説明

イオン伝導性材料及びその利用

【課題】イオン伝導性に優れるイオン液体と無機材料とをハイブリッド化した固形のイオン伝導性材料を提供する
【解決手段】イオン液体のカチオン成分をリンカーを介して側鎖に有するモノマー単位を備える高分子材料と、前記カチオン成分の対イオンとなるアニオン成分と、メタロキサン構造を有する無機材料と、を含む、ガラス質固体である、イオン伝導性材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性材料及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は高いエネルギー密度を有することから、各種のポータブル電源デバイスとして広く用いられるようになってきている。一方で、電解質に可燃性の有機溶媒を用いていることから、短絡の発生による発火の危険性を内包している。したがって、安全性に課題のあることが指摘されている。こうした背景から、電解質の難燃化が検討されている。
【0003】
そこで、難燃性であるイオン液体の電解質への利用が検討されているが、その支持体マトリックスも難燃性であることが好ましい。そこで、難燃性無機フィラーをイオン液体の支持体に用いた難燃性電解質が試みられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−13529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の電解質では、高いイオン伝導性を得るのは困難であった。難燃性の電解質としては種々の材料が検討されているが、液体電解質と同等のイオン伝導性を得るのは簡単ではなかった。したがって、良好なイオン伝導性を発揮できるような新たな素材が要請されている。
【0006】
本明細書の開示は、イオン伝導性に優れるイオン液体と無機材料とをハイブリッド化した固形のイオン伝導性材料を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、イオン液体と無機材料とのハイブリッド化について種々検討したところ、イオン液体成分をリンカーを介して側鎖に有するポリマーと無機材料とを高度にハイブリッド化した複合材料が得られることを見出した。また、この複合材料によれば、良好なLiイオン伝導性を発揮できることもわかった。本明細書の開示は、これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0008】
本明細書によれば、イオン液体のカチオン成分をリンカーを介して側鎖に有するイオン液体モノマー単位を含む高分子材料と、メタロキサン構造を有する無機材料と、を含む、ガラス質固体である、イオン伝導性材料が提供される。
【0009】
前記リンカーは、アルキレン基及び/又はポリ(オキシアルキレン)基を主体とすることができる。また、前記モノマー単位は、重合性モノマー単位とすることができ、メタ(アクロイル)モノマー単位を含むことができる。
【0010】
さらに、前記無機材料は、ケイ素−酸素結合を主体とすることができる。さらにまた、前記イオン伝導性材料は、リチウム塩を含有することができる。
【0011】
前記カチオン成分は、イミダゾール系カチオン成分であり、前記イオン液体のアニオン成分は、スルホニル基含有アニオン成分とすることができる。
【0012】
本明細書によれば、二次電池であって、上記いずれかに記載のイオン伝導性材料を固体電解質として備える、二次電池が提供される。
【0013】
本明細書によれば、イオン伝導性材料の製造方法であって、イオン液体のカチオン成分をリンカーを介して側鎖に有する重合性モノマーと、メタロキサン骨格を形成可能な重合性金属化合物との存在下、前記重合性モノマー同士及び前記重合性金属化合物同士とをガラス質固体を得られるよう重合する工程、を備える、製造方法が提供される。前記重合工程をリチウム塩の存在下で行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本明細書に開示されるイオン伝導性材料におけるイオン液体成分と無機材料とのハイブリッド形態を模式的に示す図である。
【図2】実施例2で得られた試料2〜4の熱重量分析結果を示す図である。
【図3】実施例4で得られた試料5〜7の熱重量分析結果を示す図である。
【図4】実施例4で得られた試料5〜7のイオン伝導度測定結果を示す図である。
【図5】実施例4で得られた試料8〜10のイオン伝導度測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書の開示は、ガラス質固体であるイオン伝導性材料及びその利用に関する。本明細書に開示されるイオン伝導性材料によれば、無機材料とイオン液体が高度にハイブリッドされている。すなわち、ガラス質固体を構成できる程度に微細なレベルでハイブリッド化されている。このため、無機質性及び難燃性に優れるとともに、優れたイオン伝導度を得られやすくなっている。
【0016】
推論であって本明細書における開示を拘束するものではないが、ガラス質固体を形成できる程度の均質性を備えるとともに、イオン液体のカチオン成分がリンカーを介して櫛形に高分子材料に保持されているために、良好なイオン伝導性が発揮されると考えられる。
【0017】
以下、本明細書の開示に含まれる種々の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(イオン伝導性材料)
本明細書に開示されるイオン伝導性材料は、ガラス質固体である。ここで、ガラス質固体とは、所定の透明性を有する固体を意味する。ガラス質固体と称す固体は、その透明性が高ければより好ましいが、本明細書において、透明性があれば足り、完全な透明であることを要しない。透明性の程度は、例えば、所定波長の光の透過率Tによって評価することができる。透過率Tは、例えば、可視光透過率(380m〜780nmでの平均透過率)を用いることができる。
【0019】
(高分子材料)
