説明

イオン性液体の使用

イオン性液体を用いる方法であって、(a)第1化学形態を有するイオン性液体を用意し、(b)第1化学形態のイオン性液体を第1予定目的のために用い、(c)第1化学形態のイオン性液体を第2化学形態に変化させるようにそれを化学的に改変し、そして(d)第2化学形態のイオン性液体を第2予定目的のために用いることを、前記された順序で含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く様々な用途におけるイオン性液体の使用であって、それらの性質を該使用のために適切な態様で変化させるように、該イオン性液体がそれらの使用中に改変される使用に関する。
【0002】
発明の背景
イオン性液体は、イオンで構成されているがそれでも液体形態にある化合物(典型的には、周囲温度未満の融点を有する)である。それらは、一方又は両方が比較的大きい電荷非局在化非対称化イオンである適当な酸イオンと塩基イオンを組み合わせることにより形成され得る。これらのタイプのイオンは生じる塩の秩序度の低減に寄与し、かくしてその融点を下げる。
【0003】
イオン性液体はアニオン及びカチオンから成り得、あるいはその代わりに(比較的普通ではないけれども)それは同じ分子において正電荷及び負電荷の両方を担持するツビッターイオンから成り得る。
【0004】
イオン性液体は、無視できる程度の蒸気圧、高い可溶化力及び広い液体温度範囲を含めて多数の顕著な性質を有し得、しかしてそれらを様々な用途において慣用の液体の興味ある代替物にしてきた。それらは、たとえば、有機溶媒の代替品として潜在的に有用であることが知られている。
【0005】
液体反応媒質中で化学変換を行うことは、化学合成分野においてよく知られている。特に多段階変換の場合において、該変換のある工程にとって最も適切である反応媒質が別の工程にとっては比較的適切でないか又はそれどころか全く不適切であることがしばしば認められる。これにより後続の反応工程が行われ得る前に中間生成物の分離及び精製が必要とされ、しかして各々のかかる追加的加工工程により汚染及び収量損失の危険性が増加される。
【0006】
やはり化学合成分野において、反応生成物をそれらが形成されている媒質(典型的には、液体)から分離することが普通要求される。十分な分離を達成するために、これもまた有意な努力を伴い、またしばしば多数の異なる液体媒質の使用及び/又は潜在的に有害な温度若しくは圧力の変化を要求し得る。
【0007】
液体媒質はまた、化学変換以外の広く様々な用途において用いられる。たとえば、液体は、作動液として、潤滑剤として、導体として、絶縁体として、電気泳動において、及び一般に他の物質用のビヒクルとして(たとえば、分析プロセス若しくは抽出において又は貯蔵若しくは輸送のために)用いられ得る。かかる用途において、用いられる液体の化学的及び物理的性質は、決定的なほど重要でないとしても重要であり得る。時折、液体の性質はその意図使用のある段階中において容認され得るが、しかし別の段階中においては容認され得ないことがあり得る。性質の所望変化を達成するために、その場合には、第2の異なる液体を用いることを伴う。
【0008】
本発明者は、上記に記載された問題を克服し得るか又は少なくとも軽減し得る方式を案出した。
【0009】
発明の記述
本発明の第1側面によれば、予定目的のためのイオン性液体の使用であって、該イオン性液体がその使用中に第1化学形態から第2化学形態に化学的に改変される使用が提供される。第2化学形態のイオン性液体の物理化学的性質は、その場合には、第1化学形態のイオン性液体の物理化学的性質とは異なり得る。特に、化学改変は、イオン性液体が用いられている予定目的に関係のある性質を変化させ得る。
【0010】
換言すれば、本発明の第1側面は、
(a)第1化学形態を有するイオン性液体を用意し、
(b)第1化学形態のイオン性液体を第1予定目的のために用い、
(c)第1化学形態のイオン性液体を第2化学形態に変化させるようにそれを化学的に改変し、そして
(d)第2化学形態のイオン性液体を第2予定目的のために用いる
ことを含む方法を包含する。
【0011】
工程(a)から(d)は、特記された順序で行われるべきである。
【0012】
第1予定目的と第2予定目的は同じであり得、あるいはより典型的には異なり得る。
【0013】
