説明

イオン交換膜の伝導性を改良するための水不溶性添加剤

イオン交換膜の性能を、例えば、電気化学的燃料電池の高温作動の観点で改良するための、水不溶性添加剤。この不溶性添加剤は、金属酸化物で架橋したマトリックスを含有し、このマトリックスは、リンカーを通してこのマトリックスに共有結合した、ホスホン酸基を有する。1つの実施形態において、この金属は、ケイ素であり、そして架橋したマトリックスは、シロキサン架橋したマトリックスであり、このマトリックスは、複数のジシロキシ結合によって架橋したケイ素原子を含み、そしてアルカンジイルリンカーを介してこれらのケイ素原子に共有結合したホスホン酸基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、一般に、イオン交換膜の性能を、特に、電気化学的燃料電池の高温作動の観点で改良するための水不溶性添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
電気化学的燃料電池は、反応物(すなわち、燃料および酸化剤のストリーム)を変換して、電力および反応生成物を生成する。電気化学的燃料電池は、一般に、2つの電極(カソードおよびアノード)の間に配置された電解質を利用する。電気触媒は、これらの電極において、所望の電気化学反応を誘導する。この電気触媒に加えて、これらの電極はまた、導電性表面を備え得、この表面上に、電気触媒が堆積される。この電気触媒は、金属ブラック(例えば、実質的に純粋な、担持されていない、微細に分割された金属もしくは金属粉末)、合金、または担持された金属触媒(例えば、炭素粒子担持白金)であり得る。
【0003】
電気化学的燃料電池の1つの型は、プロトン交換膜(PEM)燃料電池である。このような燃料電池は、2つの電極の間に配置された電解質としてイオン交換膜を備える、膜電極アセンブリ(MEA)を使用する。かなりの注目を集めているイオン交換膜は、フルオロポリマーから調製され、そしてペンダントスルホン酸官能基の官能基を含む、イオン交換膜である。この点に関して、代表的なポリマーは、DuPont Inc.から、Nafion(登録商標)の商品名で入手され得る。
【0004】
広範な反応物が、電気化学的燃料電池において使用され得る。燃料ストリームは、実質的に純粋な水素ガス、気体の水素を含有する改質脂ストリーム、または直接メタノール燃料電池におけるメタノールであり得る。上記酸化剤は、実質的に純粋な酸素、または空気のような、希釈酸素のストリームであり得る。
【0005】
PEM燃料電池のアノード電気触媒において起こる、電気化学的酸化は、カチオン性種(代表的に、プロトン)の発生を生じる。次いで、これらのプロトンは、この電解質を横切って、カソード電気触媒に至り、ここで、酸化物との反応により、水が発生し、これによって、電気化学を完了する。代表的に、イオン交換膜を横切るプロトンの輸送は、水分子によって補助される。従って、このイオン交換膜の加湿は、伝導性、および従って、燃料電池の性能を改良することが見出されている。Nafion(登録商標)の場合、高い伝導性が、スルホネートクラスターの間のプロトンの移動に起因して、水の存在下で観察される。水の非存在下では、このようなプロトンの自由な動きは、制限され、そしてこの電解質の伝導性は、有意に低下する。
【0006】
従来、PEM燃料電子の作動は、イオン交換膜の脱水を制限するために、100℃未満の作動温度に制限されている。100℃より高温においては、水の蒸気圧が急激に上昇し、そのイオン交換膜の脱水および作動の困難性を生じる。例えば、電気化学的燃料電池を100℃より高い温度で作動させるための1つの技術は、その電解質の水和を維持するために、加圧された加湿系を使用することである。他の技術は、低い湿度の条件下(この条件は、100℃より高温と100℃より低温との両方の作動温度において、利点を提供する)で燃料電池の性能を改良する試みを包含した。
【0007】
低い湿度の条件下で燃料電池の性能を改良するための1つの技術は、イオン交換膜を、例えば、ホスホン酸で酸ドーピングすることを包含する。このような酸分子は、プロトン伝導媒体として働き、そして非共有的な酸−塩基イオン相互作用によって、この膜内に保持される。例えば、ポリベンゾイミダゾール(PBI)樹脂のホスホン酸ドーピングは、高温燃料電池のための電解質としての、いくらかの見込みを示している。ホスホン酸分子は、塩基性のイミダゾールの窒素原子と、水素結合を介して会合する(非特許文献1、特許文献1を参照のこと)。しかし、このような組成物に対して、燃料電池の作動温度は、100℃より高く維持されなければならない。この燃料電池がこの温度より低温になると、この燃料電池内の凝縮した水が、この酸分子を洗い流し、これによって、低下した性能を生じる(例えば、特許文献2を参照のこと)。
