説明

アンチモンおよび銀の硫化物の化合物またはアンチモンおよび銅の硫化物の化合物をベースとする吸収層を備えた固体光起電装置

【課題】 低い作成コストで、十分な光起電性能を保つ、三つの全固体無機成分(二つの透明n型半導体および透明p型半導体、そして一つの吸収体)をベースとする相互浸透構造の固体光起電装置を提供すること。
【解決手段】 固体光起電装置は、透明n型半導体化合物と、透明p型半導体化合物と、互いに接触しない透明n型半導体化合物および透明p型半導体化合物の間の連続層として存在する少なくとも一つの吸収体化合物の組成と、を含む3つの無機固体材料を備え、透明n型半導体化合物またはp型半導体化合物の一方は複数の孔1を備えた多孔性基板1として存在し、複数の孔1の内面は吸収体化合物の薄い連続な吸収層2により全体がカバーされており、複数の孔1は少なくとも10%より大きな体積比で透明p型半導体化合物または透明n型半導体化合物の他方で出来たカバー層3で満たされており、吸収層2は少なくともアンチモンおよび銀の硫化物をベースとする一つの化合物またはアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする一つの化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明n型半導体化合物と、透明p型半導体化合物と、および互いに接触していない前記透明n型半導体化合物および前記透明p型半導体化合物の間に配置された連続層として存在する少なくとも一つの吸収体化合物の組成と、の3つの無機固体材料を備え、前記透明n型半導体化合物または前記p型半導体化合物の一方は10nmと100nmの間の大きさの孔を備える多孔性基板として存在し、前記孔の内面は前記吸収体化合物の薄い連続な吸収層によって全体がカバーされており、前記孔は少なくとも10%より大きな体積比で前記透明p型半導体化合物または前記透明n型半導体化合物の他方で出来たカバー層により満たされている固体光起電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られた光起電装置は、一つはp型(主な電荷キャリアは正孔または正電荷である)、もう一つはn型(主な電荷キャリアは電子または負電荷である)の、二つの半導体層の接合で構成されている。最も広く使用されている光起電装置は、シリコン(Si)をベースとするもので、二つの層がSiで出来ており、一方の層がn型にドープされ他方の層がp型にドープされたホモ接合で構成されている。他にも、光起電装置として、二つの層が二つの異なる半導体材料で出来たヘテロ接合に基づいた、CdTe/CdSまたはCuInSe/CdSの層を備える装置などが知られている。これら二つのタイプの装置は、平積層構造で作成される。最終的な装置には、これら二つの半導体層に加え、表裏の接触のための接触層やバッファ層などといった他の追加層が存在出来るが、常に平積層に基づいた構造を保っている。このタイプの装置の動作原理は次のようである。太陽放射が接合の内部を貫く時、光子が半導体層内で吸収され、電子/正孔対に変換され、電荷分離が起き、そして、電子がn側接触に移動し、正孔がp側接触に移動する。
【0003】
このタイプの接合の一つの問題点は、電荷再結合による損失を避けるために、高い純度と非常によく制御されたドープレベルを持つ材料を使用する必要があることである。実際、反対の電荷の二つのキャリアは同じ材料に沿って移動し、不純物、格子欠陥、粒界などといった再結合中心の存在の下で再結合することが出来、電気に変換されない。この再結合現象は光起電性能の重要な損失因子である。高純度への精製および正確なドープについてのステップでは、洗練された技術が使用されることから、作成コストが大幅に上昇する。しかしながら、このタイプの光起電装置を、家庭用光起電エネルギー発生機として家の屋根の上で使用する大きな面のパネルとして設計する場合、コストは非常に重要な制約である。このようなシステムの典型的な公称パワーはおよそ1−5キロワット(最大パワー点で)であり、典型的なおよそ10%の公称光起電効率では、パネル面はおよそ10から30mになる。
【0004】
p−nヘテロ接合に基づいたこれらの装置について、他には、Cd、SeまたはTeを含むような有毒な化合物の使用、または、Inのような天然存在度の低い元素の使用の問題がある。
【0005】
硫化アンチモンベースの(特に)量子ドットで作られた相互浸透の太陽電池の例が非特許文献1に記載されているが、不安定な成分である液体電解質を使用している不利点がある。「量子ドット」を使用している他の例が、特許文献1に記載されており、硫化鉛、PbS、の組成を特許請求の範囲とし、例えば硫化アンチモンSbといった潜在的な可能性のある組成に言及している。この装置は、孔を満たすために、有機分子で出来た正孔伝導材料を使用しており、装置を不安定な状態にするという不利点を持っている。これら全ての場合において光起電効率は満足の行くものではない。
【0006】
他に、放射を電気に変換する技術で、低い作成コストを長所として主張するものがある。特に、新しいタイプの光起電構造が、非特許文献2、非特許文献3などの出版物で提案された。この光起電構造は、平積層とは異なる相互浸透構造に配置された主に3つの固体無機材料で構成される。この装置は、多孔性の膜として存在する「透明」n型半導体で出来た基板を備え、この多孔質膜の内面は吸収体半導体材料の薄い膜で覆われ、最終的には多孔質膜の孔は「透明」p型半導体で満たされている。
【0007】
これらの動作の原理は次のようである。放射(光子)はもっぱら吸収体材料に吸収され、正電荷がp型半導体に移動する一方、電子は透明(または非吸収)n型半導体に移動する。この原理によれば、反対符号の電荷キャリアの移動は二つの分化した相でなされ、理論上電荷再結合による性能の損失を大幅に減少させる。半導体基板の多孔性ナノ結晶またはマイクロ結晶の膜の使用は、十分な量の吸収体材料(投影面積あたり)を含むことが出来る膜の内部面積を備えるのに必要である。
【0008】
このタイプの相互浸透構造の主な利点は、平積層で出来た装置に対して、高度な精製を必要としない安価な材料を使用することと、作成技術が高価でない(特に、シリコンベースの装置を作成するのに使用される技術とは違い、エネルギーを大量に消費する技術を使用しない)ことにより、低い作成コストで光起電装置を作成出来る可能性があることである。この構造には他にも、相互浸透構造を使用する他の装置にない利点がある。一番目に、吸収体を分子として(非特許文献4および特許文献2に記載されたような色素増感太陽電池でのように)または量子ドット(数ナノメートルの大きさの小さな離散的な粒)としてよりもむしろ薄い層として使用することで、より大きな光電流および光起電効率(吸収体材料がより多く、nおよびpの二つの半導体層の間の直接接触がなく界面での再結合がないため)を得ることが出来る。二番目に、固体および無機の材料を使用していることで、高温や強い太陽光照射(屋外応用での場合のような)に敏感で分解しやすいと知られている、液体電解質、または、固体のものの中の有機正孔伝導材料、を使用している他の技術と比較して、より長い安定性を得ることが出来る。
【0009】
全固体および無機の相互浸透構造で出来た装置は、当初は非常に低い光起電効率を示した。このような概念に基づいた例は、非特許文献5および非特許文献6といったいくつかの出版物で示された。これらの例では、TiOの多孔性の膜(結晶または粒で出来た)、SeまたはCuInSで出来た電着またはILGAR技術(CuおよびInの前駆体に含浸、その後、熱いHSガスで処理)によりそれぞれ電着または析出された吸収体コーティング、そしてCuSCNで出来た透明p型半導体でのフィリングまたはカバー、を使用している。スペクトル応答または量子効率が実証されたが、非常に低い短絡光電流(10−3または10−4mA/cmよりも低い)の結果、光起電効率は極めて低かった。
【0010】
同様なタイプの相互浸透構造の装置が、非特許文献7、非特許文献8で報告された。この装置はZnO/CdSe/CuSCN材料で出来ており、多孔性のn型半導体は100nmより大きい幅で1−2ミクロンの長さの角柱形の結晶で出来たZnOのタイプのものであった。彼らは、360W/mの照射でおよそ2%の光起電効率を主張し、このような向上は非常に開いている(そして大きい)孔径である多孔性の層を使用したことに起因しているとした。しかしながらこの構造は、10より小さい低い粗さ因子(粗さ因子は多孔性層の内面と投影面積の間の割合である)の問題がある。低い粗さ因子は層に存在する吸収体の量と関連しているので、得られる最大光電流を制限し、よって、期待出来る最大光起電効率を制限する。
【0011】
出願人は、特許文献3で、(a)n型半導体化合物、(b)吸収体化合物、および(c)Biの硫化物、Snの硫化物、Moの硫化物、Cuの硫化物、または、Coの酸化物、で出来た前記吸収体化合物の層でコートされた粒で出来た半導体化合物の多孔性の膜で出来たp型半導体化合物、を備えた全固体および全無機の三成分相互浸透構造をベースとした固体無機光起電装置を提案した。
【0012】
