説明

アントラセン二量体骨格を有する新規なエポキシ化合物及びその製造法

【課題】高い屈折率を有しかつ紫外域の吸収や蛍光の問題が無い透明性に優れた重合可能な新規なエポキシ化合物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】高屈折性を有し、かつ300nm以上の高波長側に吸収が無く蛍光の問題も無い透明性に優れた芳香族多環化合物であるアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物および対応するアントラセン化合物を光二量化して当該アントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物を合成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折を有する高分子材料用のモノマーとして有用なアントラセン二量体骨格を有する新規なエポキシ化合物及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物は、その基本骨格としてアントラセンが二量化した構造を持つ。アントラセンは光照射によりπ-π*励起し、この励起したシングレット状態のアントラセンと基底状態のアントラセンとが中央のベンゼン環部において付加環状二量化して、トリシクロ環を形成することが知られている(非特許文献1など)。
【0003】
また、アントラセンの種々の置換体についてもその二量化反応及びその二量体が知られている。アントラセンの1位にメチル基、クロル原子、カルボキシ基が置換したもの、2位にメチル基、カルボキシ基が置換したもの、1位と4位にクロル原子とメチル基が置換したもの、1位と9位にクロル原子とブロム原子が置換したもの、9位にブロム原子、カルボキシ基、メチル基、エチル基、ホルミル基、カルボメトキシ基が置換したものが知られている(非特許文献2など)。
【0004】
しかし、本発明の化合物について合成された例は無い。また、アントラセンの二量体について重合物を合成するためのモノマーとして検討された例も無い。
【0005】
本発明のアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物は、高屈折性を有する芳香族多環化合物であり、かつカチオン重合性基を持つ重合可能な化合物である。そして、この化合物の重合物もまた同様に高屈折率を有し、特に光学分野で有用な化合物として期待される。
【0006】
最近光学分野においてガラス代替材料としてプラスチックが盛んに用いられている。たとえば、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどがよく知られている。これらプラスチック材料は、軽量性、安全性、意匠性を有している反面、屈折率の面では無機ガラスより低く、分厚くなりやすいという欠点がある。そこで、近年、高屈折率材料に対する要望が高くなってきている。特に、高屈折率プラスチック材料の光学用物品への進出は著しく、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、TFT用のプリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、ホログラム、光ファイバー、光道波路等への検討が盛んに行われている。
【0007】
プラスチックの屈折率とその原料となるモノマーの屈折率とは正の相関関係にあり、高屈折率のプラスチックを得るためには高分子を構成するモノマー部分が高屈折率を有するものであることが必要である。
【0008】
モノマーとしての有機化合物の屈折率を高くする方法としては、分子構造中にハロゲン原子(フッ素を除く)や硫黄原子さらには芳香環を導入することが有用であることは既に良く知られている。
【0009】
たとえば、ハロゲン原子の有する高い固有屈折率を利用し、ビフェニル骨格にハロゲン原子を導入した高屈折率重合体が報告されている(特許文献1)。しかし、ハロゲン化によって、耐光性が著しく劣化し、また、高比重であるという欠点があった。また、ハロゲン以外に高い固有屈折率を有する硫黄原子を有する単量体組成物も報告されている(特許文献2)。しかし、これらは高い屈折率、優れた耐衝撃性を有するものの、得られたポリマーの耐光性が著しく劣り、硫黄特有の不快臭が問題となる欠点があった。また、これらを用いたプラスチックが廃棄物として処理されるとき、有害なガスや化合物を生じることが懸念される。
【0010】
一方、芳香環の導入に関してはこれまで、ベンゼン環、ビフェニル環を有する高屈折率材料が知られており、これらは、軽く透明性にすぐれ、バランスの良い高屈折率材料となる(特許文献3など)。しかし、これらベンゼン環、ビフェニル環を用いた場合、モノマーの屈折率として1.6を超えるものを得ることは困難であった。また、さらに高い屈折率を得るため、芳香族を含む多環化合物であるアントラセン骨格、フルオレノン骨格の導入も検討されている(特許文献4)。また、アントラセン基やフルオレン基など芳香族を含む多環化合物基を高分子反応によりポリマーに導入する試みもなされている(特許文献5)。
【0011】
しかしながら、アントラセン基やフルオレン基の導入により比較的高い屈折率をもつポリマーが得られるが、フルオレン基を導入した場合は、紫外領域に吸収があり、光照射により着色しやすくなり、耐光性に問題が出てくる。またアントラセン基を導入した場合はアントラセン基が蛍光を発するため、光学材料分野での適用は困難である等の問題がある。
【0012】
よって、高屈折率を有する芳香族多環化合物であり、アントラセン基やフルオレノン基にみられるような紫外域の吸収や蛍光の問題が無い透明性にすぐれた化合物基を持つ重合可能なモノマーの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平05−170702号公報
【特許文献2】特開2002−20433号公報
【特許文献3】特開2003−064296号公報
【特許文献4】特開2004−083855号公報
【特許文献5】特開2006−312709号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「有機光化学反応」、RobertO.Kan著、中田 尚男翻訳、出版社丸善、1968年、p161〜164
【非特許文献2】「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)、(米国)、1955年、77巻、p.3853
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、かかる状況に鑑み、これらの欠点を排除した技術を提供すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明の目的は、高い屈折率を有し、かつ紫外域の吸収や蛍光の問題が無い透明性に優れた重合可能な新規なエポキシ化合物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するために、以下の発明を提供する。第一の発明は、下記の一般式(1)で示されるアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物を骨子とするものである。
【0017】
【化1】