【0008】
以前の酸ドーピング技術に付随する制限は、酸分子を酸ドープされた膜内により良好に保持しようと努力して、この分野におけるさらなる研究をもたらしている。例えば、1つの技術は、ホスホン酸分子を、多孔性のPBI膜(この膜は、凝固によって調製される)にドーピングし、引き続いて、乾燥させ、次いで、この膜を折り畳んで、この酸分子を物理的に捕捉することを包含する(特許文献3および特許文献4を参照のこと)。別の技術は、微細に分割したPBIポリマーを酸に浸漬することを包含し、この浸漬は、このポリマーの溶解およびペーストもしくはゲルの形成を生じ、このペーストもしくはゲルは、次いで、ポリマーの布に塗布され得るか、または燃料電池における電解質として直接使用され得る(特許文献5)。これらの技術は、ドープされた酸の保持の改良を報告するが、このポリマーのモノマー繰り返し単位あたりに結合した酸分子の量は変化せず、そして結合していない酸の浸出が、この燃料電池の性能の低下を必然的に生じる。
【0009】
酸をドープした膜の浸出を減少させるために、有機スルホン酸または有機ホスホン酸でドープする試み(特許文献6を参照のこと)、あるいは有機スルホン酸または有機ホスホン酸を、N−アルキル結合またはN−アリール結合を介して共有結合させることによってドープする試み(特許文献7を参照のこと)がなされている。同様に、特許文献8は、共有結合したスルホン化PBI膜の形成に関する。この形成は、PBI膜をスルホン化剤と接触させ、次いで、この膜を、この接触させる工程において形成したイオン結合を共有結合に変換するために十分な時間にわたって加熱することによる。
【特許文献1】米国特許第5,525,436号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0068207号明細書
【特許文献3】米国特許第5,599,639号明細書
【特許文献4】米国特許第6,187,231号明細書
【特許文献5】米国特許第5,945,233号明細書
【特許文献6】米国特許第6,124,060号明細書
【特許文献7】米国特許第4,933,397号明細書
【特許文献8】米国特許第4,634,530号明細書
【非特許文献1】Wainrightら、J.Electrochem.Soc.1995年、第142巻、第7号、p.L121−123
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、当該分野において、高温燃料電池において使用するためのイオン交換膜に対する必要性が残っている。さらに、作動開始の間、作動停止の間、または低負荷条件の間に、このような高温燃料電池は、より低温(例えば、100℃未満)で、ある時間の間作動し得る。従って、広範な作動温度範囲にわたって、認容可能な程度まで働くイオン交換膜が必要とされる。本発明は、これらの必要性を満たし、そしてさらなる利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の簡単な要旨)
手短に記載すると、本発明は、イオン交換膜の性能を、特に、電気化学的燃料電池の高温での作動の観点で改良するための、水不溶性添加剤を提供する。
【0012】
1つの実施形態において、この水不溶性添加剤は、金属酸化物で架橋したマトリックスを含有し、このマトリックスは、リンカーを介してこのマトリックスに共有結合したホスホン酸基を有する。より具体的には、この金属は、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、アルミニウム、スズ、またはこれらの組み合わせであり得る。より特定の実施形態において、この金属は、ケイ素であり、そしてこの架橋したマトリックスは、シロキサン架橋したマトリックスであり、このマトリックスは、複数のジシロキシ結合(Si−O−Si)によって架橋したケイ素原子を含み、そしてリンカー(L)を介してこれらのケイ素原子に共有結合したリン酸基(−PO(OH))を有する。例えば、このリンカーは、−(CH−のようなアルカンジイル基であり得る。
【0013】
