説明

アレルギー治療用の抗原含有マイクロスフィア

アレルギー治療用の抗原を含むマイクロスフィアであって、該マイクロスフィアが、腸及び/又は鼻上皮細胞の炭水化物に対して、1×104-1の結合定数を有する、前記マイクロスフィア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原、特にアレルゲンを含み、そしてアレルギー治療に使用されるマイクロスフィアに関する。
【背景技術】
【0002】
人口の約20%は、IgE媒介性アレルギーを患っており、当該アレルギーは、花粉症などの軽いものから喘息又はアナフィラキシー・ショッックの重篤な発症にわたる症状に関与しうる。これらの患者では、マスト細胞及びアレルギーの他のエフェクター細胞は、IgE抗体を詰め込んでいる。当該アレルゲンと接触されると、当該細胞は引き金をひかれ、つまりアレルギー症状の原因となるヒスタミンなどのメディエーターが放出される。
【0003】
アレルギー治療の現在の標準方法は、アレルゲンの天然抽出物でのいわゆる減感作であり、該減感作は長期の治療の後に症状の低減を導く。作用メカニズムは、いまだ完全には分かっていないが、遮断抗体として作用できるIgG抗体の誘導が観察されている。さらに、長期間の治療の後にTh応答の調節が議論されている。
【0004】
易溶解性のアレルゲンをよりよい免疫原性にするために、いわゆるアジュバント、例えば水酸化アルミニウム(III)などが一般に使用される。後者は、アレルゲンタンパク質を吸着し、それにより免疫原性を増大する。
【0005】
出願のさらなる可能性として、当該文献は、免疫原性物質を含むいわゆるマイクロ又はナノ粒子を記載する。例えば、Johansenらは、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)コポリマー(poly(lactic-co-glycolic acid)copolymer)(いわゆるPLGAマイクロ粒子)のマイクロ粒子を用いた制御された抗原デリバリーを記載する。
【0006】
アレルゲンの適用は、主に皮下または筋肉内で行われる。いくつかの文献は、経口アレルギー治療での実験を報告する(European Journal of Allergy and Clinical Immunology, WHO Position Paper 44;53;20-21)。舌下免疫治療は、すでに臨床適用段階であるが、ある程度の成功しかもたらしていない(Rakoski J, Wessner D, Int. Arch. Allergy Immunol. 2001, Nov; 126(3): 185-7)。
【0007】
しかしながら、マイクロスフィア中に取りこまれる免疫原性物質の経口投与がまた知られている。例えば、K.J. Maloyらは、PLGAマイクロ粒子中にとりこまれたオブアルブミンの経口投与による粘膜及び全身性の免疫応答を記載する(K.J. Maloyら、Immunology 1994, Apr 81(4):661-7)。さらに、Pecquetらによる論文は、PLGAマイクロ粒子中に取り込まれる乳酸アレルゲンが、ミルクアレルギーの予防のため、経口でマウスに与えられうるとうことが示された(Pecquetら、Vaccine 2000, 18:1196-1202)。
【0008】
残念なことに、従来のアレルギーの治療方法は、常に成功するわけではなく、ときに症状の悪化が観察され、そして減感作が、IgE合成をさらに活性化できるいうことを示すデーターが存在する。これは、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)をアジュバント、多くのワクチンに対する共通のアジュバントとして使用するためでありうる。動物実験により、水酸化アルミニウムは、さらにTh2応答を促進すること、つまりIgE形成を引き起こし、そしてアレルギー化を引き起こすことが長い間示されてきた。これにより、アレルギー患者が、アレルゲン抽出物と組み合わせたアレルギー化アジュバントで免疫化されるという矛盾した状況がもたらされる。加えて、最初、一週間の間隔でアレルゲンの増加量を繰返し投与することが必要とされ、患者がこれをわずらわしいと感じることが多い。抗原の経口投与により、患者が経口ワクチン化の様式で家で投与を都合よく行うことを可能になる。
【発明の開示】
【0009】
従って、アレルゲンの既知の投与様式における上記欠点を避け、そして患者のより信頼できる応答を可能にする形態のアレルギー治療用の適切な物質、特にアレルゲンを提供することが、本発明の課題である。
【0010】
特にマイクロスフィアが標的組織において標的特異的様式で長期間にわたり物質を放出する場合、そうした投与形態が良い効果を発現するという発見に本発明は基く。
【0011】
