説明

アーク溶接用トーチ

【課題】 シールドガスの使用量を減らしても、溶接品質を維持する必要最適量のシールドガスを溶接部の周縁に確実に吹き付けることができ、溶接部を確実にシールドできるアーク溶接用トーチを提供する。
【解決手段】 本発明のアーク溶接用トーチ1は、シールドガスおよび溶融電極が通る内空間を有し、シールドガスが流出する内空間と連通した複数の流出孔を有したガス管としてのトーチ本体2、チップ3と、ガス管の周縁を覆うように配置される円筒部材としてのノズル本体6およびノズルヘッド8と、を備え、ガス管と円筒部材との間のガス流路空間を通るシールドガスで溶接部99をシールドしながらアーク溶接するアーク溶接用トーチ1であって、ガス流路空間には、シールドガスの密度を高めるための絞りを形成する絞り形成部材としての第二整流部材9が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤあるいはタングステン電極を溶融させながら溶接を行うアーク溶接に使用されるアーク溶接用トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接として一般的にMAG(Metal active gas)溶接、MIG(Metal inert gas)溶接、TIG(Tungsten inert gas)溶接などが知られている。MAG溶接やMIG溶接に用いるアーク溶接用トーチは、トーチ本体の先端部にチップを装着し、トーチの先端から突出するように溶接ワイヤをチップに挿通させてなる。TIG溶接に用いるアーク溶接用トーチは、トーチ本体の先端にチップを装着し、トーチの先端から突出するように棒状のタングステン電極をチップに挿通させてなる。
【0003】
そして、アーク溶接では、トーチ先端から突出させた溶接ワイヤやタングステン電極を被溶接物に近接させ、炭酸ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどのシールドガスをトーチ先端より吹き出し、被溶接物と溶接ワイヤの間に発生するアークの周囲をシールドガスで覆い、大気中の空気が溶接部に流入するのを防止しながら、アークにより被溶接物および溶接ワイヤを溶融させて溶接ビードを形成し溶接する(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4685080号
【特許文献2】特開2010−253533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アーク溶接では、溶接時に溶融金属の微粒子であるスパッタが生じ、このスパッタが溶接部や溶接用トーチの先端部(ノズルヘッド)に付着するという問題がある。溶接用トーチの先端部に吸着したスパッタを放置して作業した場合、スパッタと溶接ワイヤやタングステン電極との間が通電し、溶接ができなくなる虞がある。そこで、溶接作業時には、1〜2時間毎にスパッタを除去する必要があり、都度作業を中断する必要があった。そこで、前記特許文献2では、チップを覆うセラミックス製のワイヤガイドを設け、このワイヤガイドでスパッタが付着することを防止する提案がなされている。この提案によれば、ワイヤガイドにスパッタが付着してもセラミックス製のため、容易にスパッタを除去することができる。
【0006】
上記提案の構成であってもスパッタを容易に除去することができるが、本発明では、ワイヤガイドのような新たな部材を設けることなく、スパッタの付着自体を極力抑えることができ、また、付着したスパッタは容易に除去できるアーク溶接用トーチを提供することを目的としている。
【0007】
また、アーク溶接においては、酸化を防止し、かつ、溶接ムラを防止するために、シールドガスを溶接部の周縁に確実に吹き付け、空気が溶接部に流入することを防止する必要がある。シールドガスを溶接部の周縁に確実に吹き付けるためには、シールドガスを整流する必要がある。しかしながら、上記特許文献2では、シールドガスの噴出量を減らすためにノズルヘッドの内側に複数の開孔を備えた整流リングを設ける提案がなされているものの、整流リングを通過した後のシールドガスの整流については提案されていない。
【0008】
