説明

アンテナエレメント

【課題】 パソコンあるいはPDA等の情報端末機器等の内部に組込むアンテナにおいて、WAN帯域での通信感度に優れ、しかも構造がシンプルで小型化にも適した多周波用アンテナエレメントを提供する。
【解決手段】 細幅状の低周波側放射エレメントの先端部とグランド板との間に形成したオープンスペースを利用して、このスペースでの容量結合箇所を促すことにより、WAN帯域幅を広げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、PDA(携帯型情報機器)、携帯電話、あるいはVICSなどの情報端末機器等に内蔵させる多周波用小型アンテナエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線LANあるいはBluetooth(近距離無線データ通信システム)搭載のPDA等においては、アンテナの多周波化とともに小型化の要求がますます強くなってきている。その中でも最近は、特に携帯電話等で使用されているWAN帯域(824MHz〜960MHz及び1710MHz〜2200MHz)での要求が高まってきている。
【0003】
ところで、WAN帯域では、低域周波数帯域での使用周波数が低いため、不可避的に低周波側放射エレメントが長くなる。このため、該低周波側放射エレメントを更に外方に折り返した構造として、エレメント長を確保する提案もなされている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この折返し構造にすると、アンテナ形状・寸法が大きくなる傾向があり、機器によっては組み込めなくなるという問題が生じる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−311153号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、WAN帯域での通信感度に優れ、しかも構造がシンプルで小型化にも適した多周波用アンテナエレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、細幅状の低周波側放射エレメントの先端部とグランド板との間に形成したオープンスペースを利用して、このスペースでの容量結合箇所を促すことにより、WAN帯域幅を広げることに成功した。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアンテナエレメントでは、該細幅状の低周波側放射エレメントの先端部、該オープンスペース及びグランド板との相互作用により、該細幅状の低周波側放射エレメントの共振点近傍での帯域幅が広がるとともに周波数特性(VSWR)が改善され、もって通信感度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、上述のオープンスペースを利用して、共振点を最小共振周波数に設定した2周波対応のアンテナエレメントについて、添付図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本発明の2周波用アンテナエレメントの一例を示す正面図である。
図2は、本発明の2周波用アンテナエレメントの好ましい例を示す正面図である。
図3は、図2のアンテナエレメントに給電用同軸ケーブルを取り付けた際のアンテナの斜視図である。
図4は、図3のアンテナの周波数特性(VSWR)を示す図(グラフ)である。
【0010】
図1において、放射エレメント部は、細幅状の高周波側放射エレメント(1)(以下、“高周波エレメント”と略記する。)と細幅状の低周波側放射エレメント(2)(以下、“低周波エレメント”と略記する。)とからなる、いわゆるデュアルタイプとして図示されている。(3)は、高周波エレメント(1)とグランド板(4)とを電気的に接続する短絡部である。この高周波エレメント(1)は短絡部(3)を介して矩形状グランド板(4)と並行に配置され、更に、該エレメント(1)の終端部(B1)から接続部(A)を経て低周波エレメント(2)が折り返す形で、矩形状グランド板(4)と並行に配置されている。このとき、低周波エレメント(2)の先端部は、高周波エレメント(1)の始端部(B2)を超えて逆方向に指向している。このときの先端部は(2a)で示されている。(L)は、該始端部(B2)を超えている先端部(2a)の長さである。
【0011】
更に、(W)は、矩形状グランド板(4)の幅、(H)は高さである。又、(S1)は、高周波エレメント部(1)に給電するための同軸ケーブルの内部導体を接続する給電点で、高周波エレメント(1)の中程に位置している。他方、(S2)は、該ケーブルの外部導体を接続するアースポイントで、グランド板(4)の上縁部で且つ給電点(S1)に対峙した位置にある。
【0012】
このようにして、高周波エレメント(1)と低周波エレメント(2)は、矩形状グランド板(4)の幅(W)方向に並行で且つ該幅(W)内で対峙している。この結果、低周波エレメント(2)の先端部(2a)とこれと対峙する矩形状グランド板(4)との間に、梨地で示すオープンスペース(N)が形成される。このオープンスペースは、図からも明らかなように、他の部材が介在していない領域である。
