説明

イオン加速方法及び装置

【課題】ターゲットに照射したレーザー光がもつエネルギーを効率良くイオン加速に利用することができるイオン加速方法及び装置を実現する。
【解決手段】レーザー光3を照射する前段部分2aの電子密度を臨界条件とし、前段部分に後続する後段部分2bの電子密度が漸次に減少する構成のターゲット2を使用し、ターゲットの前段部分にレーザー光を照射して入射したレーザー光の群速度を該前段部分において0にまで減速させることによりレーザー光のエネルギーを電子に伝達し、エネルギーを受け取った前記電子を前段部分に後続する後段部分により漸次的に加速して該電子によりイオンを加速して該後段部分から放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を物質(ターゲット)に照射してイオンを発生させると共に発生したイオンを加速するイオン加速方法及びイオン加速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低密度(空隙率が40〜99.99)の薄い(0.3mm以下)導電性ターゲットに高強度(1016W/cm以上)のレーザー光を照射することにより前記ターゲットの裏面から高速イオンを放出させるイオン放出方法及び装置が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−244863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような高速イオン放出方法及び装置によるイオン加速においては、レーザー光のエネルギーを効率良くイオン加速に利用することができることが望まれる。すなわち、レーザー光のエネルギーを効率良くイオン加速に利用することができれば、装置を小型化することが容易になる。
【0005】
本発明の1つの目的は、ターゲットに照射するレーザー光がもつエネルギーを効率良くイオン加速に利用することができるイオン加速方法及び装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ターゲットにレーザー光を照射することにより該ターゲットから高エネルギーのイオンを放出させるためには、照射したレーザー光のエネルギーをイオン加速に有効に利用することが必要である。
【0007】
ターゲットに入射したレーザー光のエネルギーを電子に伝達してプラズマ状態とする際にレーザー光の群速度を0とすることにより、レーザー光のエネルギーの略100%が電子に伝達される。実際には、レーザー光のエネルギーが少し残るようにする。そして、多量のエネルギーが伝達された電子をレーザー光の残りの低いエネルギーで前方に漸次的に加速してイオンを引き出すようにすると、レーザー光のエネルギーをイオン加速に有効に利用することができる。
【0008】
具体的には、
本発明は、ターゲットに照射されて該ターゲットに入射したレーザー光の伝播速度を0にまで減速させることにより、レーザー光のエネルギーの殆どを前記ターゲットの電子に伝達させる。
【0009】
ターゲットにおける入射したレーザー光の群速度が0に減速する位置までの該ターゲットの前段部分の電子(物質)密度に対して該前段部分に後続する後段部分の電子(物質)密度を小さくする。このような電子密度は、ターゲットを構成する物質の密度を固体密度の10−2〜10−3程度にすることにより実現することができる。
【0010】
ターゲットに照射するレーザー光は、先端部分から後端部分に向かって漸次的に強くなり、後端部分は急峻に減衰する形態のパルス状であり、そのパルス長寸法は、ターゲットに入射して伝播するレーザー光の群速度が0になるまでの該レーザー光の伝播距離である前記前段部分の厚さ寸法と等しくする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ターゲットに照射したレーザー光がもつエネルギーを効率良くイオン加速に利用することができるイオン加速方法及び装置を実現することができる。これにより、レーザー光発生装置の負荷が軽くなって該レーザー光発生装置の小型化が可能になり、また、イオン加速部分も小型化することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、レーザー光をターゲットに照射することによりイオンを加速して前記ターゲットから放出させるイオン加速装置において、
前記ターゲットは、物質密度が固体密度の10−2〜10−3の物質で構成することにより、レーザー光を照射する前段部分の電子密度を臨界条件とし、前記前段部分に後続する後段部分の電子密度が漸次に減少する構成とし、
