説明

イオン性ポリマー

【課題】高いカチオン輸率を確実に発現できるイオン性ポリマー及び電解質、並びに、電気的特性に優れた電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】一般式(I)で表わされる繰り返し単位構造を有するイオン性ポリマー、並びに、これを用いた電解質及び電気化学デバイス。
【化1】


[式中、n=3〜9の整数、M1+は、アルカリ金属イオンを示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性ポリマー、並びに、これを用いた電解質及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器類などを筆頭に、電池を電力源とする各種機器の小型軽量化の要求が高まってきており、電池特性がさらに向上した電池が強く求められている。そのため、電池の一構成要素である電解質に対しても、高性能化が求められている。
なかでも、リチウム電池は、高エネルギー密度で起電力が高い電池として、携帯電話,PHS(簡易携帯電話),小型コンピューター等の携帯機器類に用いられている。一般に、リチウム電池に用いられる電解質は、有機溶媒にLiPF6やLiBF4等の電解質塩を溶解したものが多く用いられているが、これらの電解質は液体であるため、漏液、凍結、蒸発といった問題があると同時に、形状の自由度・軽量化が困難であるといった問題があった。
【0003】
また、前記した液体の電解質(電解液)をポリマーに保持させたゲル電解質を用いたゲル電解質電池が提案されている。前記ゲル電解質リチウム電池は形状自由度が高く、軽量な外装体とすることができるが、電解質が有機溶媒を含有しているため、まだなお漏液等の虞がある。
【0004】
一方、上記のような電解液を含まない全固体型のリチウムイオン伝導性ポリマー固体電解質をリチウム電池に用いることが1978年にArmandらによって提案されて以来、種々の研究が行われている。このようなポリマー固体電解質は、おもにアルキレンオキシドを単位構造とするポリマーに電解質塩が少なくとも部分的に配位することによってイオン解離し、ポリマー鎖のセグメント運動によってリチウムイオンが輸送されるタイプであり、イオン伝導度の温度依存性はVTF式に従う。前記ポリマー固体電解質は電解液を含有しないため、漏液のない電池を提供することができる。このような固体電解質リチウム電池は、特に電気自動車や電力貯蔵等の用途に開発が進められている。
【0005】
しかしながら、イオン解離性のリチウム塩を溶解しているポリマー固体電解質は、リチウムイオン輸率が極めて低いことが、ポリマー固体電解質電池の電気的特性を制限するひとつの要因となっていた。即ち、ポリマー固体電解質に用いるポリマー中に含まれるエーテル酸素は、リチウムイオンに対して強い配位性を示すため、リチウム塩の解離を促進する一方、エーテル酸素のリチウムイオンに対する配位性が、対アニオンに対する配位性よりも強いため、リチウムイオンがエーテル酸素によって移動を拘束される。このため、リチウムイオンの移動度は小さく、対アニオンの移動度は大きい。即ち、リチウムイオン輸率が低い。そのため、このようなポリマー固体電解質を、例えば電池のように、直流成分の多い用途に用いる電気化学デバイスの電解質として用いると、アノード側(放電時における負極側または充電時における正極側)の塩濃度が上昇し、しかも拡散効果による塩濃度の緩和が充分に期待できないことから、電気化学デバイスの分極が大きくなるといった問題点があった。
【0006】
そこで、ルイス酸性の高いホウ素原子を有する高分子とリチウム塩とを併用することによって、リチウム塩の対アニオンがホウ素原子に配位することにより、リチウム塩の解離性を高めると共に、対アニオンの移動を拘束することで、リチウムイオン輸率を上昇させようとする技術が知られている(従来例1:特許文献1〜6参照)。
【0007】
また、ボレートアニオンを側鎖に有するポリマーを対アニオンとすることによって、リチウムイオン輸率を上昇させようとする技術が知られている(従来例2:特許文献7参照)。
【特許文献1】特開2001−55441号公報
【特許文献2】特開2001−72846号公報
【特許文献3】特開2001−72875号公報
【特許文献4】特開2001−72877号公報
【特許文献5】特開2001−72878号公報
【特許文献6】特開2001−76755号公報
【特許文献7】特開2001−131246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来例1では、リチウム塩を構成する対アニオンの移動を完全に拘束できないため、ポリマー固体電解質のリチウムイオン輸率は十分ではない。また、従来例2では、ボレートアニオン構造の安定性が不充分であり、電気化学デバイス用電解質として用いた場合に、分解される虞れがあった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、高いカチオン輸率を確実に発現できるイオン性ポリマー及び電解質、並びに、電気的特性に優れた電気化学デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る第一のイオン性ポリマーは、下記一般式(I)で表わされる構造単位を有する。
【化3】

