説明

アンテナ装置及び移動体通信端末

【課題】送受信信号の利得の向上を図り、通信性能の良好なアンテナ装置及び移動体通信端末を得る。
【解決手段】スリット部22を有する放射部材20と、該放射部材20に対向する導体部材7と、を備えたアンテナ装置。放射部材20と導体部材7とは、スリット部22の両側に位置する第1の接続部及び第2の接続部によって接続されており、第1の接続部及び第2の接続部のうち少なくとも一方は容量を介して放射部材20と導体部材7とを接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置及び移動体通信端末、特に、RFID(Radio Frequency Identification)システムなどに用いられるアンテナ装置、及び、これを備えた移動体通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品や情報の管理システムとして、誘導磁界を発生するリーダライタと、物品に付され、所定の情報を記憶したICタグなどの無線ICデバイスとを電磁界を利用した非接触方式で通信し、所定の情報や電力の送受信を行うRFIDシステムが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非接触式ICカードを組み込んだ携帯電話機が開示されている。しかしながら、携帯電話機などの移動体通信端末は、小型で多機能であるため、小型の筺体内に高密度に各種金属部品が搭載されている。例えば、マザーボードとなるプリント配線板にはグランド導体などが複数層に配置されており、該プリント配線板の表面にはICチップやコンデンサなどの金属を含む部品が高密度に実装されている。また、筺体内には、電源となるバッテリーパックも配置されており、このバッテリーパックにはフレームなどの金属部品が用いられている。
【0004】
それゆえ、筺体内に搭載されたICカードなどのアンテナ装置は、筺体内に設けられている金属部品の影響で通信性能が劣化するという問題点を有していた。所定の通信性能を確保するには、アンテナのサイズを大型化したり、筺体の形状や金属部品のレイアウトなどを再考する必要があるが、それにも限界があるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−37861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前述の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、送受信信号の利得の向上を図り、通信性能の良好なアンテナ装置及び移動体通信端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の第1の形態であるアンテナ装置は、
スリット部を有する放射部材と、該放射部材に対向する導体部材と、を備えたアンテナ装置であって、
前記放射部材と前記導体部材とは、前記スリット部の両側に位置する第1の接続部及び第2の接続部によって接続されており、
前記第1の接続部及び前記第2の接続部のうち少なくとも一方は容量を介して前記放射部材と前記導体部材とを接続していること、
を特徴とする。
【0008】
本発明の第2の形態である移動体通信端末は、前記アンテナ装置を備えたことを特徴とする。
【0009】
前記アンテナ装置において、放射部材のスリット部の両側に位置する第1の接続部及び第2の接続部によって放射部材と導体部材とが接続されているため、導体部材も放射機能を有することになり、利得が向上し、通信性能が良好となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送受信信号の利得の向上を図り、良好な通信性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1であるアンテナ装置を搭載した移動体通信端末を示し、(A)は筺体の裏面図、(B)はA−A断面図である。
【図2】実施例1であるアンテナ装置を分解して示す説明図である。
【図3】実施例1であるアンテナ装置においてコイルパターンと放射部材との結合を示す説明図である。
【図4】実施例1であるアンテナ装置において放射部材の開口部の周辺に生じる誘導電流を示す説明図である。
【図5】実施例1であるアンテナ装置において放射部材の周縁部に流れる誘導電流を示す説明図である。
【図6】アンテナ装置とリーダライタ側アンテナとの磁気的結合状態を示す説明図であり、(A)は実施例1を示し、(B)は比較例を示す。
