説明

イオン性洗剤によるポリメラーゼ安定化

本発明は、(i)核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素、(ii)不活性タンパク質および、(ii)
両性イオン性洗剤を含む組成物に関する。本発明は、また、(i)核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素、(ii)不活性タンパク質および、(ii)両性イオン性洗剤を含む組成物に関する。本発明は更に、(a)ポリメラーゼ活性、核酸鋳型、両性イオン性洗剤、緩衝液、塩、ヌクレオチドおよび不活性タンパク質を反応混合物に提供する工程および、(b)反応混合物を核酸合成可能な温度でインキュベートする工程を含む酵素的核酸合成方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の安定化、特に、イオン性、特に両性イオン性洗剤および不活性タンパク質を含有する水溶液におけるポリメラーゼの安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素の安定化は、多くの生化学的および生物工学的方法における長期保存および利用にとって必要である。酵素は、熱による変性に対して安定している好熱性生物から単離されてきている。しかし、高い熱安定性を有する酵素でさえも、化学薬品、プロテアーゼまたは環境変異により不活性化されうる。熱安定性および他の酵素の精製および/または利用は、多くの場合、非常な高温、補助因子および基質の最適ではない(sub-optimal)濃度を有する水性環境、並びに最大酵素安定性には最適ではないpHを含む変性条件の同時使用を必要とする。
【0003】
多くの安定化技術が知られている。これらの技術には、固体基質上での酵素の固定化、酵素の化学修飾、酵素の遺伝子操作および安定化添加剤の添加が含まれる。界面活性剤は、酵素を安定化することが示されている一群の添加剤である。洗剤(detergents)とも呼ばれる界面活性剤は、活性形態の酵素とそれらが含有されている液体環境との界面を安定化させる表面活性化合物である。
【0004】
例えば、米国特許第6,242,235B1号は、ポリエトキシル化(polyethoxylated)アミン界面活性剤によるポリメラーゼの安定化を開示する。ここでは、ポリメラーゼ安定化のためのカチオン性界面活性剤も開示されている。
【0005】
非イオン性洗剤は、酵素活性を有する多様なタンパク質(例えば、cAMP依存性タンパク質キナーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、酸化窒素シンターゼ、トリプトファンヒドロキシラーゼおよびサツマイモベータアミラーゼ)の溶液安定性を増加することがさまざまに示されている。
【0006】
加えて、TRITON X-100およびTween 20のような非イオン性洗剤が、DNAポリメラーゼの活性を安定化することが示されている(Biochem. 14: 789-95, 1975)。
【0007】
参照として本明細書に組み込まれる欧州特許出願第776,970A1号は、熱安定性Taq DNAポリメラーゼの活性を安定化するための、ポリエトキシル化ソルビタンモノラウレート(Tween 20)およびエトキシル化アルキルフェノール(NP-40)を含む非イオン性洗剤の使用を開示する。
【0008】
低濃度のアニオン性洗剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が、酵素活性を安定化することが示されている。しかし、協同的結合の可能性のために、SDSの最適濃度が溶液中で超過すると、タンパク質安定化においけるSDSの使用が制限される。しかし、多くのカチオン性洗剤は、SDSのような強力なアニオン性洗剤よりも少ない強度でタンパク質に結合することが知られている(Nozakiら, J. Biol. Chem. 249: 4452-59, 1974)。
【0009】
更に、大部分のタンパク質は、アニオン性結合部位よりも少ないカチオン性結合部位を有する。
【0010】
米国特許第6,787,305B1号は、酵素安定剤として窒素含有有機化合物、好ましくは4−メチルモルホリンN−オキシドまたはベタイン(カルボキシメチルトリメチルアンモニウム)を開示する。米国特許第6,787,305B1号に開示されている反応は、プロリンおよびN−アルキルイミダゾール化合物からなる群より選択される1つ以上の化合物、より好ましくはプロリン、1−メチルイミダゾールまたは4−メチルイミダゾールを更に含むことができる。
【0011】
WO99/67371は、カチオン性界面活性剤による酵素の安定化を開示する。特に、ポリエトキシル化アミンが開示されている。
【0012】
US2006/0035360号は、精製された熱安定性酵素、特に外生的な洗剤を含有しない熱安定性DNAポリメラーゼを提供する方法および組成物に関する。この出願は、Tween 20、Iconol NP-40、Mega-8、Mega-9、Mega-10、アルキルグリコシドおよびアルキル第三級アミンN−オキシドからなる群より選択される1つ以上の洗剤の添加も開示する。
【0013】
前記アルキルグリコシドは、オクチル−ベータ−D−グルコピラノシドおよびドデシル−ベータ−D−マルトシドから選択することができる。
【0014】
米国特許第6,127,155号は、非イオン性ポリマー洗剤を含有する組成物の使用による熱安定性核酸ポリメラーゼの安定化に関する。
【0015】
上記に記載された技術の欠点は、多様な場合において、(i)変性効果が高く、(ii)陽または陰電荷があり、(iii)凝集分裂の効率が低く、(iv)多くの場合に反応の実施後の洗剤除去が困難であることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6,242,235B1号
【特許文献2】欧州特許出願第776,970A1号
【特許文献3】米国特許第6,787,305B1号
【特許文献4】WO99/67371
【特許文献5】US2006/0035360号
【特許文献6】米国特許第6,127,155号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Biochem. 14: 789-95, 1975
【非特許文献2】Nozakiら, J. Biol. Chem. 249: 4452-59, 1974
【0018】
したがって、例えば低変性効果、無電荷、高い凝集分解効率を有する、および/または、関与した洗剤が反応後に容易に除去される、ポリメラーゼを安定化する洗剤を1つ以上含む方法および組成物が必要とされている。
【0019】
発明の記載
本発明は、酵素、特にポリメラーゼを安定化する組成物および方法に関する。本発明者らは、驚くべきことに、(a)核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素、(b)不活性タンパク質および、(c)イオン性洗剤を含む組成物が、酵素、特にポリメラーゼにとって理想的な安定剤であることを見出した。
