説明

アレルゲン結合性IgEモノクローナル抗体および低アレルギー性物質の製造方法

本発明は、非連続的な平面状アレルゲン性エピトープ、例えば、β−ラクトグロブリンのエピトープ、に対して高い親和性と特異性をもって結合する、ヒトIgE抗体およびその誘導体に関する。また、本発明は、上記のアレルゲン結合性モノクローナル抗体を作製したり改変したりするための方法、並びにこのような抗体やその誘導体を免疫診断や免疫療法の分野で使用するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質工学技術に関する。さらに詳細には、本発明は、非連続的なアレルゲン性エピトープである面積が600〜900Å2の平面状表面に結合する、ヒトIgE抗体およびその誘導体、例えば、牛乳β−ラクトグロブリンに対して高い親和性と特異性をもって結合するIgE抗体に関する。また、本発明は、I型相互作用を担う、上記のアレルゲン結合性モノクローナル抗体を作製したり改変したりするための方法、およびこのような抗体やその誘導体の使用方法にも関する。免疫診断分野での抗体やその誘導体の使用は、生物学的サンプルおよび原料サンプル中のアレルゲン性物質の定性的測定と定量的測定および除去を可能にし、さらにアレルゲンに対するフォーカスドIgEライブラリーの構築のために使用すると、アレルゲン特異的モノクローナル抗体の開発を可能にする。免疫療法において本発明は、アレルゲンのアミノ酸残基の修飾によって、アレルゲン性物質のI型表面相互作用の遮断を可能とする。低アレルギー性の変異型は、平面状(平坦状)エピトープ表面の数個(1〜5個)のアミノ酸残基を嵩高の残基(例えば、Arg、Tyr、Lys、Trp)に変異させることで得られる。変異に用いる残基は、いずれも側鎖が外側の溶媒に向けられているものであるため、アレルゲンの基本構造の変化は最小限に抑えられる。変異の目的は、IgE抗体が結合する平坦状表面を修飾して凸状表面にすることにより、IgE抗体の結合を防止することである。結果として得られる修飾アレルゲンは、アレルギー患者に特定アレルゲンに対する寛容状態を誘導するために使用することができる。本発明は、タンパク質構造表面の突出領域以外の領域に対して結合特異性を示す治療用および診断用の標的に対する、ヒトIgE VH領域由来の抗体の開発を可能にする。さらに本発明は、抗体のI型アレルゲン性エピトープに対する結合を遮断することが可能な物質のスクリーニングまたは分子モデリングのための手段を提供する。本発明においては、イムノアッセイ用試薬として使用できるだけの高い親和性と特異性をもってアレルゲン性β−ラクトグロブリンに結合するヒトIgE抗体断片およびその誘導体の開発、特徴付けおよび構造決定についても記載する。
【背景技術】
【0002】
世界の人口のおよそ20%がアレルギーに苦しんでいる。このため、アレルギーは深刻さの増している健康問題である。アレルギーとは、空気、食物または水に存在する通常は害のない物質に対する過敏反応である(Corry and Kheradmand, 1999)。新規な外来の異質物が、それを体内から排除することを目的とする反応、つまりアレルギー反応を引き起こす。即時型またはI型過敏反応とも呼ばれるIgE仲介アレルギー反応においては、生体が外来物質であるアレルゲンに初めて曝された時に、IgE産生B細胞が可溶性IgE分子の産生を始める。そして可溶性IgE分子は、種々の細胞、最も重要なものとしてはマスト細胞および好塩基性細胞、の表面に存在する高親和性IgE受容体に結合する。生体が同じ外来物質に再び遭遇すると、受容体結合IgE分子の交差結合がアレルゲンによって生じ、その結果、細胞が活性化されて、アレルギー反応の徴候および症状を誘発する毒性物質であるヒスタミンなどが放出される。
【0003】
牛乳アレルギー(CMA)は、生後2年の間に乳児および幼児に見られる、臨床的に重要な望ましくない食物反応の最も一般的な原因である(Savilahti, 1981、Host and Halken, 1990、Saarinen et al., 1999)。CMAは牛乳タンパク質に対する強度のIgE応答および皮膚と胃腸管の臨床症状、例えば、アトピー性湿疹、嘔吐や下痢、によって特徴付けられる(Vaarala et al., 1995、Saarinen, 2000)。呼吸管の症状およびアナフィラキシーショックの可能性もある(Host and Halken, 1990、Schrander et al., 1993、Hill et al., 1999、Vanto et al., 1999、Saarinen, 2000)。牛乳は幼い児童にとって重要なエネルギー源(最大50%)であり、非乳性品で簡単に置き換えることのできるものではないため、CMAは児童にとって深刻な問題である。牛乳アレルギー児童の約85%が3歳までにアレルギーを克服するが、CMAがその後消失するのは、最大でも年長児童の3分の1である(Sampson and Scanlon, 1989)。
【0004】
牛乳に含まれる主要なアレルゲンの1つが、リポカリンというタンパク質ファミリーに属するβ−ラクトグロブリンである。リポカリンは、一群の小さなリガンド結合性タンパク質からなり、その大部分が、Mus m1やRat n1(マウスおよびラットの尿タンパク質)およびドイツゴキブリアレルゲンBla g4などの呼吸器系アレルゲンである(Rouvinen et al., 2001)。β−ラクトグロブリンは、天然では36kDの二量体の形態で存在し、各サブユニットが162アミノ酸からなる。β−ラクトグロブリンについては、合計6種の遺伝的変異型が配列の違いに基づいて同定されている。最も多く存在する変異型Aと変異型Bとの違いは、64位(Asp → Gly)と118位(Val → Ala)の違いのみである(Godovac-Zimmermann and Braunitzer, 1987)。β−ラクトグロブリンの三次元構造は、X線回析によって決定されている(Sawyer L. et al., 1985、Brownlow, S. et al., 1997)。
【0005】
IgE抗体はアレルゲン性エピトープを特異的に認識するので、臨床および免疫学的診断において複合材料のアレルゲン濃度を検出および決定するために有用である。さらに、本発明によれば、アレルゲン性エピトープは、通常、タンパク質の免疫原性エピトープとは異なる。このことは、ハイブリドーマ技術などの従来の方法による、アレルゲン性エピトープに特異的な結合を示すモノクローナル抗体の産生の妨げとなっている。アレルゲン特異的IgE抗体の開発がファージディスプレイ法によって可能なことが最近報告されている(Steinberger et al., 1996)。この方法は、臨床および診断に使用するためのアレルゲン特異的組み換え抗体を一定の質を保持しながら産生するための新たな手段を提供する。
【0006】
本発明の関連する技術的課題は、アレルゲン性ポリペプチド内の、IgE抗体に対する実際の結合部位を検出すること、およびこの情報の用途、例えば、ポリペプチドのアレルギー誘導性を低下させるための修飾である。この課題を解決するための従来の手段は米国特許願第2003/0175312号(Holm et al.)、WO 03/096869(Alk Abello A/S)およびJenkins et al., 2005(J. Allergy Clin. Immunol. 115:163-170)に開示されている。上記文献には、アレルゲン性ポリペプチドの推定IgE結合部位は、アレルゲン性ポリペプチドの保存性表面構造の配列解析によって検出できると記載されている。さらにUS 2005/0181446(Roggen et al.)およびHantusch et al., 2004(J. Allergy Clin. Immunol.)では、IgE結合エピトープの探索にペプチド−スキャン法を使用している。しかし、いずれの文献にも、本発明の方法、即ち、アレルゲン性ポリペプチドのIgE結合部位を、実質的に平面状または平坦状の性質を有する新規な型のIgEエピトープの実験的三次元データおよび分子モデリングデータに基づいて見いだす方法は開示されていない。MacCallum et al., 1996(J. Mol. Biol. 262:732-745)は、抗体に平面状表面が存在することを開示するものの、修飾については抗体構造についてのみを教示し、抗原構造の修飾についての開示はない。さらにMacCallum et al.の開示は抗体と種々の異なる抗原全般(炭水化物やペプチドなど)に関するものであり、IgE抗体とアレルゲン性ポリペプチドとの結合や、これらポリペプチドの表面構造については格別何も教示はない。
【0007】
発明の概要
本発明は、非連続的なアレルゲン性エピトープである、面積が600〜900Å2の平面状I型表面に結合するIgE抗体とその誘導体、例えば、牛乳β−ラクトグロブリンに対して高い親和性と特異性をもって結合するIgE抗体に関する。また、本発明は、表面構造のアミノ酸残基を修飾するか、表面に結合するミメトープを作製することにより、アレルゲン物質によるI型相互作用の遮断を可能にする。
【0008】
さらに本願においては、アレルゲン性β−ラクトグロブリンに結合するヒトIgE抗体断片およびその誘導体の開発、特徴付けおよび構造決定を開示する。本発明のヒトIgE抗体断片およびその誘導体は、生物学的試料中のβ−ラクトグロブリンを定性的および定量的に測定するために設計したイムノアッセイ、β−ラクトグロブリンの除去、アレルギー患者の免疫学的治療、および構造データに基づくフォーカスド抗体ライブラリーの構築のための試薬として用いるのに十分な高い親和性および特異性を有する。具体的には、本発明は、β−ラクトグロブリンに特異的なヒトIgE抗体のファージディスプレイ法による選択、E. coliを用いて産生した改変抗体断片の結合特性の特徴付け、および抗体−アレルゲン免疫複合体の構造決定について開示する。
【0009】
従って、本発明は、種々のイムノアッセイ法、ヒトの免疫療法およびフォーカスド抗体ライブラリーの構築に使用するための新規な試薬を提供する。また、本発明は、均一な品質を保持する上記の特異的な試薬の継続的な供給を保証し、ポリクローナル抗血清に固有のバッチ間の品質のばらつきという問題の排除を可能にした。これらの有用な効果によって、本発明は、均一な品質の、新規であり、特異的であり且つ経済的な免疫診断アッセイの製造を可能にする。
【0010】
上記から明かであるように、本発明の特定の目的の一つは、ヒトIgEモノクローナル抗体、その機能的断片または上記抗体の誘導体であって、生物学的サンプル中のβ−ラクトグロブリンの定性的および定量的な測定に使用するのに十分な高いβ−ラクトグロブリン親和性および特異性を有するものを提供する。さらに本発明は、上記抗体、断片または誘導体の免疫療法における用途も提供する。本発明の一価の抗体はアレルゲン性β−ラクトグロブリンに特異的な結合性を示す。
【0011】
本発明の他の目的の一つは、β−ラクトグロブリン特異的抗体鎖をコードするcDNAクローンの提供のみならず、該クローンを発現させてβ−ラクトグロブリン結合性の抗体、その断片または上記抗体の誘導体を産生するための構築物や産生方法を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的の一つは、β−ラクトグロブリン結合性の抗体、その断片または上記抗体の誘導体を単独または組み合わせて用いることで、生物学的サンプル中のβ−ラクトグロブリンを定性的および定量的に測定する方法を提供することである。さらに、本発明は、アレルギー患者の免疫療法に使用するためのβ−ラクトグロブリン結合性抗体、その断片または上記抗体の誘導体およびそれらの組み合わせを提供する。
【0013】
本発明の更なる目的の一つは、診断用のアレルゲンに対するフォーカスドIgE抗体ライブラリー、および治療用および診断用の標的のためのヒトIgE VH領域誘導抗体ライブラリーを構築するために得られた構造データを使用する方法を提供することにあり、ここで得られる結合特異性は、タンパク質構造中の、表面の突出領域以外に位置する領域に対するものである。
【0014】
本発明の諸目的、諸特徴および諸利益は、添付の図面および詳細な説明の記載から明らかになる。しかしながら、以下の詳細な説明および実施例は本発明の好ましい態様を示すものの、あくまでもそれを例示しているに過ぎず、本発明の精神および発明の範囲内で行われる種々の変更および改良は、以下の詳細な説明より当業者には明らかであることを理解されたい。
尚、添付の図面において、構造を示す図面はいずれも実寸ではない。
【0015】
略称
cDNA 相補的デオキシリボ核酸
CDR 相補性決定領域
DNA デオキシリボ核酸
E. coli Escherichia coli
ELISA 酵素免疫測定法
Fab 特異的抗原結合性を有する断片
Fd 重鎖の可変ドメインおよび第一定常ドメイン
Fv 特異的抗原結合性を有する抗体の可変領域
IgE 免疫グロブリンE
mRNA メッセンジャーリボ核酸
NMR 核磁気共鳴
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
RNA リボ核酸
scFv 一本鎖抗体
supE- グルタミン挿入型アンバーサプレッサーtRNAを保持する
菌株の遺伝子型
H 重鎖の可変領域
L 軽鎖の可変領域
【0016】
発明の詳細な説明
以下に、本願明細書で使用した用語の一部について、その定義を述べる。「免疫グロブリン」、「重鎖」、「軽鎖」および「Fab」は欧州特許願第0125023号と同様に使用した。
【0017】
本明細書において、種々の活用形の「抗体」という用語は集合名詞として使用されており、免疫グロブリン分子および/または免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部位、即ち抗原結合部位またはパラトープを含有する分子の総称である。
【0018】
「抗原結合性部位」または「パラトープ」とは、抗体分子において、抗原に特異的に結合する構造を有する部位である。
【0019】
