性化が起こり、これが抗原に対する試験抗体の親和性に比例する。使用可能な他のリポーター系は、米国特許出願第10/208,730号(公開番号20030198971)に開示されているような自己阻害リポーター再活性化系(RAIR)のリアクチベーター、または米国特許出願第10/076,845号(公開番号20030157579)に開示されている競合活性化系を含む。
【0072】
連続的なエピトープによりガイドされる相補的置換系で、競合因子、抗原およびリポーター成分とともに単一の試験抗体を発現する細胞を同定するための選択を行う。これらの細胞では、各試験抗体は限られた量の抗原との結合をめぐって競合因子と1対1の競合をする。このリポーターの活性は試験抗体と結合した抗原の量に比例し、これはさらに抗原に対する試験抗体の親和性および試験抗体の安定性に比例する。試験抗体はまず、試験抗体として発現される場合、参照抗体と比べたそれらの活性に基づき選択される。1回目の選択で得られるものは、各々同じ参照抗体由来非ヒトV領域とライブラリー由来ヒトV領域からなり、その各々が抗原上の、参照抗体と同じエピトープと結合する「ハイブリッド」抗体セットである。1回目に選択されたハイブリッド抗体の1つ以上(one of more)は、参照抗体に匹敵するか、またはそれより高い抗原親和性を有する。
【0073】
第二段階のV領域置換では、第一段階で選択されたヒトV領域を、非ヒト参照抗体V領域を保持するため、同族ヒトV領域の異なるライブラリーによるヒト置換の選択のためのガイドとして使用する。1回目に選択されたハイブリッド抗体はまた、2回目の選択の競合因子として用いてもよい。2回目の選択で得られるものは、参照抗体と構造的には異なるが、同じ抗原との結合をめぐって参照抗体と競合する完全ヒト抗体セットである。選択されたヒト抗体のいくつかは参照抗体と同じ抗原上の同じエピトープと結合する。これらの選択されたヒト抗体のうち1以上は、参照抗体に匹敵するか、またはそれより高い親和性で同じエピトープと結合する。
【0074】
参照抗体として上記されているマウスまたはキメラ抗hTSLPR抗体の1つを用いて、この方法は、同じ結合特異性および同じか、またはより良好な結合親和性を有するヒトTSLPRと結合するヒト抗体を作製するために容易に使用することができる。さらに、このようなヒト抗hTSLPR抗体はまた、例えばKaloBios, Inc. (Mountain View, CA)など、ヒト抗体を習慣的に生産している会社から商業的に入手することもできる。
【0075】
4. 他タイプの抗hTSLPR抗体
本発明の抗hTSLPR抗体はまた、単鎖抗体、二重特異的抗体および多重特異的抗体も含む。いくつかの態様では、本発明の抗体は単鎖抗体である。単鎖抗体は、安定に折り畳まれたポリペプチド鎖内に、重鎖および軽鎖の双方に由来する抗原結合領域を含む。単鎖抗体は一般にそれ自体、結合特異性とモノクローナル抗体の親和性を保持しているが、従来の免疫グロブリンよりも大きさが著しく小さい。ある特定の適用では、本発明の抗hTSLPR単鎖抗体は完全な抗hTSLPR抗体に比べて多くの有利な特性を提供する。これらには例えば、身体からのより迅速なクリアランス、画像診断および治療の両面でより大きな組織浸透、ならびにマウスに基づく抗体に比べて免疫原性の有意な軽減が含まれる。単鎖抗体を用いる他の可能性のある利点としては、ハイスループットスクリーニング法におけるスクリーニング力の向上および非経腸適用の可能性が含まれる。
【0076】
本発明の単鎖抗hTSLPR抗体は当技術分野で記載されている方法を用いて作製することができる。このような技術の例は、米国特許第4,946,778号および同第5,258,498号;Huston et al., Methods in Enzymology 203:46-88, 1991; Shu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:7995-7999, 1993;ならびにSkerra et al., Science 240:1038-1040, 1988に記載されているものを含む。
【0077】
いくつかの態様において、本発明は、複数の結合部位または標的エピトープと結合する二重特異的または多重特異的分子を作製するために誘導体化された、または別の機能的分子と結合された抗hTSLPR抗体を提供する。この機能的分子は、別のペプチドまたはタンパク質(例えば、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、免疫刺激剤または阻害剤、上記のようなFab’フラグメントまたは他の抗体結合フラグメント)を含む。例えば、抗hTSLPR抗体またはその抗原結合部分は、別の抗体、抗体フラグメント、ペプチドまたは結合ミメティックなどの1以上の他の結合分子と機能的に結合させることができる(例えば、化学結合、遺伝子融合、非共有結合またはその他による)。よって、本発明の二重特異的および多重特異的抗hTSLPR抗体は、ヒトTSLPRに対する第一の結合特異性と第二の標的エピトープに対する第二の結合特異性を有する少なくとも1つのモノクローナル抗hTSLPR抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。第二の標的エピトープはFc受容体、例えば、ヒトFcγRIまたはヒトFcγ受容体であり得る。よって、本発明は、FcγR1、FcγRまたはFcεRを発現するエフェクター細胞(例えば、単球、マクロファージまたは多形核細胞(PMN))とヒトTSLPRを発現する標的細胞(例えば、ヒトCD11c+樹状細胞)の双方と結合することができる二重特異的分子および多重特異的分子を含む。これらの多重特異的(例えば、二重特異的または多重特異的)分子は、ヒトTSLPR発現細胞をエフェクター細胞に向け、ヒトTSLPR発現細胞の食作用、抗体依存性細胞媒介細胞傷害作用(ADCC)、サイトカイン放出、またはスーパーオキシド陰イオンの生成など、Fc受容体により媒介されるエフェクター細胞の活性化を誘発する。
【0078】
本発明の二重特異的および多重特異的抗hTSLPR分子は当技術分野で記載されている方法により作製することができる。これらには化学的技術(例えば、Kranz, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:5807, 1981参照)、ポリドーマ技術(例えば、米国特許第4,474,893号参照)、または組み換えDNA技術が含まれる。本発明の二重特異的分子および多重特異的分子は、当技術分野で公知であり、本明細書に記載される方法を用い、構成的結合特異性、例えば抗FcRおよび抗ヒトTSLPR結合特異性をコンジュゲートすることにより作製することができる。例えば、二重特異的分子および多重特異的分子の各結合特異性を個別に作製した後、互いにコンジュゲートすることができる。結合特異性がタンパク質またはペプチドである場合、共有結合のために様々なカップリング剤または架橋剤を使用することができる。架橋剤の例としては、プロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)が挙げられる。結合特異性が抗体(例えば、2つのヒト化抗体)である場合、それらはその2つの重鎖のC末端ヒンジ領域のスルフヒドリル結合を介してコンジュゲートすることができる。このヒンジ領域は、コンジュゲーション前に、例えば1個といった奇数のスルフヒドリル残基を含むように修飾することができる。
【0079】
これらの二重特異的分子および多重特異的分子とそれらの特異的標的との結合は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)またはウエスタンブロットアッセイにより確認することができる。これらの各アッセイは一般に、対象とする複合体に特異的な標識試薬(例えば抗体)を用いることにより、特に着目するタンパク質−抗体複合体の存在を検出する。例えば、FcR−抗体複合体は、例えば、抗体−FcR複合体を認識し、それと特異的に結合する酵素結合抗体または抗体フラグメントを用いて検出することができる。あるいは、これらの複合体は他の様々なイムノアッセイのいずれかを用いて検出することもできる。例えば、抗体を放射性標識し、ラジオイムノアッセイ(RIA)に使用することができる(例えば、Weintraub, B., Principles of Radioimmunoassays, Seventh Training Course on Radioligand Assay Techniques, The Endocrine Society, March, 1986参照)。放射性同位元素はγカウンターもしくはシンチレーションカウンターを使用するなどの手段により、またはオートラジオグラフィーにより検出することができる。
【0080】
III. 抗hTSLPR抗体を作製するためのポリヌクレオチド、ベクターおよび宿主細胞
本発明は、上記の抗hTSLPR抗体のセグメントまたはドメインを含むポリペプチドをコードする実質的に精製されたポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)を提供する。本発明のポリヌクレオチドのいくつかは、配列番号13で示される重鎖可変領域のヌクレオチド配列および/または配列番号14で示される軽鎖可変領域のヌクレオチド配列を含む。本発明の他のいくつかのポリヌクレオチドは、配列番号13または配列番号14のヌクレオチド配列と実質的に(例えば少なくとも65、80%、95%または99%)同一のヌクレオチド配列を含む。適当な発現ベクターから発現させると、これらのポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチドは抗原結合能を示し得る。
【0081】
また、本発明では、図5で示される抗hTSLPR抗体の少なくとも1つのCDR領域と通常には重鎖または軽鎖の3つ全てのCDR領域をコードするポリヌクレオチドが提供される。他のいくつかのポリヌクレオチドは図5で示される抗hTSLPR抗体の重鎖および/または軽鎖の可変領域配列の全てまたは実質的に全てをコードする。例えば、これらのポリヌクレオチドのいくつかは、配列番号5で示される重鎖可変領域のアミノ酸配列および/または配列番号6で示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列をコードする。コードの縮重のため、様々な核酸配列が各免疫グロブリンアミノ酸配列をコードする。
【0082】
本発明のポリヌクレオチドは抗hTSLPR抗体の可変領域配列だけをコードすることができる。それらはまた、この抗体の可変領域と定常領域の双方をコードすることもできる。本発明の核酸のポリヌクレオチド配列のいくつかは、配列番号5で示される1D6.C9マウス抗hTSLPR抗体の成熟重鎖可変領域配列と実質的に(例えば、少なくとも80%、90%または99%)同一の成熟重鎖可変領域配列をコードする。他のいくつかのポリヌクレオチド配列は、配列番号6で示される1D6.C9マウス抗体の成熟軽鎖可変領域配列と実質的に同一の成熟軽鎖可変領域配列をコードする。これらのポリヌクレオチド配列のいくつかは、このマウス抗体の重鎖および軽鎖双方の可変領域を含むポリペプチドをコードする。他のいくつかのポリヌクレオチドは、このマウス抗体の重鎖および軽鎖の可変領域とそれぞれ実質的に同一の2つのポリペプチドセグメントをコードする。
