説明

イオンビームスパッタ装置

【課題】 プレスパッタ時の飛散物質が被成膜基板に付着しないようにする。
【解決手段】 ターゲットホルダ15に固定されたターゲット21に成膜用イオンガン12からイオンビーム31を照射してスパッタリングし、そのスパッタ粒子によって基板22上に成膜を行うイオンビームスパッタ装置において、ターゲット表面の向きを成膜時の状態から反転させることを可能とすべく、ターゲットホルダ15に設けられた回動機構と、その回動機構の回動軸43に対し、成膜用イオンガン12の照射軸と対称な方位に照射軸が位置するように配置されたプレスパッタ用イオンガン41と、反転されたターゲット表面を囲繞し、その反転状態のターゲット表面にプレスパッタ用イオンガン41からイオンビーム51が照射されてスパッタリングされた粒子の飛散を阻止する遮蔽板42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は基板上に所要の膜を形成するために使用するイオンビームスパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5はこの種のイオンビームスパッタ装置の従来構成の一例を模式的に示したものであり、真空チャンバ11の壁面には成膜用イオンガン12が取り付けられ、また真空チャンバ11内を排気する真空ポンプ13及び真空チャンバ11内に所要のガスを導入するガス導入管14が取り付けられている。
真空チャンバ11内にはターゲットホルダ15と基板ホルダ16が配置されており、基板ホルダ16はこの例では回転軸17に取り付けられて、その回転軸17の軸心回りに回転可能とされている。図5中、18は回転軸17を回転駆動する駆動源を示す。
【0003】
ターゲットホルダ15には成膜物質であるターゲット21が固定され、基板ホルダ16には成膜を行う基板(被成膜基板)22が搭載されて固定される。基板22とターゲット21との間にはこの例ではシャッタ23が基板22寄りに位置して設けられており、シャッタ23は回動軸24に取り付けられて回動可能とされ、つまり開閉可能とされている。図5中、25は回動軸24を駆動する駆動源を示す。なお、図5はシャッタ23が閉じた状態であって、シャッタ23により基板22の表面が遮蔽された状態を示している。
基板22への成膜はシャッタ23を回動させて基板22の表面を開放することによって行われる。真空チャンバ11は真空ポンプ13により排気され、次いでガス導入管14より所要の不活性ガスが導入される。成膜用イオンガン12より出射されたイオンビーム31はターゲット21に照射されてターゲット21をスパッタリングし、ターゲット21から飛散したスパッタ粒子(成膜粒子)が基板22に付着して成膜が行われる。図5中、32は成膜粒子の飛散方向を示す。なお、成膜の際、基板ホルダ16を回転させて基板22を回転させることにより良好な膜厚分布を得ることができる。
【0004】
ところで、ターゲット21は真空チャンバ11に装着される前に、あるいは装着後における基板22の脱着時等の真空チャンバ11の大気開放中に、その表面が酸化され、さらには汚染される虞れがあるため、成膜前の前処理としてターゲット表面の不純物を除去するプレスパッタが一般に行われる。このプレスパッタは成膜時と同様、成膜用イオンガン12よりイオンビーム31をターゲット21に照射することによって行われる。
シャッタ23はプレスパッタの際に図5に示したように基板22の前方に位置して基板22の表面を遮蔽し、これによりプレスパッタ時の不純物を含んだスパッタ粒子(プレスパッタ粒子)が基板22に付着しないようにされている。
【0005】
このように、従来のイオンビームスパッタ装置においてはプレスパッタ粒子が成膜を行う基板に付着することを防止するために、基板とターゲットとの間にシャッタを設けるといった構成を一般に採用しており、各種シャッタ構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平5−94266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来においてはシャッタによって基板を遮蔽することにより、不純物を含んだプレスパッタ粒子(プレスパッタ時の飛散物質)が基板に付着することを防止しているが、このプレスパッタ粒子の飛散方向は成膜時のスパッタ粒子(成膜粒子)の飛散方向と同じであって、つまり基板に効率良く付着する方向に飛散しており、よってこのような飛散量の多い場所だけに基板を完全に遮蔽するのは困難であって、プレスパッタ粒子がシャッタを回り込んで基板に到達することを完全に防ぎきれないものとなっていた。
加えて、従来においては成膜領域とプレスパッタ領域が同じであるため、成膜用イオンガンにプレスパッタ粒子が付着し、プレスパッタ粒子によって成膜用イオンガンが汚れるものとなっているため、その分メンテナンスが必要であって、装置の長時間安定稼動が損なわれるものとなっていた。