抗体の例としては、免疫グロブリン分子の一部分であってパラトープを含む部分、例えばFabやFvが挙げられる。
【0020】
「Fab」(特異的抗原結合性を有する断片)とは、公知の方法によって実質的に完全な抗体をパパインによるタンパク質分解に付すことで得られる抗体の一部分である(例えば、米国特許第4,342,566号参照)。Fab断片は遺伝子組み換え法によって産生することもでき、このような方法は当業者にはよく知られている(例えば、米国特許第4,949,778号参照)。
【0021】
「ドメイン」は、タンパク質の独立した折りたたみ部分を意味する。天然のタンパク質におけるドメイン間の境界に関する一般的な構造上の定義については、Argos, 1988を参照することができる。
【0022】
「可変ドメイン」または「Fv」とは、免疫グロブリン分子中に存在し、抗原またはハプテンの結合を担う領域である。通常この領域は、免疫グロブリン分子の軽鎖(L鎖)および重鎖(H鎖)のそれぞれのN末端から数えて約100個のアミノ酸からなる領域である。
【0023】
「一本鎖抗体」(scFv)とは、抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれの可変ドメインがリンカーペプチドを介して結合した連続したアミノ酸鎖であって、一本鎖mRNA分子(転写物)から合成されたものである。
【0024】
「リンカー」または「リンカーペプチド」とは、天然のまたは工学的に作製したタンパク質中の隣接する2つのドメインの間に存在するアミノ酸配列である。
【0025】
「β−ラクトグロブリン結合性抗体」とは、β−ラクトグロブリンを特異的に認識し、その可変ドメインを介した相互作用によって結合する抗体である。本明細書において使用する「特異的結合」、「特異的認識」や「β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープに対して結合特異性を有する」などの表現は、抗体、その断片または誘導体とその標的分子との間で生じる、バックグラウンド値が低く高親和性の結合(即ち、非特異的結合のない結合)を意味する。本発明の1つの態様は、β−ラクトグロブリン(配列番号8)のアレルゲン性エピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル抗体、あるいは該特異性を有する抗体の機能的断片または誘導体である。
【0026】
「平面状(または平坦状)表面」とは、実施例8で定義した表面構造を意味する。
【0027】
上記抗体の断片であって、本発明の範囲に属するものの例としては、図4および図5に開示した、D1 IgE FabのscFv断片が挙げられる。本発明の一つの好ましい態様においては、β−ラクトグロブリン結合性抗体の誘導体、例えば、Fab断片やscFv断片、が提供される。さらにCDR配列または完全なVLおよびVH配列の変異体であって、結合力に実質的に影響を与えない1つ以上の同類置換を有するものを代りに使用することも可能であり、このような誘導体も本発明の範囲に含まれる。
【0028】
イムノアッセイ、例えば生物学的サンプル中のβ−ラクトグロブリンの定性的または定量的な検出、に使用する場合、本発明の抗体および抗体誘導体を標識してもよい。この目的のためには、従来から抗体の標識に用いられているいかなる種類の標識も用いることができる。
【0029】
免疫学的治療、例えば、アレルギー患者におけるアレルゲン性β−ラクトグロブリンの遮断に使用するためにも、本発明の抗体および抗体誘導体を標識してもよい。この目的のためには、従来から抗体の標識に用いられている、薬学的に許容される標識を適宜使用することができる(例えば、US 2007/0003579を参照)。
【0030】
本発明の他の一つの態様においては、本発明の抗体および抗体誘導体をコードするDNAおよびこのようなDNAの断片であって、VLおよび/またはVH領域のCDRをコードするDNA断片が提供される。これらDNA分子はベクターにクローニングされていてもよく、具体的には、例えば、本発明の抗体の誘導体、少なくとも1つの抗体鎖または抗体鎖の一部の発現を誘導しうる発現ベクターにクローニングされていてもよい。
【0031】
本発明の更なる一つの態様においては、細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞、昆虫細胞、植物細胞および哺乳動物細胞からなる群より選ばれる細胞であって、本発明のDNA分子を含むものが提供される。このような宿主細胞には、本発明の抗体または抗体誘導体を発現することが可能な宿主細胞も含まれる。従って、本発明の抗体誘導体を製造するためには、1種または複数種の必要な抗体鎖を発現しうる本発明の宿主細胞を培養し、そして宿主細胞の産生した目的タンパク質を直接回収するか、必要であれば、初めに個別の抗体鎖を回収し、組み合わせることもできる。
【0032】
上記のscFv断片は、アレルゲン性組み換えβ−ラクトグロブリンを用いたヒトIgE scFvファージライブラリーのバイオパニング(biopanning)によって得たものである。ヒトIgE scFvファージライブラリーは、牛乳アレルギー患者のリンパ球から単離したmRNAから構築した。軽鎖および重鎖の可変領域のcDNAは、Fd cDNA用のヒトIgE特異的プライマーを用いて合成し、ヒト軽鎖のカッパ(κ)鎖およびラムダ(λ)鎖はヒトκ鎖特異的プライマーおよびλ鎖特異的プライマーを用いて合成した。軽鎖および重鎖の可変領域は、VκcDNA用のヒトκ鎖特異的プライマーとVλcDNA用のλ鎖特異的プライマーおよびVH cDNA用のヒトIgE特異的プライマーを用いてそれぞれPCRによって増幅した。これらのPCRプライマーに導入しておいた制限部位を利用して、scFvファージディスプレイベクターに可変領域のcDNAをクローニングし、ヒトIgE scFvライブラリーを構築した。
【0033】
パニング法を利用したファージディスプレイによってヒトIgE scFvライブラリーを選択した。ヒトIgE scFvファージライブラリーのスクリーニングを溶液中のビオチン化したアレルゲン性未修飾(native)β−ラクトグロブリンで行い、結合物をストレプトアビジン上に捕捉した。ファージの溶出を100μMの非ビオチン化未修飾β−ラクトグロブリンAB二量体で行った。ファージ溶出液をE. coli細胞で増幅した。バイオパニングを2ラウンド繰り返した後、単離したファージから可溶性のscFv断片を調製した。選択したscFv断片の結合特異性をELISAで検出した。複数種のβ−ラクトグロブリン特異的scFv断片クローンを得た。
【0034】
本明細書に記載したように、ファージディスプレイ法は、診断および治療に適用するためのヒトIgE組み換え抗β−ラクトグロブリン抗体を開発するための、有効かつ実用的な方法である。
【0035】
本発明の抗体断片を得るために有効な選択方法の一例を記載したが、当業者には明らかなように、様々な応用方法によっても本発明の抗体断片を得ることが可能である。scFv断片またはその誘導体のファージディスプレイライブラリーまたは微生物ディスプレイライブラリーから本発明のscFv断片を直接選択すること可能性もある。本発明のscFv断片または他の抗体断片を表面タンパク質との融合タンパク質として提示するファージまたは微生物細胞は、本発明の更なる態様の一つである。
【0036】
微生物細胞による本発明の抗体および抗体誘導体の発現は、免疫診断アッセイおよび免疫療法に適した均一な品質の高特異性試薬を効率よく且つ経済的に製造するための手段を提供する一方で、このような試薬またはその少なくとも一部が合成可能であることを示唆している。従来の遺伝子工学的手法を適用することにより、初めに得られた本発明の抗体断片をその結合特性を実質的に変えることなく改変する(例えば、新たな配列を連結する)ことができる。このような手法は、上記で定義したβ−ラクトグロブリンに対する親和性および特異性の両方を保持する新規なβ−ラクトグロブリン結合性ハイブリッドタンパク質の製造にも用いることができる。
【0037】
アレルゲンの平面状表面および低アレルギー性物質の製造と使用
本発明は、非連続的なアレルゲン性エピトープ、即ち、アレルゲン性物質の面積が600〜900Å2の平面状表面(図14と図16を参照)、のアミノ酸残基を修飾することによって、アレルゲン性物質のI型表面相互作用の遮断を可能にする。平面状(平坦状)表面は、β−ラクトグロブリンやBet v 1のように、タンパク質表面のβ−シートを含んでいるか、またはFel d 1に見られるような、互いに隣接して集合した複数のα−へリックスを含んでいる。平面状構造を有する他のアレルゲンは、Equ c 1(ウマ 皮膚)、Bos d 2(ウシ フケ)、Cyp c 1(コイ パルブアルブミン)およびHev b 6(ラテックス)である。
【0038】
低アレルギー性の変異型は、平面状(平坦状)エピトープ表面の数個(1〜5個)のアミノ酸残基を嵩高の残基に変異させる(例えば、AlaをArg、Tyr、LysまたはTrpに変異させる)ことで得られる。変異後の残基は、いずれも側鎖が外側の溶媒に向けられるため、アレルゲンの基本構造の変化は最小限に抑えられる。変異の目的は、平坦状表面を、IgE抗体の結合を妨げる凸状表面に改変することである。平面状表面上の変異による効果は、修飾アレルゲンに対するアレルゲン特異的IgE抗体の親和性の低下として観察され、特異的抗体の親和性を10分の1以下に減少させる変異が好ましく、10分の1未満に減少させる変異がさらに好ましい。結果として得られる修飾アレルゲンは、アレルギー患者に特定アレルゲンに対する寛容状態を誘導するために使用することができる。従って本発明は、1種または複数種の変異を直接導入することで破壊したI型平面状エピトープを有し、組み換えIgE分子に対する親和性が10分の1以下、好ましくは10分の1未満まで減少した修飾アレルゲンを提供する。
【0039】
さらに本発明は、以下の工程を包含する、平面状アレルゲン性エピトープを有する特定アレルゲンに対する寛容状態を患者に誘導するための方法を提供する。
a)IgEエピトープに対する親和性を10分の1以下に低下させる変異によって、アレルゲンの平面状表面を破壊し、
b)変異したアレルゲン(即ち、低アレルギー性物質)を製造し、そして
c)変異したアレルゲンを、患者に1回または複数回、好ましくは非経口的に投与する。
【0040】
さらに本発明は、以下の工程を包含する、組み換えIgEモノクローナル抗体を単離するための方法を提供する。
a)ヒト由来サンプルのIgE産生細胞からmRNAを単離し、
b)IgE Fd遺伝子領域およびカッパ/ラムダ軽鎖遺伝子をコードするcDNAを合成して、IgE発現ライブラリーを構築し、
c)アレルゲンに固有の平面状(平坦状)I型表面を有するポリペプチドまたはタンパク質に対して発現ライブラリーをスクリーニングし、該平面状表面に対して107 -1を超える中度から高度の親和性を示すクローンを単離し、そして
d)上記工程c)で得たIgE抗体をコードするDNAを単離する。
【0041】
好ましくは、該ポリペプチドはβ−ラクトグロブリンであり、該平面状表面は、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造座標または三次元座標によって定義されるものである(表8参照)。
【0042】
さらに本発明は、以下の工程を包含する、修飾アレルゲン性ポリペプチドを製造するための方法を提供する。
(a)アレルゲン性ポリペプチドをコードする核酸配列を修飾し、それにより、修飾した核酸から発現される修飾アレルゲン性ポリペプチドにおいて、該アレルゲン性ポリペプチドの有するアレルゲン性エピトープの構造が改変され、そして(b)該修飾核酸から修飾アレルゲン性ポリペプチドを発現させるか、または該修飾核酸を用いて修飾アレルゲン性ポリペプチドを製造する。工程(b)は、適切な宿主細胞内の該修飾核酸を培養系内で発現させて、培養物から該修飾ポリペプチドを単離する工程、あるいは該修飾ポリペプチドを合成する工程をさらに包含することが好ましい。該修飾アレルゲン性ポリペプチドがβ−ラクトグロブリンであること、および/または該アレルゲン性エピトープが上記で定義した平面状表面であることが好ましい。より好ましくは、平面状表面は、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の三次元座標によって定義されるものである。該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸である、β−鎖AのTrp19とTyr20およびβ−鎖BのGlu44の構造座標によって定義されるものでもよい。
【0043】
さらに本発明は、アレルゲンのアレルゲン性エピトープに結合する分子を同定するための方法であって、以下の工程を包含する方法を提供する。(a)アレルゲン性エピトープを有する粒子(例えば、ウイルス粒子)に、結合性分子候補物質を接触させ、そして(b)該アレルゲン性エピトープに結合する結合性分子候補物質を単離する。アレルゲンがβ−ラクトグロブリンであり、該分子がペプチドであり、該アレルゲン性エピトープが上記で定義した平面状表面であることが好ましい。より好ましくは、平面状表面は、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造座標または三次元座標によって定義されるものである。この方法を実施するために適した手法は、アフィニティークロマトグラフィーである。
【0044】
結晶学的スクリーニングおよびin Silicoスクリーニング
β−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープの三次元構造は、以下に示す一群の構造座標によって定義されている。「構造座標」という用語は、結晶化した抗体-アレルゲン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープの原子(散乱中心)による、X線単色放射の回析によって得られるパターンに関連した数式から導いたデカルト座標を意味する。回析データは、結晶中の繰り返し単位の電子密度地図を計算するために使用する。そして電子密度地図は、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープの個別の原子の位置を確定するために使用する。