【0083】
これらのポリヌクレオチド配列は、de novo固相DNA合成によるか、または抗hTSLPR抗体またはその結合フラグメントをコードする既存の配列(例えば、以下の実施例に記載されている配列)のPCR突然変異誘発により作製することができる。核酸の直接化学合成は、Narang et al., 1979, Meth. Enzymol. 68:90のホスホトリエステル法;Brown et al., Meth. Enzymol. 68:109, 1979のホスホジエステル法;Beaucage et al., Tetra. Lett., 22:1859, 1981のジエチルホスホルアミダイト法;および米国特許第4,458,066号の固相支持体法など、当技術分野で公知の方法により行うことができる。PCRによるポリヌクレオチド配列への突然変異の導入は、例えば、PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification, H.A. Erlich (Ed.), Freeman Press, NY, NY, 1992; PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Innis et al. (Ed.), Academic Press, San Diego, CA, 1990; Mattila et al., Nucleic Acids Res. 19:967, 1991;およびEckert et al., PCR Methods and Applications 1:17, 1991に記載のようにして行うことができる。
【0084】
また、本発明では、上記の抗hTSLPR抗体を作製するための発現ベクターおよび宿主細胞も提供される。抗TSLPR抗体鎖または結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを発現させるためには種々の発現ベクターが使用可能である。哺乳類宿主細胞で抗体を作製するためには、ウイルス系および非ウイルス系双方の発現ベクターが使用可能である。非ウイルスベクターおよび系は、プラスミド、一般にタンパク質またはRNAを発現するための発現カセットを有するエピソームベクター、およびヒト人工染色体(例えば、Harrington et al., Nat Genet 15:345, 1997参照)を含む。例えば、哺乳類(例えばヒト)細胞における抗hTSLPRポリヌクレオチドおよびポリペプチドの発現に有用な非ウイルスベクターは、pThioHis A、BおよびC、pcDNA3.1/His、pEBVHis A、BおよびC(Invitrogen, San Diego, CA)、MPSVベクターおよび他のタンパク質の発現に関して当技術分野で知られている他の多くのベクターを含む。有用なウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスに基づくベクター、SV40、パピローマウイルス、HBPエプスタインバーウイルスに基づくベクター、ワクシニアウイルスベクターおよびセムリキ森林ウイルス(SFV)に基づくベクターが挙げられる。Brent et al., 前掲; Smith, Annu. Rev. Microbiol. 49:807, 1995;およびRosenfeld et al., Cell 68:143, 1992参照。
【0085】
発現ベクターの選択は、そのベクターを発現させる意図する宿主細胞によって異なる。一般に、これらの発現ベクターは、抗hTSLPR抗体鎖またはフラグメントをコードするポリヌクレオチドと作動可能なように連結されたプロモーターおよびその他の調節配列(例えばエンハンサー)を含む。いくつかの態様では、誘導性プロモーターは、誘導条件下以外で挿入配列を発現しないようにするために使用される。誘導性プロモーターは、例えば、アラビノース、lacZ、メタロチオネインプロモーターまたは熱ショックプロモーターを含む。形質転換生物の培養物は、その発現産物が宿主細胞により良好に許容されるコード配列の集団に偏らないように非誘導条件下で拡張することができる。抗hTSLPR抗体鎖またはフラグメントの効率的な発現には、プロモーターの他、他の調節エレメントも必要であるか、または望ましい。これらのエレメントは一般に、ATG開始コドンおよび隣接するリボソーム結合部位または他の配列を含む。さらに、発現効率は使用においてその細胞系に適当なエンハンサーを含めることで増強することができる(例えば、Scharf et al., Results Probl. Cell Differ. 20:125, 1994;およびBittner et al., Meth. Enzymol., 153:516, 1987参照)。例えば、哺乳類宿主細胞における発現を高めるためには、SV40エンハンサーまたはCMVエンハンサーを使用することができる。
【0086】
発現ベクターはまた、挿入された抗hTSLPR抗体配列によりコードされているポリペプチドと融合タンパク質を形成するための分泌シグナル配列位置も提供する。多くの場合、挿入された抗hTSLPR抗体配列は、ベクターに封入する前にシグナル配列と連結させる。抗hTSLPR抗体軽鎖および重鎖可変ドメインをコードする配列を受容するために用いられるベクターは定常領域またはその一部もコードする場合がある。このようなベクターは、定常領域との融合タンパク質としての可変領域の発現を可能とし、それにより完全抗体またはそのフラグメントの生成をもたらす。一般に、このような定常領域はヒトである。
【0087】
抗hTSLPR抗体鎖を担持および発現するための宿主細胞は、原核生物かまたは真核生物であり得る。大腸菌(E. coli)は本発明のポリヌクレオチドのクローニングおよび発現に有用な1つの原核生物宿主である。使用に好適な他の微生物宿主は、枯草菌(Bacillus subtilis)などのバチルス属、およびサルモネラ属、セラチア属および種々のシュードモナス種などの他の腸内細菌を含む。これらの原核生物宿主では、一般に、その宿主細胞に適合する発現制御配列(例えば複製起点)を含む発現ベクターの作製も可能となる。さらに、ラクトースプロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系、β−ラクタマーゼプロモーター系、またはλファージ由来プロモーター系など、種々の周知のプロモーターがいくつ存在してもよい。これらのプロモーターは一般に、任意のオペレーター配列により発現を制御し、転写および翻訳を誘導および完了するために、リボソーム結合部位配列などを有する。酵母などの他の微生物も、本発明の抗hTSLPRポリペプチドを発現させるために使用することができる。昆虫細胞をバキュロウイルスベクターと組み合わせて使用することもできる。
【0088】
いくつかの好ましい態様では、本発明の抗hTSLPRポリペプチドを発現および産生するために哺乳類宿主細胞を用いる。例えば、それらは内在性免疫グロブリン遺伝子を発現するハイブリドーマ細胞株(例えば、実施例に記載されるような1D6.C9骨髄腫ハイブリドーマクローン)かまたは外因性の発現ベクターを担持する哺乳類細胞系統(例えば、下記に例示されているSP2/0骨髄腫細胞)のいずれかであり得る。これらには正常な致死の、またが正常もしくは異常な不死の動物もしくはヒト細胞が含まれる。例えば、CHO細胞系統、種々のCos細胞系統、HeLa細胞、骨髄腫細胞系統、形質転換B細胞およびハイブリドーマを含み、完全な免疫グロブリンを分泌し得るいくつかの好適な宿主細胞系統が開発されている。ポリペプチドを発現させるための哺乳類組織細胞培養の使用は一般に、例えば、Winnacker, FROM GENES TO CLONES, VCH Publishers, N.Y., N.Y., 1987に論じられている。哺乳類宿主細胞の発現ベクターは、複製起点、プロモーターおよびエンハンサー(例えば、Queen, et al., Immunol. Rev. 89:49-68, 1986参照)などの発現制御配列、ならびにリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写ターミネーター配列などの必要なプロセシング情報部位を含むことができる。これらの発現ベクターは通常、哺乳類遺伝子に由来する、または哺乳類ウイルスに由来するプロモーターを含む。好適なプロモーターは構成的、細胞種特異的、段階特異的、および/または調整可能もしくは調節可能である。有用なプロモーターは、限定されるものではないが、メタロチオネインプロモーター、構成的アデノウイルス主要後期プロモーター、デキサメタゾン誘導MMTVプロモーター、SV40プロモーター、MRP polIIIプロモーター、構成的MPSVプロモーター、テトラサイクリン誘導CMVプロモーター(ヒト前初期CMVプロモーター)、構成的CMVプロモーター、および当技術分野で公知のプロモーター−エンハンサーの組合せを含む。
【0089】
目的のポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを導入する方法は細胞宿主の種類によって異なる。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションは原核細胞に用いられる場合が多いが、他の細胞宿主にはリン酸カルシウム処理またはエレクトロポレーションが使用可能である(一般に、Sambrook, et al., 前掲参照)。他の方法として、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム処理、リポソーム媒介形質転換、インジェクションおよびマイクロインジェクション、弾道法、ウィロソーム(virosome)、イムノリポソーム、ポリカチオン:核酸コンジュゲート、裸のDNA、人工ビリオン、ヘルペスウイルス構造タンパク質VP22との融合(Elliot and O’Hare, Cell 88:223, 1997)、薬剤により促進させるDNA取り込み、およびex vivo形質導入がある。組み換えタンパク質の長期間高収率生産のためには、多くの場合、安定発現が望まれる。例えば、抗hTSLPR抗体鎖または結合フラグメントを安定発現する細胞系統は、ウイルス起源の複製または内因性発現エレメントと選択可能なマーカー遺伝子を含む本発明の発現ベクターを用いて産生することができる。ベクターを導入した後、富化培地中で1〜2日間細胞を増殖させ、その後、選択培地に切り替えればよい。選択マーカーの目的は選択のために耐性を付与することであり、その存在により、選択培地中で導入配列を首尾よく発現する細胞の増殖が可能となる。耐性のある、安定にトランスフェクトされた細胞は、その細胞種に適当な組織培養技術を用いて増殖させることができる。
【0090】
IV. 抗hTSLPR抗体の特性