前記レーザー光発生装置は、先端から後端に向かって漸増するエネルギー分布のパルス状のレーザー光を発生し、前記ターゲットの前記前段部分にレーザー光を照射して該前段部分に入射したレーザー光の群速度を該前段部分において0にまで減速させることによりレーザー光のエネルギーを電子に伝達し、エネルギーが伝達された前記電子を前記前段部分に後続する後段部分により漸次的に加速して該電子によりイオンを加速して該後段部分から放出させるように構成することが好ましい。
【実施例1】
【0013】
この実施例のレーザー加速において、レーザー光を照射してイオンを放出させるターゲットは、レーザー光照射により入射して伝播するレーザー光の群速度を0にまで減速させる電子(物質)密度の前段部分と、前記前段部分に後続するように位置して前記前段部分の電子(物質)密度に対して漸減するような電子(物質)密度分布の後段部分を備え、入射したレーザー光が伝播する方向の前記前段部分の厚さ寸法は入射したレーザー光がパンプデプリート(pump−deplete:減衰)する距離に等しくなると共にレーザー光のパルス長寸法とも等しくなるように構成し、前記後段部分の厚さ寸法は前記前段部分よりも著しく厚い寸法(10倍程度)とすることにより該後段部分においてイオンを漸次的に加速するように構成する。このような電子密度のターゲットは、ターゲットを構成する物質の密度を固体密度の10−2〜10−3程度にすることにより実現することができる。
【0014】
前記ターゲットに照射するレーザー光の強度は、パルス状であって、エネルギー分布がその先端部分から後端部分に向かって漸次的に強くなって後端部分で約1020W/cmの強度となり、この後端部分で急峻に減衰するパルス形態とする構成である。
【0015】
図1は、本発明のイオン加速装置の原理説明図であり、1はレーザー光発生装置、2はターゲット、3はレーザー光発生装置1からターゲット2に照射するレーザー光、4はターゲット2から放出するイオンである。
【0016】
ターゲット2は、入射して播するレーザー光2のエネルギーを電子に受け取ってプラズマ状態とするように機能する比較的高電子(物質)密度の前段部分2aと、多量のエネルギーを受け取ってプラズマ状態になった電子を後端方向に向けて漸次的に加速することにより該電子に引きずられるイオンを漸次的に加速する比較的低電子(物質)密度の後段部分2bを備える。このようなターゲット2は、その物質密度が固体密度の10−2〜10−3程度の構造物とすることによって実現することができる。
【0017】
具体的には、図2に示すように、レーザー光発生装置1から照射されて入射したレーザー光3を速度0にまで減速させる前段部分2aにおけるレーザー光伝播路部分は、比較的に高い電子密度(例えば、プラズマまたは物質中の電子密度を臨界条件にすれば良く、非相対論的レーザー強度で光学領域の場合には、1021cc程度、1020W/cmの相対論的レーザー強度では1022/ccまで高くなる)であり、
その後方に位置して前記前段部分2aで発生した電子を加速することにより該電子に引きずられてイオンが加速する後段部分2bにおけるイオン加速路部分は、前記前段部分2aよりも低い電子密度で後端に向かって該電子密度が漸減(例えば、物質中の電子密度が1021/cc程度から1019/cc程度に減少)するように構成する。
【0018】
また、入射して伝播するレーザー光2の伝播方向に対して直角(横)方向の電子密度は、レーザー光2の伝播路及びイオン加速路部分に対して漸次的に高くなるように構成する。この密度のくぼみの大きさ(半径をRとして)は、L(レーザーの照射の集光幅)の二乗をレーザーの波長λで割った幅にとる。すなわち、R=L/λとなるように構成する。
【0019】
前記後段部分2bの電子密度(物質密度)は、連続的に漸減させるように構成することが望ましいが、この実施例1では、ターゲット2の後端方向に向かって段階的に減少させるように構成する。
【0020】
前記レーザー光発生装置1は、パルス状のレーザー光3を繰り返し発生させてターゲット2に照射する装置であり、ターゲット2に照射するパルス状のレーザー光3の強度は、図3に示すように、パルスの先端部分(強度0)から後端部分に向かって漸次的に強くなって該後端部分で1020W/cm程度の強度となり、この後端部分で急峻に減衰して切れるよな形態に制御する。
【0021】