イオン伝導性材料は、イオン液体のカチオン成分をリンカーを介して側鎖に有するモノマー(塩モノマー)単位を備える高分子材料を含んでいる。イオン伝導性材料のイオン伝導性は、イオン液体によって担われる。イオン液体は、カチオン成分及びアニオン成分により構成される。イオン液体は、室温でも液体で存在する塩である。イオン伝導性材料においては、カチオン成分はポリマー鎖に側鎖として結合され、アニオン成分は当該カチオン成分とイオン結合している。
【0020】
カチオン成分としては、孤立電子対を有する元素を含んだ化合物に、陽イオン型の原子団が配位して生ずる少なくとも一つの基を有するカチオンが挙げられ、前記孤立電子対を有する元素としては、窒素、硫黄、リン、酸素、セレン、錫、ヨウ素およびアンチモン等の元素が挙げられる。カチオン成分は特に限定しないで各種の公知のカチオン成分を用いることができる。オニウムカチオンが挙げられ、上記のうち、窒素、硫黄またはリンの孤立電子対を有するオニウムカチオンが好ましく、広い電位範囲で電気化学的に安定なものが良く、下記式(1)で表されるカチオン成分がより好ましい。
N+R1234 (1)
【0021】
上記式(1)で表されるカチオン成分は、式中、R1、R2、R3及びR4として、それぞれが、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシアルキル基、アラルキル基及び/またはアリール基を有するものである。これらのいずれか一対又はそれ以上が環構造を形成していても良く、ヘテロ原子、ハロゲン原子を含んでも良い。
【0022】
これらの基の具体例としては、前記アルキル基として、メチル基、エチル基及びプロピル基などが挙げられ、前記アルコキシアルキル基として、メトキシメチル基、メトキシエチル基、(メトキシエトキシ)エチル基、(ヒドロキシエトキシ)エチル基、(ヒドロキシエチル)メチルアミノ基、メトキシ(カルボニルエチル)基及びヒドロキシエチル基などが挙げられ、前記アリール基として、フェニル基及びナフチル基などが挙げられ、前記アラルキル基として、ベンジル基などが挙げられ、前記R1、R2、R3及びR4のいずれか一対又はそれ以上が環構造を形成する基、また、ヘテロ原子を含む基としては、オキサゾリル基、モルホリニル基、ピリジニウム基、ピラリジニウム基、ピロリジニウム基、ピペラジニウム基、キノリニウム基、ピペリジニウム基及びイミダゾリウム基などの基が挙げられる。
【0023】
イオン液体のカチオン成分の具体例としては、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラペンチルアンモニウムカチオン、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、ビニルトリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン、ジエチルジメチルアンモニウムカチオン、トリブチルエチルアンモニウムカチオン、トリエチルイソプロピルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチルピロリジニウムカチオン、N−メチル−N−エチルピロリジニウムカチオン、トリエチルメトキシメチルアンモニウムカチオン、トリメチルプロピルアンモニウムカチオン、トリメチルイソプロピルアンモニウムカチオン、ブチルトリメチルアンモニウムカチオン、アリルトリメチルアンモニウムカチオン、ヘキシルトリメチルアンモニウムカチオン、オクチルトリメチルアンモニウムカチオン、ドデシルトリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルメトキシエトキシメチルアンモニウムカチオンおよびジメチルジプロピルアンモニウムカチオン等のアンモニウムカチオン;1,2,3−トリメチルイミダゾリウムカチオン、2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムカチオン、2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、3−ジエチルイミダゾリウムカチオン、3−ジプロピルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−イソプロピル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンおよび1−tert−ブチル−3−イソプロピルイミダゾリウムカチオン等のイミダゾリウムカチオン;N−メチルピリジニウムカチオン、N−エチルピリジニウムカチオン、N−プロピルピリジニウムカチオン、N−ブチルピリジニウムカチオン、1−エチル−2−メチルピリジニウムカチオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムカチオン、1−ブチル−2,4−ジメチルピリジニウムカチオン;トリメチルスルホニウムカチオン、トリエチルスルホニウムカチオン、トリブチルスルホニウムカチオン、ジエチルメチルスルホニウムカチオン、ジメチルプロピルスルホニウムカチオンおよびジメチルヘキシルスルホニウムカチオン等のスルホニウムカチオン;テトラメチルホスホニウムカチオン、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラプロピルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラオクチルホスホニウムカチオン、テトラフェニルホスホニウムカチオン、トリメチルエチルホスホニウムカチオン、トリエチルメチルホスホニウムカチオン、ヘキシルトリメチルホスホニウムカチオンおよびトリメチルオクチルホスホニウムカチオン等のホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0024】