上記の抗hTSLPR抗体が宿主細胞内で発現ベクターから、または内因的にハイブリドーマにおいて発現されると、それらは培養培地および宿主細胞から容易に精製することができる。通常、抗体鎖はシグナル配列ともに発現され、従って、培地に放出される。しかしながら、宿主細胞が抗体鎖を自然に分泌しない場合には、弱い洗剤で処理することで抗体鎖を放出させることができる。次に、硫酸アンモニウム沈殿、固定化標的に対するアフィニティークロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを含む常法により抗体鎖を精製することができる。これらの方法は全てよく知られており、当技術分野で慣例的に実施されている(例えば、Scopes, Protein Purification, Springer-Verlag, NY, 1982; and Harlow & Lane, 前掲)。
【0091】
例として、本発明の抗hTSLPR抗体を発現する選択されたハイブリドーマは、モノクローナル抗体精製用の2リットルのスピナーフラスコで増殖させることができる。上清を濾過および濃縮した後、プロテインA−セファロースまたはGタンパク質−セファロース(Pharmacia, Piscataway, NJ)を用いたアフィニティークロマトグラフィーを行うことができる。溶出したIgGをゲル電気泳動および高速液体クロマトグラフィーにより純粋かどうかを確認することができる。バッファー溶液をPBSに交換し、OD280の読み取りにより濃度を測定することができる。これらのモノクローナル抗体はアリコートに分け、−80℃で保存することができる。
【0092】
それらの製造方法にかかわらず、本発明の抗hTSLPRモノクローナル抗体はhTSLPRまたはその抗原フラグメントと特異的に結合する。特異的結合は、hTSLPRまたはその抗原フラグメントとの抗体結合に関する解離定数が≦1μM、好ましくは≦100nM、最も好ましくは≦1nMである場合に存在する。hTSLPRに対する抗体の結合能は、目的抗体を直接標識することにより検出することもできるし、あるいは抗体を標識せず、種々のサンドイッチアッセイ形式を用いて結合を間接的に検出してもよい。例えば、Harlow & Lane, 前掲参照。このような結合特異性を有する抗体は、以下の実施例で述べられる1D6.C9マウス抗hTSLPR抗体により示される有利な特性を共通に持つ可能性が高い。
【0093】
本発明の抗TSLPRモノクローナル抗体は、TSLPにより媒介されるシグナル伝達活性に拮抗することができる。これらの活性は、例えば、TARCおよびMDCなどの樹状細胞によるT2−誘引ケモカインの分泌、樹状細胞の活性化、ナイーブCD4+T細胞の拡大およびT2表現型への分極、IL−4、IL−5、IL−13 TNFαなどのアレルギー誘発性サイトカインの産生を含む。抗hTSLPR抗体がTSLPにより媒介される細胞活性を阻害することができるかどうかを判定するためには、いくつかのアッセイを使用することができる。これらには、例えば、Ba/F3/hTSLPR/hIL7Rα細胞を用いた細胞増殖アッセイ、Ba/F3/hTSLPR/IL7Rα/Stat5−Luc細胞を用いたルシフェラーゼリポーターアッセイ、およびTARC分泌アッセイなど、実施例に記載されているいずれのアッセイも含まれる。TSLPシグナル伝達活性を測定するためのさらなるアッセイも当技術分野において記載されている。例えば、Reche et al., J. Immunol., 167:336-43, 2001;およびIsaksen et al., J Immunol. 168:3288-94, 2002参照。
【0094】
いくつかの態様では、本発明の抗hTSLPR抗体は、図5に示されている可変領域配列を有する参照抗hTSLPR抗体(例えば、以下の実施例に記載されるマウス1D6.C9抗体またはそのキメラ抗体)とhTSLPRポリペプチドとの結合を遮断するか、またはそれと競合する。これらは上記の完全ヒト抗hTSLPR抗体であり得る。それらはまた、参照抗体と同じエピトープと結合する他のマウス、キメラまたはヒト化抗hTSLPR抗体であってもよい。参照抗体の結合を遮断するか、またはそれと競合することができるということは、試験下の抗hTSLPR抗体が参照抗体により定義されるものと同一または類似のエピトープと、または参照抗hTSLPR抗体が結合しているエピトープに十分近接したエピトープと結合することを示唆する。このような抗体は特に、参照抗体に関して確認された有利な特性を共通に持っている可能性がある。参照抗体を遮断するか、またはそれと競合する能力は、例えば競合結合アッセイにより測定することができる。競合結合アッセイでは、試験下の抗体を、参照抗体とTSLPRポリペプチドなどの共通抗原との特異的結合を阻害する能力に関して調べる。試験抗体は、過剰量の試験抗体が参照抗体の結合を実質的に阻害する場合に、抗原との特異的結合をめぐって参照抗体と競合する。実質的阻害とは、試験抗体が参照抗体の特異的結合を通常、少なくとも10%、25%、50%、75%または90%低下させることを意味する。
【0095】
ヒトTSLPRとの結合をめぐる、抗hTSLPR抗体と参照抗hTSLPR抗体との競合を評価するために使用可能な既知の競合結合アッセイがいくつかある。これらには、例えば、固相直接または間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahli et al., Methods in Enzymology 9:242-253, 1983参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirkland et al., J. Immunol. 137:3614-3619, 1986参照);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(Harlow & Lane, 前掲参照);I−125標識を用いた固相直接標識RIA(Morel et al., Molec. Immunol. 25:7-15, 1988参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheung et al., Virology 176:546-552, 1990);および直接標識RIA(Moldenhauer et al., Scand. J. Immunol. 32:77-82, 1990)が含まれる。一般に、このようなアッセイは、非標識試験抗hTSLPR抗体および標識参照抗体のいずれかを担持する固相表面または細胞に結合された精製抗原の使用を含む。競合的阻害は、試験抗体の存在下で、固相表面または細胞に結合された標識の量を測定することにより評価される。競合アッセイにより同定された抗体(競合抗体)には、参照抗体と同じエピトープと結合する抗体および参照抗体が結合しているエピトープと、立体障害が起こるのに十分近接している隣接エピトープと結合する抗体が含まれる。
【0096】
選択された抗TSLPRモノクローナル抗体がユニークなエピトープに結合するかどうかを調べるためには、各抗体を市販の試薬(例えば、Pierce, Rockford, ILからの試薬)を用いてビオチン化することができる。非標識モノクローナル抗体およびビオチン化モノクローナル抗体を用いた競合試験は、TSLPRポリペプチドをコーティングしたELISAプレートを用いて行うことができる。ビオチン化MAbの結合はストレプトアビジン(strep-avidin)−アルカリホスファターゼプローブで検出することができる。精製抗TSLPR抗体のイソ型を調べるためには、イソ型ELISAを行うことができる。例えば、マイクロタイタープレートのウェルを4℃にて一晩、1μg/mlの抗ヒトIgGでコーティングすればよい。1%BSAで遮断した後、これらのプレートを周囲温度で1〜2時間、1μg/ml以下のモノクローナル抗hTSLPR抗体または精製イソ型対照と反応させる。次に、これらのウェルをヒトIgGlまたはヒト IgM特異的アルカリ性ホスファターゼコンジュゲートプローブのいずれかと反応させる。その後、精製抗体のイソ型が判定できるようにプレートを現像および分析する。
【0097】
モノクローナル抗hTSLPR抗体とhTSLPRポリペプチドを発現する生存細胞との結合を調べるためには、フローサイトメトリーを使用することができる。簡単に言うと、hTSLPRを発現する細胞系統(標準的な増殖条件下で増殖させる)を、0.1%BSAおよび10%ウシ胎児血清を含有するPBS中、種々の濃度の抗hTSLPR抗体と混合し、37℃で1時間インキュベートすることができる。洗浄後、一次抗体染色と同様の条件下、これらの細胞をフルオレセイン標識抗ヒトIgG抗体と反応させる。これらのサンプルを、単細胞に対してゲートを開く光散乱および側方散乱特性を用いたFACScan装置により分析することができる。フローサイトメトリーアッセイの加えて、またはその代わりに蛍光顕微鏡を用いる別のアッセイを使用することもできる。細胞を上記のような厳密に染色し、蛍光顕微鏡により調べることができる。この方法により個々の細胞の可視化が可能となるが、抗原の濃度によって感受性が低下する場合がある。
【0098】
本発明の抗hTSLPR抗体はさらに、ウエスタンブロット法により、hTSLPRポリペプチドまたは抗原フラグメントとの反応性に関して試験することができる。簡単に言うと、精製hTSLPRポリペプチドもしくは融合タンパク質、またはTSLPR発現細胞由来の細胞抽出物を調製し、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うことができる。電気泳動後、分離された抗原をニトロセルロース膜に移し、10%ウシ胎児血清でブロッキングし、供試モノクローナル抗体でプロービングする。ヒトIgG結合は抗ヒトIgGアルカリ性ホスファターゼを用いて検出し、BCIP/NBT基質タブレット(Sigma Chem. Co., St. Louis, MO)で現像することができる。
【0099】
V. 非免疫グロブリンスキャフォールド
得られるポリペプチドが標的タンパク質に特異的な少なくとも1つの結合領域を含む限り、多様な抗体/免疫グロブリンフレームワークまたはスキャフォールドを使用することができる。このようなフレームワークまたはスキャフォールドとしては、5つの主要なイディオタイプのヒト免疫グロブリンまたはそのフラグメント(本明細書の他所に開示されているものなど)を含み、好ましくはヒト化局面を有する他の動物種の免疫グロブリンを含む。ラクダ科で同定されているものなどの単鎖重鎖抗体は、この点で特に着目されるものである。当業者により新規なフレームワーク、スキャフォールドおよびフラグメントの発見および開発が続いている。
【0100】
一局面において、本発明は、本発明のCDRがグラフト可能な非免疫グロブリンスキャフォールドを用いた非免疫グロブリンに基づく抗体の作製に関する。既知の、または将来の非免疫グロブリンフレームワークおよびスキャフォールドは、それらが配列番号Xの標的タンパク質に特異的な結合領域を含んでいる限り使用可能である。このような化合物は本明細書では、「標的特異的結合領域をポリペプチド」として知られる。既知の非免疫グロブリンフレームワークまたはスキャフォールドは、限定されるものではないが、アドネクチン(Adnectins)(フィブロネクチン)(Compound Therapeutics, Inc., Waltham, MA)、アンキリン(ankyrin)(Molecular Partners AG, Zurich, Switzerland)、ドメイン抗体(Domantis, Ltd (Cambridge, MA)およびAblynx nv(Zwijnaarde, Belgium)、リポカリン(lipocalin)(Anticalin)(Pieris Proteolab AG, Freising, Germany)、スモール・モジュラー・イムノファルマシューティカル(small modular immuno-pharmaceuticals)(Trubion Pharmaceuticals Inc., Seattle, WA)、マキシボディ(maxybodies)(Avidia, Inc. (Mountain View, CA))、プロテインA(Affebody AG, Sweden)およびアフィリン(affilin)(γクリスタリンまたはユビキチン)(Scil Protains GmbH, Halle, Germany)を含む。
