説明

イオン・チャネルを通過する時変電流を検出するための方法及び装置

容量性検出システム(2、2’、2”)は、イオン・チャネル又はタンパク質細孔などのチャネル(50)を通過する時変イオン電流を測定するために使用される。そのような容量性システム(2、2’、2”)は、電極腐食の問題を被らず、イオン濃度の増加を制御する方法と共に使用されるとき、ナノメートルの規模の寸法を有するチャネル(50)のまわりで測定ボリューム(10、20)の使用を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2004年7月23日に出願された米国特許仮出願第60/590,351号の利益を主張するものである。
【0002】
(連邦政府による委託研究又は開発の声明)
米国政府は、本発明における支払い済みの実施権及び米国空軍科学研究局によって裁定された契約書A9550−05−C0050の条項で規定された他の合理的な条項のものを許諾することを特許権者に要求する限定的環境における権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本発明は、電気的検出デバイスの技術に関し、より詳細には、膜内に配置されたイオン・チャネルを通過する時変電流を検出するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0004】
膜は、一般に生体細胞を取り囲み、膜内にイオン・チャネルを有する。これらのイオン・チャネルは、細胞の内外への様々なイオンの通過を調整するタンパク質構造体でできている。これらイオン・チャネルの研究は、その多種多様な生体機能のために重要である。過去には、そのようなイオン・チャネルは、膜の一部又はパッチをクランプすることにより、イオン・チャネルの挙動を変える様々な検体に膜及びイオン・チャネルが暴露されたときに、その電気的性質の変化を測定して研究された。残念ながら、そのような測定のための細胞の位置決めには、大きな障害がある。イオン・チャネルの研究をより効率的にするために、脂質二重層膜を形成し、そこにイオン・チャネルとして作用するタンパク質を挿入することにより、膜のモデル化が、なされてきた。その当時、そのような人工膜は、実際の膜ではなく実験の中で使用されたのであろう。
【0005】
イオン・チャネル又はタンパク質細孔、ナノチャネル又は電解質内に維持された膜の他の開口を通過するイオン電流の測定は、当技術分野で既知のやり方で、第1及び第2の電極を電解質に対して抵抗性電気接触で使用してなされてきた。第1の電極は、電解質の第1のボリューム即ち槽ボリューム内に維持され、一方、第2の電極は、電解質の第2のボリューム即ち検出ボリューム内に維持される。第1と第2の電極間で電圧差が維持され、電界を確立する。第1の(抵抗性)電極とイオン溶液の間の境界面で必然的に酸化還元(レドックス)反応が起こり、第1の電極と溶液の間で電荷が移動する。反応の酸化部分では、第1の電極の原子が陽イオンとして溶液に入る。陽イオンは、拡散及び電界の影響下で溶液を通って移動し、陽イオンが低減されるのにつれて第2の電極で堆積される。
【0006】
抵抗性の電極と溶液の間の相互作用は、第1の電極の表面近くの溶液におけるイオンの濃度勾配をもたらす。この勾配は、第1の電極と電解質のバルクの間で半電池電位が確立される原因となる。電流が流れると、これらの電位は変化することがあり、過電圧が生じる原因となる。第1及び第2の電極に接する溶液の電荷分布の変化に起因する過電圧は、分極効果を引き起こす。第1又は第2の電極の何れかが何らかの理由で溶液に対して相対運動するとき、結果として生じる電荷分布が、重要な測定アーチファクトを引き起こすことがある。
【0007】
抵抗性の電極に関するこれら周知の問題を最小化するために、従来の測定装置では、電極のまわりの濃度が変化する領域から対象の測定ボリュームを遠ざけて配置した。吊り下げられた膜結合構造では、一般に膜のどちらの側にも1cm×1cm×1cm程度の寸法を有するボリュームが利用される。ワイヤ電極は、チャネル(又は細孔など)の作用領域から数ミリメートル程度離れて各ボリュームに沈められる。この程度の距離で、濃度勾配の影響は無視できる。しかし、測定装置の規模が縮小されるとともに、対象の作用領域から濃度勾配のある領域を空間的に分離するのがますます困難になることが、容易に明白になるはずである。実際、電極上に直接堆積されるか又は薄い(1nm)層によって電極から分離された膜を含む結合構造である、支持された膜に限定する例では、単一チャネルからの信号を記録できることが、まだ実証されていない。
【0008】