別の実施形態において、膜の内側に水不溶性添加剤がロード(load)された、イオン交換膜が開示される。例えば、この水不溶性添加剤は、このイオン交換膜全体にわたって均一に分散し得る。
【0014】
他の実施形態において、膜電極アセンブリ(MEA)、燃料電池、燃料電池スタックおよび/またはこれらを組み込む製品もまた、開示される。
【0015】
なおさらなる実施形態において、改良された伝導性を有するイオン交換膜を作製するための方法が開示される。このような方法は、イオン交換膜に、本発明の水不溶性の添加剤をロードする工程を包含する。このようなロードする工程は、このイオン交換膜をこの添加剤と一緒にキャスティングすること、および/または水不溶性添加剤の、このイオン交換膜内でのインサイチュ合成によって、達成され得る。
【0016】
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明を参照すると、明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
上述のように、本発明は、イオン交換膜の性能を改良するための水不溶性添加剤を提供する。このような膜は、広範な用途(例えば、イオン交換フィルタ、燃料電池用途、水電解などが挙げられる)にわたって、有用性を有するが、説明の目的で、このような膜は、本明細書中以下で、燃料電池の用途の文脈で議論される。
【0018】
この水不溶性添加剤は、金属酸化物で架橋したマトリックスを含有し、このマトリックスは、リンカーを介してこのマトリックスに共有結合した、ホスホン酸基を有する。適切な金属は、例えば、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、アルミニウムおよびスズ、ならびにこれらの組み合わせである。1つの実施形態において、この添加剤は、シロキサン架橋したマトリックスであり得、このマトリックスは、複数のジシロキシ結合(Si−O−Si)によって架橋したケイ素原子を含み、そしてリンカー(「L」)を介してこのマトリックスのケイ素原子に共有結合した複数のホスホン酸基(−PO(OH))を有する。以下の議論および実施例は、このようなシロキサン(「SiO/−LPO(OH)」ともまた記載される)を、本添加剤の代表的な実施形態と称するが、本発明は、このように限定されることを意図されない。
【0019】
この水不溶性マトリックスは、例えば、以下の反応スキーム(1)および(2)に記載される手順によって、調製され得る:
【0020】
【化1】

反応スキーム(1)において、シラン(a)が、最初に、ホスファナト−L−シラン(b)、水および触媒量の濃酸と反応し、これは、加熱すると、ゲルを形成する。このゲルは、引き続いて、さらに加熱すると、固化し、架橋した中間体(c)を生じる。反応スキーム(2)において、架橋した中間体(c)のリン酸エステル(−PO(R)の酸加水分解により、水不溶性のマトリックス(d)が生じる。このマトリックスは、リンカーLを介してこのマトリックスのケイ素原子に共有結合したホスホン酸基(−PO(OH))を有する。
【0021】
本明細書中において使用される場合、Lは、二価のリンカーであり、ここで、このリンカーは、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、または置換アリールアルキルである。
【0022】
さらに、R、RおよびRは、各場合において、同じかまたは異なり、そして独立して、ハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、置換アリールオキシ、アリールアルコキシまたは置換アリールアルコキシである。より具体的な実施形態において、R、RおよびRは、各場合において、同じかまたは異なり、そして個々に、アルコキシである。なおさらなる実施形態において、R、RおよびRは、各場合において、エトキシであり、この場合、シラン(a)は、テトラエトキシシランであり、そしてホスホナト−L−シラン(b)は、ジエトキシホスホナト−L−トリエトキシシランである。なおさらなる実施形態において、Lは、n−プロピル(すなわち、−(CH−)であり、そしてホスホナト−L−シラン(b)は、ジエトキシホスホナト−プロピル−トリエトキシシランである。
【0023】
以下の反応スキーム(3)〜(6)は、架橋した中間体(c)(SiO/−LPO(R)を得るために、反応スキーム(1)において起こる最初の反応を図示する。
【0024】
【化2】

