説明

イオンプレーディング装置

【課題】 イオンビームによって金属製シャッタがエッチングされて生成した金属粉がイオン銃ユニットの作動不良、基板上に成膜される金属膜の品質低下を招く不具合を解決する。
【解決手段】 真空炉1と、真空炉内に配置され支持面に複数の基板Wを着脱自在に支持した基板ホルダ2と、基板ホルダの支持面と対向するように真空炉内に配置された蒸着物質蒸発ユニット10と、蒸着物質蒸発ユニットと隣接配置されたイオン銃ユニット20と、を備えたイオンプレーディング装置であって、蒸着物質蒸発ユニットは、蒸着物質を保持したルツボと、ルツボ上の蒸着物質に電子ビームを照射して加熱蒸発させる電子銃と、を備え、イオン銃ユニットは、蒸発物質に向けてイオンを出射して蒸発物質をプラズマ化するイオン銃グリッド21と、イオン銃グリッドからのイオン出射経路を開閉するシャッタ22と、を備え、前記シャッタ22を非導電材料にて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンアシスト蒸着方法を利用したイオンプレーディング装置の改良に関し、特に蒸発した蒸着物質にイオン銃から出射したイオンを衝突させてプラズマ化させた上で基板上に付着させるイオンプレーディング装置において、イオン銃からのイオンビームの出射をオフした後に放出され続けるイオン量を制御するために設置されるシャッタの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンアシスト法を採用したイオンプレーディング装置は、真空炉内上部にドーム状の基板ホルダを配置すると共に、基板ホルダの基板支持面と対向する炉内適所に蒸着物質蒸発手段とイオン銃ユニットとを併設した構成を備えている。イオンアシスト法では、蒸着物質蒸発手段から蒸発した蒸着物質に対してイオン銃から出射したイオンを衝突させてイオン化させることによってプラズマを生成する。このイオン化した蒸着物質は最適の状態で基板面に付着堆積する。
特開平9−256148号公報には、真空炉の側壁にプラズマ電子銃を設置し、この電子銃から炉内に横向きに出射されたイオンが放物線を描きながら炉内上部に配置された基板ホルダの下面にセットされた基板面に到達するように構成されたイオンプレーディング装置が開示されている。一方、炉内底面には基板ホルダ下面に対向するように蒸着物質蒸発手段が配置され、蒸着物質蒸発手段を構成するイオン銃グリッドによって蒸着物質が蒸発して基板に到達するように構成されている。蒸着物質からの蒸発物質の移動経路にはシャッタが開閉自在に配置されており、蒸発物質の基板側への移動を応答性よくオン、オフできるように構成されている。これは、イオン銃グリッドの作動をオフしたとしても直ちに応答性よく蒸着物質の蒸発が終了する訳ではないため、シャッタを用いて物理的に蒸発物質の上昇を阻止する必要があるからである。
しかし、シャッタを配置した場合、シャッタがイオン銃グリッドからのイオンビームの出射経路に位置するときにシャッタ自体がエッチングされてその構成材料(通常、ステンレス)が粉末となり真空炉内を漂い、基板に成膜される膜質に悪影響を及ぼし、膜の品質が悪化する。
次に、特開平5−98430号公報には、真空炉内側壁にイオン銃を上向きに傾斜配置することによりイオンビームを直接基板ホルダの下面に到達させるように構成すると共に、基板ホルダの直下にシャッタを配置することにより個々の基板に成膜された膜をイオンビームがエッチングしないような配慮がなされている。
しかし、実際にはシャッタをイオンビームがエッチングすることにより、削られた粉末が真空炉内を漂い、基板上の膜質に悪影響を及ぼす不具合が生じる。
【0003】
次に、図4(a)は本出願人が創案したイオンプレーディング装置の概略構成図であり、この装置は、真空炉100と、真空炉100内に配置され支持面101aに複数の基板Wを着脱自在に支持した基板ホルダ101と、基板ホルダ101の支持面101aと対向するように真空炉内に配置された蒸着物質蒸発ユニット110と、蒸着物質蒸発ユニット110と隣接配置されたイオン銃ユニット120と、を備えている。蒸着物質蒸発ユニット110は、蒸着物質Sを保持したルツボ111と、ルツボ上の蒸着物質Sに電子ビームを照射して加熱蒸発させる電子銃112と、蒸着物質Sと基板ホルダの支持面101aとの間に位置して蒸発した蒸着物質Sの移動経路を開閉するシャッタ113と、を備えている。イオン銃ユニット120は、蒸発物質の移動経路に向けてイオンを出射して蒸発物質をプラズマ化するイオン銃グリッド121と、イオン銃グリッド121からのイオン出射経路を開閉するシャッタ122と、を備えている。
図4(b)はイオン銃ユニット120の構成を示す概略斜視図であり、イオン銃グリッド121の上面には金属製のイオン引き出しグリッド121aが配置され、イオン引き出しグリッド121aからは矢印方向へイオンビームが出射される。イオン引き出しグリッド121aの上方には、イオンビームの出射経路を開閉するためのステンレス製のシャッタ122が配置されている。
