説明

イオン交換装置及び超純水製造装置用サブシステム

【課題】金属濃度が低いイオン交換処理水を得ることができ、しかも通水圧力を高くすることができるイオン交換装置と、このイオン交換装置を用いた超純水製造装置用サブシステムを提供する。
【解決手段】被処理水の流入口及び処理水の流出口を有した容器50と、該容器内に収容されたイオン交換樹脂52とを有するイオン交換装置において、少なくとも処理水流出部が耐圧仕様の合成樹脂にて構成されていることを特徴とするイオン交換装置。このイオン交換装置を超純水製造装置用サブシステムの紫外線酸化装置の後段に設置し、その流出水を昇圧用ポンプを経ることなくUF膜装置に通水して超純水を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器にイオン交換樹脂を充填したイオン交換装置と、このイオン交換装置を用いた超純水製造装置用サブシステムとに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換装置として、本体容器にイオン交換樹脂を充填して形成され、容器から突出する管を原水管、処理水管等に接続して用いられるものがある(特許文献1:特開平9−70546)。第2図は、同号に記載のイオン交換装置である。このイオン交換装置50は、開口部51aを有した容器51内にコンディショニングされたイオン交換樹脂52が充填されている。開口部51aには蓋56が装着されている。蓋56にはイオン交換樹脂の導入口53が設けられると共に、原水導入管55と処理水取出管54とが貫通状に設けられている。原水導入管55は、容器51内の底部まで差し込まれており、その下端にストレーナ55aが設けられている。
【0003】
処理水取出管54の下端に取り付けられたストレーナ54aは容器51内の上部に位置している。
【0004】
イオン交換樹脂52は樹脂導入口53を介して容器51内に充填される。導入口53は、その後、密閉される。
【0005】
このイオン交換装置50は、カップリング54b,55bの位置で切り離された状態で密封され、現場に搬送され、据え付けられる。そして、このカップリング54b,55bで伸縮継手57,58と接続され、原水の導入及び処理水(超純水)の取り出しが行われる(0021〜0022段落)。
【0006】
イオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂又はアニオン交換樹脂が単独で充填される場合と、両者を容量比で1:3ないし3:1程度の割合で混合して充填する場合とがある(0018段落)。
【0007】
従来、半導体洗浄用水として用いられている超純水は、第1図に示すように前処理装置1、一次純水製造装置2、超純水製造装置(サブシステム)3から構成される超純水製造設備で原水(工業用水、市水、井水等)を処理することにより製造される(例えば特許文献2)。各装置の役割は次の通りである。
【0008】
凝集、加圧浮上(沈殿)、濾過(膜濾過)装置などよりなる前処理装置1は、原水中の懸濁物質やコロイド物質の除去を行う。また、この過程では高分子系有機物、疎水性有機物などの除去も可能である。
【0009】
逆浸透膜分離装置、脱気装置及びイオン交換装置(混床式又は4床5塔式など)を備える一次純水系製造装置2では、原水中のイオンや有機成分の除去を行う。なお、逆浸透膜分離装置では、塩類を除去すると共に、イオン性、コロイド性のTOCを除去する。イオン交換装置では、塩類を除去すると共にイオン交換樹脂によって吸着又はイオン交換されるTOC成分の除去を行う。脱気装置では無機系炭素(IC)、溶存酸素の除去を行う。
【0010】
一次純水製造装置2からの一次純水は、超純水製造装置3において、タンク11からポンプ12により、紫外線(UV)照射装置(例えば低圧UV酸化装置)14、イオン交換装置15及び限外濾過(UF)膜分離装置16で処理されて、水の純度がより一層高められ超純水が製造される。低圧UV酸化装置14では、UVランプより出される185nmのUVによりTOCを有機酸、さらにはCOまで分解する。分解により生成した有機物及びCOは後段のイオン交換装置15で除去される。UF膜分離装置16では、微粒子が除去され、イオン交換樹脂の流出粒子も除去される。
【0011】
このようにして得られた超純水は、配管17よりユースポイント4に送給され、余剰の超純水が配管18よりタンク11に戻される。
【0012】
ユースポイント4は超純水の使用場所を示し、対象物(例えば半導体)を洗浄するための洗浄装置の他、適宜配管やノズル類等を含んでもよい。なお、ユースポイント4で使用された超純水は、適宜排水として回収される。
【0013】
このような超純水供給装置において、このように絶えず超純水の循環を行っているのは、超純水製造設備のポンプ12や熱交換器13、配管等を構成する材料からの溶出成分を除去して系内を高純度に保つことを目的としている。なお、一般に超純水製造装置3のポンプ12や熱交換器13、配管等の構成材料としてはSUS材が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−70546