イオン性液体の化学改変は、好ましくは、第1予定目的のためのその使用に続いてその場で行われる。これに関して、用語「その場で」は、当該諸物質(第1化学形態のイオン性液体を含む)が必ずしも同じ場所にとどまる必要はないが、しかし化学改変工程中において一緒のままにある状況を包含する−換言すれば、化学改変は、イオン性液体を第1予定目的のためのその使用中に存在する他の化学種から分離することを含まない(あるいは少なくとも、すべて他の化学種から分離することを含まない)。たとえばイオン性液体を下記に記載されるようにイオン交換カラムに通すために、イオン性液体及び他の化学種は異なる物理的場所に移動され得るが、しかし第2形態のイオン性液体の改変性質がその場合には直ちに第2予定目的のための使用に置かれ得るようにそれらは化学改変工程中において一緒のままにある。換言すれば、バルク系は好ましくは改変の間中同じままにあり、あるいは少なくとも化学種は改変中にバルク系から除去される必要はない。
【0014】
かかるその場改変は、バルク反応媒質のような液体媒質をプロセスの途中で取り替えることに対する好都合な代替手段を与え、かくして加工工程の数並びに必然的な汚染及び収量損失の危険性を低減する。
【0015】
いくつかの場合において、系中に存在するイオン性液体及び他の化学種は、改変中に又は改変を行うために異なる物理的場所に移動されない。
【0016】
上記に述べられたように、イオン性液体がその化学改変の前及び後にそれぞれ用いられる第1予定目的と第2予定目的は、同じか又は異なるかのどちらかであり得る。これに関して、「異なる」目的は、別の目的と属的に同じであるがしかしイオン性液体の異なる物理化学的性質を要求する目的を包含する。たとえば、イオン性液体はその使用の両段階の間中溶媒としての使用のためにあり得るが、しかし第2段階中においてそれは異なる実在物を可溶化するよう及び/又は第1段階中と比べて異なる程度まで実在物を可溶化するよう要求される。それはその使用の両段階の間中潤滑剤又は作動液としての使用のためにあり得るが、しかし第2段階中において、第1段階中において適切であるのとは異なる粘度及び/又は表面張力(並びに従って異なる粘弾性及び/又は湿潤性)を有するよう要求され得る。好ましくは、第1予定目的と第2予定目的は、異なっているけれども、同属のタイプである。
【0017】
好ましくは、第1予定目的から第2予定目的への使用変化を容易にするために、化学改変が使用者により故意に行われる。典型的には、最初に第1化学形態で存在するイオン性液体が第2予定目的のために用いられるために、改変が必要である。
【0018】
好ましくは、改変は、第1及び/又は第2予定目的のためのイオン性液体の使用とは別個であり、そしてかくして該使用の当然の結果ではない。かくして、たとえば触媒としてのその使用の結果としてイオン性液体に起こる改変は、通常、本発明に関して化学改変を構成しない。その代わりに、イオン性液体は、第1目的のために用いられ、別個の改変工程に付されそして引き続いて第2目的のために用いられるべきである。第1目的及び第2目的の一方又は両方は触媒としてのイオン性液体の使用を含み得るが、しかし改変工程はその触媒的使用の一部でない(それはかかる使用を容易にする効果を有し得るけれども)。
【0019】
イオン性液体は、広範囲の無機、有機、ポリマー及び生物学的物質を溶解する(しばしば、非常に高い濃度まで)能力を有する。それらは広い液体範囲を有し、しかして高温プロセス及び低温プロセスの両方を同じ媒質中で行われ得るようにする。それらは加溶媒分解現象を引き起こさず、また短命の反応性中間体をたいてい安定化する。それらは、それらの液体範囲の多くにわたって事実上ゼロの蒸気圧を有する。イオン性液体はまた優秀な電気的及び熱的伝導性を示し得る一方、非引火性であり、再循環可能であり、また一般に低毒性である。これらの理由のすべてのために、本発明は、広範囲の用途においてイオン性液体の使用を容易にし得るので有利である。
【0020】
イオン性液体をそれ自身の生成中に第1化学形態から第2化学形態に改変することは無論知られているが、しかし本発明は改変が行われる時にイオン性液体が既に第1所望形態で与えられておりそして第1予定目的のために既に使用中であるか又は使用されていることを要求する。かくして、化学改変は、第1化学形態のイオン性液体の合成の一部を形成しない−実際にそれは該合成に後続しなければならない。イオン性液体は2つの異なった使用(一つは化学改変工程の前そして一つは化学改変工程の後)に置かれねばならず、しかして第1使用から第2使用への切替えを容易にするために改変は必要であるか又は望ましい。
【0021】
Deetlefs等は、Catalysis Today,vol.72(2002),第29頁から第41頁において、約80℃の融点を有するイオン性液体であるチアゾリウム金(III)化合物の製造及びフェニルアセチレンの水和における触媒としてのその後続使用を開示する。彼等はまた、イオン性液体前駆体(1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩)からの金(I)カルベン錯体の製造を教示する。これらの場合のどちらにおいても、イオン性液体が、ある目的のために用いられた後に化学的に改変されそして次いで第2の目的のために用いられることはない。
