説明

アンチモン添加酸化亜鉛バリスタの製造方法

【課題】Sbの添加量ができるだけ少なく、高いバリスタ電圧を有し、高い非線形指数を有し、課電劣化特性に優れたZnOバリスタを提供する。
【解決手段】酸化亜鉛98.8mol%、酸化ビスマス0.5mol%、酸化マンガン0.5mol%、4酸化3コバルト0.2mol%およびアンチモンの水溶性塩200〜2400ppmに、平均粒径5〜10nmの二酸化ケイ素100〜1500ppmを添加したものを湿式混合し、得られた混合物を仮焼成した後粉砕し、粉砕物を加圧成形し、得られた成形物を本焼成することによってアンチモン添加酸化亜鉛バリスタを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛(ZnO)バリスタ、特に、アンチモン(Sb)添加酸化亜鉛バリスタを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ZnOバリスタは、粒界付近に形成される電気的障壁により急峻な電圧−電流特性を有し、避雷器や電子機器の保護素子として広く利用されている。しかし、ZnOバリスタは、継続使用されると電気的ストレスを受けて特性が低下する。これは課電劣化と呼ばれ、ZnO粒界を酸素イオンあるいは格子間Znイオンあるいはその両方が移動することによって電気的障壁が歪むことが原因であると考えられている。
【0003】
ところで、現在市販されている高電圧用ZnOバリスタには、バリスタ電圧を制御する目的で三酸化アンチモン(Sb)が付加されているが、Sbは有毒であり、環境負荷が大きいので、Sbの添加量ができるだけ少なく、しかも課電劣化特性に優れたZnOバリスタが望まれている。なお、現在市販されている高電圧用ZnOバリスタには、Sbとケイ素(Si)が、それぞれ2.6mol%、3.6mol%程度用いられている。
【0004】
これまでの研究により、Sbの課電劣化特性に及ぼす影響を調べた結果、Sb添加により形成される双晶により、ZnO結晶の方位が変化し、それに伴って課電劣化が抑制されることが知られている(非特許文献1参照)。
また、ZnOバリスタにSbと二酸化ケイ素(SiO)をそれぞれ1.6mol%以上添加することによって、約220V/mmのバリスタ電圧を得ることができ、また、SiOを添加することで、非線形指数が小さくなることが知られている(非特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、これらの従来の製造方法においては、Sbを3.2mol%以上添加する必要があり、これより少ないSb添加量で、高いバリスタ電圧および高い非線形指数を有し、課電劣化特性に優れたZnOバリスタを製造することは難しかった。
【0006】
【非特許文献1】高田雅之、吉野浩行、吉門進三、「ZnOバリスタの粒界と課電劣化の関係」、電学論A、2006年、第126巻、p.105〜112
【非特許文献2】T.Takemura, M.Kobayashi, Y.Takada, K.Sato,「Effects of Antimony Oxide on the Characteristics of ZnO Varistors」J.Am.Ceram.Soc,1987年、第70巻、第4号、p.237〜241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、Sbの添加量ができるだけ少なく、高いバリスタ電圧を有し、高い非線形指数を有し、課電劣化特性に優れたZnOバリスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、酸化亜鉛98.8mol%、酸化ビスマス0.5mol%、酸化マンガン0.5mol%、4酸化3コバルト0.2mol%およびアンチモンの水溶性塩200〜2400ppmに、平均粒径5〜10nmの二酸化ケイ素100〜1500ppmを添加したものを湿式混合し、得られた混合物を仮焼成した後粉砕し、粉砕物を加圧成形し、得られた成形物を本焼成することによってアンチモン添加酸化亜鉛バリスタを製造する方法を構成したものである。ここで、ppmはmolppmを意味する。以下同様である。
【0009】
上記構成において、前記アンチモンの水溶性塩は、塩化アンチモンまたは硝酸アンチモンであることが好ましい。また、前記湿式混合は、水またはエタノールを使用して行うことが好ましい。