更に、装置の全般的な規模が縮小されるとともにボリュームも縮小され、電極が完全に溶解されるまで第2の電極がイオン電流を維持することができる持続時間は、それ相応に縮小される。従来のパッチ・クランプ型の実験は、システムの種々相における寿命の制限のために約1時間に制限されている。しかし、通常、電極劣化は、限定要因ではない。長期的な影響を研究しようと努める新規の用途及びマイクロメートル又はナノメートル規模の電極を有するシステムについては、いかなる場合も、抵抗性結合された電極の寿命が、限定要因であり得る。類似の問題が、溶液からのイオンの蓄積のために生じる。電極のまわりの領域が、例えば支持された膜の存在によって数ナノメートルに制限されると、溶液からの原子の1ナノメートルの堆積でさえ重大な問題を引き起こすことがある。
【0009】
容量性電極は、電極が溶液から隔離されているので、レドックス及び濃度に関する問題を被らない。従って、電極でイオン反応が生じない。しかし、容量性電極は、電解質内で電位を生ずる。容量性電極は、電解質に対するその相互キャパシタンスによって電解質に結合する。まるで抵抗性の電極が電位を結合したかのように、この電位が、電解質本体の中にイオンの流れを誘起する。容量性電極のまわりの絶縁体に誘起された変位電流によって、電解質内に振動するイオン電流が維持される。同様に、容量性電極も、イオンの流体の電位を測定するために使用され得る。
【0010】
これらの利点にもかかわらず、容量性電極は、これまで電解質内の電位又は電流を測定するためには使用されてこなかった。その理由は、既存の生体電位電極が、今日まで利用された実験的な規模の結合構造にとって十分であり、直流結合されることの利益があるためである。更に、装置サイズが縮小されるにつれて容量性電極の利益は増加するが、容量性電極それ自体は、より使いにくくなる。即ち、電極がより小さくなるとともに、電極の静電容量が、非常に小さなレベルに低減される。例えば、チップ規模のセンサ内で使用され得る10μm×10μmの電極については、電極の静電容量は1pF未満程度である。低周波数では、1pF程度の静電容量は非常に高いインピーダンスに相当する。そのような高インピーダンスの入力元に増幅器を効率的に結合する一方で、低入力ノイズ・レベルを維持し、且つ低周波数ドリフトを除去することは、従来の難問である。
【0011】
非常に小さく純粋に容量性の入力元に結合するための新規の方法が、米国特許第6,686,800号B2によって教示されている。そのような容量性検出を利用して人間の心電図(ECG)及び脳波図(EEG)などの電気生理学的信号を測定する新システムが、当技術分野で既知である。これらの例では、電位を検出するために使用される領域の静電容量は、10pFから1pF未満の範囲にあった。他の従来技術装置は、容量法を使用して細胞の電位を測定した。この方法は、トランジスタのゲート上に直接細胞が堆積されるin situトランジスタを用いた。細胞の内部電位及びへき開領域、つまり細胞とトランジスタ上部表面の間の流体の小領域、の電位が、トランジスタに結合されて、測定可能な信号を生成した。
【0012】
低静電容量のセンサを使用する従来の測定装置では、対象の変数は、心臓、脳又は他の細胞内に生成される電位であった。細胞の場合には、細胞外側表面と測定点の間のへき開領域の電位が、ほとんどの場合不明瞭であり、細胞の電位において支配的であった。へき開領域の電位は、細胞の内部電位への容量結合と、へき開領域に面する細胞の一部分内のチャネルを通って流れるイオン電流と、細胞を維持する槽へのへき開領域内の電解質を介した抵抗結合の組合せとによって決定される。電極から細胞を離隔すること(即ちへき開領域の高さ)における偏差及び膜の局所的特性における偏差のために、トランジスタへの細胞の電位の結合には少なからぬ抑制しがたい偏差が存在する。
【0013】
へき開領域をよりよく制御する方法として、従来技術は、トランジスタに細胞を取り付ける代わりに脂質小胞を取り付けることを教示する。脂質小胞が、ほとんどの細胞のまわりで見られるタンパク質とオリゴ糖類の外側被覆を欠くので、脂質小胞は、低くて復元可能な高さのへき開領域を形成する。しかし、細胞に関しては、へき開領域内の電解質から電解質のバルクを含む貯槽への連続的な流体経路がある。従って、へき開領域から貯槽内の電極までの導電経路が常に存在する。導電経路の抵抗は、トランジスタへの脂質小胞の適切な付着に左右される制御することが困難な変数であり、膜の特性ではない。
【0014】
他の容量性検出部の構成は、シリコン基板内に与えられた絶縁溝の上にグラミシジン・チャネルを含む黒色脂質膜を堆積させることを教示する。トランジスタの直線状の配列が、絶縁溝の底面に製作される。配列の全長に沿って電流を駆動するために、絶縁溝内で直線状の配列の各終端に電極が製作される。開いたチャネルの密度の変化は、溝の全長に沿った電圧プロファイルの変化によって求められた。