このように構成したイオン加速装置において、レーザー光発生装置1は、発生したパルス状のレーザー光3をターゲット2に照射する。ターゲット2に照射されて該ターゲット2の前段部分2a内に入射したレーザー光2は該前段部分2a内を後段部分2bに向かって伝播する。このとき、この前段部分2aのプラズマ(または物質中の電子)密度が臨界条件(非相対論的レーザー強度で光学領域の場合には、1021cc程度、1020W/cmの相対論的レーザー強度では1022/ccまで高くなる)となるように構成すると、レーザー光3の群速度を0にすることができる。
【0022】
そこで、このレーザー光3の群速度が0になる前段部分2aのレーザー光伝播方向の厚さ寸法Lとレーザー光3がパンプデプリートする伝播距離(pump−depletion length:レーザー光減衰距離)Lを等しく(L=L)し、且つ、
レーザー光減衰距離Lとレーザー光のパルス長寸法Lpulseを等しく(L=Lpulse)し、
レーザー光3の群速度が0になる前段部分2aの厚さ寸法Lとレーザー光3のパルス長寸法Lpulseを等しく(L=Lpulse)すると、
レーザー光3は、前段部分2aの後端で止まり、エネルギーの略100%をターゲット2中の電子へ伝達することになる。実際には、レーザー光3のエネルギーが少し残るようにする。このことにより、多量のエネルギーが伝達された電子は、残った低いエネルギーによって後方(後段部分2bの方向)に向かって加速され始める。
【0023】
エネルギーが先端から漸次的に増強し、後端で急峻に終端する形態のパルス状のレーザー光3は、このような電子加速に好適である。
【0024】
ターゲット2の前段部分2aの後端で速度が0になったレーザー光3と比較的に低いエネルギーまで加速された電子は、後続する後段部分2bで漸次的に加速する。そして、このように比較的低いエネルギーで加速された電子に引きずられてイオンが引き出されて加速する。
【0025】
ターゲット2の後段部分2bは、レーザー光伝播方向の厚さ寸法Lを前段部分2aのレーザー光伝播方向の厚さ寸法Lよりも著しく厚い寸法(L≫L)にすると共に前端から後端に向かって電子密度が漸次的に低下(1021/ccから1019/ccに低下)する。このことにより、ターゲット2の後段部分2b内を伝播するレーザー光3は、漸次的にその群速度を上げ、従って、励起されるパルス後方の電場(主に静電場)の位相速度を0(≪c)から上げて高速cに近づけていく。そして、励起された静電場を形成する電子は、レーザー光3の群速度の上昇に伴って速度が高速cに達してエネルギーを高めていく。
【0026】
当初0に近い速度で電子にすがりついていたイオンは、これに伴って断熱(漸次)的に加速され、レーザー光3のエネルギーによるイオンの効率的な加速が実現する。
【0027】
このようなターゲット2の厚み寸法L(L+L)は、最大で1mmが好ましい。
【0028】
図4は、前記ターゲット2の構成を示す分解斜視図である。
【0029】
前述したような電子密度分布をもつターゲット2は、例えば、次のようにして作成することができる。
【0030】
極細ファイバーを物質密度が固体密度の10−2〜10−3で厚さが前記レーザー光減衰距離Lに等しい不織布の形態にすると共にレーザー光3の伝播路部分のプラズマ(または物質中の電子)密度が臨界条件となるように形成して前記前段部分2aとし、この前段部分2aに後続する後段部分2bはレーザー光3の伝播路部分のプラズマ(または物質中の電子)密度が前端から後端に向かって漸減するように不織布で形成する。
【0031】
具体的には、前段部分2aは、極細繊維部材の集合体である1枚の不織布2aの形態で形成し、後段部分2bは、電子密度が異なる(少なくなる)複数枚の不織布2b,2b,2b……の形態で形成し、これらを順次に重合して外周縁を枠体2c,2cで支持することにより一体化するようにして作製する。
【0032】
織布を使用して構成する場合には、前段部分2aは、複数枚の薄い織布を織目方向を変えて重合して1つのブロックの形態で形成し、後段部分2bは、薄い複数枚の織布を織目方向を変えて重合して形成した電子密度が異なる(少なくなる)複数ブロックの形態で形成し、これらのブロックを順次に重合して外周縁部を枠体で支持して一体化するようにして作製する。
【0033】
図5は、前述したイオン加速装置を採用して構成したイオン照射装置の全体構成を示す概略図である。
【0034】
レーザー光発生装置1は、パルス状のレーザー光3を繰り返し発生して発出する。反射鏡5a〜5cは、レーザー光発生装置1から発出したレーザー光3をターゲット2に照射するように導く。反射鏡5cは、集光鏡の形態であって、レーザー光3がターゲット2の前端面に焦点を結ぶように集光する。
【0035】