【0022】
Deetlefs等はまた金(III)をベースとしたイオン性液体が有機変換用の溶媒及び触媒の両方として用いられ得ることを示唆するけれども、彼等は「更なる仕上げが必要である」ことを認め、そして彼等の実施例のすべてにおいて触媒は反応媒質とは別個である。彼等はまた金属錯体のその場発生及び触媒としてのそれらの直接利用の可能性に言及するが、しかしやはり実施例を与えず、またかかる錯体は無論必ずしもイオン性液体であるとは限らない。更に、Deetlefs等は、イオン性液体が触媒としての使用に置かれた後にそれを後続の第2目的のための使用に置かれ得るようにするようにイオン性液体を化学的に改変することについて開示しない。
【0023】
本発明において、第1化学形態から第2化学形態へのイオン性液体の改変は、好ましくは、その物理化学的性質の少なくとも一つを変えるようなものである。これに関して用語「物理化学的性質」は、物理的性質及び化学的性質の両方を包含するよう意図されている。一つの具体的態様において、化学改変は、イオン性液体の1つ又はそれ以上の物理的性質を変える。
【0024】
改変は、イオン性液体の化学形態に対してである。「化学形態」により、イオン性液体のイオンの及び/又はそれらの基本格子単位の化学分子構造又は組成が意味される。
【0025】
かくして、第1形態のイオン性液体は、第2形態のイオン性液体の化学構造とは異なる化学構造を有する。それ故、化学改変は、単にイオン性液体の温度及び/又は相についてのような物理変化でない(それは物理変化を伴い得るけれども)。
【0026】
第1化学形態及び第2化学形態の少なくとも一方は、関係操作温度(それにより、イオン性液体が関係予定目的のために用いられる温度が意味される)において液体であるべきである。好ましくは、イオン性液体の両化学形態は、それらのそれぞれの操作温度において液体である。
【0027】
一層好ましくは、二つの化学形態の少なくとも一方そして理想的には両方は、60℃未満において好ましくは50℃未満において一層好ましくは40℃未満において更に一層好ましくは30℃未満においてそして理想的には室温(本目的のために、18から25℃典型的には約20℃と定義され得る)において液体形態で存在することが可能である。イオン性液体は、いくつかの場合において、20℃未満又はそれどころか15℃若しくは10℃未満の凝固点を有し得る。
【0028】
好ましくは、イオン性液体の二つの化学形態の少なくとも一方理想的には両方の凝固点は、それが用いられる温度より少なくとも5℃一層好ましくは少なくとも10℃そして最も好ましくは少なくとも15℃低い。
【0029】
しかしながら、イオン性液体の二つの化学形態の一方は関係予定目的のためのその使用中に固体として存在することが可能である。この意味では、本発明のこれらの記述(及び添付請求項)において用いられる用語「イオン性液体」は、いくつかの場合において、イオン性固体を包含し得る。
【0030】
イオン性液体の沸点は、好ましくは、少なくとも200℃である。それは、500℃より高くあり得る。
【0031】
「イオン性液体」は、イオンで構成された化合物(かかるイオン性物質の安定な化学量論的水和物又は他の溶媒和物を含めて)でなければならない。
【0032】
イオン性液体について改変される物理化学的性質は、それが用いられる目的に依存し得る。たとえば、改変され得る性質は、化学反応性、極性(他の流体との混和性及び他の化学実在物を溶媒和又は懸濁するべきイオン性液体の能力に影響を及ぼし得る)、解離定数(pKaを含めて)、ルイス又はブレンステッド酸度及び塩基度、水素結合を受容する及び供与する能力、電子を受容する及び供与する能力、レドックス電位、キラリティー、融点又は凝固点、沸点、粘度、表面張力、比熱容量(定容積又は定圧力のどちらかにおいて)又は任意の他の熱力学的性質、電磁的性質、誘電率、色又は電磁スペクトルの任意の部分における吸光度、屈折率又は任意の他の光学的性質、電気的及び/又は熱的伝導性、並びに溶媒和親和力を包含する。明らかに、このリストは網羅されていない。
【0033】
イオン性液体が担体媒質として用いられる場合において、極性、pKa及び水素結合する能力のような性質が特に重要であり得る。本使用が化学反応を含む場合は、イオン性液体の反応性もまた重要であり得る。イオン性液体が作動液として又は潤滑剤として用いられる場合、粘度及び表面張力が特に重要であり得る。それが導体若しくは絶縁体として又は電気泳動において用いられる場合は、電磁的性質が重大である。様々な性質がイオン性液体の潜在的使用のすべてにおいて関係があり得、そしてこれらのものの一つ又はそれ以上が本発明によるイオン性液体の使用中に改変され得る、ということが分かり得る。