【0018】
一般式(1)において、X、X、Y及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
【0019】
また、第二の発明は、下記の一般式(2)に示されるアントラセン化合物を光二量化することによるアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物の製造法を骨子とするものである。
【0020】
【化2】

【0021】
一般式(2)において、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
【0022】
本発明において、アントラセン二量体骨格とは、下記構造式(3)の骨格を表す。
【0023】
【化3】

【発明の効果】
【0024】
本発明は、以下に詳細に記述するとおりであり、次のような特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。本発明におけるアントラセン二量体骨格を有する新規なエポキシ化合物は、高屈折率を有し、かつ300nmから700nmまでの紫外吸収が無く、透明性に優れた化合物である。そして、当該アントラセン化合物はカチオン重合可能であり、その重合物は、高屈折率で透明性が高く光学材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明のアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物のUVスペクトルである。300nmから700nmまでの紫外域に吸収が無いことが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に記述する。
本発明のアントラセン二量体骨格を有する新規なエポキシ化合物は、アントラセン二量体骨格部分とエポキシ基よりなるカチオン重合可能性基部分により構成されている。このカチオン重合可能性基部分を重合することにより、高分子体にアントラセン二量体骨格を組み込むことが可能となる。アントラセン二量体骨格は屈折率が高いことから、当該アントラセン二量体骨格を有する新規なエポキシ化合物を重合することにより高屈折率を有する重合体を得ることができるというのが本発明である。
【0027】
当該アントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物として下記一般式(1)の化合物が挙げられる。
【化4】

【0028】
一般式(1)において、X、X、Y及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
一般式(1)において、X、X、Y及びYで示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2-エチルヘキシル等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n―プロポキシ基,n−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、o−メチルフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、o−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基,o−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アルキルチオ基としてはメチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0029】
一般式(1)で示される化合物としては、例えば、次のものが挙げられる。すなわち、9,10,11,16−テトラヒドロ−9,16−ジグリシジルオキシ−9,10(9’,10’)-アントラセノアントラセン、9,10,11,16−テトラヒドロ−9,16−ジグリシジルオキシ−2,18−ジメチル−9,10(9’,10’)-アントラセノアントラセン、9,10,11,16−テトラヒドロ−9,16−ジグリシジルオキシ−2,18−ジ(t−ブチル)−9,10(9’,10’)-アントラセノアントラセン、9,10,11,16−テトラヒドロ−9,16−ジグリシジルオキシ−2,18−ジアミル−9,10(9’,10’)-アントラセノアントラセン、9,10,11,16−テトラヒドロ−9,16−ジグリシジルオキシ−2,18−ジクロロ−9,10(9’,10’)-アントラセノアントラセン、9,10,11,16−テトラヒドロ−9,16−ジグリシジルオキシ−2,3,18,19−テトラメチル−9,10(9’,10’)-アントラセノアントラセン等である。
【0030】
ここに例示した化合物において代表的な化合物は、9,10,11,16−テトラヒドロ−9,16−ジグリシジルオキシ−9,10(9’,10’)-アントラセノアントラセンであり、下記構造式(4)の化合物である。
【0031】
【化5】