また、前記仮焼成は、空気中において500〜800℃の温度で行い、前記本焼成は、空気中において1100〜1200℃の温度で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Sbの添加量ができるだけ少なく、高いバリスタ電圧を有し、高い非線形指数を有し、課電劣化特性に優れたZnOバリスタを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例について説明する。
【0012】
図1は、本発明の1実施例によるZnOバリスタの製造方法のフロー図である。
図1に示すように、本発明によれば、まず酸化亜鉛98.8mol%、酸化ビスマス0.5mol%、酸化マンガン0.5mol%、4酸化3コバルト0.2mol%およびアンチモンの水溶性塩200〜2400ppmに、ナノ粒子(例えば、平均粒径5〜10nm)の二酸化ケイ素100〜1500ppmを添加したものを湿式混合する(図1のステップS1)。
ここで、アンチモンの水溶性塩として、塩化アンチモン(SbCl)または硝酸アンチモンを使用する。また、湿式混合は、例えば、水又はエタノールを使用してボールミルにより所定時間行う。
【0013】
次に、ステップS1で得た混合物を仮焼成する(図1のステップS2)。
仮焼成は、具体的には、空気中で500〜800℃の温度で所定時間行う。
【0014】
その後、ステップS2で得た仮焼成物を粉砕する(図1のステップS3)。
粉砕は、例えば、超硬乳鉢を用いて行う。
【0015】
そして、ステップS3で得た粉砕物を加圧成形する(図1のステップS4)。
この場合、例えば、真空加圧で直径20mmの円板状に成形する。
【0016】
さらに、上記の成形物を本焼成することによりZnOバリスタを形成する(図1のステップS5)。
本焼成は、具体的には、空気中において1100〜1200℃の温度で所定時間行う。
【0017】
次に、本発明の方法によって、ZnOバリスタを実際に製造し、所期の効果が得られるかどうかを調べた。
[実施例1]
酸化亜鉛98.8mol%、酸化ビスマス0.5mol%、酸化マンガン0.5mol%、4酸化3コバルト0.2mol%および塩化アンチモン2400ppmに、平均粒径7nmの二酸化ケイ素100ppmを添加したものを、エタノールを使用してボールミルにより24時間湿式混合し、得られた混合物を空気中において600℃で3時間仮焼成した後粉砕し、粉砕物を真空加圧で直径20mmの円板状に成形し、得られた成形物を空気中において1150℃で3時間本焼成して、ZnOバリスタを製造した。
[実施例2]
二酸化ケイ素以外は実施例1と同様にして、二酸化ケイ素300ppmを添加して、ZnOバリスタを製造した。
[実施例3]
二酸化ケイ素以外は実施例1と同様にして、二酸化ケイ素700ppmを添加して、ZnOバリスタを製造した。
[実施例4]
二酸化ケイ素以外は実施例1と同様にして、二酸化ケイ素1500ppmを添加して、ZnOバリスタを製造した。
[比較例1]
二酸化ケイ素以外は実施例1と同様にして、二酸化ケイ素を添加せずに、ZnOバリスタを製造した。
【0018】
[比較検討1]
実施例1〜4と比較例1におけるZnOバリスタの諸特性を調べた。それぞれの試料に関して、課電劣化前の非線形指数α、課電劣化後の非線形指数α(α30min)、ZnO結晶の(002)面の面積強度、およびバリスタ電圧を測定した。
【0019】
図2は、実施例1〜4と比較例1におけるZnOバリスタの課電劣化前の非線形指数αの測定結果を示したグラフである。
図3は、実施例1〜4と比較例1におけるZnOバリスタの課電劣化後の非線形指数α、およびZnO結晶の(002)面の面積強度の測定結果を示したグラフである。
図4は、実施例1〜4と比較例1におけるZnOバリスタのバリスタ電圧の測定結果を示したグラフである。
【0020】
[実施例5]
酸化亜鉛98.8mol%、酸化ビスマス0.5mol%、酸化マンガン0.5mol%、4酸化3コバルト0.2mol%および塩化アンチモン200ppmに、平均粒径7nmの二酸化ケイ素100ppmを添加したものを、エタノールを使用してボールミルにより24時間湿式混合し、得られた混合物を空気中において600℃で3時間仮焼成した後粉砕し、粉砕物を真空加圧で直径20mmの円板状に成形し、得られた成形物を空気中において1150℃で3時間本焼成して、ZnOバリスタを製造した。
[実施例6]
二酸化ケイ素以外は実施例5と同様にして、二酸化ケイ素300ppmを添加して、ZnOバリスタを製造した。
[実施例7]