不活性タンパク質とは、酵素活性または当該の酵素反応を妨げない、天然に生じる、または合成のペプチドもしくはポリペプチド、またはこれらの混合物を意味する。本発明の範囲を制限しない例は、グロブリン、アルブミン、コラーゲンおよびそれらの誘導体である。
核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素とは、リボヌクレオシドトリホスフェートまたはデオシキヌクレオシドトリホスフェートから核酸鎖(例えば、RNAまたはDNA)を合成する酵素の能力を意味する。DNAポリメラーゼは、DNAを合成し、一方、RNAポリメラーゼは、RNAを合成する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、好ましい両性イオン性洗剤を示す。
【図2】図2は、試験した全ての洗剤は、異なる最適濃度ではあるが、ポリメラーゼを安定化し、PCRの性能を増強できたことを示す(500bpのPCR産物の生成により実証されている)。これに対し、BSA単独によるが洗剤なしのPCR(陰性対照)は、産物を全く生成することができなかった。幾つかの他のPCR系も試験し、同様の結果を得た:ヒトcyst(1.5kbの産物)、ネズミPKC(2kb)、ヒトprp(750bp)(データは示さず)。
【図3】図3中の実験は、BSAとの組み合わせが、ポリメラーゼの安定性を増強するイオン性、好ましくは両性イオン性洗剤の機能にとって必須であるという観察を再現した。
【図4】図4は、BSAと両性イオン性洗剤との組み合わせが、特にTaqポリメラーゼ活性を増強することを示す。
【0021】
本発明で使用されるとき、用語「酵素」は、化学的および生物学的反応を触媒することに関与する分子または分子凝集体を意味する。そのような分子は、典型的にはタンパク質であるが、短ペプチド、RNA、リボザイム、抗体および他の分子を含むこともできる。化学的および生物学的反応を触媒する分子は、「酵素活性を有する」または「触媒活性を有する」といわれる。
【0022】
本発明で使用されるとき、用語「安定化」、「安定化する」および「安定化された」は、酵素活性に関連して使用される場合、多くの場合に経時的に測定される酵素の活性を維持する、増強する、そうでなければその減退または損失を抑制する物質の能力を意味する(すなわち、安定剤の存在下において、酵素は、安定剤の不存在下での酵素よりも長時間その活性を保持する)。「酵素活性の安定化」は、最適ではない温度またはpHの条件下で酵素の活性を維持する物質の能力も意味する。別の例として、「酵素活性を活性化する」は、「安定化する」化合物または物質の不存在下での活性と比較して、最適ではない条件下で酵素活性を増強する物質の能力を意味する。
【0023】
用語「ポリメラーゼ」は、リボヌクレオシドトリホスフェートまたはデオシキヌクレオシドトリホススフェートから核酸鎖(例えば、RNAまたはDNA)を合成する酵素を意味する。
【0024】
ポリメラーゼ活性を有する多様なポリペプチドが、本発明よれば有用である。これらのポリペプチドのうちに含まれるものは、核酸ポリメラーゼ(DNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼを含む)のような酵素である。そのようなポリメラーゼには、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)(Tth)DNAポリメラーゼ、サーマス・アクアチクス(Thermus aquaticus)(Taq)DNAポリメラーゼ、サーモトガ・ネオポリタナ(Thermotoga neopolitana)(Tne)DNAポリメラーゼ、サーモトガ・マルティマ(Thermotoga maritima)(Tma)DNAポリメラーゼ、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)(TliまたはVENT.TM.)DNAポリメラーゼ、サーマス・エゲルツォッニ(Thermus eggertssoni)(Teg)DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)(Pfu)DNAポリメラーゼ、DEEPVENT.DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・ウーシー(Pyrococcus woosii)(Pwo)DNAポリメラーゼ、パイロコッカスsp KDD2(KOD)DNAポリメラーゼ、バチルス・ステロサーモフィラス(Bacillus sterothermophilus)(Bst)DNAポリメラーゼ、バチルス・カリドフィラス(Bacillus caldophilus)(Bca)DNAポリメラーゼ、スルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)(Sac)DNAポリメラーゼ、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)(Tac)DNAポリメラーゼ、サーマス・フラバス(Thermus flavus)(Tfl/Tub)DNAポリメラーゼ、サーマス・ルーベル(Thermus ruber)(Tru)DNAポリメラーゼ、サーマス・ブロキアヌス(Thermus brockianus)(DYNAZYME)DNAポリメラーゼ、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)(Mth)DNAポリメラーゼ、マイコバクテリウムDNAポリメラーゼ(Mtb,Mlep)、並びに化学修飾を有する酵素およびHotStar Taqポリメラーゼ(キアゲン(QIAGEN))のようなホットスタートポリメラーゼを含むそれらの変異体、変種および誘導体が含まれるが、これらに限定されない。T3、T5およびSP6並びにそれらの変異体、変種および誘導体のようなRNAポリメラーゼも、本発明により使用することができる。好ましいDNAポリメラーゼは、サーマス・エゲルツォッニ(Thermus eggertssoni)(Teg)である。
【0025】