上記特許の硫化物の化合物は比較的大きな吸収開始を示したが、最良の光起電装置(Biの硫化物で出来たもの)のスペクトル応答の開始は、実際はむしろ短く、具体的にはおよそ550nmであった。「吸収開始」という表現は、その波長値よりも下で材料が放射をかなり吸収する波長値を意味する。
【0013】
全固体で全無機の3成分相互浸透構造である他の光起電装置が、出願人により2006年3月31日出願の特許文献4に記載された。硫化アンチモン(Sb)をベースとする吸収層、TiOで出来たn型半導体、およびCuSCNで出来たp型半導体で出来たこの装置は、750nmでのスペクトル応答の開始を持つ向上したスペクトル応答と、3.4%のより高い光起電効率を示した。しかしながら、吸収層が750nmで吸収開始を示すことで、最大理論的光電流はまだ〜24mA/cmに制限され、実際には開始付近での吸収損失および表および/または裏面接触として使用される上記半導体層と結合された伝導ガラス基板による吸収による損失により、16−20mA/cmまで下がり得る。
【0014】
太陽スペクトルのより広い範囲にわたった太陽放射の吸収、より具体的には、800nmを超え1200nmよりも下のスペクトル応答の開始により、これらの光起電装置はより高い理論的変換効率、そしてより高い理論的に予測される光電流を達成することが出来ると考えられる。1200nmを超える吸収は、開始波長の増大により、光起電効率の計算(後述)に含まれる開路電圧VOCの値が小さくなるため、不利である。実際、光起電効率は、光電流(吸収開始波長の増大により増大)および開路電圧(このような開始波長の増大により減少)の間の妥協に由来し、開始が800nmと1200nmの間にあるとき理論的最大効率に到達する結果になる。
【0015】
他方では、他のタイプでアンチモンおよび銀の硫化物をベースとするまたはアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする光起電装置が報告されたが、それらの光起電応答は非常に低かった。
【0016】
そのような訳で、Ag−Sb−S吸収体(2−3マイクロメートル厚さ)/CdSのタイプの平積層構造である銀およびアンチモンの硫化物をベースとする光起電装置が、非特許文献9に報告された。この光起電効率はおよそ0.1%と非常に低く、光電流は0.5−1.7mA/cmであった。非特許文献10の記事では、化合物AgSbSが光起電応用可能な候補として言及されていたが、著者はこの化合物の平らで薄い層のみを作成し、光起電装置の作成にはまったく至っていない。
【0017】
さらに、CuSbS吸収体(100から300nm厚さ)/Sb/CdSのタイプの平積層構造である銅およびアンチモンの硫化物ベースの光起電装置について非特許文献11が出版された。この光起電効率は0.05%よりも下と非常に低く、光電流は0.2mA/cmよりも下、光電圧は0.35Vよりも下であった。
【0018】
上記の三成分のものとは異なる二成分の相互浸透構造で、TiOのナノ結晶をベースとする多孔性の膜で作られ、それらの孔が、吸収体および正電荷の輸送体の二重の役目を持つ(後の役目はp型半導体の特徴によるもので、このような電荷移動を可能にするために孔を充分に満たしていることによる)CuSbSの吸収体化合物で満たされ、銅およびアンチモンの硫化物をベースとする、他の光起電装置について非特許文献12が出版された。上記の三成分の相互浸透構造との違いは、二つ(三つの代わりに)の主な成分に基づいており、透明p型半導体がないことである。この装置は大きな光起電性能を示さず、ダイオードとしてのふるまい(暗電流)しか示さなかった。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/017656号明細書
【特許文献2】米国特許第5084365号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第2881881号明細書
【特許文献4】仏国特許出願番号06/02791
【非特許文献1】Vogel他著,「物理化学誌(Journal of Physical Chemistry)」,1994年,93巻,p.3183
【非特許文献2】Siebentritt,Koenenkamp他著,「第14回欧州光起電太陽エネルギー会議および展示会の記録(14th European Photovoltaic Solar Energy Conference & Exhibition Proceedings)」,(バルセロナ),1997年,p.1823
【非特許文献3】Rost,Koenenkamp他著,「光起電太陽エネルギー変換についての第二回世界会議および展示会の記録(2nd World Conference & Exhibition Photovoltaic Solar Energy Conversion Proceedings)」,(ヴィエナ),1998年,p.212
【非特許文献4】Desilvestro他著,「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」,1985年,107巻,p.2988
【非特許文献5】Tennakone他著,「物理学誌D 応用物理(Journal of Physics D: Applied Physics)」,1998年,31巻,p.2326
【非特許文献6】Kaiser、Koenenkamp他著,「太陽エネルギー材料と太陽電池(Solar Energy Materials & Solar Cells)」,2001年,67巻,p.89
【非特許文献7】Levy-Clement他著,第205回電気化学学会会議抄録(205th Electrochemical Society Meeting)」,(アメリカ合衆国 サンアントニオ),2004年,p.402
【非特許文献8】「先進物質(Advanced Materials)」,2005年,17巻,p.1512
【非特許文献9】Ch. Laubis著,「博士論文(PhD Thesis)」,(ベルリン),2001年
【非特許文献10】Nunez Rodoriguez他著,「半導体の科学技術(Semiconductor Science and Technology)」,2005年,20巻,p.576
【非特許文献11】Rodriguez-Lazcano他著,「電気化学会誌(Journal of The Electrochemical Society)」,2005年,152巻,p.G635
【非特許文献12】Manolache他著,「第二十回ヨーロッパ光起電太陽エネルギー会議会議録(Proceedings of the 20th European Photovoltaic Solar Energy Conference)」,(スペイン バルセロナ),2005年,p.1906
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、低い作成コストで、十分な光起電性能を保つ、三つの全固体無機成分(二つの透明n型半導体化合物および透明p型半導体化合物、そして一つの吸収体)をベースとする相互浸透構造の固体光起電装置を提供することを課題とする。
【0020】
また、本発明は、屋外応用、より具体的には家の屋根の上での応用で、シールを通した液体の漏れおよび/または有機化合物の光分解の問題により短い寿命を示す液体および/または有機化合物を使用する相互浸透構造の他の知られた装置と比較して、より長い寿命を期待出来る固体光起電装置を提供することを課題とする。
【0021】
また、本発明では、上記のような全固体および無機の三成分相互浸透構造の、吸収層でコートされた多孔性半導体の膜を含むタイプの、1000W/mの照射下で、1mA/cmより大きい、好ましくは3mA/cmより大きい短絡光電流を持ち、0.4%より高い光起電変換効率を持ち、特に近赤外まで延長されたスペクトル応答、具体的には800nmよりも大きく1200nmよりも低いスペクトル応答の開始を持つ、向上した光起電特性および性能を示す固体光起電装置を提供することを課題とする。
【0022】
また、本発明では、低コストで、十分な天然存在度で、安定で、毒性の深刻な問題または環境への悪影響の原因とならない材料を使用した固体光起電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
請求項1に記載の発明は、固体光起電装置は、透明n型半導体化合物と、透明p型半導体化合物と、互いに接触しない前記透明n型半導体化合物および前記透明p型半導体化合物の間の連続層として存在する少なくとも一つの吸収体化合物の組成と、を含む3つの無機固体材料を備え、前記透明n型半導体化合物または前記透明p型半導体化合物の一方は複数の孔を備えた多孔性基板として存在し、前記複数の孔の内面は前記吸収体化合物の薄い連続な吸収層により全体がカバーされており、前記複数の孔は少なくとも10%より大きな体積比で前記透明p型半導体化合物または前記透明n型半導体化合物の他方で出来たカバー層で満たされており、前記吸収層は少なくともアンチモンおよび銀の硫化物をベースとする一つの化合物またはアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする一つの化合物を含むことを特徴とする。