【0101】
(i)アドネクチン−Compound Therapeutics
アドネクチンスキャフォールドは、III型フィブロネクチンドメイン(例えば、III型フィブロネクチンの10番目のモジュール(10Fn3ドメイン)に基づくものである。このIII型フィブロネクチンドメインは2つのβシートの間に分布する7または8βストランドを有し、それら自体は互いに密集してタンパク質核を形成し、さらに互いにβストランドを接続し、溶媒に曝されるループ(CDRに類似)を含む。βシートサンドイッチの各端にはこのようなループが少なくとも3つあり、この端部はβストランドの方向と垂直にタンパク質の境界となっている(米国特許第6,818,418号)。
【0102】
これらのフィブロネクチンに基づくスキャフォールドは免疫グロブリンではないが、全体的な折り畳みは、ラクダおよびラマIgGにおける全抗原認ユニットを含む最小機能抗体フラグメントである重鎖可変領域のものに密接に関係している。この構造のため、非免疫グロブリン抗体は、自然界で類似の抗原結合特性および抗体に対する親和性を模倣する。これらのスキャフォールドは、in vivoにおける抗体の親和性成熟の過程に類似する、in vitroにおけるループの無作為化およびシャッフリング戦略に使用可能である。これらのフィブロネクチンに基づく分子は、標準的なクローニングを用いてその分子のループ領域を本発明のCDRで置換することができるスキャフォールドとして使用可能である。
【0103】
(ii)アンキリン−Molecular Partners
この技術は、種々の標的との結合に使用可能な可変領域を保持するためのスキャフォールドとしてアンキリン誘導化リピートモジュールを有するタンパク質の使用に基づくものである。このアンキリンリピートモジュールは2つの逆平行αヘリックスとβターンからなる33個のアミノ酸のポリペプチドである。これらの可変領域の結合はリボソームディスプレーを用いてほぼ至適化される。
【0104】
(iii)マキシボディ/アビマー−Avidia
アビマーはLRP−1などのタンパク質を含む天然Aドメインに由来する。これらのドメインはタンパク質−タンパク質相互作用により用いられ、ヒトでは250を超えるタンパク質が構造的にAドメインに基づいている。アビマーはアミノ酸リンカーを介して結合したいくつかの異なる「Aドメイン」モノマー(2〜10)からなる。アビマーは、例えば20040175756;20050053973;20050048512;および20060008844に記載されている方法論を用いて標的抗原と結合できるものを作製することができる。
【0105】
(vi)プロテインA−アフィボディ
アフィボディ(登録商標)親和性リガンドは、プロテインAのIgG結合ドメインの1つのスキャフォールドに基づく3本のヘリックス束からなる、小さな単純なタンパク質である。プロテインAは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来の表面タンパク質である。このスキャフォールドドメインは58のアミノ酸からなり、そのうち13は多数のリガンド変異体を有するアフィボディ(登録商標)ライブラリーを作製するために無作為化されている(例えば、米国特許第5,831,012号参照)。アフィボディ(登録商標)分子は抗体を模倣し、抗体の分子量が150kDaであるのに対して、その分子量は6kDaである。その小さなサイズにもかかわらず、アフィボディ(登録商標)分子の結合部位は抗体のものと同等である。
【0106】
(v)アンチカリン−Pieris
アンチカリン(登録商標)は、Pieris ProteoLab AG社が開発した製品である。それらは化学的に感受性があるか、または不溶性の化合物の生理学的輸送または貯蔵に通常含まれる、小型かつ頑丈な広範なタンパク質群であるリポカリン類に由来する。数種の天然リポカリンはヒト組織または体液に見られる。
【0107】
このタンパク質構造は、強固なフレームワーク上に超可変ループを有する免疫グロブリンを暗示する。しかしながら、抗体またはそれらの組み換えフラグメントとは対照的に、リポカリン類は160〜180のアミノ酸残基を有する1本のポリペプチド鎖からなり、1本の免疫グロブリンドメインよりもほんの少し大きい。
【0108】
結合ポケットを形成する4つのループのセットは、著しい構造的可塑性を示し、かつ、種々の側鎖を許容する。よって、この結合部位は、高い親和性と特異性を有する異なる形状の、指定された標的分子を認識するために、専有プロセスで再成形することができる。
【0109】
リポカリンファミリーの1つのタンパク質であるPieris Brassicaeのビリン(bilin)結合タンパク質(BBP)は、この4つのループセットを突然変異誘発することによりアンチカリン類(anticalins)を開発するために用いられている。「アンチカリン類」を記載している特許出願の一例はPCT WO199916873である。
【0110】
(vi)アフィリン−Scil Protein
アフィリン(商標)分子は、タンパク質および小分子に対して特異的親和性を持つようにデザインされた小型の非免疫グロブリンタンパク質である。新しいアフィリン(商標)分子は、各々異なるヒト由来スキャフォールドタンパク質に基づく2つのライブラリーから極めて迅速に選択することができる。アフィリン(商標)分子は免疫グロブリンタンパク質に構造的ホモロジーを示さない。Scil Proteinは2つのアフィリン(商標)スキャフォールドを用い、その一方はヒト眼のレンズの構造タンパク質であるγクリスタリンであり、他方は「ユビキチン」スーパーファミリータンパク質である。両ヒトスキャフォールドとも極めて小さく、高温安定性を示し、pH変化および変性剤にほぼ耐性がある。この高い安定性は主としてこれらのタンパク質の拡張βシート構造によるものである。γクリスタリン由来タンパク質の例はWO200104144に記載されており、「ユビキチン様」タンパク質の例はWO2004106368に記載されている。
【0111】
VI. 抗hTSLPR抗体の治療適用
抗hTSLPR抗体は、TSLPシグナル伝達活性を阻害することにより、多くの治療的または予防的適用で使用することができる。これらには、B細胞の発達、T細胞の発達、T細胞受容体遺伝子再構成、またはStat5転写因子の調節に影響を及ぼすものなど、TSLPシグナル伝達により媒介される疾病または状態の処置を含む。例えば、抗hTSLPRアンタゴニスト抗体は、T2細胞により媒介される望ましくない免疫応答を抑制または軽減するために使用することができる。特にそれらはTSLPシグナル伝達と関連するか、またはそれにより媒介されるアレルギー性炎症性障害に罹患しているヒト患者を処置するのに好適である。本発明の抗hTSLPR抗体による処置に従うアレルギー性炎症性疾患としては、例えば、(1)空気流の閉塞と気管支の過敏感反応性に関連する気道の慢性炎症性疾患である喘息;(2)長期の断続的処置を必要とする慢性、増悪性の炎症性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎;および(3)アトピーに関連する、T2リンパ球により媒介される鼻腔粘膜の炎症性障害であるアレルギー性鼻炎が挙げられる。米国およびいくつかの主要な欧州諸国では、喘息、アトピー性皮膚炎およびアレルギー性鼻炎の診断罹患率は、2013年にはそれぞれ現在の4600万人から5300万人に、現在の3170万人から3720万人に、現在の5590万人から6450万人に増えると予測される。アトピー性皮膚炎患者の約50〜80%は喘息またはアレルギー性鼻炎を有しているか、または発症する。
【0112】
アレルギーの処置に現在使用可能な薬剤のほとんどは症状の緩和をもたらすことを目的としており、長期の疾病改善をもたらす可能性のある免疫調節分野の努力は比較的少ない。本発明の抗hTSLPR抗体は、これらのアレルギー性疾患のいずれかに罹患している対象(特にヒト患者)の新規かつ有効な処置を提供し得る。TSLP受容体シグナル伝達経路の活性化からTSLPを阻害することにより、それらはT2の反応と、アレルギー性炎症の誘発と維持の双方を担うサイトカインの産生を遮断することができる。このアプローチは、アトピー性皮膚炎、喘息およびアレルギー性鼻炎患者において長期の治療効果および疾病改善利益をもたらす可能性を有する。
【0113】
別の態様では、本発明は、上記の抗体または機能的フラグメントまたは保存的変異体の少なくともいずれか1つと医薬上許容される担体または賦形剤とを有する医薬組成物を提供する。
【0114】
ある特定の態様では、本発明は、受容体標的hTSLPを有する細胞の存在に関連する障害または状態を処置する方法を提供する。この方法はそれを必要とする対象に有効量の上記医薬組成物のいずれかを投与することを含む。関連の態様では、処置される障害または状態は呼吸器系障害である。
【0115】
別の態様では、治療される障害または状態は、気道の過敏感反応性(AHR)、粘液の過剰生産、繊維症および血清IgEレベルの上昇を特徴とする、一般的な肺の持続性炎症性疾患である気管支喘息である。
別の態様では、処置される障害または状態は、小児に最も多い皮膚疾患であり、強いかゆみと慢性的湿疹病巣を特徴とするアトピー性(アレルギー性)皮膚炎である。
【0116】
別の態様では、処置される障害または状態は、COPD、急性肺損傷(ALI)、急性/成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、呼吸困難、アレルギー性気道炎症、小気道疾患、肺癌、鎌形赤血球症および肺高血圧症患者の急性胸部症候群、ならびに他の薬物療法、特に他の吸入薬物療法の結果としての気道過敏感反応の増悪など、他の炎症性または閉塞性気道疾患および状態から選択される。
【0117】
別の態様では、処置される障害または状態は、種類および起源によらず、例えば急性、アラキジン酸性、カタル性、クループ性、慢性、または結核性気管支炎を含む気管支炎である。
【0118】
別の態様では、処置される障害または状態は、例えば、アルミニウム症、炭粉症、石綿症、石粉症、ダチョウ塵肺症、鉄症、ケイ肺症、タバコ肺症および綿肺症を含む塵肺症(炎症性、一般に職業的な肺疾患、多くの場合、慢性であれ急性であれ気道閉塞が伴い、塵埃の反復的吸収により発生する)を含む。
【0119】
別の態様では、処置される障害または状態は、アトピー性鼻炎(枯草熱)および慢性副鼻腔炎から選択される。
別の態様では、処置される障害または状態は、他の皮膚の炎症性状態、例えば、乾癬または紅斑性狼瘡から選択される。
