説明

アーク溶接ロボット制御装置

【課題】
基準面を設定して狙い角等のトーチ姿勢を数値で教示あるいは表示するアーク溶接ロボット制御装置では、溶接線を規定する教示点の位置を修正したときに、基準面を算出するための補助点も修正する必要がある。
【解決手段】
ロボット制御装置RCは、溶接線を規定する各教示点と、基準面を算出するための補助点とを、対にして記憶する記憶部を備える。ロボット制御装置RCは、溶接線上の教示点の位置変更があったとき、位置変更があった教示点と対の関係にある補助点を、前記位置変更があった教示点の修正分を補正して自動算出するCPUを備える。本来の溶接線の教示修正結果に応じて基準面を算出するための補助点も自動修正されるので、教示修正時間を大幅に短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接ロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接ロボットでは、マニピュレータに設けられたトーチと呼ばれる工具の先端と溶接の作業対象であるワークの接合部を厳密に一致させるように作業を教示する必要がある。
【0003】
加えてトーチの姿勢も作業品質を保つ上で重要なため、複雑な形状を持つ接合部の教示には多大な時間を要している。このため、教示工数を低減させるための、いわゆるティーチレス化が従来から進められてきている。しかし、完全なティーチレス化を実現したアーク溶接ロボットは存在しておらず、人による教示作業をある程度残している。
【0004】
例えば、特許文献1の溶接トーチ姿勢の教示方法が公知である。特許文献1では、教示したトーチの位置から基準面を算出し、入力した狙い角及び前進後退角を使用して前記基準面からの姿勢を求めることにより、所望の溶接トーチ姿勢をとらせることができるようにしている。そして、特許文献1では、各トーチ位置について所望の狙い角及び前進後退角を反映した姿勢を生成して、トーチ位置を教示した作業プログラムに対して、前記姿勢を書き込む。このように、特許文献1では、予め教示したトーチの位置から基準面を算出するようにしているため、オペレータは、前記基準面における所望の狙い角及び前進後退角等の角度データを入力すれば、溶接トーチ姿勢を自動的に算出できる。そして、溶接トーチ姿勢の教示に際しては、ロボットに所望の姿勢をとらせる手動操作を行う必要がないため、教示作業を簡略化できる効果がある。
【0005】
ここで、溶接トーチの姿勢を算出するための上記基準面は、3点で定義されるものである。この3点の内、2点は、溶接線上にある2点、すなわち、開始点、及び目標点であればよい。残りの1点(以下では補助点という)としては、溶接線上にはない点が必要とされる。この補助点は、オペレータがロボットに溶接作業を教示する際に、本来の溶接作業に必要な教示点である溶接線上の開始点、及び目標点とは別個に作成しておく必要がある。
【0006】
上述したように、溶接姿勢の教示作業を簡略化するには、基準面を定義するための補助点を多数教示しておく必要があるため、本当の意味で簡略化されているとは言い難い部分がある。
【0007】
特に、一旦教示を完了した後は、溶接条件出しと呼ばれる試行の再生運転を行い、所望の溶接作業が遂行できるか否かを検証することが行われる。この結果、所望の溶接作業が遂行されない場合は、教示済みの各教示点の位置姿勢や溶接条件を修正することが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−123536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、狙い位置の変更が必要な場合は、溶接施工を行うための全ての教示点において狙い位置の修正を行う必要がある。さらには、狙い位置の修正を行えば、基準面も変更しなければならない。すなわち、溶接線上の本来の教示点(開始点及び目標点)に加えて、補助点も全て修正する必要があるために、作業工数が非常に多くなるという課題を有している。
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決して、基準面を設定して狙い角等のトーチ姿勢を数値で教示あるいは表示するようにアーク溶接ロボット制御装置が構成されているときに、本来の溶接線の教示修正結果に応じて、基準面を算出するための補助点も自動修正でき、この結果、教示修正時間を大幅に短縮できるアーク溶接ロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1の発明は、溶接線を規定する少なくとも2点の教示点と前記溶接線を規定しない1点の補助点とに基づいて前記溶接線を含む基準面を算出し、この基準面に対する溶接トーチのトーチ姿勢を、数値入力により教示可能又は数値により表示可能にしたアーク溶接ロボット制御装置において、前記補助点を、前記教示点と対にして記憶する記憶手段と、