【0015】
上記に基づいて、膜を通過する時変電流を検出する必要性がなお存在する。より詳細には、容量性センサが膜のイオン・チャネル又はタンパク質の細孔を通り過ぎたイオン電流を測定するのを可能にするために、一般的な測定の結合構造を確立する装置及び関連した電子バイアス技術の必要性がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の概要)
本発明は、膜を通過する時変電流を検出するための検出装置又はシステムを対象とする。本発明によれば、このシステムは、電解質で充填され膜によって分離される第1及び第2のボリュームを含む。第1のボリューム即ち槽は、大きく、複数の膜に共通になり得る。第2のボリューム即ち検出ボリュームは、一般に第1のボリュームより小さい。複数の膜が同じ槽に結合される例では、各検出ボリュームは、対象となる特定の膜へと測定を局所化する働きをする。対象の(複数の)検体が、槽内へ導入される。
【0017】
検出システムは、槽内に配置された第1の電極及び検出ボリューム内に配置された第2の電極を更に含む。第1及び第2の電極間に電位差が確立すると、電界が生じる。電界は、槽から検出ボリュームまでイオン電流が流れる原因となる。検出ボリュームと電気的に結合された第3の電極は、イオン電流を検出する。好ましくは、第3の電極は、高インピーダンス回路に接続された容量性電極である。本発明の一態様によれば、イオン電流から電界を絶縁するために追加回路が与えられる限り、第2及び第3の電極は単一装置であり得る。
【0018】
この装置で、膜を通って流れるイオン電流が、測定される。より詳細には、膜内に、特定の測定用途のために必要に応じて工作又はさもなければ変更され得る1つ又は複数のイオン・チャネル及び/又はタンパク質細孔が、存在する。便宜上、イオン・チャネル、タンパク質細孔、ナノチャネル、微小開口、又はイオンが膜を通過することを可能にするあらゆる機能的に類似の構造体は、チャネルとして示される。対象の基本パラメータは、槽から検出ボリュームまでチャネルを横切って通過する時変イオン電流である。しかし、場合によっては膜の漏れ電流など他の物理的変数が、対象のパラメータであり得て、本発明は、チャネル又は膜の、容量的に測定され得るすべての特性に当てはまる。
【0019】
低減されたボリュームでの改善された感度のために、容量性検出は、低減されたイオン電流の使用を可能にする。このことは、より低いバイアス電圧又はより低い濃度の電解質を使用した実施を可能にする。従来技術では、電解質の導電率は、イオン電流を最大限にするために、慣例上許容レベルの上限に設定される。場合によっては、電解質濃度を低減させることが望ましいであろう。しかし、これは、信号対雑音比(SNR)の配慮のために、従来技術では一般に行われない。
【0020】
本発明の特別の用途は、諸チャネル内の別個の導電性状態を測定することである。これらの状態は、検体の存在下で、濃度と種類の別々の測定が可能であるように確率的に変化する。本発明の別の用途は、チャネル内部の流れ領域の検体の存在によってもたらされる感度抑圧効果によって導電性が簡単に測定されるとき、チャネル電流を測定することである。そのような測定は、クールター計数器の基礎である抵抗性パルス技術の容量性の類似である。容量性技術には、より小さな全長規模に向かうとき、確率的検出の場合と同じ一般的な利益がある。
【0021】
容量法の利益は、電解質と比べて電極及び駆動電圧回路のインピーダンスが非常に高いので、種々の一般的なシステムの数値にわたって電解質抵抗がシステム・ノイズに寄与しないことである。パッチ・クランプ測定には、ピペット・アクセス抵抗が最小の検出可能信号レベルを規定するものがある。従って、実験の状況によっては、本発明は、従来技術のパッチ・クランプ法で実現可能なものより高い感度を提供することがある。
【0022】
現在の測定の標準である従来技術のパッチ・クランプ法では、必要であれば、フィードバックによって維持(つまり電圧クランピング)される一定電圧で、チャネルにバイアスが、かけられる。本発明の場合には、抵抗性の電極が使用されるのであれば、これによって、直流電位が、直接測定され得る。バイアス電圧の場合には、そのような電極が非常に高いインピーダンスの回路に接続されて、検出ボリュームの電位を短絡させる恐れのある電流の流れを防止する。
【0023】
