説明

イオントフォレーシス投与組成物

水を含むイオントフォレーシス投与溶液やゲル組成物中で水溶性ステロイドを安定化させ、かつ水溶性ステロイドを安定化剤未配合水溶液で投与したときと同等もしくはそれ以上の吸収を得ることができるイオントフォレーシス投与組成物を提供する。 このイオントフォレーシス投与組成物は、水溶性ステロイドおよびエデト酸類を含むものである。このイオントフォレーシス投与組成物は、さらに糖類、尿素、界面活性剤および多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内へのステロイドの送達に用いるためのイオントフォレーシス投与組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオントフォレーシスは電気的なエネルギーを用いて皮膚や粘膜から薬物を送達する方法である(非特許文献1)。この方法は、皮膚に電極を有する2つのパッドを適用し、片方または両方のパッドにイオン化した薬物を水に溶解させ含有させる。2つの電極間におよそ0.1mA/cm程度の電流を流すことにより、イオン化した薬物が皮膚や粘膜から吸収される。
【非特許文献1】Acta Dermatol venereol,64巻,93ページ〜,1984年
【0003】
一方、水溶性ステロイドは慢性関節炎やリュウマチ関節炎等の治療に関節内注射として用いられており、高い治療効果を得ている。しかし、注射剤は侵襲的な痛みを伴う投与方法であり、さらに関節内へのステロイドの投与により感染症を引き起こす危険もある。そのため、ステロイドの注射剤に代わりイオントフォレーシスによりステロイドを投与しようという試みがなされている(非特許文献2)。
【非特許文献2】ジャーナルオブコントロールリリース20巻,55〜66ページ,1992年
【0004】
しかし、水溶性ステロイドは水溶液中の保存安定性が悪く分解するという問題点を有している。市販の注射剤では水溶性ステロイドを安定に保つために酸化防止剤、リン酸buffer等のpH調節剤等が含まれている。実際にこの市販のステロイド注射剤をイオントフォレーシス用のドナー溶液としてそのまま適用し、皮膚からイオントフォレーシス投与した文献が数多く報告されている(非特許文献3,4,5等)。
【非特許文献3】J Orthopaed Sports Phys Ther,4巻,109ページ〜,1982年
【非特許文献4】J Orthopaed Sports Phys Ther,8巻,77ページ〜,1986年
【非特許文献5】Arthritis Care and Research,9巻,126ページ〜,1996年
【0005】
しかし、注射剤をそのままイオントフォレーシス投与に使用した場合、イオン化した添加剤が水溶性ステロイドと競合して皮膚や粘膜から吸収されるために、薬物の吸収量が低下(水溶性ステロイドの輸率低下)し、所望の効果が得られないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明は、水を含むイオントフォレーシス投与溶液やゲル組成物中で水溶性ステロイドを安定化させ、かつ水溶性ステロイドを安定化剤未配合水溶液で投与したときと同等もしくはそれ以上の吸収を得ることができるイオントフォレーシス投与組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、水溶性ステロイドおよびエデト酸類を含むイオントフォレーシス投与組成物により、解決される。このイオントフォレーシス投与組成物は、さらに糖類、尿素、界面活性剤および多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。ここで、糖類はスクロース、ソルビトールまたはキシリトールとすることができる。界面活性剤は塩化ベンザルコニウムとすることができる。また、糖類は0.5〜20質量%含まれることが好ましい。界面活性剤は0.01〜0.5質量%含まれることが好ましい。尿素は0.2〜3質量%含まれることが好ましい。
【0008】
エデト酸類はエデト酸二ナトリウム(EDTA−2Na)またはエデト酸四ナトリウム(EDTA−4Na)とすることができる。エデト酸類は0.01〜0.5質量%含まれることが好ましい。尿素は水溶性ステロイドの配合量に対して0.1〜0.5質量%含まれることが好ましい。
【0009】
水溶性ステロイドは、リン酸デキサメタゾン、リン酸ベタメタゾン、酢酸ベタメタゾン、メタスルホ安息香酸デキサメタゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンおよびコハク酸プレドニゾロン並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つとすることができる。また、水溶性ステロイドはリン酸デキサメタゾンまたはリン酸ベタメタゾンの塩を含み、エデト酸類はステロイドの配合量に対して0.025〜0.05質量%含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水溶性ステロイドおよびエデト酸類を含むイオントフォレーシス投与組成物は、イオントフォレーシスによる皮膚や粘膜への適用時において、水溶性ステロイドの皮膚透過性が注射剤等の従来の組成物に比べて格段に高いだけでなく、保存安定が悪い水溶性ステロイドの経時安定性をきわめて有効に向上させることができる。したがって、性能の高い組成物を長期間保存することが可能であり、製品化に最も適した製剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1および比較例1,2,5,6に係るインビトロ皮膚透過試験における、通電開始から5時間までのリン酸デキサメタゾンナトリウム累積透過量(μg/cm)を示す図である。