【0034】
更に、かかる性質の変化は、イオン性液体の改変が成功であったかどうか及び/又はどの程度成功であったかのインジケーターとして用いられ得る。
【0035】
改変はイオン性液体の融点の変化をもたらすことになり得、しかしてこれはいくつかの場合において−関係操作条件下で−イオン性液体の物理形態の変化をもたらすことになり得る。改変は、たとえば、標的化学種を固体マトリックス中に「捕獲」してその後続の取扱い及び貯蔵を容易にするように並びに/あるいはそうでなければ受け得る反応を抑制するようにイオン性液体の固化をもたらすことになり得る。逆に、イオン性固体中に捕獲された化学種が、本発明による改変により液体環境中に放出され得る。これらの例において、物理形態の変化は、系の温度及び/又は圧力を変える必要なしにもたらされ得る。
【0036】
イオン性液体の化学改変は、第2予定目的のためのその使用を容易にするために、使用者により故意に誘発され得る。しかしながら、第2予定目的(及び典型的には第1予定目的もまた)は、イオン性液体がセンサー又はインジケーターとして用いられてその環境の変化(該環境の変化は次には該液体の第1化学形態を第2化学形態に改変する)を検出することである、ということが可能である。かかる場合において、イオン性液体の改変を誘発するのは環境(イオン性液体が一部を形成するところの又はイオン性液体と接触している若しくはイオン性液体に任意のやり方で影響を及ぼし得るところの任意の系を含む)の変化であり、そして該液体の性質の生じた変化は環境変化が起こったことを指摘するために用いられ得る。
【0037】
実際に、かかる検出系において、イオン性液体の改変は、次には、検出される変化に、直接的であろうと又は間接的であろうとあるやり方で、たとえば該変化の性向及び/又は速度を改変することにより影響を及ぼし得る、ということが可能である。
【0038】
イオン性液体の化学改変は、多数の形態を取り得る。それは、該液体のカチオン及び/又はアニオンの改変、あるいは該液体がツビッターイオンで構成されている場合これらのイオンの任意の部分に対する改変であり得る。
【0039】
改変は、たとえば、アニオン及び/又はカチオンの置換であり得あるいは該置換を含み得る。置換は、すべての関係イオン又はそれらの一部のみについてであり得る。これは、イオン交換によるような任意の公知手段により行われ得る。
【0040】
たとえば、イオン性液体の組成は、所与カチオンと連合されたアニオンを又はその逆を変えることにより変化され得る。かくして、たとえば、イオン性液体は、関係アニオン又はカチオンで充填されたイオン交換カラムにそれがイオン性液体中へ交換されるように通され得る。これについての例は、アルキルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートへのアルキルイミダゾリウムラクテートの転化である。これは、典型的には、水混和性のイオン性液体を水不混和性のものに転化して、1つの溶媒相から2つの溶媒相をその場で発生させることを可能にしそしてかくして抽出及び分離手順を容易にする。
【0041】
その代わりに、改変は、イオン性液体の構造の全部若しくは一部の化学変換であり得又は該化学変換を含み得る。化学変換は、化学反応(化学及び/又は生化学触媒(酵素を含めて)により触媒され得る)により直接的に及び/又は変換を誘発するためにたとえば電流、電磁線、磁場若しくは温度変化を用いて間接的に遂行され得る。
【0042】
たとえば化学的に誘発される改変が液体媒質の物理的性質をその場で変えるために用いられ得るという事実は、多くの用途において利点を有し得る。しばしば、たとえば液体が作動液として用いられる場合、作動液の物理的性質(その粘度のような)を変化させることが望ましくあり得るが、しかしかかる変化は、通常、系の温度及び/又は圧力を変化させることによってのみ果たされ得る。本発明によれば、物理的性質の変化は、はるかに好都合な且つしばしば比較的侵害的でない手段によりもたらされ得る。
【0043】
かくして、本発明の一つの具体的態様において、イオン性液体の改変は、イオン性液体の温度及び/又は圧力の変化なしに又は実質的変化なしに果たされる。これに関して「実質的」変化は、たとえば、元の値の20%又はいくつかの場合において10%若しくはそれどころか5%の変化と考えられ得る。
【0044】