本発明に使用される核酸ポリメラーゼは、中温性または好熱性であることができ、好ましくは好熱性である。好ましい中温性DNAポリメラーゼには、T7 DNAポリメラーゼ、T5 DNAポリメラーゼ、クレノーフラグメントDNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼIIIなどが含まれる。本発明の方法および組成物に使用することができる好ましい熱安定性DNAポリメラーゼには、Teg、Taq、Tne、Tma、Pfu、Tfl、Tth、ストッフェルフラグメント、VENT.およびDEEPVENT DNAポリメラーゼ、並びにそれらの変異体、変種および誘導体が含まれる(米国特許第5,436,149号;米国特許第4,889,818号;米国特許第4,965,188号;米国特許第5,079,352号;米国特許第5,614,365号;米国特許第5,374,553号;米国特許第5,270,179号;米国特許第5,047,342号;米国特許第5,512,462;WO92/06188;WO92/06200;WO96/10640;Barnes, W. M., Gene 112:29-35 (1992);Lawyer, F. C.ら, PCR Meth. Appl. 2:275-287 (1993);Flaman, J.-Mら, Nucl. Acids Res. 22(15):3259-3260 (1994)(米国特許法のため、これらは全て個別に、そして組み合わされて参照として本明細書に組み込まれる))。長い核酸分子(例えば、長さが約3〜5Kbよりも長い核酸分子)の増幅では、少なくとも2つのDNAポリメラーゼ(一方は、3′エキソヌクレアーゼ活性を実質的に欠いており、他方は、3′エキソヌクレアーゼ活性を有している)が、典型的に使用される。米国特許第5,436,149号;米国特許第5,512,462号;Barnes, W. M., Gene 112:29-35 (1992)および1997年2月14日出願の同時係属米国特許出願第08/801,720号(これらの開示はその全体が参照として本明細書に組み込まれる)を参照すること。3′エキソヌクレアーゼ活性を実質的に欠いているDNAポリメラーゼの例には、Taq、Tneexo-、Tmaexo-、Pfuexo-、Pwoexo-およびTth DNAポリメラーゼ、並びにそれらの変異体、変種および誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の幾つかの態様において、酵素は組み換え型である。特定の態様において、酵素はTaqではない。一態様において、酵素は天然酵素ではない。
【0026】
本発明に使用される逆転写酵素活性を有するポリペプチドには、逆転写酵素活性を有する任意のポリペプチドが含まれる。そのような酵素には、レトロウイルス逆転写酵素、レトロトランスポゾン逆転写酵素、B型肝炎逆転写酵素、カリフラワーモザイクウイルス逆転写酵素、細菌逆転写酵素、Tth DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ(Saiki, R. K.ら, Science 239:487-491 (1988);米国特許第4,889,818号および同第4,965,188号)、Tne DNAポリメラーゼ(WO96/10640)、Tma DNAポリメラーゼ(米国特許第5,374,553号)およびこれらの変異体、変種または誘導体が含まれるが、これらに限定されない(例えば、両方とも1996年9月9日に出願されている、A. John HughesおよびDeb K. Chattedeeの同時係属米国特許出願第08/706,702号および同第08/706,706号(これらはその全体が参照として本明細書に組み込まれる)を参照すること)。本発明に使用にされる好ましい酵素には、RNase H活性が低減されているかまたは実質的に低減されているものが含まれる。「RNase H活性が実質的に低減されている」酵素とは、酵素が、野生型モロニーマウス白血病ウイルス(M−MLV)、鳥類骨髄芽球症ウイルス(AMV)またはラウス肉腫ウイルス(RSV)逆転写酵素のような対応する野生型またはRNase H+酵素の、約20%未満、より好ましくは約15%、10%または5%未満、最も好ましくは約2%未満のRNase H活性を有することを意味する。いずれの酵素のRNase H活性も、例えば、米国特許第5,244,797号、Kotewicz, M. L.ら, Nucl. Acids Res. 16:265 (1988)およびGerard, G. F.ら, FOCUS 14(5):91 (1992)(これらの開示は、全て参照として本明細書に完全に組み込まれる)に記載されているような多様なアッセイにより測定することができる。本発明に使用される特に好ましいそのようなポリペプチドには、M−MLV H逆転写酵素、RSV H-逆転写酵素、AMV H-逆転写酵素、RAV(ラウス関連ウイルス)H-逆転写酵素、MAV(骨髄芽球症関連ウイルス)H-逆転写酵素およびHIV H-逆転写酵素が含まれるが、これらに限定されない。しかし、RNase H活性が実質的に低減されている(すなわち、逆転写酵素活性を有する)リボ核酸分子からDNA分子を産生できるいずれの酵素も、本発明の組成物、方法およびキットにおいて同等に使用できることが、当業者には理解される。
【0027】
本発明に使用されるDNAおよびRNAポリメラーゼは、例えばキアゲン(QIAGEN)(ヒルデン、ドイツ)、インビトロジェン社(Invitrogen, Inc.)(カールズバッド、CA.)、ニューイングランドバイオラボズ(New England BioLabs)(ベバリー、Mass.)またはロシュバイオケミカルズ(ROCHE Biochemicals)から市販品として得ることができる。本発明に使用される逆転写酵素活性を有するポリペプチドは、例えばキアゲン(ヒルデン、ドイツ)、インビトロジェン社(カールズバッド、CA.)、ファルマシア(Pharmacia)(ピスカタウェイ、N.J.)、シグマ(Sigma)(セントルイス、Mo.)またはロシュ(ペンツベルグ、ドイツ)から市販品として得ることができる。または、逆転写酵素活性を有するポリペプチドは、当業者に周知の天然タンパク質を単離および精製する標準的方法に従って、それらの天然のウイルスまたは細菌供給源から単離することができる(例えば、Houts, G. E.ら, J. Virol. 29:517 (1979)を参照すること)。また、逆転写酵素活性を有するポリペプチドは、当業者に良く知られている組み換えDNA技術により調製することができる(例えば、Kotewicz, M. L.ら, Nucl. Acids Res. 16:265 (1988); Soltis, D. A., およびSkalka, A. M., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:3372-3376 (1988)を参照すること)。
【0028】
ポリメラーゼまたは逆転写酵素活性を有するポリペプチドは、好ましくは、1ミリリットルあたり約0.1〜200単位の範囲、1ミリリットルあたり約0.1〜50単位の範囲、1ミリリットルあたり約0.1〜40単位の範囲、1ミリリットルあたり0.1〜3.6単位の範囲、1ミリリットルあたり約0.1〜34単位の範囲、1ミリリットルあたり約0.1〜32単位の範囲、1ミリリットルあたり約0.1〜30単位の範囲または1ミリリットルあたり約0.1〜20単位の範囲の溶液中の最終濃度、最も好ましくは1ミリリットルあたり約20〜40単位の範囲の濃度で、本発明の組成物および方法に使用される。当然のことながら、本発明における使用に適切なそのようなポリメラーゼまたは逆転写酵素の他の適切な濃度は当業者には明らかであり、異なるポリメラーゼの最適な範囲は異なり得る。
【0029】
米国特許第6,242,235B1号の開示と対照的に、驚くべきことに、不活性タンパク質の添加はイオン性洗剤の適用を可能にすることが見出された。
【0030】