[式中、n=3〜9の整数、M1+は、アルカリ金属イオンを示す。]
【0011】
ここで、本発明に係る第一のイオン性ポリマーは、下記一般式(II)で表わされる構造単位をさらに有しても良く、一般式(I)で表わされる構造単位と、一般式(II)で表わされる構造単位とのモル比(e:f)がe:f=5:95〜10:90であることを特徴とする。
【化4】

[式中、nは前記一般式(I)で表わされる構造単位と同様]
【0012】
また、本発明の参考例である第二のイオン性ポリマーは、下記一般式(III)で表わされる構造単位を有する。
【化5】

[式中、m=3〜50の整数、M2+は、アルカリ金属イオンを示す。]
【0013】
ここで、本発明の参考例である第二のイオン性ポリマーは、下記一般式(IV)で表わされる構造単位をさらに有しても良い。
【化6】

[式中、mは前記一般式(III)で表わされる構造単位と同様]
【0014】
上記した本発明に係るイオン性ポリマーによれば、ポリマー鎖を構成するホウ素原子上に負電荷をボレートアニオンとして固定すると共に、正電荷が遊離のアルカリ金属イオンとして解離していることから、ポリマー鎖を、電気化学デバイスにおけるキャリアカチオンの対アニオンとして機能させることができる。これにより、別途リチウム塩を併用することが不要となり、アルカリ金属イオンの移動度を大きく、対アニオンの移動度を小さくすることができる。また、上記ポリマー鎖に関し、ホウ素原子に酸素原子を介さずにメチシル基が直接結合しているので、ボレートアニオン構造の安定性向上が図れる。
よって、本発明のイオン性ポリマーによれば、高いカチオン輸率を確実に発現できるイオン性ポリマーとすることができる。
【0015】
本発明に係る電解質は、本発明に係るイオン性ポリマーを含有するので、高いカチオン輸率を確実に発現できる電解質とすることができる。
【0016】
本発明に係る電気化学デバイスは、本発明に係る電解質を備えるので、電気的特性に優れた電気化学デバイスとすることができる。
【0017】
以下に、本発明の実施形態を例示するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の第一実施形態に係るイオン性ポリマーは、下記一般式(I)で表わされる構造単位を有している。
【化7】

[式中、n=3〜9の整数、M1+は、アルカリ金属イオンを示す。]
【0019】
第一実施形態に係るイオン性ポリマーのモノマーとして好適な一般式(i−1)で表わされる化合物(後に詳述する)のnが2以下の整数であると、重合の際に環化反応が発生し、一般式(I)で表わされる構造単位とならないことから、一般式(I)で表わされる構造単位において、nは3以上とされている。
一方、一般式(i−1)で表わされる化合物の10以上の整数であると、充分な重合度が得られないことから、一般式(I)で表わされる構造単位において、nは9以下とされている。
【0020】
アルカリ金属イオンとしては、特に、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、セシウムイオン(Cs+)を好適に挙げることができる。
【0021】
以下に一般式(I)で表わされる構造単位の好ましい具体例を例示する。
【化8】

【0022】
以下に、一般式(I)で表わされる構造単位を有する第一実施形態に係るイオン性ポリマーの好ましい製造方法について説明する。
【0023】
下記一般式(i−1)で表わされる化合物(式中、nは一般式(I)で表わされる構造単位と同様。以下同様。)と、下記式(X)で表わされるメシチルボランとのヒドロホウ素化重合を行い、一般式(II)で表わされる構造単位(式中、nは一般式(I)で表わされる構造単位と同様。以下同様。)を有するポリマーを得る。
次いで、このポリマーと、化学式PhM1で表わされるフェニルアルカリ化合物とのイオン化反応を行うことによって、一般式(I)で表わされる構造単位を有する第一実施形態に係るイオン性ポリマーが得られる。この製造方法によれば、第一実施形態に係るイオン性ポリマーは、一般式(II)で表わされる構造単位をさらに有し得る。
【化9】