【図7】実施例1であるアンテナ装置において、無線信号がUHF帯である場合の動作説明図である。
【図8】実施例2であるアンテナ装置を示し、(A)は分解斜視図、(B)は断面図である。
【図9】実施例2であるアンテナ装置の簡略化した動作説明図である。
【図10】実施例3であるアンテナ装置を搭載した移動体通信端末の概略を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図11】実施例4であるアンテナ装置を搭載した移動体通信端末の概略を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図12】実施例5であるアンテナ装置を搭載した移動体通信端末の概略を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図13】実施例6であるアンテナ装置を搭載した移動体通信端末の概略を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図14】実施例7であるアンテナ装置を示し、(A)は分解斜視図、(B)は平面図である。
【図15】実施例8であるアンテナ装置を示し、(A)は分解斜視図、(B)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るアンテナ装置及び移動体通信端末を具体的な実施例に基づいて説明する。なお、各図において、共通する部品、部分には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
(実施例1、図1〜図7参照)
実施例1であるアンテナ装置1Aは、図1(A),(B)に示すように、移動体通信端末(例えば、携帯電話機)の筺体5の裏面側に設けた、コイルパターン15を含んだ給電部材10と、給電部材10に貼着したフェライトシートからなる磁性部材19と、放射部材20と、で構成されている。
【0014】
放射部材20は、給電部材10から供給された信号を放射する及び受信信号を受けてこれを給電部材10に供給するアンテナとして機能するもので、筺体5の裏面側に金属の膜あるいは箔を設けてなる。給電部材10は、複数の誘電体層(熱可塑性樹脂シート)が積層された積層体で構成されており、コイルパターン15は、複数の誘電体層にそれぞれ配置された複数の環状導体を、ビアホール導体などの層間導体(図1(B)では図示せず)を介して、積層体の積層方向に巻回軸を有するようにヘリカル状に接続し、コイルとしたものである。また、コイルパターン15の両端部分は、筺体5に内蔵されているICタグなどの無線回路に接続されている。
【0015】
放射部材20は、その一部に開口部21と、該開口部21に縁部から連通するスリット部22を有している。スリット部22の一方端は開口部21に連接し、他方端は放射部材20の側縁にて開放されている。即ち、スリット部22は開口部21と放射部材20の側縁とを連通させるように設けられている。コイルパターン15の巻回軸方向から平面視したとき、開口部21の全領域はコイルパターン15の内側領域に重なっていて、コイルパターン15は放射部材20と重なっている。
【0016】
アンテナ装置1Aの組立て手順は、図2に示すとおりであり、まず、コイルパターン15を内蔵した給電部材10に磁性部材19を貼着し、給電部材10を放射部材20上に貼着する。
【0017】
以上の構成からなるアンテナ装置1Aにおいては、コイルパターン15を含む給電部材10によって、コイルパターン15の両端に電気的に接続されている無線回路からの送信信号を放射部材20に供給し、放射部材20からの受信信号(受信電力)を給電部材10を介して無線回路に供給する。以下に、この動作について詳述する。
【0018】
前述のごとく、給電部材10に設けたコイルパターン15の巻回軸方向から平面視したときに、放射部材20の開口部21とコイルパターン15の内側領域とは重なっている。従って、図3に示すように、例えば、無線信号の送信時には、無線回路から信号電流がコイルパターン15に流され、この電流によって生じた誘導磁界Hは、開口部21を通して図中点線で示すように理想的に分布する。磁界Hが理想的に分布するとは、二つの磁界Hの中心Bが開口部21の中心と一致していることであり、この状態で放射部材20の利得が最大となる。
【0019】