好ましい態様において、イオン性洗剤は両性イオン性洗剤である。そのような両性イオン性洗剤は、(i)3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、(ii)3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート(CHAPSO)、(iii)N−(アルキルC10〜C16)−N,N−ジメチルグリシンベタイン(EMPIGEN BB)、(iv)カプリリルスルホベタイン(SB3-10)、(v)3−〔N,N−ジメチル(3−ミリストイルアミノプロピル)アンモニオ〕プロパンスルホネート(アミドスルホベタイン−14;ASB-14)、(vi)N−テトラデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート(3-14 Detergent;ZWITTERGENT)、(vii)N−ドデシル−N,N′−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、(viii)N−オクタデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、(ix)N−デシル−N,N−ジメチル−3−アンモニウム−1−プロパンスルホネート、(x)Mirataine CB、(xi)Mirataine BB、(xii)Mirataine CBR、(xiii)Mirataine ACS、(ivx)Miracare 2MHTおよび(vx)Miracare 2MCAを含む群から選択することができる。一態様において、両性イオン性洗剤は、CHAPSを除く上記の群から選択される。
【0031】
特に好ましい両性イオン性洗剤は、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート(CHAPSO)およびN−(アルキルC10〜C16)−N,N−ジメチルグリシンベタイン(EMPIGEN BB)である。
【0032】
本発明で使用されるとき、用語「洗剤」は、液体に添加された場合、洗剤の不存在下での同じ液体と比較して液体の表面張力を低減する両親媒性表面活性作用物質(「界面活性剤」)を意味する。例えば、Detergents: A guide to the properties and uses of detergents in biological systems, Calbiochem-Novabiochem Corporation, 2001(これはその全体が参照として本明細書に組み込まれる)を参照すること。
【0033】
最も好ましい両性イオン性洗剤は、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート(CHAPSO)である。
【0034】
一態様において、不活性タンパク質は、不活性な天然または合成ペプチド、ポリペプチド、グロブリン、コラーゲン、アルブミン、並びにそれらの誘導体、またはそれらのフラグメントもしくはフラクションの群から選択される。ここで、タンパク質は、好ましくは、約0.01mg/ml超、約0.05mg/ml超および約0.1mg/ml超の濃度で優先的に存在する。理想的には、濃度は約2mg/mlを超えない。
【0035】
好ましい態様において、不活性タンパク質は、ウシ血清アルブミン(BSA)、並びにその誘導体およびフラグメントである。そのフラグメントは、天然に生じるBSAの約50%を超える長さ、天然に生じるBSAの約60%を超える長さ、天然に生じるBSAの約70%を超える長さ、天然に生じるBSAの約80%を超える長さ、天然に生じるBSAの約90%を超える長さであり、最も好ましくは、天然に生じるBSAの約95%を超える長さである。
【0036】
好ましい態様において、不活性タンパク質はウシ血清アルブミン(BSA)であり、前記タンパク質は、約0.01mg/ml超、約0.05mg/ml超および約0.1mg/ml超の群から選択される濃度で存在し、理想的には、濃度は約2mg/ml未満である。最も好ましくは、BSAは、約0.1mg/ml〜2mg/mlの範囲の濃度で存在する。
【0037】
好ましい態様において、イオン性洗剤は、約0.0005容量%〜5.0容量%の範囲の濃度で存在する。
【0038】
好ましい態様において、イオン性洗剤は、約0.001容量%〜0.4容量%の範囲の濃度で存在する。
【0039】
イオン性洗剤が、約0.002容量%〜0.2容量%の範囲および約0.004容量%〜0.008容量%の範囲の濃度で存在することが、特に好ましい。
【0040】
より好ましくは、イオン性洗剤は、約0.02容量%〜5容量%の範囲、最も好ましくは約0.02容量%〜0.4容量%の範囲の濃度で存在する。
【0041】
イオン性洗剤が両性イオン性洗剤であることが、さらにより好ましい。
【0042】
両性イオン性洗剤は、好ましくは約0.0005容量%〜5.0容量%の範囲の濃度で存在する。
【0043】
好ましい態様において、両性イオン性洗剤は、約0.001容量%〜0.4容量%の範囲の濃度で存在する。
【0044】
両性イオン性洗剤が、約0.002容量%〜0.2容量%の範囲および約0.004容量%〜0.008容量%の範囲の濃度で存在することが、特に好ましい。
【0045】
より好ましくは、両性イオン性洗剤は、約0.02容量%〜5容量%の範囲、最も好ましくは約0.02容量%〜0.4容量%の範囲の濃度で存在する。
【0046】
イオン性洗剤は、好ましくは、(a)3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート(CHAPSO)、N−(アルキルC10〜C16)−N,N−ジメチルグリシンベタイン(EMPIGEN BB)、カプリリルスルホベタイン(SB3-10)、3−〔N,N−ジメチル(3−ミリストイルアミノプロピル)アンモニオ〕プロパンスルホネート(アミドスルホベタイン−14;ASB-14)、N−テトラデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート(3-14 Detergent;ZWITTERGENT)、N−ドデシル−N,N′−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、N−オクタデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、N−デシル−N,N−ジメチル−3−アンモニウム−1−プロパンスルホネート、Mirataine CB、Mirataine BB、Mirataine CBR、Mirataine ACS、Miracare 2MHTおよびMiracare 2MCAのような両性イオン性洗剤、塩化セチルピリジニウム、テトラデシル−トリメチル−アンモニウムブロミド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミドのようなカチオン性洗剤、並びに(c)コール酸、タウロコール酸、Triton X-200、Triton W-30、Triton-30、Triton-770、ジオクチルスルホスクシネートのようなアニオン性洗剤の群から選択される。
【0047】
