説明

アンテナコイル形成用巻線治具

【課題】 異なる複数の形状のアンテナコイルの作製にも対応することが可能なアンテナコイル形成用巻線治具を提供すること。
【解決手段】 複数の矩形状のアンテナコイルの作製に用いる巻線治具であって、直動ガイドに支持された上下動可能なストリッパプレート45と、ストリッパプレート45から突き出し、前記の複数の矩形状のそれぞれの4つの頂点付近に互いに近接して配置され、各矩形状の外側から内側に向かう方向に順次突き出し高さが高くなるように設定されたそれぞれ円柱棒状の複数のガイドピンからなるガイドピン群40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40hとを有している。これらのガイドピン群は、ストリッパプレート45に開けられた貫通穴にガイドされ、かつバネにより付勢されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカード用アンテナコイルを作製するために用いるアンテナコイル形成用巻線治具に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触ICカードには、カードリーダ/ライタとの間で電気信号を送受信するためのアンテナコイルが内蔵されている。図3はICカード用アンテナコイルの一例を示す斜視図である。ベースフィルム35の外周付近に数ターンの巻線からなる矩形状のアンテナコイル100が形成されている。このアンテナコイルを高速に形成するための技術が特許文献1に開示されている。これは、内側から外側に同軸上に設けられ、外径と突き出し高さがそれぞれ異なる円柱または円筒状の複数のガイドピンに線材を巻きつけ、所定の経路を這わせることによりアンテナコイルを形成する技術である。
【0003】
図4は、特許文献1に記載された従来のアンテナコイル形成用巻線治具の斜視図である。図5は、特許文献1に記載された従来のアンテナコイル形成用巻線治具の平面図である。図6は、従来のアンテナコイル形成用巻線治具を使用してベースフィルムにアンテナコイルを形成する工程を示す正面図である。図4、図5に示すように、このアンテナコイル形成用巻線治具は1つの矩形状部分のアンテナコイルの作製に用いる巻線治具である。直動ガイド3に支持された上下動可能なストリッパプレート20と、ストリッパプレート20から突き出し、矩形状部分の4つの角部に配置され、外側から内側に向かう方向に順次突き出し高さが高くなるように設定された同軸の円柱または円筒状の複数のガイドピン4A、4B、4C、4D、4E、4Fとを有している。最も外側に位置するガイドピン4Aは、ストリッパプレート20に開けられた貫通穴にガイドされ、かつ、ガイドピン4A、4B、4C、4D、4E、4Fはそれぞれバネ14により付勢されている。
【0004】
このガイドピン4A、4B、4C、4D、4E、4Fに矩形状に線材を巻きつけ、図6に示すように、ストリッパプレート20とガイドピンを突き出し高さの高い順、すなわち4F、4E、4D、4C、4B、4Aの順にブロック37上に置かれたベースフィルム35に押しつけ、内側のガイドピンの外周に巻きつけられた線材を隣接する外側のガイドピンの軸端面により押し出すことにより、ベースフィルム35に矩形状のアンテナコイルを埋め込み、固定する。なお、図4、図5に示すように線材の巻き始めの位置に同軸上のガイドピン5Aと5B、およびガイドピン7、巻き終わりの位置に同軸上のガイドピン6Aと6B、およびガイドピン8が配置され、そこからそれぞれ、からげピン9に巻きつけられている。カッターにより線材に切り込みを入れ、からげピン9をバネの付勢方向に強制的に移動し、線材を所定の位置に引張切断することで、アンテナコイルを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−156465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のアンテナコイル形成用巻線治具では、1つの巻線治具につき、1種類のアンテナコイルしか形成することができない。アンテナコイルの形状は、ICチップの特性、共振周波数、通信距離特性、及びカードの仕様によって変更する必要がある。これに対応するために要求仕様に応じて異なる形状のアンテナコイルを作製する場合、従来はアンテナコイルの仕様毎に、専用の巻線治具を設計、製作する必要があった。すなわち、異なるアンテナコイルを形成するためには、ガイドピンの配置やストリッパプレートなどを変更する必要があった。このため、複数種類のアンテナコイルの作製には多くの製作工数および製作コストがかかるという問題があった。また、従来のアンテナコイル形成用巻線治具では、開発のため実験的に形状を変更したい場合にも対応ができなかった。
【0007】