【0120】
別の態様では、処置される障害または状態は、潰瘍性大腸炎およびクローン病などの炎症性腸疾患である。
別の態様では、処置される障害または状態は、全身性硬化症、肝繊維症、肺繊維症、特発性肺繊維症または繊維肺などの他の繊維性状態から選択される。
【0121】
別の態様では、処置される障害または状態は腫瘍再発または転移である。Th2サイトカインの阻害は動物モデルで抗ウイルスワクチンを増強することが示されており、HIVおよび他の感染性疾患の処置に有益であり得る[Ahlers, J. D., et al. Proc Natl Acad Sci U S A, 2002]。
【0122】
別の態様では、処置される障害または状態は、喘息、慢性気管支炎、COPD、中耳炎および副鼻腔炎などの、基礎にある慢性状態を増悪させる呼吸器系ウイルス感染症である。処置される呼吸器系ウイルス感染症は、中耳炎、副鼻腔炎または肺炎などの二次的細菌感染に関連し得る。
【0123】
別の態様では、処置される障害または状態は、他の疾病または状態、特に炎症性成分を有する疾病または状態、例えば、関節リウマチ、乾癬性関節炎、および他の疾病(アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、ならびに例えば心臓、腎臓、肝臓、肺または骨髄移植後の急性および慢性異種移植片拒絶など)を含む骨および関節の疾病から選択される。
【0124】
別の態様では、処置される障害または状態は、内毒素ショック、糸球体腎炎、脳虚血および心虚血、アルツハイマー病、嚢胞性繊維症、ウイルス感染症およびそれらに関連する増悪、後天性免疫不全症候群(AIDS)、多発性硬化症(MS)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)関連胃炎、および癌、特に卵巣癌の増殖である。
【0125】
別の態様では、処置される障害または状態は、ヒトライノウイルス、他のエンテロウイルス、コロナウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルスまたはアデノウイルスにより引き起こされるヒトにおけるウイルス感染により引き起こされる状態である。
本発明の処置は対症的または予防的なものであり得る。
【0126】
炎症性状態、例えば炎症性気道疾患の阻害における本発明の薬剤の有効性は、例えば、Wada et al, J. Exp. Med (1994) 180:1135-40; Sekido et al, Nature (1993) 365:654-57; Modelska et al., Am. J. Respir. Crit. Care. Med (1999) 160:1450-56;およびLaffon et al (1999) Am. J. Respir. Crit. Care Med. 160:1443-49に記載されているように、気道炎症または他の炎症性状態の動物モデル、例えばマウス、ラットまたはウサギモデルにおいて証明することができる。
【0127】
さらに別の態様では、本発明は、hTSLP受容体を有する細胞を同定する方法を提供する。この方法は、細胞を検出可能な標識をさらに有する上記抗体または抗体フラグメントのいずれかと接触させることを含む。この標識は放射性、蛍光、磁性、常磁性、または化学発光性である。この方法はさらに上記の標識細胞の画像化または分離のいずれかを含み得る。
【0128】
別の態様では、上記のヒトまたはヒト化抗体または抗体フラグメントはいずれも合成品である。
別の態様では、本発明は、医薬組成物および付加的治療薬を提供する。
【0129】
付加的治療薬は、特に、以上に記載したものなどの閉塞性または炎症性気道疾患の処置においては、抗炎症薬、気管支拡張薬、抗ヒスタミン薬または鎮咳薬からなる群から選択することができ、例えば、このような薬剤の治療活性の増強薬またはこのような薬剤の必要用量または起こり得る副作用を軽減する手段としてのものがある。本発明の治療薬は、一定の医薬組成物として他の薬剤物質と混合してもよいし、あるいは他の薬剤物質の前、同時、または後に別に投与してもよい。よって、本発明は、上述の本発明の薬剤と抗炎症薬、気管支拡張薬、抗ヒスタミン薬または鎮咳薬物質の組合せを含み、該本発明の薬剤および該薬剤物質は同じ医薬組成物でも異なる医薬組成物でもよい。
【0130】
好適な抗炎症薬は、ステロイド、特に、グルココルチコステロイド(例えば、ブデソニド、二プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、シクレソニドまたはフロ酸モメタゾン)、またはWO02/88167、WO02/12266、WO02/100879、WO02/00679(特に実施例3、11、14、17、19、26、34、37、39、51、60、67、72、73、90、99および101のもの)、WO03/35668、WO03/48181、WO03/62259、WO03/64445、WO03/72592、WO04/39827およびWO04/66920に記載のステロイド;非ステロイド系グルココルチコイド受容体アゴニスト、例えば、DE10261874、WO00/00531、WO02/10143、WO03/82280、WO 03/82787、WO03/86294、WO03/104195、WO03/101932、WO04/05229、WO04/18429、WO04/19935およびWO04/26248に記載されているもの;LTB4アンタゴニスト、例えば、BIIL284、CP−195543、DPC11870、LTB4エタノールアミド、LY293111、LY255283、CGS025019C、CP−195543、ONO−4057、SB209247、SC−53228およびUS5451700に記載されているもの;LTD4アンタゴニスト、例えば、モンテルカスト、プランルカスト、ザフィルルカスト、アコレート、SR2640、Wy−48,252、ICI198615、MK−571、LY−171883、Ro24−5913およびL−648051;PDE4阻害剤、例えば、シロミラスト(Ariflo(登録商標)GlaxoSmithKline)、ロフルミラスト(Byk Gulden)、V−11294A(Napp)、BAY19−8004(Bayer)、SCH−351591(Schering-Plough)、アロフィリン(Almirall Prodesfarma)、PD189659/PD168787(Parke-Davis)、AWD−12−281(Asta Medica)、CDC−801(Celgene)、SelCID(TM)CC−10004(Celgene)、VM554/UM565(Vernalis)、T−440(Tanabe)、KW−4490(Kyowa Hakko Kogyo)、ならびにWO92/19594、WO93/19749、WO93/19750、WO93/19751、WO98/18796、WO99/16766、WO01/13953、WO03/104204、WO03/104205、WO03/39544、WO04/000814、WO04/000839、WO04/005258、WO04/018450、WO04/018451、WO04/018457、WO04/018465、WO04/018431、WO04/018449、WO04/018450、WO04/018451、WO04/018457、WO04/018465、WO04/019944、WO04/019945、WO04/045607およびWO04/037805に開示されているもの;A2Aアゴニスト、例えば、EP1052264、EP1241176、EP409595A2、WO94/17090、WO96/02543、WO96/02553、WO98/28319、WO99/24449、WO99/24450、WO99/24451、WO99/38877、WO99/41267、WO99/67263、WO99/67264、WO99/67265、WO99/67266、WO00/23457、WO00/77018、WO00/78774、WO01/23399、WO01/27130、WO01/27131、WO01/60835、WO01/94368、WO02/00676、WO02/22630、WO02/96462およびWO03/086408に記載されているもの;ならびにA2Bアンタゴニスト、例えば、WO02/42298に記載されているものを含む。
【0131】
好適な気管支拡張薬は、抗コリン作動薬または抗ムスカリン作用薬、特に、臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、チオトロピウム塩およびCHF4226(Chiesi)、およびグリコピロレート、また、EP424021、US3714357、US5171744、WO01/04118、WO02/00652、WO02/51841、WO02/53564、WO03/00840、WO03/33495、WO03/53966、WO03/87094、WO04/018422およびWO04/05285に記載されているもの;ならびにβ−2アドレノセプターアゴニスト、例えば、アルブテロール(サルブタモール)、メタプロテレノール、テルブタリン、サルメテロール、フェノテロール、プロカテロール、特に、フォルモテロール、カルモテロールおよびその医薬上許容される塩、および出典明示により本明細書の一部とされるWO00/75114の式Iの化合物(遊離型または塩または溶媒和物型)、好ましくは、その実施例の化合物、特に、化合物(5−[(R)−2−(5,6−ジエチル−インダン−2−イルアミノ)−1−ヒドロキシ−エチル]−8−ヒドロキシ−1H−キノリン−2−オン)およびその医薬上許容される塩、ならびにWO04/16601の式Iの化合物(遊離型または塩または溶媒和物型)、また、EP1440966、JP05025045、WO93/18007、WO99/64035、US2002/0055651、WO01/42193、WO01/83462、WO02/66422、WO02/70490、WO02/76933、WO03/24439、WO03/42160、WO03/42164、WO03/72539、WO03/91204、WO03/99764、WO04/16578、WO04/22547、WO04/32921、WO04/33412、WO04/37768、WO04/37773、WO04/37807、WO04/39762、WO04/39766、WO04/45618、WO04/46083、WO04/80964、EP1460064、WO04/087142、WO04/089892、EP01477167、US2004/0242622、US2004/0229904、WO04/108675、WO04/108676、WO05/033121、WO05/040103およびWO05/044787の化合物を含む。
【0132】
好適な抗炎症性および気管支拡張性の二重の薬剤は、US2004/0167167、WO04/74246およびWO04/74812に開示されているものなどのβ−2アドレノセプターアゴニスト/ムスカリンアンタゴニストを含む。
【0133】
