説明

アンカーボルト切断工具

【課題】アンカーボルトを安全且つ容易に切断できるアンカーボルト切断工具を提供する。
【解決手段】アンカーボルト切断工具10は、構造躯体2に打ち込んだアンカーボルト1に切断工具10を固定する固定具3と2枚のカム板5,6とカム板5,6に取り付けたカッター7を備え、カム板5を回転させるとカッター7の回転軸7aがアンカーボルト1の周りを周りながらアンカーボルト1の芯に近づく方向に移動しアンカーボルト1を切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、構造躯体の天井や壁に打ち込んだアンカーボルトを切断するアンカーボルト切断工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、汚水処理施設の建屋内に比較的大型の制御盤を搬入する際、構造躯体の天井や壁にアンカーボルトを打ち込んで、ワイヤーを張設し、制御盤の吊ボルトにワイヤーを通して、制御盤の転倒を防止している。
【0003】
そして、制御盤の搬入後、ワイヤーを取り外してアンカーボルトを切断する。この際、ディスクグラインダーやサンダーを用いてアンカーボルトを切断し、切断面を躯体表面と面一になるように研磨する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
天井や壁に打ち込んだアンカーボルトをディスクグラインダーやサンダーで切断する場合、切断したボルトが落下して作業員に危険が及ぶ可能性があった。
【0005】
よって、アンカーボルトを安全且つ容易に切断できるアンカーボルト切断工具の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係るアンカーボルト切断工具は、回転させた刃を、構造躯体に打ち込まれたアンカーボルトの周りで移動させるとともに、アンカーボルトの芯に向けて移動させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、第1の実施形態に係るアンカーボルト切断工具の概略図である。
【図2】図2は、図1のアンカーボルト切断工具の2枚のカム板の機能を説明するための図である。
【図3】図3は、第2の実施形態に係るアンカーボルト切断工具の概略図である。
【図4】図4は、図3のアンカーボルト切断工具の機能を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら実施形態について詳細に説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1に示すように、第1の実施形態に係るアンカーボルト切断工具10(以下、単に、切断工具10と称する)は、構造躯体2に打ち込んだアンカーボルト1に切断工具10を固定する固定具3(固定手段)を有する。この固定具3は、固定リング3aを固定してナット3bを締めることで、切断工具10をアンカーボルト1に固定する。固定具3による切断工具10の固定位置は、アンカーボルト1の軸方向に沿った任意の位置に設定できる。図1では、アンカーボルト1の切断位置より図中上方に切断工具10を固定した状態を図示してある。
【0010】
固定具3は、アンカーボルト1に環装した円筒状のスペーサー4を軸方向に挟んで2個取り付けられている。そして、これら2つの固定具3の間のスペーサー4の周りには、2枚のカム板5、6が回転可能に取り付けられている。言い換えると、2つの固定具3をアンカーボルト1に固定した状態で、2枚のカム板5、6は、アンカーボルト1に対して独立して同軸に回転可能となっている。好ましくは、2枚のカム板5、6は、図示しないベアリングを介してスペーサー4に取り付けられる。
【0011】
図2に示すように、2枚のカム板5、6には、それぞれカム孔5a、6aが形成されている。図2では、2枚のカム板5、6を重なった状態で図示してある。図1でカム板6の上に重ねられたカム板5(第1回転板)のカム孔5a(第1カム孔)は、カム板5の径方向に延設されている。また、下方に重ねられたカム板6(第2回転板)のカム孔6a(第2カム孔)は、カム板6の回転によってその中心に近づく螺旋状に形成されている。
【0012】
重なったカム孔5a、6aには、カッター7(刃)の回転軸7aが挿通されている。このため、例えば、カム板6を固定した状態で、カム板5を図2で反時計周り方向に回転させると、カッター7の回転軸7aがアンカーボルト1の周りを周りながらアンカーボルト1の芯に近づく方向に移動する。或いは、2枚のカム板5、6を同時に回転させることで、カッター7の回転軸7aをアンカーボルト1の周りで回転させることができる。
【0013】