前記溶接線を規定する教示点が位置修正されたときは、位置修正された教示点と対の関係にある補助点を、前記位置修正された教示点の修正分を補正して自動算出する算出手段と、を備えることを特徴とするアーク溶接ロボット制御装置を要旨としている。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、複数連結された溶接線の中で、対となる補助点が設定された教示点(以下、第1教示点という)と、対となる補助点が設定されていない教示点(以下、第2教示点という)とが混在する場合は、第2教示点の溶接進行方向及び反溶接進行方向においてそれぞれ存在する第1教示点と対となっている補助点に基づいて、前記第2教示点と対の関係となる前記補助点を自動的に設定する設定手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、基準面を設定して狙い角等のトーチ姿勢を数値で教示あるいは表示するようにアーク溶接ロボット制御装置が構成されているときに、溶接線の教示点と基準面を算出するための補助点とを対にして記憶するようにし、さらに、本来の溶接線の教示修正結果に応じて、基準面を算出するための補助点も自動修正されるようにした。このようにすることによって、教示修正時間を大幅に短縮することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、基準面を算出するための補助点が、溶接線を規定する教示点と対になるよう教示されていない場合があっても、前後の補助点に基づいて自動的に算出されるようにした。このようにすることによって、補助点を溶接線上の教示点と必ず対にして教示しなくても、請求項1の効果を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を具体化した一実施形態のアーク溶接ロボット制御装置の構成図。
【図2】アーク溶接ロボット制御装置のブロック図。
【図3】基準面の説明図。
【図4】溶接経路(溶接区間)の説明図。
【図5】(a)は前進後退角の説明図、(b)は狙い角の説明図。
【図6】溶接区間における教示点、及び該教示点と対の関係にある補助点の修正の説明図。
【図7】溶接区間における教示点、及び該教示点と対の関係にある補助点の修正の説明図。
【図8】溶接区間における教示点、及び該教示点と対の関係にある補助点の修正の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化したアーク溶接ロボット制御装置の一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
【0017】
図1に示す、アーク溶接ロボット制御装置(以下、単にロボット制御装置という)RCは、作業台16上のワークWに対してアーク溶接を自動で行うように溶接作業を行う6軸(すなわち、6個の関節軸)のマニピュレータ10を制御する。
【0018】
マニピュレータ10は、フロア等に固定されるベース部材12と、ベース部材12上において、前記複数の関節軸を介して連結された複数のアーム20を備える。最も先端側に位置するアーム20の先端部には、溶接トーチ(以下、単にトーチという)Tが設けられている。トーチTは、溶加材としてのワイヤ15を内装し、図示しない送給装置によって送り出されたワイヤ15の先端とワークWとの間にアークを発生させ、その熱でワイヤ15を溶着させることによりワークWに対して溶接を施す。各アーム20は図示しない各駆動モータの駆動によってトーチTを並進、回転自在に移動できるように構成されている。前記図示しない駆動モータに直結された図示しないエンコーダから各アームの関節角度が検出される。
【0019】
ロボット制御装置RCには、手動操作手段としてのティーチペンダントTPが接続されている。ティーチペンダントTPの操作面には液晶ディスプレイ等からなる表示装置30及び各種キーが設けられている。ティーチペンダントTPは、マニピュレータ10の動作をオペレータが教示するための装置である。
【0020】