適当な化学改変は、イオン性液体のイオンの一つにおける置換基の変換を包含する。これは、たとえば、保護基の付加又は除去を含み得る。他の化学改変は、たとえば、環構造内の結合のようなイオンの一つ内の結合の開裂;イオン又は置換基の酸化、還元又は加水分解;キレート金属イオンのような連合部分の置換;イミンへのアミンの変換;イオン内の結合及び/又は置換基の転位、並びに/あるいはそれらの任意の組合わせを含み得る。一般に、化学改変は、イオン性液体の化学構造内の原子、イオン又は基の配列に対する任意の変化(任意の共有結合、供与結合又は水素結合(特に、共有結合)の開裂又は形成を含めて)を含み得る。
【0045】
イオン性液体が化学反応用の溶媒として用いられる場合、化学反応性官能基が改変の結果として遊離され得、しかしてイオン性液体溶媒を後続の反応に参加させ得る。たとえば、ヒドロキシル基が選択的脱保護により遊離され得る。
【0046】
別の可能な改変は、ポリマー、オリゴマー又はダイマーのイオン性液体の形成又は分解を含む。イオン性液体は、イオンがエステル又はジスルフィド結合のような共有結合により順次に結合されているポリマー、オリゴマー又はダイマー形態で存在し得る。かかる結合の開裂(たとえば、酸加水分解又は還元により)はポリマーを分解し得、しかして離散化学種で構成されたイオン性液体を生じる。これは粘度及び融点並びに他の物理的性質に影響を与え得る−イオン性液体が作動液又は潤滑剤として用いられる場合特に有用であるが、しかしまた液体の反応又は貯蔵媒質としてのその使用に潜在的に影響を与える。
【0047】
逆に、1種又はそれ以上の離散モノマー化学種で構成された適切に官能基化されたイオン性液体は、ダイマー、オリゴマー又はポリマーを生じる(その性質の必然的変化を伴って)ように改変され得る。
【0048】
改変は、イオン性液体の基本格子単位、特に格子中に存在する任意の化学量論的共溶媒の特質に影響を与え得る。かくして、たとえば、改変は、基本格子単位において共溶媒を全部又は一部分付加する、除去する又は置き換えることを含み得る。これは、たとえば、粘度のような性質に影響を与えるために用いられ得る。共溶媒は、水又は任意の他の適当な溶媒であり得る。
【0049】
改変の特定的例は、イオン性液体の可溶化性質を変えるために用いられるものを包含する。たとえば、水性溶解度を下げるために、ハロゲン化物イオンは、NTf2(ビス−トリフルオロメチルスルホニル(イミド))又はPF6(ヘキサフルオロホスフェート)に変えられ得る。エタノールのようなアルコールとの混和性を下げるために、カルボキシレート又はハロゲン化物のような比較的混和性のアニオンは、スルファメート、タルトレート、EDTA塩又はホスフェートのような比較的非混和性のものに変えられ得る。
【0050】
イオン性液体における−典型的にはそのカチオンにおける−ヒドロキシル基の存在は該液体の極性及び親水性を増加する傾向にあり、そしてそれを水素結合性溶媒として働き得るようにし得る。かかるヒドロキシル基−及び同様な機能を遂行する他の置換基たとえばニトリル(シアノ)、カルボニル、ニトロ又はアミノ基−は、イオン性液体の可溶化性質を変えるために、保護(たとえば、トリアルキルシリルのような保護基で)又は脱保護され得る。
【0051】
改変に最良にかなうイオン性液体は、安定性の劣るアニオン及び/又はカチオンを有し、かくしてイオン交換を容易にするもの、並びにそれらのアニオン及び/又はカチオンにおけるより反応性の置換基を有し、かくしてこれらの置換基の化学改変を容易にするものを包含し得る。たとえば、サルフェートアニオンは、ハロゲン化物、PF6及びカルボキシレートのような他のより不安定なアニオンより交換するのが困難であり得る。典型的には、イオン交換によりカチオンよりもアニオンを変えることが容易であり得る。
【0052】
イオン性液体の改変は1つより多い化学変換を含み得るが、しかし好ましくは一工程変換である。
【0053】
それは、可逆、部分可逆又は不可逆改変であり得る。好ましくは、それは可逆である。イオン性液体の使用中、第2化学形態のイオン性液体が第3化学形態のイオン性液体に転化されるか又は第1化学形態のイオン性液体に転化され戻されるように、第2化学改変が行われることさえ可能である。
【0054】
好ましくは、イオン性液体に対する改変は、その使用中に存在するいかなる他の化学種の改変をももたらすことにならない。
【0055】
