説明

アーク溶接方法

【課題】 より適切にアークの途切れを検出することが可能なアーク溶接方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のアーク溶接方法は、母材と溶接トーチに保持された消耗電極との間にアークを発生させることにより、溶滴移行させる第1工程(T1)と、上記母材と上記消耗電極との間にアークを発生させつつ上記母材に形成される溶融池を冷却し、かつ、上記溶接トーチを移動させる第2工程(T2)とを交互に繰り返すものであって、第1工程(T1)において、上記母材と上記消耗電極との間の電圧の絶対値あるいは両者の間を流れる電流の絶対値が予め設定された範囲を逸脱した際にアーク切れ検出時間Taoの測定を開始し、第2工程(T2)に移行するまでの間に上記アーク切れ検出時間Taoが予め定められた基準時間Tstp以上になった場合に溶接異常の判定を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッチパルス溶接法を用いたアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来のアーク溶接装置の一例を示している。図5に示すアーク溶接装置Xの用途の一例としては、ステッチパルス溶接法と称される溶接方法が挙げられる。ステッチパルス溶接法は溶接時の入熱と冷却をコントロールすることにより、母材Wに与える熱影響を抑えやすい溶接法である。このステッチパルス溶接法を用いると、従来の薄板溶接に比べ、溶接外観を向上させ、溶接歪み量を低減させることができるとされている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
図5に示すアーク溶接装置Xは、溶接ワイヤを保持する溶接トーチ91と、溶接トーチ91を母材に対して移動させるロボット本体92と、ロボット本体92の動作を制御するロボット制御装置93と、溶接ワイヤ95と母材Wとの間に溶接電圧を供給する溶接電源94とを備えている。溶接電源94が溶接ワイヤ95と母材Wとの間に溶接電圧を供給すると、溶接ワイヤ95の先端と母材Wとの間にアークが発生し、溶接ワイヤ95と母材Wが溶融して母材Wに溶融池が形成される。この溶融池は、アークを停止させた後にアーク溶接トーチ91から噴出されるシールドガスによって冷却されて凝固する。溶融池が凝固すると溶接痕が形成される。
【0004】
たとえば特許文献2によって提案されたステッチパルス溶接法では、図6に示すように、溶接トーチ91を停止させた状態で交流パルス電流を通電することによりアークを発生させるアーク溶接工程(期間T1)と、期間T1よりも弱い電圧を溶接ワイヤ95と母材Wとの間に印加し、小さな値の直流電流を通電することにより、アークが発生している状態を保っている冷却および移動期間(期間T2)とが繰り返される。このような溶接法により、隣り合うもの同士の一部が重なるように多数の溶接痕が連続形成され、ウロコ状の溶接ビードが生じる。また、この場合、アークの消弧および再発生を繰り返さないため、スパッタの発生を抑制できるという利点がある。
【0005】
また、図6に示す方法では、溶接中において常に異常判定を行っている。具体的には、溶接電流が所定の値よりも小さい、または溶接電圧が所定の値よりも大きい場合に、アークが途切れていると判定する。アーク切れが検出されると、溶接作業を停止させるように構成されている。
【0006】
このようなアークの途切れの検出を目視ではなく自動で行う場合には、誤検出などを防ぐために一定の検出時間が設けられる。すなわち電流が予め設定された値を下回っている時間、または、電圧の値が予め設定された値を上回っている時間を検出し、その検出時間が、予め設定された基準時間よりも長い場合にアークが途切れているとの判定が行われ、ロボット制御装置93および電源装置94へ動作を停止させるための信号が送られる。
【0007】
たとえば、図6に示すように、期間T1の比較的後半の時刻t1にアーク切れが発生した場合、上述した基準時間の終期が期間T2に含まれることがある。期間T2においてもアーク切れが継続していると、時刻t2にはアーク切れ異常の条件が成立してしまい、溶接が終了される。しかしながら、アーク切れが発生した期間T1においては、後半期間の一時期の溶接のみが異常となっただけである。すなわち、期間T1全体としては所望の状態を満たす溶接が完了している可能性が大きく、十分な溶接強度が確保可能であり、溶接外観も比較的良好となる。このような場合であっても、図6に示す異常判定によっては、時刻t2に溶接が終了されてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−55268号公報