本発明では、シールドガスの使用量を減らしても、溶接品質を維持する必要最適量のシールドガスを溶接部の周縁に確実に吹き付けることができ、溶接部を確実にシールドできるアーク溶接用トーチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1のアーク溶接用トーチは、シールドガスおよび溶融電極が通る内空間を有し、前記シールドガスが流出する前記内空間と連通した複数の流出孔を有したガス管と、前記ガス管の周縁を覆うように配置される円筒部材と、を備え、前記ガス管の内空間、および/または、前記ガス管と前記円筒部材との間のガス流路空間を通るシールドガスで溶接部をシールドしながらアーク溶接するアーク溶接用トーチであって、前記ガス流路空間には、シールドガスの密度を高めるための絞りを形成する絞り形成部材が配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2のアーク溶接用トーチにおいて、前記ガス流路空間には、シールドガスの流れを整流するための整流部材が配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3のアーク溶接用トーチにおいて、前記ガス管は、前記内空間としての第一軸孔を内側に有し、前端近傍に前記シールドガスが流出する前記第一軸孔と連通した複数の前記流出孔を有した円筒形状のトーチ本体と、前記第一軸孔と連通する前記内空間としての第二軸孔を内側に有し、前記トーチ本体の前端に接続されたチップと、により構成され、前記円筒部材は、前記トーチ本体の周縁を覆うように配置される円筒形状のノズル本体と、前記チップの周縁を覆うように配置され、前記ノズル本体の前端に配置された略円筒形状のノズルヘッドと、により構成され、前記ノズルヘッドの内側には、前方に向けて末広がりとなる回転テーパー面が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4のアーク溶接用トーチにおいて、前記ノズルヘッドの回転テーパー面は、前後方向に延在する軸に対して0.5〜5度の角度に形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5のアーク溶接用トーチにおいて、前記ガス流路空間は、前記整流部材としての第一整流部材によって後端側に位置する第一空間と前端側に位置する第二空間とに区画され、前記トーチ本体の流出孔は前記第一空間内に位置し、前記第一整流部材は、前記第一空間から前記第二空間へとシールドガスが流れる複数のガス流孔を形成するように前記ノズル本体に固定され、前記チップは、後端近傍の外面に他の位置より外径が小さく形成されてなる凹部を有し、前記ノズルヘッドの後端近傍であって、前記チップの凹部の外方近傍位置に、後端から前方に向けて内側に向かうテーパー面を備えた前記絞り形成部材としての第二整流部材が配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6のアーク溶接用トーチにおいて、前記第二整流部材は、セラミックで形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項7のアーク溶接用トーチにおいて、前記ノズルヘッドと前記第二整流部材は、セラミック製で一体成型されていることを特徴とする。
【0016】
請求項8のアーク溶接用トーチにおいて、前記ノズル本体、前記ノズルヘッド、および、前記第二整流部材は、セラミック製で一体成型されていることを特徴とする。
【0017】
請求項9のアーク溶接用トーチにおいて、前記ガス管は、前記内空間としての第一軸孔を内側に有し、前端近傍に前記シールドガスが流出する前記内空間と連通した複数の流出孔が形成された前記整流部材としてのコレットと、前記内空間としての第二軸孔を内側に有し、前記コレットの前方に位置し該コレットと同軸に配置される前記絞り形成部材としてのチップと、により構成され、前記円筒部材は、前記トーチ本体の周縁を覆うように配置されるノズル本体と、前記コレットおよび前記チップの周縁を覆うように配置され、前記ノズル本体の前端に接続されたノズルヘッドと、により構成され、前記コレットは、後方に位置する円柱部と、該円柱部の前端に位置するリング状のガス流出部と、ガス流出部の前端に位置する整流部と、を備え、前記ガス流出部は、前記複数の流出孔を有し、前記整流部は、前記ガス流出部の前端から外方に膨出する膨出部と、該膨出部の前端から内側に向けて収縮する収縮部と、を有することを特徴とする。
【0018】