改変中、一般に、第1予定目的のための使用中に存在するイオン性液体の実質的にすべてが、第1化学形態から第2化学形態に改変される。好ましい具体的態様において、第1化学形態のイオン性液体の少なくとも10モル%好ましくは少なくとも20又は30又は50モル%一層好ましくは少なくとも75モル%特に少なくとも80モル%そしてそれどころか少なくとも90モル%が、第2化学形態に改変される。しかしながら、いくつかの場合において、生じる「第2化学形態」液体の物理化学的性質のより精密な調節を可能にするように、改変がイオン性液体の2つ又はそれ以上の異なる化学形態の混合物をもたらすことになることが好ましくあり得る。改変は、いくつかの場合において、第1化学形態のイオン性液体の20%若しくは10%又はそれどころか5%若しくは3%若しくは2%くらいの少量が第2化学形態に改変されることをもたらすことになり得る。
【0056】
改変は、任意の速度にて行われ得る。いくつかの場合において、それは比較的速くあり得、そしてその場合においてイオン性液体はセンサー、インジケーター又はスイッチとして使用可能であり得る。たとえば、イオン性液体の屈折率又は吸光度の速い変化(たとえば、光誘発又は電気誘発される)は、エレクトロニクス又はオプトエレクトロニクスにおいてオン/オフスイッチとして用いられ得る−やはり、該変化は、その意図目的に依存して可逆又は不可逆であり得る(たとえばライト・ワンス・リード・メニーデータ記憶装置について、不可逆変化が適切である)。
【0057】
より遅い改変は、たとえば、ある期間にわたってのイオン性液体からの化学種の放出を制御するために用いられ得る−これは、たとえば薬物送達において用途があり得る。一般に、本発明は、任意の化学種の放出の目標を任意の所望の時機又は場所にするために用いられ得る。
【0058】
第1化学形態から第2化学形態への改変を受けるけれども、イオン性液体がその使用中に存在する他の化学種と反応しない、特にかかる化学種の同一性を変える(共有結合が開裂されるか又は形成される場合のように)具合にかかる化学種と反応しないことが好ましくあり得る。かくして、たとえば、イオン性液体が化学反応用の担体液として用いられる場合、該液体それ自体は反応に参加しないことが好ましくあり得る。それにもかかわらず、たとえば液体が溶質を溶解する場合に関与するような、間接相互作用(水素結合及び他の典型的には非共有結合の連合を含めて)は、イオン性液体とイオン性液体内に含有された化学種との間で依然起こり得る。
【0059】
いくつかの場合において、イオン性液体の第1予定使用が化学反応体用の担体としてである場合、第2予定使用が該反応体用の化学触媒としてでないことが好ましくあり得る。換言すると、化学改変がイオン性液体を不活性担体から化学触媒特に金属錯体のような有機金属触媒に転化しないことが好ましくあり得る。これに関して、「化学触媒」は、たとえば中間体化学種(これを経由して反応は完了まで進行し得る)の一部を形成することにより(特に、イオン性液体のアニオンを関与させて)、反応に参加するものである。好ましくは、本発明によれば、イオン性液体は、化学反応にそれ自体参加する化学触媒として用いられない。
【0060】
いくつかの場合において、化学改変はイオン性液体が用いられるところの系のpHの変化を含まないことが好ましくあり得る。
【0061】
改変は、好ましくは、系中に存在する別の流体に対して、特にかかる流体のpHに対してなされない。それは、好ましくは、系中に存在する溶解又は懸濁溶質に対してなされない。
【0062】
イオン性液体は、その予定使用中、存在する唯一のバルク液体であり得、あるいはそれは2種又はそれ以上の液体の混合物(必ずしもではないけれども、好ましくは単一相)として存在し得る。しかしながら、それは、別の流体中のイオン性塩(関係条件下でそれ自体は液体でない)の溶液とは対照的に、それ自体液体形態にあるイオン性物質の形態で存在すべきである。
【0063】
かくして、イオン性液体は、系中に存在する総流体の任意の量、たとえば総量の50%又は75%又は90%又は95%までの量に相当し得る。いくつかの場合において、それは、系中に存在する流体の総量の25%若しくは20%若しくは10%若しくは5%又はそれどころか2%くらいの少量に相当し得る。本発明によれば、重要であることは、少なくともいくらかのイオン性液体が系中に存在しそして化学改変を受けることであり、しかして該改変は理想的には全体として系の変化をもたらすことになる。
【0064】
本発明は、第1化学形態から第2化学形態に改変される少なくとも1種のイオン性液体の使用を要求する。しかしながら、イオン性液体の混合物が用いられ得、しかしてそれらのイオン性液体の一つ又はそれ以上は、全体の混合物の関係性質が精密に調節され得るように化学的に改変される。化学改変を受けるイオン性液体に加えて、1種又はそれ以上の他の液体が系中に存在し得る。
【0065】