前記キーには、マニピュレータ10を動作させるための複数の軸キーを含むキー群40、実行キー(図示しない)、及び位置修正ボタン40aを含む。これらのボタン又はキーの操作により入力されたデータ、或いは、各種情報をロボット制御装置RCが備える記憶部56(図2参照)に格納可能である。
【0021】
図1に示すようにキー群40は、座標系の方向(±X,±Y,±Z)に応じた複数の軸キーが装備されている。いずれかの軸キーの押下により、その軸キーに対応した方向にマニピュレータ10が移動する。例えば、ロボット制御装置RCは、設定されている座標系の下でマニピュレータ10を移動させる場合は、キー群40内のX+軸キーを押すと、当該設定されている座標系のX+方向にマニピュレータ10が移動する。
【0022】
このように、オペレータはキー群40の軸キーを操作することにより、マニピュレータ10を所望の位置に動かして、溶接作業を行わせるための作業経路上の教示点を教示又は教示修正する。教示又は教示修正された教示点は作業プログラムを構成する各ステップ毎に記述される。そして、前記各ステップにより構成された前記作業プログラムは記憶部56に記憶される。
【0023】
図2に示すようにロボット制御装置RCは、CPU(中央処理装置)50、マニピュレータ10を制御するための制御ソフトウェアを記憶する書換可能なEEPROM52、作業メモリとなるRAM54、及び前記作業プログラムや手動操作座標系等の各種座標系の定義パラメータ等を記憶する書換可能な不揮発性メモリからなる記憶部56を備える。
【0024】
開始点・目標点間で規定される各溶接区間におけるトーチ姿勢(狙い角、前進後退角)は、ティーチペンダントTPの操作により数値入力されることにより、前記作業プログラムにおいて各溶接区間のパラメータとして記憶されている。
【0025】
又、ロボット制御装置RCは、マニピュレータ10の前記モータを制御するサーボドライバ58を備え、前記作業プログラムに従って図示しない前記エンコーダからの現在位置情報(すなわち、関節角度)等に基づいて、マニピュレータ10の図示しない駆動モータを駆動制御して、トーチTを教示点に移動させるとともに前記作業プログラムに記述されたトーチ姿勢に基づいて姿勢を変えることが可能である。
【0026】
又、ロボット制御装置RCは、図示しない上位コントローラにも電気的に接続されており、前記上位コントローラからの外部の種々の入力信号が入力可能である。
前記CPU50は、算出手段及び設定手段に相当する。前記記憶部56は、記憶手段に相当する。
【0027】
<基準面について>
次に、基準面の設定について、図3を参照して説明する。基準面の基本情報の入力は、教示時にティーチペンダントTPをオペレータが操作することで行う。
【0028】
具体的には、図3に示すように溶接線YS(すなわち、溶接区間)を規定する開始点Psと目標点Pe(溶接終了点)、並びに、前記開始点Psと対になる補助点Pr1、前記目標点Peと対になる補助点Pr2をティーチペンダントTPによりそれぞれ指定する。この後、ティーチペンダントTPを操作することにより、開始点Ps及び目標点Pe、並びに、両補助点Pr1,Pr2の内、いずれか一方の補助点を併せた計3点から、平面である基準面PLを設定する。
【0029】
なお、対の関係の設定は、開始点Ps,目標点Peが教示された後、補助点Pr1,Pr2をそれぞれ教示する際に、ティーチペンダントTPに設けられたキー群40の中から、対の関係の設定キー40bを押下することにより行われる。開始点Psと対の関係となった補助点Pr1、及び目標点Peと対の関係となった補助点Pr2は、開始点Ps、目標点Peとそれぞれ関連づけされた状態で、作業プログラムの形で記憶部56に格納される。
【0030】
上記のようにして、図3に示す溶接線YSの開始点Ps、目標点(溶接終了点)Pe、並びに補助点Pr1,Pr2が予め記録される。溶接線YSを形成するための開始点Ps、目標点Peの2点に加えて、補助点Pr1又は補助点Pr2のうち、いずれか1点を選択することで、3つの点が決定される。そして、この3点から狙いの基準となる基準面PLを求めることができる。
【0031】
以下では、説明の便宜上、開始点Ps、目標点Pe、及び補助点Pr1の3点が選択されたものとする。
開始点Ps、目標点Pe、及び補助点Pr1の3点が決定されると、開始点Psから目標点PeへのベクトルPと、開始点Psから補助点Pr1へのベクトルQの外積を求める。この外積で求められるベクトルは、図3に示すように、基準面PLに垂直な法線ベクトルVpである。基準面PLに垂直な法線ベクトルVpが決まれば、基準面PLが一意に決められる。
【0032】
<狙い角、前進後退角について>
