説明

アンモニア脱臭法ならびにアンモニア脱臭能を有する新規なクロレラブルガリスおよびアンモニア脱臭能を有する新規なクロレラブルガリスを含むバイオマスならびに飼料添加物

【課題】大量の曝気やメタノールなどの炭素源の添加などの操作を必要としない、優れた脱臭能力を有するアンモニア脱臭法を提供する。
【解決手段】自然界から単離した受領番号FERM AP−20942を有するクロレラブルガリスNTM06は、優れたアンモニア脱臭能を有する新規なクロレラブルガリスである。この新規なクロレラブルガリスは、培養過程でアンモニアを脱臭するとともに、生育したクロレラブルガリス自身は、新規バイオマスであり、飼料の有効成分と為すことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロレラブルガリスを用いたアンモニア脱臭法ならびにアンモニア脱臭能を有する新規なクロレラブルガリス、およびアンモニア脱臭能を有する新規なクロレラブルガリスを含むバイオマスならびに飼料添加物に関する。
【背景技術】
【0002】
現状では、家畜糞尿は一定期間曝気処理されたのち液肥などに使用されるが、依然としてアンモニア等の悪臭が残る。また化学肥料の多用によって、利用されない糞尿が漸増しており、このため環境汚染を引き起こす懸念が高まっている。脱臭技術としては硝化細菌やアンモニア酸化細菌等の脱窒細菌等を用いた方法がある。例えば、非特許文献1,2,3には、硝化細菌を使用したアンモニア脱臭技術が、また特許文献4には、脱窒細菌を用いた窒素除去、脱臭技術が紹介されている。
【0003】
【非特許文献1】余村吉則,小山田組,野田健史,土屋博嗣,宮澤邦夫,‘アンモニア臭気に対する生物脱臭技術,NKK技報,No.178,81〜86(2002)
【非特許文献2】Satoh H,Yamakawab T,Kindaichi T,Ito T,Okabe S.Community structures and activities of nitrifying and denitrifying bacteria in industrial wastewater−treating biofilms.Biotechnol Bioeng.2006 13;[Epub ahead of print]PMID:16477661[PubMed−as supplied by publisher]
【非特許文献3】Mota C,Ridenoure J,Cheng J,de Los Reyes FL 3rd.High levels of nitrifying bacteria in intermittently aerated reactors treating high ammonia wastewater.FEMS Microbiol Ecol.2005;54:391−400
【非特許文献4】Yoshie S,Ogawa T,Makino H,Hirosawa H,Tsuneda S,Hirata A.Characteristics of bacteria showing high denitrification activity in saline wastewater.Lett Appl Microbiol.2006;42:277−283.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1〜3に記載されているようなアンモニア酸化細菌を用いたアンモニア脱臭には、アンモニア酸化細菌の生育には酸素が必要であることから、大量の曝気が必要となる。また、非特許文献4に記載されている脱窒細菌によるアンモニアのガス化には、炭素源としてメタノールを添加する必要があり、コスト高になるという問題がある。とくに、硝化・酸化と脱窒素が必要とされる場合には、硝化・酸化や脱窒素を行うそれぞれの細菌が好気性と嫌気性であるので、直列型の処理になり同時処理が出来ない、また、処理槽の分割・曝気処理が必要になるなど、複雑な工程とならざるを得ないという問題もある。またアンモニア酸化細菌や脱窒細菌等微生物を用いた方法は機構がまた判明しない面も多く、制御が困難である。
【0005】