【特許文献2】特開2003−145148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
半導体産業では、半導体製品の洗浄その他の用途に超純水が用いられているが、この超純水の水質に対する要望は益々厳しくなっており、例えば、金属濃度が1ppt以下、場合によっては0.1ppt以下の超高水質が必要となることがある。このような場合、イオン交換装置からの金属等のリークを防止するために、イオン交換装置には高度に精製されたイオン交換樹脂が充填される。また、超純水を使用するユースポイントでの要望により、超純水の送水圧力を高める必要が出てきている。
【0016】
しかしながら、イオン交換装置の容器がSUSであると、微量ながら金属が溶出し、超純水中の金属濃度が高くなる。
【0017】
この容器を合成樹脂製とすれば、金属の溶出は防止されるが、塩化ビニルなどの合成樹脂は強度が低いために、合成樹脂製容器を用いた場合、イオン交換装置への通水圧力を低くせざるを得ない。この場合、イオン交換装置の後段のUF膜装置に通水するために、イオン交換装置とUF膜装置との間に昇圧用ポンプを設けることになるが、このポンプから金属が溶出して超純水中の金属濃度が高くなる。
【0018】
本発明は、このような問題点を解決し、金属濃度が低いイオン交換処理水を得ることができ、しかも通水圧力を高くすることができるイオン交換装置と、このイオン交換装置を用いた超純水製造装置用サブシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1のイオン交換装置は、被処理水の流入口及び処理水の流出口を有した容器と、該容器内に収容されたイオン交換樹脂とを有するイオン交換装置において、少なくとも処理水流出部が耐圧仕様の合成樹脂にて構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項2のイオン交換装置は、請求項1において、前記合成樹脂が曲げ強度7kg/cm以上の高圧用ポリエチレン又は高圧用ポリプロピレンであることを特徴とするものである。
【0021】
請求項3のイオン交換装置は、請求項1又は2において、前記容器は、上部に開口部を有した容器本体と、該開口部に装着された蓋とを備え、該蓋に被処理水導入管と処理水取出管とが設けられており、該蓋、被処理水導入管及び処理水取出管が前記合成樹脂製とされていることを特徴とするものである。
【0022】
請求項4の超純水製造装置用サブシステムは、サブタンク、ポンプ、紫外線酸化装置、請求項1ないし3のいずれか1項のイオン交換装置及びUF膜装置をこの順に通水されるように備えてなるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のイオン交換装置にあっては、少なくとも処理水流出部が耐圧仕様の合成樹脂製とされているので、イオン交換樹脂と接触した後のイオン交換処理水が金属部材と接触せず、イオン交換処理水中に金属が溶出することが防止される。
【0024】
また、この合成樹脂が耐圧仕様であり、強度が高いので、イオン交換装置への通水圧力を高くすることができる。そのため、このイオン交換装置を備えた超純水製造装置用サブシステムにおいては、イオン交換装置の後段に昇圧用ポンプを設けることなく、イオン交換処理水をUF膜装置に通水することができる。
【0025】
この耐圧仕様の合成樹脂としては、高圧用ポリエチレン(PE)又は高圧用ポリプロピレン(PP)が好適である。これらの高圧用PE又はPPは、SUSに比べて安価である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】超純水製造装置用サブシステムのフロー図である。
【図2】イオン交換装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0028】
本発明のイオン交換装置は、少なくとも処理水流出部が耐圧仕様の合成樹脂にて構成されている。耐圧仕様の合成樹脂としては、曲げ強度7kg/cm以上例えば8〜10kg/cm程度の高圧用PP又はPEが好適である。なお、高圧用PPの方がPEよりも有機物の溶出が少なく、好ましい。
【0029】
このような高圧用PP又は高圧用PEとしては7kg/cm以上の水圧で通水可能な高圧用PP管又はPE管として市販されているPP又はPEと同様の材料を好適に用いることができる。
【0030】
このような高圧用PPとしては、例えばジョージフィッシャー株式会社製β・PP−Hなどが例示される。
【0031】
また、高圧用PEとしては、ジョージフィッシャー株式会社製PE100などが例示される。
【0032】
本発明のイオン交換装置の構造としては、前記第2図のイオン交換装置において、蓋56と、原水(被処理水)導入管55と、処理水取出管54とを耐圧仕様の合成樹脂で構成したものが示される。好ましくは、このイオン装置は10kg/cm程度又はそれ以上の耐圧性を有する蓋56とこれらの管55,54は溶着されて一体化されるのが好ましい。容器本体51はSUS製であることが好ましい。容器本体等の接液面をフッ素樹脂コーティングしてもよい。