【0045】
当業者には明らかなように、タンパク質やタンパク質複合体またはその一部に関する一群の構造座標は、三次元の形状を定義する点の相対的な集合である。従って、完全に異なる座標が、類似または同一の形状を定義することもある。さらに個々の座標のわずかなばらつきは、全体的な形状にあまり影響を与えない。
【0046】
上述した座標のばらつきは、構造座標の計算操作によって発生することもある。例えば、後述する一群の構造座標は、構造座標の結晶学的置換、構造座標の分数化、一群の構造座標への整数の加算と減算、構造座標の反転、あるいはこれらのいかなる組み合わせによっても、操作することができる。
【0047】
また、アミノ酸の変位、付加、置換および/または欠失、あるいは結晶を構成する成分の他の変化による結晶構造の修飾も、構造座標のばらつきの一因となりうる。このようなばらつきが、元の座標と比較して許容される標準誤差範囲にある場合には、結果として得られる三次元の形状は同一と見なす。
【0048】
従って、分子、分子複合体またはそれらの一部が、ここに記載したβ−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープの全部または一部と同一であると見なすに十分な類似性を有するか否かを決定するためには、種々の計算解析が必要である。このような解析は、近年のソフトウエアアプリケーション、例えば、QUANTAの分子類似性アプリケーション(Molecular Similarity Application)(カリフォルニア州、サンディエゴ、Molecular Simulations Inc.製)、バージョン4.1および添付のユーザーズガイドを用いて実施することができる。
【0049】
タンパク質結晶の構造座標を一度決定してしまえば、他の結晶の構造、特に類似したタンパク質の結晶の構造を解明する際に有用である。
【0050】
従って本発明によれば、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープおよびその部分の構造座標のデータを機械読み取り可能な保存媒体に保存する。このようなデータは、種々の目的、例えば、薬剤探索およびタンパク質結晶のX線結晶回析、に使用することができる。
【0051】
従って、本発明の更に他の1つの態様においては、後述する一群の構造座標が符号化して記録された、機械読み取り可能なデータ保存媒体が提供される。
【0052】
本発明によって、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープまたはそのいかなる部分にも結合しうる阻害性物質などの化学物質(chemical entity)の設計、選択および合成に、構造に基づくドラッグデザイン技術、即ち、合理的なドラッグデザイン技術を使用することが初めて可能となった。
【0053】
当業者には明らかなように、天然のリガンドまたは基質とそれに対応する受容体または酵素の結合ポケットとの会合は、多くの活性の生物学的メカニズムの根幹をなしている。本明細書で使用する「結合部位」という用語は、分子または分子複合体の領域であって、その形状故に他の化学物質または化合物と有利に会合する領域を意味する。同様に、多くの薬剤が受容体または酵素の結合ポケットとの会合を介して、その生物学的効果を発揮する。このような会合は、結合ポケットの全体またはいかなる部分にも生じる。このような会合に関する理解は、標的受容体または酵素とより有利に会合し、その結果、生物学的効果の向上した分子、例えば、薬剤、の設計の助けとなる。従って、受容体または酵素に対する潜在的なリガンドや阻害剤の設計において、このような情報は貴重である。
【0054】
「会合する」または「相互作用する」という表現は、複数の化学物質もしくは化合物同士またはそれらの部分同士が近接した状態を意味する。会合または相互作用は、水素結合、ファンデルワールス力または静電相互作用によって物質間の近接状態がエネルギー的に保たれる非共有結合的なものであっても、共有結合的なものであっても良い。
【0055】
反復分子デザインにおいては、一連のタンパク質/化合物複合体の結晶を得、それから各複合体の三次元構造を解明する。このような手法は、各複合体の中のタンパク質と化合物の間の会合に関する識見を提供する。これは、阻害活性を有する化合物を選択し、このような新規なタンパク質/化合物複合体の結晶を得、複合体の三次元構造を解明し、そして新規なタンパク質/化合物複合体における会合を、既に解明されているタンパク質/化合物複合体と比較することによって達成することができる。化合物の変化がどのようにしてタンパク質/化合物の会合に影響を与えたかを観察することで、これら会合を最適化することができる。
【0056】
場合によっては、連続的なタンパク質/化合物複合体を形成し、新規な複合体をそれぞれ結晶化することで、反復分子デザインを実施する。または、予め形成しておいたタンパク質結晶を阻害剤の存在下でソーキングしてタンパク質/化合物複合体を形成することで、個々のタンパク質/化合物複合体を結晶化する必要性を省くこともできる。β−ラクトグロブリン結晶のアレルゲン性エピトープを、抗体などの1種または複数種の化合物の存在下でソーキングすることにより、β−ラクトグロブリン/抗体結晶複合体を容易に形成することができる。
【0057】
本明細書において「ソーキングした」とは、目的の化合物を含む溶液に結晶を転移することを意味する。
【0058】
保存媒体
原子座標を提供するための保存媒体は、好ましくはランダムアクセスメモリー(RAM)であるが、リードオンリーメモリー(ROM、例えばCDROM)やディスクでもよい。コンピューターと保存媒体との接続は、ローカルでもリモート(例えば、インターネットを含む、ネットワーク化された保存媒体)でもかまわない。
【0059】
さらに本発明は、コンピューター用のコンピューター読み取り可能な媒体であって、β−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープの原子座標が記録されていることを特徴とする媒体を提供する。
【0060】
原子座標は、後述するものあるいはそれらの変異型が好ましい。
【0061】
本発明においては、いかなる適切なコンピューターも使用可能である。
【0062】
分子モデリング技術
β−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープの原子座標に分子モデリング技術を適用することによって、種々の三次元モデルの作製およびリガンド結合部位の構造研究を行うことができる。当業者であれば、種々の分子モデリング方法を、本発明に適用することができる。
【0063】
最も単純なレベルにおいては、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープのコンピューターモデルの目視検査を、官能基モデルの、結合部位への手動によるドッキングと共に使用することができる。
【0064】
分子モデリング技術を実施するためのソフトウエアも使用することができる。このような分子モデリング技術は、in silicoのドラッグデザインおよびモデリングに使用するための構造モデルの構築を可能にする。
【0065】
De novoの化合物デザイン
本発明の方法で使用する分子モデリング工程においては、結合表面を決定するために、β−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープの原子座標およびそれから誘導したモデルを使用することができる。
【0066】
このような方法は、分子中のファンデルワールス接触、静電相互作用および/または水素結合を明らかにすることが好ましい。
【0067】
これらの結合表面は、典型的には、グリッドに基づく技術(例えば、GRID[Goodford (1985) J. Med. Chem. 28: 849-857],CERIUS2)、および/または官能基の好ましい相互作用位置をマッピングするための多重コピー同時探索(multiple copy simultaneous search,MCSS)技術で使用する。このような技術は、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープにおいて相互作用が生じる位置を明らかにすることが好ましく、相互作用としては、プロトン、ヒドロキシル基、アミノ基、疎水性基(例えば、メチル基、エチル基、ベンジル基)および/または2価のカチオンとの相互作用が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
β−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープの結合表面の特異的部位と相互作用する官能基または小分子断片を一旦同定してしまえば、正しいサイズと幾何学的形態を有する架橋断片または官能基の好ましい配向を維持するフレームワークの使用によって、官能基または小分子断片を単一の化合物となるように連結することで、本発明の化合物を提供することができる。手動でもこのように官能基を結合することはできるが、QUANTAやSYBYL等のソフトウエアを利用して行うこともできる。さらに以下のソフトウエアも補助的に使用することができる:データベースから入手した分子テンプレートと複数の官能基を連結するHOOK[Molecular Simulations Incより入手可能]、および/または非環式分子を拘束するための結合単位を設計するCAVEAT[Lauri & Bartlett (1994) Comp. Aided Mol. Design 8: 51-66]。
【0069】
ドッキング
公知のin silicoライブラリーに登録されている化合物についても、自動ドッキングアルゴリズムにおいてそれぞれの原子座標を使用することで、β−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープと相互作用する能力についてスクリーニングすることができる
【0070】
適切なドッキングアルゴリズムとしては、以下のものが挙げられる。DOCK[Kuntz et al. (1982) J. Mol. Biol. 161: 269-288]、AUTODOCK[Oxford Molecularより入手可能]、MOE−DOCK[Chemical Computing Group Inc.より入手可能]、またはFLEXX[Tripos Inc.より入手可能]。ドッキングアルゴリズムは、de novoで設計したリガンドとの相互作用を検証するためにも使用することができる。
【0071】
アレルゲンに対するフォーカスドIgE−抗体ライブラリー
文献に開示されたIgE配列のアミノ酸配列比較から、多様なアレルゲン群に結合する公知のIgE抗体の軽鎖は驚くほど保存性が高いことを明らかである(表7を参照)。この結果は、アレルゲンの診断に適用可能なアレルゲン特異的な抗体の単離に使用できる、フォーカスドアレルゲン特異的ライブラリーの構築に有効なツールを提供する。保存された軽鎖配列の情報は、IgE抗体から同定した特徴的なアミノ酸配列を有する複数種の軽鎖に限定されたプールまたは単一の軽鎖の構築に使用される。この軽鎖配列の情報を、複数のアレルギー患者由来のリンパ球から単離したIgE重鎖遺伝子の多様なプールと組み合わせる。結果として得られる、ディスプレイ形式がscFv型またはFab型である抗体ファージディスプレイライブラリーを、実施例1のIIの記載またはHoogenboom et al. (1998)の記載と実質的に同様の方法で行う、アレルゲン特異的IgE抗体の選択に使用する。
【0072】
ヒト IgE VH領域を含む、ヒト抗体(scFv、Fabまたは全長抗体)のライブラリー
D1 IgE FabのIgE VH領域、特にそのHCDR3ループをIgG抗体と比較すると、構造的な違いが認められる。この領域は、BLGアレルゲン構造のクレフトを認識するループ構造を形成している。この知見に基づけば、ヒト IgE VH領域を含む抗体であって、表面に露出していないタンパク質構造(例えば、酵素の基質結合部位や薬剤耐性ポンプ)に対する結合特異性を必要とする治療用標的について、抗体の開発が可能となる(De Genst et al., 2006)。ヒト リンパ球由来の多様なIgE VHプールを構成単位として使用し、scFv型、Fab型または全長抗体型の機能的なヒト抗体ライブラリーを構築する。得られたライブラリーをクレフト構造に対する特異的認識を必要とする治療用標的に対して選択する。
【0073】
ヒトβ−ラクトグロブリン結合性組み換え抗体の開発および特徴付け、並びにイムノアッセイにおけるその有用性について、以下の実施例において詳細に説明する。
【実施例1】
【0074】
ファージディスプレイ選択法による、組み換えβ−ラクトグロブリン特異的scFv断片の調製
本実施例においては、β−ラクトグロブリン(BLG)に対する親和性および特異性を有するscFv断片を単離するために、ヒトIgE scFvライブラリーを構築し、アレルゲン性β−ラクトグロブリンによる選択を行った。IgE Fab−κライブラリーおよびIgE Fab−λライブラリーを初めに構築することによって、ヒトIgEファージライブラリーを間接的に構築し、その後、特定のライブラリーのDNAを用いて重鎖および軽鎖の可変ドメインをPCRで増幅した。
【0075】
I.ヒトIgE scFvファージライブラリーの構築