狙い角、前進後退角、すなわち、トーチ姿勢(トーチ角ともいう)について説明する。図4に示すように、通常のロボット溶接は、作業経路に含まれる溶接経路(溶接が行われる経路)に沿って、例えば記録点a〜bの溶接区間A、記録点b〜cの溶接区間B、記録点c〜dの溶接区間Cの各教示点を予め教示していく。この記録点間を繋ぐようにしてロボットが動作する。
【0033】
すなわち、常に隣り合う2つの記録点(教示点)間をロボットは動作する。このように隣り合う2つの記録点(教示点)の位置と、現在のトーチTの姿勢、並びに前記基準面の2つの情報から、前進・後退角と狙い角が算出される。
【0034】
前記溶接区間Aでは、a点が開始点、b点が目標点である。溶接区間Bでは、b点が開始点、c点が目標点である。又、溶接区間Cでは、c点が開始点、d点が目標点である。本実施形態では、図4に示すように、a点〜d点の教示点以外に、さらに、補助点Pra〜Prdが、a点〜d点に対してそれぞれ対になるように、記憶部56に記憶される。
【0035】
前進・後進角は、図5(a)に示すように、溶接線YSの接線に対する垂線La(すなわち、法線)を立てた際に同垂線Laに対してトーチTの長手方向軸線を表わす直線L1、L2がなす角度である。垂線Laに対して、L1のように0°を越える場合(+)には、前進角といい、L2のように0°を下回る場合(すなわち、「−」)場合には、後退角という。ここで、トーチTの長手方向軸線は、ワイヤ送給方向に向く軸に相当する。
【0036】
又、図5(b)に示す溶接区間Aを例にとると、a点を開始点Psとし、b点を目標点Peとしたとき、基準面PLに対して、トーチTの長手方向軸線と溶接線YSとが共に乗る平面Hのなす角が狙い角θである。
【0037】
なお、狙い角θ、及び前進後退角の算出は、公知であるため、説明を省略する。
又、前記溶接区間(溶接経路)の開始点、目標点、並びに補助点の基準座標系は、ワーク座標系やワールド座標系、或いはベース座標系が適宜選択される。基準座標系が何であるかは本発明の内容には影響しないので、ここでは特定はしない。
【0038】
(トーチ角(トーチ姿勢)のティーチペンダントTPによる表示)
図2に示すCPU50では、サーボドライバ58への位置指令となるロボットの関節角度が逐次定期的に計算されている。そして、CPU50では、前記位置指令の前記関節角度が更新される毎に、順演算と呼ばれる計算手順により基準座標系から見た、トーチTのツール座標系の位置姿勢を表す同次変換行列lが求められている。前記同次変換行列、前記基準面PL、並びに前記トーチ角の計算を行うことにより、常に最新のロボット姿勢に対応したトーチ角を計算する。このように算出されたトーチ角は、RAM54に一旦格納された後、ティーチペンダントTPに送信されることによりティーチペンダントTPの表示装置30に表示される。
【0039】
(作用)
さて、上記のように構成されたロボット制御装置RCの作用を説明する。
前述したように、記憶部56には各溶接区間の教示点である開始点及び目標点に対して、それぞれ補助点が対になって記憶されている。
【0040】
作業プログラムのチェック運転時において、オペレータが教示修正する場合、作業プログラムを修正対象の教示点が属するステップまで実行して、トーチTを修正対象の教示点まで軸キーの操作によりジョグ送りで移動させた後、ティーチペンダントTPの位置修正ボタン40aを押下する。CPU50は、位置修正ボタン40aの押下により、このときに位置するトーチTを支持するマニピュレータ10の各アーム20における図示しない各駆動モータの前記エンコーダからの現在位置情報(すなわち、関節角度)等に基づいて、教示点の教示修正をする。
【0041】
以下には、上記のように教示点が教示修正された場合、対の関係となっている補助点の変更について説明する。
図6に示すように、溶接区間Aの開始点である記録点aを、記録点a1に変更した場合、CPU50は、記録点aから記録点a1に向かうベクトル(以下、修正ベクトルという)を算出する。そして、CPU50は、算出した前記修正ベクトルを記録点aと対となっている補助点Praに加算することにより、補助点Pra1を得る。この結果、記録点a、記録点b、補助点Praで形成される面を含む平面を基準面としていた場合、教示修正後は、基準面は記録点a1、記録点b、補助点Pra1で形成される面を含む平面に自動的に修正されることになる。
【0042】