本発明の対象は、それゆえ抗原及び/又は抗原のDNA、特にアレルゲン及び/又はアレルゲンのDNAを含むアレルギー治療用のマイクロスフィアであって、当該マイクロスフィアが、腸及び/又は鼻の上皮細胞の特異的炭水化物残基、好ましくはアルファ-L-フコースに対して、少なくとも1×103-1、好ましくは少なくとも1×104-1、及び最も好ましくは少なくとも6×104-1の結合定数を有するという点で特徴付けられるマイクロスフィアである。
【0012】
抗原は、本発明において、生体により外来であると認識され、そして免疫応答を引き起こすか又は抗体若しくはT細胞受容体と反応する物質だけではなく、その誘導体を意味すると理解される。以下に定義されるアレルゲンの他に、特に次の抗原:ウイルス、細菌、プロトゾア抗原、並びにトキシン及び虫抗原が好ましい。
【0013】
抗原だけでなく、抗原のDNAを当該マイクロスフィア内に封入できるということが好ましい。抗原又は抗原のDNAを、当該マイクロスフィアに単独で又は結合して取り込むこともできる。抗原が、アレルゲンであることが好ましい。さらに、アレルゲン及び/又はアレルゲンのDNAが、マイクロスフィア中に取り込まれるということが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
「マイクロスフィア」という用語は、本明細書中で、好ましくは球状(globular)又は球形(Spherical)構造の粒子を指す。マイクロスフィアを作成する際にポリマーに使用される溶媒が蒸発するので、マイクロスフィアが沈殿し、それによりコスプレされた抗原を封入する。
【0015】
当該文献内に頻繁に使用される「ナノ粒子」又は「ナノスフィア」という用語は、「マイクロスフィア」又は「マイクロ粒子」という用語に同様に含められる。
【0016】
「アレルゲン」という用語は、天然のアレルゲン抽出物及びアレルゲン分子を指すだけでなく、アレルゲンの突然変異体、ハイポアレルゲン、又はアレルゲン分子の一部、例えばペプチド又はアレルゲン・ミモトープ(mimotope)を指す。アレルゲン・ミモトープは、同様にペプチド、例えば5〜25個の長さのアミノ酸配列を有するペプチドでありうる。アレルゲンは、ここでアレルギー、つまり即効型の過敏症反応であって、IgE抗体の合成により誘導される反応を引き起こすことができる。ハイポアレルゲンは、アレルゲン分子の天然又は組換え誘導体であり、アレルゲンのアミノ酸配列と比べて少しの差のため、IgE結合性質が失われる立体構造を想定する。
【0017】
特に以下のアレルゲン:カバノキ花粉(Bet v 1)、ニンジン(Dau c 1)、セロリ(Api g 1)、ヘーゼルナッツ(Cor a 1)、ハンノキ花粉(Aln g 1)、及び芝花粉(例えば、Ph1 p 5、Fhl p 1、Phl p 6、Phl p 7)、並びにハウスダストダニ類(Der p 1、Der p 2)、及び魚(パルブアルブミン)がマイクロスフィアのために好ましい。
【0018】
特にアレルゲンPhl p 5の以下のミモトープ:
【化1】

が好ましい。
【0019】
特にアレルゲンBet v 1の以下のミモトープ:
CRSDKDGWRLWC
が好ましい。
【0020】
全ての場合、末端システインの間でジスルフィド架橋形成が生じる。当該ミモトープは、Phl p 5又はBet v 1に対するヒト特異的IgEを用いて、ランダム・ペプチド10merのファージ・ライブラリー(Mazzucchelliら、Mazzucchelli, L., Burritt, J.B., Jesaitis, A.J., Nusrat, A., Liang, T. W., Gewirtz, A. A., Schnell, F. J.、及びParkos, C. A. Cell-specific peptide binding by human neutrophils, Blood, 93: 1738-1748, 1999)を用いて選ばれた。
【0021】
マイクロスフィアの構造は、マイクロスフィアに含まれる抗原及び/又は抗原のDNA、特にアレルゲン及び/又はアレルゲンのDNAが、ゆっくり及び均一に放出されることを可能にする。抗原、特にアレルゲンの連続的放出の利点は、慣用の減感作におけるように、抗原、特にアレルゲンの増加量の繰返し用量を投与する必要がないということである。上記コースは、抗原のDNA又はアレルゲンのDNAの放出にも適用される。
マイクロスフィアが粘膜標的組織に接着することは、マイクロスフィアがCaco-2細胞に接着することにより定量される。
【0022】