反応スキーム(3)および(4)は、酸により触媒される加水分解反応であり、一方、反応スキーム(5)および(6)は、それぞれ、縮合反応および共縮合(co−condensation)反応である。このような様式で、可溶したマトリックスは、複数のジシロキシ結合(Si−O−Si)を形成する。上では別個に記載されないが、縮合はまた、このマトリックスの隣接するケイ素原子に共有結合したホスホナト基を生じ得る。
【0025】
上記反応スキーム(1)に記載されるシラン出発物質は、四官能性シランとして示されるが、三官能性シランもまた、利用され得る。例えば、シランとしては、SiR(R(ここで、Rは、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アルキルアリール、または置換アルキルアリールである)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、シランは、テトラエトキシシランであり、これは、任意の多数の供給源から市販されており、そして比較的安価である。
【0026】
本明細書中において使用される場合、「アルキル」基とは、直鎖または分枝鎖の、非環式または環式の、不飽和または飽和の、1〜10個の炭素原子を含む脂肪族炭化水素を意味する。代表的な飽和直鎖アルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルなどが挙げられ;一方で、飽和分枝アルキルとしては、イソプロピル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、イソペンチルなどが挙げられる。代表的な飽和環式アルキルとしては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、−CHシクロプロピル、−CHシクロブチル、−CHシクロペンチル、−CHシクロヘキシルなどが挙げられる。環式アルキルは、「同素環式環」とも称され、そしてデカリンおよびアダマンチルのような、二環式および多環式の同素環式環を包含する。不飽和アルキルは、隣接する炭素原子の間に少なくとも1つの二重結合または三重結合を含む(それぞれ、「アルケニル」または「アルキニル」と称される)。代表的な直鎖アルケニルおよび分枝鎖アルケニルとしては、エチレニル、プロピレニル、1−ブテニル、2−ブテニル、イソブチレニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−メチル−1−ブテニル、2−メチル−2−ブテニル、2,3−ジメチル−2−ブテニルなどが挙げられ;一方で、代表的な直鎖アルキニルおよび分枝鎖アルキニルとしては、アセチレニル、プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−メチル−1ブチニルなどが挙げられる。
【0027】
「アリール」とは、フェニルまたはナフチルのような、芳香族炭素環式部分を意味する。
【0028】
「アリールアルキル」とは、ベンジル、−CH(1−ナフチル)もしくは−CH(2−ナフチル)、−(CHフェニル、−(CHフェニル、−CH(フェニル)などのような、少なくとも1つのアルキル水素原子がアリール部分で置き換えられているアルキルを意味する。
【0029】
用語「置換(された)」とは、本明細書中において使用される場合、少なくとも1つの水素原子が置換基で置き換えられている、上記基(例えば、アルキル、アリール、またはアリールアルキル)のうちのいずれかを意味する。オキシ置換基(「=O」)の場合、2つの水素原子が置き換えられている。置換される場合、本発明の文脈における「置換基」としては、ハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキル、アルコキシ、アルキルチオ、ハロアルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、置換ヘテロアリールアルキル、複素環、置換複素環、複素環アルキル、置換複素環アルキル、−NR、−NRC(=O)R、−NRC(=O)NR、−NRC(=O)OR、−NRSO、−OR、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)NR、−OC(=O)NR、−SH、−SR、−SOR、−S(=O)、−OS(=O)、−S(=O)OR(ここで、RおよびRは、同じかまたは異なり、そして独立して、水素、アルキル、ハロアルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、置換ヘテロアリールアルキル、複素環、置換複素環、複素環アルキル、または置換複素環アルキルである)が挙げられる。