【特許文献2】特開平11−267839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、より適切にアークの途切れを検出することが可能なアーク溶接方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によって提供されるアーク溶接方法は、母材と溶接トーチに保持された消耗電極との間にアークを発生させることにより、溶滴移行させる第1工程と、上記母材と上記消耗電極との間にアークを発生させつつ上記母材に形成される溶融池を冷却し、かつ、上記溶接トーチを移動させる第2工程とを交互に繰り返すアーク溶接方法であって、上記第1工程において、上記母材と上記消耗電極との間の電圧の絶対値あるいは両者の間を流れる電流の絶対値が予め設定された範囲を逸脱した際にアーク切れ検出時間の測定を開始し、上記第2工程に移行するまでの間に上記アーク切れ検出時間が予め定められた基準時間以上になった場合に溶接異常の判定を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記基準時間は、上記第1工程の単位時間に時間比率α(0%<α<100%)を乗じることにより設定される。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記基準時間比率αは、40%から60%の範囲に設定されている。
【0013】
本発明のより好ましい実施の形態では、上記第1工程においては、上記アーク切れ検出時間と上記基準時間とを比較する工程と、上記第1工程の経過時間を測定する工程と、が設けられており、上記第1工程の経過時間が予め定められた時間未満の場合にのみ上記アーク切れ検出時間と上記基準時間とを比較する工程を行う。
【0014】
本発明によるアーク溶接方法では、溶融池を形成する第1工程においてアーク切れ検出時間の測定を行っているため、アーク切れ検出時間の測定中に第2工程へ移行してしまって適切な異常判断ができなくなる問題を回避することができる。さらに異常を判断するための基準時間を上記第1工程を行う時間に対する比率として算出するようにすることで、第1工程を行う時間を変化させた場合にも良好に対応することが可能となっている。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかるアーク溶接方法を行うための溶接システムの一例の構成を示す図である。
【図2】図1に示した溶接システムの内部構成を示す図である。
【図3】本発明にかかるアーク溶接方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明にかかるアーク溶接方法における溶接条件値の変化状態を示す図である。
【図5】従来の溶接システムの一例の構成を示す図である。
【図6】従来のステッチパルス溶接法において起こりえる検出異常を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1は、本発明にかかるアーク溶接方法を実施するのに適した溶接システムの一例の構成を示す図である。図1に示された溶接システムAは、溶接ロボット1と、それを制御するロボット制御手段2と、溶接電源装置3と、アーク切れ異常を検出するための異常検出手段4とを備えている。溶接ロボット1は、母材Wに対してたとえばアーク溶接を自動で行うものである。溶接ロボット1は、ベース部材11、複数のアーム12、複数のモータ13、溶接トーチ14、ワイヤ送給装置16、およびコイルライナ19を備える。
【0019】
ベース部材11は、フロア等の適当な箇所に固定される。各アーム12は、ベース部材11に軸を介して連結されている。
【0020】