【0007】
この発明の目的はこのような問題に鑑み、プレスパッタ粒子の被成膜基板への付着を完全に防止でき、また成膜用イオンガンへの付着も防止できるようにしたイオンビームスパッタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明によれば、ターゲットホルダに固定されたターゲットに成膜用イオンガンからイオンビームを照射してスパッタリングし、そのスパッタ粒子によって基板上に成膜を行うイオンビームスパッタ装置において、ターゲット表面の向きを成膜時の状態から反転させることを可能とすべく、ターゲットホルダに設けられた回動機構と、その回動機構の回動軸に対し、成膜用イオンガンの照射軸と対称な方位に照射軸が位置するように配置されたプレスパッタ用イオンガンと、上記反転されたターゲット表面を囲繞し、その反転状態のターゲット表面にプレスパッタ用イオンガンからイオンビームが照射されてスパッタリングされた粒子の飛散を阻止する遮蔽板とを具備するものとされる。
【0009】
請求項2の発明では請求項1の発明において、ターゲットホルダが2つのターゲットを互いに背向させて固定し、一方のターゲットを成膜時の状態から反転させると他方のターゲットが成膜時の状態になる両面固定型とされる。
請求項3の発明では請求項1又は2の発明において、遮蔽板に上記回動機構が回動動作する際には退避し、回動動作完了後には反転されたターゲット表面の周縁と密着する移動機構が設けられる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、上記構成を採用したことにより、プレスパッタ時の飛散物質(プレスパッタ粒子)の被成膜基板への付着を完全に防止することができ、よって高品質な成膜を行うことができる。
また、プレスパッタ粒子の付着により成膜用イオンガンが汚れるといったことが発生しないため、成膜用イオンガンのメンテナンスサイクルが伸び、その分長時間の成膜及び安定稼動が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施形態を図面を参照して実施例により説明する。
図1はこの発明によるイオンビームスパッタ装置の一実施例の構成を模式的に示したものであり、図5と対応する部分には同一符号を付してある。
この例ではターゲットホルダ15に回動機構が設けられ、また成膜用イオンガン12とは別にプレスパッタ用イオンガン41を備え、さらに遮蔽板42を備えたものとなっている。
ターゲットホルダ15の回動機構はターゲット21の表面(ターゲット面)21aの向きを基板22と対向する方向に向く成膜時の状態から反転させ、逆方向に向けることを可能とするもので、図1中、43は回動軸を示し、ターゲットホルダ15はこの回動軸43の軸心回りに回動可能とされている。なお、ターゲットホルダ15はこの例では両面固定型とされ、その上下両面に図1に示したように2つのターゲット21を互いに背向させて固定できるものとなっている。
【0012】
上記のような構造とされたターゲットホルダ15ではターゲットホルダ15を180°回動させ、一方のターゲット21を成膜時の状態から反転させると、他方のターゲット21が成膜時の状態になるものとされる。
プレスパッタ用イオンガン41はターゲットホルダ15を挟み、成膜用イオンガン12と対向する位置において真空チャンバ11の壁面に取り付けられており、プレスパッタ用イオンガン41の照射軸は回動軸43に対し、成膜用イオンガン12の照射軸と対称な方位に位置するようにされている。図1中、51はプレスパッタ用イオンガン41から出射されるイオンビームを示す。
【0013】
遮蔽板42はこの例では円筒状をなす固定部44と、その固定部44の一端側(上端側)に移動自在(出入り自在)に収容配置された移動機構45とよりなり、移動機構45は、円筒状をなすものとされる。
遮蔽板42はターゲットホルダ15の下面側に位置され、つまりターゲットホルダ15を挟んで基板22と反対側に位置され、その固定部44が真空チャンバ11の壁面に固定されて取り付けられている。
なお、図1は移動機構45がターゲットホルダ15側に移動されてターゲットホルダ15の下面側に位置するターゲット21の表面周縁に、その上端が密着されている状態を示しており、このような構造の遮蔽板42によってターゲットホルダ15の下面側に位置するターゲット21はその表面21bが囲繞されるものとなり、つまり遮蔽板42と真空チャンバ11の壁面とで仕切られた空間46にターゲットホルダ15の下面側に位置するターゲット21の表面21bが臨むものとなる。この空間46に対し、プレスパッタ用イオンガン41は図1に示したように、そのイオンビーム出射側端部が空間46内に位置される。