イオン液体のアニオン成分としては、アルコラートおよびフェノラートなどの水酸基含有有機化合物のプロトンが脱離したアニオンRO-;チオレートおよびチオフェノラートなどのプロトンが脱離したアニオンRS-;スルホン酸アニオンRSO3-、カルボン酸アニオンRCOO-;リン酸および亜リン酸の水酸基の一部が有機基で置換している含リン誘導体アニオンRx(OR)y(O)z-、(但し、x、y、zは0以上の整数で、かつ、x+y+2z=3またはx+y+2z=5の関係を満たすもの。);置換ボレートアニオンRx(OR)y-、(但し、x、yは0以上の整数で、かつ、x+y=4の関係を満たすもの。);置換アルミニウムアニオンRx(OR)yAl-、(但し、x、yは0以上の整数で、かつ、x+y=4の関係を満たすもの。);窒素アニオン(EA)2-、カルボアニオン(EA)3-;等の有機アニオン、ハロゲンイオンおよび含ハロゲンイオン等の無機アニオンなど、が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、有機アニオンとしては、特に、RSO3-、RCOO-、(RO2S)2-および(RO2S)3-が好ましく、無機アニオンとしては、含ハロゲンイオンとして、ClO4-、BF4-、AsF6-及びPF6-が好ましく、ハロゲンイオンとして、F-、Cl-、Br-およびI-が好ましい。(ここで、Rは、水素、置換または無置換の、アルキル基Cn2n-1−、アリール基(Rc)m−C65-m−、アラルキル基(Rc)m−C65-m−Cn2n−、アルケニル基Rc−CH=CH−Rc−、アラルケニル基(Rc)m−C65-m−CH=CH−Rc−、アルコキシアルキル基Rc−O−Cn2n−、アシルオキシアルキル基Rc−COO−Cn2n−から選ばれる基(前記Rにおける、Rcは置換または無置換の、炭素数20以下のアルキル基、または水素であり、複数ある場合は互いに異なっても良い。mは1以上5以下の整数。nは1以上20以下の整数。)であり、これらは環構造を有していてもよい。また、ヘテロ原子を含んでもよい。このRが分子内に2個以上ある場合は互いに同じであっても異なっていてもかまわない。EAは、水素原子または電子吸引基を示す。)また前述Rの炭素上の水素原子の一部または全部がハロゲン原子に置換されているものも含まれ、特にフッ素原子に置換されているものは好ましい。
【0026】
イオン液体におけるアニオン成分の中でも、二次電池とした場合に充放電特性を向上させる上で、少なくともフルオロスルホニル基を有するものを用いると、より好ましい。このようなアニオン成分として、フルオロスルホニル基を構成成分として含むものであれば良いが、例えば、前記含リン誘導体アニオン、前記置換ボレートアニオン、前記置換アルミニウムアニオン、前記カルボアニオンおよび前記窒素アニオンなどのアニオンにフルオロスルホニル基を含む基が挙げられる。さらに、イオン液体の電気化学的安定性から、好ましくは、フルオロスルホニル基を含む、カルボアニオン及び窒素アニオンが挙げられる。
【0027】
さらに具体的には、下記式(2)〜(5)で表される構造を有するアニオンがより好ましい。
N(R1SO2)(FSO2-・・・(2)
N(FSO22- ・・・(3)
C(R1SO22(FSO2- ・・・(4)
C(R1SO2)(FSO22- ・・・(5)
C(FSO23- ・・・(6)
(R1は、パーフルオロアルキル基であり、直鎖状構造、分岐状構造および環状構造のいずれであっても良い。)
前記パーフルオロアルキル基としては、その構造中の炭素数に制限なく使用できるが、高いイオン伝導度を発現する上で、1〜6個の炭素を有するパーフルオロアルキル基が好ましく、その構造としては、直鎖状構造、分岐状構造および環状構造のいずれの構造でも良く、いずれの構造も同じ効果を発現する。
【0028】
上記したイオン液体のカチオン成分をリンカーを介して側鎖に有する塩モノマー単位は、重合性官能基を有する塩モノマーに由来した構造を有している。高分子材料は、こうした塩モノマー単位のみで構成されていてもよい。また、塩モノマー単位におけるカチオン成分は異なっていてもよく、高分子材料において2種以上のカチオン成分を保持していてもよい。また、塩モノマーでない他のモノマー単位を含んでいてもよい。
【0029】
塩モノマー単位が由来するにおける重合性官能基としては、ラジカル重合、イオン重合、配位重合およびレドックス重合などにより重合が可能な官能基であれば、何ら限定されないが、重合性炭素−炭素二重結合を有する基が好ましく、ラジカル重合性官能基がより好ましい。ラジカル重合性官能基としては、活性エネルギー線もしくは熱によりラジカル重合が可能であることがより好ましい。このような官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、アリル基、ビニル基、スチリル基が挙げられるが、これらの中でも、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、スチリル基、アリル基およびビニル基が好ましい。より好ましくは(メタ)アクリロイル基、メタアクリロイルオキシ基である。
【0030】
イオン液体のカチオン成分は、モノマー単位又はモノマーにリンカーを介して側鎖として備えられている。ここで、「リンカー」とは、カチオン成分のイオン性部分、例えば、カチオン成分がイミダゾール系カチオンの場合であれば、イミダゾール環とモノマー単位又はモノマーの連結部分までの部位を意味するものとする。例えば、アクロイリオキシ系モノマー単位又はモノマーの場合には、アクリロイルオキシ基の酸素(O)と、イミダゾリウム環までの部位をリンカーである。
【0031】