【0024】
ここで、一般式(i−1)で表わされる化合物としては、n=3の化合物、n=4の化合物等を好適に挙げることができる。一般式(i−1)で表わされる化合物は、常法に従ってグリコールをアクリレート化することによって得ることができ、新中村化学工業社製や日本化薬社製などの市販品を入手可能である。
一般式(i−1)で表わされる化合物と、式(X)で表わされるメシチルボランとのモル比は、等量から、メシチルボランが一般式(i−1)で表わされる化合物に対して小過剰となるようにするのが好ましい。
【0025】
ヒドロホウ素化重合は、アルゴン,窒素等の不活性ガス雰囲気下、0℃〜30℃とされた、テトラヒドロフラン等の溶媒中で、両者を6時間〜12時間で混合することにより好適に実施できる。
ここで、一般式(i−1)で表わされる化合物の溶媒中の濃度は、0.5モル/L〜2モル/Lとされるのが好ましい。
重合物質は、n−ヘキサンへの再沈殿やエーテルによる洗浄等の精製工程を経て、一般式(II)で表わされる構造単位を有するポリマーとされるのが好ましい。
一般式(II)で表わされる構造単位を有するポリマーの分子量は、温度条件、混合時間などの重合条件を変えることによって、調整できる。
【0026】
ここで、ポリマーの分子量は、ヒドロホウ素化重合を、例えば、tert−ブチルフェノールを添加することにより停止させ、1H−NMR測定結果におけるtert−ブチル基由来のピークとメシチル基由来のピークから、一般式(II)で表わされる構造単位の繰り返し数dを算出することによって、得ることができる。
上記ヒドロホウ素化重合によれば、一般式(II)で表わされる構造単位を有するポリマーの分子量は、通常、3000〜10000の範囲とされる。
【0027】
また、化学式PhM1で表わされるフェニルアルカリ化合物としては、フェニルリチウム、フェニルナトリウム、フェニルカリウム、フェニルセシウム等が挙げられる。
イオン化反応は、0℃〜30℃においてテトラヒドロフラン,ジエチルエーテル等の溶媒中で、両者を6時間〜12時間撹拌することにより好適に実施できる。
ここで、一般式(II)で表わされる構造単位を有するポリマーの溶媒中の濃度は、1mol/L以上とされるのが好ましい。
イオン化反応後の物質は、ヘキサンへの再沈殿,エーテルによる洗浄等の精製工程を経て、一般式(I)で表わされる構造単位を有するイオン性ポリマーとされるのが好ましい。
【0028】
一般式(II)で表わされる構造単位を有するポリマーと、フェニルアルカリ化合物との混合比を調整することによって、イオン性ポリマーにおける一般式(I)で表わされる構造単位と、一般式(II)で表わされる構造単位とのモル比(e:f)を調整できる。
一般式(II)で表わされる構造単位の繰り返し数dに対するフェニルアルカリ化合物の比を10モル%となるように、一般式(II)で表わされる構造単位を有するポリマーと、フェニルアルカリ化合物とを混合すれば、e:f=5:95〜10:90程度のイオン性ポリマーを好適に得ることができる。
【0029】
本発明の第二実施形態に係るイオン性ポリマーは、下記一般式(III)で表わされる構造単位を有している。
【化10】

[式中、m=3〜50の整数、M2+は、アルカリ金属イオンを示す。]
【0030】
第二実施形態に係るイオン性ポリマーのモノマーとして好適な一般式(ii−1)で表わされる化合物(後に詳述する)のmが2以下の整数であると、重合の際に環化反応が発生し、一般式(III)で表わされる構造単位とならないことから、一般式(III)で表わされる構造単位において、mは3以上とされている。
一方、一般式(ii−1)で表わされる化合物のmが51以上の整数であると、充分な重合度が得られないことから、一般式(III)で表わされる構造単位において、mは50以下とされている。
【0031】
アルカリ金属イオンとしては、特に、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、セシウムイオン(Cs+)を好適に挙げることができる。
【0032】
以下に一般式(III)で表わされる構造単位の好ましい具体例を例示する。
【化11】