ヘパリンを加えた血液50mlを牛乳アレルギー患者から得た。リンパ球をIgプライムキットのプロトコル(Novagen製)に従って、次の手順で単離した。血液10mlあたり30mlの溶解緩衝液(155mMのNH4Cl、10mMのNH4HCO3、0.1mMのEDTA、pH7.4)を加え、時々振とうさせながら氷上で15分間インキュベートした。450gで10分間遠心分離した後、リンパ球、即ち白血球ペレット、を回収した。回収したペレットを溶解緩衝液で2回洗浄し、最後の遠心分離の後に得られたリンパ球ペレットをD溶液に再懸濁した。リンパ球RNAをPromega社のRNAgents 全RNA単離キットを用いて製造者のマニュアルに従って単離した。初めのcDNA合成はPromega社の逆転写システムキットを用いて行った。Fd断片cDNAおよび軽鎖cDNAの合成には、イプシロン(ε)鎖の定常領域のプライマー(Cε1)、並びにカッパ鎖のプライマー(Cκ1)とラムダ鎖のプライマー(Cλ1)をそれぞれ用いた。ヒトIgE Fd領域および軽鎖のcDNA合成およびPCR増幅に用いたプライマーを表1および表2に示す。
【0076】
PCR増幅は2段階、具体的にはcDNAテンプレートからFd鎖およびL鎖を増幅するための一次PCRと、一次PCRで得たDNA断片の5’末端に制限部位を加えるための二次PCRを行った。まず、重鎖可変領域に特異的なプライマー(VH1a−VH7a)およびCε1プライマーを用いてFd領域をPCRで増幅した。次に、軽鎖のκ鎖およびλ鎖を軽鎖可変領域に特異的なプライマー(それぞれVκ1a−Vκ6bとVλ1a−Vλ10)およびCκ/λ1プライマーを用いて増幅した。二次PCRでは、カッパ軽鎖領域のPCR増幅にはCκ1、Vκ/λ1およびCκプライマーを用い、カッパ鎖のPCR増幅にはVκ/λ1およびCλ1プライマーを用い、ラムダ鎖のPCR増幅にはVλ1AおよびCκ/λ1プライマーを用いた。一次PCRは以下の条件で行った:93℃で3分間の変性を1サイクル;93℃で1分間、63℃で30秒および58℃で50秒のアニーリング、次いで72℃で1分間の伸長を7サイクル;93℃で1分間、63℃で30秒および72℃で1分間を23サイクル;最後に72℃で10分間を1サイクル。二次PCRは以下の条件で行った:95℃で3分間の変性を1サイクル;94℃で1.5分間、65℃で1分間のアニーリング、次いで72℃で1.5分間の伸長を25サイクル;および72℃で10分間を1サイクル。一次PCRと二次PCRの間、および二次PCRの後には、増幅したDNA断片を精製した。
【0077】
種々の抗体断片のDNAからなる最終PCR産物をプールし、適切な制限酵素で消化した。消化したDNA断片であり、IgE Fd領域やκ軽鎖やλ軽鎖をコードするDNA断片をファージミドベクターに連結し、そのファージミドベクターでE. coli XL-1 Blueを形質転換して106個の独立したクローンからなるFab−κライブラリーおよびFab−λライブラリーを得た。ファージ粒子上のFab断片の発現に関連して生じうる問題を防止するために、scFv形式の抗体ライブラリーを構築した。ヒトIgE scFv−κライブラリーおよびscFv−λライブラリーを構築するために、種々のライブラリーからファージミドDNAを単離して、ヒトIgE 重鎖およびヒトIgE 軽鎖の可変領域を増幅するための鋳型DNAとして用いた。
【0078】
重鎖可変領域のPCR増幅を、ヒトVH特異的プライマー(VH1−VH4およびVH1A)を用いて行った。軽鎖可変領域の増幅は、以下のプライマーペアを用いて行った:ヒト カッパ鎖の増幅にはVκ1−Vκ7、Vκ2−Vκ8、Vκ3−Vκ9、Vκ4−Vκ10、Vκ5−Vκ11およびVκ6−Vκ11を用い、ヒト ラムダ鎖の増幅にはVλ1−Vλ8、Vλ2−Vλ9、Vλ3−Vλ9、Vλ4−Vλ9、Vλ5−Vλ10、Vλ6−Vλ10およびVλ7−Vλ10を用いた(表3および表4参照)。scFvファージディスプレイベクターに連結するために、増幅したDNA断片を精製し消化した(図3)。連結混合物でE. coli XL-1 Blueを形質転換し、約105個の独立したクローンからなるヒトIgE scFv−κライブラリーおよびヒトIgE scFv−λライブラリーを得た。
【0079】
II.ヒトscFvライブラリーの選択
ヒトscFv−κライブラリーおよびヒトscFv−λライブラリーをファージディスプレイ法(McCafferty et al., 1990、Barbas et al., 1991)により選択した。β−ラクトグロブリン結合性抗体断片を単離するために、親和性パニング法(affinity panning procedure)(図2)を用いて、バクテリオファージの表面に提示されたヒトIgE scFv−κライブラリーおよびscFv−λライブラリーのパニングを行った。初めに、ファージプールをビオチン化した免疫反応性のβ−ラクトグロブリンまたは負の対照となる抗原なしの系で1.5時間反応させた。その後、ファージプールをビオチン結合性ストレプトアビジンでコートしたマイクロタイタープレートのウェルに移した。30分間インキュベートした後、ウェルをPBS+0.05% Tween20で3回洗浄し、結合物を可溶性抗原(100μMの非ビオチン化β−ラクトグロブリンAB二量体)で溶出した。続くパニングラウンドのために、溶出したファージプールをE. coli XL-1 Blue細胞に感染させて増幅した。パニングは2ラウンド行った。
【0080】
III.β−ラクトグロブリン結合性物質の特徴付け
最後のパニングサイクル終了後、可溶性scFv断片を発現させるために、scFvファージディスプレイDNAを単離し、単離したDNAでE. coli HB2151(supE-)の形質転換を行った。scFvファージディスプレイベクターは、そのscFv配列とファージ遺伝子III配列との間にTAGアンバー終止コドンを含んでいる。このコドンは、supE+遺伝子型のE. coli株ではグルタミン酸に翻訳されるが、supE-遺伝子型のE. coli株では終止コドンに翻訳される。62個の独立したクローンの小規模培養を実施し、予備的な特徴付けに用いる可溶性scFv断片を製造した。クローンは、β−ラクトグロブリン特異的結合性物質物を捕捉するためのβ−ラクトグロブリンでコートしたウェル、および非特異的な結合を検出するためのコントロールタンパク質でコートしたウェルを用いたELISAで分析した(データは示さない)。大部分のクローンが高い親和性でβ−ラクトグロブリンに結合した。クローンを初めにDNAフィンガープリント法で解析し、6クローンについて配列を決定した(Sanger et al., 1977)。最後に、そのうちの1クローンを更なる特徴付けのために選択した(図4および5)。
【実施例2】
【0081】
β−ラクトグロブリン結合特異性を有するヒトFab断片のクローニングおよび特徴付け
本実施例においては、β−ラクトグロブリン結合特異性を有するヒトIgE scFvをIgG1サブタイプに属するヒトFab断片に変換した。多量体の形成が難しいことが知られていることから、scFv抗体ライブラリーから得たD1 scFvをクローニングし、細菌にFab断片として発現させた(Holliger et al., 1993、Desplancq et al., 1994)。得られた抗体断片の更なる特徴付けを競合的ELISA法で行った。
【0082】
I.β−ラクトグロブリン結合特異性を有するヒトFab断片のクローニング
Fd領域をオーバーラッピングPCRで増幅した。PCRに用いたプライマーは表5に示した。
【0083】
上記で得たFd領域および軽鎖のcDNAを細菌性発現ベクターであるpKKtacにクローニングし、E. coli RV308を形質転換した。D1 IgE Fabと命名した可溶性Fab断片を細胞培養によって産生し(Nevanen et al., 2001)、これらのFab断片は、そのC末端に導入したヘキサヒスチジニルタグを用いて、ニッケルを固定化したセファロースカラムで実質的に純粋になるまで精製した(データは示さない)。
【0084】
II.ヒトIgE Fab断片の特徴付け
精製D1 IgE Fabの特徴付けを競合的ELISA法によって行った。初めに、量を種々に増やしたの可溶性非ビオチン化β−ラクトグロブリンをD1 IgE Fabと共にインキュベートし、インキュベートした反応混合物をそれぞれアレルゲン性ビオチン化β−ラクトグロブリンでコートしたストレプトアビジンマイクロタイタプレートのウェルに添加した。図6に競合的ELISAの結果を示す。ビオチン化β−ラクトグロブリンに対するD1 IgE Fabの結合(図6)は、未修飾β−ラクトグロブリンの添加量を増加することで阻害することができた。
【0085】
D1 IgE Fabが牛乳サンプル中のβ−ラクトグロブリンに結合するかどうかを検討するために、免疫沈降試験を実施した(図7)。D1 IgE Fabはカッパ軽鎖を介してタンパク質L−ビーズに固定化し、得られた複合体を複数の牛乳サンプルに加え、種々の時間(0分、15分、30分および60分)加熱した。タンパク質L−ビーズに結合したD1 IgE Fabを牛乳サンプルと共に室温で1時間インキュベートし、その後、PBS+0.05% Tween20で複数回洗浄することで、牛乳タンパク質のタンパク質L−ビーズに対する非特異的結合を除去した。D1 IgE Fab−β−ラクトグロブリン複合体をタンパク質L−ビーズから低pH(0.1Mのグリシン,pH2.1)で溶出し、溶出した画分を3MのTris,pH8.8で中和した。少量の溶出画分を15% SDS−PAGEで解析し、銀染色を行った。正しいサイズのバンドをSDS−PAGEゲルから切り出し、さらに質量分析を行うことで、D1 IgE Fabが牛乳から認識したタンパク質がβ−ラクトグロブリンであることを確認した。
【0086】
D1 IgE Fabが、IgE抗体と同様に患者血清中のアレルゲン性エピトープを認識するのかどうか試験するために、ビオチン化β−ラクトグロブリンを、初めに、ストレプトアビジンで被覆したマイクロタイターウェルに固定化した。患者血清サンプルは、濃度を種々に増したD1 IgE Fabと共にウェル内でインキュベートし、結合した患者血清IgEを、ヒト IgEアイソタイプを特異的に認識するアルカリフォスファターゼ標識二次抗体で検出した。試験したそれぞれの患者においてわずかながら阻害が検出され、これはD1 IgE Fabが認識するエピトープが患者血清中のIgEと同じであることを示唆している。患者血清IgEの結合が完全に遮断されない理由は、β−ラクトグロブリンが複数のIgE-エピトープを有しているためと考えられる。
【実施例3】
【0087】
I.抗体−アレルゲン免疫複合体の結晶化
結晶化とデータの回収: BLG−D1 IgE Fabの微小結晶(約70×50×50μm)は、2μlのD1/Fab溶液(20mM リン酸緩衝液、pH7.0、による濃度1.4mg/mlの溶液)、1μlのBLG溶液(純水による2mg/ml溶液)、0.5μlのn−ドデシル−β−D−マルトシド溶液および2.5μlの貯留溶液(14%(w/v)のポリエチレングリコール3350、0.1MのBTP(1,3−ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン/塩酸)緩衝液(pH5.5)を混合する、蒸気拡散法で得た。回析データセットは、ESRFにおいて、ビームラインID29(波長1.000Å)で100Kの条件下で単結晶から回収した。結晶は、a=67.0Å、b=100.6Å、c=168.1Åの単位格子寸法を有する空間群P2111に属するものであった。データセットは、解像度が2.8Åの条件で回収した。
【0088】
II.抗体-アレルゲン免疫複合体の構造決定
構造は、CCP4プログラムパッケージに添付されたMolrepプログラムによって、分子置換法で解読した。BLG単量体(PDBコード:1B8E)と、HIVウイルスのGP41(1DFB)に対するIgG抗体のFab断片(軽鎖の同一性は92%、重鎖の同一性は79%)をサーチモデルとして使用した。最終的に得た構造は、1つのBLG二量体が2つのFab断片と複合化したものを含んでいた。モデルの構築と改良は、プログラムOとプログラムCNSで行った。反射数が少ないため、Fab/D1断片とBLG単量体を類似した条件におくために拘束をかけた。BLGには2種の異性体が存在するが、電子密度は、このBLGはグリシンが64位に存在し、アラニンが118位に存在するものであることを示唆している。水分子は添加していないが、BLGの脂質結合キャビティの突出した電子密度領域をn−ドデシル−β−D−マルトシドのモデルとした。最終的な構造のR値は24.5%であり、Rfree値は29.9%だった。ラマチャンドランプロットにおいて、残基の83.5%が最も好ましい(most favored)領域に存在し、残基の0.6%が非許容(disallowed)領域に存在した。全ての図面は、Pymol(Delano, W. L.、The PyMol Molecular Graphics System、http://www.pymol.org)で作製した。
【実施例4】
【0089】
BLGに結合するD1 IgE Fabの阻害を、短いペプチドであるKRVGで行った。KRGVは、HCDR3内の直鎖状BLG結合ペプチドの中で最も長いものである。競合ELISAにおいては、BLGのビオチン化AB二量体を複数のストレプトアビジン被覆マイクロタイターウェルに固定化した。初めにペプチド(阻害剤)を0.5%のBSA−PBSに溶解し、次に種々の量を固定化BLGと共にインキュベートした。その後、ウェルの内、幾つかはPBSで3回洗浄し、残りのウェルは洗浄しなかった。D1 IgE Fabを添加し、続いてPBSで洗浄した。結合した抗体は、AFOS接合ヤギ抗ヒト カッパ抗体で検出した。基質であるp−ニトロフェニルホスファターゼを添加した後、吸光度を405nmで計測した。結果を図15に示す。
【実施例5】
【0090】
分子表面と曲率の計算による、平坦状エピトープの同定
本実施例においては、市販のAMIRAプログラム(AmiraMolモジュールを使用)を用いて、溶媒排除表面の計算を行った(プローブ直径:10Å)。2つの主要曲率の積であるガウス曲率に従って、表面の色分けを行った。双曲幾何学的な表面積(近接した鞍点のような凹凸状)は負の曲率であり、楕円幾何学的な面積(厳密な凸状または厳密な凹状)は正の曲率である。さらに分子境界面積の計算にもAMIRAプログラムを用いた(カットオフ値:3Å)。このプログラムは、2つのタンパク質の正確に中央に位置する表面を表示する。図17に、抗体と、平坦状エピトープ(BLG D1(IgE/Fab))、凸状エピトープ(Bet v1−IgG/Fab、1BV1)および凹状エピトープ(リゾチーム−一本鎖ラクダ抗体、1MEL)のそれぞれとの結合を例示した。