二酸化ケイ素以外は実施例5と同様にして、二酸化ケイ素700ppmを添加して、ZnOバリスタを製造した。
[実施例8]
二酸化ケイ素以外は実施例5と同様にして、二酸化ケイ素1500ppmを添加して、ZnOバリスタを製造した。
[比較例2]
二酸化ケイ素以外は実施例5と同様にして、二酸化ケイ素を添加せずに、ZnOバリスタを製造した。
【0021】
[比較検討2]
実施例5〜8と比較例2におけるZnOバリスタの諸特性を調べた。それぞれの試料に関して、課電劣化前の非線形指数α、課電劣化後の非線形指数α(α30min)、ZnO結晶の(002)面の面積強度、およびバリスタ電圧を測定した。
【0022】
図5は、実施例5〜8と比較例2におけるZnOバリスタの課電劣化前の非線形指数αの測定結果を示したグラフである。
図6は、実施例5〜8と比較例2におけるZnOバリスタの課電劣化後の非線形指数α、およびZnO結晶の(002)面の面積強度の測定結果を示したグラフである。
図7は、実施例5〜8と比較例2におけるZnOバリスタのバリスタ電圧の測定結果を示したグラフである。
【0023】
ここで、非線形指数αの値は、10−8〜10−4Aの電流範囲で定電流法により電圧−電流特性を測定して、以下の式1を用いて算出した。
【数1】

なお、Iは定数であり、V1mAは電流を1mA流したときの電圧で降伏電圧を示す尺度でありバリスタ電圧と呼ばれる。
また、課電劣化前後の測定には同じ試料を用いた。試料は、空気中で直流電流100mA/cmを、合計時間で30分間流して課電劣化させた。
【0024】
図2から判るように、実施例1〜4のZnOバリスタの非線形指数αの値は約40〜60であり、比較例1のZnOバリスタと同程度の高い非線形性を有する試料が得られた。
【0025】
図3から判るように、各ZnOバリスタの課電劣化30分後の非線形指数αの値は、比較例1のZnOバリスタにおいては約7であるのに対し、実施例1〜4のZnOバリスタにおいてはSiの添加量を増加するに従い増加し、特に実施例3のZnOバリスタにおいて約35となり極大値を示した。また、(002)面の面積強度は、Siの添加量を増加するに従い強くなっているのが判る。これは、Siの添加により、粒界での表面自由エネルギーに変化が起こり、ZnO結晶の方位に影響が出たため課電劣化が抑えられた結果であると考えられる。
【0026】
図4から判るように、実施例1〜4のZnOバリスタのバリスタ電圧は約220V/mm以上であり、比較例1のZnOバリスタのバリスタ電圧である約165V/mmに比べて、十分高いバリスタ電圧を有する試料が得られた。特に、実施例2のZnOバリスタのバリスタ電圧は、約240V/mmと極大値を示した。これは、小さな平均粒径の二酸化ケイ素の添加によるZnO粒子の粒成長抑制効果が無くても、双晶境界面などに新たな障壁が形成されること等が原因であると考えられる。
【0027】
図5から判るように、実施例5〜8のZnOバリスタの非線形指数αの値は約40〜50であり、実施例1〜4のZnOバリスタと同程度の高い非線形性を有する試料が得られた。
【0028】
図6から判るように、各ZnOバリスタの課電劣化30分後の非線形指数αの値は、比較例2のZnOバリスタにおいては約16であるのに対し、実施例5〜7のZnOバリスタにおいてはSiの添加量を増加するに従い増加し、特に実施例5のZnOバリスタにおいて約24となり極大値を示した。また、(002)面の面積強度は、Siの添加量を増加するに従い弱くなっているのが判る。これは、Siの添加により、粒界での表面自由エネルギーに変化が起こり、ZnO結晶の方位に影響が出たため課電劣化が抑えられた結果であると考えられる。
【0029】
図7から判るように、実施例6〜8のZnOバリスタのバリスタ電圧は約160V/mm以上であり、比較例2のZnOバリスタのバリスタ電圧である約120V/mmに比べて、十分高いバリスタ電圧を有する試料が得られた。このように、Sbの添加量が200ppmのZnOバリスタにおいても、二酸化ケイ素の添加によりバリスタ電圧を増加させる試料が得られた。
【0030】
さらに、実施例3が最もよい課電劣化特性であったので、Sbの添加量をどの程度減らせるかを検討するため、以下のZnOバリスタを製造した。
[実施例9]