【0032】
これらのアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物は極めて高い屈折率を有することが特徴である。芳香環を含むアクリレートモノマーでも屈折率が1.62を超えることは一般的に極めて困難である。たとえば、ビフェニル骨格を有する化合物の場合、1.5程度であり、フルオレン骨格を有する化合物も1.55程度である。アクリレートがエポキシに変換されるとその屈折率は一般的にいって0.01から0.02程度高くなるが、それにしても1.64を超えることはまれである。本発明の化合物は硫黄原子や、ハロゲン原子を導入することなく、1.64の屈折率を達成しうるものであり、炭素、酸素、水素等の環境に優しい原子のみで構成されている点も注目されるものである。
【0033】
また、これらアントラセン二量体構造を有するエポキシ化合物は、その二量体形成の前駆体であるアントラセン化合物がUVスペクトルにおいて350nmから400nmにUV吸収を示すのに対し、300nmから長波長側に全く吸収が無い。これは、前駆体の350nmから400nmの間の三つの吸収及びは260nmの吸収はアントラセン骨格に起因するもので、光二量化によってアントラセン骨格では無くなりベンゼン骨格となるため200nm付近の吸収のみを示すようになるからである。
【0034】
よって、当該アントラセン二量体構造を有するエポキシ化合物を重合したポリマーは、アントラセン骨格やフルオレン骨格を含むポリマーで問題となる紫外域の吸収や蛍光の問題が無いことから透明性に優れた光学材料として有望なポリマー材料となりうることが期待される。
【0035】
(製造方法)
本発明のアントラセン二量体構造を有するエポキシ化合物は、一般式(2)に示すアントラセン化合物を光二量化することにより得ることが出来る。
【0036】
【化5】

【0037】
一般式(2)において、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ其、アリールチオ其のいずれかを示す。
【0038】
一般式(2)に示すアントラセン化合物は、下記反応式に示すように、対応するアントロン化合物を出発原料として、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン等のエピハロヒドリンと塩基存在下に反応させることにより得ることができる。
【0039】
【化6】