リンカーを備えることで、高分子材料に保持されたカチオン成分の自由度が向上し、イオン移動度及びイオン伝導性に寄与しているものと考えら得られる。リンカーは、特に限定しないが、カチオン成分の自由度を確保できるものであることが好ましい。リンカーは、自由度の大きい炭素−炭素一重結合や、炭素−酸素−結合を主体とすることが好ましい。より具体的には、リンカーは、アルキレン基及び/又はポリ(オキシアルキレン)基を主体とすることが好ましい。アルキレン基の炭素数は、1以上100以下程度であり、好ましくは2以上30以下程度であり、より好ましくは、2以上20以下程度である。また、ポリ(オキシアルキレン)基のアルキレン基は、炭素数1以上20以下程度であることが好ましく、より好ましくは2以上10以下程度であり、重合度は1以上100以下程度であり、好ましくは2以上30以下程度であり、より好ましくは、2以上20以下程度である。典型的には、炭素数2〜10以下のプロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等のアルキレン基が挙げられる。また、炭素2〜10のアルキレン基を有するアルキレンオキシ基、ポリ(オキシエチレン)、ポリ(オキシプロピレン)、ポリ(オキシブチレン)等のポリ(オキシアルキレン)基が挙げられる。
【0032】
こうした塩モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基の酸素原子に、リンカーを介してイミダゾリウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、アンモニウム系カチオン等のカチオンを連結したモノマー、(メタ)アクリルアミドに、リンカーを介してイミダゾリウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、アンモニウム系カチオン等のカチオンを連結したモノマーなどが挙げられる。
【0033】
イオン伝導性材料は、メタロキサン構造を有する無機材料を含んでいる。メタロキサン構造とは、―M(金属原子)−O−の結合を主体とする二次元又は3次元の構造体である。金属原子Mとしては、特に限定しないで、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウム、ホウ素等を挙げることができる。好ましくはケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ホウ素であり、より好ましくはケイ素、ジルコニウム及びホウ素である。金属原子を1種でも、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。ケイ素とホウ素とを組み合わせて用いることで高いイオン伝導度が得られやすくなるとともに、熱安定性や固体物性も優れたものが得られやすくなる。無機材料は、後述するように、通常、ゾルゲル法等で調製される。イオン伝導性材料において、無機材料の配合比が高いと、無機材料自体の特性及びイオン液体との複合化にあたりイオン液体の分子運動性を抑制できることから、熱安定性を高く維持することができる。例えば、無機材料100モルに対して、イオン液体40モル以下であることが好ましく、より好ましくは20モル以下であり、さらに好ましくは10モル以下である。
【0034】
イオン伝導性材料は、さらに、リチウム塩を含有することができる。リチウム塩を含有することで、イオン伝導性を向上させることができる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiBF4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22およびLiC(CF3SO23やLiイオンをカチオン成分として含有するイオン液体(例えば、特開2004−307481号公報に記載のLi塩など。)などが挙げられ、これらを単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
イオン伝導性材料は、イオン伝導性を有するガラス質固体であるために、イオン伝導性と難燃性とを合わせ有している。また、イオン伝導性材料は、ガラス質固体であって、任意の三次元形状を採ることができる。フィルム状、円柱状、ディスク状等とすることができる。後述するように、In situゾルゲル法等によれば、所望の形状にイオン伝導性材料を成形することができる。
【0036】
(イオン伝導性材料の製造方法)
本明細書に開示されるイオン伝導性材料の製造方法は、イオン液体のカチオン成分をリンカーを介して側鎖に有する重合性モノマーと、メタロキサン骨格を形成可能な重合性金属化合物との存在下、前記重合性モノマー同士及び前記重合性金属化合物同士とをガラス質固体を得られるよう重合する工程、を備えることができる。本製造方法によれば、イオン液体成分と無機剤成分とをそれぞれが存在する状態で、それぞれを重合させるため、互いに高度に分散した状態のハイブリッド化が可能となり、高いイオン伝導性と高い難燃性を備えうるイオン伝導性材料を提供することができる。
【0037】
本製造方法で用いる重合性モノマーは、既に説明したイオン伝導性材料を構成する高分子材料におけるモノマー単位の重合前のものである。したがって、重合性モノマーにおけるイオン液体のカチオン成分、アニオン成分、リンカー及び重合性官能基については、モノマー単位についてした各種態様が適用される。
【0038】
本製造方法で用いる重合性金属化合物は、金属原子Mに結合する一つ又は二つ以上の加水分解性基を有していることが好ましい。重合性金属化合物は、該加水分解性基の加水分解及び縮重合によりメタロキサン結合を有するポリメタロキサンを形成することができる。こうした加水分解性基としては、もっぱらアルコキシル基又及びハロゲン基等が挙げられ、重合性金属化合物としては、例えば、以下の式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0039】
MXlm2n (1)
【0040】
式(1)で表される重合性金属化合物における金属原子Mとしては、既に説明した通りである。上記式(1)において、Xは、加水分解性基であり、ハロゲン原子又はアルコキシ基を表している。lは1以上の整数であり、lが2以上のとき、Xは異なっていてもよく、同じであってもよい。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。好ましくは、塩素原子及び臭素原子である。また、アルコキシ基としては、鎖式、環式、あるいは脂環式の炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、好ましくは、アルキル基であり、炭素数が1〜5以下の直鎖状又は分枝状アルキルであることがより好ましい。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、イソブチル、n−ペンチルが挙げられる。好ましくは、メチル及びエチルである。Xとしては、好ましくはアルコキシ基である。