本発明は、好ましくは電解質への容量結合を利用するのみである。この場合、直流電位は、検出ボリュームに流入する正味イオン電流から推定される。必要な直流電圧は、測定された検出ボリューム電位から所与の電位差に槽電圧を駆動することにより、チャネル両端で維持され得る。或いは、正味電荷の所定量が検出ボリューム内に蓄積することを可能にし、且つ後続のイオン電流にこの正味値のまわりの平均偏差がゼロとなるようにバイアスをかけることにより、所望の電位差が、生成され得る。次いで、出力波形は、槽及び検出ボリュームへのバイアス電圧の容量結合に基づいて算定され得る。
【0024】
本発明によって説明された測定の構成における容量性検出の利益は、多くの構成で、生じるシステム・ノイズが、従来のパッチ・クランプ法ほど膜とシステムのその他のものの間のシール抵抗に依存しないことである。具体的には、一般に比較的低いシール抵抗値(<100MΩ)が出現し、同じシール抵抗がシステム・ノイズに及ぼす全般的な影響は、パッチ・クランプ法より小さい。
【0025】
容量性センサには、その本質に基づいて、小型装置内でイオン電流を測定するためのさらなる利益がある。イオン・チャネル又はタンパク質細孔内を流れるイオン電流の変化を測定するために、電流を電圧に変換する手段が与えられなければならない。これは、イオン電流が限定されたボリュームに流れ込むのに従って、イオン電流の蓄積につれて正味の静電荷が蓄積するという事実によって容易に且つ必然的に実現される。この蓄積電荷は、コンデンサ内へ電子が流入している間の電荷の蓄積による電位の上昇と類似した挙動で電位の増加に結びつく。非常な単純性に加えて、この効果は、問題のボリュームの寸法が低減されるのにつれてその静電容量が低下し、その結果所与の正味の電荷によって生成される電圧が増加するという非常に望ましい特性を有する。
【0026】
従来型の抵抗性の接触電極は、この電位の増加を測定しない。というのは、そのような電極は、その本質によってレドックス反応の一部としての電流を含むイオンと結合し、中和する電子流をもたらすからである。しかし、長すぎる時間電流が流れると、検出ボリュームの電圧は、イオン電流を駆動するために膜の両端間に印加される電圧とほぼ等しいものへ増加し得る。従って、駆動電圧の波形を計画して、受容できない差電圧の増加を防止しなければならない。
【0027】
なお、本発明のその他の目的と、特徴と、利点は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明を図面と共に理解すれば容易に明白になるであろう。同じ参照数字は、幾つかの図の該当部分を指す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
最初に図1を参照すると、本発明によって構築された検出装置又はシステムが、2で全体的に示される。検出システム2は、内部に第1の電解質15が与えられた第1のボリューム即ち槽10と、内部に第2の電解質25が与えられた第2のボリューム即ち検出ボリューム20とを含む。検出ボリューム20は、一般に槽10より小さい。しかし、これは、必須の要件ではないことに留意されたい。図示のように、膜40は、槽10と検出ボリューム20を分離する。膜40は、50で全体的に示される1つ又は複数チャネルを含み、これは、特定の測定用途のために、必要に応じて工作されるかさもなければ変更され得る。便宜上、イオン・チャネル、タンパク質細孔、ナノチャネル、微小開口、又はイオンが膜を通過することを可能にするあらゆる機能的に類似の構造体は、簡単にチャネル50として示す。どんな場合も、ポリカーボネート又はポリイミドなど両脂質の流体膜又は固体材料から、膜40が、形成され得る。
【0029】
対象の基本パラメータは、時変イオン電流Iであり、槽10から検出ボリューム20までチャネル50を横切って通過するが、以下で十分に議論されるであろう。しかし、膜40の漏れ電流など他の物理的変数が、対象のパラメータであり得て、本発明は、チャネル50又は膜40の、容量的に測定され得るすべての特性に当てはまる。更に、検体55の存在によってもたらされる感度抑圧効果による電流の変化が、測定され得る。
【0030】
本発明によれば、検出システム2は、槽10内に配置された第1の電極60と、検出ボリューム20内に配置された第2の電極65とを含む。電圧源70は、第1の電極60及び第2の電極65の両端間に電位差即ち駆動電位を印加して、チャネル50を通過するイオン電流(I)を確立する。第3の電極即ち容量性検出電極80は、検出ボリューム20に電気的に結合されて電解質25の電位を検出する。好ましくは、容量性検出電極80は、高インピーダンス回路90に接続される。もちろん、高インピーダンス回路90から駆動電位を絶縁することができる回路(図示せず)が与えられる限り、第2の電極65及び容量性検出電極80が、一体型ユニットであり得ることを理解されたい。
【0031】