そこで本発明で解決しようとする点は、これまで提案されているアンモニア酸化細菌や脱窒細菌等微生物を用いた場合に指摘されている種々の問題点を克服せんとするものである。すなわち、藻類の有する高い窒素同化能に着目し、アンモニア脱臭能を有する新しい藻類を見出して優れたアンモニア脱臭技術の確立をめざすことである。またその藻類が可及的に最大の脱臭能を発揮する培養条件について新たな技術提案を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、土壌中から有機物を活発に分解し、窒素利用に優れた微細藻類(クロレラ)を単離し、水溶液中でのアンモニア除去能を調べたところ、クロレラブルガリスのうち、特に、本出願人が独立行政法人産業技術総合研究所に寄託して平成18年6月26日に受領した受領番号FERM AP−20942を有するクロレラブルガリス(以下、「クロレラブルガリスNTM06」と称す。)が優れた脱臭能を有していることを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、クロレラブルガリスNTM06を用いたアンモニア脱臭法である。豚糞消化液などのアンモニアを含む水溶液中にクロレラブルガリスNTM06を添加すると、その直後に、アンモニア量が速やかに減少することがわかった。
【0008】
また、本発明者は、種々の鋭意研究の結果、クロレラブルガリスNTM06を、死菌よりも生菌の状態で用いた方がアンモニアの減少比が大きくなることがわかった。すなわち、本発明のアンモニア脱臭法においては、用いるクロレラブルガリスは、アンモニアを含む水溶液中で生存可能なものである方が望ましい。これは、クロレラブルガリスNTM06が、細胞表層吸着よりも細胞内への取り込みによってアンモニア脱臭を行っている可能性が高いことを示唆している。さらに、このクロレラブルガリスNTM06によるアンモニア脱臭において、水溶液中のアンモニア濃度が高ければ高いほどアンモニアの減少比が高いことがわかった。
【0009】
また、本発明のアンモニア脱臭法で用いるクロレラブルガリスNTM06は、グルタミン酸を0.1〜1.5%添加した培地で培養したり、培養後24〜48時間、4℃にて飢餓状態に置いたりすると、さらに脱臭能が向上することがわかった。したがって、これらの方法で培養されたクロレラブルガリスNTM06を用いることにより、本発明のアンモニア脱臭法を、さらに脱臭能力の高い脱臭法とすることができる。
【0010】
また、本発明のアンモニア脱臭法で用いるアンモニア脱臭能を有するクロレラブルガリスNTM06ならびにアンモニア脱臭の過程で生育したクロレラブルガリスNTM06は、バイオマスや、水産、畜産の飼料添加物として有効である。たとえば、植物に関しては、堆肥に混合させたり、動物に関しては、飼料に混合して栄養価を高めたりすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クロレラブルガリスNTM06を用いることで、優れた脱臭能力を有し、上記従来の方法で問題となっていた、大量の曝気やメタノールなどの炭素源の添加などの操作が不必要で、処理工程を簡略化することが可能なアンモニア脱臭法とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態におけるクロレラブルガリスを用いたアンモニア脱臭法について詳細に説明する。本実施の形態にかかるアンモニア脱臭法に用いるクロレラブルガリスは、受領番号FERM AP−20942のクロレラブルガリスNTM06である。以下、このクロレラブルガリスNTM06の単離方法や形態解析の結果について説明する。
【実施例】
【0013】
(実施例1)クロレラブルガリスNTM06の単離方法
自然界から土壌を採取し、その1gに滅菌生理食塩水を10ml添加し、十分攪拌した。この懸濁液50μlを、酵母培養等に汎用されるYPD培地にストリークして培養した。このYPD培地(Bacto Peptone(Difco製):20g,Yeast extract(日本製薬製):10g,glucose:20g,water 1000ml,pH7.0)は、寒天(ナカライテスク製)を1.5%になるよう添加した後、オートクレーブ滅菌し、滅菌後に約50℃付近まで冷ました後、100μg/mlになるように抗生物質クロラムフェニコール(和光純薬製)を添加し、シャーレに固化させた(YPD平板培地)ものである。
【0014】
暗所で30℃、24時間保温の結果、4日で、緑色のコロニーを形成する微生物を肉眼で観察できるようになった。コロニーの形状は酵母によく似ているが、濃い緑色を呈していた。YPD液体培地にて30℃で3日間振盪培養すると、培地は深い緑色を呈した。この緑色コロニーを再度平板培地に移し、シングルコロニーアイソレーションを繰り返し、単離クロレラ菌とした。単離したクロレラの18SrRNA遺伝子の塩基配列を決定し、ホモロジーを検索すると、単離クロレラ菌はクロレラブルガリスに最も近縁であった。単離微生物はその生理学的性質からクロレラブルガリスの新種と考えられ、この単離微生物をクロレラブルガリスNTM06と命名した。