【図2】実施例1および比較例1,2,5,6に係る各組成物の表1に示した安定性と図1に示した透過量との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者は、上記のような問題を解決するために鋭意検討を行った結果、水溶性ステロイドにエデト酸類を添加し、また、さらに尿素、多価アルコール、糖類および界面活性剤からなる群から選択された少なくとも1つを添加することで、水溶液中及びゲル組成物中での水溶性ステロイドを安定化し、さらに皮膚透過性も減少させないことを見いだして本発明に至ったものである。水溶性ステロイドとエデト酸類を含む水溶液をイオントフォレーシス投与溶液として用いた前例はなく、まったく新規なものである。また後述の実施例でも示すが、本組成により水溶性ステロイドの安定性が著しく改善され、水溶性ステロイドのイオントフォレーシスによる皮膚透過性も高く維持できる。さらに本発明は注射によるステロイドの投与を受けている患者にとって無痛で同様の効果を得ることのできるものであり、産業上の利用価値も高いものである。
【0013】
エデト酸類としては、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウムが挙がられるが、これらに限定されない。またエデト酸類の添加濃度としては約0.01〜0.5%(W/V)(g/100ml)、好ましくは約0.03〜0.1%(W/V)である。尚、この添加濃度は、水溶性ステロイドの配合量と常に連動させて決定する必要があり、水溶性ステロイドの配合量に対し、0.025〜0.05%(W/W:質量%)含まれることが好ましい。上記の配合量が、0.025質量%未満では、十分な薬物安定性が得られないのに対し、0.05質量%以上では、薬物の競合イオンとなり、薬物吸収を低下させる懸念がある。更に、尿素の添加濃度は約0.2〜3%(W/V)であるが、エデト酸類と同様に、水溶性ステロイドの配合量に対し、0.1〜0.5%(W/W:質量%)含まれることが好ましい。上記の配合量が、0.1質量%未満では、十分な薬物安定性が得られないのに対し、0.5質量%以上では、尿素の分解物が薬物の競合イオンとなり、薬物吸収を低下させる懸念がある。また、糖類としてはスクロース、ソルビトール、キシリトールが挙げられるが、これに限定させず、その添加濃度は約0.5〜20%(W/V)、好ましくは1.5〜10%(W/V)であるが、これに限定されない。界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザトニウムが挙げられるが、これに限定されない。尚、上記の組成は、溶液組成物を念頭に置いた場合であり、ゲル組成物では、質量%(W/W)で前記の安定化剤を配合するものとする。
【0014】
このような安定化剤を含むゲル組成物において、支持体を形成する基剤としては親水性基剤が好適に使用され、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、ポリアクリル酸完全中和物、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体及び中和物、メトキシエチレンマレイン酸共重合体及び中和物、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸デンプン、ポリアクリルアミドおよびポリアクリルアミド誘導体、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルアセトアミドとアクリル酸及び/アクリル酸塩との共重合体等のイオン性合成高分子や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等の非イオン性合成高分子、更にアラビアガム、トラガントガム、ローカストビンガム、グアーガム、エコーガム、カラヤガム、寒天、デンプン、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコール、デキストラン、デキストリン、アミロース、ゼラチン、コラーゲン、プルラン、ペクチン、アミロペクチン、スターチ、キチン、キトサン、アルブミン、カゼイン、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、エチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ等の天然樹脂及び半合成系樹脂が挙げられ、これらに水を添加してゲル状又は固体状にしたり、更にグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、D−ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール等の糖アルコール類を添加して柔軟可塑化して、自己保形性及び皮膚接着性を有する柔軟なフィルム又はシート状ゲルに成形したものが挙げられる。
【0015】
水溶性ステロイドとしてはリン酸デキサメタゾン、リン酸ベタメタゾン、酢酸ベタメタゾン、メタスルホ安息香酸デキサメタゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾン、コハク酸プレドニゾロン及びそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
本発明の水溶性ステロイド含有組成物中のステロイドの溶液中安定性を検討するため、各組成の溶液を大気下で調製し、5mLずつバイアルに加え、パッキンを付けたフタで栓をしてパラフィルムを巻き、これをアルミ包材にいれることで密封した。溶液組成は水溶性ステロイドとしてリン酸デキサメタゾンナトリウムを用い、2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム、0.1%(W/V)エデト酸二ナトリウムを含む水溶液を調製し、実施例1の溶液組成物を得た。