請求項10のアーク溶接用トーチにおいて、前記チップは、後端から前端にかけて末広がりの円錐台形状であって、後端に位置する第一円錐台部と、該第一円錐台部の前端に位置する直方体部と、前記第一円錐台部の後面の直径および前記直方体部の一辺の長さよりも小さな直径とされ、直方体部の前端に位置する円柱部と、後端から前端にかけて先窄みの円錐台形状であって、前面の直径が前記円柱部の直径よりも大きく形成され、円柱部の前端に位置する第二円錐台部と、が同軸上に配置されてなり、前記直方体部の角部で前記ノズルヘッドの内面に固着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スパッタが付着するノズルヘッドの内側を回転テーパー面形状とすることにより、容易にスパッタを除去できるアーク溶接用トーチを提供できる。
【0020】
また、本発明によれば、ノズル本体およびノズルヘッドとガス管との間の空間に、整流部材と、空間を狭く形成する絞り形成部材と、を配置することにより、ノズル本体およびノズルヘッドとガス管との間に流出するシールドガスを整流して溶接部の周縁に確実に吹き付けることができ、溶接品質を維持する必要最適量のシールドガスで溶接部を確実にシールドできるアーク溶接用トーチを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態におけるMAGおよびMIG用のアーク溶接用トーチの縦断面図である。
【図2】上記アーク溶接用トーチの分解側面図である。
【図3】(a)は、第一整流部材がリング状の場合の図1におけるA−A’断面図であり、(b)は、第一整流部材が方形状の場合の図1におけるA−A’断面図である。
【図4】(a)は、第二整流部材の後方からの斜視図であり、(b)は、第二整流部材の前方からの斜視図である。
【図5】本発明の実施形態におけるTIG用のアーク溶接用トーチの縦断面図である。
【図6】上記アーク溶接用トーチの分解側面図である。
【図7】(a)は、チップの後方からの斜視図であり、(b)は、チップの前方からの斜視図である。
【図8】(a)は、図5におけるB−B’断面図であり、(b)は、図5におけるC−C’断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のアーク溶接用トーチについて図に基づいて詳細に述べる。本発明は、被溶接物の溶接部を少量のシールドガスで確実にシールドするためのアーク溶接用トーチの構造に関する提案である。また、本発明は、スパッタの付着を抑制し、かつ付着したスパッタを簡単に除去できるアーク溶接用トーチの構造に関する提案である。
【0023】
本実施形態におけるアーク溶接用トーチは、シールドガスおよび溶融電極が通る内空間を有し、シールドガスが流出する内空間と連通した複数の流出孔を有したガス管を備える。また、アーク溶接用トーチは、ガス管の周縁を覆うように配置される円筒部材を備える。そして、アーク溶接用トーチにおけるガス管と円筒部材との間のガス流路空間には、シールドガスをガス管の外面周縁に集中させるため、絞りを(空間を狭く)形成する絞り形成部材が配置されていることを特徴とする。また、上記ガス流路空間には、シールドガスの流れを整流するための整流部材が配置されていることを特徴とする。
【0024】
以下、本実施形態におけるアーク溶接用トーチに関して、MAGおよびMIG用のアーク溶接用トーチとTIG用のアーク溶接用トーチとに分けて詳細に説明する。
【0025】
<MAGおよびMIG用のアーク溶接用トーチの構成>
図1は、本実施形態におけるMAGおよびMIG用のアーク溶接用トーチ1の縦断面図であり、図2は、アーク溶接用トーチ1の分解側面図である。なお、以下の説明においては、図1および図5における上方(ガスや電気を供給するアーク溶接装置の本体(図示しない)と連結される側)を後方、図1および図5における下方を(溶接部99、199側)を前方として述べる。
【0026】
アーク溶接用トーチ1は、図1および図2に示すように、アーク溶接用装置から繰り出されたガスホースに連結されるトーチ本体2と、トーチ本体2の前端に同軸に連結されるチップ3と、トーチ本体2およびチップ3の外方を覆うノズル本体6およびノズルヘッド8を備える。なお、トーチ本体2、チップ3が上記ガス管を構成し、ノズル本体6、ノズルヘッド8が上記円筒部材を構成する。
【0027】
トーチ本体2は、円筒形状の金属製あるいはセラミック製の部材であり、内側にシールドガスや溶融電極としての溶接ワイヤ10が通る、上記内空間としての第一軸孔21を有している。トーチ本体2の前端近傍には、シールドガスを流出させるための複数の流出孔23が第一軸孔21と連通して形成されている。トーチ本体2の内面の先端部分には、チップ3が螺着される螺子25が形成されている。
【0028】