【0015】
単離したクロレラの光学顕微鏡写真を図1に、蛍光顕微鏡(励起波長:545±15nm、放出波長:610±37.5nm)を図2に示す。単離微生物を光学顕微鏡で観察すると、図1に示すように、細胞形態は球形で大きさは5−9μmであり、細菌ではないことがわかった。UV励起下、蛍光顕微鏡で観察すると図2に示すように赤い発色が見られた。葉緑体はUV励起下では赤く発色するので、分離微生物は葉緑体を持つことが考えられた。なお、YPD液体培地における生育最適温度およびpHは、それぞれ35〜40℃、7.0であった。
【0016】
なお、暗所での保温は、20〜40℃、好ましくは30℃前後の温度で3〜7日程度培養するとよい。この場合の培養では光照射はあっても、なくてもかまわない。
コロニー形成を肉眼確認(約4日)の後、低温(例えば、4℃)で保管し保存菌株とする。この保存菌株は数ヶ月毎、標準的には4か月毎で新しいYPD寒天平板培地に植え替える。
【0017】
(実施例2)クロレラブルガリスNTM06のアンモニア脱臭能の評価
実施例1で保管した保存菌株から白金耳を用いてコロニーをかきとり、YPD液体培地に植え付け、好ましくは37℃で数日間(例えば、4日間)、震盪培養する。これを前培養菌体とする。前培養菌体を、グルタミン酸を0.1〜1.5%含むYPD培地に移し、同様の培養条件で震盪培養する。この培養液をさらに低温(例えば、4℃)で一日前後静置することによって得られるクロレラブルガリスNTM06をアンモニア脱臭に使用することができる。クロレラブルガリスNTM06は自重で沈澱しているので、培地の上澄のみを廃棄することが好ましい。
【0018】
単離したクロレラブルガリスNTM06は、酢酸資化能が高いので、低級脂肪酸の同化と光合成が共役していることが考えられた。そこで低級脂肪酸等を含むと思われる豚糞消化液を用いて、光照射培養を試みた。
【0019】
固液分離した豚糞消化液のアンモニア濃度を血中アンモニア比色定量法にて求め、アンモニア濃度が例えば、200〜300ppmになるように希釈し、また、pHが酢酸や乳酸を用いて中性からpH6.0の間となるように調整した。この豚糞消化液に、前述の条件にて培養されたクロレラブルガリスNTM06を1mlあたり10〜1010個、最終濃度が2×1010/mlとなるように添加し、緩やかに撹拌し、そのまま静置した。すると、60分でアンモニア濃度を35ppmまで減少させることができた(図3、参照。)。
【0020】
また、アンモニア濃度が50ppmの豚糞消化液に、クロレラブルガリスNTM06を最終濃度が2×1010/mlとなるように添加すると、36時間でアンモニア濃度が0になりアンモニア臭を完全に取り除くことができた(図4、参照)。
【0021】
(実施例3)(グルタミン酸を添加した培地で培養したクロレラブルガリスNTM06アンモニア脱臭能の評価)
実施例1で保管した保存菌株から白金耳を用いてコロニーをかきとり、グルタミン酸0.1〜0.5%を含むYPD培地で培養し、これをアンモニア脱臭に用いた。グルタミン酸を添加したYPD培地で培養されたものは、YPD培地のみで培養されたものよりアンモニア吸収速度が20〜30%増加することがわかった。
【0022】
(実施例4)クロレラブルガリスNTM06の培地
実施例1におけるクロレラブルガリスNTM06は、YPD培地で最もよく生育した。そこで、グルコース濃度を変えて得られる菌体量を調べた。すると、30℃培養においてグルコースをまったく含まない培地では120時間の培養で10g湿重量/l弱が得られたが、グルコース濃度3%にすると約50g/lもの菌体を得ることができた。1%では35g/l程度、4%になると生育は阻害された。このように、YPD培地に含まれるグルコース濃度は、簡単な培地で多くのクロレラブルガリスNTM06を得るための重要な要素であることがわかった。
【0023】
以下に示す無機塩のみで、有機物を含まない培地(MBM培地)を調製し、片方はアルミ遮光し、もう一方は蛍光灯の光りを当てて30℃で7日間震盪培養したところ、光りを当てたほうは薄い緑色を呈し、遮光したほうは透明のままであった。このことは二酸化炭素固定能があることを示している。
【0024】
MBM培地
x1 MBMmediumをオートクレーブ滅菌し、濾過滅菌したx100 Fe mixtureとx100 A5 metal mixtureをそれぞれ100分の1量加えて使用した。組成は以下に示す。
x1 MBM medium
KNO25mg,MgSO・7HO7.5mg,KHPO7.5mg,KHPO17.5mg,NaCl2.5mg,CaCl・2HO1mg,Fe mixture0.1ml,A5 metal mixture0.1ml,