シャッタ122は、ステンレス等の金属材料から成る円板状のシャッタ本体122aと、シャッタ本体122aから延びるアーム122bとを備え、アーム端部に設けた回転軸112cを中心としてシャッタ本体122aを水平方向へ回動させる。
イオンプレーディングの実施中にイオン引き出しグリッド121a上にシャッタ122を移動してイオンビームの出射経路を遮蔽すると、シャッタ122の下面がイオンビームによってスパッタされて金属粉が発生する。スパッタされた金属粉がイオン引き出しグリッド121a上に落下すると、金属粉によってグリッドがショートし易い状態となる。このようなイオン引き出しグリッド121aを用いてイオンプレーディングを実施した場合、基板Wの表面に成膜される膜の品質が低下する。
【特許文献1】特開平9−256148号公報
【特許文献2】特開平5−98430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、基板ホルダ上の基板に向けて蒸発金属を放出する蒸着物質蒸発ユニットと、蒸発金属に対してイオンビームを照射するイオン銃ユニットとを備え、イオン銃ユニットを構成するイオン引き出しグリッド上に設けた金属製シャッタによってイオンビームの出射をオン、オフ制御するようにしたイオンプレーディング装置において、前記金属製シャッタによりイオン引き出しグリッドを遮蔽している期間中にイオンビームによって金属製シャッタがエッチングされて金属粉を生成し、この金属粉がイオン銃ユニットの作動不良、基板上に成膜される金属膜の品質低下を招く不具合を解決することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、真空炉と、真空炉内に配置され支持面に複数の基板を着脱自在に支持した基板ホルダと、基板ホルダの支持面と対向するように真空炉内に配置された蒸着物質蒸発ユニットと、蒸着物質蒸発ユニットと隣接配置されたイオン銃ユニットと、を備えたイオンプレーディング装置であって、前記蒸着物質蒸発ユニットは、蒸着物質を保持したルツボと、ルツボ上の蒸着物質に電子ビームを照射して加熱蒸発させる電子銃と、を備え、前記イオン銃ユニットは、蒸発物質に向けてイオンを出射して蒸発物質をプラズマ化するイオン銃グリッドと、イオン銃グリッドからのイオン出射経路を開閉するシャッタと、を備え、 前記イオン銃ユニットを構成するシャッタは、イオン銃グリッドからのイオンビームを受けるシャッタ本体を非導電材料にて構成したことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1において、前記非導電材料として、セラミック、又は石英を使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、蒸着物質蒸発ユニットから放出される蒸発金属に対してイオン銃ユニットからイオンビームを照射してプラズマを生成し、基板上に高品質の成膜を実現すると共に、イオン銃ユニットを構成するイオン引き出しグリッド上に設けた金属製シャッタによってイオンビームの出射をオン、オフ制御するようにしたイオンプレーディング装置において、イオンビームを受けるシャッタ本体の材質を非導電材料としたので、シャッタによりイオン引き出しグリッドを遮蔽している期間中にイオンビームによってシャッタがエッチングされて粉体が生成されたとしても、この粉体がイオン銃ユニットの作動不良、基板上に成膜される金属膜の品質低下を招くことがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るイオンプレーディング装置の構成を示す縦断面図である。
このイオンプレーディング装置は、真空炉1と、真空炉1内に配置され支持面2aに複数の基板Wを着脱自在に支持した基板ホルダ2と、基板ホルダ2の支持面2aと対向するように真空炉内に配置された蒸着物質蒸発ユニット10と、蒸着物質蒸発ユニット10と隣接配置されたイオン銃ユニット20と、を備えている。
蒸着物質蒸発ユニット10は、蒸着物質Sを保持したルツボ11と、ルツボ11上の蒸着物質Sに電子ビームを照射して加熱蒸発させる電子銃12と、蒸着物質Sと基板ホルダの支持面2aとの間に位置して蒸発した蒸着物質Sの移動経路を開閉するシャッタ13と、を備えている。
イオン銃ユニット20は、蒸発物質の移動経路に向けてイオンを出射して蒸発物質をプラズマ化するイオン銃グリッド21と、イオン銃グリッド21からのイオン出射経路を開閉するシャッタ22と、を備えている。
本発明の特徴的な構成は、イオン銃ユニット20を構成するシャッタ22のイオンビーム遮蔽用部分を非導電材料にて構成した点にある。シャッタ22を構成する非導電材料としては、例えばセラミックを用いる。
図2(a)及び(b)は本発明のシャッタ22の一例の斜視図、及び断面図である。