ターゲット2は、前述したように、照射されて入射したレーザー光3の伝播速度を0にまで減速させてそのエネルギーを該ターゲット2の電子に伝達してプラズマ化すると共に前記電子を比較的に低いエネルギーまで加速する比較的に高電子密度の前段部分(2a)を前記レーザー光3が照射される前端面となるように設置する。そして、前記前段部分2aの低いエネルギーで加速された電子を後段部分(2b)において更に漸次的に加速することによりイオン4を加速して後端面から放出するように構成する。
【0036】
前記反射鏡5a〜5cは、真空状態に排気する多関節マニピュレータの関節部内に配置してレーザー光透過窓からレーザー光3を受入れ、ターゲット2を多関節マニピュレータの先端部内に配置して該ターゲット2から放出されたイオンビーム4をイオン透過窓から外部に放射するように構成することにより、がん治療のために患部にイオンを照射するのに好適なイオン照射装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の原理説明図である。
【図2】本発明の実施例1におけるターゲットの密度の分布を示す密度分布図である。
【図3】本発明の実施例1におけるパルス状のレーザー光のエネルギー形態を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例1におけるターゲットの構成を示す分解斜視図である。
【図5】本発明の実施例1であるイオン照射装置の全体構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0038】
1…レーザー光発生装置、2…ターゲット、2a…前段部分、2b…後段部分、2c…枠体、3…レーザー光、4…イオン、5a〜5c…反射鏡。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光をターゲットに照射することによりイオンを加速して前記ターゲットから放出させるイオン加速方法において、
レーザー光を照射する前段部分の電子密度を臨界条件とし、前記前段部分に後続する後段部分の電子密度が漸次に減少する構成のターゲットを使用し、
前記ターゲットの前記前段部分にレーザー光を照射して該前段部分に入射したレーザー光の群速度を該前段部分において0にまで減速させることによりレーザー光のエネルギーを電子に伝達し、エネルギーが伝達された前記電子を前記前段部分に後続する後段部分により漸次的に加速して該電子によりイオンを加速して該後段部分から放出させることを特徴とするイオン加速方法。
【請求項2】
請求項1において、前記ターゲットに照射するレーザー光は、先端から後端に向かって漸増するエネルギー分布のパルス状であり、先端から後端までのパルス長と前記前段部分のレーザー光伝播方向の厚み寸法を等しくすることを特徴とするイオン加速方法。
【請求項3】
レーザー光をターゲットに照射することによりイオンを加速して前記ターゲットから放出させるイオン加速装置において、
前記ターゲットは、レーザー光を照射する前段部分の電子密度を臨界条件とし、前記前段部分に後続する後段部分の電子密度が漸次に減少する構成とし、
前記レーザー光発生装置は、前記ターゲットの前記前段部分にレーザー光を照射して該前段部分に入射したレーザー光の群速度を該前段部分において0にまで減速させることによりレーザー光のエネルギーを電子に伝達させ、エネルギーが伝達された前記電子を前記前段部分に後続する後段部分により漸次的に加速して該電子によりイオンを加速して該後段部分から放出させるように構成したことを特徴とするイオン加速装置。
【請求項4】
請求項3において、前記ターゲットは、物質密度が固体密度の10−2〜10−3の物質で構成したことを特徴とするイオン加速装置。
【請求項5】
請求項3において、前記ターゲットは、前記前段部分の電子密度を1021/cc、前記後段部分の電子密度を1021/cから1019/cc程度に漸減する物質で構成したことを特徴とするイオン加速装置。
【請求項6】
請求項3〜5の1項において、前記ターゲットは、繊維部材の集合体で構成したことを特徴とするイオン加速装置。
【請求項7】
請求項3〜6の1項において、前記レーザー光発生装置は、先端から後端に向かって漸増するエネルギー分布のパルス状のレーザー光を発生する構成であることを特徴とするイオン加速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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