Caco-2細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション第HTB−37号)は、ヒト結腸癌から元々単離され、高度に分化した(極性増殖し、微繊毛を有し、タイトジャンクションを形成する)腸上皮細胞である。当該細胞は、腸上皮の代表的な表面性質を有し、そしてそれゆえマイクロ粒子の接着を研究するために適している。このため、蛍光標識された(FITCカダベリン)マイクロ粒子は、カルボジイミド活性化方法により、ポリマーの遊離カルボキシル基を介してフルオレセイン・カダベリンを共有結合することにより製造され、そして当該化合物をスプレー乾燥システム中でスプレーしてマイクロスフィアを形成する。マイクロスフィアは、好ましくは所望のレクチン(以下を参照のこと)で官能基化され、そして次に好ましくは4℃でCaco-2細胞とインキュベーションされた。4℃の温度は、エンドサイトーシスのプロセスにより上皮細胞中に取り込まれることを排除し、そして純粋に接着活性を計測するために選ばれる。非特異的接着を減らすために、多量の氷冷リン酸緩衝液で洗浄した後に、細胞に接着されたマイクロ粒子を、Caco-2細胞とともに溶解し、そして試料中に含まれる蛍光を蛍光分光光度計中で測定した。
【0023】
好ましくは、本発明のマイクロスフィアは、粘膜細胞への接着を増大し、かつヒトに対して無毒性である物質を、その表面上に有する。
【0024】
マイクロスフィアの表面上に位置した当該物質は、接着性を改善するばかりでなく、粘膜標的組織を選別するために役に立つ。アレルゲン治療では、マイクロスフィアの表面上の当該物質はヒトに対して無毒性であり、そうして有害な副作用を全く引き起こさないことがさらに所望される。
【0025】
さらに、マイクロスフィア表面上の当該物質は、好ましくはレクチンである。当該レクチンが無毒性であることが好ましい。当該レクチンが食用であることが特に好ましい。
【0026】
レクチンは、脂質又はタンパク質結合形態においても、(ポリ)サッカロイドをかなり特異的に認識し、そして結合するタンパク質又は糖タンパク質である。
【0027】
アレルギー治療用の本発明のマイクロスフィアは、アレウリア・アウランティア(Aleuria aurantia)レクチン(AAL)をそのマイクロスフィア表面上に有する。
【0028】
アレウリア・アウランティア・レシチンでマイクロスフィアの表面を改変することは、選択的濃縮、及び腸内のマイクロ粒子の滞留時間の延長を引き起こし、それによりマイクロ粒子の特別な治療効果を達成する。アレウリア・アウランティア・レクチン(AAL)は、食用マッシュルーム由来であり、そしていわゆるM細胞のアルファ-L-フコースに結合する。これらのM細胞は、腸上皮細胞由来であり、炭水化物構造(例えば、アルファ-L-フコース)などの表面性質を腸上皮細胞と共有し、そしてペイヤーパッチ、腸のリンパ組織の一部である。これらは、局所的抗原取り込みの極めて重要な役割を担い、そして免疫系を刺激する。さらに、M細胞の一種は、鼻上皮においても検出され、そして粘膜標的に使用されうる(Clarkら;Adv Drug Deliv Rev 2000 Sep 30;43(2-3): 207-23;又はBrookingら: J Drug Target 2001;9(4):267-79)。
【0029】
アレウリア・アウランティア・レクチン(AAL)の単離及び特徴づけは、I.E. Liener, N. Sharon and I.J. Goldsteinによる「The Lectins: Properties, Functions and Applications in Biology and Medicine」 (Academic Press 1986)に記載される。フコース結合レクチンは、オレンジの皮の真菌の子実体から単離され、そして例えばVector Laboratories(Burlingame, USA)から得られた。このレクチンは、分子量72000であり、等電点は、9.0〜9.2であり、そして当該レクチンは、単一の31kDaのポリペプチド鎖の2個のサブユニットからなる。AALは、2個の同一のサブユニットからなり、各々は、アルファ-L-フコースに対する6.1×104-1の結合定数KBを有する。
【0030】
多価結合のため、単一の結合部位の対応する親和性より、親和性(官能基親和性)は103〜107倍強いこともある。マイクロスフィアの接着は、こうしてマイクロスフィアと上皮細胞間の結合可能な数に左右され、好ましくはレクチン-細胞結合の数に左右される。つまり、マイクロスフィアが、1より多い結合の可能性を提供するなら、当該結合強度は自動的に増加する。なぜなら、全ての結合部位を脱離する場合、上皮細胞から同時に脱離しなければならないからである。親和性KBは、好ましくは少なくとも1×1010-1であり、より好ましくは少なくとも1×1011-1であり、そして最も好ましくは少なくとも1×1012-1である。さらに好ましくは、マイクロ粒子の親和性は、マイクロ粒子上のAALが多数存在することにより得られる。
【0031】
本発明のマイクロスフィアは、アレルギー治療において使用される。当該マイクロスフィアは、胃腸管及び/又は鼻領域の粘膜表面上に増加量で標的特異的様式で蓄積でき、そしてそこでの治療効果を発揮することができるるという事実を特徴とする。それゆえ、経口又は経鼻免疫化の可能性が与えられる。そうした免疫化の利点は、患者に好まれる簡単な取扱にある。AALが無毒性であるので、ヒトに使用するために安全であり、特に好ましい。