一態様において、本発明による組成物は反応緩衝液であり、かつ前記組成物は、緩衝剤、一価塩、二価カチオンおよびヌクレオチドの群から選択される物質を追加的に含む。
【0048】
本発明の好ましい態様において、非イオン性洗剤は存在しないかまたは非イオン性洗剤は、約0.04%の最大濃度で存在する。最も好ましくは、非イオン性洗剤は存在しない。
【0049】
幾つかの態様において、本発明は、核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物にも関するが、米国特許第5,804,380号の実施例2に開示されている組成物は包含しない。好ましくは、非イオン性洗剤は存在しないかまたは非イオン性洗剤は、約0.04%の最大濃度で存在する。最も好ましくは、非イオン性洗剤は存在しない。
【0050】
一態様は、核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物にも関するが、10mMのトリス−HCl(pH7.5)、1mMのMgCl2、1mMのEGTA、0.1mMのPMSF、ベンズアミジンまたはAEBSF、5mMのβ−メルカプトエタノール、DEPC処理水、0.5%のCHAPS、10%のグリセロールを含む緩衝液を1/50〜1/25の比率で加えた、20mMのトリス−HCl、pH8.3、1.5mMのMgCl2、63mMのKCl、0.005%のTween 20、1mMのEGTA、それぞれ50mMのdNTP、0.1μg/50μlのTSオリゴヌクレオチド、0.5mMのT4遺伝子32タンパク質、0.1mg/mlのBSA、2単位/50μlのTaq DNAポリメラーゼを含む組成物は、包含しない。
【0051】
別の態様は、核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物にも関するが、米国特許第5,804、380号の実施例1に開示されている、20mMのトリス−HCl、pH8.3、1.5mMのMgCl2、63mMのKCl、0.005%のTween 20、1mMのEGTA、それぞれ50mMのdNTP、0.1μg/50μlのTSオリゴヌクレオチド、0.5mMのT4遺伝子32タンパク質、0.1mg/mlのBSA、2単位/50μlのTaq DNAポリメラーゼおよび1〜2μlのCHAPS細胞抽出物を含む組成物は、包含しない。
【0052】
用語「反応緩衝液」は、酵素的反応が実施される緩衝溶液を意味する。
【0053】
用語「一価塩」は、金属(例えば、Na、KまたはLi)が溶液において正味1+電荷を有する(すなわち、電子よりも陽子が1つ多い)任意の塩を意味する。
【0054】
用語「二価塩」は、金属(例えば、Mg、Ca、MnまたはSr)が溶液において正味2+電荷を有する任意の塩を意味する。
【0055】
用語「溶液」は、水性または非水性混合物を意味する。
【0056】
緩衝剤は、好ましくは、酢酸塩緩衝液、硫酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、MOPS、HEPESおよびトリス−(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)の群から選択される。TRISが最も好ましい。
【0057】
緩衝液それ自体を配合するためには、好ましくはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)の塩、最も好ましくはその塩酸塩である緩衝塩を、十分な量の水と組み合わせて、約5〜150mMの範囲、好ましくは約10〜60mMの範囲、最も好ましくは約20〜60mMの範囲のTRIS濃度を有する溶液を得る。この溶液に、マグネシウムの塩(好ましくは、その塩化物または酢酸塩)を加えて、約1〜10mMの範囲、好ましくは約1.5mM超、より好ましくは約1.5〜8.0mMの範囲、さらにより好ましくは1.5〜7.5mMの範囲、最も好ましくは約3.0〜7.5mMの範囲の処理濃度をもたらすことができる。カリウムの塩(最も好ましくは、塩化カリウム)を、約10〜100mMの範囲、最も好ましくは約75mMの処理濃度で溶液に加えることもできる。ジチオスレイトールのような還元剤を、約1〜100mMの範囲の最終濃度、より好ましくは約5〜50mMの範囲または約7.5〜20mMの範囲の濃度、最も好ましくは約10mMの濃度で溶液に加えることができる。少量の、EDTA二ナトリウムのようなエチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)の塩を加えることもできるが(好ましくは、約0.1ミリモル)、EDTAを含めることは、本発明の組成物の機能または安定性にとって必須ではないと思われる。全ての緩衝液および塩を添加したあと、この緩衝塩溶液を、全ての塩が溶解するまで十分に混合し、pHを、当分野で既知の方法を使用して、約7.4〜9.2の範囲、好ましくは約8.0〜9.0の範囲、さらにより好ましくは約8.3〜8.7の範囲、最も好ましくは約8.4のpH値に調整する。特定の態様において、エチレングリコール四酢酸(EGTA)は組成物中に存在しない。
【0058】
組成物は、保存緩衝液であることができ、かつ前記組成物は、緩衝剤、還元剤、キレート剤、還元剤およびグリセロールの群から選択される物質を次いで追加的に含む。
【0059】
用語「保存緩衝液」は、酵素が保存される緩衝溶液を意味する。
【0060】
用語「キレート剤」または「キレート化剤」は、金属イオンに結合するために利用可能である電子の孤立電子対を持つ2つ以上の原子を有する任意の物質を意味する。キレート剤は、好ましくはEDTAである。
【0061】
用語「還元剤」は、第2物質の原子の2つ以上の酸化状態を還元するために、第2物質に電子を供与する物質を意味する。
【0062】
本発明の一態様において、本発明は、酵素的核酸合成方法であって、(a)ポリメラーゼ活性、核酸鋳型、イオン性、好ましくは両性イオン性洗剤、緩衝液、塩、ヌクレオチドおよび不活性タンパク質安定剤を反応混合物に提供する工程および(b)反応混合物を核酸合成可能な温度でインキュベートする工程を含む方法に関する。
【0063】
本発明で使用されるとき、「核酸」は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)、並びにそれらの修飾および/または機能化型の両方を意味する。同様に、本発明で使用されるとき、用語「ヌクレオチド」には、リボ核酸およびデオキシリボ核酸の個別の単位、並びにヌクレオシドとヌクレオチドの類似体、および標識ヌクレオチドのような修飾ヌクレオチドの両方が含まれる。また、「ヌクレオチド」には、糖、リン酸塩および/または塩基単位が不在であるか、または他の化学構造に代えられているもののような非天然に生じる類似構造が含まれる。したがって、用語「ヌクレオチド」は、個別のペプチド核酸(PNA)(Nielsenら, Bioconjug. Chem. 1994; 5(1):3-7)およびロックド核酸(LNA)(BraaschおよびCorey, Chem. Biol. 2001; 8(1):1-7)の単位、並びに他の同様の単位を包含する。
【0064】