(実施例2)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)+スクロース10%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例2の組成物を得た。
(実施例3)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)+スクロース10%(W/V)+尿素0.5%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例3の組成物を得た。
【0017】
(実施例4)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)+塩化ベンザルコニウム0.01%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例4の組成物を得た。
(実施例5)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)+スクロース10%(W/V)+塩化ベンザルコニウム0.01%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例5の組成物を得た。
(実施例6)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)+塩化ベンザルコニウム0.01%(W/V)+尿素0.5%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例6の組成物を得た。
【0018】
(実施例7)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)+スクロース10%(W/V)+塩化ベンザルコニウム0.01%(W/V)+尿素0.5%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例7の組成物を得た。
(実施例8)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸ベタメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例8の組成物を得た。
(実施例9)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)+スクロース10%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸ベタメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例9の組成物を得た。
【0019】
(実施例10)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.1%(W/V)+塩化ベンザルコニウム0.01%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸ベタメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例10の組成物を得た。
(実施例11)
安定化剤としてエデト酸二ナトリウム0.04%(W/V)+塩化ベンザルコニウム0.01%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で1%(W/V)リン酸ベタメタゾンナトリウム溶液を調製し、実施例11の組成物を得た。
(実施例12)
ポリビニルアルコール(PVA117,クラレ製)10%(W/W)をソルビトール5%(W/W)に分散させた後、水を添加し、加熱溶解させた。別にリン酸デキサメタゾンナトリウムを3%(W/W)、エデト酸二ナトリウム0.1%(W/W)を水に溶解させ調整し、両調整品を混合、練合した。得られた組成物は、剥離処理したポリエステルテレフタレート製の凹型成型容器(直径24mm,深さ1.5mm)に0.8g充填した後、ポリエステルテレフタレートフィルムを貼り合わせ、−40℃で凍結後、室温解凍することにより本発明の実施例12の組成物を得た。
【0020】
(比較例1)
コントロール溶液として、実施例1におけるエデト酸類を含まない事以外は実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、比較例1の組成物を得た。
(比較例2)
安定化剤としてスクロースを選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、比較例2の組成物を得た。
(比較例3)
安定化剤としてソルビトールを選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、比較例3の組成物を得た。
【0021】
(比較例4)
安定化剤として塩化ベンザルコニウムを選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、比較例4の組成物を得た。
(比較例5)
水溶液中で最も安定性の高いpHは7付近であるため、リン酸緩衝液(M/15)でpHを7に調製し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、比較例5の組成物を得た。
(比較例6)
市販の注射剤であるデカドロンS注射液(2%)を用い、比較例6の組成物を得た。
(比較例7)