少なくとも1つの改変(第1化学形態から第2化学形態へ)が要求されるが、しかし本発明はまた、事情に応じて1つ又はそれ以上の更なるかかる改変(たとえば、第3、第4又は更に更なる化学形態のイオン性液体へ)の実行を包含する。
【0066】
本発明において用いられるイオン性液体はアニオン及びカチオンから成り得、あるいはそれは同じ分子において正電荷及び負電荷の両方を担持するツビッターイオンから成り得る。最も普通には、イオン性液体はアニオン及びカチオンを含む。
【0067】
一般に、イオン性液体は、任意のイオン性液体、すなわち関係条件下で液体である任意のイオン性物質であり得る。
【0068】
しかしながら、イオン性液体は、好ましくは窒素をベースとしたカチオン、一層好ましくはアンモニウムカチオン(適当には、第2級、第3級又は第4級アンモニウムカチオン)、ピラゾリウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン及びトリアジニウムカチオンから選択された核をベースとしたものを含む。その代わりに、イオン性液体は、ホスホニウムイオンのようなリンをベースとしたカチオンを含み得る。かかるカチオンは、任意の炭素、窒素又はリン原子において、任意の(シクロ)アルキル、(シクロ)アルケニル、(シクロ)アルキニル、アルコキシ、アルケンジオキシ、アリール、アリールアルキル、アリールオキシ、アミノ、アミノアルキル、チオ、チオアルキル、ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、オキソアルキル、カルボキシル、カルボキシアルキル、ハロアルキル又はハロゲン(あらゆるそれらの塩、エーテル、エステル、五価窒素若しくはリン誘導体又は立体異性体を含めて)により置換され得る。要求される場合そして可能である場合、これらの部分のいずれかは、アルケニル、ヒドロキシル、アルコキシ、アミノ、チオ、カルボニル及びカルボキシル基から成る群から選択された官能基を含み得る。
【0069】
特に好ましいイオン性液体は、アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム及びピロリジニウムカチオンから選択された随意に置換された核をベースとしたものである。
【0070】
イオン性液体は、特に、第2級又は第3級アンモニウムカチオンを含み得、そして該アンモニウムカチオンは、好ましくは、エタノール、プロパノール、アルコキシエチル又はアルコキシプロピル好ましくはエタノール又はアルコキシエチル基のような少なくとも1個のアルカノール又はアルコキシアルキル(好ましくは、メトキシアルキル)基でN−置換される。かかるカチオンは、追加的に、C1〜C6アルキル基特にメチル、エチル又はプロピル好ましくはメチル又はエチルのような1又は2個のアルキル基によりN−置換され得る。かくして、好ましいイオン性液体は、アルカノールアンモニウム(アルキルアルカノールアンモニウム及びジアルキルアルカノールアンモニウムを含めて)カチオン若しくはジアルカノールアンモニウム(アルキルジアルカノールアンモニウムを含めて)カチオン又はアルコキシアルキルアンモニウム(アルキルアルコキシアルキルアンモニウム及びジアルキルアルコキシアルキルアンモニウムを含めて)カチオン若しくはジ(アルコキシアルキル)アンモニウム(アルキルジ(アルコキシアルキル)アンモニウムを含めて)カチオンを含み得る。各場合において、アルキル又はアルコキシ基は好ましくは1から4個又は1から3個の炭素原子を含有し、そしてアルカノール基は好ましくは2から4個又は2から3個の炭素原子を含有する。
【0071】
イオン性液体のアニオンもまた、任意のタイプであり得る。アニオン及びカチオンの両方についての選択に対する唯一の理論的束縛はそれらの総合イオン重量であり、そして該総合イオン重量はイオン性液体の融点を所望温度未満に保つのに適していなければならない。
【0072】
好ましくは、アニオンは、ハロゲン化物(たとえば、フッ化物又は塩化物特に塩化物);ヘキサフルオロホスフェート又はテトラフルオロボレートのようなハロゲン化無機アニオン;トリフルオロアセテートのようなハロゲン化有機アニオン;ニトレート;サルフェート;カーボネート;スルホネート;及びカルボキシレートから選択される。スルホネート及びカルボキシレートのアルキル基はC1からC20好ましくはC1からC6アルキル基から選択され得、そして任意の位置において任意のアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルケンオキシ、アリール、アリールアルキル、アリールオキシ、アミノ、アミノアルキル、チオ、チオアルキル、ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、カルボニル、オキソアルキル、カルボキシル、カルボキシアルキル又はハロゲン基(あらゆるそれらの塩、エーテル、エステル、五価窒素若しくはリン誘導体又は立体異性体を含めて)で置換され得る。