【0030】
「ハロゲン」とは、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを意味する。
【0031】
リンカー(L)は、マトリックスの炭素原子を対応するホスホン酸基に共有結合させる、二価の部分である。このホスホン酸基をこのマトリックスに共有結合させることによって、上記イオン交換膜からのホスホン酸の浸出が回避される。さらに、このマトリックス自体が水不溶性であるので、このマトリックスは、溶解することが不可能であり、従って、このイオン交換マトリックスから洗い流されたり浸出されたりすることが不可能である。
【0032】
この点に関して適切なリンカーとしては、共有結合を介してホスホン酸をケイ素原子に結合させ得る、任意の二価部分が挙げられる。代表的なリンカーとしては、アルカンジイル基が挙げられる。本明細書中で使用される場合、「アルカンジイル」基とは、2つの水素原子が、同じ炭素原子または異なる炭素原子から取り除かれている、二価のアルキルを意味する。代表的なアルカンジイル基としては、C1〜4アルカンジイル(例えば、−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、−CH(CH)CH−など)が挙げられ、そしてより具体的な実施形態においては、二価のn−プロピル基(すなわち、−CHCHCH−)である。他のリンカーとしては、部分的にフッ素化されたかまたは過フッ素化された、アルキル部分またはアルキルエーテル部分が挙げられる(が、これらに限定されない)。
【0033】
上述のように、本発明の添加剤は、例えば、燃料電池のイオン交換膜の性能を改良する際に、用途を見出す。このような用途において、この添加剤は、高温燃料電池(これらは、100℃を超える温度で、そして代表的には、100℃〜150℃の範囲で作動する)において代表的に遭遇する作動温度において、水溶性ではない。本明細書中において使用される場合、語句「水不溶性」とは、添加剤が、室温で多量の水に可溶性ではないことを意味する。より高温において、この添加剤は、多量の水にわずかに可溶性であり得るが、依然として、一旦、イオン交換膜に組み込まれると、可溶化された傾向は、低下する。理論によって束縛されないが、このような添加剤の水溶性は、イオン交換膜内のイオノマー官能基への水素結合の結果として、低下し得る。さらに、この添加剤が燃料電池の作動温度において多量の水にわずかに可溶性であり得る場合でさえも、このイオン交換膜内の細孔サイズは、添加剤が、このイオン交換膜の細孔体積内でのこの添加剤のインサイチュの成長後に浸出することを可能にしないかもしれない。
【0034】
この添加剤の当量が低下するにつれて、この添加剤は、より良好なプロトン導体になり、そして水に対してより可溶性になる。この当量は、この添加剤のグラムでの重量を、この添加剤中のホスホン酸基のモル数の2倍で除算したものである。ホスホン酸は、二価であるので、この当量を計算するためには、ホスホン酸基のモル数に2を掛けられる。この当量は、例えば、2000g/モル未満であり得る。さらなる実施形態において、この当量は、1000g/モル未満、600g/モル未満、または400g/モル未満でさえある。この当量の下限は、この添加剤が水に不溶性であるまま(または上述のように、わずかにのみ可溶性であるまま)であるような当量である。例えば、この添加剤の当量は、150g/モルより大きいか、または250g/モルより大きくあり得る。
【0035】
二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウムおよび有機的に修飾されたシリケートが、これらの物質の親水性の性質に起因して、燃料電池の高温作動における水管理を改良するために、Nafion(登録商標)に組み込まれてきた(例えば、K.T.Adjemianら、J.Electrochemical Soc.149(3)A256−A261,2002;Q.Dengら、J.Applied Polymer Science 68,747−763,1998;およびW.Apichatachutapanら、J.Applied Polymer Science 62,417−426,1996を参照のこと。これらの各々は、その全体が、本明細書中に参考として援用される)。高温での燃料電池の延長した作動の間、膜は、これらの親水性物質の存在下でさえも、なお脱水され得る。対照的に、金属酸化物マトリックスに共有結合したホスホン酸基を含有する本添加剤は、この燃料電池の高温での延長した作動後でさえも、この膜を通してのプロトン伝導を可能にする。