好適な抗ヒスタミン薬物質は、塩酸セチリジン、アセトアミノフェン、フマル酸クレマスチン、プロメタジン、ロラチジン、デスロラチジン、ジフェンヒドラミンおよび塩酸フェキソフェナジン、アクチバスチン、アステミゾール、アゼラスチン、エバスチン、エピナスチン、ミゾラスチンおよびテフェナジン、ならびにJP2004107299、WO03/099807およびWO04/026841に開示されているものを含む。
【0134】
本発明の治療薬と抗コリン作動薬または抗ムスカリン作動薬、ステロイド類、β−2アゴニスト、PDE4阻害剤、ドーパミン受容体アゴニスト、LTD4アンタゴニストまたはLTB4アンタゴニストの組合せも使用可能である。本発明の薬剤と抗炎症薬との他の有用な組合せとしては、他のケモカイン受容体アンタゴニスト、例えば、CCR−1、CCR−3、CCR−4、CCR−5、CCR−6、CCR−7、CCR−8、CCR−9およびCCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、特にCCR−5アンタゴニスト、例えば、Schering-PloughアンタゴニストSC−351125、SCH−55700およびSCH−D、Takedaアンタゴニスト、例えば、N−[[4−[[[6,7−ジヒドロ−2−(4−メチルフェニル)−5H−ベンゾシクロヘプテン−8−イル]カルボニル]アミノ]フェニル]−メチル]−テトラヒドロ−N,N−ジメチル−2H−ピラン−4−アミニウムクロリド(TAK−770)、US6166037(特に請求項18および19)、WO0066558(特に請求項8)、WO0066559(特に請求項9)、WO04/018425およびWO04/026873に記載のCCR−5アンタゴニストとの組合せがある。
【0135】
付加的治療薬はまた、他のサイトカイン結合分子、特に他のサイトカインの抗体、特に、PCT/EP2005/00836に記載されているものなどの抗IL4抗体、Xolair(登録商標)などの抗IgE抗体、WO05/007699に記載されているものなどの抗IL31抗体、抗IL31R抗体、抗IL13抗体、抗エンドリン抗体、抗IL1b抗体、および抗TSLP抗体または別の抗hTSLPR抗体との組合せからなる群から選択することができる。
【0136】
本発明の抗hTSLPRアンタゴニスト抗体は、治療的および予防的の双方で対象を処置するために使用可能である。治療適用では、抗hTSLPRアンタゴニスト抗体(例えば、ヒト化抗hTSLPR抗体)を含む組成物は、TSLPシグナル伝達により引き起こされるか、またはシグナル伝達に関連するアレルギー性疾患に既に罹患している対象に投与される。この組成物は抗体をその状態およびその合併症を治癒する、部分的に阻止する、または進行を検出可能な程度に遅延させるのに十分な量で含む。予防適用では、モノクローナル抗hTSLPR抗体を含む組成物は、アレルギー性炎症性障害のまだ罹患していない患者に投与される。むしろ、それらはアレルギー性炎症性障害を発症するリスクがあるか、または疾病素因を有する対象に向けられる。このような適用は対象に患者としての抵抗性を高めさせるか、またはTSLPシグナル伝達により媒介されるアレルギー性炎症性障害の進行を遅延させる。
【0137】
VII. 医薬組成物
本発明は、医薬上許容される担体とともに製剤された抗hTSLPRモノクローナル抗体(完全または結合フラグメント)を含む医薬組成物を提供する。これらの組成物は、所与のアレルギー性障害を処置または予防するのに好適な他の治療薬、例えば、上記の既知の抗アレルギー薬をさらに含み得る。医薬担体は組成物を増強または安定化するか、または組成物の調製を助ける。医薬上許容される担体としては、生理学的に適合する溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤などを含む。
【0138】
本発明の医薬組成物は当技術分野で公知の様々な方法により投与することができる。投与経路および/または投与様式は所望の結果によって異なる。投与は静脈投与、筋肉投与、腹腔内投与または皮下投与であるか、または標的部位に近接して投与することが好ましい。医薬上許容される担体は静脈投与、筋肉投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与または上皮投与(例えば、注射または注入による)に適しているべきである。投与経路に応じて、有効化合物、すなわち抗体、二重特異的および多重特異的分子は、酸の作用および化合物を不活性化し得る他の天然条件から化合物を保護するための材料でコーティングすることができる。
【0139】
組成物は無菌かつ流動性であるべきである。適切な流動性は例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用、分散系の場合では必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用により維持することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、糖類、マンニトールまたはソルビトールなどのポリアルコール、および塩化ナトリウムを含むのが好ましい。注射組成物の長時間吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンなどの、吸収を遅延させる薬剤を組成物中に含めることにより行うことができる。
【0140】
本発明の医薬組成物は周知かつ当技術分野で慣例的に実施されている方法に従って製造することができる。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000; and Sustained and Controlled Release Drug Delivery systems, J.R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978参照。医薬組成物はGMP条件下で製造するのが好ましい。一般に、本発明の医薬組成物には、治療上有効な用量または効果的な用量の抗hTSLPR抗体を用いる。これらの抗hTSLPR抗体は、当業者に公知の常法により医薬上許容される投与形として製剤される。投与計画は最適目的応答(例えば、治療応答)を提供するように調節される。例えば、1回のボーラス投与を行ってもよいし、経時的に数回の分割投与を行ってよいし、あるいは治療状況の緊急性により指示されるように用量を比例的に減少または増加させてもよい。投与の簡単さと用量の均一性のために、非経口組成物は単位投与形で処方することが特に有利である。本明細書において単位投与形とは、処置される対象にとって単位用量として適した物理的に独立した単位を指し、各単位は、所望の治療効果を生じるように計算した所定量の有効化合物を必要な医薬担体とともに含む。
【0141】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の用量レベルは、特定の患者、組成物、および投与様式に対して、患者への毒性なく、所望の治療応答を達成するのに有効な有効成分の量が得られるように変更することができる。選択される用量レベルは、使用する本発明の特定の組成物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性を含む様々な薬物動態因子、投与経路、投与時間、使用する特定の化合物の排泄速度、処置期間、使用する特定の組成物と併用される他の薬剤、化合物および/または材料、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、健康状態および過去の薬歴によって異なる。
【0142】
医師または獣医師は、医薬組成物中に用いられる本発明の抗体用量を所望の治療効果を達成するのに必要とされるものよりも低いレベルで開始し、所望の効果が得られるまで徐々に用量を高めることができる。一般に、本明細書に記載のアレルギー性炎症性障害の処置のための、本発明の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理状態、患者がヒトであるか動物であるか、投与される他の薬剤、および処置が予防的であるか治療的であるかを含む、多くの異なる因子によって異なる。処置用量は安全性と有効性を至適化すべく微調整する必要がある。抗体とともに投与する場合、用量は約0.0001〜100mg/kg、より通常には0.01〜5mg/kg宿主体重の範囲である。例えば、用量は1mg/kg体重または10mg/kg体重であるか、または1〜10mg/kgの範囲内であり得る。処置計画例としては、2週間に1回または1か月に1回または3〜6か月に1回の投与が必要である。
【0143】
抗体は通常、複数回で投与される。1回の投与の間隔は1週間、1か月または1年であり得る。間隔は患者において抗hTSLPR抗体の血中レベルを測定することにより指示される場合、不定期であってもよい。いくつかの方法では、用量は、血漿抗体濃度1〜1000μg/ml、いくつかの方法では25〜300μg/mlとなるように調節される。あるいは、抗体は徐放性処方物として投与することもでき、この場合には必要とされる投与頻度は少なくなる。用量および頻度は患者における抗体の半減期によって異なる。一般に、ヒト化抗体はキメラ抗体および非ヒト抗体の場合よりも長い半減期を示す。用量および投与頻度は、その処置が予防的であるか治療的であるかによって異なり得る。予防適用では、比較的低用量を、長期間にわたって比較的低頻度で投与する。患者によっては、生涯にわたって処置を続ける。治療適用では、疾病の進行が軽減または終結されるまで、好ましくは、患者が疾病の症状の部分的または完全な緩解を示すまで、比較的高用量を比較的短い間隔で投与する必要がある場合がある。その後、この患者には予防計画で投与することができる。
【実施例】
【0144】
以下の実施例は本発明をさらに説明するために示されるものであり、その範囲を限定するものではない。本発明の他の変形形態は当業者には容易に明らかとなり、添付の特許請求の範囲に包含される。
【0145】
実施例1. マウス抗hTSLPRアンタゴニスト抗体の開発
本実施例はマウス抗hTSLPRアンタゴニスト抗体の開発について記載する。Bcl2 Wehi22マウス(#1770)を、R&D System (Minneapolis, MN) (カタログ番号981-TR, ロット番号EDY1312A)から購入したヒトTSLPR(Met1−Lys231)/ヒトIgG1 Fc(Pro100−Lys330)融合タンパク質で免疫化した。この免疫化は18日間で計8回の注射により行った。末梢リンパ節からB細胞を単離し、F0骨髄腫細胞(ATCC, Manassas, VA)と融合させた。抗体の産生をhTSLPR/Fcタンパク質に対するELISAによりスクリーニングした。hTSLPRを特異的に認識する抗体を産生する計24のクローンが得られた。hTSLPR抗体と細胞表面TSLPRとの結合はFACSアッセイ(BD Biosciences, San Jose, CA)で分析した。簡単に言うと、BaF3/hTSLPR/hIL7Rα細胞をハイブリドーマ培養上清、その後FITCコンジュゲート抗マウスIgGとともにインキュベートし、FACS装置で分析した。これらの結果は、24クローンのうち14のハイブリドーマクローンが細胞表面受容体と結合できたことを示した。
【0146】