【0033】
以下に、一般式(III)で表わされる構造単位を有する第二実施形態に係るイオン性ポリマーの好ましい製造方法について説明する。
【0034】
下記一般式(ii−1)で表わされる化合物(式中、mは一般式(III)で表わされる構造単位と同様。以下同様。)と、下記式(X)で表わされるメシチルボランとの脱ヒドロカップリング重合(あるいはデヒドロカップリング重合)を行い、一般式(IV)で表わされる構造単位(式中、mは一般式(III)で表わされる構造単位と同様。以下同様。)を有するポリマーを得る。
次いで、このポリマーと、化学式PhM2で表わされるフェニルアルカリ化合物とのイオン化反応を行うことによって、一般式(III)で表わされる構造単位を有する第二実施形態に係るイオン性ポリマーが得られる。この製造方法によれば、第二実施形態に係るイオン性ポリマーは、一般式(IV)で表わされる構造単位をさらに有し得る。
【化12】

【0035】
ここで、一般式(ii−1)で表わされる化合物としては、m=3の化合物、m=4の化合物等を挙げることができ、Aldrich社製などの市販品を入手可能である。
一般式(ii−1)で表わされる化合物と、式(X)で表わされるメシチルボランとのモル比は、ほぼ1:1、もしくは、メシチルボランが一般式(ii−1)で表わされる化合物に対して小過剰となるようにするのが好ましい。
【0036】
脱ヒドロカップリング重合は、アルゴン,窒素等の不活性ガス雰囲気下、0℃〜30℃とされた、テトラヒドロフラン,クロロホルム,トルエン等の溶媒中で、両者を6時間〜12時間で混合することにより好適に実施できる。
ここで、一般式(ii−1)で表わされる化合物の溶媒中の濃度は、1mol/L以上とされるのが好ましい。
重合物質は、n−ヘキサンへの再沈殿やエーテルによる洗浄等の精製工程を経て、一般式(IV)で表わされる構造単位を有するポリマーとされるのが好ましい。
一般式(IV)で表わされる構造単位を有するポリマーの分子量は、温度条件、混合時間などの重合条件を変えることによって、調整できる。
【0037】
ここで、ポリマーの分子量は、脱ヒドロカップリング重合を、例えば、tert−ブチルフェノールを添加することにより停止させ、1H−NMR測定結果におけるtert−ブチル基由来のピークとメシチル基由来のピークから、一般式(IV)で表わされる構造単位の繰り返し数gを算出することによって、得ることができる。
上記脱ヒドロカップリング重合によれば、一般式(IV)で表わされる構造単位を有するポリマーの分子量は、通常、900〜2500の範囲とされる。
【0038】
また、化学式PhM2で表わされるフェニルアルカリ化合物としては、フェニルリチウム、フェニルナトリウム、フェニルカリウム、フェニルセシウム等が挙げられる。
イオン化反応は、0℃〜30℃とされたテトラヒドロフラン,ジエチルエーテル等の溶媒中で、両者を6時間〜12時間混合することにより好適に実施できる。
ここで、一般式(IV)で表わされる構造単位を有するポリマーの溶媒中の濃度は、1mol/Lであるのが好ましい。
イオン化反応後の物質は、ヘキサンへの再沈殿,エーテルによる洗浄等の精製工程を経て、一般式(IV)で表わされる構造単位を有するイオン性ポリマーとされるのが好ましい。
【0039】
一般式(IV)で表わされる構造単位を有するポリマーと、フェニルアルカリ化合物との混合比を調整することによって、イオン性ポリマーにおける一般式(III)で表わされる構造単位と、一般式(IV)で表わされる構造単位とのモル比(h:i)を調整できる。
一般式(IV)で表わされる構造単位の繰り返し数gに対するフェニルアルカリ化合物の比を10モル%となるように、一般式(IV)で表わされる構造単位を有するポリマーと、フェニルアルカリ化合物とを混合すれば、h:i=5:95〜10:90のイオン性ポリマーを好適に得ることができる。
【0040】
以上の本発明の第一及び第二実施形態に係るイオン性ポリマーによれば、高いカチオン輸率を確実に発現できるイオン性ポリマーとすることができる。
イオン性ポリマーの応用例としては、後述するように、電気化学デバイス等の電解質を好適に挙げることができる。
【0041】
本発明の実施形態に係る電解質は、本発明の実施形態に係るイオン性ポリマーを含有しているので、高いカチオン輸率を確実に発現できる電解質とすることができる。
また、本発明の実施形態に係る電解質は、必要に応じて、さらに別のイオン性化合物を含有することもできる。
【0042】