【0014】
上記のような構成を有するイオンビームスパッタ装置では基板22への成膜は図5に示した従来のイオンビームスパッタ装置と同様に行われ、即ち成膜用イオンガン12からイオンビーム31をターゲットホルダ15の上面に位置するターゲット21に照射してスパッタリングすることによって行われる。
一方、プレスパッタはターゲットホルダ15を回動させることにより、プレスパッタを行うターゲット21の表面の向きを成膜時の状態と逆向きにし、そのターゲット21にプレスパッタ用イオンガン41からイオンビーム51を照射することによって行われる。図1中、52はこのプレスパッタの際のターゲット21から飛散するプレスパッタ粒子の飛散方向を示し、プレスパッタ粒子の飛散方向52はこの例では成膜粒子の飛散方向32と相反する方向となる。
【0015】
このように、この例では成膜用イオンガン12とは別にプレスパッタ専用のイオンガン41を設け、ターゲット21を反転させてプレスパッタを行う構成となっており、成膜粒子の飛散方向32とプレスパッタ粒子の飛散方向52とは相反し、よって成膜粒子が効率良く付着するように配置された基板22に対し、プレスパッタ粒子はたとえ回り込み現象があっても最も基板22に到達しにくい構成となっている。
加えて、プレスパッタを行う際には遮蔽板42の移動機構45をそのターゲット21の表面周縁と密着させることにより、遮蔽板42によってプレスパッタ粒子の飛散を完全に阻止(遮断)できるものとなっており、よってこの例によれば、プレスパッタ粒子の基板22への付着を皆無とすることができる。
【0016】
また、プレスパッタ粒子の飛散が阻止され、つまりプレスパッタ粒子は遮蔽板42によって密閉された空間46に閉じ込められるため、従来のようにプレスパッタ粒子が付着して成膜用イオンガン12が汚れるといった状況は発生せず、その点で成膜用イオンガン12のメンテナンスサイクルの長期化を図ることができ、かつ成膜プロセスの安定稼動を図ることができる。なお、プレスパッタ用イオンガン41はプレスパッタ専用であるため、比較的小型で安価なものを使用することができる。
ところで、使用途中の、即ちエロージョンの進んだターゲット21がターゲットホルダ15に固定されている状態で例えば他方のターゲット21の交換等のために、成膜工程の合間に真空チャンバ11を開ける場合があり、このような場合、そのエロージョンが進んだターゲット21の表面が大気開放によって酸化されるため、次の成膜に先だって改めてその表面をプレスパッタによりクリーニングしなければならない。この場合、プレスパッタによってそれ以前の成膜によるターゲット表面のエロージョンによる表面形状と異なる表面形状を形成してしまうと、スパッタ粒子の飛散密度分布が変化し、成膜条件が変わって膜厚分布の再現性や膜厚制御の安定性が損なわれ、高精度に連続的な成膜ができなくなる。
【0017】
この例ではこのような問題を回避すべく、ターゲット21の成膜時のエロージョンによる表面形状とプレスパッタ時のエロージョンによる表面形状とが整合するようにしている。図2はこの様子を示したものである。
成膜用イオンガン12の照射軸とプレスパッタ用イオンガン41の照射軸とは図2に示したように回動軸43を通る同一直線上に位置され、成膜時のターゲット21の表面21aに対するイオンビーム31の入射角及びそのイオンビームの密度中心としての照射軸がターゲット表面に交わる位置と、プレスパッタ時のターゲット21の表面21bに対するイオンビーム51の入射角及びそのイオンビームの密度中心としての照射軸がターゲット表面に交わる位置とはそれぞれ同一とされる。また、例えば成膜用イオンガン12とターゲット表面21aとの距離L1、プレスパッタ用イオンガン41とターゲット表面21bとの距離L2及び各イオンビーム31,51の広がり角θ1,θ2を選定することにより、ターゲット表面21aのエロージョン領域47とターゲット表面21bのエロージョン領域47′とが同一になるようにする。
【0018】
これにより、図2に例示したように、ターゲット21の成膜時のエロージョンにより形成される表面形状とプレスパッタ時のエロージョンにより形成される表面形状とを同一とすることができ、プレスパッタ後に行う成膜時の膜厚分布の再現性を確保し、また膜厚制御の安定性を図れるものとなる。なお、図2の例では成膜用イオンガン12とプレスパッタ用イオンガン41の両者の照射軸が回動軸43を貫いて一直線状に位置する形態を示したが、これら2つの照射軸は必ずしも一直線上に整合されなくてもよい。即ち、プレスパッタ用イオンガン41の照射軸を、回動軸43に対して成膜用イオンガン12の照射軸と対称な方位に、つまり成膜用イオンガン12を回動軸43回りに(ターゲット21とともに)反転させて得る方位に整合して、配置すればよい。