このシャッタ22は、セラミック等の非導電材料からなる円板状のシャッタ本体25と、ステンレス等の耐腐食性を有した金属材料等からなるアーム26と、シャッタ本体25の片面に設けたセラミック製当て板27を介してシャッタ本体25とアーム26の先端部との連結一体化するボルト、ナット等の締結手段28と、を有している。シャッタ本体25は、イオン銃グリッド21の出射面と対向する面25aの外周縁に外壁25bを有している。アーム26の基部26aを中心としてシャッタ全体を回動させることにより、シャッタ本体25はイオン銃グリッド21からのビームを遮蔽したり開放することができる。
この実施形態では、遮蔽時にイオンビームを受けるシャッタ本体25をセラミック等の非導電材料にて構成することにより、イオンビームがシャッタ本体25をエッチングすることによって発生する非導電性の粉体がイオン銃グリッドのイオン引き出しグリッドに付着して、ショートを発生させる虞が皆無となる。
【0008】
次に、図3(a)(b)及び(c)は本発明のイオン銃ユニットを構成するシャッタの他の構成例を示す縦断面図、リング部の構成図、及び全体斜視図である。
このシャッタ22は、先端近傍に十字部26bを有したステンレス製のアーム26に対して、セラミック製の円板30と、セラミック製リング部31とを重ね合わせた状態で、締結手段32によって固定した構成を備えている。円板30と、リング部31は、シャッタ本体を構成している。
即ち、アームの十字部26bには締結用の穴26b’を設けると共に、円板30とリング部31の同位置にも夫々締結用の穴30a、31aを設ける。そして、各締結用の穴26b’、30a、31aに締結手段28としてのボルトを挿通してナットで締結することによりこれらの部材を一体化する。
この実施形態においても、遮蔽時にイオンビームを受けるシャッタ本体30,31をセラミック等の非導電材料にて構成することにより、イオンビームがシャッタ本体をエッチングすることによって発生する非導電性の粉体がイオン銃グリッドのイオン引き出しグリッドに付着して、ショートを発生させる虞が皆無となる。
なお、シャッタ本体を構成する非導電材料としては、セラミックの他に、石英を使用することが可能であり、イオンプレーディングによる高品質な成膜が可能となる。
【0009】
このように本発明では、蒸着物質蒸発ユニット10から放出される蒸発金属に対してイオン銃ユニット20からイオンビームを照射してプラズマを生成し、基板W上に金属膜を形成すると共に、イオン銃ユニットを構成するイオン引き出しグリッド上に設けた金属製シャッタによってイオンビームの出射をオン、オフ制御するようにしたイオンプレーディング装置において、イオンビームを受けるシャッタ本体の材質を非導電材料としたので、シャッタ22によりイオン引き出しグリッドを遮蔽している期間中にイオンビームによってシャッタがエッチングされて粉体が生成されたとしても、この粉体がイオン銃ユニットの作動不良、基板上に成膜される金属膜の品質低下を招くことがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るイオンプレーディング装置の構成を示す縦断面図である。
【図2】(a)及び(b)は本発明のシャッタの一例の斜視図、及び断面図である。
【図3】(a)(b)及び(c)は本発明のイオン銃ユニットを構成するシャッタの他の構成例を示す縦断面図、リング部の構成図、及び全体斜視図である。
【図4】(a)は本出願人の提案にかかるイオンプレーディング装置(未公知)の構成を示す概略図、(b)はシャッタを含むイオン銃ユニットの構成説明図である。
【符号の説明】
【0011】
1 真空炉、2 基板ホルダ、2a 支持面、10 蒸着物質蒸発ユニット、11 ルツボ、12 電子銃、13 シャッタ、S 蒸着物質、20 イオン銃ユニット、21 イオン銃グリッド、22 シャッタ、25 シャッタ本体、26 アーム、27 当て板、28 締結手段、30 円板、31 リング部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空炉と、真空炉内に配置され支持面に複数の基板を着脱自在に支持する基板ホルダと、基板ホルダの支持面と対向するように真空炉内に配置された蒸着物質蒸発ユニットと、蒸着物質蒸発ユニットと隣接配置されたイオン銃ユニットと、を備えたイオンプレーディング装置であって、
前記蒸着物質蒸発ユニットは、蒸着物質を保持したルツボと、該蒸着物質に電子ビームを照射して加熱蒸発させる電子銃と、を備え、
前記イオン銃ユニットは、蒸発物質に向けてイオンを出射して蒸発物質をプラズマ化するイオン銃グリッドと、イオン銃グリッドからのイオン出射経路を開閉するシャッタと、を備え、
前記イオン銃ユニットを構成するシャッタは、イオン銃グリッドからのイオンビームを受けるシャッタ本体を非導電材料にて構成したことを特徴とするイオンプレーディング装置。
【請求項2】
前記非導電材料として、セラミック、又は石英を使用したことを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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