酸化亜鉛98.8mol%、酸化ビスマス0.5mol%、酸化マンガン0.5mol%、4酸化3コバルト0.2mol%および塩化アンチモン200ppmに、平均粒径7nmの二酸化ケイ素700ppmを添加したものを、エタノールを使用してボールミルにより24時間湿式混合し、得られた混合物を空気中において600℃で3時間仮焼成した後粉砕し、粉砕物を真空加圧で直径20mmの円板状に成形し、得られた成形物を空気中において1150℃で3時間本焼成して、ZnOバリスタを製造した。
[実施例10]
塩化アンチモン以外は実施例9と同様にして、塩化アンチモン800ppmとして、ZnOバリスタを製造した。
[実施例11]
塩化アンチモン以外は実施例9と同様にして、塩化アンチモン1600ppmとして、ZnOバリスタを製造した。
[実施例12]
塩化アンチモン以外は実施例9と同様にして、塩化アンチモン2400ppmとして、ZnOバリスタを製造した。
【0031】
[比較検討3]
実施例9〜12におけるZnOバリスタの諸特性を調べた。それぞれの試料に関して、課電劣化後の非線形指数α、およびバリスタ電圧を測定した。
【0032】
図8は、実施例9〜12におけるZnOバリスタのバリスタ電圧の測定結果を示したグラフである。
図9は、実施例9〜12におけるZnOバリスタの課電劣化後の非線形指数αの測定結果を示したグラフである。
【0033】
図8から判るように、Sbの添加量を増加させることで、実施例9のZnOバリスタのバリスタ電圧は約160V/mmまで増加し、さらに実施例10〜12のZnOバリスタのバリスタ電圧は約200〜230V/mmで一定となった。
【0034】
図9から判るように、Sbの添加量を増加させることで、実施例9のZnOバリスタの非線形指数αは約19、さらに実施例10〜12のZnOバリスタの非線形指数αは約34となった。
【0035】
以上のことから、本発明によれば、特に実施例10および11のZnOバリスタにおいて、Sbの添加量が約1/30、Siの添加量が約1/50で市販バリスタと同特性(バリスタ電圧が約230V/mm、課電劣化前の非線形指数αが約45、課電劣化後の非線形指数αが約34)を有するZnOバリスタを製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の1実施例によるZnOバリスタの製造方法のフロー図である。
【図2】実施例1〜4と比較例1におけるZnOバリスタの課電劣化前の非線形指数αの測定結果を示したグラフである。
【図3】実施例1〜4と比較例1におけるZnOバリスタの課電劣化後の非線形指数α、およびZnO結晶の(002)面の面積強度の測定結果を示したグラフである。
【図4】実施例1〜4と比較例1におけるZnOバリスタのバリスタ電圧の測定結果を示したグラフである。
【図5】実施例5〜8と比較例2におけるZnOバリスタの課電劣化前の非線形指数αの測定結果を示したグラフである。
【図6】実施例5〜8と比較例2におけるZnOバリスタの課電劣化後の非線形指数α、およびZnO結晶の(002)面の面積強度の測定結果を示したグラフである。
【図7】実施例5〜8と比較例2におけるZnOバリスタのバリスタ電圧の測定結果を示したグラフである。
【図8】実施例9〜12におけるZnOバリスタのバリスタ電圧の測定結果を示したグラフである。
【図9】実施例9〜12におけるZnOバリスタの課電劣化後の非線形指数αの測定結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛98.8mol%、酸化ビスマス0.5mol%、酸化マンガン0.5mol%、4酸化3コバルト0.2mol%およびアンチモンの水溶性塩200〜2400ppmに、平均粒径5〜10nmの二酸化ケイ素100〜1500ppmを添加したものを湿式混合し、得られた混合物を仮焼成した後粉砕し、粉砕物を加圧成形し、得られた成形物を本焼成することによってアンチモン添加酸化亜鉛バリスタを製造する方法。
【請求項2】
前記アンチモンの水溶性塩は、塩化アンチモンまたは硝酸アンチモンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記湿式混合は、水またはエタノールを使用して行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記仮焼成は、空気中において500〜800℃の温度で行い、前記本焼成は、空気中において1100〜1200℃の温度で行うことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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