【0019】
図3は遮蔽板42の移動機構45の動作を示したものであり、図3中、矢印61はターゲットホルダ15の回動方向を示し、矢印62はターゲット21が固定されたターゲットホルダ15を回動軸43回りに回動動作させる際の移動機構45の移動方向を示す。
図3に示したように移動機構45が矢印62方向に退避することにより、ターゲットホルダ15の回動が可能となる。なお、回動動作完了後には移動機構45は元の位置に復帰され、ターゲットホルダ15の下面に位置するターゲット21の表面の周縁と密着される。
【0020】
なお、この例ではこのような動作をする遮蔽板42により、空間46の高遮蔽性が確保され、つまり一つの真空チャンバ11内において相互に独立したプレスパッタ領域と成膜領域とが確保されており、またターゲットホルダ15は両面固定型とされて2つのターゲット21を互いに背向させて固定できるものとなっていることから、成膜工程中に同時に別のターゲット21のプレスパッタを行うことができる。
従って、例えば異なる種類の膜を繰返し積み重ねる交互積層多層膜を成膜する場合において、各層の成膜の始めにプレスパッタを行ないたい場合、そのプレスパッタを他方の膜の成膜中に行うことができるため、その分、プロセスの時間短縮を図ることができ、極めて効率良く、成膜を行えるものとなる。加えて、前述したようにターゲット21の成膜時のエロージョンによる表面形状とプレスパッタ時のエロージョンによる表面形状とが整合されているため、高再現性・高制御性・高安定性が確保され、そのような多層膜を極めて高精度に成膜することができる。
【0021】
図4は図1乃至3に示した構成に対し、ターゲットホルダ15の回動方向及びプレスパッタ用イオンガン41の配置位置を変えた例を示したものである。
この例ではターゲットホルダ15は図1における回動軸43と直交方向に配された回動軸43の軸心回りに回動するものとなっており、プレスパッタ用イオンガン41はその照射軸が回動軸43に対し、成膜用イオンガン12の照射軸と対称な方位に位置するように、図4に示したような位置に配置される。
このような構成においても図2に示した場合と同様、各イオンビーム31,51のターゲット表面21a,21bに対する入射角を同一とすることができ、かつエロージョン領域47,47′を同一とすることができ、ターゲット21の成膜時のエロージョンにより形成される表面形状とプレスパッタ時のエロージョンにより形成される表面形状とを図5に示したように同一とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明によるイオンビームスパッタ装置の一実施例を示す模式図。
【図2】成膜用イオンガンとプレスパッタ用イオンガンの配置関係及びターゲットのエロージョンを説明するための図。
【図3】遮蔽板の動作を説明するための図。
【図4】Aは成膜用イオンガンとプレスパッタ用イオンガンの配置関係の他の例を説明するための図、BはAの一部省略した側面図。
【図5】従来のイオンビームスパッタ装置の構成を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットホルダに固定されたターゲットに成膜用イオンガンからイオンビームを照射してスパッタリングし、そのスパッタ粒子によって基板上に成膜を行うイオンビームスパッタ装置において、
上記ターゲット表面の向きを上記成膜時の状態から反転させることを可能とすべく、上記ターゲットホルダに設けられた回動機構と、
その回動機構の回動軸に対し、上記成膜用イオンガンの照射軸と対称な方位に照射軸が位置するように配置されたプレスパッタ用イオンガンと、
上記反転されたターゲット表面を囲繞し、その反転状態のターゲット表面に上記プレスパッタ用イオンガンからイオンビームが照射されてスパッタリングされた粒子の飛散を阻止する遮蔽板とを具備することを特徴とするイオンビームスパッタ装置。
【請求項2】
請求項1記載のイオンビームスパッタ装置において、
上記ターゲットホルダは2つのターゲットを互いに背向させて固定し、一方のターゲットを上記成膜時の状態から反転させると他方のターゲットが成膜時の状態になる両面固定型とされていることを特徴とするイオンビームスパッタ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のイオンビームスパッタ装置において、
上記遮蔽板に、上記回動機構が回動動作する際には退避し、回動動作完了後には上記反転されたターゲット表面の周縁と密着する移動機構が設けられていることを特徴とするイオンビームスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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