【0024】
請求項2に記載の発明は、前記アンチモンおよび銀の硫化物の化合物または前記アンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成は、MSbの型(M=AgまたはCu)で、x/yの割合は0.1と1.2の間であり、(x+y)/zの割合は0.7と3の間であることを特徴とする。
【0025】
請求項3に記載の発明は、前記アンチモンおよび銀の硫化物の化合物の組成はAgSbの型であり、Ag/Sbの割合は0.2と1の間であることを特徴とする
請求項4に記載の発明は、前記アンチモンおよび銀の硫化物の化合物の組成はAgSbS化合物を含むことを特徴とする。
【0026】
請求項5に記載の発明は、前記アンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成はCuSbの型であり、Cu/Sbの割合は0.2と1の間であることを特徴とする。
【0027】
請求項6に記載の発明は、前記アンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成は、CuSbS化合物を含むことを特徴とする。
【0028】
請求項7に記載の発明は、前記吸収層の組成はさらにSb化合物を含むことを特徴とする。
【0029】
請求項8に記載の発明は、前記透明n型半導体化合物は、TiO、ZnO、またはSnO、等の酸化金属であることを特徴とする。
【0030】
請求項9に記載の発明は、前記透明p型半導体化合物は、Cu(I)をベースとするまたは酸化金属をベースとする材料から選択されることを特徴とする。
【0031】
請求項10に記載の発明は、前記多孔性基板の粗さ因子は、前記吸収層の析出前において、50より大きいことを特徴とする。
【0032】
請求項11に記載の発明は、前記多孔性基板は粒または結晶で出来ていることを特徴とする。
【0033】
請求項12に記載の発明は、前記粒または前記結晶の大きさの平均は30nmと50nmの間であることを特徴とする。
【0034】
請求項13に記載の発明は、前記透明n型半導体化合物は酸化金属の前記多孔性基板として存在し、前記カバー層は前記透明p型半導体化合物で出来ていることを特徴とする。
【0035】
請求項14に記載の発明は、前記カバー層は、少なくとも10nm厚さで前記多孔性基板の片面全体に配置されている上側層を構成することを特徴とする。
【0036】
請求項15に記載の発明は、前記カバー層はCuSCNまたは酸化ニッケルのいずれかで出来ていることを特徴とする。
【0037】
請求項16に記載の発明は、前記多孔性基板は1ミクロンと10ミクロンの間の厚さの膜を構成し、前記吸収層の厚さは1nmと25nmの間であり、前記カバー層は、前記孔の少なくとも10%より大きな体積を満たしており、前記カバー層は、少なくとも10nm厚さで前記多孔性基板と裏面接触伝導基板の伝導層との間に配置された上側層も構成し、前記多孔性基板および前記吸収層および前記カバー層は表面接触伝導基板と前記裏面接触伝導基板の2つの間に収容されていることを特徴とする。
【0038】
請求項17に記載の発明は、前記固体光起電装置に有用な前記多孔性基板は、前記透明n型半導体化合物または前記透明p型半導体化合物で構成され、前記孔の内面が前記吸収体化合物の薄い前記吸収層でコートされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、十分な光起電性能を保ちながら、そしていくつかの実施例ではより向上した性能を示しさえもしながら、低い作成コストである、三つの全固体無機成分(二つの透明n型半導体化合物および透明p型半導体化合物、そして一つの吸収体)をベースとする相互浸透構造の固体光起電装置を提供することが出来る。
【0040】
また、本発明によれば、屋外応用、より具体的には家の屋根の上での応用で、シールを通した液体の漏れおよび/または有機化合物の光分解の問題により短い寿命を示す液体および/または有機化合物を使用する相互浸透構造の他の知られた装置と比較して、より長い寿命を期待出来る固体光起電装置を提供出来る。
【0041】
また、本発明によれば、全固体および無機の三成分相互浸透構造の、吸収層でコートされた多孔性半導体の膜を含むタイプの、1000W/mの照射下で、1mA/cmより大きい、好ましくは3mA/cmより大きい短絡光電流を持ち、0.4%より高い光起電変換効率を持ち、特に近赤外まで延長されたスペクトル応答、具体的には800nmよりも大きく1200nmよりも低いスペクトル応答の開始を持つ、向上した光起電特性および性能を示す固体光起電装置を提供出来る。
【0042】
また、本発明によれば、低コストで、十分な天然存在度で、安定で、毒性の深刻な問題または環境への悪影響の原因とならない材料を使用した固体光起電装置を提供出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明により提案される解決方法は、透明n型半導体化合物と、透明p型半導体化合物と、および連続層として存在し、互いに接触していない前記透明n型半導体化合物および透明p型半導体化合物の間に配置された少なくとも一つの吸収体化合物で出来た組成と、の3つの固体無機成分を備え、前記透明n型半導体化合物または透明p型半導体化合物は、特に10nmから100nmの大きさの孔を持つ多孔性基板として存在し、前記孔の内面は前記吸収体化合物の薄くて連続な吸収層により全体がコートされており、前記孔は実質的に少なくとも10%、好ましくは15%よりも大きな体積比で他の前記p型またはn型固体半導体で出来たカバー層で埋められており、前記吸収層は少なくともアンチモンおよび銀の硫化物をベースとするまたはアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする化合物を含むことを特徴とする固体光起電装置を提供することである。
【0044】
ここで、「透明」という表現は、材料が放射を大きく吸収しない、つまり、400nmと1200nmの間の波長の放射の吸収率が35%を下回る、好ましくは、450nmと1200nmの間の波長の放射の吸収率が10%を下回る、ということを意味する。
【0045】
ここで、「吸収体」という表現は、材料が、400nmから、600nmと1200nmの間に含まれる波長までの波長範囲で、少なくとも50%の吸収率で放射を吸収することを意味する。
【0046】
ここで、「少なくともアンチモンおよび銀の硫化物をベースとするまたはアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする化合物」という表現は、前記化合物の大部分が前記硫化化合物で出来ていることを意味している。より具体的には、前記化合物はMSb(M=AgまたはCu)の型の組成である。ここで、x/yの割合は0.1から1.2であり、(x+y)/zの割合は0.7から3である。ここで、x、yおよびzは実数であるが、必ずしも単に確定した化学量論的組成を表す整数である必要はないということを意味している。前記化合物は、どちらにしても、ある百分率の酸化物および/または水酸化物イオンを硫化物イオンの部分置換として含むことが出来る。これは、より詳しくは、(M+Sb)/Sの割合、つまり(x+y)/zが、0.70から3.0までである理由である。
【0047】
吸収層は結晶質でもよく、結晶質でなくても良く、または、結晶領域が必ずしもX線回折(x−ray diffraction、XRD)技術により検出可能な程度に大きくなくても良い。
【0048】
アンチモンおよび銀の硫化物の様々な組成の異なる吸収層が得られた。このような層の組成は、一般式AgSbで表すことが出来、いくつかの相、特に、一つまたはいくつかのAg−Sb−Sの三成分相、より詳しくはAgSbS、および他のSbといった二成分相、の混合を含むことが出来る。
【0049】
よって、Ag/Sbの割合、つまり、M=Agの時のx/yの割合は、およそ0.1(Sbに対してAgSbSが少ない)からAg/Sb=1(純粋なAgSbSの組成)まで変化することが出来る。しかしながら、少量のAgSbSまたはAgSbSといった他のAg−Sb−Sの三成分相または二成分相AgSの存在は、Ag/Sbの割合を1を超えてわずかに増加させることが出来る。さらに、Sイオンを置換して存在する可能性のあるOイオンにより、特にSbの存在により、(Ag+Sb)/Sの割合は、0.67よりわずかに高い値(Sbが0、多くのSbおよび少量のAgSbS)から高い(ただし3より低い)割合(もしSbの余剰が高い場合)まで変化することが出来る。
【0050】
Agの含有量が高い吸収層(典型的にはAg/Sbの割合が1.2よりも高い)、特にAgS化合物またはAgSbS化合物を多量に含む(X線回折、X−ray diffraction、XRDにより検出されるように)吸収層は、それぞれ非常に広い吸収スペクトル(波長開始が1200nmより長く、AgS吸収体によるスペクトルに似たスペクトル)または非常に狭い吸収スペクトル(波長開始がおよそ550nmで、AgSbS化合物の吸収スペクトルに似たスペクトル)を示す。このような層で作られた光起電装置は、大きな光起電応答を示さなかった。