【0032】
マイクロスフィアは、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.1〜10μm、そして最も好ましくは0.2〜5μmの直径を有する。マイクロスフィアの大きさの分布は、レーザー回折を用いて測定された(Shimadzu Laser Diffraction Type Particle Size Analyzer SALD-1100)。50%又は90%のマイクロスフィアが最大サイズを有することが、レーザー回折から明らかである。10μmより小さいマイクロスフィアは、好ましくは製造される。なぜなら、それらは腸上皮を通してより容易に吸収されうるからである。8μmより小さいマイクロスフィアはより好ましく、そして5μmより小さいマイクロスフィアが最も好ましい。
【0033】
マイクロスフィア及び/又はナノスフィアの製造は、通常二重エマルジョン技術又はスプレー乾燥により行われる。以下の実施例のうちの1において、対応する粒子の製造は、一例として記載されるであろう。好ましくは、抗原を詰め込まれたマイクロ粒子は、ポリマーが中に溶解された有機溶媒中の水溶液中に抗原を分散することにより製造される。当該方法の種々の改良は、溶媒蒸発法(S. Mcclean, E. Prosser, E. Meehan, D. O'Malley, N. Clarke, Z. Ramtoola and D. Brayden, 「Binding and uptake of biodegradable poly-DL-lactide micro- and nanoparticles in intestinal epithelia」、 Eur J Pharm Sci 6 (1998) 153-163, R.K., Gupta, A.C. Chang, P. Griffin, R. Rivera, Y. Y. Guo and G.R. Siber、「Determination of protein loading in bio degradable polymer microspheres containing tetanus toxoid」、Vaccine 15(1997)672-678)、水中油中水中(water-in-oil-in-water)エマルジョンの抽出(J. L. Cleland, E.T. Duenas, A. Park, A. Daugherty, J. Kahn, J. Kowalski and A. Cuthbertson, 「Development of pory-(D,L-lactide-coglycolide)micosphere formulations containing recombinant human vascular endothelial growth factor to promote local angiogenesis」、 J Control Release 72 (2001) 13-24, J.L. Cleland, A. Lim, A. Daugherty, L. Barron, N. Desjardin, E.T. Duenas, D.J. Eastman, J.C. Vennari, T. Wrin, P.W. Berman, K.K. Murthy and M.F. Powell、「Development of a single-shot subunit vaccine for HIV-1.5.programmable in vivo autoboost and long lasting neutralizing response」、J Pharm Sci 87(1998)1489-1495)、スプレー乾燥(N. E. S., N. W. A., 「Controlled release microparticles comprising core coated microparticles」、米国特許、Biotek, Ink., Wolburn, MA, 11月18日、1986年)、又は層分離(F.J.W.,「Processes for preparation of microspheres」, 米国特許Sandoz, Inc., E. Hanover, NJ, US, 1979)としてすでに記載された。
【0034】
マイクロスフィアの骨格は、好ましくは官能基を有するポリマーから構築される。官能基は、特に力-介在性-物質、特に好ましくはレクチン及び最も好ましくはAALを、共有結合、例えばアミド結合により化学的に粒子の表面に結合するために役に立つ。
【0035】