次に、BaF3/hTSLPR/hIL7Rα細胞におけるhTSLP依存性細胞増殖アッセイを用い、hTSLPRアンタゴニスト抗体をスクリーニングした。これらの細胞はヒトTSLPRとIL7Rαの双方を発現し、ヒトTSLPの刺激に応答することができる(Reche et al., J. Immunol., 167:336-43, 2001)。細胞増殖アッセイは本質的にReche et al.に記載されているように行った。簡単に言うと、BaF3/hTSLPR/hIL7Rα細胞を培養上清からの抗体とともに1時間プレインキュベートし、図1に示されている濃度のhTSLPで誘導した。細胞増殖はAlamar Blue (TREK Diagnositc Systems, Cleveland, OH)を用いて測定した。このアッセイでは、各親クローンに対して1〜3のサブクローンを用いた。図1に示されている結果は、クローン1D6由来の3つのサブクローンが強いアンタゴニスト活性を示したことを示唆する。
【0147】
サブクローンの1つ1D6.C9からモノクローナル抗体(mAb)を精製した(図2C)。簡単に言うと、Miniperm culture (Vivascience, Carlsbad, CA)からの無血清細胞馴化培地をCleanascite (LigoChem, Fairfield, NJ)で処理した。次に、抗体をGタンパク質Gレジン(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)で精製した。精製した抗体を上記のような細胞増殖アッセイで試験した。Ba/F3−hTSLPR−hIL7Rα細胞またはBaf3/hTSLPR/hIL7Rα/Stat5−Luc細胞を、1ng/mlのhTSLPの添加前に1時間、種々の濃度の抗体で処理した。これらの結果は、BaF3/hTSLPR/hIL7Rα細胞(図3A)とBaf3/hTSLPR/hIL7Rα/Stat5−Luc細胞(図3B)の双方のTSLP依存性の増殖がマウス抗hTSLPR抗体の添加により用量依存的に阻害されたことを示唆する。
【0148】
さらに、TSLPにより媒介されるシグナル伝達活性に対する抗体の作用を調べるため、ルシフェラーゼリポーターアッセイも用いた。TSLPは、Baf3/hTSLPR/hIL7Ra細胞においてStat3およびStat5のリン酸化を誘導する(Reche et al., 前掲)。このアッセイは、TSLPシグナル伝達に応答して、Baf3/hTSLPR/hIL7Ra/Stat5−Luc細胞において、Stat5の制御下のリポーター遺伝子発現を測定するようにデザインした。簡単に言うと、このStat−Lucリポーター構築物は、プロモーターおよびエンハンサーを含まないpGL2基本Lucリポーターベクター(Promega, Madison, WI)にStatコンセンサス結合部位を挿入することにより作製した。挿入されたStat結合部位は、核Stat結合配列TTCCCGGAA(配列番号16)(Yan et al., Cell. 84:421-30, 1996;およびSaylors et al., Gene Ther. 6:944-6, 1999)を担持するGATTTCCCCGAAATG配列エレメント(配列番号15)を8コピー含む。このStat−Lucリポーター構築物をBaF3/hTSLPR/hIL7Rα細胞に導入した。得られたBaF3/hTSLPR/hIL7Rα/Stat5−Luc細胞を、1ng/mlのhTSLPの添加前に1時間、種々の濃度のマウス抗体で処理した。ルシフェラーゼ活性はBright Glo (Promega, Madison, WI)を用いて測定した。このアッセイから得られた結果を図3Cに示した。細胞増殖アッセイからの結果と同様に、Stat5−Lucリポーターアッセイから得られたデータも、マウス抗hTSLPR抗体の用量依存的アンタゴニスト活性(antantagonist activity)を示した。
【0149】
mAb 1D6.C9重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域をRT−PCRによりクローニングした。これら重鎖および軽鎖の可変領域の同定に用いたプライマーの配列は次の通りである。VHのプライマーは(1)VH9:GATGGCAGCWGCYCAAAG(配列番号1);および(2)H−定常:GCGTCTAGAAYCTCCACACACAGGRRCCAGTGGATAGAC(配列番号2)である。VLのプライマーは(1)LCV3:GGGTCTAGACACCATGGAGWCACAKWCTCAGGTCTTTRTA(配列番号3);およびL−定常:GCGTCTAGAACTGGATGGTGGGAAGATGG(配列番号4)である。
【0150】
簡単に言うと、1D6.C9クローンから全RNAを単離した。重鎖または軽鎖可変領域のいずれかのシグナル配列に対するフォワードプライマーと、重鎖CH1領域または軽鎖κ定常領域に対するリバースプライマーを用いてRT−PCRを行った。PCR産物を、配列決定のためpCR IIまたはpcDNA3.1/V5−His−TPOP−TAベクターにクローニングした。次に、この抗体クローンの重鎖および軽鎖可変領域配列のポリヌクレオチド配列を決定した(図4)。これらの可変領域に対応するアミノ酸配列(配列番号5および配列番号6)を図5に示す。また、図5に、Kabat et al., 前掲の符番体系に従って推定されたCDR領域およびフレームワーク領域を示す。
【0151】
実施例2. キメラ抗hTSLPA抗体の作製
本実施例はキメラ抗hTSLPR抗体の作製および特性決定について記載する。これらのキメラ抗体は上記のマウス抗hTSLPR抗体1D6.C9クローン由来の可変領域とヒト免疫グロブリン(immuglobulins)由来の定常領域を含む。
【0152】
キメラ抗体を作製するため、ヒトTSLPRクローン1D6.C9に対するマウス抗体の可変領域を、PCR技術と、カセットベクターにクローニングするためにデザインされた実施例1に記載のプライマー配列を用いて作製した。次に、これらのPCR産物を、表1に示される配列を用いた、ヒト免疫グロブリンリーダー配列、J−セグメントおよびスプライサー−ドナーシグナルとのインフレーム融合物を含むカセットベクターにそれぞれクローニングした。次に、これらの配列を、例えばSP2/0ベクターなど、ヒト免疫グロブリン定常領域を含む哺乳類発現ベクターに移入した。
【表1】

【0153】
この重鎖を発現するクローンの選択はネオマイシン選択に基づき、一方、軽鎖を発現するクローンはdhfr選択を用いて選択した。遺伝子増幅はメトトレキサートを用いて誘導した。重鎖の可変領域カセットをそれぞれヒトIgG1およびIgG4哺乳類発現ベクターに移入した。
【0154】
このサブクローニングの後、IgG1キメラ抗体を生産するため、キメラIgG1重鎖およびκ軽鎖のDNAプラスミドをSP2/0骨髄腫細胞に同時エレクトロポレーションを行った。同様に、IgG4キメラ抗体を生産するため、キメラIgG4重鎖およびκ軽鎖をSP2/0骨髄腫細胞に同時エレクトロポレーションを行った。細胞をゲネチシンで選択した後、ゲネチシンとメトトレキサートを含有する増殖培地で培養および拡張した。抗体を精製するため、細胞を無血清培地に適応させた。トランスフェクトされたSP2/0細胞から分泌されたキメラIgG1およびIgG4抗体を精製した(図2Aおよび図2B)。精製されたキメラIgG1およびIgG4抗体のアンタゴニスト活性を、Lucリポーターアッセイにおいてマウス抗体の場合と比較した。デス受容体5(DR5)に対するIgG1キメラ抗体を陰性対照として用いた。hTSLPR、hIL7RαおよびStat5−Lucを過剰発現するBa/F3細胞におけるリポーター遺伝子発現により評価されるように、これらの結果は、これらのキメラ抗hTSLPR抗体がマウスIgG1抗体と同様のアンタゴニスト活性を示したことを示唆する(図6)。
【0155】
実施例3. 抗hTSLPR抗体はTSLPにより媒介されるTARC分泌を阻害する
本実施例は、抗hTSLPRアンタゴニスト抗体によるヒト単球からの、TSLPにより媒介されるTARC分泌(section)の阻害について記載する。上記のマウスおよびキメラ抗hTSLPR抗体の双方を、ヒト単球による、T2誘引胸腺活性化調節ケモカイン(TARC)のTSLPにより媒介される分泌に対する作用に関して調べた。TARC分泌アッセイは、抗hTSLPR抗体を添加すること以外、本質的にSoumelis et al., Nat Immunol. 3:673-80, 2002に記載されているようにして行った。結果を図7に示す。図の上の2つのパネルはそれぞれ、TSLPで刺激されたヒト単球およびCD11+樹状細胞からのTARC分泌(section)を示す。下の3つのパネルはそれぞれ、ヒト単球からのTSLPにより媒介されるTARC分泌(section)に対する3つの異なる抗hTSLPR抗体の作用を示す。この図に示されているように、マウス抗hTSLPR抗体およびキメラ抗hTSLPR抗体(IgG1イソ型およびIgG4イソ型の双方)は全て、ヒト単球からのTARC分泌を用量依存的に阻害することができる。これによりさらに、TSLPシグナル伝達に対する抗hTSLPR抗体の拮抗活性が確認された。
【0156】
抗hTSLPR抗体の結合親和性を判定するための結合試験を、「オン」率(ka)および「オフ」率(kd)を測定するための標準的なBiacoreプラズモン共鳴分析を用いて行った。これらの測定から抗体の結合定数(KD)が計算される。また、液相の結合速度を調べるためのさらなる分析を行った。さらに、細胞アッセイを用いて抗体のIC50を求めた。これらの試験の結果を表3にまとめる。
【表2】

【0157】
抗体配列
NV115-3B配列
VH
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTTYGISWLRQAPGQGLEWMGWVNTNTGNPRYAQGFTGRFVFSLDTSVSTAYLQISSLKAEDTAVYYCAREGFITTVVGAAGRFVYWGQGTLVTVSS (配列番号22)
VK
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDIHTRLAWYQQKPGQPPKLLIYWASTRASGVPDRFSGTGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQQYSTYPTFGQGTKLEIK (配列番号23)
NV115-3E配列
VH
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTTYGISWLRQAPGQGLEWMGWVNTNTGNPRYAQGFTGRFVFSLDTSVSTAYLQISSLKAEDTAVYYCAREGFITTVVGAAGRFVYWGQGTLVTVSS (配列番号24)
VK
EIVMTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSSLAWYQQKPGQPPKLLIHWAVTRVSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCQQYSTYPTFGQGTKLEIK (配列番号25)
NV115-3E配列
VH