【0051】
Agの含有量が低く(Ag/Sbの割合<0.1)、化合物AgSbSおよびSbSを含む(X線回折、X−ray diffraction、XRDにより検出されるように)吸収層は、吸収開始が880nmと満足の行く吸収スペクトルを示す。さらに、そのような層で作られた光起電装置は、大きな光起電応答を示す。しかしながら、現在のところスペクトル応答は、硫化アンチモンのみで出来た吸収層に似た、およそ750nmの開始を示した。したがって、スペクトル応答は、880nmの吸収開始に等しいはずの予想値よりも劣っている。
【0052】
Ag/Sbの割合が0.2と1.0の間のAgの含有量である吸収層は、AgSbS化合物を含み、また、Sbも含むことが出来る(X線回折により検出されるように)。これらの層は吸収開始が硫化アンチモンのみをベースとする吸収体の吸収開始よりも大きい、具体的には、吸収開始がおよそ880nmの波長である、吸収スペクトルを示す。さらに、このような層で作られた本発明の光起電装置は、スペクトル応答の開始が吸収開始の値と一致しておよそ880nmである、大きな光起電効率を示す。これらの吸収層は酸化Sb(Sb)もまた含むことが出来、少量の他のAg−Sb−Sの三成分相でAgSbS化合物と異なるもの、例えばAgSbSまたはAgSbS、または二成分相のAgS、でも含むことが出来る。
【0053】
X線回折(x−ray diffraction、XRD)で検出するには小さすぎる(十分なXRD信号が得られない)程度の他の化合物がアモルファス相内または結晶領域内に存在出来る。したがって、層のより精密な組成を得るには、EDXで原子割合を測定するしかない。
【0054】
より詳細には、本発明に係る装置はAgSbの型のアンチモンおよび銀の硫化物の化合物の組成を備え、Ag/Sbの割合(つまり、x/y)は0.1より大きく1.2より小さい。
【0055】
好ましくは、アンチモンおよび銀の硫化物の化合物の組成は、AgSbの型であり、Ag/Sbの割合は0.2以上および1以下である。
【0056】
より詳細には、アンチモンおよび銀の硫化物の化合物の組成は化合物AgSbSおよび最終的にはSbを含む。
【0057】
同様に、アンチモンおよび銅の硫化物の、様々な組成の異なる吸収層が得られた。Cu/Sbの割合はおよそ、0.1と、1.2より小さい値と、の間で変化する。このような層の組成は、一般式でCuSbと表すことが出来、これらの層はいくつかの相、特に一つまたはいくつかのCu−Sb−Sの三成分相、より詳細には、CuSbSおよびSbのような他の二成分相の混合を含むことが出来る。
【0058】
本発明に係る、化合物CuSbS、および最終的にはSb(X線回折により検出されるように)を含む吸収層を備える光起電装置は、約830nmの波長に開始のあるスペクトル応答を示す。この開始は、硫化アンチモンのみをベースとする吸収層の開始(〜750nm)よりも大きく、Cu(I)の硫化物のみをベースとする吸収層の開始(〜650nm)よりも大きく、そして1200nmよりも下である(Cu(II)の硫化物のみで出来た吸収層とは反対に)。このような層を備えた光起電装置もまた大きな光起電効率を示す。
【0059】
吸収層はまた、Sbの酸化物(Sb)および少量のCuSbS化合物とは異なるCuSbS、CuSbSまたはCu12Sb13といったCu−Sb−S三成分相、またはCuSといった二成分相でも含むことが出来る。(Cu+Sb)/Sの割合は一般的に3より下に保たれる。
【0060】
好ましくは、本発明に係る装置はCuSbの型のアンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成を備え、Cu/Sbの割合は0.1より大きく1.2より低い。
【0061】
より好ましくは、アンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成は、CuSbの型の組成であり、Cu/Sbの割合は0.2以上および1以下である。
【0062】
より好ましくは、アンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成は、CuSbSおよび最終的にはSbの化合物を含む。
【0063】
吸収層が含むアンチモンおよび銀の硫化物をベースとするまたはアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする化合物が含まれる化合物を有する本発明の別実施例では、吸収層はさらにSb化合物を含むことが出来る。この化合物は、硫化物イオンの、一般的な化合物の組成に含まれる酸素および/または水酸化物イオンによる部分的な置換により生ずるものである。
【0064】
他の有利な特徴によると、前記透明n型半導体材料は、TiO、ZnO、およびSnO、およびより好ましくはTiOといった酸化金属であり、前記透明p型半導体材料は、Cu(I)、好ましくはCuSCN、CuIまたはCuAlO、および酸化金属、好ましくは酸化ニッケルをベースとする材料から選択される。
【0065】
好ましくは、装置の他の詳しい特徴によれば、吸収層でコートする前の前記多孔性基板の「粗さ因子」は50より高く、好ましくは100より高い。「粗さ因子」という表現は、ここでは、多孔性の膜の内面(膜内に含まれる孔の内面を意味する)とその基板への投影面積との間の割合である。この多孔性は、この膜が粒子または結晶で出来ており、膜の作成中に、粒子または結晶の集合がそのような粒子または結晶の間の間隙空間に孔を形成することによることが出来る。および/または、この多孔性は、粒界を含まない単一材料に直接孔を形成することによることが出来る。このような粗さ因子は、窒素吸収/脱着法を使用しその後B.E.T.活性表面の計算を行う多孔度(および孔の大きさの分布)の測定(2nmより大きく球形に近い孔の大きさのための)により近似的に推定出来る。多孔性基板は粒子または結晶で出来ている。これは、孔の内面が前記粒子または結晶の表面であることを意味する。粒子または結晶の平均的な大きさは30nmと50nmの間である。吸収層で覆われる前の多孔性の膜の多孔度は30%と70%の間で、より好ましくは40%と60%の間である。平均的な孔の大きさは20nmと50nmの間であり、ここで、「孔の大きさ」という表現は、孔の開口の大きさ、つまり、横断面の平均寸法を意味し、膜の厚さに渡る深さの長さではない。
【0066】
より詳細には、前記多孔性基板はn型半導体酸化金属の多孔性の膜で出来ており、前記カバー層はp型半導体化合物で出来ている。
【0067】
好ましくは、前記n型半導体酸化金属は30nmと50nmの間の平均粒径を持ったTiOである。TiOの場合、これらの粒径は吸収層でコートする前の多孔性基板のBET面に対応し、25m/gより大きく、より好ましくは、25m/gと50m/gの間である。
【0068】
好ましくは、前記カバー層は多孔性基板の片面に渡って配置された少なくとも10nm厚さの上側層もまた備え、特にその上側層は伝導基板と接触していない多孔性基板の面に渡って配置されている。
【0069】
より好ましくは、前記カバー層はCuSCNまたは酸化ニッケルで出来ている。
【0070】
より好ましくは、本発明にかかる装置は、前記多孔性基板は1μmより大きい厚さ、好ましくは2μmと10μmの間の厚さの膜を構成し、前記吸収層は1nmと25nmの間の厚さ、好ましくは1nmと10nmの間の厚さを持ち、前記カバー層は孔の体積の少なくとも10%、好ましくは15%より大きな体積を満たしており、好ましくは、前記カバー層は前記多孔性基板および裏面接触の前記第二伝導基板の伝導層との間に配置された少なくとも10nm厚さの上側層もまた備え、前記多孔性基板およびその吸収層およびカバー層は表面接触および裏面接触として働く二つの伝導基板の間に収容されている。表面接触の第一の前記基板は伝導性があり透明である。裏面接触の第二の前記伝導基板は透明でもそうでなくてもよく、特に金属または炭素で出来ている。
【0071】
TiOといった半導体酸化金属をベースとする多孔性ナノ結晶の膜の堆積は、前記TiOのような酸化金属のコロイド分散を使用して公知のドクターブレード(またはテープキャスティング)法、または前記TiO酸化金属をベースとするペーストを使用して公知のスクリーン印刷法といった低コストの作成法で作成出来る。
【0072】
吸収層の析出は、化学浴析出法または電気化学析出法といった低コストの作成方法で作成出来る。
【0073】
第二「透明」半導体での孔の自由体積のカバーは、溶解された材料の溶液へ浸漬させた後溶媒を蒸発させたり、または材料の前駆物質の溶液に含浸させて回転塗布法を使用したり、または電気化学析出法を使用したりといった低コストの作成法で作成出来る。
【0074】
この相互浸透の構造の他、三つの成分はある条件、特にそれぞれのエネルギー帯のマッチング、を満たさなければならない。第一近似として半導体の帯モデルを取り上げると、吸収体の伝導帯はn型半導体の伝導帯よりもエネルギー準位が高く(よく使われる慣習では、エネルギー準位は真空準位であるゼロから始まる負の値を持つ)なければならず、吸収体の価電子帯はp型半導体の価電子帯よりもエネルギー準位が低くなければならない。これは、電子および正孔それぞれの注入が起こるようにするためである。