このトーチ本体2は、後端近傍で絶縁体13を介してトーチホルダー11に固定されている。トーチホルダー11は、アーク溶接装置の本体から延在するガスホースの先端に取り付けられた金属製の部材であり、前端の外面にはノズル本体6が螺着される螺子12が形成されている。
【0029】
チップ3は、真鍮、アルミ青銅、ベリリウムなどの導電性部材で形成された円筒状の部材であり、内側に溶接ワイヤ10が通る第二軸孔31を有している。チップ3の後端部分は薄肉に形成され、この薄肉部分の外面にトーチ本体2の螺子25に螺着する螺子33が形成されている。また、チップ3の外面であって後端と中央の間には、薄肉に形成することにより凹部35が形成され、この凹部35の後端部分はテーパー状に形成されている。さらに、チップ3は、前端がドーム状に形成されている。このチップ3は、トーチ本体2の外径よりも小さな外径とされ、トーチ本体2の前端に同軸に接続されている。
【0030】
なお、チップ3は、図1及び図2において、前方に位置する前チップ41と前チップ41が螺着されるチップホルダー42とから構成されているが、前チップ41とチップホルダー42を一体成型した構成としてもよい。前チップ41とチップホルダー42を一体成型とした場合には、チップ3の製造コストを削減することができる。
【0031】
このように、上記ガス管としてのトーチ本体2およびチップ3は、同軸に連結されており、各軸孔21、31の内側を溶接ワイヤ10およびシールドガスが通る構成とされている。なお、トーチ本体2の軸孔21に対してその前方に連通するチップ3の軸孔31は小径となっている。このため、トーチ本体2の軸孔21を通るシールドガスの多くは、複数の流出孔23を通ってトーチ本体2からノズル6の内側へ(第一空間65)に吹き出すこととなる。
【0032】
ノズル本体6は、アルミ青銅や真鍮、あるいは、セラミックなどで形成された円筒形状の部材であり、トーチ本体2の周縁を覆うように配置されている。ノズル本体6の後端の内面にはトーチホルダー11の螺子12に螺着させるための螺子61が形成されている。また、ノズル本体6の前端近傍の内側には、薄肉に形成されることにより段差が形成され、この薄肉部分の先端にはノズルヘッド8が螺着される螺子63が形成されている。
【0033】
そして、ノズル本体6は、トーチ本体2と同軸にトーチホルダー11に螺着されている。また、ノズル本体6の先端の薄肉部分には、第一整流部材7が固定され、この第一整流部材7によりノズル本体6の内側は、後方に位置する第一空間65と前方に位置する第二空間66とに区画されている。なお、トーチ本体2の流出孔23は、ノズル本体6の第一空間65内に位置している。
【0034】
第一整流部材7は、図3(a)および図3(b)に示すように、中央にトーチ本体2が貫通する中心孔71を有した円形状(リング状)、あるいは、方形状の板である。円形状の第一整流部材7の場合、図3(a)に示すように、中心孔71の周縁に中心軸に対して放射状の位置に複数の開孔75が形成されている。また、第一整流部材7が方形状である場合、図3(b)に示すように、ノズル本体6に4個の角部分で固定されるため、ノズル本体6の内面と第一整流部材7の各辺との間には間隙77が形成される。すなわち、第一整流部材7は、ノズル本体6に、シールドガスが通るガス流孔(開孔75、間隙77)を備えた状態で固定されている。なお、この第一整流部材7は、セラミックで形成されるのが好適であるが、アルミ青銅や真鍮などその他の素材で形成してもよい。また、図1および図2においては、第一整流部材7としてリング状のものを図示している。
【0035】
ノズルヘッド8は、図1および図2に示したように、アルミ青銅や真鍮、セラミックなどで形成された円筒形状の部材であり、チップ3の周縁を覆うように配置されている。ノズルヘッド8の後端は薄肉に形成されて外面に段差が形成されており、この後端部の外面にはノズル本体6の螺子63に螺着する螺子81が形成されている。そして、ノズルヘッド8は、ノズル本体6の前端に同軸に螺着されている。
【0036】
ノズルヘッド8の内面は、後端近傍に位置し、中心軸と平行な直線を、中心軸を中心に回転させた後方回転面83と、後方回転面83の前端から前方に延在し、中心軸に対して前方に向かって離れるように傾いた斜線を中心軸を中心に回転させて得られる回転テーパー面85と、からなる。すなわち、ノズルヘッド8は、前方の内面が末広がりとなるように形成されている。この回転テーパー面85と中心軸とでなす角度αは、図においては4度としているが、0.5度乃至5度とするのが好適である。