【0013】
本発明によれば、上述したオープンスペース(N)に関して、先端部の長さ(L)が、矩形状グランド板(4)の幅(W)の少なくとも3分の1〜3分の2にあるとき、先端部(2a)と矩形状グランド板(4)との間で、誘導性結合並びに容量性結合が優勢的に生じ、これにより、特に低周波域での共振帯域幅が広がることが確認された。更に詳しくは、共振の等価回路では、先端部(2a)の幅方向での誘導性結合(L結合)と、先端部(2a)と矩形状グランド板(4)との間での容量性結合(C結合)からなるLC共振結合が生じ、低周波域での共振帯域幅が広がる。
【0014】
ここで、先端部(2a)の長さ(L)が、矩形状グランド板(4)の幅(W)の3分の1未満では、容量性結合(C結合)が十分でなく、アンテナ特性の改善が望めない。又、該値が3分の2を超えるとアンテナの幅方向の寸法が大きくなるので、好ましくない。なお、グランド板(4)は、図1に示す幅(W)を超えて幅広にしてもよいが、この場合でも、先端部(2a)の長さ(L)は、該幅(W)を基準として3分の1〜3分の2に設定される。
【0015】
具体的に述べると、WAN帯域の低域周波数帯域として0.9GHzが確保されるように、低周波エレメント(2)の共振周波数(0.9GHz)に応じて先端部(2a)の長さ(L)、ひいてはオープンスペース(N)の面積を調節すればよい。このときの面積には、先端部(2a)と矩形状グランド板(4)との間隔(L1)も関与する。この間隔(L1)は3mm〜10mmであるのが好ましい。この間隔(L1)が小さ過ぎると、先端部(2a)と矩形状グランド板(4)との間で干渉が生じ、逆に大き過ぎると、上述した容量性結合(C結合)が生じにくくなる懸念がある。
【0016】
図2には、図1の矩形状グランド板(4)を更に発展させた形状が示されている。この例では、矩形状グランド板(4)から延出したL字形の細幅状サブグランド(4a)が短絡部(3)に接続されている。このとき、該サブグランド(4a)の長辺部は、高周波エレメント(1)と同じ長さで且つ並行関係にあり、従って、両者の間でスリット(C)が形成されている。そして、該長辺部の中程に、アースポイント(S2)が設けられる。このスリット(C)は、高周波エレメント(1)のスリット共振を惹起する。図3には、このようなアンテナエレメントに同軸ケーブル(5)を接続して得たアンテナが示されている。アンテナ自体は、その取付け空間の状況に応じて立体アンテナあるいは平面アンテナとして適用される。
【0017】
本発明において、高周波エレメント(1)及び低周波エレメント(2)の長さは、採択しようとする波長の概ね1/4の長さに設定するか、この1/4の長さを基準として、部材間の相互作用を考慮しながら実験的に設定すればよい。他方、その幅は0.5mm〜5mmの範囲から、その厚さについては0.1mm〜1mmの範囲から適宜採択する。このとき、抵抗分となる接続部(A)を幅広にすると、電解強度が強くなり、通信感度は更に向上する。具体的には、幅を4mm以上で尚且つ高周波エレメント(1)の幅より広くなるように設定すればよい。
【0018】
又、高周波エレメント(1)と矩形状グランド板(4)のとの間隔(=短絡部(3)の高さ)、高周波エレメント(1)と低周波エレメント(2)との間隔(=接続部(A)の高さ)は、アンテナとしての安定した動作を確保するため、それぞれに1mm以上5mm以下にあるのが好ましい。このことは、図2のサブグランド(4a)と矩形状グランド板(4)との間隔についても同様である。
【0019】
以上に述べたアンテナエレメントは、洋白(白銅)、銅、鉄、更には黄銅等の金属一枚板を打ち抜いて得られる。あるいは、平板状絶縁性基板上に銅箔のような金属薄膜を貼り付けた状態で、該金属膜をエッチングしても得ることができる。又、グランド板(4)については、安定したアンテナ動作を得るためには、その必要最低面積(mm2)がλ/4*λ/4(λ=低周波側)以上を満足することが好ましい。したがって、より安定したアンテナ動作を望む場合には、スペースの許す限り、その面積を大きくすればよい。
【0020】
給電用同軸ケーブル(5)としては、周知のフッ素樹脂被覆等の高周波同軸ケーブルが採用される。このケーブル(5)の内部導体の終端は、高周波放射エレメント(1)にある給電点(S1)に接続し、外部導体は給電点(S1)に対峙するグランド板(4)またはサブグランド(4a)上に設けたアースポイント(S2)に接続される。同軸ケーブル(5)を給電点(S1)及びアースポイント(S2)に接続するには、ハンダ付あるいは超音波接続等を利用すればよい。
【実施例】
【0021】
以下に、図2〜図3に示した2周波対応のアンテナを、WAN帯域(900MHz/1800MHz)を使用する携帯電話内蔵用として適用する例について示す。
【0022】
1. 図2のアンテナエレメントの作成:
厚さが0.4mmの洋白の一枚板を打ち抜いて、900MHz及び1800MHzの波長に対応する一体物を作成した。その際の各部材の寸法は、以下のとおりである。