【0036】
この水不溶性添加剤は、多数の適切な技術によって、このイオン交換膜に適用され得るか、または組み込まれ得る(例えば、上記のような、Adjemianら、Q.Dengら、およびApichatachutapanらを参照のこと)。この水不溶性マトリックスは、イオン交換膜への組み込みの前に作製され得るか、またはインサイチュで形成され得る。前者の場合において、この添加剤は、可溶化されたイオノマーと再注型され得るか、または共押出しされ得る。後者の場合において、上記反応スキーム(1)における架橋した中間体(c)は、このイオン交換膜に組み込まれ得、次いで、加水分解されて、このマトリックスのケイ素原子に共有結合したホスホン酸基を有する、不溶性マトリックスを生じる。スルホン化されたイオン交換膜の場合、この同じ酸加水分解工程がまた、スルホン酸官能基を対応する塩形態(例えば、スルホン酸ナトリウム)から生成するために使用され得る。
【0037】
本発明の実施において、イオン交換膜は、その性能を改良するために、水不溶性添加剤をロードされる。本明細書中において使用される場合、膜の「ロード」は、膜の内部または膜の表面上へのいずれか(あるいは両方)での、所望のレベルの改良された性能を達成するために十分な量での添加剤の組み込みを包含する。例えば、高温燃料電池の文脈において、このイオン交換膜は、100℃を超える温度において、代表的には100℃〜150℃の範囲において、プロトン伝導性を提供するために十分なレベルでロードされる。従来の燃料電池において、代表的に、100℃を超える温度においては、プロトン伝導性は、ほとんどまたは全く観察されない。
【0038】
上述のように、本発明の重要な局面は、水不溶性マトリックスが、低い湿度条件下(例えば、100℃を超える温度で作動する燃料電池において遭遇するような条件下)で、伝導性を改良することである。さらに、この水不溶性マトリックスは、高い湿度の条件下(例えば、この燃料電池が100℃未満の温度で作動する場合)の間に、洗い流されたり浸出したりしない。さらに、このマトリックスは、シリケートとの水素結合相互作用を介して、この膜内に水を保持することを補助し、これによって、伝導性を改良することにより、より低温での性能を改良する。従って、本発明の、水不溶性マトリックスでロードされたイオン交換膜は、既存の燃料電池膜より広い温度範囲にわたって(例えば、50℃〜150℃の範囲の温度にわたって)作動することが可能である。
【0039】
なお他の実施形態において、水不溶性マトリックスでロードされたイオン交換膜、ならびにこのイオン交換膜を備える膜電極アセンブリ(MEA)、燃料電池および/または燃料電池スタックもまた、開示される。さらに、このイオン交換膜を備える静止用途および移動用途を含めて、燃料電池システムおよび最終使用適用もまた、本発明の範囲内である。
【0040】
以下の実施例は、例示として提供され、限定によってではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
(水不溶性マトリックスの調製)
バイアル中に、テトラエトキシシラン(0.61g、2.9mmol)、ジエチルホスホナトプロピルトリエトキシシラン(1.0g、2.9mmol)および磁気攪拌子を入れた。水(0.12g、6.7mmol)を、攪拌しながら添加し、引き続いて、濃塩酸(35重量%、0.3g、2.9mmol)を添加すると、発熱を起こし、50℃〜56℃に達した。この溶液を、80℃〜90℃に加熱しながら攪拌して、エタノールを蒸発させた。次いで、最終の固体を濾過した(0.7g、エタノールの蒸発により生じた重量損失に基づいて、97%が加水分解された)。この生成物を、25mLの1:4の氷酢酸:濃HCl中で18時間還流することによって、さらに加水分解した。一旦冷却し、その懸濁液を、脱イオンHO中に注ぎ、そしてその生成物を濾別した。2MのNaCl中に18時間浸漬した後に、その生成物を、NaOH溶液で滴定した。EW=410g/モル。
【0042】