本来電極60及び65は、抵抗性又は容量性のどちらでもよいが、好ましくは、電極60及び65は、それぞれ電解質15及び25に容量的に結合され、電圧源70で、交流電圧が、印加される。好ましくは、電極60及び65の静電容量は、1pF程度である。100Hzで駆動されるとき、電極60及び65のインピーダンスは、1GΩ程度であり、電解質25のインピーダンスよりはるかに高い。このインピーダンスの差の結果として、電解質15及び25内の電界は、無視できるものとなる。しかし、電極60及び65の各々のインピーダンスは、チャネル50のインピーダンスに匹敵する。従って、たとえ電解質15及び25に無視できる電界があっても、印加電圧のかなりの部分が、チャネル50の両端間に生じる。例えば、1pFの電極に100Hzの交流電圧が印加されると、印加電圧の16%が、約1pFの静電容量を有する膜40内の1GΩのチャネル50の両端間に生じる。もちろん、印加される電圧レベルでは生体電解質内のイオンの平均速度が低く、チャネル50へのイオンの到着は、拡散によって制御され、バルクの流れではないので、電解質15及び25にある電界は無視できるという事実とは無関係である。
【0032】
前述のように、従来の抵抗性の電極(例えば電極60及び65)によってイオン電流(I)を駆動するための電圧が、印加され得る。この場合、分離した容量性電極、例えば容量性検出電極80は、検出ボリューム20内の電解質25の電位を検出するために使用される。電極65が抵抗性のタイプであると、イオン電流(I)を駆動する電圧70を印加するために使用される回路は、高インピーダンス・レベルを有する必要がある。即ち、インピーダンス・レベルは、チャネル50の短絡を防ぐのに十分なものでなければならない。
【0033】
本発明を表す回路図が、図2に概略的に示される。検出ボリューム20と槽10を結合するコンデンサCm及び抵抗Rsは、膜40を表す。Rは、膜40と基板100(図1)の間に存在するシール(ラベルなし)と、膜40の傷と、膜40への密閉チャネル50の傷を含む、分路抵抗のすべてのもとを表す。チャネル50は、チャネル50の性質次第で約1GΩから数100GΩの間で変化する時変抵抗Rによって表される。場合によっては、その変化が、電流Iの変化のわずか約30%しか構成しないことがある。更に、チャネル50は、3つ以上の別個の導電状態を有することがある。
【0034】
容量性検出電極80は、検出ボリューム20内の電解質25へのコンデンサCによって表される。一般に、容量性検出電極80は、Cと並列に抵抗(図示せず)を含み、完全な電気的絶縁体の材料は存在しないということを表す。しかし、検出システム2は、主に容量性であり、抵抗性の伝導からの寄与は無視できる。従って、抵抗は、示されない。即ち、容量性の電極を使用することの特別な利益は、電解質15及び25と比べて電極及び駆動電圧回路のインピーダンスが非常に高いので、種々の一般的なシステムの数値にわたって、電解質抵抗が、システム・ノイズに寄与しないことである。このことは、チャネル50の別個の導電状態の測定を可能にする高感度レベルをもたらすことができる。これらの導電状態は、検体55の存在下で、濃度と種類の別々の測定が可能となるように確率的に変化する。イオン電流(I)を駆動するためのバイアス電圧は、Vで示され、インピーダンスZb及びZbによって電解質15及び25に接続される。前述のように、容量性電極又は抵抗性電極が、このインピーダンスを実現することができる。
【0035】
電解質15は、電解質への容量性電極若しくは抵抗性電極によって、又は電圧回路70の自由空間のコンデンサを介して、或いはそれら幾つかの組合せの何れかによって実現することができるインピーダンスZによって、回路の接地点120に接続される。容量性検出電極80は、読出し回路125の一部である入力容量Cinを介して回路の接地点120に接続される。読出し回路125は、接地120に対する入力抵抗(図示せず)も含む。いかなる場合も、入力抵抗は、好ましくは対象となる特定の周波数で影響が無視できるように設定される。抵抗が顕著な影響を有するときには、抵抗は、等価回路内で配慮され得る。検出ボリューム20の接地への静電容量は、Cである。接地点120への信号の分路を防ぐために、このコンデンサを最小化することが、重要である。検出ボリューム20が、電解質25で検出ボリューム20を充填することを可能にするために流体経路130を含む場合には、槽10の電位の短絡を防ぐために、流体経路130の接地へのインピーダンスも、制御されなければならない。
【0036】