【0041】
上記式(1)で表される重合性金属化合物においては、l+m+nの数値は金属原子Mの価数に一致する。lは1以上の整数であればよいが、式(1)で表される重合性金属化合物からポリメタロキサン系材料の主骨格を合成するには、lは2以上であることが好ましい。また、3以上であってもよい。lが3以上であると、三次元構造のポリメタロキサン構造を構成することができるからである。加水分解性基の数は結合する金属原子の価数によるが、4以上であってもよい。構築しようとする無機系マトリックスに応じて3以上の加水分解性基を含む重合性金属化合物の量を調整することができる。金属原子がケイ素の場合、合成工程で用いる重合性金属化合物は、ジアルキルジアルコキシシラン(l=2、m=2)、を少なくとも含み、アルキルトリアルコキシシラン(l=3、m=1)やテトラアルコキシシラン(l=4)を含むことが好ましい。
【0042】
上記式(1)におけるRは、置換されていてもよい炭化水素基である。mは0以上の整数であり、mが2以上のとき、Rは同一であってもよくそれぞれ異なっていてもよい。炭化水素基は、非加水分解性有機基(以下、単に有機基という。)ということができる。こうした有機基を有する重合性金属化合物(mが1以上)を用いることが好ましい。また、より好ましくはlが2以上の重合性金属化合物を用いる。こうすることで、側鎖に有機基を有するポリメタロキサン系材料が得られる。こうしたポリメタロキサン系材料は、有機質粒子の有機化合物を疎水性相互作用等により安定化することができる点において好ましく適用できる。特に、酵素を含むタンパク質などその安定化や活性に疎水性相互作用が関わるような有機化合物を含有する有機質粒子を複合化するのに好ましい。合成工程において、有機基を有しない重合性金属化合物(m=0であり、好ましくはlは2以上である。)に対する該有機基を有する重合性金属化合物のモル比は、適宜選択されるが、通常、0.1〜10の範囲で設定することができる。
【0043】
炭化水素基としては、特に限定しないが、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等を有することができる。
【0044】
アルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖又は分枝のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、iso−ペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル、iso−ヘキシル、tert−ヘキシル、n−ヘプチル、iso−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ヘキシル、n−ヘキサデシル、n−オクタデシルなど、1級〜3級の各種アルキル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1〜5程度のアルキル基を好ましく用いることができ、重合性金属化合物がジアルキルジメトキシシランなどのジアルキルジアルコキシシランのときには、アルキル基はメチル基であることが好ましく(ジメチルジメトキシシラン)、重合性金属化合物がアルキルトリメトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシランのときには、アルキル基はn−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基などが好ましい。シクロアルキル基としては、炭素数が3以上10以下のシクロアルキル基が挙げられ、例えば、シクロプロピル、1−メチルシクロプロピル、2−メチルシクロプロピル、2,3−ジメチルシクロプロピル、シクロブチル、1−メチルシクロブチル、2−メチルシクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、3−メチルシクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル、シクロドデシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、炭素1〜20の直鎖または分岐のアルケニル基があげられ、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、2−メチルアリル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、1,3−ブタジエニル、1,3−ペンタジエニル、1,3,5−ヘキサトリエニルなどがあげられる。アルキニル基としては、炭素1〜20の直鎖または分岐のアルキニル基があげられ、例えば、エチニル、1−または2−プロピニル、1−または2−ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、1,3−ブタジイニル、1,3,5−ヘキサトリイニルなどがあげられる。また、アリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリルなどが挙げられる。
【0045】
これらのアルキル基等には、水酸基や炭素数1〜5程度のアルキル基、ビニル基などのアルケニレン基、アリール基などの炭化水素基、カルボキシル基、アシル基、アシロキシ基などのカルボニル基含有基、アミノ基、イミノ基、アミド基、スルフォン基、メルカプト基などのヘテロ原子を有する官能基等などを置換基として備えることができる。また、これらのアルキル基等には金属原子への連結基としてメチレン、エチレン、等のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を備えることができる。