【0033】
第2図の場合と同様に、イオン交換樹脂は、容器50のイオン交換樹脂の導入口53から容器50内に充填され、充填完了後、導入口53は密閉される。この充填工程は、クリーン度が数百レベルのクリーンルーム内で行われることが望ましい。また、イオン交換樹脂の充填前に容器をTMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)と過酸化水素の洗浄を繰り返し行い、付着微粒子や菌類を洗浄・殺菌した後に超純水で洗浄することが望ましい。
【0034】
イオン交換樹脂としては、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の混合が好ましいが、アニオン交換樹脂のみ又はカチオン交換樹脂のみを充填してもよい。
【0035】
アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂が混合充填されたイオン交換装置は、第1図のように超純水製造装置用サブシステムに組み込むことができる。この場合、イオン交換装置への通水圧力を高くすることができるので、イオン交換装置の後段に昇圧用ポンプは不要である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0037】
[実施例1,2、比較例1,2]
第2図に示す構成の容器(70L)において、蓋56及び管54,55を表1に示す材料にて構成し、容器本体51はSUSにて構成した。この容器にアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを1:1で混合して充填し、イオン交換装置を製作した。このイオン交換装置にNa濃度0.01ppt、Fe濃度0.01pptの超純水を表1に示す通水圧力にてSV=50/hで12時間通水した。12時間目に採取したイオン交換装置流出水の水質を表1に示す。表1には各容器の耐圧強度も記入した。
【0038】
なお、高圧PEとしてはジョージフィッシャー(株)製PE100を用い、高圧PPとしてはジョージフィッシャー(株)製β・PPHを用いた。塩化ビニルとしては旭化成(株)製クリーン塩化ビニルを用いた。
【0039】
また、上記の各イオン交換装置を第1図に示す超純水製造装置用サブシステムに組み込んで通水し、Na濃度2ppt、Fe濃度1pptの一次純水を処理して超純水を通水した。
【0040】
ただし、蓋等を塩化ビニル製とした比較例1では、イオン交換装置への通水圧力(イオン交換装置入口圧力)を3kg/cmとしたので、イオン交換装置の後段に昇圧用ポンプを設置した。比較例2及び実施例1,2では昇圧用ポンプを設置せず、イオン交換装置入口圧力を6kg/cmとした。UF膜装置から流出する超純水の水質を表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1,2より、本発明のイオン交換装置を用いることにより、高水質の超純水が製造されることが認められた。また、本発明の超純水製造装置用サブシステムでは、イオン交換装置からのイオン交換処理水を昇圧用ポンプを経ることなくUF膜装置に通水することができる。なお、塩化ビニルを用いた比較例1では、イオン交換装置からのイオン交換処理水の水質は良好であるが、サブシステムに組み込んだときには後段に昇圧用ポンプが必要となり、UF処理水の水質が低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水の流入口及び処理水の流出口を有した容器と、該容器内に収容されたイオン交換樹脂とを有するイオン交換装置において、少なくとも処理水流出部が耐圧仕様の合成樹脂にて構成されていることを特徴とするイオン交換装置。
【請求項2】
請求項1において、前記合成樹脂が曲げ強度7kg/cm以上の高圧用ポリエチレン又は高圧用ポリプロピレンであることを特徴とするイオン交換装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記容器は、上部に開口部を有した容器本体と、該開口部に装着された蓋とを備え、該蓋に被処理水導入管と処理水取出管とが設けられており、
該蓋、被処理水導入管及び処理水取出管が前記合成樹脂製とされていることを特徴とするイオン交換装置。
【請求項4】
サブタンク、ポンプ、紫外線酸化装置、請求項1ないし3のいずれか1項のイオン交換装置及びUF膜装置をこの順に通水されるように備えてなる超純水製造装置用サブシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−206722(P2011−206722A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78520(P2010−78520)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】