イオン電流Iが、検出ボリューム20に流入すると、電解質25の電圧は、電気的な意味で単純なコンデンサに似た挙動で増加する。比較的高い導電性のために、電解質25は、一定電位であり、膜40の両端と、容量性検出電極80と電解質25の間を結合する静電容量と、読出し回路125と、検出ボリューム20の壁145上の絶縁体140に電圧が発生する。前述のようにように、イオン電流(I)を測定する容量法の利益は、検出ボリューム20が低減されるのにつれて、所与のイオン電流Iによってもたらされる電圧の振幅が増加することである。従って、検出ボリューム20は、全体的に約1mm未満の厚さを有することができ、更に1μm又は10nmもの薄ささえ有することができるであろう。例えば、所与の絶縁体層140を有する100μm×100μm×100μmの検出ボリューム20は、10pF程度の静電容量を有することがあり、一方、同様に作成された10μm×10μm×1μmのボリュームは、0.1pF程度の静電容量を有するであろう。
【0037】
全般的な動作を説明するために、1GΩの状態と300GΩの状態との間で切り換わるチャネル50用読出し回路125の出力電圧150が、時間の関数として図3に示される。参考のために、従来のパッチ・クランプ電流測定を用いた、電圧150に相当する電流160も、図3に示される。電圧源70からの印加電圧は、平均値ゼロで持続時間の方が長い矩形波であり、25ミリ秒の区間が図3に示される。駆動電圧波形は、任意の形であり得るが、好ましくは平均値ゼロで、且つあらゆる期間で流れる最大の合計電流が検出ボリューム20内に望ましくない電圧の増加を引き起こすほど大きくないものがよい。また、電圧波形の振幅は、調節され得て、検出ボリューム20内の電圧の増加を相殺する。チャネル50の導電率が流れ方向に関して非対称のとき補償するために、駆動電圧波形が、調節され得て、検出ボリューム20内に平均電圧ゼロをもたらす。或いは、継続して最終的に増加する値を有する駆動電流波形(例えば交流波形にランプを加えたもの)を所望の期間にわたって印加することによって、チャネル50の両端で、直流又は疑似直流の電位が、短期間、例えば約10〜20秒、維持され得る。好ましくは、検出ボリューム20の平均電圧は、リアル・タイムで監視され、また、駆動波形は、フィードバックによって制御される。バイアス電圧の時間変動の影響は、信号と駆動電圧の比をとることにより、又は駆動電圧と出力の相関を算定するなど何らかのより複雑な方法により、除去することができる。
【0038】
更に本発明によれば、駆動電圧150は、総合的な性能を最大限にするために変更される。即ち、駆動電圧150は、イオン電流Iを最小化するために比較的低レベルに維持される。電流の最小化は、従来の抵抗性電極が使用されるときに電極寿命を維持する利益を有し、チャネル50内のイオン数を最小化することにより測定の正確さを改善する。チャネルの導電性に疑わしい変化が生じるときは、測定の信号対雑音比(SNR)を改善するために、駆動電圧150が、より高いレベルに増加される。
【0039】
チャネル50内のイオンの移動時間が、イオンの溶液中での平均自由行程によって支配されることに留意されたい。チャネル50を通ってランダム・ウォークを行う分子は、約1ナノ秒の時間でチャネル50を通過するであろう。従って、印加電圧150は、理論上、チャネル50内のイオンの動力学に影響を与えることなく、必要であれば非常に高速に切り換えられ得る。
【0040】
図4に示され、前述の検出システム2に機能的に類似している本発明の第2の実施形態によれば、検出システム2は、容量性検出電極80’上に直接配置された膜40’及び基板100を含む。この形状は、支持された膜と呼ばれるが、図1に示された膜40は、吊り下げられた膜を構成する。膜40’は、極めて薄い粘性膜と、親水性重合体と、柔軟な重合体クッションと、エアロゲルと、キセロゲルと、テザーなどを含む図4に示されない様々な方法によって、容量性検出電極80及び基板100など硬質の表面上で支持され得る。この装置で、例えばシリコン内に孔をエッチングすることによって検出ボリューム20を製作する必要はない。
【0041】
図5に示されるような本発明の第3の実施形態によれば、検出システム2”も、チャネル50の近くに、容量性検出電極80’を、直接接触させて配置するか又は図4に示された支持膜40’と同様に配置する。第1の電極60’は、槽10内のチャネル50に十分に接近して配置され、孔175を含んで、イオン電流がチャネル50に入ることを可能にする。この形状は、チャネル50の両端の電圧変動を直接測定することができる。チャネル50のそのような近くに第1の電極60’を配置する(電極60’は膜40’の上にあり得ることに留意されたい)と、膜40を支持するのに使用される材料と類似の材料を堆積させ、その材料を覆って導電性表面を製作する必要がある。電極60’の存在は、膜40’の所望の領域内へチャネル50を閉じ込めるのに使用され得る。技術的に難しいものがあるが、本発明がもたらす実施形態によって、チャネル50の両端の電界が、直接測定されることが可能になる。