【0091】
三次元構造が入手可能であれば、アレルゲンの分子表面を大きなプローブ値を用いて計算することが可能である。このような分子表面を回転させて全ての方角から観察し、さらに曲率を色分けした表面の補助によって、大きな平坦状面積(600〜900Å2)を同定することができる。図18には、5種のアレルゲンの分子表面を示した。1つ目はBLG(Bos d 5)であり、平坦状エピトープを2つの方向から示した。残りの図においては、他の4種のアレルゲン(即ち、Bet v 1、Bos d 2、Phl p 7およびHev b 6)の同様の平坦状領域を同定した。これらはIgE結合のための平坦状エピトープと示唆されるものである。4種のアレルゲンはそれぞれ構造的に非常に異なるクラスを代表するものである。Bos d 5とBos d 2はβ−タンパク質(主としてβ−鎖からなるもの)である。Bet v 1はβ−鎖とα−へリックスの両方を有している。Phl p 7はα−へリックスのみを有し、Hev b 6は二次構造含量の低い小タンパク質である。
【実施例6】
【0092】
組み換えβ−ラクトグロブリンおよびその変異体の特徴付け
低アレルギー性の変位型を産生するために、D1 IgEとBLGとの免疫複合体構造に基づいて、BLGの平坦状表面エピトープの変異を設計した。2種の組み換えBLG(rBLG)変異体であるT18YとT18Y/E45Y/L57Yを構築した(表9)。rBLGをコードするcDNAおよびその変異体を細菌性発現ベクターにクローニングし、Escherichia coli細胞で産生し、実質的に純粋になるまでクロマトグラフィーで精製し、最後にそれらの性質を特徴付けた。
【0093】
I. 組み換えBLGのクローニング
ベクターpUC57に含まれるウシ組み換えBLG(rBLG)cDNAをGenScript Corporation(米国)より購入した。これは5’末端に制限部位SfiI/NcoIを有し、3’末端に制限部位HindIIIを有している(表10)。rBLG cDNAを、Ervinia carotovora由来ペクチン酸リアーゼ(pelB)シグナル配列(Takkinen et al., 1991)と融合するように、SfiI-HindIII断片としてpKKTac細菌性発現ベクターにクローニングした。ヘキサヒスチジニル(His6)タグは、プライマー1と2(表10)を用いたPCR増幅によってrBLG cDNAの3’末端に導入した。全てのPCR増幅で、Phusion DNAポリメラーゼ(Finnzymes製)を使用した。rBLG−His6の増幅したcDNAをSfiIおよびHindIII(New England Biolabs製)で消化し、pKKTac発現ベクターにクローニングした。Escherichia coli XL-1 Blueを、組み換えBLG(rBLG)およびその変異体を作製するための宿主株として使用した。
【0094】
2種の異なるrBLG変異体であるT18YとT18Y/E45Y/L57Y(表9)をpKKtacベクターにクローニングした。rBLG−His6のT18Y変異体とT18Y/E45Y/L57Y変異体のcDNAを、ミスマッチプライマー2、3、4と5(表10)およびテンプレートとしてpUC57ベクター内の元のrBLG cDNAを使用して、PCRで増幅した。T18Y変異体をコードするcDNAをプライマー2と3を用いて増幅し、増幅したcDNAはStuIとHindIII(New England Biolabs製)で消化し、pKKtac/rBLG−His6ベクターにクローニングした(上記参照)。T18Y/E45Y/L57Y変異体をコードするcDNAは、重複するプライマーを用いて2段階で増幅した。初めに、27−165bpからなるcDNA断片をプライマー3と4を用いて増幅し、147−530bpからなるcDNA断片をプライマー2と5を用いて増幅した。次に、得られたDNA断片をオーバーラッピングPCR増幅によって1つにした。プライマー4と5は重複する配列を有する。最後に、T18Y/E45Y/L57Y変異体をコードするcDNAをStuIとHindIIIで消化し、pKKTac/rBLGhis発現ベクターにクローニングした。
【0095】
rBLG−His6およびその変異体のDNA配列は、DNAシーケンシング(ABI 3100遺伝子アナライザー(genetic analyzer)、Applied Biosystems製)で確認した。
【0096】
II.組み換えBLGの製造
rBLGの細菌による発現のために、rBLG−His6およびその変異体を、E. coli RV308(ATCC 31608)株に形質転換した。各クローンの単一コロニーを、3mlのLB、100μg/mlのアンピシリンおよび1%のグルコースからなる培地に接種し、+37℃、220rpmの振とう下で16時間培養した。次にアンピシリンを含む3mlのLBで培養物を1:50に希釈し、+37℃で3時間培養した。その後、終濃度1mMのIPTGの添加によってタンパク質発現を誘導し、細胞を+30℃、220rpmの振とう下で16時間培養した。細胞を回収し、培養上清は後の使用のために保存した。細胞のペリプラズム画分を凍結融解法(Boer et al., 2007)で単離した。簡単に説明すると、細胞を20%のショ糖、30mMのトリスおよび1mMのEDTA(pH8.0)からなる溶液に再懸濁し、ドライアイス−エタノール中で5分間インキュベートし、次に5mMのMgSO4溶液で再懸濁した後、+37℃で5分間インキュベートした。この凍結融解工程を3回繰り返した。培養上清とペリプラズム画分をウエスタンブロッティングで分析した。初めに、サンプルを15%SDS−PAGEゲル(β−メルカプトエタノール含有)に流し、次にタンパク質をニトロセルロースフィルターに転写した。rBLGは、ウサギ抗BLG抗体(Makinen-Kiljunen and Palosuo, 1992)、続いてAFOS接合ヤギ抗ウサギ抗体(Bio-Rad製)で検出した。
【0097】
細菌による産生においては、組み換えBLGは培養液にほとんど漏れることなく、ペリプラズムの空間に分泌された。rBLGの大規模生産のために、E. coli RV308株のpKKTacベクター内にrBLG−His6とその変異体を保有する細胞を、100μg/mlのアンピシリンと1%のグルコースを含有するTB培地に接種した。細胞を+37℃、220rpmの振とう下で16時間培養した。培養物を100μg/mlのアンピシリンを含むTB培地で1:50に希釈した。細胞を+37℃、220rpmの振とう下でOD600が4に達するまで培養し、終濃度が0.1mMとなるようにIPTGを添加した。細胞の誘導は、28℃、220rpmの振とう下で6時間実施した。次に、+4℃、4000×gで15分間の遠心分離によって細胞を回収した。組み換えBLGを含むペリプラズム画分は、上述した凍結融解法で単離した。
【0098】
III.rBLGの精製
組み換えBLGの精製は、公知の固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)(Porath and Olin, 1983)で行った。簡単に説明すると、rBLGを含むペリプラズム画分を結合緩衝液(10mMのHepes、1MのNaCl、10%のグリセリン、1mMのイミダゾール、pH7.4)で1:2に希釈し、Ni2+−ロード済キレート化セファロース(Pharmacia製)と共に+4℃で16時間インキュベートした。rBLGの結合したカラムマトリクスを重力流によってカラムに充填し、1mM、10mM、20mMそして50mMのイミダゾールを含む結合緩衝液を用いて段階的に洗浄した。最後に、75mM、100mM、200mMそして5×500mMのイミダゾールを含む結合緩衝液を用いてrBLGを溶出し、各2mlの画分を回収した。溶出画分は15%のSDS−PAGEゲル(β−メルカプトエタノール含有)で分析した。目的タンパク質を含む画分をプールし、IMAC精製をより小規模で繰り返した。2回目のIMAC精製の後にも、再びSDS−PAGEゲルで画分を分析した(図19)。その結果、特定の精製BLGを含む画分をプールし、0.9%のNaClを含む10mMのHEPES、pH7.4、に対して+4℃で16時間透析した。精製タンパク質は、ウサギ抗BLG抗体とAFOS接合ヤギ抗ウサギ抗体(Bio-Rad製)を検出に用いるウエスタンブロッティングで分析した(図20)。
【0099】
IV.円二色性の測定
円二色性(CD)の測定のために、カットオフ値が6000DaのEcono Pac 10DG脱塩カラム(Bio-Rad製)を使用して、全てのrBLGの緩衝液を5mMのHepes(pH7.4)に交換した。1mmの石英セルを用い、+20℃にペルチェサーモスタット(Jasco PTC-348WI)で維持する条件下で、未修飾BLG(nBLG、Sigma製)、rBLG−His6およびrBLG−His6変異体の遠紫外線スペクトルをJasco J-715旋光分散計で測定した。タンパク質濃度は、nBLGが1mg/mlであり、rBLG−His6変異体が0.25mg/ml、rBLG−His6 T18Y変異体が1.3mg/ml、そしてrBLG−His6 T18Y/E45Y/L57Y変異体が0.93mg/mlだった。CDスペクトルは3回の測定の平均値を示している(図21)。
【0100】
V. rBLGに結合するD1 IgE Fabの、ELISAによる特徴付け
初めに、rBLGをビオチン化した。rBLGのビオチン化には、1molのタンパク質(0.9%のNaClを含む10mMのHepes溶液)に対して2molのビオチンとなるように硫化−NHS−LC−ビオチン(Pierce製)を使用し、室温で30分間穏やかな振とう下で反応させた。未反応のビオチンを、Econo Pac 10 DG脱塩カラム(Bio-Rad製)で除去した。rBLGによるビオチンの取り込みは、SA−AFOS検出を用いたウエスタンブロッティングで分析した。
【0101】
次に、110μlの0.5%BSA/PBS中の1μgのビオチン化したnBLG、rBLG−His6変異体またはrBLG−His6 T18Y変異体を、ストレプトアビジンマイクロタイターウェル(Roche製)に室温で1時間固定化した。その後、100μlの、0.5% BSA/PBSで1:15000に希釈した抗BLG D1 Fab(1.6mg/ml)を、洗浄したウェルに加えた。1時間インキュベートした後、ウェルをPBSで3回洗浄した。BLGの検出は、AFOS接合ヤギ抗ヒト カッパ抗体(Southern Biotech製)で実施した。次に、p−ニトロフェニルリン酸基質(Sigma製)(ジエタノールアミン緩衝液による2mg/ml溶液)をウェルに添加した。基質を添加した20分後には、波長405nmにおける吸光度を測定した(図22)。
【0102】
血清サンプル(0.5%のBSA/PBSで1:8に希釈したもの)のELISAによる分析は、AFOS接合ヤギ抗ヒトIgE(Southern Biotech製)をアレルギー患者血清由来の結合IgEの検出に用いる以外は、上記と同様に実施した。基質添加後に2時間インキュベートし、波長405nmにおける吸光度を測定した(図23)。
【0103】
VI. 結合力学の分析
D1 IgE Fabの、nBLG、rBLG−His6およびその変異体に対する会合定数および解離定数をBIAcoreで測定した。ビオチン化BLGを、HBS緩衝液(10mMのHepes、0.15MのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%のBIAcore P20界面活性剤、pH7.4)中、濃度1μg/mlで、ストレプトアビジンバイオセンサーチップに固定化し、約400〜500RUの表面を得た。ビオチン化nBLGは、わずか200RUをSA−チップ表面に固定化した。精製D1 IgE Fabの結合力学は、流速30μl/分で、濃度が138.9nM、69.6nM、34.8nM、17.4nM、8.7nM、4.3nM、2.2nMおよび1.1nMの条件で分析した。BLG表面の再生は、100μMのnBLG(Sigma製)を用いて行った。69.6nMのD1 IgE Fab溶液の結合曲線を図24に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
【表5】

【0109】
【表6】

【0110】
【表7】

【0111】
【表8】


















































【0112】
【表9】

【0113】
【表10】

【0114】
【表11】

【0115】
参考文献

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【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】図1は、完全なヒトIgEサブクラス抗体、Fab断片および一本鎖抗体(scFv)の該略図である。抗原結合部位は三角形で示す。
【図2】図2は、パニング法の概略図である。
【図3】図3は、scFvファージライブラリーの構築に使用したscFvファージディスプレイベクターの概略図である。
【図4】図4は、D1 IgE Fabの重鎖可変領域の推定されるアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である。相補性決定領域(CDR)を下線で示した。番号付けはKabat(Kabat et al., 1991)に準ずる。
【図5】図5は、D1 IgE Fabの軽鎖可変領域の推定されるアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である。CDRを下線で示した。番号付けはKabat(Kabat et al., 1991)に準ずる。