前記誘導磁界Hによって、図4に示すように、開口部21の周囲部分に、誘導電流I1,I2(但し、電流I1,I2の伝播方向は180°異なる)が生じる。具体的には、図5に示すように、開口部21及びスリット部22の周囲を通り、放射部材20の平面及び縁端効果により放射部材20の周縁部に誘導電流I1,I2が流れる。なお、図5で電流I2は図示しないが、電流I1とは逆方向に流れる。誘導電流I1,I2は放射部材20とコイルパターン15とが平面視で重なっていることから、コイルパターン15から生じた誘導磁界を遮るように、コイルパターン15に流れる電流とは反対の方向に流れる。
【0020】
ここで、誘導電流I1,I2によって、放射部材20から磁界が生じ、放射部材20の全体に誘導電流I1,I2が流れる。特に、アンテナ装置1Aで取り扱われる無線信号がHF帯である場合には、図6(A)に示すように、放射部材20は磁束が透過しないので、放射部材20の開口部21を内側、放射部材20の外縁を外側とする経路で、磁束φが相対的に大きなループを描く。これにより、リーダライタのアンテナ40との通信距離を広げることができる。
【0021】
本アンテナ装置1Aとリーダライタのアンテナ40との磁気的な結合状態は図6(A)に示すとおりである。放射部材20が省略されている場合を比較例として図6(B)に示す。この比較例では、放射部材20が存在しないので、磁束φが広がることはなく、アンテナ40との結合量は小さい。従って、両者が接近するほどむしろ通信が不安定になるといった現象が生じる。
【0022】
ここで、給電部材10の種々のサイズ(縦横のサイズ)に対するリーダライタのアンテナ40との通信可能な距離を測定した結果を示す。なお、かっこ内は放射部材20を省略した比較例での通信可能な距離である。
【0023】
22.5mm×20mmのとき、0〜44mm(0〜24mm)
22.5mm×19mmのとき、0〜43mm(0〜23mm)
22.5mm×18mmのとき、0〜41mm(0〜19mm)
22.5mm×17mmのとき、0〜39mm( − )
22.5mm×16mmのとき、0〜38mm( − )
【0024】
このように、放射部材20においては、誘導電流I1,I2によって磁界Hが誘起されるが、アンテナ装置1Aで取り扱われる無線信号が高周波帯域、特にUHF帯である場合には、図7に示すように、この磁界Hによって電界Eが誘起され、この電界Eによって磁界Hが誘起されるという連鎖により、放射部材20の全域に電磁界分布が二次元的に広がる。そして、この電磁界分布によって、無線信号が送信されるが、放射部材20の全体に誘導電流I1,I2が流れることにより、通信距離を広げることができる。
【0025】
なお、開口部21にはスリット部22が連接されているため、この誘導電流I1,I2はスリット部22にてその流れが制限され、電位差が与えられる(容量が形成される)。従って、スリット部22の長さL1や幅L2で、誘導電流I1,I2の量や分布を制御することにより、放射部材20の全域に生じる電界・磁界の量を制御することができる。その結果、送信信号の利得を制御することができる。
【0026】
前述したように、スリット部22の長さL1や幅L2により、放射部材20にて送受信される無線信号の利得を制御できる。具体的には、スリット部22の長さL1を大きくするほど、また、幅L2を小さくするほど、利得が大きくなる傾向にある。
【0027】
図1(B)に示したように、給電部材10の各誘電体層に設けられた環状導体は、それぞれ所定間隔をおいて平行な複数の線路導体によって形成されていることが好ましい。即ち、本実施例1において、環状に形成されている導体は、平行な2本の線路導体として形成されており、これによって、2本の線路導体の間にも磁束が通るようになり、励起された磁界がコイルパターン15の中心方向、即ち、巻回軸と直交する方向に広がって、磁束を効率的に利用できるようになる。また、環状導体の並列本数を増やすことで、環状導体の直流抵抗を小さくできる効果を生じる。この結果、無線信号の利得を向上させることができる。
【0028】
図3に示す等価回路では、給電回路としてコイルパターン15のみを図示しているが、インダクタンス成分としてコイルパターン15自体のインダクタンスを利用しているほか、コイルパターン15は前述のように積層された環状電極によって形成されているので、各層の環状電極間に形成された浮遊容量をキャパシタンス成分として利用している。なお、給電部材10には、少なくとも一つのコイルパターン15を備えていればよく、給電回路が所定の共振周波数を持っている場合は、例えばその共振周波数を調整するためのキャパシタンス成分やインダクタンス成分をさらに有していても構わない。
【0029】