【0037】
また、ノズルヘッド8の後方回転面83の内側には、上記絞り形成部材としてのセラミックス製の第二整流部材9が配置されている。この第二整流部材9は、図1、図2および図4に示すように、中心にチップ3が貫通する開孔91を有したリング形状である。そして、第二整流部材9の内面は、前方に位置し中心軸と平行な前方回転面93と、前方回転面93の後端から後方に向かって末広がりの後方テーパー面95と、から形成される。この第二整流部材9は、ノズルヘッド8の後方回転面83に接着固定されている。また、第二整流部材9は、チップ3の凹部35の周縁に後方テーパー面95が位置するように配置されている。すなわち、この第二整流部材9によって、第二空間66におけるシールドガスの流路が狭く形成されることとなる。
【0038】
なお、ノズル本体6とノズルヘッド8、および、第二整流部材9をそれぞれ別成型した場合について述べたが、全てをセラミックで一体成型してもよい。また、ノズルヘッド8と第二整流部材9をセラミックで一体成型し、ノズル本体6のみ別成型としてもよい。あるいは、ノズル本体6とノズルヘッド8は一体成型し、第二整流部材9のみ別成型としてもよい。
【0039】
次に、アーク溶接用トーチ1におけるシールドガスの流れについて述べる。図1に示したように、トーチ本体2の第一軸孔21を流れるシールドガスの多くは、流出孔23からノズル本体6の第一空間65へ吹き込む。ノズル本体6の第一空間65へ吹き込んだシールドガスは、第一整流部材7により形成されるガス流孔(開孔75または間隙77)からノズル本体6の第二空間66へ吹き込む。このとき、シールドガスは、上記ガス流孔によって密度が均一に近づくように整流される。
【0040】
第二空間66へと吹き込んだシールドガスは、第二整流部材9の後方テーパー面95に誘導されてチップ3の周縁に凝縮され、第二整流部材9とチップ3の凹部35との間からノズルヘッド8の内側に流れ込む。このとき、チップ3の周縁にシールドガスが凝縮されるため、シールドガスは、溶接部99の周縁に密度が均一で速度が増した状態で吹き込むこととなる。また、ノズルヘッド8の内側の回転テーパー面85に当接したシールドガスは、ノズルヘッド8の中心軸に対しての角度が小さくなった状態で溶接部99に吹き込む。
【0041】
なお、トーチ本体2の第一軸孔21内部のシールドガス(流出孔23から流出しなかったガス)は、チップ3の第二軸孔31を通過して溶接ワイヤ10の周縁から溶接部99へと吹き出すこととなる。
【0042】
本実施形態のアーク溶接用トーチ1は、上述したようにノズルヘッド8の内側が末広がりの回転テーパー面状に形成され、その奥にセラミック製の第二整流部材9が位置しているために、アーク溶接によって生じたスパッタがノズルヘッド8の内側や第二整流部材9に付着しにくく、また付着しても溶着することはないので、ノズルヘッド8を先端から堅い物などに軽く打ち付けるかブラシで掻き落とすだけでスパッタを除去することができる。よって、ノズルヘッド8の洗浄が容易になり、また寿命が長くなり、アーク溶接の作業効率を高めることができる。
【0043】
また、本実施形態のアーク溶接用トーチ1は、ノズルヘッド8の内側に第二整流部材9を設けることにより、溶接部99に吹き出す直前のシールドガスを中心近くに凝縮できるため、溶接部99の周縁に吹き出すシールドガスは、粗密のない均一で高い密度のガスとなる。よって、ガス量を減らした場合であってもシールド効果を高くできる。また、ノズルヘッド8の内側がテーパー面状に形成されていることにより、ノズルヘッド8から吹き出すシールドガスの拡散角度も小さくなるため、シールドに使用されず無駄に消費されるガス量を減らすことができ、シールドガスの利用効率を高めることができる。
【0044】
<TIG用のアーク溶接用トーチの構成>
次に、TIG用のアーク溶接用トーチ100の構成について述べる。図5は、アーク溶接用トーチ100の縦断面図であり、図6は、アーク溶接用トーチ100の分解側面図である。アーク溶接用トーチ100は、図5および図6に示すように、コレット101と、コレット101の周縁を覆うように同軸に配置されるノズル本体103と、ノズル本体103の前端に同軸に配置されるノズルヘッド105と、を備える。
【0045】
コレット101は、後方に位置する円柱部111と、円柱部111の前端に位置するリング状のガス流出部113と、ガス流出部113の前端に位置する整流部115と、から構成される。円柱部111、ガス流出部113、整流部115は、それぞれ同軸上で連結された形状となっており、中央にタングステン電極110、および、シールドガスが通る、上記内空間としての第一軸孔117を備えている。