【図6】図6は、ヒトIgG1サブタイプに属するD1 IgE Fab断片の競合的ELISAで得られた曲線である。D1 IgE Fab断片の固定化ビオチン化β−ラクトグロブリンに対する結合は、可溶性未修飾β−ラクトグロブリンによって阻害された。
【図7】図7は、免疫沈降アッセイの結果である。D1 IgE Fabは牛乳の未修飾β−ラクトグロブリンに結合する。1=低分子量マーカー;2〜5=タンパク質L−ビーズに固定化したD1 IgE fabと、未処理牛乳サンプル、+95℃で15分間加熱した牛乳サンプル、+95℃で30分間加熱した牛乳サンプル、および+95℃で60分間加熱した牛乳サンプル;6〜7=負の対照(即ち、空のタンパク質L−ビーズと、未処理牛乳サンプル、または+95℃で60分間加熱した牛乳サンプル);8=0.5μgの精製β−ラクトグロブリン(Sigma製);9=0.5μgの精製D1 IgE Fab。
【図8】図8は、競合的ELISAの結果である。ヒト IgG1サブタイプに属するD1 IgE Fab断片のβ−ラクトグロブリンに対する結合は、患者血清によって阻害される。
【図9】図9は、D1 IgE Fab-抗体のβ−ラクトグロブリンに対する結合を示す。(a)アレルゲン(灰色)と2つのIgE分子(軽鎖L、重鎖H)の結合の概略図である。
【図10】図10は、β−ラクトグロブリンエピトープの、1〜6と番号を付した種々のセグメントを示す。
【図11】図11は、D1 IgE Fabのβ−ラクトグロブリンに対する結合を示す、D1/IgE−Fab断片表面の側面図である。
【図12】図12は、β−ラクトグロブリンエピトープの表面と共に、D1 IgE FabのCDRループおよびβ−ラクトグロブリンに接触するD1 IgE Fabの残基を示す。
【図13】図13は、D1 IgE Fabのβ−ラクトグロブリンに対する結合(左)、IgG Fab 2JELのリン酸輸送タンパク質に対するIgG抗体−抗原型結合(中央)およびBV16/Fabの花粉アレルゲンBet v 1に対するIgG−アレルゲン型結合(右)を示す。
【図14】図14は、種々のアレルゲンに由来する潜在的なIgEエピトープを示す。Equ c 1、ウマ皮膚(Lascombe et al., 2000, J. Biol. Chem. 275(28):21572-21577);Bos d 5、β−ラクトグロブリン;Bet v 1、シラカバ花粉(Spangfort et al., 2003, J. Immunol. 171(6):3084-3090);Bos d 2、ウシ フケ(Rautiainen et al., 1998, Biochem. Biophys. Res. Commun. 247:746-750);Cyp c 1、コイ パルブアルブミン(Swoboda et al., 2002, J. Immunol. 168(9):4576-4584);およびHev b 6、ラテックス(WO02094878を参照)。平面状(平坦状)表面は太い横線/縦線で表した。
【図15】図15は、競合的ELISAの結果である。D1 IgE Fab断片のBLGに対する結合は、短いペプチドであるKRVGにより阻害される。Ctr1およびctr2はバックグラウンドとなる対照であり、ctr1は、D1 IgE Fabなしのインキュベーションで得られた結果であり、ctr2は、BLGなしの結果である(実施例4を参照)。
【図16】図16は、D1/Fab抗体の表面およびアレルゲンBLGのリボンモデルを示す。この図においては、D1/Fabに含まれる、ヘベイン結合性IgE抗体(クローンIC2)と同一の残基を薄いグレーで示し、異なる残基を濃いグレーで示した。a)正面図とb)側面図は、構造的に非常に異なるアレルゲンに結合する2種のIgE抗体軽鎖間に大きな類似性が存在することを示している。
【図17】平坦状エピトープ、凸状エピトープおよび凹状エピトープに結合する抗体。1列目に、溶媒排除表面(プローブ直径:10Å)を示した。プローブ球面が大きいため、表面はより大規模の特徴を示している。表面はガウス曲率に基づいて色分けした。平坦状の領域は白で示した。抗体はリボンモデルで示した。2列目に類似構造を示したが、ここでは表面は、エピトープに対応する相互作用表面を表している。
【図18】5種の異なるアレルゲンの分子表面(プローブ直径:10Å)を2つの方向から示した。表面は曲率に基づいて色分けし、平坦状領域は白で示した。IgE結合のための推定平坦状領域は左列の図に長方形で示した。側面図を右列に示し、左列と同じ領域の位置を線で示した。
【図19】rBLG−His6およびその変異体の精製。2回目のIMAC精製の後、タンパク質サンプルをクーマシー染色した15%SDS−PAGEゲル(β−メルカプトエタノール含有)で分析した。プールした画分を矢印で示した。
【図20】精製rBLG−His6およびその変異体をウエスタンブロッティングで分析し、続いてウサギ抗BLG抗体とヤギAFOS接合抗ウサギ抗体で検出した。3μgのタンパク質をウェルにロードした。レーン1=LMW、レーン2=未修飾BLG(Sigma製)、レーン3=rBLG−His6、レーン4=rBLG−His6 T18Y、およびレーン5=rBLG−His6 T18Y/E45Y/L57Y。
【図21】nBLG、rBLG−His6およびその変異体のCDスペクトルを示す。
【図22】D1 IgE Fabの種々のBLGに対する結合特性をELISAで分析した。ビオチン化したnBLG、rBLG−His6またはその変異体を、SA−マイクロタイターウェルに固定化した。結合したD1 IgE FabはAFOS接合ヤギ抗カッパ抗体で検出した。3重変異=rBLG−His6 T18Y/E45Y/L57Y変異体、Bsa=ウシ血清アルブミン、対照サンプルは、BLGを固定化したが、D1 IgE Fabを使用しない時に、抗カッパ−AFOS接合体によって得られるバックグラウンド値である。
【図23】アレルギー性ドナーと非アレルギー性ドナーから得たIgE血清サンプルの、種々のBLGに対する結合特性をELISAで分析した。ビオチン化したnBLG、rBLG−His6またはその変異体を、SA−マイクロタイターウェルに固定化した。結合したIgEは、AFOS接合ヤギ抗ヒトIgEで検出した。
【図24】nBLG、rBLG−His6およびその変異体の、BIAcoreによる解析。種々のBLGに結合する69.6nMのD1 IgE Fab溶液の結合曲線である。nBLG、rBLG−His6およびその変異体に対するD1 IgE Fabの会合定数および解離定数を計算し、表11に示した。
【配列表フリーテキスト】
【0117】
配列番号5: 配列中の第5番アミノ酸Xは任意のアミノ酸であり、第8番アミノ酸Xはセリンまたはスレオニンである。
配列番号6: 配列中の第3番〜第5番アミノ酸Xは任意のアミノ酸であり、第8番アミノ酸Xはセリンまたはスレオニンであり、第9番〜第11番アミノ酸Xは任意のアミノ酸である。
配列番号8: β−ラクトグロブリンのアミノ酸配列
配列番号9: ウシ組み換えBLG
配列番号10: ウシ組み換えBLG変異体
配列番号11: ウシ組み換えBLG変異体
配列番号12: PCR増幅用プライマー
配列番号13: PCR増幅用プライマー
配列番号14: PCR増幅用プライマー
配列番号15: PCR増幅用プライマー
配列番号16: PCR増幅用プライマー
配列番号17: PCR増幅用プライマー
配列番号18: PCR増幅用プライマー
配列番号19: PCR増幅用プライマー
配列番号20: PCR増幅用プライマー
配列番号21: PCR増幅用プライマー
配列番号22: PCR増幅用プライマー
配列番号23: PCR増幅用プライマー
配列番号24: PCR増幅用プライマー
配列番号25: PCR増幅用プライマー
配列番号26: PCR増幅用プライマー
配列番号27: PCR増幅用プライマー
配列番号28: PCR増幅用プライマー
配列番号29: PCR増幅用プライマー
配列番号30: PCR増幅用プライマー
配列番号31: PCR増幅用プライマー
配列番号32: PCR増幅用プライマー
配列番号33: PCR増幅用プライマー
配列番号34: PCR増幅用プライマー
配列番号35: PCR増幅用プライマー
配列番号36: PCR増幅用プライマー
配列番号37: PCR増幅用プライマー
配列番号38: PCR増幅用プライマー
配列番号39: PCR増幅用プライマー
配列番号40: PCR増幅用プライマー
配列番号41: PCR増幅用プライマー
配列番号42: PCR増幅用プライマー
配列番号43: PCR増幅用プライマー
配列番号44: PCR増幅用プライマー
配列番号45: PCR増幅用プライマー
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配列番号47: PCR増幅用プライマー
配列番号48: PCR増幅用プライマー
配列番号49: PCR増幅用プライマー
配列番号50: PCR増幅用プライマー
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配列番号53: PCR増幅用プライマー
配列番号54: PCR増幅用プライマー
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配列番号57: PCR増幅用プライマー
配列番号58: PCR増幅用プライマー
配列番号59: PCR増幅用プライマー
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配列番号65: PCR増幅用プライマー
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配列番号69: PCR増幅用プライマー
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配列番号92: PCR増幅用プライマー
配列番号93: PCR増幅用プライマー
配列番号94: PCR増幅用プライマー
配列番号95: PCR増幅用プライマー
配列番号96: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号97: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号98: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号99: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号100: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号101: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号102: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号103: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号104: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号105: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号106: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号107: CDR−L1領域の保存性ペプチド配列
配列番号108: CDR−L2領域の保存性ペプチド配列
配列番号109: CDR−L2領域の保存性ペプチド配列
配列番号110: CDR−L2領域の保存性ペプチド配列
配列番号111: CDR−L2領域の保存性ペプチド配列
配列番号112: CDR−L2領域の保存性ペプチド配列
配列番号113: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号114: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号115: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号116: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号117: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号118: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号119: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号120: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号121: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号122: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号123: CDR−L3領域の保存性ペプチド配列
配列番号124: PCR増幅用プライマー
配列番号125: PCR増幅用プライマー
配列番号126: PCR増幅用プライマー
配列番号127: PCR増幅用プライマー
配列番号128: PCR増幅用プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾アレルゲン性ポリペプチドを製造するための方法であって、
(a)アレルゲン性ポリペプチドをコードする核酸配列を修飾し、それにより、修飾した核酸から発現される修飾アレルゲン性ポリペプチドにおいて、該アレルゲン性ポリペプチドの平面状(平坦状)I型表面の構造が改変され、且つ該アレルゲン性ポリペプチド特異的なIgE抗体の該修飾アレルゲン性ポリペプチドに対する親和性が、アレルゲンに対する親和性の10分の1以下に低下し、そして