本実施例1において、給電回路(コイルパターン15)は所定の共振周波数を有しており、放射部材20にて送受信される無線信号の周波数はこの共振周波数に実質的に相当するものであることが好ましい。ここで、「実質的に相当する」とは、給電回路が有する共振周波数の帯域と放射部材20にて送受信される無線信号の周波数帯とがほぼ一致していることをいう。このように、送信信号及び/又は受信信号の周波数が給電回路の共振周波数に実質的に相当しているので、放射部材20の形状や材質、放射部材20を支持する筺体5の形状や材質などにほとんど依存しない安定した周波数特性を有するアンテナ装置が得られる。
【0030】
換言すれば、放射部材20における開口部21やスリット部22の形状や材質、あるいは、給電部材10におけるコイルパターン15の形状や材質で、無線信号の周波数帯域が決められ、かつ、放射部材20と無線回路(信号処理部)とのインピーダンスの整合も実現される。従って、放射部材20の開口部21やスリット部22の形状やコイルパターンの形状を変更することなく、各種の移動体通信端末に対応したアンテナ装置を実現できる。
【0031】
また、給電部材10に重ねて配置した磁性部材19は、コイルパターン15に発生する磁界を外部に漏らすことなく効率的に放射部材と結合させ、また、外部で発生する磁界を遮断して通信性能の劣化を防止する機能を有している。
【0032】
なお、本実施例1において、給電部材10と放射部材20とは電磁界結合しているので、給電部材10と放射部材20との間のインピーダンス整合を考慮する必要は必ずしもない。つまり、本実施例1によれば、前述したように、スリット部22の形状を好ましく設計することにより、極めて容易に無線信号の利得を制御することができる。
【0033】
放射部材20の開口部21とコイルパターン15の内側領域とはほぼ全域で重なっており、かつ、開口部21の面積とコイルパターン15の内側領域の面積とがほぼ同一であることが好ましい。その理由は、コイルパターン15による磁界H(図3参照)が放射部材20に対して効率よく伝播し、損失が抑えられ、利得が向上するからである。また、開口部21とコイルパターン15の内側領域とをほぼ全域で重ならせることで、コイルパターン15の全てを放射部材20に重ならせることができる。そして、これにより、放射部材20により大きな誘導電流を生じさせることができるので、通信距離をより向上させることができる。しかし、開口部21とコイルパターン15の内側領域とは少なくとも一部で重なって、放射部材20とコイルパターン15とが一部で重なっていればよい。
【0034】
また、放射部材20の面積はコイルパターン15が形成された部分の面積よりも大きいことが好ましい。放射部材20の面積がコイルパターン15で形成された部分の面積よりも大きいことにより、誘導電流が大きなループを描いて流れるので、通信距離をより向上させることができる。
【0035】
スリット部22の形状に関しては、本実施例1のように直線状であることが加工性の点で有利であるが、ミアンダ状や湾曲状に形成されていても構わない。さらに、給電部材10は単層基板上にコイルパターン15が形成されたものであっても構わない。
【0036】
(実施例2、図8、図9参照)
実施例2であるアンテナ装置1Bは、図8(A),(B)に示すように、基本的には前記実施例1であるアンテナ装置1Aと同様の構成を有し、異なっているのは、移動体通信端末に搭載されているプリント配線板6に設けた導体部材(以下、グランド導体7と称する)と放射部材20とを容量C(図9参照)を介して結合させた点にある。より詳しくは、グランド導体7と放射部材20とは互いに対向して配置されており、このグランド導体7に電気的に接続した導電性部材(容量補足素子)8と放射部材20との間に接着剤である誘電体層18が介在することで、導電性部材8と放射部材20との間に容量Cが形成される。
【0037】
本実施例2であるアンテナ装置1Bの作用効果は前記実施例1であるアンテナ装置1Aと基本的には同様であり、放射部材20とグランド導体7とが容量Cで結合している点で以下の作用効果を奏する。
【0038】
即ち、通信時にはコイルパターン15に流れる信号電流に起因して生じた誘導磁界によって、図9に示すように、放射部材20に誘導電流I1,I2が流れる。なお、図9は実施例1で参照した図5をより簡略的に示している。この誘導電流I1,I2に起因して、放射部材20と対向するグランド導体7には誘導電流によって生じた磁界を打ち消す方向に渦電流I3,I4が生じる。渦電流I3,I4は本来熱として放散されるものであるが、渦電流I3,I4のエネルギーが前記容量Cによって放射部材20に還元され、その結果として放射部材20の利得が向上し、通信距離を広げることができる。また、コイルパターン15によって励起された磁界は、放射部材20ないしグランド導体7で吸収されるので、筺体5内に搭載されている他の金属部品との配置関係を考慮する必要性が小さくなる。