そこで本発明の課題は、異なる複数の形状のアンテナコイルの作製にも対応することが可能なアンテナコイル形成用巻線治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のアンテナコイル形成用巻線治具は、少なくとも一辺の長さが互いに異なる複数の矩形状のアンテナコイルの作製に用いる巻線治具であって、ベースブロックに保持される直動ガイドに支持された上下動可能なストリッパプレートと、前記ストリッパプレートから突き出し、前記複数の矩形状のアンテナコイルに対応するそれぞれの4つの角部に互いに近接して配置され、前記角部の各々の外側から内側に向かう方向に順次突き出し高さが高くなるように設定された複数のガイドピンとを有し、前記ガイドピンは、前記ストリッパプレートに開けられた貫通穴にガイドされ、かつバネにより付勢されており、前記複数の矩形状のアンテナコイルのうちの一つの矩形状のアンテナコイルに対応する4つの角部に配置された複数のガイドピンに線材を巻きつけ、前記ストリッパプレートと前記ガイドピンを突き出し高さの高い順にベースフィルムに押しつけ、内側のガイドピンの外周に巻きつけられた線材を隣接する外側のガイドピンの軸端面により押し出すことにより、前記ベースフィルムに前記矩形状のアンテナコイルを埋め込み固定することを可能とするように構成されている。
【0009】
ここで、前記矩形状のアンテナコイルに対応する角部に配置された複数のガイドピンが、前記互いに異なる複数の矩形状のアンテナコイルに対応する少なくとも1つの角部において共有されるように配置されていてもよい。
【0010】
また、前記矩形状のアンテナコイルの少なくとも一つの辺であって、前記角部に配置されたガイドピンに巻きつけられた線材が接する位置にガイドピンを配置してもよい。
【0011】
また、前記ストリッパプレートと前記ベースブロックとの間に配置され前記ガイドピンをガイドする貫通穴を有するガイドブロックを設けてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアンテナコイル形成用巻線治具においては、上述のとおり、予め複数の矩形状のアンテナコイルの形成に対応したガイドピンを備えており、目的のアンテナコイルに対応したガイドピンを選択して使用し、作製することができる。これにより1つの巻線治具で異なる形状の複数のアンテナコイルを作製することができる。また、矩形状の各角部に配置される複数のガイドピンの構造は、従来のように同軸の円筒形状である必要はなく、後で述べるようにそれぞれ独立した円柱棒状であってもよいので、従来のアンテナコイル形成用巻線治具に比べて構造が簡単となる。
【0013】
本発明により、製品の要求にしたがって、アンテナコイルの設計変更、仕様変更が容易となり、また、1つの巻線治具で形成可能なアンテナコイルの種類が増えるので、実験レベルのアンテナ設計や試作、他券種への対応も可能となる。
【0014】
以上のように、本発明により、異なる複数の形状のアンテナコイルの作製にも対応することが可能なアンテナコイル形成用巻線治具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるアンテナコイル形成用巻線治具の一実施の形態を説明する図であり、図1(a)は本実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具のガイドピンの配置とガイドピンに巻かれた矩形状のアンテナコイル巻線を示すための簡略化した平面図、図1(b)は本実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具の簡略化した正面図。
【図2】本発明によるアンテナコイル形成用巻線治具の実施の形態において形成可能な3つのアンテナコイルの巻線状態を示す平面図。
【図3】ICカード用アンテナコイルの一例を示す斜視図。
【図4】従来のアンテナコイル形成用巻線治具の斜視図。
【図5】従来のアンテナコイル形成用巻線治具の平面図。
【図6】従来のアンテナコイル形成用巻線治具を使用してベースフィルムにアンテナコイルを形成する工程を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は本発明によるアンテナコイル形成用巻線治具の一実施の形態を説明する図であり、図1(a)は本実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具のガイドピンの配置とガイドピンに巻かれた矩形状のアンテナコイル巻線を示すための簡略化した平面図、図1(b)は本実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具の簡略化した正面図である。