溶接トーチ14は、溶接ロボット1の最も先端側に設けられた手首部12aの先端部に設けられている。溶接トーチ14は、消耗電極としてのたとえば直径1mm程度の溶接ワイヤ15を、母材W近傍の所定の位置に導くものである。溶接トーチ14には、Arなどのシールドガスを供給するためのシールドガスノズル(図示略)が備えられている。モータ13は、アーム12の両端または一端に設けられている(一部図示略)。モータ13は、ロボット制御手段2により回転駆動する。この回転駆動により、複数のアーム12の移動が制御され、溶接トーチ14が上下前後左右に自在に移動できるようになっている。
【0021】
モータ13には、図示しないエンコーダが設けられている。このエンコーダの出力は、ロボット制御手段2に与えられる。この出力値により、ロボット制御手段2では、溶接トーチ14の現在位置を認識するようになっている。
【0022】
ワイヤ送給装置16は、溶接ロボット1における上部に設けられている。ワイヤ送給装置16は、溶接トーチ14に対して、溶接ワイヤ15を送り出すためのものである。ワイヤ送給装置16は、送給モータ161、ワイヤリール(図示略)、およびワイヤプッシュ手段(図示略)、を備えている。送給モータ161を駆動源として、上記ワイヤプッシュ手段が、上記ワイヤリールに巻かれた溶接ワイヤ15を溶接トーチ14へと送り出す。
【0023】
コイルライナ19は、その一端がワイヤ送給装置16に、その他端が溶接トーチ14に、それぞれ接続されている。コイルライナ19は、チューブ状に形成されており、その内部には、溶接ワイヤ15が挿通されている。コイルライナ19は、ワイヤ送給装置16から送り出された溶接ワイヤ15を、溶接トーチ14に導くものである。送り出された溶接ワイヤ15は、溶接トーチ14から外部に突出して消耗電極として機能する。
【0024】
図2は、図1に示した溶接システムAの内部構成を示す図である。
【0025】
図1、図2に示したロボット制御手段2は、溶接ロボット1の動作を制御するためのものである。図2に示すように、ロボット制御手段2は、動作制御回路21、インターフェイス回路22、およびティーチペンダントTPを備える。
【0026】
動作制御回路21は、図示しないマイクロコンピュータおよびメモリを有している。このメモリには、溶接ロボット1の各種の動作が設定された作業プログラムが記憶されている。また動作制御回路21は、後述のロボット移動速度VRを設定する。動作制御回路21は、上記作業プログラム、上記エンコーダからの座標情報、およびロボット移動速度VR等に基づいて、溶接ロボット1に対して動作制御信号Mcを与える。この動作制御信号Mcにより、各モータ13は回転駆動し、溶接トーチ14を母材Wの所定の溶接開始位置に移動させたり、母材Wの面内方向に沿って移動させたりする。
【0027】
ティーチペンダントTPは、動作制御回路21に接続されている。ティーチペンダントTPは、ユーザによって各種動作を設定するためのものである。
【0028】
インターフェイス回路22は、溶接電源装置3と各種信号をやり取りするためのものである。インターフェイス回路22には、動作制御回路21から、電流設定信号Is、出力開始信号On、および送給速度設定信号Wsが送られる。電流設定信号Isには、たとえばティーチペンダントTPを通じて設定されたパルス出力時間が含まれている。インターフェイス回路22は電流設定信号Isを異常検出手段4へ送信する。
【0029】
溶接電源装置3は、溶接ワイヤ15と母材Wとの間に、溶接電圧Vwを印加し、溶接電流Iwを流すための装置であるとともに、溶接ワイヤ15の送給を行うための装置である。図2に示すように、溶接電源装置3は、出力制御回路31、電流検出回路32、送給制御回路34、インターフェイス回路35、および電圧検出回路36を備えている。
【0030】
インターフェイス回路35は、ロボット制御手段2と各種信号をやり取りするためのものである。具体的には、インターフェイス回路35には、インターフェイス回路22から、電流設定信号Is、出力開始信号On、および送給速度設定信号Wsが送られる。
【0031】
出力制御回路31は、複数のトランジスタ素子からなるインバータ制御回路を有する。出力制御回路31は外部から入力される商用電源(たとえば3相200V)をインバータ制御回路によって高速応答で精密な溶接電流波形制御を行う。
【0032】