安定化剤としてスクロース10%(W/V)+塩化ベンザルコニウム0.01%(W/V)+尿素0.5%(W/V)を選択し、実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウム溶液を調製し、比較例7の組成物を得た。
(比較例8)
コントロール溶液として、実施例1におけるエデト酸類を含まない事以外は実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸ベタメタゾンナトリウム溶液を調製し、比較例8の組成物を得た。
(比較例9)
コントロール処方として、実施例12におけるエデト酸類を含まない事以外は実施例1と同様の工程で2%(W/V)リン酸デキサメタゾンナトリウムを含むゲル組成物を調製し、比較例9の組成物を得た。
(実験例)
【0022】
<実験例1>
溶液中においてエデト酸二ナトリウムを加えることによりリン酸デキサメタゾンナトリウムが安定化され、かつインビトロ皮膚透過試験でもリン酸デキサメタゾンナトリウムの透過を減少させなかった例を以下に示す。
調製した実施例1及び比較例1〜6の組成物を温度40℃の恒温槽中に60日間保存した後、高速液体クロマトグラフィーを用いてリン酸デキサメタゾンナトリウムの残存量(安定性)(%)を測定した。調製した各組成物の構成及び安定性の結果を表1に示す。
【0023】
また、本発明のリン酸デキサメタゾンナトリウム含有イオントフォレーシス投与組成物を適用した場合の皮膚透過性を調べるため、ヘアレスマウスの腹部摘出皮膚を用いて、実施例1および比較例1,2,5,6の各組成物を用いてインビトロ(in vitro)での皮膚透過試験を行った。各組成物450μLを直径1.8cmの円形に調整したポリウレタン系スポンジに含浸させ、底面に銀/塩化銀電極を配置させたポリエステルテレフタレート製の凹型成型容器(直径18mm,深さ1.5mm)に入れ、ヘアレスマウス皮膚上に適用した。続いてフラクションコレクターに接続されたフローセルに皮膚をセットし、0.1mA/cmの定電流で5時間通電を行った。フラクションコレクターに集められたサンプル中のリン酸デキサメタゾン及び透過試験中に皮内代謝等で生成されたデキサメタゾンを高速液体クロマトグラフィーにより定量し、リン酸デキサメタゾンナトリウムに換算した経時的な透過量を求めた。
【0024】
図1は、実施例1および比較例1,2,5,6に係るインビトロ皮膚透過試験における、通電開始から5時間までのリン酸デキサメタゾンナトリウム累積透過量(μg/cm)を示す図である。また図2は、実施例1および比較例1,2,5,6に係る各組成物の表1に示した安定性と図1に示した透過量との関係を示す図である。表1、図1および図2から明らかなように、本発明の実施例1によるEDTA−2Na添加処方においては、比較例及びコントロールと比較して顕著な安定性の上昇が認められ、40℃で60日保存下において、残存量約98%と高い安定性を示した。また、実施例1の組成物ではリン酸デキサメタゾンナトリウムの透過はリン酸デキサメタゾンナトリウム水溶液を適用したとき(比較例1)と同等の皮膚透過性を示した。一方、比較例1,2では実施例1と同等の皮膚透過性が認められたものの、リン酸デキサメタゾンナトリウムは分解し、40℃で60日保存下において比較例1では初期の約88%、比較例2では初期の約91%まで減少した。比較例5では緩衝溶液にすることでpHの変動が抑えられ、40℃で60日保存下において、残存量約96%と高い安定性を示したもののリン酸デキサメタゾンナトリウムの透過性は安定化剤が競合物となり5時間までの累積透過量は40μg/cmであった。また、比較例6の注射剤デカドロンS注射液(2%)では高い安定性が得られたものの、皮膚透過性は低くかった。即ち、実施例1ではリン酸デキサメタゾンナトリウムの安定性を非常に高く維持することができ、リン酸デキサメタゾンナトリウムの皮膚透過性も高かかった。これに対し比較例1ではリン酸デキサメタゾンナトリウムの皮膚透過性は高かったものの、安定性に問題があり、比較例2では一般に安定化剤と使用している糖類、界面活性剤を利用したが、顕著な安定化は認められなかった。さらに、比較例5ではリン酸デキサメタゾンナトリウムの安定性はpHを安定化させることで上昇したが、皮膚透過性が低下した。即ち、比較例では安定性と透過性の両方を満足するものはなかった。以上の結果から一般的な安定化剤では効果乏しく、本発明のみが水溶性ステロイドであるリン酸デキサメタゾンナトリウム皮膚透過性を下げることなく安定化をすることができる有用性の高いものである。
【0025】
【表1】

【0026】
<実験例2>
エデト酸二ナトリウム、尿素、糖類、多価アルコールのうちから2種以上を選択し(実施例2〜7、比較例7)、実験例1と同様の薬物安定性試験を行い、リン酸デキサメタゾンナトリウムの溶液中での安定性(40℃,60日)を比較例7と比較した。調製した各試料の組成、及び安定性の結果を表2に示す。尚、尿素の添加は、リン酸デキサメタゾンナトリウムの分解(脱リン酸)によるpHの低下を尿素の分解によるpHの上昇により相殺させてpHを一定に維持させるために添加した。表2の結果から明らかな通り、本発明に関わる実施例2〜7の製剤は比較例7の製剤に比べてリン酸デキサメタゾンナトリウムの分解がエデト酸二ナトリウムの添加により抑制され、糖類、界面活性剤、尿素の添加によりエデト酸二ナトリウムの安定化効果を相乗的に上昇させたことが判る。
【0027】
【表2】

【0028】
<実験例3>