【0039】
以上のごとく、本実施例2では、放射部材20とグランド導体7の合成されたインダクタンスと前記容量Cとで並列共振回路が形成される。この並列共振回路の共振点は、放射部材20によって送受信される周波数よりも高いことが必要となる。即ち、使用周波数がこの並列共振回路の共振周波数よりも低いと、並列共振回路が磁界放射性(L性)になり、高いと電界放射性(C性)になる。よって、通信に磁界放射を利用する場合、並列共振回路の共振点は使用周波数(放射部材20によって送受信される周波数)よりも高いことが必要となる。
【0040】
なお、本実施例2において、放射部材20と容量結合する導体部材は、プリント配線板6に設けた導体部材であればグランド導体7以外であってもよいことは勿論である。また、導体部材を放射部材20と容量結合する形態は任意であり、例えば、導電性部材8として筺体5内に搭載されている金属フレームを利用してもよい。また、導電性部材(容量補足素子)8はスリット部22に近接して配置されていることが好ましい。容量補足素子とスリット部22が近接配置されていることで、スリット部22のインダクタンス成分と、容量補足素子を含む放射部材20−グランド導体7間で、一つのLC並列共振回路が形成される。この共振周波数を使用周波数より高めに設定することで、スリット部22を起点に磁界放射が起こる。このとき並列共振回路の電流は、グランド導体7にも流れるので、グランド導体7を放射部の一部として使用可能となり、大きなグランド導体7から磁界放射ができるようになる。
【0041】
(実施例3〜6、図10〜図13参照)
次に、実施例3〜6であるアンテナ装置1C〜1Fを説明する。これらのアンテナ装置1C〜1Fは、放射部材20のスリット部22の向き、あるいは、プリント配線板に設けたグランド導体7と放射部材20との位置関係を種々に変更することで所定の指向性を得ている。
【0042】
アンテナ装置1Cは、図10に示すように、放射部材20をグランド導体7の一端部に重ねて、かつ、スリット部22を端末筺体5の内側に向けて配置したものである。磁束φ1,φ2,φ3は磁界の指向性を示している。
【0043】
アンテナ装置1Dは、図11に示すように、放射部材20をグランド導体7の一端部に重ねて、かつ、スリット部22を端末筺体5の外側に向けて配置したものである。磁束φ1,φ2は磁界の指向性を示している。
【0044】
アンテナ装置1Eは、図12に示すように、グランド導体7を端末筺体5の右側でカットし、放射部材20をグランド導体7とは重ならないように、かつ、スリット部22を端末筺体5の外側に向けて配置したものである。磁束φ1,φ2,φ3は磁界の指向性を示している。
【0045】
アンテナ装置1Fは、図13に示すように、放射部材20をスリット部22が傾斜するように折り曲げ、開口部21がグランド導体7の一端部と重なるように、かつ、スリット部22を端末筺体5の外側に向けて配置したものである。磁束φ1,φ2,φ3は磁界の指向性を示している。
【0046】
(実施例7、図14参照)
実施例7であるアンテナ装置1Gは、図14に示すように、グランド導体7に電気的に接続した二つの導電性部材(容量補足素子)8を設け、導電性部材8と放射部材20との間に二つの容量C1,C2を形成したものである。本アンテナ装置1Gは前記実施例2として説明したアンテナ装置1Bの応用例であり、グランド導体7で消費される渦電流エネルギーを効果的に放射部材20に帰還させることができる。特に、本アンテナ装置1Gにあっては、導電性部材8がスリット部22の両側に一つずつ配置されているため、渦電流エネルギーの帰還が効率的になる。ここで言う渦電流エネルギーの帰還とは放射部材20のスリット部22の両端とグランド導体7間に、容量補足素子を設けることで静電容量を形成しスリット部22とグランド導体7を含むひとつの共振回路を形成することで、グランド導体7も放射部の一部とすることができることを言う。このため放射部20はグランド導体7に近接していても磁界放射(または電界放射)が可能となり、グランド導体7からも磁界(または電界)の放射が起るようになる。ここでグランド導体7は、グランド導体以外の携帯電話の電池などの金属部材や、電気的に何ともつながらない浮電極パターンや、他の信号を通している配線パターンでもよい。
【0047】