【0075】
有利な点としては、本発明に係る装置は、前記半導体多孔性の膜と、「表面接触」と名づけられた透明伝導電極と、の間に差し込まれた、半導体化合物の薄く非多孔性で透明な層を、さらに備えている。このような薄い層(障壁層と呼ばれる)は、多孔性の膜の材料と同じ物質または同じ型の物質(それぞれnまたはp)で出来ており、孔を満たす半導体と「表面接触」と名づけられた透明伝導基板との間の短絡を避けられるようにする。透明伝導基板または「表面接触」は市販の透明伝導ガラスとすることが出来る。
【0076】
また有利な点としては、本発明に係る装置は、前記半導体多孔性基板および「裏面接触」と名づけられた伝導基板の層の間に配置され少なくとも10nm厚さの前記半導体化合物で出来た層を備えている。この薄い上側層は孔を満たしているのと同じ半導体材料または他の半導体材料で同じ型の物で出来ており、多孔性の膜の半導体および「裏面接触」と名づけられた伝導基板との間の短絡を避けられるようになっている。前記伝導基板または「裏面接触」は、炭素、または金属のような他の伝導材料で作ることが出来る。
【0077】
本発明は、nまたはp型の透明半導体、好ましくは孔の内面が前記吸収層で覆われたn型半導体酸化金属、を備えた本発明に係る装置に有用な多孔性基板も提供する。
【0078】
より詳細には、本発明に係る多孔性基板は、400nmより長い波長で70%よりも大きい吸収最大値および少なくとも800nmの吸収開始で特徴付けられる吸収特性と、50より大きい、好ましくは100より大きい粗さ因子を示す。
【0079】
この型の多孔性基板は、吸収層での光誘起電荷分離に基づいているが、孔が流体(液体または気体)で満たされている、光触媒装置(化学反応)または光電解装置(電気化学反応)といった、放射により誘起された酸化還元反応によって流体中に存在する化合物の滑らかな変化を生じさせることが出来る他の装置においても有用である。
【0080】
本発明に係る光起電装置の第一の利点は、低い作成コストのままで高い光起電効率を達成出来ることである。これは、シリコンベースの装置とは反対に高純度材料を使用しなくて良い相互浸透の構造を使用していることによるものであり、また、シリコンベースの装置に使用されるよりもはるかに安価な方法を使用して作成することが出来ることによるものである。
【0081】
本発明に係る光起電装置の他の利点は、同じ相互浸透の構造を使用しているが他の吸収層で出来ている従来の装置に対し、非常に優れたスペクトル応答および光起電変換効率を示すことである。特に、本発明に係る光起電装置は、同じ相互浸透構造であるが硫化アンチモンまたは硫化ビスマスをベースとする吸収層で出来た従来の光起電装置と比較して非常に大きな理論的効率を期待出来る、880nmよりも高いスペクトル応答の波長開始を示す。
【0082】
本発明に係る光起電装置の他の利点は、シールを通った液体の漏れおよび/または有機化合物の光分解の問題により、短い寿命を示す相互浸透の構造で液体および/または有機成分を使用した他の公知の装置と比較して、屋外での応用、より詳細には家の屋根の上での応用において非常に長い寿命を与えることが出来る無機および固体成分を使用していることである。
【0083】
本発明に係る光起電装置の他の利点は、CdTe/CdSおよびCuIn(Ga)Se/CdSの型の薄層光起電装置とは違い、三つの構成要素がカドミウム、セレン等のような毒性の高い元素、またはインジウム(In)のような天然存在度の低い元素を含まないことである。
【0084】
最後に、前記半導体の膜、特にナノ結晶TiO、で出来ており、吸収層で覆われた、本発明に係る多孔性の層は、高い多孔度を維持しながら良い放射吸収特性を示す。これは、光起電応用におけるような、これら二つの特性が同時に要求される応用について有利である。しかしながら、光学応用、光触媒装置、または水から水素を生成するような光電解発生器といった他の応用を視野に入れることが出来る。本発明に係る吸収層は、400nmを超え吸収開始が800nmより大きい広波長範囲内において70%よりも大きい最大値を持つ、高い吸収を示すと同時に、仕上がった膜(面を遮断したり、孔をふさいだりしていない)が高い多孔度を保つ。
【0085】
(実施例1〜7) 吸収層
以下の実施例1から7の、多孔性TiOの膜をコートする吸収層は、特に平面基板上の平面層を作成するのに最新式として知られている化学浴析出の一般的な方法により得られた。Nair他著「電気化学会誌(Journal of The Electrochemical Society)」1998年、145巻、p.2113、のような出版物に記載された硫化アンチモンの平面層を析出する手順を、多孔性の膜内を吸収体で覆うのに成功するように、吸収層が、薄いコーティングを作り、孔を満たしたりふさいだりしないことにより、前記多孔性TiOの膜の内面を均一に覆うように変更した。
【0086】
より詳細には、この手順は、基板をアンチモン、銀または銅、および硫化物、の前駆物質を含む、一つのまたはいくつかの溶液に浸し、与えられた時間に与えられた温度に保つ、化学浴析出法の一般的な方法を適用することを含む主要なステップを有する。
【0087】
吸収層のコーティングは、4ミクロンより薄い厚さのTiOの膜で、上記多孔性TiOの膜に沿って端から端までおおよそ均一であることがわかった。吸収体の分布は、膜の異なった深さの断面内に存在する原子の原子割合を、走査型電子顕微鏡SEM(Scanning Electron Microscope)と組み合わせたEDX(Energy−Dissipative X−ray、エネルギー散逸X線)として知られる原子分析法を使用して測定することにより推定した。膜内の吸収体の総量(原子割合(Ag+Sb)/Tiまたは(Cu+Sb)/TiのEDX測定により推定された)は2から30%のオーダーであり、より詳細にはおよそ10%から15%である。吸収層の厚さ(透過型電子顕微鏡TEM(Transmission electron Microscope)測定により推定された)は平均で1から5nmのオーダーであった。
【0088】
実施例1と実施例2の二つの型の吸収層の組成はそれぞれAgSbまたはCuSbである。この組成はEDX法で異なる原子の割合を測定して推定した。しかしながら、この推定は、多孔性の膜内の低い吸収体密度およびEDX法の分解能によりいくぶん近似的である。これらの層は、ある割合の、硫化物イオンを置換する酸化物および/または水酸化物イオンを含むことが出来る。結晶化の程度および結晶領域の大きさにより、結晶相はX線回折(X−ray diffraction、XRD)法により検出可能である。これらの相は三成分化合物AgSbSまたはCuSbSにそれぞれ対応する結晶相を含むことが出来る。これらはまた硫化アンチモンSb、または酸化アンチモン、Sbに対応する結晶相もまた含むことが出来る。三成分または二成分の他の結晶相もまた存在することが出来るが、非常に低い程度である。結果的に、これらの吸収体の組成はアンチモンおよび銀の硫化物としてまたはアンチモンおよび銅の硫化物としてそれぞれ一般式で与えられ、Ag/SbまたはCu/Sbの割合は0.1と1.2の間である。
【0089】
(実施例1a) 多孔性ナノ結晶のTiO膜(平均粒径40nm)中の、アンチモン(Sb)および銀(Ag)の硫化物AgSbをベースとしAg/Sbの割合が〜0.3である吸収層の作成
市販の透明伝導ガラス(フッ素ドープSnOで出来ている)を、2.5cm×2.5cmに切り、エタノールおよび蒸留水で清浄にした。圧縮成型された(多孔性でない)TiOの厚さおよそ50nmの層を上記の基板上に噴霧熱分解法により堆積した。ビス(アセチルアセトネート)ジ−イソプロポキシドチタン(IV)の10%(体積比)エタノール溶液をおよそ450℃に熱く保たれた上記のガラス基板の表面に噴霧した(参考文献 Kavan他著,「電気化学誌(Electrochimica Acta)」,1995年,第40巻,p.643)。この層は、電子を集める接触に向かう正電荷の移動を止める障壁として働くので、相互浸透型の光起電応用に必要である。圧縮成型層の堆積後、多孔性ナノ結晶のTiO膜を、ドクターブレード法(またはテープキャスティング法)により、欧州特許出願公開第1271580号明細書に記載のように準備した、TiOのおよそ40nmの平均粒径のコロイド分散を使用して、堆積した。この膜を450℃30分で熱し焼結した。これにより、膜の有機不純物が除去され、ナノ結晶同士やナノ結晶と基板の間の接触が良くなる。多孔性TiO膜の厚さはおよそ3ミクロンである。
【0090】