出力制御回路31の出力は、一端が溶接トーチ14に接続され、他端が母材Wに接続されている。出力制御回路31は、溶接トーチ14の先端に設けられたコンタクトチップを介して、溶接ワイヤ15と母材Wとの間に溶接電圧Vwを印加し、溶接電流Iwを流す。図4(c)には溶接電流Iwの状態変化の一例を示している。これにより、溶接ワイヤ15の先端と母材Wとの間にアークaが発生する。このアークaによりもたらされる熱で溶接ワイヤ15と母材Wが溶融する。そして、母材Wに対して溶接が施されるようになっている。
【0033】
出力制御回路31には、インターフェイス回路35,22を介して、動作制御回路21からの電流設定信号Is、および出力開始信号Onが送られる。
【0034】
電流検出回路32は、溶接ワイヤ15に流れる溶接電流Iwを検出するためのものである。電流検出回路32は、溶接電流Iwに対応する電流検出信号Idを、出力制御回路31、および動作制御回路21に出力する。さらに電流検出信号Idは、インターフェイス回路35を介して異常検出手段4へ送信される。
【0035】
電圧検出回路36は、出力制御回路31の出力端の電圧である溶接電圧Vwを検出するためのものである。電圧検出回路36は、溶接電圧Vwに対応する電圧検出信号Vdを出力制御回路31に出力する。
【0036】
送給制御回路34は、溶接ワイヤ15の送給を行うための送給制御信号Fcを送給モータ161に出力するものである。送給制御信号Fcは、溶接ワイヤ15の送給速度Fvを示す信号である。また、送給制御回路34には、インターフェイス回路35,22を介して、動作制御回路21からの出力開始信号On、および送給速度設定信号Wsが送られる。
【0037】
異常検出手段4は、アーク停止時間測定装置41、異常判定装置42、および、インターフェイス回路43を備えており、電流の停止時間からアーク切れ異常を検出するためのものである。インターフェイス回路43は、ロボット制御手段2および溶接電源装置3と信号をやりとりするためのものであり、インターフェイス回路22から電流設定信号Isを受信して、インターフェイス回路35から電流検出信号Idを受信する。
【0038】
アーク停止時間測定装置41は、たとえばマイクロコンピュータおよびメモリを備えており、インターフェイス回路43を介して電流検出信号Idを受信して溶接電流Iwの監視を行い、後述する方法に従ってアーク切れ検出時間Taoの測定を行う。アーク停止時間測定装置41は、溶接電流Iwが一定時間0であった場合に、アーク切れ検出時間Taoの値を1増加させる処理を行う。さらにアーク停止時間測定装置41は、このアーク切れ検出時間Taoを異常判定装置42へ送信する。
【0039】
異常判定装置42は、たとえばマイクロコンピュータおよびメモリを備えており、インターフェイス回路43を介して電流設定信号Isを受信する。この異常判定装置42は、アーク切れを判定するための基準時間Tstpの設定を行い、さらにこの基準時間Tstpとアーク切れ検出時間Taoとの比較を行う。なお、異常判定装置42がアーク停止時間測定装置41と一体となっていても構わない。アーク切れ検出時間Taoが基準時間Tstpを超えた場合に、異常判定装置42は、アーク切れの発生を伝えるアーク異常信号Eaをインターフェイス回路43へ送信する。インターフェイス回路43はアーク異常信号Eaを、インターフェイス回路22を介して動作制御回路21へ送信する。
【0040】
次に、本発明におけるアーク溶接方法について説明する。このアーク溶接方法は溶接システムAを用いて行われる。
【0041】
図3には溶接システムAを用いたステッチパルス溶接方法のフローチャートを示している。また、図4は溶接システムAにおける溶接作業を規定する溶接条件値の変化状態を示している。具体的には、図4(a)はロボット移動速度VRの変化状態を示し、(b)は溶接ワイヤ15の送給速度Fvの変化状態を示し、(c)は溶接電流Iwの変化状態を示す。ロボット移動速度VRは、母材Wの面内方向のうちの所定の溶接進行方向に沿った溶接トーチ14の移動速度である。なお、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwを流すのに必要な電圧が適宜設定されている。
【0042】
ステッチパルス溶接方法では、比較的強いアークaを発生させることにより、溶滴移行させる第1工程と、比較的弱いアークaを発生させつつ母材Wに形成される溶融池を冷却し、かつ、溶接トーチ14を移動させる第2工程とが交互に繰り返される。本実施形態においては図4(c)に示すように、第1工程(T1)において溶接電流Iwとして交流パルス電流が流され、第2工程(T2)においては溶接電流Iwとして直流電流が流される。第1工程(T1)の単位時間は、ティーチペンダントTPを通じて設定されたパルス出力時間である。