エデト酸二ナトリウムを加えることによりリン酸デキサメタゾンナトリウムだけでなく、リン酸ベタメタゾンナトリウムについても溶液中で安定化された例を以下に示す。実施例8〜11、比較例8の各組成物を実験例1と同様に温度40℃の恒温槽中に60日間保存した後、高速液体クロマトグラフィーを用いてステロイドの残存量を測定した。調製した各試料の組成、及び安定性の結果を表3に示す。表3の結果から明らかな通り、本発明に関わる実施例8〜11の製剤は比較例8の製剤にくらべてリン酸ベタメタゾンナトリウムの分解がエデト酸二ナトリウムの添加により抑制され、糖類、界面活性剤の添加によりエデト酸二ナトリウムの安定化効果が相乗的に上昇したことが判る。また、実施例10,11に示したようにエデト酸二ナトリウムの添加量をリン酸ベタメタゾンナトリウムの濃度変化に依存させて減量させることでさらに高い安定性を維持させることに成功した。
【0029】
【表3】

【0030】
<実験例4>
水溶性ステロイドがゲル組成物中においても水溶液と同様、エデト酸類及び糖類を加えることにより安定化され、かつインビトロ皮膚透過試験でも皮膚透過性を減少させなかった例を以下に示す。実施例12及び比較例9のゲル組成物は、アルミ包装を施した状態で40℃の恒温槽内に30日間保存した後、リン酸デキサメタゾンナトリウムの抽出操作を行い、高速液体クロマトグラフィーを用いて残存量を測定した。調製した各試料の安定性の結果を表4に示す。また、本発明の水溶性ステロイド含有イオントフォレーシス投与組成物を適用した場合の皮膚透過性を検討するため、ヘアレスマウスの腹部摘出皮膚を用いて、実施例12及び比較例9において得られた各ゲル組成物用いてインビトロでの皮膚透過試験を行った。底面に銀/塩化銀電極を配置させたポリエステルテレフタレート製の凹型成型容器(直径18mm,深さ1.5mm)に0.45g充填した各ゲル製剤をヘアレスマウスの皮膚上に適用した後、フラクションコレクターに接続されたフローセルに皮膚をセットし、0.1mA/cmの定電流で5時間通電を行った。フラクションコレクターに集められたサンプル中のリン酸デキサメタゾンナトリウム及びデキサメタゾンを高速液体クロマトグラフィーにより定量し、経時的な薬物透過量を求めた。通電開始から5時間までの累積透過量を表4に示す。表4の結果から明らかな通り、本発明に関わる実施例12のゲル組成物は、エデト酸二ナトリウム0.1%(W/W)の添加により、比較例9のゲル組成物に比べて皮膚透過性を損なうことなく薬物の安定性を向上させることが判る。
【0031】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るイオントフォレーシス投与組成物によれば、水溶性ステロイドの皮膚透過性および経時安定性を向上することができるので、製品化に適した製剤を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ステロイドおよびエデト酸類を含むことを特徴とするイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項2】
さらに糖類、尿素、界面活性剤および多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項3】
糖類がスクロース、ソルビトールまたはキシリトールであることを特徴とする請求項2記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項4】
界面活性剤が塩化ベンザルコニウムであることを特徴とする請求項2記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項5】
糖類が0.5〜20質量%含まれることを特徴とする請求項2記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項6】
界面活性剤が0.01〜0.5質量%含まれることを特徴とする請求項2記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項7】
尿素が0.2〜3質量%含まれることを特徴とする請求項2記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項8】
エデト酸類がエデト酸二ナトリウム(EDTA−2Na)またはエデト酸四ナトリウム(EDTA−4Na)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項9】
エデト酸類が0.01〜0.5質量%含まれることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項10】
尿素が水溶性ステロイドの配合量に対して0.1〜0.5質量%含まれることを特徴とする請求項2記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項11】
水溶性ステロイドがリン酸デキサメタゾン、リン酸ベタメタゾン、酢酸ベタメタゾン、メタスルホ安息香酸デキサメタゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンおよびコハク酸プレドニゾロン並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載のイオントフォレーシス投与組成物。
【請求項12】
水溶性ステロイドがリン酸デキサメタゾンまたはリン酸ベタメタゾンの塩を含み、エデト酸類がステロイドの配合量に対して0.025〜0.05質量%含まれることを特徴とする請求項1記載のイオントフォレーシス投与組成物。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/021008
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513429(P2005−513429)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012090
【国際出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】