本発明の方法は、DNAシークエンシング、プライマー伸長アッセイ、DNA増幅およびRNAのDNAへの逆転写の群から選択することができる。
【0065】
本発明の化合物および組成物は、核酸の合成方法に使用することができる。特に、本化合物および組成物は、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような増幅反応を介して、合成を促進することが見出された。したがって、本化合物および組成物は、DNA(特に、cDNA)およびRNA(特に、mRNA)分子のような核酸分子の合成を必要とするあらゆる方法に使用することができる。本発明の化合物または組成物を有利に使用することができる方法には、核酸合成法、核酸増幅法、核酸逆転写法および核酸シークエンシング法が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
好ましい態様において、増幅法に使用される核酸分子はDNAである。好ましい態様において、DNA分子は二本鎖である。他の態様において、DNA分子は一本鎖である。好ましい態様において、二本鎖DNA分子は線状DNA分子である。他の態様において、DNA分子は非線状、例えば環状またはスーパーコイル(supercoiled)DNAである。
【0067】
本発明の他の態様において、本発明の組成物は、核酸分子を増幅するか、またはシークエンシングする方法に使用することができる。本発明のこの態様による核酸増幅法は、1工程(例えば、1工程RT−PCR)または2工程(例えば、2工程RT−PCR)逆転写酵素増幅反応として当分野において一般的に知られている方法における、逆転写酵素活性を有する1つ以上のポリペプチドの使用を追加的に含むことができる。長い核酸分子(即ち、長さが約3〜5Kbよりも長い)の増幅では、本発明の組成物は、1997年2月14日出願の共同所有同時係属米国特許出願第08/801,720号(この開示はその全体が参照として本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されている、DNAポリメラーゼ活性を有するポリペプチドの組み合わせを含むことができる。
【0068】
本発明のこの態様による増幅法は、1つ以上の工程を含むことができ、等温増幅反応として単一の温度で実施することができ、またはポリメラーゼ連鎖反応のように多様な温度で実施することができる。例えば、本発明は、核酸分子を増幅する方法であって、(a)核酸鋳型を1つ以上の上記化合物または組成物と混合して混合物を形成すること;および(b)混合物を全てまたは一部の鋳型に相補的な核酸分子を増幅するのに十分な条件下でインキュベートすることを含む方法を提供する。本発明は、また、そのような方法により増幅された核酸分子を提供する。
【0069】
核酸分子またはフラグメントの増幅および分析の一般的方法は、当業者には周知である(例えば、米国特許第4,683,195号;同第4,683,202号;および同第4,800,159号;Innis, M. A.ら, eds., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, San Diego, Calif.: Academic Press, Inc. (1990); Griffin, H. G., and Griffin, A. M., eds., PCR Technology: Current Innovations, Boca Raton, Fla.: CRC Press (1994)を参照すること)。例えば、本発明により使用され得る増幅法には、PCR(米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号)、鎖置換増幅(SDA;米国特許第5,455,166号;EP 0 684 315)並びに 核酸配列ベース増幅(NASBA;米国特許第5,409,818号;EP 0 329 822)が含まれる。
【0070】
本発明による方法および組成物を用いて、2つの熱安定性DNAポリメラーゼ(1つはジデオキシヌクレオチドよりもデオキシヌクレオチドの組み込みを好み、1つはこれら2つのヌクレオチド形態を識別する能力が減少している)を使用して、複合DNA混合物から、増幅およびシークエンシング反応の組み合わせ(「DEXAS」)を直接実施することが可能である。熱変性、アニーリングおよび伸長のサイクルの際に、前者の酵素は主に標的配列を増幅し、一方、後者の酵素は主にシークエンシング反応を実施する。この方法は、ポリメラーゼ連鎖反応によりヌクレオチド配列を増幅するのに使用される量と同等の量のヒトゲノムDNAから、単一コピー核DNA配列を決定することを可能にする。したがって、DNA配列を、総ゲノムDNAから直接、容易に決定することができる(“Direct DNA sequence determination from total genomic DNA”, Kilgerら, Nucleic Acids Res. 1997 May 15; 25(10): 2032-2034)。
【0071】
典型的には、増幅法は、核酸試料を、核酸ポリメラーゼ活性を有する1つ以上のポリペプチドを含む化合物または組成物(例えば、本発明のもの)と、1つ以上のプライマー配列の存在下で接触させ、核酸試料を、好ましくはPCRまたは同等の自動増幅技術により増幅して増幅核酸フラグメントのコレクションを生成し、場合によっては増幅核酸フラグメントをサイズにより、好ましくはゲル電気泳動により分離し、ゲルを、例えばゲルを臭化エチジウムのような核酸結合染料により染色することによって、核酸フラグメントの存在について分析することを含む。さらに別の好ましい態様において、増幅産物の生成は、例えばdsDNA結合蛍光染料を使用してリアルタイムに検出することができ、または配列特異的蛍光標識プローブを使用して増幅産物の存在を検出することができる。
【0072】
本発明の方法による増幅に続いて、増幅核酸フラグメントを、更なる使用または特徴付け(characterization)のために単離することができる。この工程は、通常、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、クロマトグラフィー(サイジング、アフィニティーおよびイムノクロマトグラフィーを含む)、密度勾配遠心分離および免疫吸着を含む任意の物理的または生化学的手段によって、サイズにより増幅核酸フラグメントを分離することにより達成される。ゲル電気泳動による核酸フラグメントの分離が特に好ましく、それは、多数の核酸フラグメントの高感度分離の迅速で高度に再現可能な手段を提供し、幾つかの核酸試料におけるフラグメントの直接的な同時比較を可能にするからである。別の好ましい態様においてこの手法を拡大して、これらのフラグメントまたは本発明の方法により増幅された任意の核酸フラグメントを単離および特徴付けすることができる。
【0073】