【0043】
まず、ティーチペンダントTPからの溶接開始信号St(図2参照)が入力されることにより、過渡的な溶接開始処理が行われる。溶接開始処理においては、動作制御回路21は、出力開始信号Onを出力制御回路31および送給制御回路34に出力する。出力制御回路31は、溶接ワイヤ15と母材Wとの間に溶接電圧Vwを印加する。これにより、アークaが点弧される。
【0044】
次に、パルス出力時間Tplsおよび基準時間Tstpの設定を行う(S1)。本実施形態では、この設定をもって第1工程(T1)の開始とする。パルス出力時間Tplsおよび基準時間Tstpは、第1工程(T1)における溶接電流Iwのパルス1回分に相当するサンプリング時間Tsの個数を示す値として設定される。具体的には、パルス出力時間Tplsは、ティーチペンダントTPを通じて設定されたパルス出力時間をサンプリング時間Tsで割った値の整数部分として設定される。なお、これらの処理は、たとえば動作制御回路21内で行われる。ここで設定されたパルス出力時間Tplsは、電流設定信号Isに含まれ、異常判定装置42へ伝達される。異常判定装置42は、このパルス出力時間Tplsに基準時間比率αをかけて、その整数部分を基準時間Tstpと定める。本実施形態においては、基準時間比率αは40%〜60%の範囲内であり、たとえばティーチペンダントTPを通じて適宜設定および変更可能となっている。
【0045】
次に、アーク切れ検出時間Taoを0とし、パルス出力経過時間Tpを0とする(S2)。アーク切れ検出時間Taoは、アーク停止時間測定装置41において管理される値である。パルス出力経過時間Tpは、動作制御回路21内において管理される値である。
【0046】
これらの設定の終了後にパルス出力を開始する(S3)。その後、サンプリング時間Tsの経過を待ち(S4)、以下の処理を行う。
【0047】
アーク停止時間測定装置41は電流検出信号Idの監視を行い、サンプリング時間Tsの間、溶接電流Iwが0になったかどうかの判断を行う(S5)。なお、溶接電流Iwが厳密に0であったかどうかではなく、溶接電流Iwの絶対値が予め定められた値より小さくなったかどうかの判断を行ってもよい。
【0048】
サンプリング時間Tsの間に溶接電流Iwが0ではなかった場合(S5=no)、アーク停止時間測定装置41はアーク切れ検出時間Taoの値を0に設定する(S6)。
【0049】
サンプリング時間Tsの間に溶接電流Iwが0であった場合(S5=yes)、アーク停止時間測定装置41はアーク切れ検出時間Taoの値に1加算する処理を行う(S7)。さらに、異常判定装置42はアーク切れ検出時間Taoの値が基準時間Tstp以上になっているかどうかの判定を行う(S8)。アーク切れ検出時間Taoの値が基準時間Tstp以上の場合(S8=yes)には、異常判定装置42はアーク異常信号Eaを動作制御回路21に送信する(S9)。動作制御回路21はアーク異常信号Eaを受信した場合、溶接ロボット1の動作を停止させる処理を行い、溶接作業を終了させる。
【0050】
アーク切れ検出時間Taoの値が0とされた場合(S6)およびアーク切れ検出時間Taoの値が基準時間Tstpを超えていない場合(S8=no)には、動作制御回路21はパルス出力経過時間Tpの値に1加算する処理を行う(S10)。その後、動作制御回路21は、パルス出力経過時間Tpの値がパルス出力時間Tpls以上かどうかの判断を行う(S11)。
【0051】
パルス出力経過時間Tpの値がパルス出力時間Tpls以上の場合(S11=yes)には溶接終了かどうかの判定を行う(S12)。溶接終了のタイミングは、たとえばティーチペンダントTPから指示されて決定される。溶接終了の指示がされている場合(S12=yes)、動作制御回路21は溶接ロボット1の動作を停止させる処理を行い、溶接作業を終了させる。溶接終了の指示がされていない場合(S12=no)、第2工程(T2)に移行する(S13)。具体的には、溶接電流Iwとして直流電流を流しつつ、溶接トーチ14を次の溶接位置へと移動させる。その間に、第1工程(T1)において母材Wに形成された溶融池が冷却される。第2工程(T2)終了後は、第1工程(T1)の最初(S1)へ戻る。