このようなイオン性化合物としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiAsF6,LiPF6,LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li210Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN,LiAlCl4,LiSbF6,LiCl等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiC(CF3SO23,LiC(C25SO23,LiCF3CO2,LiPF3(C253,LiPF3(CF33,(CH34NBF4,(CH34NBr,(C254NClO4,(C254NI,(C374NBr,(n−C494NClO4,(n−C494NI,(C254N−maleate,(C254N−benzoate,(C254N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0043】
本発明の実施形態に係る電気化学デバイスは、本発明の実施形態に係る電解質を備えるので、電気的特性に優れた電気化学デバイスとすることができる。電気化学デバイスとしては、リチウム一次電池、リチウム二次電池、リチウムイオン電池、燃料電池、太陽電池、電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。本発明の実施形態に係る電気化学デバイスがリチウム電池である場合は、イオン性化合物がキャリアイオンとしてリチウムイオンを有することが好ましいことから、M1+がリチウムイオンとされた一般式(I)またはM2+がリチウムイオンとされた一般式(III)で表わされる構造単位を有するイオン性ポリマーを含有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0044】
請求項1,2に係るイオン性ポリマーによれば、高いカチオン輸率を確実に発現できるイオン性ポリマーを提供できる。
【0045】
請求項3に係る電解質によれば、本発明に係るイオン性ポリマーを含有するので、高いカチオン輸率を確実に発現できる電解質を提供できる。
【0046】
請求項4に係る電気化学デバイスは、本発明に係る電解質を備えるので、電気的特性に優れた電気化学デバイスを提供できる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0048】
(実施例1)
テトラエチレングリコールジアクリレート0.510gとメチシルボラン0.318gとを20℃、アルゴン下でテトラヒドロフラン2ml中で、6時間撹拌させた後に、tert−ブチルフェノール0.45gを添加した。さらに、n−ヘキサン中での再沈殿により精製することにより、一般式(II)で表される構造単位を有するポリマーDを0.193g得た(収率25%、下記1H−NMR参照)。ポリマーDの分子量は、約2900であった。
【0049】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.44−1.59(4H)、2.09−2.35(9H)、3.31(4H)、3.45−3.59(16H)、6.65−6.71(2H)
【0050】
次に、ポリマーD0.19gと、1規定フェニルリチウム/シクロヘキサン溶液0.1mlとを、0℃のテトラヒドロフラン中で12時間撹拌させ、ジエチルエーテルで洗浄することにより、一般式(I)で表わされる構造単位と一般式(II)で表わされる構造単位とを有するイオン性ポリマーCを得た。イオン性ポリマーCを実施例1の電解質とする。
【0051】
(参考例1)
テトラエチレングリコール0.298gとメシチルボラン0.289gとを20℃、アルゴン下でテトラヒドロフラン1.5ml中で、6時間撹拌させた後に、tert−ブチルフェノール0.45gを添加した。さらに、n−ヘキサン中での再沈殿により精製することにより、一般式(IV)で表される構造単位を有するポリマーHを0.759gで得た(収率80%、下記1H−NMR,11B−NMR参照)。ポリマーHの分子量は、約1900であった。
【0052】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.17−2.25(9H)、3.47−3.61(12H)、3.86−3.87(4H)、6.66−6.70(2H)
11B−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):31.5
【0053】
次に、ポリマーH0.557gと、1規定フェニルリチウム/シクロヘキサン溶液0.164mlとを、0℃のテトラヒドロフラン中で3時間撹拌させ、ジエチルエーテルで洗浄することにより、一般式(III)で表わされる構造単位と一般式(IV)で表わされる構造単位とを有するイオン性ポリマーG(下記11B−NMR参照)を得た。イオン性ポリマーGを実施例2の電解質とする。