抗原及び/又は抗原のDNA、特にアレルゲン及び/又はアレルゲンのDNAは、マイクロスフィア及び/又はナノスフィア中に物理的又は化学的に取り込まれうる。それらは、好ましくは物理的に取り込まれる。上で記載されるように、マイクロスフィア及び/又はナノスフィアの製造は、好ましくは、二重エマルジョン技術により又はスプレー乾燥により行われる。スプレー乾燥方法では、その中に溶解、分散、又は乳濁された活性剤とポリマーとの溶液を熱気流中にスプレーする。溶媒は蒸発し、そして活性剤を埋め込まれるか又は封入されたポリマーの沈殿をもたらす。得られたマイクロ粒子は、サイクロン中で分離され、そして粉末として得られる。ポリマー及び活性剤濃度、スプレー溶液デリバリー割合、内部温度、噴霧器の空気量、及び吸引強度は、パラメーターとして変化しうる。製造された滴が微細であればあるほど、活性表面は大きくなり、そして熱伝導及び物質移動がよくなる。
【0036】
マイクロスフィアの製造において、5%ポリマーと0.2%タンパク質とのギ酸エチル/水の乳濁液は、好ましくはスプレーされる。スプレードライヤーの内部温度は、好ましくは45℃であり、そしてアスピレーターのパワーは、好ましくは100%にセットされる。ポリマーは、好ましくはギ酸エチル中に、そして好ましくはカバノキの花粉抽出物のタンパク質は水中に溶解される。
【0037】
マイクロスフィア及び/又はナノスフィアの官能基化は、好ましくは、2個のステップで行われる。第一ステップでは、マイクロスフィア、好ましくはPLGAマイクロスフィアの表面上の遊離カルボキシル基は、カルボジイミド反応により、1-エチル-3-(3-ジメチル-アミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)及び(N-[2-ヒドロキシエチル-ピペラジン-N’-[2-エタンスルホン酸])(NHS)を用いて活性化される。続いて、レクチンは、安定アミド結合を形成するために結合される。
【0038】
さらに好ましくは、アレルギー治療のためのマイクロスフィアは、生分解性ポリマー又はコポリマーを含む骨格からなる。これにより、粒子は、体内で分解されるということが保証される。しかしながら、分解は、粒子がその目的地に達し、そして連続して抗原及び/又は抗原のDNA、好ましくはアレルゲン及び/又はアレルゲンのDNAを、長期間放出することができるまで遅らせられなければならない。ポリマー又はコポリマーの生分解性活性は、マイクロ粒子又はナノ粒子が、不所望の高すぎる濃度で体内に取り込まれることを防ぐ。
【0039】
特に好ましくは、アレルギー治療のマイクロスフィアの骨格は、ポリラクチドの名称で知られるポリ酢酸(PLA)、ポリグリコリドの名称で知られるポリグリコール酸(PGA)、又はポリ(乳酸-コ-グリコール酸)コポリマー(PLGA)からなる。これらのポリマーは、体内でゆっくり無毒性の物質に分解されうる。ペプチド及びタンパク質の投与システムとしてのポリラクチドは、Johansenら、European J、Pharmaceutics and Biopharnmaceutics 50(2000):129-146に記載される。
【0040】
考えられるマイクロスフィア骨格はまた、特にアニオン性のアレルゲンに対するキトサンである。
【0041】
マイクロスフィア及び/又はナノスフィアは、好ましくは0.1〜20重量%を含み、特に好ましくは、0.2〜3重量%の抗原及び/又は抗原のDNAを含む。当該重量%の数値が、アレルゲン及び/又はアレルゲンのDNAの値であることが好ましい。
【0042】
マイクロスフィア及び/又はナノスフィアは、アレルゲンのミモトープを含み、より好ましくはアレルゲンPhl p 5及び/又はBet v 1のミモトープを含む。これらは上で定義されるアミノ酸配列を有するアレルゲンPhl p 5及び/又はBet v 1のミモトープであることが特に好ましい。
【0043】
本発明は、マイクロスフィアが、腸及び/又は鼻上皮細胞の特定の炭水化物に対して少なくとも1×104-1の結合定数KBを有することを特徴とする、上記マイクロスフィアの製造方法に関する。当該マイクロスフィアは、上に記載されるように構築される。
【0044】
本発明はさらに、アレルギー治療のためのマイクロスフィアの使用であって、当該マイクロスフィアが、腸及び/又は鼻上皮細胞の特定の炭水化物に対して少なくとも1×104-1の結合定数KBを有することを特徴とする、前記使用に関する。当該マイクロスフィアは、上で記載される構造を有する。KB活性は、好ましくは少なくとも1010-1、より好ましくは1×1011-1、そして最も好ましくは1×1012-1である。
【0045】
本発明のマイクロスフィアの実施態様は、図面を参照して、例示の方法によりより詳しく説明されるであろう。
【0046】
アレウリア・アウランティア・レクチン(AAL)は、無毒性の多くのレクチンを超える利点を有する。次に、毒性レクチンは、コムギ胚芽凝集素(WGA)であり、WGAは、グリカン-結合性質のため、特にN-アセチルグルコサミンへ結合することにより、腸上皮細胞に結合すると考えられている。
【0047】