【0052】
パルス出力経過時間Tpの値がパルス出力時間Tpls未満の場合(S11=no)には、パルス電流出力を継続し、再度サンプリング時間待機する工程(S4)へ戻る。
【0053】
図4の右側部分には、アーク切れが発生した場合の各溶接条件値の変化状態を示している。図4によると、時刻t1にパルス出力が開始されており、時刻t2にアーク切れが発生している。時刻t3はアーク切れ検出時間Taoの値が基準時間Tstpと等しくなる時刻である。上記のアーク溶接方法によると、時刻t3に異常判定装置42がアーク異常信号Eaを動作制御回路21に送信する(S9)。動作制御回路21はアーク異常信号Eaを受信すると、溶接ロボット1の動作を停止させる処理を行う。その処理によって時刻t3におけるワイヤ送給速度Fvは0になっている。また、アーク切れが生じた場合には溶接電圧Vwが最大値の無負荷電圧値になるが、時刻t3において溶接電圧Vwも0とされる。
【0054】
このようなアーク溶接方法によると、第1工程(T1)の最中にアーク切れ検出時間Taoの値が基準時間Tstp以上になると、溶接作業が停止され、アーク切れ検出時間Taoの値が基準時間Tstp未満の場合には、溶接作業は継続される。さらに、基準時間Tstpが、パルス出力時間Tplsに基準時間比率αをかけることにより決定されるため、アーク切れが発生している時間が第1工程(T1)を行う予定の時間の40%〜60%に達した場合には常に異常が検出されるようになっている。従って、このようなアーク溶接方法によると、第1工程(T1)を実施する予定の時間のうち一定の比率分の時間は確実にアークが発生している状態で進行することになり、溶接ビードが大きく欠損するのを防ぐことができる。
【0055】
上述したアーク溶接方法によると、基準時間Tstpは、設定されたパルス出力時間Tplsの40%〜60%に相当する値となっている。このため、第1工程(T1)の初期にアーク切れが始まった場合、第1工程(T1)が終了する前にアーク異常信号Eaが発信されて溶接作業が中断される。従って、溶融池の形成が不十分なまま次の溶接位置に移行して外観の悪い溶接ビードができてしまうことを防ぐことができる。さらに、問題を解消した後に溶接位置を移動させずに溶接作業を再開することにより、円滑に溶接作業を進めることができる。
【0056】
本実施形態のアーク溶接方法によると、第1工程(T1)の終了間際にアーク切れが始まった場合、アーク異常信号Eaが発信されるより前に、パルス出力経過時間Tpの値がパルス出力時間Tpls以上となる(S11=yes)。このため、溶接作業は中断されることなく第2工程(T2)が開始される。第1工程(T1)の終了間際にアーク切れが始まるような場合、アーク切れが起こる前に溶融池の形成自体はある程度十分に行われており、溶接不良には到らないと考えられる。従って、不要な溶接停止を避けることができる。同様に、アーク切れ検出時間Taoの値が基準時間Tstpを超える前にアークaが再開された場合にも溶接を停止する必要がない。この場合にも本実施形態では不要な溶接停止を避けることができる。
【0057】
上記実施形態では、第1工程(T1)の開始時にパルス出力時間Tplsおよび基準時間Tstpの設定(S1)を行っているが、溶接開始時およびティーチペンダントTPによって設定されるパルス出力時間や基準時間比率αが変更されたときにのみそれらの設定を行うようにしても構わない。
【0058】
なお、本実施形態では、動作制御回路21がアーク異常信号Eaを受信した際(S9)に溶接作業を停止する処理を行っているが、溶接ロボット1を停止させずにユーザに警告をするだけに留めても構わない。この場合、動作制御回路21は、アークaを再発生させる処理を行う。
【0059】
また、必要に応じて、第2工程(T2)における直流電流の値を監視するようにしても構わない。この場合にアーク停止時間測定装置41はアーク切れ検出時間Taoとは別に直流用アーク切れ検出時間を管理する。直流用アーク切れ検出時間が予め設定された時間を越えた場合にはアーク停止時間測定装置41は動作制御回路21に対してアークaの再発生が必要であると伝える信号を発信する。その信号に従い、動作制御回路21は、第2工程(T2)から第1工程(T1)に移行する際にアークaの再発生処理を行う。