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTTYGISWLRQAPGQGLEWMGWVNTNTGNPRYAQGFTGRFVFSLDTSVSTAYLQISSLKAEDTAVYYCAREGFITTVVGAAGRFVYWGQGTLVTVSS (配列番号26)
VK
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDIHTRLAWYQQKPGQPPKLLIYWASTRGSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLRAEDVAVYYCQQYSTYPTFGQGTKLEIK (配列番号27)
【0158】
以上、本発明を、理解を明確にするために例および実施例を示してある程度詳細に記載したが、当業者ならば本発明の教示に照らして、添付の特許請求の精神または範囲から逸脱することなく、それに対して特定の変更および修飾を行うことができることが容易に明らかとなろう。
【0159】
本明細書に引用される刊行物、データベース、Genbank配列、特許および特許出願はその各々が具体的かつ個々に出典明示により本明細書の一部とされることが示されている場合と同様に、出典明示により本明細書の一部とされる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】BaF3/hTSLPR/hIL7Rα細胞においてhTSLP依存性細胞増殖を用いた抗TSLPRアンタゴニスト抗体のスクリーニングを示す。
【図2】マウスおよびキメラ抗hTSLPRモノクローナル抗体の精製を示す。A:キメラIgG1抗体;B:キメラIgG4抗体;およびC:マウスIgG1抗体。
【図3】細胞増殖アッセイおよびルシフェラーゼリポーターアッセイによる精製マウス抗hTSLPR抗体(クローン1D6.C9)のアンタゴニスト活性を示す。A:Ba/F3−hTSLPR−hIL7Rα細胞の増殖;B:BaF3/hTSLPR/hIL7Rα/Stat5−Luc細胞の増殖;およびC:BaF3/hTSLPR/hIL7Rα/Stat5−Luc細胞のルシフェラーゼ活性。
【図4】マウス抗hTSLPRモノクローナル抗体1D6.C9クローンの可変領域のヌクレオチド配列。
【図5】マウス抗hTSLPR抗体クローン1D6.C9の可変領域アミノ酸配列を示す。相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FR)は下線の残基または斜体の残基で示される。
【図6】hTSLPR、hIL7RαおよびStat5−Lucを過剰発現するBa/F3細胞における精製マウスおよびキメラ抗hTSLPR抗体のアンタゴニスト活性を含むルシフェラーゼリポーターアッセイの結果を示す。
【図7】マウスおよびキメラ抗hTSLPR抗体によるヒト単球由来TSLP媒介TARC分泌(section)の阻害を示す。
【図8】抗体結合ドメインの同定を示す−TSLPR抗体は不連続エピトープと結合する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5の重鎖可変領域配列を含む、単離された抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
配列番号5の重鎖可変領域配列と配列番号6の軽鎖可変領域配列を含む、単離された抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
TYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)もしくはEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)の重鎖相補性決定領域(CDR)配列、またはKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)もしくはQQYSTYPT(配列番号12)の軽鎖CDR配列を含む、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)と、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)およびQQYSTYPT(配列番号12)を含む、請求項2に記載の抗体。
【請求項5】
配列番号5と少なくとも80%同一である重鎖可変領域アミノ酸配列と、配列番号6と少なくとも80%同一である軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項2に記載の抗体。
【請求項6】
マウス抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項7】
キメラ抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項8】
ヒト重鎖定常領域とヒト軽鎖定常領域を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
ヒト化抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項10】
ヒト抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項11】
単鎖抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項12】
Fabフラグメントである、請求項2に記載の抗体。
【請求項13】
IgG1またはIgG4イソ型である、請求項2に記載の抗体。
【請求項14】
請求項2に記載の抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含むポリペプチドをコードする単離されたまたは組み換えポリヌクレオチド。
【請求項15】
抗体がヒト抗体である、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
前記抗体をコードするポリヌクレオチドが重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)と、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)およびQQYSTYPT(配列番号12)を含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
前記抗体が配列番号5の成熟領域と少なくとも80%同一である成熟重鎖可変領域配列と、配列番号6の成熟領域と少なくとも80%同一である成熟軽鎖可変領域配列を含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
前記抗体が配列番号5の成熟領域と同一である成熟重鎖可変領域配列と、配列番号6の成熟領域と同一である成熟軽鎖可変領域配列を含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
DNAである、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
(1)請求項2に記載の抗体の重鎖をコードする組み換えDNAセグメントと(2)該抗体の軽鎖をコードする第二の組み換えDNAセグメントを含む、単離された宿主細胞であって、該DNAセグメントがそれぞれ第一および第二のプロモーターに作動可能なように連結され、かつ、前記宿主細胞で発現することができる、宿主細胞。
【請求項21】
前記モノクローナル抗体がヒト抗体である、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項22】
前記モノクローナル抗体が重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)と、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)およびQQYSTYPT(配列番号12)を含む、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項23】
前記抗体が配列番号5の成熟領域と少なくとも80%同一である成熟重鎖可変領域配列と、配列番号6の成熟領域と少なくとも80%同一である成熟軽鎖可変領域配列を含む、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項24】
前記モノクローナル抗体が配列番号5の成熟領域と同一である成熟重鎖可変領域配列と、配列番号6の成熟領域と同一である成熟軽鎖可変領域配列を含む、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項25】
非ヒト哺乳類細胞系統である、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項26】
対象において炎症性障害を処置する方法であって、その対象に請求項2に記載の有効量の抗体を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項27】
前記抗体がヒト抗体である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれTYGMS(配列番号7)、WINTYSGVPRYADDFKG(配列番号8)およびEGFITTVVGAAGRFVY(配列番号9)と、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、それぞれKASQDVGTAVA(配列番号10)、WASTRHT(配列番号11)およびQQYSTYPT(配列番号12)を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体が(i)配列番号5の成熟領域と同一である成熟重鎖可変領域配列と(ii)配列番号6の成熟領域と同一である成熟軽鎖可変領域配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記対象がヒトである、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記対象がアレルギー性炎症性疾患に罹患している、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記アレルギー性炎症性疾患がアトピー性皮膚炎、喘息またはアレルギー性鼻炎である、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−523426(P2009−523426A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550514(P2008−550514)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/060379
【国際公開番号】WO2007/112146
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(503261524)アイアールエム・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (158)
【氏名又は名称原語表記】IRM,LLC
【Fターム(参考)】