【0046】
円柱部111の外面の前端近傍には、ノズル本体103に螺着させるための螺子112が形成されている。また、円柱部111の後端は、コレットホルダー119に固定されている。ガス流出部113には、シールドガスをノズル本体103内に流出させるための複数の流出孔118が、第一軸孔117と連通して設けられている。
【0047】
そして、整流部115は、後端から前後中央近傍まで外方に向かって膨出し、前後中央近傍から前方に向かって収縮した形状とされている。すなわち、整流部115は、後端に位置する膨出部141と、膨出部141の前方に位置する収縮部142とから形成されている。この膨出部141および収縮部142の外面は、曲面形状とされている。なお、コレット101は、この整流部115を備えることにより、上記整流部材として機能する。
【0048】
ノズル本体103は、外面が前方に向かって先窄みに形成された中空の円錐台形状である。また、ノズル本体103は、後方に位置する厚肉部131と、厚肉部131よりも薄肉に形成された薄肉部133と、を備えており、内面は、厚肉部131と薄肉部133との間で段差が形成されている。厚肉部131の内面の前端には、コレット101の円柱部111に螺着するための螺子135が形成され、薄肉部133の内面の前端には、ノズルヘッド105が螺着される螺子137が形成されている。そして、ノズル本体103は、コレット101の円柱部111に螺着され、薄肉部133の内側には第一空間153が形成されている。
【0049】
ノズルヘッド105は、後端外面にノズル本体103に螺着するための螺子151が形成された略円筒形状であり、ノズル本体103の前端に同軸に螺着されている。そして、ノズルヘッド105は、内側に、コレット101の整流部115が位置する第一空間153と、後述するチップ107が位置する第二空間155と、先端に位置する第三空間157と、を備えている。なお、第一空間153は、ノズル本体103の薄肉部133の内側に位置する空間と同一である。
【0050】
ノズルヘッド105の内面は、第一空間153と第二空間155との間、および、第二空間155と第三空間157との間にそれぞれ軸方向に(空間が狭くなる方向に)段差が形成されている。すなわち、ノズルヘッド105は、第一空間153、第二空間155、第三空間157と順に内径が小さく形成されている。また、ノズルヘッド105の第二空間155を形成する内面には、チップ107が当接する段差が設けられている。
【0051】
チップ107は、上記絞り形成部材として機能する。このチップ107は、図7および図8に示すように、後端に位置する第一円錐台部171、第一円錐台部171の前端に位置する直方体部172、直方体部172の前端に位置する円柱部173、円柱部173の前端に位置する第二円錐台部174からなり、それぞれが同軸で連結された構成とされている。また、チップ107の中央(軸上)には、タングステン電極110およびシールドガスが通る第二軸孔177が形成されている。
【0052】
第一円錐台部171は、後端から前端にかけて末広がりの円錐台形状であり、第二円錐台部174は、後端から前端にかけて先窄みの円錐台形状である。第一円錐台部171の前端面の直径は、直方体部172の一辺の長さと略同一である。円柱部173の直径は第一円錐台部171の後面および第二円錐台部174の前面の直径よりも小さく形成されている。
【0053】
すなわち、チップ107は、後方の外側面が末広がりの回転テーパー面とされ、直方体部172と円柱部173との間の外側面に段差が形成され、さらに、円柱部173と第二円錐台部174との間の外側面にも段差が形成され、前方の外側面が先窄みの回転テーパー面とされた形状である。
【0054】
このチップ107は、第二円錐台部174がノズルヘッド105の第三空間157に位置するようにノズルヘッド105に配置され、直方体部172の角部でノズルヘッド105の内面に固着されている。すなわち、ノズルヘッド105の内側では、図8(a)に示すように、直方体部172の側面とノズルヘッド105の内面との間に間隙179が形成されている。また、図8(b)に示すように、チップ107の先端部分(第二円錐台部174)では、ノズルヘッド105との間の空間が小さく形成されることとなる。
【0055】