実施例1から得られた固体添加剤を、当該分野の当業者に公知の技術によって、(i)フィルムをキャスティングする前のイオン交換樹脂の溶液、または(ii)イオン交換膜への変換前の基材のホットメルトのいずれかに分散させ得る。後者の実施形態において、この固体添加剤は、部分的にフッ素化されたポリマー(例えば、エチレンクロロ−トリフルオロエチレン(ECTFE))のホットメルトに分散され得、次いで、放射線照射グラフト化およびスルホン化がなされ得る。
【0043】
(実施例2)
(イオン交換膜内での水不溶性マトリックスのインサイチュ調製)
バイアル中に、N,N−ジメチルアセトアミド中11重量%のFlemion(登録商標)の溶液(94.3g)、ジエチルホスホナトプロピルトリエトキシシラン(10.2g、29.6mmol)およびオルトケイ酸テトラエチル(10.0g、47.5mmol)、ならびに磁気攪拌子を入れた。水(0.12g、6.7mmol)を、攪拌しながら添加し、次いで、濃塩酸(35重量%、0.3g、2.9mmol)を添加した。この溶液を、120℃〜130℃の温度まで加熱しながら、5分間攪拌し、次いで、室温まで冷却した。
【0044】
この冷却した溶液(79.14g)の一部分を、試薬アルコール(156.2g)で希釈した。この希釈した溶液を、さらに分割し、そして一部分(78.3g)を、23cm×13cmの超高分子量多孔性ポリエチレン(Solupor(登録商標)、DSMにより供給される)に注いだ。この膜を、ホットプレート上で、乾燥するまで加熱した(膜の温度=70℃)。次いで、この膜を、キャリアペーパーから取り外した。
【0045】
エステル基の加水分解を、250mLの1:4の氷酢酸:濃HCl中で18時間の、この膜の還流によって、実施した。一旦冷却し、この膜を、洗浄液が中性になるまで、脱イオン水で洗浄した。小さい部分(3.5cm×6cm)を、2MのNaCl中に18時間浸漬し、そしてNaOH溶液で滴定した。EW=860g/モル。
【0046】
(実施例3)
(イオン交換膜内での水不溶性マトリックスのインサイチュ調製)
バイアル中に、N,N−ジメチルアセトアミド(33.11g)、ジエチルホスホナトプロピルトリエトキシシラン(8.72g、25.5mmol)、オルトケイ酸テトラエチル(5.12g、24.6mmol)および磁性攪拌子を入れた。水(0.062g、3.4mmol)を、攪拌しながら添加し、次いで、濃塩酸(35重量%、0.15g、1.5mmol)を添加した。この溶液を、120℃〜130℃の温度まで加熱しながら、5分間攪拌し、次いで、室温まで冷却した。
【0047】
2つの膜をキャスティングした。膜Aについては、冷却した溶液の一部分(0.5mL)を、N,N−ジメチルアセトアミド(49.5mL)中18重量%のスルホン化ポリ(アリールエーテルケトン)の溶液で希釈した。フィルムを、キャリアペーパー(5ミルのMelinex(登録商標)453)上で、室温で、180μmのドクターブレードギャップを使用してキャスティングし、60℃(20分)および140℃(20分)で、連続して乾燥した。膜Bについては、水溶性マトリックス溶液を、スルホン化されたポリ(アリールエーテルケトン)の溶液に添加しなかったこと以外は、同じプロトコルに従った。
【0048】
膜Aを、キャリアペーパーから取り外し、その後、加水分解した。エステル基の加水分解を、膜Aの切片(0.20m×0.50m)を2Lの1:4の氷酢酸:濃HCl中で18時間還流することによって、実施した。一旦冷却し、膜Aを、脱イオン水で、洗浄液が中性になるまで洗浄した。EW=690g/モル;0.83重量%の水不溶性マトリックス。
【0049】
(実施例4)
(水不溶性マトリックスを含有するスルホン化されたイオン交換膜の、燃料電池における使用)
実施例3に記載されたように調製した膜を、各々、2つの触媒化炭素繊維紙電極に結合させて、1.25mg/cmの全白金触媒充填剤を有する膜電極アセンブリを形成した。これらの2つの膜電極アセンブリを、Ballard単一セル燃料電池(作用面積=50cm)において試験した。以下の作動条件を使用した:
温度:60℃
相対湿度(RH):30%
燃料:水素
酸化剤:空気
反応剤入口圧力:燃料および酸化剤について、3.02bara
反応剤化学量論:燃料9および酸化剤12。
【0050】
図1は、特定された条件下での、2つの燃料電池についての、電流密度の関数としての電圧の分極プロットを示す。図1から明らかであるように、水不溶性マトリックスを組み込む膜(A)は、水不溶性マトリックスなしの同じ膜(B)と比較して、低い湿度の条件下で、かなり改良された性能を示した。