又、図7に示すように、溶接区間Aの開始点である記録点a及び記録点bを、記録点a1及び記録点b1に変更した場合、CPU50は、記録点aから記録点a1に向かう修正ベクトル、及び記録点bから記録点b1に向かう修正ベクトルをそれぞれ算出する。そして、CPU50は、算出した各修正ベクトルを記録点a、及び記録点bとそれぞれ対となっている補助点Pra,Prbに加算することにより、補助点Pra1,Prb1を得る。この結果、記録点a、記録点b、補助点Praで形成される面を含む平面、又は記録点a、記録点b、補助点Prbで形成される面を含む平面を基準面としていた場合、教示修正後は、基準面は記録点a1、記録点b1、補助点Pra1で形成される面、又は記録点a1、記録点b1、補助点Prb1で形成される面を含む平面に自動的に修正されることになる。
【0043】
又、図8に示すように、溶接区間Aの開始点である記録点bを、記録点b1に変更した場合、CPU50は、記録点bから記録点b1に向かう修正ベクトルを算出する。そして、CPU50は、算出した修正ベクトルを記録点bと対となっている補助点Prbに加算することにより、補助点Prb1を得る。この結果、記録点a、記録点b、補助点Prbで形成される面を含む平面を基準面としていた場合、教示修正後は、基準面は記録点a、記録点b1、補助点Prb1で形成される面を含む平面に自動的に修正されることになる。
【0044】
上記は溶接区間Aにおける教示修正の場合を例示したが、他の溶接区間の教示点について教示修正がある場合も同様である。
さて、本実施形態によれば、以下のような特徴がある。
【0045】
(1) 本実施形態のロボット制御装置RCは、開始点、及び目標点、並びに開始点及び目標点とそれぞれに対になる補助点を記憶する記憶部56(記憶手段)を備える。又、ロボット制御装置RCは、開始点及び目標点の内少なくともいずれか一方の教示点の位置変更があったとき、位置変更があった教示点と対の関係にある補助点を、前記位置変更があった教示点の修正分を補正して自動算出するCPU50(算出手段)を備える。この結果、本実施形態によれば、基準面PLを設定して狙い角等のトーチ姿勢を数値で教示あるいは表示するようにロボット制御装置が構成されているときに、本来の溶接線YSの教示修正結果に応じて、基準面PLを算出するための補助点も自動修正でき、この結果、教示修正時間を大幅に短縮できる効果がある。
【0046】
(第2実施形態)
次に第2実施形態を説明する。
第1実施形態では、すべての溶接区間の開始点、及び目標点に対して対になる補助点を記憶部56に記憶するようにし、開始点又は目標点の位置修正が行われたときに、この位置修正結果に応じて補助点を自動的に修正するように構成した。言い換えると、位置修正時に補助点は修正しなくても良いように、補助点を全ての開始点及び目標点と対にして教示するようにした。しかしながら、この対にして教示する行為自体が、工数を要する作業である。これに対して、本実施形態では、開始点又は目標点と補助点とを対にして教示していない場合を想定している。
【0047】
例えば、図4に示すように溶接区間A,B,Cが隣接してある場合、溶接区間Aの開始点である記録点aと補助点Pra、溶接区間Bの目標点である記録点cと補助点Prcとは、それぞれ対の関係に設定してあるが、記録点bに対応する補助点Prbは、教示されてない場合を想定する。
【0048】
このような場合、オペレータは、ティーチペンダントTPに設けられたキー群40内の図示しない対作成キーを操作する。
すると、CPU50は、作業プログラム中において、記録点bの前後、すなわち、記録点bを基準にして溶接進行方向及び反溶接進行方向に存在する記録点の中から、補助点が対となって教示されている記録点をサーチする。同図の場合、反溶接進行方向に位置する記録点aと、溶接進行方向に位置する記録点cとが見つかることになる。さらに、CPU50は、記録点aの補助点Praと、記録点cの補助点Prcのそれぞれの位置データを読み出す。さらに、記録点aから記録点bに向かうベクトルおよび記録点cから記録点bに向かうベクトルを算出する。これらの2つのベクトルを、補助点Praおよび補助点Prcを始点として重ね合わせる。そして、2つのベクトルが交わった位置を算出すべき補助点Prbとし、位置データを算出する。そして、この補助点Prbと記録点bを対の関係に設定しなおして、記憶部56に記憶された作業プログラムを更新する。
【0049】
なお、前記の例では、記録点bは、溶接区間Aでは目標点であるが、溶接区間Bでは開始点である。本例では、記録点aおよびcは第1教示点に相当し、記録点bは第2教示点に相当する。
【0050】
本実施形態によれば、以下のような特徴がある。