なお、渦電流エネルギーを帰還させるために、グランド導体7と放射部材20との間を結合する容量補足素子としては、チップコンデンサをグランド導体7と放射部材20との間に挟み込むように設けてもよい。これは前記第2実施例(アンテナ装置1B)にも妥当する。
【0048】
(実施例8、図15参照)
実施例8であるアンテナ装置1Hは、図15に示すように、放射部材20をスリット部22がグランド導体7の縁部と重なるように配置したものである。この構成にて、放射部材20とグランド導体7とが容量C1,C2よって結合し、容量補足素子としての導電性部材8を設けることなく、渦電流エネルギーを放射部材20に帰還させることができる。なお、本アンテナ装置1Hにおいて、容量補足素子を設けることは差し支えない。
【0049】
ところで、前記実施例7,8において、放射部材20のインダクタンス、放射部材20とグランド導体7との間で形成される容量、グランド導体7のインダクタンスによって共振回路が形成される。この共振回路の共振周波数は、放射部材20によって送受信される通信周波数よりも高めに設定しておくことが好ましい。例えば、本アンテナ装置をRFIDシステムに利用する場合、前記共振回路の共振周波数を、通信周波数である13.56MHzよりやや高い、例えば15.04MHzに設定する。これにて、本アンテナ装置とリーダライタのアンテナとが磁界結合して通信が行われる。
【0050】
(他の実施例)
なお、本発明に係るアンテナ装置及び移動体通信端末は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0051】
特に、移動体通信端末としての携帯電話機はあくまで例示であって、本発明は様々な移動体通信端末に適用することができる。また、放射部材と結合する導体部材としては、前記グランド導体に限ることはなく、端末の金属製筺体であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明は、アンテナ装置や移動体通信端末に有用であり、特に、送受信信号の利得を大きくして通信距離を広げることができる点で優れている。
【符号の説明】
【0053】
1A〜1H…アンテナ装置
5…筺体
6…プリント配線板
7…グランド導体(導体部材)
8…導電性部材(容量補足素子)
10…給電部材
15…コイルパターン
20…放射部材
21…開口部
22…スリット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリット部を有する放射部材と、該放射部材に対向する導体部材と、を備えたアンテナ装置であって、
前記放射部材と前記導体部材とは、前記スリット部の両側に位置する第1の接続部及び第2の接続部によって接続されており、
前記第1の接続部及び前記第2の接続部のうち少なくとも一方は容量を介して前記放射部材と前記導体部材とを接続していること、
を特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記第1の接続部及び前記第2の接続部は、前記スリット部の両側で、それぞれ容量を介して前記放射部材と前記導体部材とを接続していること、を特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記導体部材は少なくとも前記放射部材の前記スリット部の一部と重なるように配置されていること、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記導体部材と前記放射部材とは容量補足素子を介して結合していること、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のアンテナ装置を備えたことを特徴とする移動体通信端末。
【請求項6】
前記導体部材はプリント配線板に配置されたグランド導体であること、を特徴とする請求項5に記載の移動体通信端末。
【請求項7】
前記導体部材は金属製筺体であること、を特徴とする請求項5に記載の移動体通信端末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−38821(P2013−38821A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−229368(P2012−229368)
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【分割の表示】特願2012−30484(P2012−30484)の分割
【原出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】