【0040】
上記第一反応で用いられるエピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリン挙げられる。このうち、原料の入手容易さからエピクロロヒドリンが用いられる。反応で用いられる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、アンモニア水等アミン系化合物が挙げられるが、このうちでより好ましいものは水酸化ナトリウムである。
【0041】
反応は一般的には溶媒中で実施される。溶媒としては特に限定されないが、反応原料であるアントロン化合物や塩基を一定量溶かすものであればよい。代表的溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、プロピルニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられる。
【0042】
反応温度は、0℃以上、80℃以下が好ましく、より好ましくは10℃以上40℃以下の範囲である。0℃より低い温度では反応が遅く、反応の終了に時間がかかりすぎ、80℃より高い温度では生成物中に不純物が多くなりいずれも好ましくない。
【0043】
エピハロヒドリンとの反応において、エピハロヒドリンはアントロン化合物に対して1.2モルから1.5モル倍使用する。
【0044】
上記に示した反応で得られる代表的な一般式(2)のアントラセン化合物としては、例えば、9−(2−グリシジルオキシ)アントラセン、9−(2−グリシジルオキシ)−2−メチルアントラセン、9−(2−グリシジルオキシ)−2(t−ブチル)アントラセン、9−(2−グリシジルオキシ)−2−アミルアントラセン、9−(2−グリシジルオキシ)−2−クロロアントラセン、9−(2−グリシジルオキシ)−2,3−ジメチルアントラセン等が挙げられる。
【0045】
次に、一般式(2)で示されるアントラセン化合物は、光照射により二量化し、アントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物を与える。
【0046】
このアントラセン化合物の光二量化は、一分子のアントラセン化合物が光によりπ−π*励起され、その励起分子が基底状態のもう一分子のアントラセン化合物と反応することにより起こる。このときアントラセン化合物の中央の環のジエン部分同士がその末端で両方同時に結合を生じ、環状付加体を形成する。いわゆる[4+4]の環状付加反応を起こす。この反応は、熱では禁制であり、光によって許容される反応である。当該反応により、ベンゼン環が四つ付いたトリシクロ化合物が生じる。このときアントラセン骨格の9の位置に置換基があると、両方のアントラセン環の近づく面の組み合わせによって、置換基が同方向に向く「syn型」と別方向に向く「anti型」が生成する可能性がある。置換基の種類によって、選択性は異なる。二量体を生ずるときの遷移状態での電子的な効果あるいは立体的な効果によって決定される。一般的には、「anti型」が主に生成するといわれている。
【0047】
また、9,10位以外の位置に置換基を有するアントラセン化合物も本発明において使用可能である。9,10位以外の位置の置換基はアントラセンの両端のベンゼン環についており反応の場から離れた位置にあるため、9,10位ほど光二量化に与える電子的及び立体的な効果は大きくなく、種々の置換基が許容される。しかし、アントラセン環がお互いに近づくことができないほど大きな置換基でない場合に限られる。
【0048】
この9,10位以外の位置に置換基を有するアントラセンの場合、二量体を形成するときのその置換基の二分子間の立体的な関係により、その置換基が生成した二量体において同方向に向いている「Head−to−Head型」になるか、反対方向を向く「Head−to−Tail型」になるかの選択性が出ると考えられる。本発明の場合、X,Yの置換基の種類によりその選択性は異なり、混合物となる可能性が高いと推測される。
【0049】
一般式(2)で示されるアントラセン化合物の光照射による二量化反応(第二反応)の一例を以下に示す。
【0050】
【化7】