以下に記載される実施例に示されるように、しかしながら、AALは、粘膜表面に対して有意により多くの抗原を結合することについて、WGAを超えるさらなるそして予期しない利点を有する。これは、改善された接着性のためでありうるが、いずれの場合でも、利点として考えられる。なぜなら、当該性質は最終的に、AAL-表面-改変マイクロ粒子中に取り込まれたアレルゲンが、標的特異的様式でかつ増大された量で、その治療適用部位に到達できるということを保証するからである。さらに、短い時間間隔で、アレルゲンの増加量の繰返し投与することは不用になる。なぜなら、マイクロスフィアは、標的組織にアレルゲンをゆっくりかつ連続して放出できるからである。
【実施例】
【0048】
実施例1:経口アレルギー予防及び治療用のアレルゲン含有レクチン結合PLGAマイクロスフィア
PLGAマイクロスフィア(MS)は、スプレー乾燥により得られた。当該方法では、水及びギ酸エチルとカバノキ花粉抽出物との乳濁液は、熱気流中にスプレーされた。マイクロスフィアの中央値は、レーザー回折を用いて測定し、そして5.5μmであった。マイクロ粒子におけるタンパク質の量は、40μg/mgマイクロ粒子として測定された。マイクロスフィアを、特定のレクチンで官能基化することは、アミド結合を形成するために行われた。マイクロスフィアの製造において5%(w/v)ポリマー及び0.2%(w/v)タンパク質を含むギ酸エチル/水の乳濁液をスプレーした。ポリマーをギ酸エチル中に溶解して、カバノキ花粉抽出物のタンパク質を含む水中に溶解した。乳濁液を熱気流中にスプレーした。溶媒を蒸発させ、そしてポリマーを沈殿させ、それによりカバノキ抽出物のタンパク質を埋め込んだ。タンパク質測定では、マイクロスフィアを次に0.05N・NaOH/1%SDS中に溶解し、そして染色試験(ビシンコニン酸アッセイ)を用いて定量した。
【0049】
カバノキ花粉抽出物で充填されたマイクロスフィア及び/又はナノスフィアの官能基化は、2のステップで行われる。この目的では、粒子はHEPES緩衝液pH7.2中に配置し、そしてEDAC/NHSの添加を通してカルボジイミド反応により活性化した。AALが加えられ、そしてレクチンは、安定アミド結合の形成を介してマイクロスフィア及び/又はナノスフィアに結合される。残った活性化カルボキシル基は、グリシンで飽和された。
【0050】
免疫化モデルの結果は、図1に示される。5匹のBALB/cマウスの4の群を、各々PBS中のマイクロスフィア(150μLの体積)で、2回(0日目及び21日目)、各場合において3日間連続して胃内で免疫化した。当該マイクロ粒子は空であるか、又はカバノキ花粉タンパク質を充填されている。カバノキ花粉タンパク質充填されたマイクロ粒子の一部は、さらにアレウリア・アウランティア・レクチン又はコムギ胚芽凝集素で官能基化される。免疫化前又は免疫化後2週間で、血液をマウスから採取し、そして特異的抗Bet v 1抗体の存在を試験した。これは、ELISAにより行った。カバノキ花粉抽出物を、10μg/mlの濃度の炭酸緩衝液、pH9.6でコートした。PBS/0.1%BSAでブロッキングした後に、マウス血清(ブロッキング緩衝液で1:100希釈)をインキュベーションした。PBSで洗浄した後に、結合したIgGを、ペルオキシダーゼ結合抗マウス抗体で検出した。基質を加えることにより反応を現像し、そしてELISAリーダーにてOD405〜490nmで読み取ることにより評価を行った。
【0051】
図1に見られるように、空の又はカバノキ花粉タンパク質を充填されたマイクロ粒子を与えられた群は、第一免疫血清(1.MIS-灰色のバー)又は第二免疫血清(2.MIS-灰色-黒色バー)のいずれにおいても、ELISAによって、免疫化前血清を越えるBet v 1特異的IgG抗体の相対増加を示さなかった。しかしながら、充填済マイクロ粒子を外部においてレクチンでさらに官能基化した群の両方は、Bet v 1に対するIgG抗体の明らかな増加を示した。
【0052】
実施例2:胃内消化
胃内消化後のカバノキ花粉抽出物を充填したマイクロスフィア(BP-MS)の抗原性を試験するために、マイクロスフィアを異なる時間間隔でpH1.5でペプシンとインキュベーションした。マイクロスフィア中に充填されたカバノキ花粉タンパク質は、2時間の消化の後でさえも抗原性を検出できる一方、非充填カバノキ花粉タンパク質は数秒のうちに破壊された。AAL-結合マイクロスフィアは、他のマイクロスフィア製剤(MS:マイクロスフィアのみ、MS-WGA:コムギ胚芽凝集素と結合されたマイクロスフィア)と丁度同じくらいの有利性で本実験において反応し、そしてタンパク質を消化から保護した。当該実施例により、カバノキ花粉タンパク質は、マイクロスフィア中に充填される場合、未処理の抽出物と比べてその抗原性を全く失わないということがさらに示される。
【0053】