つまり、2枚のカム板5、6のカム孔5a、6aは、カッター7をアンカーボルト1の周りで移動させる第1移動手段として機能するとともに、カッター7をアンカーボルト1の芯に向けて移動させる第2移動手段として機能する。このため、2枚のカム板5、6を組み合わせて使うと、カッター7をアンカーボルト1の周囲の任意の位置に配置でき、且つカッター7をアンカーボルト1の芯に対して任意の距離で近づけることができる。
【0014】
カッター7の回転軸7aは、図1でカム板5の上方に配置されたスリーブ8aおよびカム板6の下方に配置されたスリーブ8b内に回転可能に挿通配置されている。円板状のカッター7は、スリーブ8bの図示下端で回転軸7aに取り付けられている。また、回転軸7aの他端(図1で上端)には、回転軸7aに回転駆動力を伝達するためのアダプター9が取り付けられている。このアダプター9には、モーターなどの図示しない回転駆動源(回転手段)が接続される。或いは、ディスクグラインダーなどが直接取り付けられても良く、アダプター9の代りにモーター9(回転手段)を取り付けても良い。
【0015】
図1で下方に重ねられたカム板6の図示下面には、ストッパー11が突設されている。ストッパー11は、カッター7の切断位置をアンカーボルト1の根元ギリギリに設定するよう、その長さが決められている。つまり、ストッパー11のカム板6から離間した下端11aが構造躯体2の表面2aに当接した状態(図示せず)で、カッター7が表面2aに僅かな隙間を介して近接する長さに設定されている。
【0016】
また、カッター7の直径、カム板5、6に形成したカム孔5a、6aの長さや形状は、カッター7がアンカーボルト1を完全に切断しない値に設計されている。つまり、カッター7を回転させて2枚のカム板5、6を所定の位置に回転させ、カッター7の外周をアンカーボルト1の芯に最も近づけた状態で、カッター7の外周が芯に届かない値に設計されている。
【0017】
以下、上記構造の切断工具10を用いたアンカーボルト1の切断動作について説明する。
【0018】
まず、2つの固定具3により、切断工具10をアンカーボルト1に固定する。この際、作業員は、切断工具10のスリーブ4にアンカーボルト1を通して、ストッパー11の先端11aを躯体表面2aに突き当てて、固定具3、3を締めて切断工具10をアンカーボルト1に固定する。この状態で、カッター7が躯体表面2aに近接して配置される。
【0019】
そして、作業員は、この後、カッター7を回転させるとともに、カム板6の外周縁に取り付けられたツマミ6b、およびカム板5の外周縁に取り付けられたツマミ5bを操作して、2枚のカム板5、6を所望する方向および角度で回転させる。
【0020】
例えば、カム板6を固定してカム板5を図2で反時計周り方向に回転させてカッター7をアンカーボルト1に近付けて、カッター7の外周縁をアンカーボルト1の外周面に接触させる。この状態から、カム板6を固定したままカム板5を僅かに反時計周りに回転させてアンカーボルト1の外周面に僅かに切り込みを入れる。さらに、今度は、2枚のカム板5、6を一緒にしてアンカーボルト1の周りで1回転させる。
【0021】
以上の動作をカッター7がアンカーボルト1の芯に最も近づくまで実施する。この状態で、切断工具10は、完全に切断されていないアンカーボルト1に固定されている。つまり、この状態から、切断工具10を抉ってアンカーボルト1の切断しきれていない残りの部位を折り、アンカーボルト1を切り離す。言い換えると、この状態で切断工具10を作業員が抉る程度の力で切り離すことができる程度にアンカーボルト1を切断しておく。
【0022】
アンカーボルト1を構造躯体2から切り離した後、躯体表面2aには、アンカーボルトの芯を折った後のバリなどが残っている。このため、仕上げ処理として、このバリをサンダーなどで削って躯体表面2aと面一にする。
【0023】
以上のように、本実施形態によると、アンカーボルト1の切断位置を作業員が目視等で判断して切断工具10の固定位置を調整する必要がなく、ストッパー11の先端を躯体表面2aに当接せしめるだけで切断工具10を適切な切断位置に配置でき、アンカーボルト1を根元近くで容易に切断することができる。
【0024】
また、本実施形態によると、2つの固定具3、3によりアンカーボルト1を保持したまま構造躯体2から切り離すことができ、切断したアンカーボルト1が落下する心配がない。このため、作業員に危険が及ぶこともない。
【0025】
図3(a)には、第2の実施形態に係るアンカーボルト切断工具20(以下、単に、切断工具20と称する)をアンカーボルト1の軸方向から見た要部概略図を示してある。また、図3(b)には、図3(a)の構造を側方から見た概略図を示してある。
【0026】
この切断工具20をアンカーボルト1に取り付ける場合、まず、アンカーボルト1に円環板状の保護板22を装着する。この保護板22は、後述するドリルビット24(刃)によって躯体表面2aが切削されてしまう不具合を防止するよう機能する。
【0027】