次に、シールドガスの流れについて述べる。コレット101の第一軸孔117を流れるシールドガスの一部は、ガス流出部113の流出孔118からノズル本体103およびノズルヘッド105との間の第一空間153に吹き込む。第一空間153に吹き込んだシールドガスは、コレット101の整流部115の外面に沿って前方に流れる。整流部115の外面に沿って流れるシールドガスは、整流部115の膨出部141によって第一空間153が狭くなるため、速度を速めて前方に流れ、その後、収縮部142の外面に沿って流れることにより、中心軸の近傍に整流されることとなる。
【0056】
そして、シールドガスは、チップ107の第一円錐台部174のテーパー面に当接した後、第二空間155へ吹き込み、チップ107の直方体部172とノズルヘッド105との間隙を通って第三空間157へと吹き込む。第二空間155と第三空間157との間は、チップ107の第二円錐台部174とノズルヘッド105によって絞られている(狭くなっている)ため、シールドガスは凝縮された状態となる。よって、シールドガスの密度が高くなり、かつ、速度が速まる。凝縮された後のシールドガスは、第二円錐台部174のテーパー面に沿って流れ、溶接部199の周縁に密度の高いガスとして吹き出すこととなる。
【0057】
また、コレット101の第一軸孔117を流れるシールドガス(流出孔118から流出しなかったガス)は、コレットの先端からチップ107の第二軸孔177へと吹き込み、チップ107の第二軸孔177からタングステン電極110に沿って溶接部199へと吹き出すこととなる。
【0058】
このように、本実施形態のアーク溶接用トーチ100では、コレット101の流出孔118の先に整流部115を設けることにより、シールドガスを整流することができ、これにより、軸周りのシールドガスの密度を均一に近づけることができる。また、チップ107とノズルヘッド105との間が狭く形成されているため、密度の高いガスとなる。よって、少量のシールドガスで溶接時のシールド効果を高めることができ、シールドガスの使用量の削減、および、溶接ムラの防止を図ることができる。
【0059】
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる設計変更が可能である。例えば、TIG用のアーク溶接用トーチ100におけるコレット101の円柱部111、ガス流出部113、整流部115をそれぞれ別成型し、螺子などで連結させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1、100 アーク溶接用トーチ
2 トーチ本体
3、107 チップ
6、103 ノズル本体
7 第一整流部材
8、105 ノズルヘッド
9 第二整流部材
10 溶接ワイヤ
11 トーチホルダー
12、25、33、37、43、61、63、81 螺子
13 絶縁体
21、117 第一軸孔
23、118 流出孔
31、177 第二軸孔
35 凹部
41 前チップ
42 チップホルダー
65 第一空間
66 第二空間
71 中心孔
75 開孔
77 間隙
83 後方回転面
85 テーパー面
91 開孔
93 前方回転面
95 後方テーパー面
85 回転テーパー面
101 コレット
111 円柱部
112、135、137、151 螺子
113 ガス流出部
115 整流部
110 タングステン電極
119 コレットホルダー
131 厚肉部
133 薄肉部
141 膨出部
142 収縮部
153 第一空間
155 第二空間
157 第三空間
171 第一円錐台部
172 直方体部
173 円柱部
174 第二円錐台部
179 間隙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドガスおよび溶融電極が通る内空間を有し、前記シールドガスが流出する前記内空間と連通した複数の流出孔を有したガス管と、前記ガス管の周縁を覆うように配置される円筒部材と、を備え、前記ガス管の内空間、および/または、前記ガス管と前記円筒部材との間のガス流路空間を通るシールドガスで溶接部をシールドしながらアーク溶接するアーク溶接用トーチであって、
前記ガス流路空間には、シールドガスの密度を高めるための絞りを形成する絞り形成部材が配置されていることを特徴とするアーク溶接用トーチ。
【請求項2】
前記ガス流路空間には、シールドガスの流れを整流するための整流部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項3】
前記ガス管は、
前記内空間としての第一軸孔を内側に有し、前端近傍に前記シールドガスが流出する前記第一軸孔と連通した複数の前記流出孔を有した円筒形状のトーチ本体と、