【0046】
こうした有機基を有する重合性金属化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキサデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
また、重合性金属化合物としては、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリプロポキシボラン、トリピルジメトキシボラン、トリイソプロポキシボラン、トリブトキシボラン、トリtert-ブトキシボラン、メシチルジメトキシボラン等も挙げられる。高いイオン殿堂度を得られる点において、メシチルジメトキシボラン等の2官能性のボラン化合物が好ましい。
【0048】
重合工程では、まず、重合性モノマー、重合性金属化合物を混合して、所定の溶媒に溶解させる。リチウム塩をイオン伝導性材料に含める場合には、既述のリチウム塩も添加する。溶媒はこれらを溶解できるものであればよいが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールなどのアルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの公知の溶媒を1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの原料混合物に対して、さらに、重合性モノマーの重合開始剤、重合性金属化合物の重合性開始剤をそれぞれ添加する。重合性モノマーの重合開始剤は、重合性モノマーの種類によるが、例えば、ラジカル重合性モノマーの場合は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物等が挙げられる。また、重合性金属化合物の重合開始剤としては、ゾルゲル法に通常用いられる塩酸などの酸触媒やNafなどの塩基触媒が挙げられる。なお、重合性金属化合物には加水分解のために水が必要である。
【0049】
重合工程における原料組成は特に限定しないで、任意の比率で重合性金属化合物と重合性モノマーを配合できる。イオン液体成分が増えるとイオン伝導性が向上する傾向がある。したがって、重合性モノマーは、重合性金属化合物100モルに対して、5モル以上とすることが好ましく、より好ましくは10モル以上、さらに好ましくは20モル以上とすることができる。また、難燃性等を考慮すると、重合性モノマーは重合性金属化合物100モルに対して80モル以下、より好ましくは70モル以下である。
【0050】
次いで、重合工程では、重合性モノマーの重合反応と重合性金属化合物の加水分解と縮重合が進行する条件を維持する。例えば、これらの原料を含んだ反応液を脱気後、不活性ガス流雰囲気下で、室温程度の温度で数時間程度撹拌を継続する。ゲル化するまで24時間から数日程度撹拌を継続してもよい。次いで、この反応液(ゲル)を、40℃以上80℃以下程度に加熱して、その温度で7日〜14程度放置する。その後、例えば、100℃程度で減圧乾燥して液体を蒸発させることでガラス質固体を得ることができる。ガラス質固体は、反応液が入っていた容器の底部に形成される。したがって、ゲル化時において所望の形状に成形することで、最終的にゲル化時の形状に近似形状のガラス質固体を得ることができる。なお、ガラス質固体を確実に得るためには、ラジカル重合を開始よりもゾルゲル反応を先行させることが好ましい。こうすることで、重合性モノマーによる有機成分の重合速度と、重合性金属化合物の重合速度とのバランスを保ち、有機晴成分と無機成分とを均質に分散させてガラス質固体を得ることができる。具体的には、全原料の混合液をラジカル重合の反応温度よりも低い温度(室温程度)で2〜10時間以下程度撹拌してゾルゲル反応を進行させ、その後、ラジカル重合の反応温度(例えば60℃程度)まで加熱してラジカル重合を開始させればよい。
【0051】
(二次電池)
本明細書に開示される二次電池は、イオン伝導性材料を固体電解質として備えることができる。イオン伝導性材料を固体電解質として備えることで、イオン伝導性と難燃性を確保して性能と安全性に優れる二次電池を提供できる。二次電池は、正極および負極と、を備えている。本二次電池は、固体電解質が、セパレーターの機能も果たしている。二次電池としてリチウム二次電池が好ましい。以下、リチウム二次電池について説明する。
【0052】
リチウム二次電池の正極の集電体としては、例えば、アルミニウムからなる箔・パンチングメタル・網・エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常アルミニウム箔が好適に用いられる。リチウム二次電池の正極の集電体は必要に応じて、正極活物質及び導電性を付与するための導電助剤、結着性を付与するためのバインダを混合して成形して得られた正極であってもよい。こうした正極を構成する正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiOのNiの一部をCoで置換したLiNiCo(1−x)などのカルコゲナイト系酸化物、LiMnといったスピネル酸化物、LiNi(1−x)/2COxOといった層状MnNi系化合物、LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)などのオリビン系酸化物など、通常のリチウム二次電池に用いられているリチウムイオンを吸蔵放出可能な無機酸化物が挙げられる。正極活物質には、適宜アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛、非晶質炭素などの炭素材料が1種又は2種以上導電助剤として組み合わされる。
【0053】