この態様において、1つ以上の増幅核酸フラグメントが、電気溶出または物理的な切出しのような標準的技術によって、同定(上記参照)のために使用されたゲルから除去される。次に、単離された特有の核酸フラグメントを、多様な原核(細菌)または真核(酵母、植物またはヒトおよび他の哺乳類を含む動物)細胞のトランスフェクションまたは形質転換に適している発現ベクターを含む標準的なヌクレオチドベクターに挿入することができる。または、本発明の化合物、組成物および方法を使用して増幅および単離される核酸分子を、例えば、シークエンシング(すなわち、核酸フラグメントのヌクレオチド配列を決定すること)、下記に記載されている方法および当分野において標準的な他の方法(例えば、DNAシークエンシングの方法を対象としている米国特許第4,962,022号および同第5,498,523号を参照すること)により更に特徴付けることができる。
【0074】
本発明による核酸シークエンシング法は、1つ以上の工程を含むことができる。例えば、本発明は、核酸分子を配列決定する方法であって、(a)配列決定される核酸分子を、1つ以上のプライマー、1つ以上の上記本発明の化合物または組成物、1つ以上のヌクレオチドおよび1つ以上の停止剤(例えば、ジデオキシヌクレオチド)と混合して混合物を形成すること;(b)混合物を、配列決定される全てまたは一部の分子と相補的な分子の集団を合成するのに十分な条件下でインキュベートすること;および(c)集団を分離して、配列決定される全てまたは一部の分子のヌクレオチド配列を決定することを含む方法を提供する。
【0075】
本組成物を用いることができる核酸シークエンシング技術には、米国特許第4,962,022号および同第5,498,523号に開示されているもののようなジデオキシシークエンシング法が含まれる。
【0076】
本発明は、また、保存緩衝液または反応緩衝液における核酸ポリメラーゼの安定化のための、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物の使用に関する。
【0077】
本発明は、また、保存緩衝液または反応緩衝液におけるDNAポリメラーゼの安定化のための、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物の使用に関する。
【0078】
本発明は、また、保存緩衝液または反応緩衝液におけるRNAポリメラーゼの安定化のための、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物の使用に関する。
【0079】
本発明は、また、保存緩衝液または反応緩衝液における制限酵素の安定化のための、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物の使用に関する。
【0080】
本発明は、また、保存緩衝液または反応緩衝液における古細菌ポリメラーゼの安定化のための、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物の使用に関する。
【0081】
本発明は、また、保存緩衝液または反応緩衝液における好熱性DNAポリメラーゼの安定化のための、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物の使用に関する。
【0082】
本発明は、また、保存緩衝液または反応緩衝液における、Taqを含む好熱性DNAポリメラーゼの安定化のための、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物の使用に関する。
【0083】
本発明は、また、保存緩衝液または反応緩衝液における、Taqを除く好熱性DNAポリメラーゼの安定化のための、不活性タンパク質および両性イオン性洗剤を含む組成物の使用に関する。
【0084】
本発明は、好ましい態様において、核酸ポリメラーゼの安定化方法であって、本発明による組成物をPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0085】
本発明は、また、本発明による組成物を含むキットに関する。前記キットは、塩、プライマー、緩衝液、更なる酵素などのような追加の試薬を含むこともできる。
【0086】
本発明は、好ましい態様において、核酸ポリメラーゼの安定化方法であって、本発明による組成物をPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0087】
本発明は、好ましい態様において、DNAポリメラーゼの安定化方法であって、本発明による組成物をPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0088】
本発明は、好ましい態様において、RNAポリメラーゼの安定化方法であって、本発明による組成物をPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0089】
本発明は、好ましい態様において、制限酵素の安定化方法であって、本発明による組成物をPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0090】
本発明は、好ましい態様において、古細菌ポリメラーゼの安定化方法であって、本発明による組成物をPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0091】
本発明は、好ましい態様において、好熱性DNAポリメラーゼの安定化方法であって、本発明による組成物をPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0092】
本発明は、好ましい態様において、Taqを含む好熱性DNAポリメラーゼの安定化方法であって、本発明による組成物をPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0093】
本発明は、好ましい態様において、Taqを除く好熱性DNAポリメラーゼの安定化方法であって、本発明の組成物によるPCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0094】
本発明は、好ましい態様において、DNAポリメラーゼの安定化方法であって、本発明による組成物を等温増幅反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液に添加することを含む方法にも関する。
【0095】
実施例
実施例1:実施例1は、図1中の好ましい両性イオン性洗剤を示す。
【0096】
実施例2:実施例2は、両性イオン性洗剤とBSAとの組み合わせが、ポリメラーゼ安定性を増強し、PCR反応を可能にすることを示す。ここでは、洗剤無含有Teg DNAポリメラーゼを、洗剤を含まないか(陰性対照)または異なる両性イオン性洗剤を異なる濃度で含むかもしくは非イオン性洗剤NP−40/Tween 20を含む(陽性対照)保存緩衝液により、最終濃度14ng/μlに希釈した。25μlのPCR反応ミックスを、0.1mg/mlのBSA(最終濃度)、ヒトゲノムDNA、ヒトp53遺伝子に対するプライマー、dNTP、および1μlのTegを含有し、異なる洗剤を含むTeg PCR緩衝液によりセットアップした。増幅条件は以下の通りである:94℃で5分間;続いて94℃で30秒間、60℃で30秒間および72℃で1分間を35サイクル;次に最終伸長工程:72℃で10分間。成功したPCRは、約500bpの増幅産物を生成するべきである。