(b)該修飾核酸から修飾アレルゲン性ポリペプチドを発現させるか、または該修飾核酸を用いて修飾アレルゲン性ポリペプチドを製造する
ことを包含する方法。
【請求項2】
該アレルゲン性ポリペプチドが、以下のa)〜f)からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
a) Bos d 5,β−ラクトグロブリン、
b) Equ c 1,ウマ 皮膚、
c) Bet v 1,シラカバ 花粉、
d) Bos d 2,ウシ フケ、
e) Cyp c 1,コイ パルブアルブミン、および
f) Hev b 6,ラテックス。
【請求項3】
免疫療法に使用するための、請求項1または2の方法で得られた修飾アレルゲン性ポリペプチド。
【請求項4】
アレルゲンの平面状(平坦状)I型表面構造に結合し、該アレルゲンに対する特異的IgE抗体の結合を阻害または防止する分子を同定するための方法であって、
(a)アレルゲン性エピトープを有する粒子に、結合性分子候補物質を接触させ、そして
(b)該アレルゲンの平面状(平坦状)I型表面に結合する結合性分子候補物質を単離する
ことを包含する方法。
【請求項5】
該アレルゲン性ポリペプチドが、以下のa)〜f)からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
a) Bos d 5,β−ラクトグロブリン、
b) Equ c 1,ウマ 皮膚、
c) Bet v 1,シラカバ 花粉、
d) Bos d 2,ウシ フケ、
e) Cyp c 1,コイ パルブアルブミン、および
f) Hev b 6,ラテックス。
【請求項6】
該分子がペプチドであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
組み換えIgEモノクローナル抗体を単離するための方法であって、
a)ヒト由来サンプルのIgE産生細胞からmRNAを単離し、
b)IgE Fd遺伝子領域およびカッパ/ラムダ軽鎖遺伝子をコードするcDNAを合成して、IgE発現ライブラリーを構築し、
c)アレルゲンに固有の平面状(平坦状)I型表面を有するポリペプチドまたはタンパク質に対して発現ライブラリーをスクリーニングし、該平面状表面に対して107 -1を超える中度から高度の親和性を示すクローンを単離し、そして
d)上記工程c)で得たIgE抗体をコードするDNAを単離する
ことを包含する方法。
【請求項8】
該アレルゲン性ポリペプチドが、以下のa)〜f)からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
a) Bos d 5,β−ラクトグロブリン、
b) Equ c 1,ウマ 皮膚、
c) Bet v 1,シラカバ 花粉、
d) Bos d 2,ウシ フケ、
e) Cyp c 1,コイ パルブアルブミン、および
f) Hev b 6,ラテックス。
【請求項9】
該アレルゲン性ポリペプチドが、β−ラクトグロブリン(配列番号8)であり、該平面状表面が、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造座標または三次元座標によって定義されるものであることを特徴とする、請求項1、4または7に記載の方法。
【請求項10】
平面状アレルゲン性エピトープを有する特定アレルゲンに対する寛容状態を患者に誘導するための方法であって、
a)特異的IgE抗体のエピトープに対するアレルゲンの親和性を10分の1以下に低下させる変異によって、アレルゲンの平面状表面を破壊し、
b)変異したアレルゲンを製造し、そして
c)変異したアレルゲンを、患者に1回または複数回、好ましくは非経口的に投与する
ことを包含する方法。
【請求項11】
β−ラクトグロブリン(配列番号8)のアレルゲン性エピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル抗体、あるいは該結合特異性を有する、その機能的断片または誘導体である、モノクローナル抗体。
【請求項12】
該機能的断片が、scFv断片、Fv断片、VHドメイン、VLドメイン、Fab断片またはこれらの誘導体であることを特徴とする、請求項11に記載のモノクローナル抗体。
【請求項13】
β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープが、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸である、β−鎖AのTrp19とTyr20およびβ−鎖BのGlu44の構造座標によって定義されるものであることを特徴とする、請求項11に記載のモノクローナル抗体。
【請求項14】
β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープが、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるアレルゲン性β−ラクトグロブリンのコアエピトープおよび伸長エピトープの少なくとも1種の構造座標によってさらに定義されるものであり、該コアエピトープは、β−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるTrp19−Tyr20、Val43−Lys47、Leu57−Gln59、Cys66−Gln68、Pro126−Glu127およびThr154−Glu157からなる群より選ばれるものであり、該伸長エピトープは、β−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるThr18−Tyr20、Tyr42−Lys47、Glu55−Gln59、Glu65−Lys70、Thr125−Glu127およびThr154−His161からなる群より選ばれるものであることを特徴とする、請求項13に記載のモノクローナル抗体。
【請求項15】
該抗体またはその断片が、配列番号2に示したCDR−H3ループのArg101を、β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープに対する抗体の結合における基本残基として含有することを特徴とする、請求項11に記載のモノクローナル抗体。
【請求項16】
該抗体がIgEクラスの抗体であることを特徴とする、請求項11に記載のモノクローナル抗体。
【請求項17】
図4(配列番号2)に示したアミノ酸配列および図5(配列番号4)に示したアミノ酸配列からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列を包含することを特徴とする、請求項11に記載のモノクローナル抗体。
【請求項18】
請求項11のモノクローナル抗体、その断片または誘導体をコードする、単離されたDNA分子。
【請求項19】
ベクターにクローニングされてなることを特徴とする、請求項18に記載の単離されたDNA分子。
【請求項20】
請求項18または19のDNA分子を含有する宿主細胞。
【請求項21】
請求項11に記載のモノクローナル抗体、その断片または誘導体を発現する、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項22】
該宿主細胞が、昆虫細胞、哺乳動物細胞、線虫細胞または植物細胞であることを特徴とする、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項23】
請求項11〜17のいずれかのモノクローナル抗体、その断片または誘導体を製造するための方法であって、
該モノクローナル抗体またはその断片の発現に適した条件下において、請求項20の宿主細胞を培養し、そして
該細胞の産生した抗体、抗体断片または誘導体を回収する
ことを包含する方法。
【請求項24】
回収した抗体またはその誘導体を標識する工程をさらに包含する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項11のモノクローナル抗体またはその断片を製造するための方法であって、モノクローナル抗体、その断片または誘導体を合成によって製造することを包含する方法。
【請求項26】
請求項11のモノクローナル抗体またはその断片を製造するための方法であって、請求項11のモノクローナル抗体、その断片または誘導体を、in vitro の発現または翻訳によって得ることを包含する方法。
【請求項27】
請求項11の抗体断片を、表面タンパク質または膜関連タンパク質との融合タンパク質として提示するファージまたは微生物細胞。
【請求項28】
請求項11の抗体、その断片または誘導体をコードする核酸を得るための方法であって、請求項27のファージまたは細胞から核酸を単離することを包含する方法。
【請求項29】
請求項11の抗体断片を選択するための方法であって、請求項27のファージまたは細胞を含む抗体断片ディスプレイライブラリーから抗体断片を選択することを包含する方法。
【請求項30】
サンプル中のβ−ラクトグロブリンを検出するための方法であって、
サンプルを提供し、そして
請求項11のモノクローナル抗体、その断片または誘導体を用いて、β−ラクトグロブリンを検出する
ことを包含する方法。
【請求項31】
修飾β−ラクトグロブリンポリペプチドまたはその誘導体を製造するための方法であって、
(a)β−ラクトグロブリンポリペプチドをコードする核酸配列を修飾し、それにより、修飾した核酸から発現される修飾β−ラクトグロブリンポリペプチドにおいて、該β−ラクトグロブリンポリペプチドのアレルゲン性エピトープの構造が改変され、そして
(b)該修飾核酸から修飾β−ラクトグロブリンポリペプチドを発現させるか、または該修飾核酸を用いて修飾β−ラクトグロブリンポリペプチドを製造する
ことを包含する方法。
【請求項32】
上記工程(b)が、適切な宿主細胞内の該修飾核酸を培養系内で発現させて、培養物から該修飾β−ラクトグロブリンポリペプチドを単離する工程、あるいは該修飾β−ラクトグロブリンポリペプチドを合成する工程をさらに包含することを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープが、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸である、β−鎖AのTrp19とTyr20およびβ−鎖BのGlu44の構造座標によって定義されるものであることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
工程(b)の後に単離された該修飾β−ラクトグロブリンのアレルギー誘発性を試験する工程をさらに包含する、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
下記アミノ酸配列を有することを特徴とする、ペプチド。
LLIYXASS/T (配列番号4)
(式中、Xは任意のアミノ酸である。)
【請求項36】
下記アミノ酸配列を有することを特徴とする、ペプチド。
LLXXXASS/TXXX (配列番号5)
(式中、Xは任意のアミノ酸である。)
【請求項37】
下記アミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項36に記載のペプチド。
LLIYAASSLQS (配列番号6)。
【請求項38】
請求項35〜37のいずれかに記載のペプチド配列を含むアミノ酸配列をコードする核酸を包含する保存されたIgE軽鎖を、IgE重鎖プールと組み合わせることを包含する、IgE抗体ライブラリーの製造方法。
【請求項39】
該IgE抗体ライブラリーが、アレルゲンに対するフォーカスドIgE抗体ライブラリーであることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
β−ラクトグロブリン(配列番号8)のアレルゲン性エピトープを含む分子または分子複合体に対する化学物質の結合能を評価するための方法であって、該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸である、β−鎖AのTrp19とTyr20およびβ−鎖BのGlu44の構造座標によって定義されものであり、以下の工程を包含することを特徴とする方法。
(i)化学物質と、分子または分子複合体に含まれるβ−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープとのフィッティング操作を、計算手段を用いて実施し、そして
(ii)該フィッティング操作の結果を解析することにより、化学物質とβ−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープとの会合を定量化する。
【請求項41】
β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープが、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるアレルゲン性β−ラクトグロブリンのコアエピトープおよび伸長エピトープの少なくとも1種の構造座標によってさらに定義されるものであり、該コアエピトープは、β−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるTrp19−Tyr20、Val43−Lys47、Leu57−Gln59、Cys66−Gln68、Pro126−Glu127およびThr154−Glu157からなる群より選ばれるものであり、該伸長エピトープは、β−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるThr18−Tyr20、Tyr42−Lys47、Glu55−Gln59、Glu65−Lys70、Thr125−Glu127およびThr154−His161からなる群より選ばれるものであることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