高周波エレメント(1):長さ40mm、幅1.4mm。

低周波エレメント(2):長さ80mm、幅3mm。

矩形状グランド板(4):幅(W)80mm、高さ(H)80mm。
・ サブグランド(4a):長辺部長さ40mm、短辺部長さ1mm(=矩形状グランド板(4)とサブグランド(4a)との間隔)、幅1.4mm。
・ 短絡部(3):高さ1.3mm(=高周波エレメント(1)とサブグランド(4a)の長辺部との間隔)、幅1.4mm。

接続部(A):高さ1.6mm(=高周波エレメント(1)と低周波エレメント(2)との間隔)、幅3mm。
・ 低周波エレメント(2)の先端部(a)の長さ(L):40mm(=矩形状グランド板(4)の幅(W)の2分の1。)。

先端部(2a)とグランド板(4)の距離(L1):6.7mm。
・ 給電点(S1)の位置:高周波エレメント(1)の略中央。
・ アースポイント(S2)の位置:サブグランド(4a)上の略中央で、給電点(S1)に対峙した位置。
【0023】
2.図3のアンテナの完成
給電用同軸ケーブル(5)として、外径1.13mm、内部導体径0.24mmのフッ素樹脂(PFA)被覆の高周波同軸ケーブルを用意し、その先端部で内部導体及び外部導体を露出させた。内部導体の終端部を給電点(S1)に、そして該外部導体をアースポイント(S2)にそれぞれハンダにより接続することにより、図3に示す形状のアンテナを得た。
【0024】
得られたアンテナの帯域幅を測定したところ、図4に示すように、VSWRが2以下の帯域が、WAN帯域の低周波側の824MHz〜960MHzで約300MHz、高周波側の1710MHz〜2200MHzで700MHzと十分に確保されており、十分な通信特性が得られた。
【比較例】
【0025】
上記の実施例で、先端部(2a)の長さ(L)を15mmとし、これに対応して、矩形状グランド板(4)の幅(W)も65mmに縮小して、L/Wを0.23とする以外は、同様の実験を繰り返した。このときは、VSWRが2以下の帯域が、WAN帯域の低周波側の824MHz〜960MHzで僅かに50MHz、高周波側の1710MHz〜2200MHzでもわずかに100MHzしか得られず、満足すべき通信特性は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のアンテナは、WAN帯域のみならず、LAN帯域(2.5GHz/5GHz)に対しても適用でき、したがって、携帯電話の他に、PDA、或いはVICS等の各種情報端末機器のみならず通信機能を有した情報家電、更には自動車関連機器へも同様に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の2周波用アンテナエレメントの一例を示す正面図。
【図2】本発明の2周波用アンテナエレメントの好ましい例を示す正面図。
【図3】図2のアンテナエレメントに給電用同軸ケーブルを取り付けた際のアンテナの斜視図。
【図4】図3のアンテナの周波数特性(VSWR)を示す図(グラフ)
【符号の説明】
【0028】
1 細幅状の高周波側放射エレメント
2 細幅状の低周波側放射エレメント
2a 細幅状の低周波側放射エレメント(2)の先端部
3 短絡部
4 矩形状グランド板
4a サブグランド
5 給電用同軸ケーブル
A 接続部
B1 細幅状の高周波側放射エレメント(1)の終端部
B2 細幅状の高周波側放射エレメント(1)の始端部
L 先端部(2a)の長さ
N オープンスペース
W 矩形状グランド板(4)の幅
S1 給電点
S2 アースポイント










【特許請求の範囲】
【請求項1】
細幅状の高周波側放射エレメント及び細幅状の低周波側放射エレメントを含む放射エレメント部が短絡部を介して、矩形状グランド板の幅内で該幅方向に並行に配置されたアンテナエレメントであって、
該エレメント部は、該短絡部に接続された高周波側放射エレメントと、該高周波側放射エレメントの先端部から折り返し状に延出し、その先端部が該高周波側放射エレメントの始端部を超えて逆方向に指向するような低周波側放射エレメントとからなり、その際、
該高周波側放射エレメントの始端部を超えて指向する低周波側放射エレメントの先端部の長さが該グランド板の幅の3分の1以上に相当し、そして、
該先端部とこれに対峙するグランド板との間で容量結合が生じるようなオープンスペースが形成されていることを特徴とするアンテナエレメント。
【請求項2】
該先端部と該矩形状グランド板との間隔が3mm〜10mmである請求項1に記載のアンテナエレメント。
【請求項3】
該矩形状グランド板から延出したL字形の細幅状サブグランドの終端に短絡部を接続してなる請求項1または2に記載のアンテナエレメント。
【請求項4】
同軸ケーブルの内部導体を該高周波側放射エレメントに接続し他方、該ケーブルの外部導体を該矩形状グランド板に接続してなる請求項1または2に記載のアンテナ。
【請求項5】
同軸ケーブルの内部導体を該高周波側放射エレメントに接続し他方、該ケーブルの外部導体を該サブグランドに接続してなる請求項3に記載のアンテナ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−154013(P2008−154013A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340662(P2006−340662)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
2.Bluetooth
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】