実験の評価を、ELISAで行い、カバノキ花粉タンパク質をマイクロスフィアから抽出し、そして該溶液を、ELISAプレートをコートするために使用した。付着したカバノキ花粉の主要なアレルゲンBet v 1を、ポリクローナル・ウサギ・抗-Bet v 1抗体で、そして次にペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG二次抗体を用いて検出した。基質を加えることにより当該反応を可視化し、そしてシグナルをELISAリーダーで計測した。結合した抗原は、反応性と正比例し、それゆえシグナルと正比例した。結果を図2にグラフで示した。
【0054】
実施例3:異なるマイクロスフィア製剤の定量的接着
異なるマイクロスフィアのヒト腸上皮細胞への接着の定量的試験を、免疫蛍光法により行った。細胞系列Caco−2を、ガラス・プレート上に撒き、そして4℃で、以下の:
1.マイクロスフィア中に充填されたカバノキ花粉抽出物(BP-MS)、
2.コムギ胚芽凝集素を結合されたマイクロスフィア中に充填されたカバノキ花粉抽出物(BP-WGA-MS)、又は
3.アレウリア・アウランティア・レクチンを結合されたマイクロスフィア中に充填されたカバノキ花粉抽出物(BP-AAL-MS)
とインキュベーションした。
【0055】
可視化のため、マイクロスフィアは、蛍光色素、フルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)カダベリンを詰め込まれた。上皮細胞の可視化は、ウサギ抗PLAP抗体で、続いてアレクサ568結合抗ウサギIgGで行った。細胞核をヘキスト色素で染色した。
【0056】
非官能基化マイクロスフィアに比較して、当該実験により、レクチン官能基化が上皮に対する粒子の接着を有意に改善することが明らかにされた。結果は図3に示される。
【0057】
実施例4:異なるマイクロスフィア製剤の接着の定量試験
異なるマイクロスフィア製剤のヒト腸上皮細胞への接着の定量試験を、蛍光ELISAにより行った。細胞系列Caco−2を、クローズド単層シートを形成するまで、96ウェル組織培養プレート中で成長させた。次に4℃で、以下の:
1.マイクロスフィア中に充填されたカバノキ花粉抽出物(BP-MS)、
2.コムギ胚芽凝集素と結合されたマイクロスフィア中に充填されたカバノキ花粉抽出物(BP-WGA-MS)、又は
3.アレウリア・アウランティア・レクチンと結合されたマイクロスフィア中に充填されたカバノキ花粉抽出物(BP-AAL-MS)
とインキュベーションを行った。
【0058】
可視化のために、FITCカダベリンで標識されたマイクロスフィアを使用した。上皮細胞の可視化を、485/535nmでの蛍光検出により行った。シグナルは結合された粒子数に正比例した。
【0059】
非官能基化されたマイクロスフィアに比べて、当該実験により、レクチン官能基化が粒子の上皮への結合を有意に改善するということが明らかにされた。しかしとりわけ、AALが、WGAに比較してかなり増大した接着性を有する。この結果は図4に示される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、マイクロ粒子で2回経口免疫化した後のBet v 1に対するIgGタイターを示す;IgGの検出は、Bet v 1に対してプロットされる。ELISAプレートを組換えBet v 1でコートし、マウス血清(1:100希釈)でインキュベーションし、そして結合されたIgGをペルオキシダーゼ標識抗-マウスIgGにより検出した。当該反応を、基質を添加することにより可視化し、そして反応性をELISAリーダーで計測した。数値は、結合抗体量に正比例する。 略語は: MS=マイクロスフィア、BP=カバノキ花粉抽出物、AAL=アレウリア・アウランティア・レクチン、WGA=コムギ胚芽凝集素、PIS=免疫前血清、1.MIS=初回免疫化血清、2.MIS=第二回免疫化血清、OD=光学濃度を意味する。
【図2】図2は、マイクロスフィア中にパッケージングされたカバノキ花粉抽出物の胃内消化後の免疫原性試験を示し;グラフは、胃内消化の際の時間依存性の異なるマイクロ粒子の抗原性を示す。略語は以下の意味: BP:カバノキ花粉抽出物、MS:マイクロスフィア、AAL:アレウリア・アウランティア・レクチン、WGA:コムギ胚芽凝集素を有する。
【図3】図3は、異なるマイクロスフィア製剤のヒト腸上皮細胞への接着についての免疫蛍光による定性試験を示す。
【図4】図4は、異なるマイクロスフィア製剤のヒト腸上皮細胞への接着についての蛍光ELISAによる定量試験を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原及び/又は抗原のDNAを含むアレルギー治療用マイクロスフィアであって、当該マイクロスフィアが、腸及び/又は鼻上皮細胞の特定の炭水化物残基に対して少なくとも1×104-1の結合定数KBを有することを特徴とする、前記マイクロスフィア。
【請求項2】