リチウム二次電池の負極の集電体としては、銅製やニッケルからなる箔・パンチングメタル・網・エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。リチウム二次電池の正極の集電体は必要に応じて、負極活物質、導電助剤やバインダ等を混合して成形して得られた負極であってもよい。
【0054】
リチウム二次電池の負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金、若しくはリチウムと合金化し得る金属のうち、少なくとも一種の材料を用いることができる。リチウム合金としては、例えば、リチウム−アルミニウム合金などが挙げられる。リチウムと合金化し得る金属としては、例えば、Sn、Siなどが例示できる。その他、リチウムを吸蔵放出可能な材料としては、非晶質炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素系材料;LiTi12、LiTiなどのチタン酸リチウムなどが挙げられる。導電助剤としては、例えば、AB、KB、非晶質炭素などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
正極および負極の製造方法については特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、正極および負極の構成材料に溶剤を加えスラリー状にして電極集電体に塗布する方法、正極および負極の構成材料にバインダ樹脂を加えて圧力をかけて固める方法、正極および負極の構成材料に熱をかけて焼き固める方法などが挙げられる。
【0056】
正極および負極の積層形態についても特に限定されるものではなく、任意の積層形態を採用することができ、多層積層体、集電体の両面に積層したものを組み合わせた形態、さらにこれらを巻回した形態とすることができる。二次電池の形状および外観については特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。すなわち、このような二次電池形状としては、例えば、電極積層体または巻回体を、金属ケース、樹脂ケース、もしくはアルミニウム箔などの金属箔と合成樹脂フィルムとからなるラミネートフィルム等によって封止したものが挙げられる。また、二次電池の外観としては、円筒型、角型、コイン型、シート型等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
(イオン液体の合成)
(1)化合物(2)の合成
以下に示すスキームに従い化合物(2)(イオン液体)を合成した。ナス型フラスコに蒸留したTHF(100ml)、3−ブロモ−1−プロパノール(6.29ml、0.72mol)、トリエチルアミン(TEA)(12.0ml、0.86mmol)を加えた。0℃で冷却しながらTHF(100ml)に溶解したアクロイルクロライド(6.97ml、0.86mmol)を静かに滴下し、窒素雰囲気下、室温で一日撹拌した。エバポレーターでTHFを除去し、ジエチルエーテル(100ml)でフラスコ内を洗浄しながら分液ロートへ移した。分液ロートに水(100ml)を加え、水層を取り除いた。残ったエーテル層はナス型フラスコに移し、エバポレーターで溶媒を除去して減圧乾燥したところ、黄色液体の化合物(1)を得た。
【0059】
【化1】

【0060】
次いで、ナス型フラスコに化合物(1)(4.4g、0.23mmmol)、N−エチルイミダゾール(elm)(4.4g、0.46mmol)を加え、アルミホイルで遮光し、窒素雰囲気下、45℃で3日間撹拌した。蒸留したジエチルエーテル(20ml)を加え、10分間撹拌し、シリンジで上層を取り除いた後、一晩減圧乾燥し、粘性のある黄褐色液体の化合物(2)(イオン液体)を得た。
【0061】
(2)イオン交換による化合物(3)の取得
以下に示すスキームに従い化合物(3)(イオン液体)を得た。ナス型フラスコに水(20ml)、化合物2(5.96g、20mmmol)、LiTFSA(5.87g、20mmol)を加え、30分間撹拌した。さらに、水を加えて撹拌し、上澄みを除去した。ジエチルエーテル(30ml)を加え、10分間撹拌して上澄みを取り除き、一晩減圧乾燥して、粘性のある黄色のイオン液体である化合物(3)を得た。
【0062】
【化2】

【実施例2】
【0063】
(イオン伝導性材料の合成)
以下のスキームに従い、化合物(4)を合成した。ポリ容器にアセトニトリル(10ml)、化合物(3)(1.0g、2.0mmol)、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)(1.0g、6.6mmol)、LiTFSA(0.57g、2.0mmol)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)(0.033g、0.2mmmol)及びHCl(0.16ml、12N)を加え、室温で6時間撹拌した。容器を少し開口させたアルミホイルで蓋をして、60℃で1週間加熱後、100℃で減圧乾燥して、黄色透明の固体(4)を得た(試料1)。
【0064】
【化3】

【0065】
また、上記手法に準じて、以下の原料から同様に試料2〜4の化合物(4)を得た。
【0066】
【表1】

【実施例3】
【0067】
実施例2で得た試料1〜4(化合物(4))につき、イオン伝導度及び熱重量分析を行った。イオン伝導度は、複合インピーダンス分光法により、オシレート電圧を100mVとし、10〜106Hzの周波数範囲にわたって評価した。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すように、試料1及び2は、いずれも良好なイオン伝導度を示し、10-4Scm-1のレベルであった。また、試料1〜4は、いずれも450℃近傍からそれ以上においてT50%を示し、高い熱安定性を有していた。試料2〜4についての熱重量分析結果を図2に示す。図2に示すように、TMOS/ILにおいてTMOSの比率(モル)が大きくなるほど(試料2(5/2)、試料3(5/1)、試料4(5/0.5))、高い熱安定性が得られる傾向がわかった。
【実施例4】
【0070】
(イオン伝導性材料の合成2)