(1) 本実施形態のロボット制御装置によれば、CPU50は、設定手段として、複数連結された溶接線(溶接区間)の中で、対となる補助点Pra,Prcが設定された記録点a,c(第1教示点)と、対となる補助点が設定されていない記録点b(第2教示点)とが混在する場合、記録点bを基準として反溶接進行方向及び溶接進行方向において存在する記録点a,cと対となっている補助点Pra,Prcに基づいて、記録点bと対の関係となる補助点Prbを自動的に設定する。
【0051】
このため、基準面を算出するための補助点が、溶接線を規定する教示点と対になるよう教示されていない場合があっても、前後の補助点に基づいて自動的に算出されるようにした。このようにすることによって、補助点を溶接線上の教示点と必ず対にして教示しなくても、第1実施形態の効果を容易に実現できる。
【0052】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・ 第1実施形態では、溶接線YSを、開始点Psと目標点Peの2点で規定したが、溶接線の規定は2点に限定されるものではない。例えば、開始点Psと目標点Peの2点の間に、1点以上の教示点を教示するようにしても良い。
【0053】
・ 第1実施形態において、開始点Ps、目標点(溶接終了点)Pe、ならびにその間の特徴点の教示の方法としては、ティーチペンダントTPを使用して、実際にロボットを当該位置に動かして後に記録しても良く、或いは、パソコンを使用したオフライン教示を使用した記録としてもよい。補助点Pr1,Pr2についても同様である。
【0054】
・ 又、第1実施形態の基準面の設定では、図3に示す補助点Pr1が選択された場合について説明した。この補助点Pr1の代わりに補助点Pr2が選択された場合は、開始点Psから補助点Pr1へのベクトルQの代わりに、目標点Peから補助点Pr2へのベクトルと、開始点Psから目標点PeへのベクトルPとが外積の算出に使用されることにより、同様に、基準面を設定することができる。
【0055】
・ 第1実施形態では、マニピュレータ10に支持されたトーチTのトーチ姿勢を、数値入力により教示及び表示装置30に表示可能にしたアーク溶接ロボット制御装置に具体化したが、トーチ姿勢を、数値入力により教示又は表示装置30に表示可能にしたアーク溶接ロボット制御装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0056】
T…溶接トーチ、Pe…目標点、PL…基準面、Ps…開始点、
RC…アーク溶接ロボット制御装置、YS…溶接線、
Pr1,Pr2,Pr2,Pra,Prb,Prc,Pra1,Prb1…補助点、
10…マニピュレータ、50…CPU(算出手段、設定手段)、
56…記憶部(記憶手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接線を規定する少なくとも2点の教示点と前記溶接線を規定しない1点の補助点とに基づいて前記溶接線を含む基準面を算出し、この基準面に対する溶接トーチのトーチ姿勢を、数値入力により教示可能又は数値により表示可能にしたアーク溶接ロボット制御装置において、
前記補助点を、前記教示点と対にして記憶する記憶手段と、
前記溶接線を規定する教示点が位置修正されたときは、位置修正された教示点と対の関係にある補助点を、前記位置修正された教示点の修正分を補正して自動算出する算出手段と、
を備えることを特徴とするアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項2】
複数連結された溶接線の中で、対となる補助点が設定された教示点(以下、第1教示点という)と、対となる補助点が設定されていない教示点(以下、第2教示点という)とが混在する場合は、第2教示点の溶接進行方向及び反溶接進行方向においてそれぞれ存在する第1教示点と対となっている補助点に基づいて、前記第2教示点と対の関係となる前記補助点を自動的に設定する設定手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接ロボット制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−91272(P2012−91272A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240713(P2010−240713)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】