アンチモン(Sb)および銀(Ag)の硫化物の吸収層をいくつかの前駆物質の溶液を使う技術により析出した。まず、一番目の段階で、アンチモン(Sb)の硫化物の吸収層を後述の化学浴析出法により析出した。前駆物質の溶液が35ml入った一つのビーカーを使用した。浴の溶液は、アセトンと水(体積比20:80)の混合物に溶解された、濃度0.025MのSbCl溶液と濃度0.25Mのチオ硫酸ナトリウム(Na)溶液を含んでいた。基板をこのような浴に浸し、これを入れたビーカーを10℃の冷蔵庫に入れ、そこに二時間放置した。そして、試料を取り出し、試料を蒸留水ですすぎ、乾燥窒素で乾燥した。膜を30分間窒素フロー下で300℃に熱し、熱アニールした。そして、二番目の段階で、硫化アンチモンのコーティングを持った膜を、濃度0.05Mの硝酸銀(AgNO)水溶液中に室温で10分間浸漬した。そして、試料を取り出し、蒸留水ですすぎ、最後に乾燥窒素で乾燥させた。膜を30分間窒素フロー下で400℃に熱し、熱アニールした。この膜は暗褐色をしていた。そして吸収膜を仕上げ、特性評価をすることが出来る状態とした。
【0091】
EDXで測定したAg/Sbの割合は〜0.3であった。(Ag+Sb)/Sの割合は2.0であった。XRD曲線は、硫化アンチモンSbの結晶層に加え、銀およびアンチモンの硫化物AgSbSの三成分結晶層の存在も示した。
【0092】
(実施例1b)
上記の実施例1aの第一の段階で行った作業手順にしたがって、吸収層を作成した。実施例1aと同様に硫化アンチモンを析出したが、中間アニ―ルは行わなかった。その後、第二の段階では、浸漬時間を25分に設定したということ以外は後述の比較例6と同様の手順で硫化銀に化学浴を施した。そして、試料を取り出し、蒸留水ですすぎ、乾燥窒素で乾燥させた。この膜を20分間窒素フロー下で300℃に熱し、熱アニールした。この吸収膜は、比較例6の硫化銀(AgS)のみをベースとする吸収体に非常に類似し、暗褐色をしており、吸収開始が1200nmを上回る非常に大きい吸収スペクトルを示した。
【0093】
(実施例1c)
第二の段階で浸漬時間を15分に設定したこと以外は、上記の実施例1bと同様の手順で吸収膜を作成した。その後、試料を取り出し、蒸留水ですすぎ、乾燥窒素で乾燥させた。この膜を20分間窒素フロー下で300℃に熱し、熱アニールした。この吸収膜は黄色をしており、吸収開始が550nmの吸収スペクトルを示した。この値は、Ch.Laubis著,「博士論文(PhD Thesis)」,(ベルリン),2001年、の値に非常に近く、化合物AgSbSの平面層に相当する。
【0094】
(実施例1d)
吸収層作成の第一の段階では、中間アニールを行わない以外は、実施例1aの第一の段階と同様の手順を行った。第二の段階では、試料を濃度0.02mMの硝酸銀(AgNO)の溶液に5分間浸すこと以外は、実施例1aで行ったのと同様の手順を行った。そして、試料を取り出し、蒸留水ですすぎ、乾燥窒素で乾燥させた。この膜を20分間窒素フロー下で300℃に熱し、熱アニールした。この吸収膜は暗褐色をしており、実施例1aと同様に吸収開始が880nmの吸収スペクトルを示した。EDXによって測定されたAg/Sb比は0.06だった。
【0095】
(実施例2a) 多孔性ナノ結晶のTiO膜(平均粒径40nm)中の、アンチモン(Sb)及び銅(Cu)の硫化物CuSbをベースとするCu/Sbの割合が〜0.2である吸収層の作成
基板と多孔性ナノ結晶のTiO膜は実施例1と同様のものを使用した。
【0096】
アンチモン(Sb)と銅(Cu)の硫化物をベースとする吸収層は二段階に分けて作成し、各段階で化学浴析出法を実施した。最初に、第一の段階では、実施例1aで行われた手順にしたがって、硫化アンチモン(Sb)の吸収層を析出した。この手順は2回行うが、硫化アンチモンの前駆物質である溶液は毎回新しいものを使用し、300℃でのアニールは行わなかった。その後、第二の段階では、硫化銅をベースとする層を析出させるために、化学浴析出法を実施した。この浴の水溶液は濃度0.025Mの硫化銅(CuSO)、濃度0.05Mのチオ硫酸ナトリウム(Na)、濃度0.025Mのチオアセトアミド(CHCSNH)を含む水溶液から構成した。基板をこのような浴に浸し、これを入れたビーカーを50℃の恒温槽に入れ、そこに10分間放置した。そして、試料を取り出し、試料を蒸留水ですすぎ、乾燥窒素で乾燥した。この膜を30分間窒素フロー下で400℃に熱し、熱アニールした。
【0097】
EDXで測定したCu/Sbの割合は〜0.2であった。また、(Cu+Sb)/Sの割合は〜1.3であった。XRD曲線は、硫化アンチモン(Sb)と酸化アンチモン(Sb)の結晶相に加えて、銅とアンチモンの硫化物(CuSbS)の三成分結晶相の存在も示した。
【0098】
他の実施例では、化合物Cu−Sb−Sの吸収層は異なるCu/Sb比で作成した。
【0099】
(実施例2b)
吸収層は上記の実施例2aで行った手順にしたがって作成したが、硫化アンチモンの前駆物質である溶液を使用した析出は一度だけ行い、中間アニールは行わなかった。第二段階で行う硫化銅の前駆物質の溶液を使用した析出と仕上げアニールは実施例2aと同様の手順で行った。この吸収層は暗褐色をしており、実施例2aと同様に開始が830nmの吸収スペクトルを示した。EDXで測定したCu/Sbの割合は〜0.5であった。また、(Cu+Sb)/Sの割合は〜1.3であった。XRD曲線は、酸化アンチモン(Sb)の結晶相に加えて、銅とアンチモンの硫化物(CuSbS)の三成分結晶相の存在も示した。
【0100】
(実施例3(比較例)) 多孔性ナノ結晶のTiO膜(平均粒径40nm)中の硫化アンチモン(Sb)をベースとする吸収層の作成
硫化アンチモンをベースとする吸収層の作成は、第一の段階までは実施例1aで行ったのと同じ手順にしたがって行った。この膜は暗褐色をしていた。そして吸収膜を仕上げ、特性評価をすることが出来る状態とした。
【0101】
(実施例4(比較例)) 多孔性ナノ結晶のTiO膜(平均粒径40nm)中の硫化ビスマス(Bi)をベースとする吸収層の作成
基板と多孔性ナノ結晶のTiO膜は実施例1と同様のものを使用した。
【0102】
硫化ビスマス(Bi)の吸収層は化学浴析出法を使用して析出した。50mlの前駆物質の溶液の入ったビーカー1個を使用した。この水溶液は、濃度0.025Mの硝酸ビスマス(Bi(NO)、濃度0.12Mのトリエタノールアミン((OHCHCHN)、濃度0.04Mのチオアセトアミド(CHCSNH)を含む水溶液で構成した。基板をこのような浴に浸し、これを入れたビーカーを35℃の恒温槽に入れ、そこに10秒間放置した。そして、試料を取り出し、試料を蒸留水ですすぎ、乾燥空気で乾燥した。この膜を30分間窒素フロー下で300℃に熱し、熱アニールした。この膜は暗褐色をしていた。そして吸収膜を仕上げ、特性評価をすることが出来る状態とした。
【0103】
(実施例5(比較例)) 多孔性ナノ結晶のTiO膜(平均粒径40nm)中の硫化銅(I)(Cu)をベースとする吸収層の作成
基板と多孔性ナノ結晶のTiO膜は実施例1と同様のものを使用した。
【0104】
硫化銅をベースとする吸収層は実施例2の第二の段階で行われたのと同様の手順で化学浴析出法を行うことによって作成した。その後、試料を取り出し、試料を蒸留水ですすぎ、乾燥空気で乾燥した。この膜は茶色をしていた。そして吸収膜を仕上げ、特性評価をすることが出来る状態とした。
【0105】
(実施例6(比較例)) 多孔性ナノ結晶のTiO膜(平均粒径40nm)中の硫化銀(Ag)をベースとする吸収層の作成
基板と多孔性ナノ結晶のTiO膜は実施例1と同様のものを使用した。
【0106】
硫化銀(Ag)の吸収層は化学浴析出法を使用して析出した。50mlの前駆物質の溶液の入ったビーカー1個を使用した。この浴は濃度0.02Mの硝酸銀(AgNO)、濃度0.02Mのチオ尿素(NHCSNH)を含む水溶液で構成した。基板をこのような浴に浸し、これを入れたビーカーを60℃の恒温槽に入れ、そこに15分間放置した。そして、試料を取り出し、試料を蒸留水ですすぎ、乾燥空気で乾燥した。この膜は暗褐色をしており、吸収開始がわずかに1200nmを上回る、非常に大きい吸収スペクトルを示した。
【0107】
(実施例7(比較例)) 多孔性ナノ結晶のTiO膜(平均粒径40nm)中の硫化銅(II)をベースとする吸収層の作成
基板と多孔性ナノ結晶のTiO膜は実施例1と同様のものを使用した。
【0108】
硫化銅(II)の吸収層は化学浴析出法を使用して析出した。具体的には、異なる複数の溶液に連続して浸すことにより、析出を行った。それぞれ異なる溶液を50ml含む4個のビーカーを使用した。一つの浴は濃度0.05Mの塩化銅(II)(CuCl)を含む水溶液で構成した。もう一つの浴は濃度0.05Mの硫化ナトリウム(NaS)を含む水溶液で構成し、残りの2つのビーカーには蒸留水を入れた。TiO膜を持つ基板を以下の順番で上記の浴全てに、順番に10秒ずつ浸した。最初にCu塩を含んだ浴に浸した後、1つ目の水の浴に浸した。その後、硫化ナトリウム(NaS)の浴に浸し、最後にもう一つの水の入ったビーカーの中に浸した。この手順を10回繰り返した後、試料を乾燥空気で乾燥した。この膜は黒色をしており、吸収開始が1200nmを大幅に上回る平坦な吸収スペクトルを示した。
【0109】
(実施例8) 実施例1〜7の吸収層の吸収特性
図2に示すような可視および近赤外領域の吸収スペクトルを、市販のパーキンエルマーラムダ20(Perkin Elmer Lambda20)分光測定器で、全ての分散された放射を集めるために、補助的に積分球を用いて測定した。
【0110】