【0060】
本発明の範囲は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明で用いる溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在であり、本発明によるアーク溶接方法の細部も適宜変更可能である。たとえば、上記実施形態では、動作制御回路21とは別個にアーク停止時間測定装置41および異常判定装置42が設けられているが、アーク停止時間測定装置41および異常判定装置42を動作制御回路21が兼ねる構成であっても構わない。
【0061】
たとえば、上記実施形態では、アーク停止時間測定装置41が電流検出信号Idの監視を行うことでアーク切れが発生しているか否かを判断しているが、電圧検出信号Vdを受信して溶接電圧Vwを監視しても構わない。アーク切れが生じている場合には溶接電圧Vwは最大値の無負荷電圧値となる。そこで、サンプリング時間Tsの間に溶接電圧Vwが予め設定された値よりも高い値になった場合に、アーク切れ検出時間Taoの値に1加算する処理を行う(S7)ことにより、溶接電流Iwを監視した場合と同様のアーク切れ判定を行うことができる。
【0062】
また、上記実施形態では、第1工程(T1)における溶接電流Iwが交流パルス電流であるが、直流パルス電流であっても構わない。
【符号の説明】
【0063】
A 溶接システム
1 溶接ロボット
11 ベース部材
12 アーム
12a 手首部
13 モータ
14 溶接トーチ
15 溶接ワイヤ(消耗電極)
16 ワイヤ送給装置
161 送給モータ
2 ロボット制御装置
21 動作制御回路
22 インターフェイス回路
3 溶接電源装置
31 出力制御回路
32 電流検出回路
34 送給制御回路
35 インターフェイス回路
36 電圧検出回路
4 異常検出手段
41 アーク停止時間測定装置
42 異常判定装置
43 インターフェイス回路
Ea アーク異常信号
Fc 送給制御信号
Fv 送給速度
Is 電流設定信号
Iw 溶接電流
Mc 動作制御信号
On 出力開始信号
T1 第1工程
T2 第2工程
TP ティーチペンダント
Tp パルス出力経過時間
Tpls パルス出力時間
Ts サンプリング時間
Tao アーク切れ検出時間
Tstp 基準時間
VR ロボット移動速度
Vw 溶接電圧
W 母材
Ws 送給速度設定信号
α 基準時間比率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と溶接トーチに保持された消耗電極との間にアークを発生させることにより、溶滴移行させる第1工程と、
上記母材と上記消耗電極との間にアークを発生させつつ上記母材に形成される溶融池を冷却し、かつ、上記溶接トーチを移動させる第2工程とを交互に繰り返すアーク溶接方法であって、
上記第1工程において、上記母材と上記消耗電極との間の電圧の絶対値あるいは両者の間を流れる電流の絶対値が予め設定された範囲を逸脱した際にアーク切れ検出時間の測定を開始し、上記第2工程に移行するまでの間に上記アーク切れ検出時間が予め定められた基準時間以上になった場合に溶接異常の判定を行うことを特徴とする、アーク溶接方法。
【請求項2】
上記基準時間は、上記第1工程の単位時間に基準時間比率α(0%<α<100%)を乗じることにより設定される、請求項1に記載のアーク溶接方法。
【請求項3】
上記基準時間比率αは、40%から60%の範囲に設定されている、請求項2に記載のアーク溶接方法。
【請求項4】
上記第1工程においては、上記アーク切れ検出時間と上記基準時間とを比較する工程と、
上記第1工程の経過時間を測定する工程と、が設けられており、
上記第1工程の経過時間が予め定められた時間未満の場合にのみ上記アーク切れ検出時間と上記基準時間とを比較する工程を行う、請求項1ないし3のいずれかに記載のアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−212698(P2011−212698A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81216(P2010−81216)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】