【0097】
実施例3:実施例3は、BSAの添加が両性イオン性洗剤の機能にとって必須であることを示す。図2中のものと同様の試験において、PCR緩衝液、異なる両性イオン性洗剤と組み合わせた保存緩衝液中のTeg、dNTP、ヒトゲノムDNA、ヒトprp遺伝子(750bp)を増幅するプライマーを含むがBSAを含まないPCR反応は、PCR産物の生成に失敗した。
【0098】
実施例4:実施例4は、Taqポリメラーゼに対する両性イオン性洗剤およびBSAの機能を示す。両性イオン性洗剤CHAPSO(最終濃度0.032%)またはBSA(0.1mg/ml)単独によるPCR反応では、Taqは標的遺伝子(ヒトprp、750bp)を増幅することができなかった。しかし、BSAとCHAPSOとの組み合わせは、Taqを安定化し、PCRを成功裏に導いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素、
b.不活性タンパク質、および
c.両性イオン性洗剤、
を含む組成物であって、核酸ポリメラーゼが組み換え型である組成物。
【請求項2】
酵素はTaq DNAポリメラーゼではない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
非イオン性洗剤を含まない、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
不活性タンパク質は、天然または合成のペプチド、ポリペプチド、グロブリン、コラーゲンならびにそれらの誘導体、および血清アルブミンならびにその誘導体およびフラグメントの群から選択される、請求項1〜3に記載の組成物。
【請求項5】
不活性タンパク質は、ウシ血清アルブミン(BSA)であり、かつ前記タンパク質は0.01mg/ml超、0.05mg/ml超、および0.1mg/ml超の群から選択される濃度で存在する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
両性イオン性洗剤は、0.0005容量%〜5.0容量%の範囲の濃度で存在する、請求項1〜5に記載の組成物。
【請求項7】
両性イオン性洗剤は、0.001容量%〜0.4容量%の範囲の濃度で存在する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
両性イオン性洗剤は、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート(CHAPSO)、N−(アルキルC10〜C16)−N,N−ジメチルグリシンベタイン(EMPIGEN BB)、カプリリルスルホベタイン(SB3-10)、3−〔N,N−ジメチル(3−ミリストイルアミノプロピル)アンモニオ〕プロパンスルホネート(アミドスルホベタイン−14;ASB-14)、N−テトラデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート(3-14 Detergent;ZWITTERGENT)、N−ドデシル−N,N′−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、N−オクタデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、N−デシル−N,N−ジメチル−3−アンモニウム−1−プロパンスルホネート、Mirataine CB、Mirataine BB、Mirataine CBR、Mirataine ACS、Miracare 2MHTおよび、Miracare 2MCAの群から選択される、請求項1〜7に記載の組成物。
【請求項9】
両性イオン性洗剤は、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート(CHAPSO)および、N−(アルキルC10〜C16)−N,N−ジメチルグリシンベタイン(EMPIGEN BB)の群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
組成物は反応緩衝液であり、かつ前記組成物は、緩衝剤、一価塩、二価カチオンおよびヌクレオチドの群から選択される物質を追加的に含む、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
組成物は保存緩衝液であり、かつ前記組成物は、緩衝剤、還元剤、キレート剤、還元剤およびグリセロールの群から選択される物質を追加的に含む、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
緩衝剤は、酢酸塩緩衝液、硫酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、MOPS、HEPESおよびトリス−(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)の群から選択される、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
保存緩衝液中または反応緩衝液中の核酸ポリメラーゼの安定化のための
a.不活性タンパク質、および
b.両性イオン性洗剤、
を含む組成物の使用。
【請求項14】
PCR反応混合物または核酸ポリメラーゼ保存緩衝液へ
a.不活性タンパク質、および
b.両性イオン性洗剤、
を含む組成物を添加することを含む、核酸ポリメラーゼの安定化方法。
【請求項15】
a.核酸ポリメラーゼ活性、核酸鋳型、両性イオン性洗剤、緩衝液、塩、ヌクレオチドおよび不活性タンパク質を反応混合物に提供する工程;
b.反応混合物を核酸合成可能な温度でインキュベートする工程
を含む酵素的核酸合成方法。
【請求項16】
酵素的核酸合成は、DNAシークエンシング、プライマー伸長アッセイ、DNA増幅およびRNAのDNAへの逆転写の群から選択される方法において実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
a.核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素、
b.不活性タンパク質、および
c.両性イオン性洗剤、
を含むキットであって、核酸ポリメラーゼが組み換え型であるキット。
【請求項18】
請求項15または16の方法を実施するための請求項17に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−519920(P2010−519920A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552209(P2009−552209)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052718
【国際公開番号】WO2008/107473
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】