該化学物質がCDR3ミメトープであることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープを含む分子または分子複合体に対する化学物質の結合能を評価するための方法であって、該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造座標によって定義されるものであり、以下の工程を包含することを特徴とする方法。
(i)化学物質と、分子または分子複合体に含まれるβ−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープとのフィッティング操作を、計算手段を用いて実施し、そして
(ii)該フィッティング操作の結果を解析することにより、化学物質とβ−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープとの間の会合を定量化する。
【請求項44】
β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープが、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるアレルゲン性β−ラクトグロブリンのコアエピトープおよび伸長エピトープの少なくとも1種の構造座標によってさらに定義されるものであり、該コアエピトープは、β−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるTrp19−Tyr20、Val43−Lys47、Leu57−Gln59、Cys66−Gln68、Pro126−Glu127およびThr154−Glu157からなる群より選ばれるものであり、該伸長エピトープはβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるThr18−Tyr20、Tyr42−Lys47、Glu55−Gln59、Glu65−Lys70、Thr125−Glu127およびThr154−His161からなる群より選ばれるものであることを特徴とする、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
該化学物質がLCDR2ミメトープであることを特徴とする、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープに結合する分子を同定するための方法であって、該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸である、β−鎖AのTrp19とTyr20およびβ−鎖BのGlu44の構造座標によって定義されるものであり、以下の工程を包含することを特徴とする方法。
(a)β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープを含む分子に、結合性分子候補物質を接触させ、そして
(b)β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープに結合した結合性分子候補物質を単離する。
【請求項47】
アフィニティークロマトグラフィーによって実施することを特徴とする、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープに結合する分子を同定するための方法であって、該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造座標によって定義されるものであり、以下の工程を包含することを特徴とする方法。
(a)β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープを含む分子に、結合性分子候補物質を接触させ、そして
(b)β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープに結合した結合性分子候補物質を単離する。
【請求項49】
アフィニティークロマトグラフィーによって実施することを特徴とする、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープとそのリガンドとの間の結合に対するモジュレーターを同定するための方法であって、β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸である、β−鎖AのTrp19とTyr20およびβ−鎖BのGlu44の構造座標によって定義されるものであり、以下の工程を包含することを特徴とする方法。
(a)推定モジュレーター化合物の存在下および不存在下において、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープを含む分子とそのリガンドとを接触させ、
(b)該推定モジュレーター化合物の存在下および不存在下において、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープとそのリガンドとの結合を検出し、そして
(c)該推定モジュレーター化合物の存在下におけるβ−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープとそのリガンドとの結合が、該推定モジュレーター化合物の不存在下における結合と比べて減少または増加していることを指標として、モジュレーター化合物を同定する。
【請求項51】
以下の工程(d)をさらに包含する、請求項50に記載の方法。
(d)上記工程(c)で同定したモジュレーターを、薬学的に許容される担体と共に処方することにより、モジュレーター組成物を製造する。
【請求項52】
該リガンドが、請求項11のモノクローナル抗体またはその断片であることを特徴とする、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープとそのリガンドとの間の結合に対するモジュレーターを同定するための方法であって、β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造座標によって定義されるものであり、以下の工程を包含することを特徴とする方法。
(a)推定モジュレーター化合物の存在下および不存在下において、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープを含む分子とそのリガンドとを接触させ、
(b)該推定モジュレーター化合物の存在下および不存在下において、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープとそのリガンドとの結合を検出し、そして
(c)該推定モジュレーター化合物の存在下におけるβ−ラクトグロブリンアレルゲン性エピトープとそのリガンドとの結合が、該推定モジュレーター化合物の不存在下における結合と比べて減少または増加していることを指標として、モジュレーター化合物を同定する。
【請求項54】
以下の工程(d)をさらに包含する、請求項53に記載の方法。
(d)上記工程(c)で同定したモジュレーターを、薬学的に許容される担体と共に処方することにより、モジュレーター組成物を製造する。
【請求項55】
該リガンドが、請求項11のモノクローナル抗体またはその断片であることを特徴とする、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープの三次元画像を作製するためのコンピューターであって、
符号化したコンピューター読み取り可能データが記録されたデータ保存材料を包含するコンピューター読み取り可能データ保存媒体であって、該データは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸である、β−鎖AのTrp19とTyr20およびβ−鎖BのGlu44の構造座標を包含し、
該コンピューター読み取り可能データを処理するための命令を保存するためのワーキングメモリー、
該ワーキングメモリーおよび該コンピューター読み取り可能なデータ保存媒体に接続された、コンピューター読み取り可能データを処理して該三次元画像として出力するための中央処理装置、および
該三次元画像を表示するための、該中央処理装置に接続されたディスプレイ
を包含するコンピューター。
【請求項57】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープの三次元画像を作製するためのコンピューターであって、
符号化したコンピューター読み取り可能データが記録されたデータ保存材料を包含するコンピューター読み取り可能データ保存媒体であって、該データは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造座標を包含し、
該コンピューター読み取り可能データを処理するための命令を保存するためのワーキングメモリー、
該ワーキングメモリーおよび該コンピューター読み取り可能データ保存媒体に接続された、コンピューター読み取り可能データを処理して該三次元画像として出力するための中央処理装置、および
該三次元画像を表示するための、該中央処理装置に接続されたディスプレイ
を包含するコンピューター。
【請求項58】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体、その断片または誘導体のCDR3領域を包含する融合タンパク質であって、β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸である、β−鎖AのTrp19とTyr20およびβ−鎖BのGlu44の構造座標によって定義されるものであることを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項59】
配列番号2に示したCDR−H3ループのArg101を、融合タンパク質とそのリガンドとの結合における基本残基として含有することを特徴とする、請求項58に記載の融合タンパク質。
【請求項60】
ポリペプチドのクレフト認識用であることを特徴とする、請求項58の融合タンパク質。
【請求項61】
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体、その断片または誘導体のLCDR2領域を包含する融合タンパク質であって、β−ラクトグロブリンの該アレルゲン性エピトープは、抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造座標によって定義されるものであることを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項62】
請求項58または61の融合タンパク質を製造するための方法であって、
β−ラクトグロブリンのアレルゲン性エピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体、その断片または誘導体のCDR3領域またはLCDR2領域と担体タンパク質とを融合タンパク質としてコードする組み換え核酸を作製し、
培養中の宿主内で該核酸を発現させ、そして
該融合タンパク質を培養物から単離する
ことを包含する方法。
【請求項63】
該担体タンパク質が、任意のアイソタイプの抗体、その断片またはその誘導体であることを特徴とする、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
生物サンプル中のβ−ラクトグロブリンの定性的および定量的な測定に使用するための、請求項11の抗体。
【請求項65】
修飾アレルゲン性ポリペプチドを製造するための方法であって、
(a)アレルゲン性ポリペプチドに含まれる潜在的なIgE結合部位を構造解析または分子モデリングによって検出し、
(b)抗体−β−ラクトグロブリン免疫複合体に含まれるβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸であるVal43−Lys47とLeu57−Gln59、およびこれらβ−ラクトグロブリン由来アミノ酸の近傍のアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の三次元座標によって定義される平面状表面と類似した、表面積が600〜900Å2の平面状または平坦状の表面構造が該潜在的なIgE結合部位に含まれるか否かを、該アレルゲン性ポリペプチドの三次元構造の計算機解析によって決定し、β−ラクトグロブリンに見られる構造と類似した平面状または平坦状の表面が検出された場合には、さらに以下の工程を実施する:
(c)該アレルゲン性ポリペプチドをコードする核酸配列を修飾し、それにより、修飾した核酸から発現される修飾アレルゲン性ポリペプチドにおいて、該アレルゲン性ポリペプチドの平面状または平坦状表面の構造が改変され、そして
(d)上記工程c)で得た該修飾核酸から修飾アレルゲン性ポリペプチドを発現させるか、または該修飾核酸を用いて修飾アレルゲン性ポリペプチドを製造する
ことを包含する方法。
【請求項66】
工程(b)において、該アレルゲン性ポリペプチドの三次元構造を、β−ラクトグロブリンの三次元構造と比較することを特徴とする、請求項65に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2010−521138(P2010−521138A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546784(P2009−546784)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050026
【国際公開番号】WO2008/092992
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(501374390)バルティオン テクニリーネン トゥトキムスケスクス (16)
【住所又は居所原語表記】Vuorimiehentie 5, Fin−02150, Espoo, Finland
【Fターム(参考)】