図1に示すように、本実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具は、2辺の長さが互いに異なる3つの矩形状のアンテナコイル44の作製に用いる巻線治具である。直動ガイドに支持された上下動可能なストリッパプレート45と、ストリッパプレート45から突き出し、前記の3つの矩形状のアンテナコイルのそれぞれの4つの頂点付近(角部)に互いに近接して配置され、各矩形状の外側から内側に向かう方向に順次突き出し高さが高くなるように設定されたそれぞれ円柱棒状の3つのガイドピンからなるガイドピン群40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40hとを有している。これらのガイドピンは、ストリッパプレート45に開けられた貫通穴にガイドされ、かつバネにより付勢されている。前記の3つの矩形状のうちの一つの矩形状の4つの頂点付近に配置された複数のガイドピンに線材を巻きつけ、ストリッパプレート45と4つの頂点付近に配置された複数のガイドピンを突き出し高さの高い順にベースフィルムに押しつけ、内側のガイドピンの外周に巻きつけられた線材を隣接する外側のガイドピンの軸端面により押し出すことにより、ベースフィルムにその矩形状のアンテナコイルを埋め込み固定することを可能とするように構成されている。
【0018】
本実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具は、ガイドピン群40a、40b、40c、40dを頂点として構成される第1の矩形、ガイドピン群40a、40b、40f、40hを頂点として構成される第2の矩形、およびガイドピン群40a、40e、40g、40dを頂点として構成される第3の矩形の3つの矩形状のアンテナコイルの作製に用いることができる。図2は、本発明によるアンテナコイル形成用巻線治具の実施の形態において形成可能な3つのアンテナコイルの巻線状態を示す平面図である。図2からわかるように、第1の矩形と第2の矩形では2つの頂点のガイドピン群40aとガイドピン群40bが共有され、第1の矩形と第3の矩形では2つの頂点のガイドピン群40aとガイドピン群40dが共有されるように配置されている。
【0019】
また、本実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具においては、第1の矩形の4つの辺付近であって、第1の矩形の角部に配置されたガイドピン群40a、40b、40c、40dに巻きつけられた線材が接する位置に円柱棒状のガイドピン41a、41b、41c、41d、41e、41f、41g、41hを配置している。これらのガイドピンにより、線材を巻きつけ、ベースフィルに固定したときのアンテナコイル形状の変形をより確実に防止することができる。また、巻始めの線材をガイドするガイドピン42b、および巻終りの線材をガイドするガイドピン42aを設けている。
【0020】
また、本実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具においては、図1(b)に示すように、直動ガイドを保持するベースブロック46と、ストリッパプレート45とベースブロック46との間に配置され上記のすべてのガイドピンをガイドする貫通穴を有するガイドブロック47とを設けている。
【0021】
上記のように、上記のすべてのガイドピンはストリッパプレート45とガイドブロック47の貫通穴によりガイドされ、これらの円柱棒状のガイドピンの直径はアンテナコイル設計の際に要求される矩形頂点の曲率Rによって決定される。また、ガイドピンのストリッパプレート45からの突出高さは、アンテナコイルの各頂点において、内側より外側方向に向かって1〜2mm程度ずつ低くなるように設置する。
【0022】
また、内側のガイドピンの外周に巻きつけられた線材を隣接する外側のガイドピンの軸端面により押し出すことが可能なように、各矩形の頂点の互いに隣接するガイドピン間の間隙は、アンテナコイルを形成する巻線の直径よりも小さくしている。
【0023】
最大矩形状の頂点から内側に配置する他の矩形の頂点のガイドピンの間隔、例えば40a、40dと40e、40gとのそれぞれの間隔は、最小1mm以上のピッチで周期的に配置することができる。
【0024】
また、矩形の頂点に配置するガイドピンの本数はアンテナコイル1ターンにつき最低4本必要となり3ターンのアンテナコイルでは各頂点3本、合計で12本必要となり、さらに巻始めと巻終りのガイドピン2本が必要となり、合計14本が必要となる。
【0025】
また、すべてのガイドピンは、手動又は自動で挟み込んで脱着および格納可能な構造とし、アンテナコイルの形状にあわせてベースブロック46に固定することが可能な構造としてもよい。また、本実施の形態のアンテナコイル形成巻線治具において、ガイドピンに関係する部分の構造や配置以外の構成や構造は、図4に示した従来のアンテナコイル形成巻線治具と同様の構成、構造を用いることができる。