図2は、実施例1〜3の吸収体膜の吸収スペクトルを示す。実施例1a(図2のa)のアンチモンおよび銀の硫化物をベースとする吸収層および実施例2a(図2のb)のアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする吸収層の二つは似たスペクトルを示す。
【0111】
実施例1および2の吸収層は、仕上がった層が高い多孔度を保つ(孔はふさがれても満たされてもいない)のと同時に、70%より大きい最大吸収、広い吸収範囲、800nmより大きい吸収開始、の高い吸収を示す。
【0112】
図2は、硫化アンチモンのみをベースとする吸収体膜の吸収スペクトル(図2のc)は、実施例1aの銀およびアンチモンの硫化物をベースとする吸収体で出来た、または実施例2aの銅およびアンチモンの硫化物をベースとする吸収体で出来た、膜の吸収スペクトルよりも小さいことを明らかに示す。
【0113】
ビスマスの硫化物を含む実施例4の吸収体膜の吸収スペクトル(図示しない)は、実施例1aのアンチモンおよび銀の硫化物をベースとする吸収体の吸収スペクトルに似ている。
【0114】
Cu(I)の硫化物を含む実施例5の吸収体膜の吸収スペクトル(図示しない)は、実施例1a、2、3、および4の、他の吸収体の吸収開始よりも内側の波長(〜650nm)に吸収開始を示す。
【0115】
下記表1は、およそ3ミクロンの厚さの多孔性ナノ結晶のTiO膜内の吸収層の特徴のまとめを示す。
【表1】

【0116】
光起電応用の他に、これらの吸収層は、特に、放射の吸収と多孔度が要求される特徴である、光学応用、光触媒応用、または水からの水素の生産のような光電解発生器に使用することが出来る。
【0117】
(実施例9) 光起電装置
1.作成
図1は、以下の成分を含み、以下の工程により組み立てられる、光起電装置の一般的構造を示す。透明な伝導酸化物で出来た市販のガラスのような透明伝導基板4は、TiOのようなn型半導体で出来た薄い(0.何nm)圧縮成型された(多孔性でない)「障壁」層5で覆われている。TiOといった「透明」n型半導体で出来た多孔性ナノ結晶の膜1は、そのような基板に堆積される。
【0118】
ここで、化合物が「透明」であるとされていても、多孔性TiOの膜が堆積された基板が白または半透明であっても良いことを注記するのは価値があることである。この白または半透明な色は光の散乱の特性によるものであって、光の吸収の個々の特性とは独立したものである。
【0119】
1nm以上の厚さの吸収体材料2の層は、上述の多孔性の膜1のナノ結晶1の面に析出されている。ナノ結晶の膜1の内側に存在する吸収層を覆うように、CuSCNまたは酸化ニッケルといった透明p型半導体3で覆われ、または満たされる。ここでカバーはまた、孔1の体積の少なくとも10%、好ましくは15%より大きい割合(理想的には100%)、を満たすように、行われるべきである。このカバーはおよそ10nmより厚い厚さの薄い上側層を膜の最上部(ガラス基板側とは反対側)に残すべきである。この層の真上には、炭素または金属のような他の伝導材料で出来た、p側からの電荷を集める裏面接触として使用される、他の層6が配置される。この仕上がった装置は、湿気や大気汚染物質により起こり得る劣化から保護するため、収容されシール7により密封される。
【0120】
光起電装置は上記の多孔性TiOの膜を使用し、本発明に係る吸収層、および孔を満たす透明p型半導体、より詳細にはCuSCNベースの透明p型半導体、のカバー、とともに作成された。CuSCNのカバーを作成するのに使用される手順は、最新のものとして知られる、膜のCuSCNの溶液への含浸と、その後の溶媒の蒸発と、に基づいた、Kumara他著,「太陽エネルギー材料と太陽電池(Solar Energy Materials Solar Cells)」,2001年,69巻,p.195、およびO'Regan他著,「物質の化学(Chemistry of Materials)」,2002年,14巻,p.5023、と似たものである。
【0121】
80℃の熱板上に置かれた上記試料の最上部を含浸するのに使用する硫化ジプロピル(S(CHCHCH)内のCuSCNの濃度15mg/ml溶液を準備した。CuSCN溶液を注ぐ総体積は100マイクロリットルであった。析出終了後、余分な溶媒が全て完全に蒸発することを確かにするために、その試料を同じ温度でさらに3分間熱した。そして、およそ25nm厚さの金の薄層を、(エドワーズ306蒸発器のような)金属蒸発器を使用してその試料の最上部に蒸着した。他の実施例(金よりも低コストの代替例)では、市販の炭素ベースの伝導インクを使用して、炭素層をその試料全体に塗った。これらの装置の活性表面は0.54cmであった。
【0122】
2.光起電特性
これらの装置の特性を、よく使われる二つの最新の方法で調べた。一つ目の特性はスペクトル応答、または、ナノメートル[nm]で表された波長λの関数としての、入射光子(放射)が電子(電気)に変換される百分率である、量子効率(QE)曲線(入射光子に対する電子への変換効率、Incident Photon−to−Electron Conversion Efficiency、IPCEとしても知られている)である。
【0123】
QE(λ)=(短絡電流)/(入射光子流)=(短絡光電流)/(入射放射パワー)×(1240/λ)
理想的な量子効率スペクトルは非活性な成分(伝導ガラス基板のような)による吸収で補正した後の吸収スペクトルと同一であるべきである。量子効率により、もしその装置が標準規定、特にAM1.5G標準、に対応する1000W/mで照射された場合に推定される短絡光電流である"総光電流"の計算が可能になる。このような"総光電流"IQEは次のような積分をして計算する。
【0124】
QE=e×∫(QE(λ)×N(λ)dλ)
ここで、N(λ)はAM1.5G標準に対応する([m−2−1nm−1]で表現される)太陽光スペクトル、eはクーロン(単位)で表現された電子の電荷である。
【0125】
光起電装置の性能の他の特徴は、照射下の光起電装置の電流‐電圧(I−V)曲線から計算され、入射放射のパワーに対する装置により実現された最大パワー点のパワーの百分率である光起電効率ηの測定である。
【0126】
η=最大パワー点でのパワー/入射放射のパワー
この光起電効率を太陽シミュレータと他の装置で作られた試験台で測定した。装置の応答を標準太陽スペクトルAM1.5Gに対応する1000W/mの照射下で評価した。この試験台は他の公認公的機関で一般に使用される標準的な光起電装置に対して使用される方法に従って校正した。この光起電効率はまた、この装置の性能のより良い解釈を得ることが出来る、三つの因子の積として表現することが出来る。
【0127】
η[%]=Isc×Voc×ff (1000W/mの標準照射で)
ここで、Iscは[mA/cm]で表現される短絡光電流(つまり、V=0)、Vocは[V]で表現される開路光電圧(つまり、I=0)、そして、ffは曲線が理想的な角形(ff=1)にどのくらい近いかを表す充填率(単位なし)である。これは電流‐電圧曲線の最大パワー点でのパワーと理論的最大パワーの間の割合を取って計算され、Isc×Vocと等しい。
【0128】
この光起電性能をスペクトル応答と電流‐電圧曲線を測定して上記のように評価した。
【0129】
実施例1aの層で作成された光起電装置のスペクトル応答は〜30%の量子効率の最大(図3の曲線(a))、〜880nmの開始(従って、硫化アンチモンをベースとする吸収体に対して近赤外線側に130nmシフト)、4.8mA/cmの総光電流IQEを示した。光起電効率は標準AM1.5Gに従った1000W/mの照射下で0.45%(図4)であった。
【0130】
実施例1dの層で作成された光起電装置のスペクトル応答は〜750nmの開始を示した。従って、その吸収開始よりも劣り、実施例3の硫化アンチモンのみをベースとする装置のスペクトル応答開始と同様であった。
【0131】
実施例2aの層で作成された光起電装置のスペクトル応答は〜50%(図3の曲線(b))の量子効率の最大、〜830nmの開始(従って、硫化アンチモンをベースとする吸収体に対して80nm近赤外線側にシフト)、そして6.8mA/cmの総光電流を示した。標準AM1.5Gに従った1000W/mの照射下で光起電効率は0.8%(図4)であった。実施例2bの層で作成された光起電装置のスペクトル応答は〜20%(図示なし)の量子効率の最大、〜830nm(実施例2aの開始と同様)の開始、そして1.5mA/cmの総光電流を示した。
【0132】
実施例3の層でのスペクトル応答は〜80%(図3の曲線(c))の量子効率の最大、〜750nmの開始、そして13.5mA/cmの総光電流を示した。標準AM1.5Gに従った1000W/mの照射下で光起電効率は3.4%であった。
【0133】
実施例4の層でのスペクトル応答は〜30%(図3の曲線(d))の量子効率の最大、〜600nmの開始、そして0.7mA/cmの総光電流を示した。標準AM1.5Gに従った1000W/mの照射下で光起電効率は0.3%(図4)であった。スペクトル応答の開始、総光電流および光起電効率は、実施例1aのアンチモンおよび銀の硫化物ベースまたは実施例2のアンチモンおよび銅の硫化物ベースの吸収層で作られた装置のそれらよりも劣っていた。