【0054】
11B−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.62,30.8
【0055】
11B−NMRにおける、ホウ酸に由来するピークと、ホウ酸塩に由来するピークとから、一般式(III)で表わされる構造単位と一般式(IV)で表わされる構造単位の比(h:i)は、1:15.022であった。
【0056】
(比較例1)
トリエチレングリコールジアクリレート0.435gとメチシルボラン0.313gとを20℃、アルゴン下でテトラヒドロフラン2ml中で、6時間撹拌させた後に、tert−ブチルフェノール0.45gを添加した。さらに、n−ヘキサン中での再沈殿により精製することにより、一般式(II)で表される構造単位を有するポリマーBを0.190g得た(収率27%)。ポリマーBの分子量は、約2400であった。
ポリマーB0.313gと、LiCF3SO3 0.013gを、20℃のテトラヒドロフラン中で3時間撹拌させ、溶媒を除き減圧乾燥することにより得られた得られた生成物を比較例1の電解質とする。
【0057】
(比較例2)
前記(参考例1)で製造したポリマーH0.289gと、LiClO4 0.011gを、20℃のテトラヒドロフラン中で3時間撹拌させ、溶媒を除き減圧乾燥することにより得られた得られた生成物を比較例2の電解質とする。
【0058】
(比較例3)
前記(参考例1)で製造したポリマーH0.612gと、LiCF3SO3 0.029gを、20℃のテトラヒドロフラン中で3時間撹拌させ、溶媒を除き減圧乾燥することにより得られた得られた生成物を比較例3の電解質とする。
【0059】
(リチウムイオン輸率の測定)
次に、実施例に係る電解質の電気的特性を評価した。厚さ100μmの金属リチウムをニックル板集電体に圧着してなる一対の電極を用意し、実施例と比較例の電解質を用いて電気化学デバイスを作成した。電極は直径13mmの円形とした。前記電気化学デバイスを用い、直流分極法によりリチウムイオン輸率を測定した。測定温度はいずれも30℃とした。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果に示すように、実施例の電解質は、リチウムイオン輸率が0.5以下であった比較例の電解質と比較して、リチウムイオン輸率が著しく向上しており、電気化学デバイス用電解質として十分なリチウムイオン輸率を有していることが確認された。同時に、これを用いた電気化学デバイスは分極が抑えられていることが前記測定によって実証された。
以上のことから、リチウム一次電池、リチウム二次電池、リチウムイオン電池、燃料電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスの電解質として本発明に係る電解質を用いると、漏液がなく形状自由度の高い電気化学デバイスを提供できるだけでなく、放電等直流成分の多い用途に用いた場合の分極を小さくできるので、放電性能、繰り返し充放電サイクル性能等電気的特性に優れた高い電気化学デバイスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされる構造単位を有するイオン性ポリマー。
【化1】

[式中、n=3〜9の整数、M1+は、アルカリ金属イオンを示す。]
【請求項2】
下記一般式(II)で表わされる構造単位をさらに有し、一般式(I)で表わされる構造単位と、一般式(II)で表わされる構造単位とのモル比(e:f)がe:f=5:95〜10:90である請求項1に記載のイオン性ポリマー。
【化2】

[式中、nは前記一般式(I)で表わされる構造単位と同様]
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイオン性ポリマーを含有する電解質。
【請求項4】
請求項3に記載の電解質を備える電気化学デバイス。

【公開番号】特開2007−182580(P2007−182580A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29698(P2007−29698)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【分割の表示】特願2002−270807(P2002−270807)の分割
【原出願日】平成14年9月17日(2002.9.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2002年7月16日 アメリカ化学会発行の「Macromolecules(マクロモレキュルス) 35巻 15号」に発表
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】