【0051】
上記のことから、本発明の特定の実施形態が、説明の目的で本明細書中に記載されたが、種々の改変が、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされ得ることが、理解される。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲による以外には、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、特定された条件下での、2つの燃料電池についての、電流密度の関数としての電圧の分極プロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性添加剤を含有するイオン交換膜であって、該水不溶性添加剤は、金属酸化物で架橋したマトリックスを含有し、該マトリックスは、リンカーを介して該金属原子に共有結合したホスホン酸基を有し、該金属は、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、アルミニウム、スズ、またはこれらの組み合わせである、イオン交換膜。
【請求項2】
前記金属が、ケイ素であり、そして前記架橋したマトリックスが、シロキサン架橋したマトリックスである、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】
前記リンカーが、二価のアルキル基である、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項4】
前記二価のアルキルが、二価の直鎖C1〜4アルキルである、請求項3に記載のイオン交換膜。
【請求項5】
前記二価のアルキルが、−CHCHCH−である、請求項4に記載のイオン交換膜。
【請求項6】
前記水不溶性添加剤が、前記イオン交換膜内に均一に分散されている、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項7】
請求項6に記載のイオン交換膜を備える、膜電極アセンブリ。
【請求項8】
請求項7に記載の膜電極アセンブリを備える、燃料電池。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池を備える、燃料電池スタック。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池スタックを備える、乗り物。
【請求項11】
請求項9に記載の燃料電池スタックを備える、発電機。
【請求項12】
イオン交換膜を作製するための方法であって、該方法は、該イオン交換膜に、水不溶性添加剤をロードする工程を包含し、該水不溶性添加剤は、金属酸化物で架橋したマトリックスを含有し、該マトリックスは、リンカーを介してケイ素原子に共有結合したホスホン酸基を有し、そして該金属は、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、アルミニウム、スズ、またはこれらの組み合わせである、方法。
【請求項13】
前記金属が、ケイ素であり、そして前記架橋したマトリックスが、シロキサン架橋したマトリックスである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ロードする工程が、前記イオン交換膜内での前記水不溶性添加剤のインサイチュ合成を包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ロードする工程が、前記イオン交換膜を、前記水不溶性添加剤と共にキャスティングする工程を包含する、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−512659(P2007−512659A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534404(P2006−534404)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/033320
【国際公開番号】WO2005/036687
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(303026556)バラード パワー システムズ インコーポレイティド (28)
【Fターム(参考)】