【0026】
本発明のアンテナコイルの巻線治具は、加工がしやすく更に強度のあるSUS304材又はそれ以上の強度があるSUS材を組合せて形成することができる。
【0027】
本発明のアンテナコイルの巻線治具により、アンテナコイルの形状を半分の長さへ短縮して作製することも可能となり、ICカードの仕様にあわせた形状にも対応が可能となる。例えば、図2(b)の形状をコンビカード用とすること、図2(c)の形状をエンボスカード用とすることなどが可能となる。
【0028】
なお、上記の実施の形態のアンテナコイル形成用巻線治具でアンテナコイルを設計した場合、第1の矩形のアンテナコイルでおよそコイル線の長さを1300mm程度としたとき、アンテナコイルを巻く速度は、10秒〜13秒程度での巻線が可能となり、第2、第2の矩形状の場合はそれより速い速度での巻線が可能となる。
【0029】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではないことはいうまでもなく、目的にあわせて設計変更可能である。例えば、ガイドピンの配置やその本数、形成可能な矩形の種類なども変更可能である。また、使用しないガイドピンをストリッパプレートより突出しないようにすること、異なる矩形でガイドピンを共有しないでそれぞれ独立に設けること、従来と同様な同軸上のガイドピンを使用すること、矩形の辺の部分のガイドピンを配置しないことなども可能である。
【符号の説明】
【0030】
2、46 ベースブロック
3 直動ガイド
9 からげピン
20、45 ストリッパプレート
35 ベースフィルム
37 ブロック
4A、4B、4C、4D、4E、4F、5A、5B、6A、6B、7、8、41a、41b、41c、41d、41e、41f、41g、41h、42a、42b ガイドピン
40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40h ガイドピン群
44、100 アンテナコイル
47 ガイドブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一辺の長さが互いに異なる複数の矩形状のアンテナコイルの作製に用いる巻線治具であって、ベースブロックに保持される直動ガイドに支持された上下動可能なストリッパプレートと、前記ストリッパプレートから突き出し、前記複数の矩形状のアンテナコイルに対応するそれぞれの4つ角部に互いに近接して配置され、前記角部の各々の外側から内側に向かう方向に順次突き出し高さが高くなるように設定された複数のガイドピンとを有し、前記ガイドピンは、前記ストリッパプレートに開けられた貫通穴にガイドされ、かつバネにより付勢されており、前記複数の矩形状のアンテナコイルのうちの一つの矩形状のアンテナコイルに対応する4つの角部に配置された複数のガイドピンに線材を巻きつけ、前記ストリッパプレートと前記ガイドピンを突き出し高さの高い順にベースフィルムに押しつけ、内側のガイドピンの外周に巻きつけられた線材を隣接する外側のガイドピンの軸端面により押し出すことにより、前記ベースフィルムに前記矩形状のアンテナコイルを埋め込み固定することを可能とするように構成されたことを特徴とするアンテナコイル形成用巻線治具。
【請求項2】
前記矩形状のアンテナコイルに対応する角部に配置された複数のガイドピンが、互いに異なる前記複数の矩形状のアンテナコイルに対応する少なくとも1つの角部において共有されるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナコイル形成用巻線治具。
【請求項3】
前記矩形状のアンテナコイルの少なくとも一つの辺であって、前記角部に配置されたガイドピンに巻きつけられた線材が接する位置にガイドピンを配置したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンテナコイル形成用巻線治具。
【請求項4】
前記ストリッパプレートと前記ベースブロックとの間に配置され前記ガイドピンをガイドする貫通穴を有するガイドブロックを設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のアンテナコイル形成用巻線治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−137842(P2012−137842A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288223(P2010−288223)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】