本実施例では、無機材料として、ケイホウ酸ガラス(ホウ素源としてトリメトキシボラン及びメシチルジメトキシボランを使用)を用いた。
【0071】
(ホウ素源としてトリメトキシボラン使用)
ポリ容器にアセトニトリル(5ml)、エタノール(1.7 ml)、化合物(3)(1.0g、2.0mmol)、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)(0.76 g、5.0mmol)、トリメトキシボラン(TMOB)(0.26g、2.5 mmmol)、LiTFSA(0.57g、2.0mmol)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)(0.033g、0.2mmol)及びHClaq.(0.11ml、1N)を加え、室温で6時間撹拌した。容器を少し開口させたアルミホイルで蓋をして、60℃で1週間加熱後、100℃で減圧乾燥して、黄色透明の固体(試料5)を得た。なお、この化合物は、上記した化合物(4)においてSiの一部がBに置き換わった無機材料が複合化されている。同様の手順により以下の原料から試料6及び7を得た。
【0072】
【表3】

【0073】
(ホウ素源としてメシチルジメトキシボラン(MDMB)使用)
ポリ容器にアセトニトリル(5ml)、エタノール(1.7ml)、化合物(3)(1.0g、2.0mmol)、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)(0.76g、5.0mmol)、メシチルジメトキシボラン(MDMB)(0.48g、2.5mmol)、LiTFSA(0.57g、2.0mmol)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)(0.033g、0.2mmol)及びHClaq.(0.11ml、1N)を加え、室温で6時間撹拌した。容器を少し開口させたアルミホイルで蓋をして、60℃で1週間加熱後、100℃で減圧乾燥して、黄色透明の固体(を得た。なお、この化合物は、上記した化合物(4)においてSiの一部がBに置き換わった無機材料が複合化されている。同様の手順により以下の原料から試料9及び10を得た。
【0074】
【表4】

【実施例5】
【0075】
実施例4で得た試料5〜7につき、熱重量分析を行った。その結果、図3に示すように、試料5〜7は、いずれも450℃近傍においてT50%を示し、高い熱安定性を有していた。
【0076】
また、実施例4で得た試料5〜10につき、イオン伝導度を測定した。イオン伝導度は、複合インピーダンス分光法により、オシレート電圧を100mVとし、10〜106Hzの周波数範囲にわたって評価した。イオン伝導℃の測定結果を表5、図4及び図5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
表5並びに図4及び図5に示すように、試料5〜10は、いずれも良好なイオン伝導度を示した。なかでも、ホウ素源としてMDMBを利用したときには、より高いイオン伝導度を示すことがわかった。また、ケイ素源に対してメシチル基を有するメシチルジメトキシボランをホウ素源として用いるときには、2官能性アルコキシボランの導入によりガラスマトリックスの架橋点が減少し、マトリックスが柔らかくなったことによりイオン伝導度が高まったと考えられた。また、ケイ素とホウ素のモル比が10:1から10:5の範囲においてほぼ同等のイオン伝導度が得られることもわかった。
【0079】
以上、説明したように、ホウ素を金属元素として有するメタロキサン構造を有する無機材料を用いることで、熱安定性を維持しつつ良好なイオン伝導度を得ることができることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体のカチオン成分をリンカーを介して側鎖に有するモノマー単位を含む高分子材料と、
メタロキサン構造を有する無機材料と、
を含む、ガラス質固体である、イオン伝導性材料。
【請求項2】
前記リンカーは、アルキレン基及び/又はポリ(オキシアルキレン)基を主体とする、請求項1に記載のイオン伝導性材料。
【請求項3】
前記モノマー単位は、ラジカル重合性モノマーを主体とする、請求項1又は2に記載のイオン伝導性材料。
【請求項4】
前記モノマー単位は、メタ(アクロイル)モノマー単位を含む、請求項3に記載のイオン伝導性材料。
【請求項5】
前記無機材料は、ケイ素−酸素結合を主体とする、請求項1〜4のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項6】
さらに、リチウム塩を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項7】
前記カチオン成分は、イミダゾール系カチオン成分であり、前記イオン液体のアニオン成分は、スルホニル基含有アニオン成分である、請求項1〜5のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項8】
二次電池であって、
請求項1〜7のいずれかに記載のイオン伝導性材料を固体電界質として備える、二次電池。
【請求項9】
イオン伝導性材料の製造方法であって、
イオン液体のカチオン成分をリンカーを介して側鎖に有する重合性モノマーと、メタロキサン骨格を形成可能な重合性金属化合物との存在下、前記重合性モノマー同士及び前記重合性金属化合物同士とをガラス質固体を得られるよう重合する工程、
を備える、製造方法。
【請求項10】
前記重合工程をリチウム塩の存在下で行う、請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−74351(P2012−74351A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104653(P2011−104653)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】