【0051】
第二反応の光二量化に使用される光源としては、350〜420nmの波長領域の光を照射できる光源であれば良く、特に種類は問わない。使用できる光源としては,高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、紫外線LED、青色LD(レーザーダイオード)、フュージョン社製のD−バルブ、V−バルブ等が挙げられる。太陽光の使用も可能である。
【0052】
反応温度は、−20℃から80℃で行うことが好ましい。さらに好ましくは、0℃から20℃である。−20℃より低温になると反応速度が遅く実用的ではなく、80℃より高温になると逆反応が進行したり、または重合物の生成が起こる可能性があり好ましくない。反応時間は、照射強度、反応物の濃度、反応温度等にもよるが10分〜10時間である。反応は、バッチ式で行うことが出来、流通式で行うことも出来る。
【0053】
光二量化反応は、一般的には溶媒中で実施される。溶媒としては、照射光の光吸収を妨げなければ特に種類を選ばない。例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、メタノール、エタノール,n-プロピルアルコール等のアルコール系の溶媒、テトラヒドロフラン。1,4ージオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香属系溶媒、酢酸、プロピオン酸,酪酸等の有機酸系溶媒が好適に使用できる。
【0054】
溶媒を使用する際の一般式(2)で示されるアントラセン化合物の濃度は、化合物の溶解度によるができる限り高いほうが望ましい。通常は 1wt%から30wt%程度の濃度で反応させるのが良い。望ましくは5wt%から20wt%である。反応濃度が1wt%未満では、反応速度が遅く、二量化に時間がかかりすぎ、また、30wt%を超えると未溶解の原料が生成物の二量化物に混じるので、生成物の純度が低下し何れも好ましくない。光照射により二量化反応が進行するに伴って、2量体の結晶が析出してくる場合が一般的である。この場合は、析出した結晶を吸引ろ過・乾燥し、無色の結晶体である二量体を得ることができる。
【0055】
(化合物の同定)
得られた化合物の同定は、(1)融点(JIS K0064に準拠した、ゲレンキャンプ社製の融点測定装置、型式:MFB−595)、(2)屈折率(アッベ屈折率計:エルマー社製、形式ER−7MW−H)、(3)赤外線(IR)分光光度計(日本分光社製、型式:IR−810)によるIRスペクトル、(4)核磁気共鳴装置(NMR)(日本電子社製、型式:GSX FT NMR Spectorometer)によるH−NMR分析、(4)紫外(UV)分光光度計(島津製作所製、UV2200)などを測定して行った。
【実施例1】
【0056】
<9−(2−グリシジルオキシ)アントラセンの合成>
温度計、攪拌機つきの100ml三口フラスコに、窒素雰囲気下、氷水浴に浸けながら、9−アントロン3.84g(20ミリモル)にジメチルアセトアミド18mlを加えスラリーとし、そこに水酸化ナトリウム0.88g(22ミリモル)を水10mlに溶解した水溶液を加え均一溶液とした。次いで、エピブロモヒドリン2.74g(20ミリモル)をジメチルアセトアミド4mlに溶解した溶液を加えた。
【0057】
1時間攪拌後、氷水浴を外し、水を7g加えて放置し、析出したカーキ色の結晶をロ別洗浄して、2.65gの薄黄色の粉末を得た。
【0058】
このものは、下記に示すIR、H−NMR分析により、9−(2−グリシジルオキシ)アントラセンであることがわかった。生成物の原料9−アントロンに対する収率は52モル%であった。
【0059】
(1)融点: 95−96℃
(2)屈折率: n=1.682
(3)IR(KBr、cm−1): 3050,2910,2860,1620,1440,1400,1358,1321,1280,1088,1070,980,902,852,830,736.
(4)H−NMR(CDCl、270MHz):δ=2.79−2.83(m,1H),2.96(t,J=4Hz,J=2Hz,1H),3.54−3.62(m,1H),4.17(dd,J=8Hz,J=4Hz,1H),4.50(dd,J=8Hz,J=2Hz,1H),7.40−7.56(m,4H),7.94−8.05(m,2H),8.24(s,1H),8.30−8.42(m,2H).
【実施例2】
【0060】
<9−(2−グリシジルオキシ)アントラセンの光二量化>
30mlの透明蓋付きビーカーに、実施例1で合成した9−(2−グリシジルオキシ)アントラセン0.25g(1.0ミリモル)のアセトニトリル3ml溶液を仕込み、窒素雰囲気下、紫外線LED(PHOSEON社製、中心波長 395nm、照射強度 1.5w/cm)を用いて、光照射した。10分光照射後、析出した結晶を吸引ろ過、乾燥し、白色結晶を0.11g得た。
【0061】
IR、H−NMR測定の結果、この結晶は9,10,11,16−テトラヒドロ−9,16−ジグリシジルオキシ−9,10(9’,10’)-アントラセノアントラセン(構造式(4))であることが判明した。原料9−(2−グリシジルオキシ)アントラセンに対する単離収率は43モル%であった。また、このものは、n=1.643と高い屈折率を有することがわかった。
【0062】
(1)融点 :179−180℃
(2)屈折率: n=1.643
(3)IR(KBr、cm−1): 3050,2990,2924,1460,1440,1284,1252,1156,1050,1000,900,780,684,640.
(4)H−NMR(CDCl、270MHz): δ=2.70−2.76(m,2H),2.91(t,J=4Hz,2H),3.36−3.46(m,2H),3.46−3.56(m,2H),3.84(dd、J=4Hz,J=8Hz,2H),4.51(s,2H),5.77−5.91(m,8H),6.96−7.11(m,8H).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で示されるアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物。
【化1】


(一般式(1)において、X、X、Y及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。)
【請求項2】
一般式(2)で示されるアントラセン化合物を光二量化することを特徴とする、請求項1記載のアントラセン二量体骨格を有するエポキシ化合物の製造法。
【化2】


(一般式(2)においてX及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。)



【図1】
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【公開番号】特開2010−270022(P2010−270022A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121500(P2009−121500)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】