前記第一軸孔と連通する前記内空間としての第二軸孔を内側に有し、前記トーチ本体の前端に接続されたチップと、
により構成され、
前記円筒部材は、
前記トーチ本体の周縁を覆うように配置される円筒形状のノズル本体と、
前記チップの周縁を覆うように配置され、前記ノズル本体の前端に配置された略円筒形状のノズルヘッドと、
により構成され、
前記ノズルヘッドの内側には、前方に向けて末広がりとなる回転テーパー面が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項4】
前記ノズルヘッドの回転テーパー面は、前後方向に延在する軸に対して0.5〜5度の角度に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項5】
前記ガス流路空間は、前記整流部材としての第一整流部材によって後端側に位置する第一空間と前端側に位置する第二空間とに区画され、
前記トーチ本体の流出孔は前記第一空間内に位置し、
前記第一整流部材は、前記第一空間から前記第二空間へとシールドガスが流れる複数のガス流孔を形成するように前記ノズル本体に固定され、
前記チップは、後端近傍の外面に他の位置より外径が小さく形成されてなる凹部を有し、
前記ノズルヘッドの後端近傍であって、前記チップの凹部の外方近傍位置に、後端から前方に向けて内側に向かうテーパー面を備えた前記絞り形成部材としての第二整流部材が配置されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項6】
前記第二整流部材は、セラミックで形成されていることを特徴とする請求項5に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項7】
前記ノズルヘッドと前記第二整流部材は、セラミック製で一体成型されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項8】
前記ノズル本体、前記ノズルヘッド、および、前記第二整流部材は、セラミック製で一体成型されていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項9】
前記ガス管は、前記内空間としての第一軸孔を内側に有し、前端近傍に前記シールドガスが流出する前記内空間と連通した複数の流出孔が形成された前記整流部材としてのコレットと、前記内空間としての第二軸孔を内側に有し、前記コレットの前方に位置し該コレットと同軸に配置される前記絞り形成部材としてのチップと、により構成され、
前記円筒部材は、前記トーチ本体の周縁を覆うように配置されるノズル本体と、前記コレットおよび前記チップの周縁を覆うように配置され、前記ノズル本体の前端に接続されたノズルヘッドと、により構成され、
前記コレットは、後方に位置する円柱部と、該円柱部の前端に位置するリング状のガス流出部と、ガス流出部の前端に位置する整流部と、を備え、
前記ガス流出部は、前記複数の流出孔を有し、
前記整流部は、前記ガス流出部の前端から外方に膨出する膨出部と、該膨出部の前端から内側に向けて収縮する収縮部と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアーク溶接用トーチ。
【請求項10】
前記チップは、
後端から前端にかけて末広がりの円錐台形状であって、後端に位置する第一円錐台部と、
該第一円錐台部の前端に位置する直方体部と、
前記第一円錐台部の後面の直径および前記直方体部の一辺の長さよりも小さな直径とされ、直方体部の前端に位置する円柱部と、
後端から前端にかけて先窄みの円錐台形状であって、前面の直径が前記円柱部の直径よりも大きく形成され、円柱部の前端に位置する第二円錐台部と、
が同軸上に配置されてなり、
前記直方体部の角部で前記ノズルヘッドの内面に固着されていることを特徴とする請求項8に記載のアーク溶接用トーチ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−52395(P2013−52395A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190251(P2011−190251)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(511213351)株式会社 シンギ・テクノ (1)
【Fターム(参考)】