D.W.99.8ml,pH6.0
x100 Fe mixture:FeSO・7HO1g,D.W.500ml,HSO two drops
x100 A5 metal mixture:HBO286mg,MnSO・7HO250mg,ZnSO・7HO 22.2mg,CuSO・HO7.9mg,NaMoO2.1mg,D.W.100ml
【0025】
単離されたクロレラブルガリスNTM06のMBM培地を用いた暗条件培養において、イーストナイトロジェンベースの添加(1%)では増殖は見られなかったが、グルコースを0.5%になるように添加すると増殖するようになった。暗条件における炭素源の資化性を以下に示す。以下の結果よりクロレラブルガリスNTM06はヘテロトロフィックな性質を有する。
グルコース、+
スクロース、+
マルトース、+
ガラクトース、+
可溶性でんぷん、+
カルボキシメチルセルロース、+
イヌリン、+
酢酸、+
セロビオース、−
ラクトース、−
キシロース、−
ラフィノース、−
ソルボース、−
メチルアルコール、−
【0026】
窒素源の利用性を調べるため、グルコースを1.0%になるように添加したMBM培地を調製した。クロレラブルガリスNTM06を培地に植え付け、暗条件培養にて、30℃、4日間、震盪培養し、増殖の有無を確かめた。以下に窒素源の利用性を示す。
KNO
NaNO
(NH)Cl+
(NHSO
Glycine+
なし +
上記のように、窒素源が存在しなくても弱い増殖が認められたので、クロレラブルガリスNTM06には窒素固定能が備わっていると考えられる。
【0027】
クロレラブルガリスNTM06はYPD平板培地を用いて酸素を除去した嫌気条件での生育を確認しているので、発酵または嫌気呼吸を行うこともできる。その場合は光照射が必要であるので、光合成と共役していると予想される。
【0028】
(実施例5)クロレラブルガリスNTM06を含む飼料添加物
アンモニア脱臭工程で得られたクロレラブルガリスNTM06は、簡単な水洗・水切りをして、あるいは、乾燥工程を経て得られたものを、飼料に添加することができる。例えば、培養されたクロレラブルガリスNTM06の懸濁液を遠心分離にかけ、水洗を繰り返した後、脱水する。脱水して得られた高濃度のクロレラブルガリスNTM06懸濁液を加熱処理して冷却した後、凍結乾燥させて乾燥クロレラブルガリスNTM06を得ることも可能である。なお、クロレラブルガリスNTM06の消化吸収を助けるため、細胞膜破砕加工を施すことも目的に応じて採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、クロレラブルガリスNTM06を用いることで優れた脱臭能力を有するアンモニア脱臭法として有用である。また、大量の曝気やメタノールなどの炭素源の添加などの操作を必要としないので、操作や制御が容易でコストの低いアンモニア脱臭法として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】単離したクロレラの光学顕微鏡写真である。
【図2】単離したクロレラの蛍光顕微鏡写真である。
【図3】アンモニア濃度200ppm豚糞消化液のアンモニア濃度の減衰の時間経過を示す図である。
【図4】アンモニア濃度50ppm豚糞消化液界面(検知管を用いた測定)のアンモニア濃度の減衰の時間経過を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受領番号FERM AP−20942のクロレラブルガリスを用いたアンモニア脱臭法。
【請求項2】
前記クロレラブルガリスは、アンモニアを含む水溶液中で生存可能なものである請求項1記載のアンモニア脱臭法。
【請求項3】
前記クロレラブルガリスは、グルタミン酸を添加した培地で培養されたものである請求項1または2に記載のアンモニア脱臭法。
【請求項4】
アンモニア脱臭能を有する受領番号FERM AP−20942のクロレラブルガリス。
【請求項5】
アンモニア脱臭能を有する受領番号FERM AP−20942のクロレラブルガリスを含むバイオマス。
【請求項6】
請求項5に記載のバイオマスを含む飼料添加物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−18413(P2008−18413A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217535(P2006−217535)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】