【0042】
一般に、本発明は、チャネル50内の電流Iが測定され得る信号に繋がるようなあらゆる調節に適合する。本発明の特別な用途は、イオン・チャネル、タンパク質細孔、ナノチャネルなどで別個の導電状態を測定することである。これらの状態は、検体の存在下で、濃度と種類の別々の測定が可能であるように確率的に変化することがある。本発明は、好ましくは電解質への容量結合だけを利用するであろう。この装置で、直流電位は、検出ボリュームに流入する正味イオン電流から推定される。必要な直流電圧は、測定された検出ボリューム電位から所与の電位差で槽電圧を駆動することにより、好ましくはチャネル50の両端で維持される。或いは、正味電荷の所定量が、検出ボリューム20内に蓄積し、且つ後続のイオン電流Iにこの正味値のまわりの平均偏差がゼロとなるようにバイアスをかけることを可能にすると、所望の電位差を生成する。次いで、出力波形は、槽10及び検出ボリューム20へのバイアス電圧の容量結合に基づいて算定される。しかし、開示されたように、パッチ・クランプ法は、電圧クランプを使用するが、そのようなクランプは、すべての用途に必要とされるわけではないことに留意されたい。
【0043】
本発明の別の用途は、チャネル50内部の流れ領域の検体55の存在によってもたらされる感度抑圧効果によって導電性が簡単に測定されるとき、チャネル電流Iを測定することである。そのような測定は、クールター計数器の基礎である抵抗性パルス技術の容量性類似を構成する。容量性技術には、より小さな全長規模に向かうとき、確率的検出の場合と同じ一般的な利益がある。イオン電流Iのそのような測定は、測定を行うために使用される装置及びそのような装置を1つのチップの中へ統合する装置の寸法を縮小する際の特別の利益である、複数の新規の態様及び特徴を有する。
【0044】
本発明の好ましい一実施形態に関して説明されたが、本発明の趣旨から逸脱することなく、様々な改変形態及び/又は変更形態が、作成され得ることは容易に理解されるはずである。例えば、単一の基板又はチップ(図示せず)内に複数の検出システムが実装され得ることが、容易に明白になるはずである。同様に、異なる全長規模で構築された検出システムの機能的に同一の変形、並びに任意の組合せの中に、異なるチャネルと、膜と、電極タイプと、電極材料を含む変形が、シングルチップへ統合され得る。様々な別個の槽ボリュームを与えるために条件が採用されるのであれば、電解質も、様々なものが使用され得る。一般に、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定されるように意図される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明によって構築された検出システムの概略図である。
【図2】電気回路として示された図1の検出システムの概略図である。
【図3】本発明の検出システムでもたらされた1GΩと300GΩの間のチャネル切換えに対応して、時間の変化に伴って測定された電圧及び増幅器の入力電流のグラフである。
【図4】本発明の第2の実施形態によって構築された検出システムの概略図である。
【図5】本発明の第3の実施形態によって構築された検出システムの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜内に与えられたチャネルを通過する時変電流を検出するための装置であって、
内部にチャネルが配置された膜と、
前記チャネルの両端間に電位差を確立し、前記チャネルを通してイオン電流を駆動するための電圧源と、
前記膜の電気的特性を測定するために配置された容量性検出電極と、
を備える装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
槽と、
前記槽から前記膜によって分離された検出ボリュームと、
を更に備える装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、
前記イオン電流を測定するために前記容量性検出電極に結合された回路を、
更に備える装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置であって、前記チャネルが、イオン・チャネルと、タンパク質細孔と、ナノチャネルと、工作された開口とからなる群から選択される、装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置であって、前記チャネルが、2つの規定された導電状態を有する、装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、前記膜が、両脂質又は流体膜から形成される、装置。