【0134】
実施例5の層でのスペクトル応答は弱い量子効率(2%よりも低い)、〜550nmの開始、そして非常に弱い総光電流を示した。標準AM1.5Gに従った1000W/mの照射下で光起電効率は0.1%よりも低かった。
【0135】
本発明の吸収層で得られた結果より、この型の光起電装置は高い光起電性能、特に800nmと900nmの間の開始である大きなスペクトル応答、に到達する良い可能性を持っており、これにより29mA/cmと33mA/cmの間の最大理論的光電流(標準太陽スペクトルAM1.5Gに従い)を得られ、つまり、750nmの開始を持つ(24mA/cmの最大理論的光電流の)硫化アンチモンのみをベースとする同様の層の理論的光電流よりも20から35%優れている、ということが確認される。
【0136】
光起電効率の式に存在する三つの因子の増加を誘起する、吸収層の作成に使われる条件の最適化、層間の接触の向上、p型半導体でのより良いカバーまたはフィリングに従って、これらの装置の光起電効率のさらなる向上がまだまだ可能である。
【0137】
表2はおよそ3ミクロン厚さの多孔性ナノ結晶のTiOの膜内の吸収層で作成され孔を透明p型半導体CuSCNのカバーで満たした装置の最高光起電性能をまとめたものである。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明に係る三つの主成分と相互浸透ナノ結晶構造を備えた固体光起電装置の概要を示す。
【図2】伝導ガラス基板上のおよそ3ミクロン厚さの多孔性ナノ結晶TiOの膜に析出された、異なった吸収層の吸収スペクトルを示す(伝導ガラスに相当する吸収は引き算されている)。 (a)実施例1aに係るアンチモンおよび銀の硫化物をベースとする吸収層、(b)実施例2aに係るアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする吸収層、(c)比較例3に係る硫化アンチモンをベースとする吸収層
【図3】異なる吸収層およびCuSCNをベースとする透明p型半導体で作られたカバーで作成された、異なる光起電装置のスペクトル応答(または波長の関数としての量子効率(%)の曲線)を示す。(a)実施例1aに係るアンチモンおよび銀の硫化物をベースとする吸収層、(b)実施例2aに係るアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする吸収層、(c)比較例3に係る硫化アンチモンをベースとする吸収層、(d)比較例4に係る硫化ビスマスをベースとする吸収層
【図4】異なる吸収層およびCuSCNをベースとする透明p型半導体で出来たカバーで作成された異なる光起電装置に対応する、1000W/m2(太陽光スペクトル標準AM1.5Gに従い)の照射下での電流/電圧曲線を示す。(a)実施例1aに係るアンチモンおよび銀の硫化物をベースとする吸収層、(b)実施例2aに係るアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする吸収層、(c)比較例4に係る硫化ビスマスをベースとする吸収層
【符号の説明】
【0139】
1 透明n型半導体で出来た多孔性ナノ結晶の膜(多孔性基板)

透明n型半導体の結晶または粒
2 吸収体材料の層(吸収層)
3 孔をカバーするまたは満たす透明p型半導体(カバー層)
4 表面接触の透明伝導基板
5 n型半導体の圧縮成型された薄い障壁層
6 裏面接触の第二伝導基板の伝導層
7 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明n型半導体化合物と、
透明p型半導体化合物と、
互いに接触しない前記透明n型半導体化合物および前記透明p型半導体化合物の間の連続層として存在する少なくとも一つの吸収体化合物の組成と、を含む3つの無機固体材料を備え、
前記透明n型半導体化合物または前記透明p型半導体化合物の一方は複数の孔を備えた多孔性基板として存在し、前記複数の孔の内面は前記吸収体化合物の薄い連続な吸収層により全体がカバーされており、前記複数の孔は少なくとも10%より大きな体積比で前記透明p型半導体化合物または前記透明n型半導体化合物の他方で出来たカバー層で満たされており、
前記吸収層は少なくともアンチモンおよび銀の硫化物をベースとする一つの化合物またはアンチモンおよび銅の硫化物をベースとする一つの化合物を含むことを特徴とする固体光起電装置。
【請求項2】
前記アンチモンおよび銀の硫化物の化合物または前記アンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成は、MSbの型(M=AgまたはCu)で、x/yの割合は0.1と1.2の間であり、(x+y)/zの割合は0.7と3の間であることを特徴とする請求項1に記載の固体光起電装置。
【請求項3】
前記アンチモンおよび銀の硫化物の化合物の組成はAgSbの型であり、Ag/Sbの割合は0.2と1の間であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体光起電装置。
【請求項4】
前記アンチモンおよび銀の硫化物の化合物の組成はAgSbS化合物を含むことを特徴とする請求項3に記載の固体光起電装置。
【請求項5】
前記アンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成はCuSbの型であり、Cu/Sbの割合は0.2と1の間であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体光起電装置。
【請求項6】
前記アンチモンおよび銅の硫化物の化合物の組成は、CuSbS化合物を含むことを特徴とする請求項5に記載の固体光起電装置。
【請求項7】
前記吸収層の組成はさらにSb化合物を含むことを特徴とする請求項4または6の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項8】
前記透明n型半導体化合物は、TiO、ZnO、またはSnO、等の酸化金属であることを特徴とする請求項1乃至7の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項9】
前記透明p型半導体化合物は、Cu(I)をベースとするまたは酸化金属をベースとする材料から選択されることを特徴とする請求項1乃至8の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項10】
前記多孔性基板の粗さ因子は、前記吸収層の析出前において、50より大きいことを特徴とする請求項1乃至9の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項11】
前記多孔性基板は粒または結晶で出来ていることを特徴とする請求項1乃至10の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項12】
前記粒または前記結晶の大きさの平均は30nmと50nmの間であることを特徴とする請求項11に記載の固体光起電装置。
【請求項13】
前記透明n型半導体化合物は酸化金属の前記多孔性基板として存在し、前記カバー層は前記透明p型半導体化合物で出来ていることを特徴とする請求項1乃至12の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項14】
前記カバー層は、少なくとも10nm厚さで前記多孔性基板の片面全体に配置されている上側層を構成することを特徴とする請求項1乃至13の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項15】
前記カバー層はCuSCNまたは酸化ニッケルのいずれかで出来ていることを特徴とする請求項1乃至14の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項16】
前記多孔性基板は1ミクロンと10ミクロンの間の厚さの膜を構成し、
前記吸収層の厚さは1nmと25nmの間であり、
前記カバー層は、前記孔の少なくとも10%より大きな体積を満たしており、
前記カバー層は、少なくとも10nm厚さで前記多孔性基板と裏面接触伝導基板の伝導層との間に配置された上側層も構成し、
前記多孔性基板および前記吸収層および前記カバー層は表面接触伝導基板と前記裏面接触伝導基板の2つの間に収容されていることを特徴とする請求項1乃至15の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置。
【請求項17】
前記透明n型半導体化合物または透明p型半導体化合物で構成され、前記孔の内面が前記吸収体化合物の薄い前記吸収層でコートされていることを特徴とする請求項1乃至11の少なくともいずれか一項に記載の固体光起電装置に有用な前記多孔性基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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