そして、保護板22の次に、略円筒形の回転ホルダー26を装着する。さらに、回転ホルダー26の内周に形成された段部26aに摺動リング27が設置され、その上に、ロックナット28が固定される。回転ホルダー26には、ドリルビット24が取り付けられている。ドリルビット24は、躯体表面2aに対して傾斜した方向に延設されて回転ホルダー26によって保持されており、モーター24a(回転手段)によって回転される。
【0028】
回転ホルダー26は、ドリルビット24をアンカーボルト1の周りで移動させる第1移動手段として機能する。また、回転ホルダー26は、ドリルビット24を軸方向に移動可能に保持している。つまり、回転ホルダー26は、ドリルビット24をアンカーボルト1の芯に向けて移動させる第2移動手段としても機能する。
【0029】
回転ホルダー26の内周には、摺動リング27を設置するための段部26aが形成されている摺動リング27は、その断面が三角形の環状に形成されており、その上端が尖っている。つまり、リングの上に配置されるロックナット28の下端面に対し、摺動リング27の接触面が極めて小さくされており、両者間に作用する摩擦力が極めて小さくされている。
【0030】
上記構造の切断工具20を用いてアンカーボルト1を切断する際には、ドリルビット24をモーター24aで回転させ、図4(a)および図4(b)に示すように、アンカーボルト1の周りの複数個所にドリルビット24を配置し、それぞれの位置で、アンカーボルト1を切削する。このとき、回転ホルダー26は、ドリルビット24の軸方向への移動を許容する。しかし、回転ホルダー26は、ドリルビット24がアンカーボルト1の芯に到達しない位置でドリルビット24の軸方向への移動を規制する。
【0031】
アンカーボルト1の略全周に亘ってドリルビット24による切削を実施した後、ロックナット28でアンカーボルト1を固定したままの状態で、切断工具20を作業員が抉り、アンカーボルト1を構造躯体2から切り離す。つまり、本実施形態においても、切断したアンカーボルト1が脱落する心配がない。
【0032】
そして、第1の実施形態と同様に、アンカーボルト1の切断後に残ったバリなどは、サンダーなどを用いて除去される。
【0033】
以上のように、本実施形態によると、上述した第1の実施形態と同様の効果を奏することができ、切断したアンカーボルト1の脱落を防止できる。また、保護板22の作用により、アンカーボルト1の切断位置を調整する必要がなく、アンカーボルト1を根元近くで容易且つ確実に切断することができる。
【0034】
以上述べた少なくともひとつの実施形態のアンカーボルト切断工具10、20によれば、アンカーボルト1を切断する刃7、24をアンカーボルト1の周りで回転させるとともにアンカーボルト1の芯に近づけるための構造を有するため、アンカーボルト1を完全に切断することなく保持でき、アンカーボルト1の脱落を防止できる。
【0035】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0036】
例えば、上述した実施形態では、アンカーボルト1を切断する工具について説明したが、これに限らず、他の工具に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0037】
1…アンカーボルト、2…構造躯体、2a…躯体表面、3…固定具、4…スペーサー、5、6…カム板、5a、6a…カム孔、7…カッター、9…アダプター、10、20…アンカーボルト切断工具、11…ストッパー、22…保護板、24…ドリルビット、26…回転ホルダー、27…摺動リング、28…ロックナット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃を回転させる回転手段と、
構造躯体に打ち込まれたアンカーボルトの周りで上記刃を移動させる第1移動手段と、
上記刃を上記アンカーボルトの芯に向けて移動させる第2移動手段と、
を有するアンカーボルト切断工具。
【請求項2】
当該アンカーボルト切断工具を上記アンカーボルトに固定する固定手段をさらに有する請求項1のアンカーボルト切断工具。
【請求項3】
上記第1および第2移動手段は、上記アンカーボルトと同軸に回転可能に設けられた、径方向に延びた第1カム孔を有する第1回転板、および回転とともに中心に近づく螺旋状の第2カム孔を有する第2回転板を有し、
上記回転手段の回転軸が上記第1カム孔および第2カム孔に挿通配置されている、
請求項1のアンカーボルト切断工具。
【請求項4】
上記刃は、上記構造躯体の表面に対して傾斜した方向に延設されたドリルビットであり、
上記第2移動手段は、上記ドリルビットをその回転軸に沿って上記アンカーボルトの芯に向けて移動させる、
請求項1のアンカーボルト切断工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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