【請求項7】
請求項1に記載の装置であって、前記膜が、固体を構成する、装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置であって、前記膜が、ポリカーボネートから形成される、装置。
【請求項9】
請求項7に記載の装置であって、前記膜が、ポリイミドから形成される、装置。
【請求項10】
請求項2に記載の装置であって、前記電圧源が、前記槽内に配置された第1の電極と、前記検出ボリューム内に配置された第2の電極と、を更に備える、装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置であって、
前記槽内の第1の電解質と、
前記検出ボリューム内の第2の電解質と、
を更に備え、
前記第2の電極が、前記第2の電解質に容量結合され、抵抗性電流からの寄与が無視できるものである、装置。
【請求項12】
請求項2に記載の装置であって、前記電圧源が、前記槽内に配置された第1の電極と、前記検出ボリューム内に配置された前記容量性検出電極と、を備える、装置。
【請求項13】
請求項1に記載の装置であって、前記検出ボリュームが、約1mm未満の厚さを有する、装置。
【請求項14】
請求項1に記載の装置であって、前記検出ボリュームが、約1μm未満の厚さを有する、装置。
【請求項15】
請求項1に記載の装置であって、前記検出ボリュームが、約10nm未満の厚さを有する、装置。
【請求項16】
請求項1に記載の装置であって、基板であって、前記膜が、前記基板上で支持される基板を更に備える装置。
【請求項17】
請求項16に記載の装置であって、前記基板が、極めて薄い粘性膜と、親水性重合体と、柔軟な重合体クッションと、エアロゲルと、キセロゲルと、テザーとからなる群から選択される、装置。
【請求項18】
請求項16に記載の装置であって、前記基板が、貫通孔を備える固体表面を構成する、装置。
【請求項19】
請求項16に記載の装置であって、前記電圧源が、前記容量性検出電極の反対側の前記チャネルに直接隣接して配置された第1の電極を更に含む、装置。
【請求項20】
請求項1に記載の装置であって、
駆動電圧を低レベルに維持して、前記チャネルを通過する前記イオン電流を最小化するための手段を、
更に備える装置。
【請求項21】
請求項1に記載の装置であって、
所望期間にわたって最終的に増加する信号を有する駆動電流波形を印加することにより、前記チャネルの両端間に直流又は疑似直流の電圧を生成するための手段を、
更に備える装置。
【請求項22】
請求項2に記載の装置であって、
前記検出ボリューム内の電圧の増加を相殺するために、前記電圧源の電圧の振幅を調節するための手段を、
更に備える装置。
【請求項23】
槽と検出ボリュームの間に配置された膜内のチャネルを通過する時変電流の検出方法であって、
前記槽内に検体を配置すること、
前記チャネルの両端間に駆動電圧を印加すること、及び
容量性検出電極を用いて前記膜の電気的特性を測定すること、
を含む方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法であって、前記チャネルが、規定された導電性状態の間を確率的な挙動で切り換わる、方法。
【請求項25】
請求項23に記載の方法であって、
前記電圧の振幅を調節して、前記検出ボリューム内の電圧の増加を相殺すること、
を更に含む方法。
【請求項26】
請求項23に記載の方法であって、
前記駆動電圧を低レベルに維持して、前記チャネルを通過するイオン電流を最小化すること、
を更に含む方法。
【請求項27】
請求項23に記載の方法であって、
所望期間にわたって最終的に増加する信号を有する駆動電流波形を印加することにより、前記チャネルの両端間に直流又は疑似直流の電圧を生成すること、
を更に含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−507703(P2008−507703A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522825(P2007−522825)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/026181
【国際公開番号】WO2006/012571
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(505388436)エレクトロニック・バイオサイエンシーズ・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】