前記マイクロスフィアが、前記腸及び/又は鼻上皮細胞の特定の炭水化物残基に対し、少なくとも1×1010-1の親和性KBを有することを特徴とする、請求項1に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項3】
前記マイクロスフィアが、粘膜細胞への接着を増加する物質をその表面上に有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項4】
前記特定の炭水化物残基が、アルファ−L−フコースであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項5】
前記マイクロスフィア表面上の物質がレクチンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項6】
前記マイクロスフィア表面上の物質が無毒性レクチンであることを特徴とする、請求項5に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項7】
前記レクチンが食用であることを特徴とする、請求項5又は6に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項8】
前記レクチンがアレウリア・アウランティア・レクチンであることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項9】
前記マイクロスフィアが、0.1〜100μmの直径を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項10】
前記マイクロスフィアの骨格が、ポリマーからなることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項11】
前記マイクロスフィアの骨格が、官能基を有するポリマーからなることを特徴とする、請求項10に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項12】
前記マイクロスフィアの骨格が、生分解性ポリマー又はコポリマーからなることを特徴とする、請求項10又は11のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項13】
前記マイクロスフィアの骨格が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、又はポリ(乳酸−コ−グリコール酸)コポリマーからなることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項14】
前記アレウリア・アウランティア・レクチンが、共有結合により前記ポリマーに結合されることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項15】
前記マイクロスフィアが、0.1〜20重量%の抗原及び/又は抗原のDNAを含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項16】
前記抗原及び/又は抗原のDNAがアレルゲン及び/又はアレルゲンのDNAであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項17】
前記抗原が、アレルゲンPhl p 5及び/又はアレルゲンBet v 1のミモトープであることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載のアレルギー治療用マイクロスフィア。
【請求項18】
前記マイクロスフィアが、第一に抗原及び/又は抗原のDNAを充填され、次いで当該マイクロスフィアが官能基化されることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか1項に記載のマイクロスフィアの製造方法。
【請求項19】
アレルギー治療のための、請求項1〜17のいずれか1項に記載のマイクロスフィアの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−506650(P2007−506650A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515761(P2006−515761)
【出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004480
【国際公開番号】WO2005/000274
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(506000427)ビオマイ プロドゥクチオーンズ−ウント ハンデルス アクチェンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】