【0073】
たとえば、アニオンは、塩化物、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、トリフルオロアセテート、メタンスルホネート、グリコレート、ベンゾエート、サリチレート、(±)−ラクテート、(+)−ラクテート、(−)−ラクテート、(+)−パントテネート、(±)−タルトレート、(+)−タルトレート、(−)−タルトレート、(±)−ヒドロゲンタルトレート、(+)−ヒドロゲンタルトレート、(−)−ヒドロゲンタルトレート、(±)−カリウムタルトレート、(+)−カリウムタルトレート、(−)−カリウムタルトレート、メソ−タルトレート、メソ−1−ヒドロゲンタルトレート、メソ−2−ヒドロゲンタルトレート、メソ−1−カリウムタルトレート及びメソ−2−カリウムタルトレートから選択され得る。
【0074】
本発明において用いられるイオン性液体は、公知の方法を用いて合成され得る。これらは、Koelの一般方法(M.Koel,「ジアルキルイミダゾリウムカチオンをベースとしたイオン性液体の物理的及び化学的性質」,Proc. Estonian Akad. Sci. Chem.,2000,49(3),145〜155が参照される)及びFullerの一般方法(J.Fuller、R.T.Carlin、H.C. de Long及びD.Haworth,「1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートの構造: 室温溶融塩についてのモデル」,J. Chem. Soc., Them. Comm.,1994,299〜300が参照される)から適合された方法を包含する。たとえば、等モル量の複素環式アミン及び関係アルキルハライドが、所要カチオンの対応するハロゲン化物を発生させるために長期間一緒に還流され得る。金属炭酸塩が所望アニオンの酸前駆体と反応され得(対応する金属塩を発生させるために)、しかして該対応する金属塩は次いで上記のハロゲン化物が水溶液にて添加されながら水中に溶解又は懸濁され得る。数時間の撹拌後、金属ハロゲン化物(不溶性であるならば)は濾過により除去され得、そして分析(たとえば、1H−NMR及びUV−VIS/FT−IR分光光度法により)に先立って、イオン性液体は精製され(必要ならば、可溶性金属ハロゲン化物を除去するために溶媒抽出により)そして乾燥され得る。
【0075】
イオン性液体を合成する方法はまた、「新規の室温イオン性液体の製造及び特徴付け」,Luis C.Branco等,Chem. Eur. J.,2002,,3671〜3677及び「ツビッターイオン性型溶融塩及びそれらのポリマー中のイオン電導」,Yoshizawa等,J. Mater. Chem.,2001,11,1057〜1062に開示されている。任意の他の適当な合成方法が用いられ得、たとえば「室温イオン性液体,合成用溶媒及び触媒作用」,T.Welton,Chemical Reviews,1999,99,2071〜2083(特に、第2072頁)において言及されているものである。
【0076】
本発明の方法は、広範囲の用途があり得る。たとえば、第1及び/又は第2予定目的は、1種又はそれ以上の他の実在物用の担体流体特に溶媒としての使用のためであり得る。一般に、かかる実在物は、イオン性液体の二つの化学形態と異なって相互作用する。イオン性液体は実在物が溶解されるところの溶媒であり得、あるいはそれは実在物が懸濁されるがしかし溶解されないところの懸濁媒質であり得る。それは、実在物用の貯蔵又は輸送媒質として用いられ得る。それは、少なくとも1つの化学変換が行われるところの反応媒質を構成し得る。その代わりに、それは、溶解又は懸濁実在物が保持される(たぶん、かかるものからのその分離又は精製の前)がしかしいかなる化学変換も受けないところの抽出、分離又は精製プロセスにおいて用いられ得る。
【0077】
かくして、本発明の一つの具体的態様によれば、第1化学形態のイオン性液体は、抽出されるべき標的化学種(たとえば、精油、又は植物物質から抽出されるべき他の天然に存在する化学種)用の溶媒として用いられ得る。引き続いて、イオン性液体は、標的化学種が不溶であるか又は比較的可溶でないところの第2化学形態に化学的に改変され、かくして2種の異なる液体媒質を用いる必要なしに標的化学種の分離及び採取を容易にする。その代わりに、第2化学形態は、依然として標的化学種を可溶化するために働き得るが、しかし標的化学種と共に共抽出された不純物をもはや溶解せず、かくして採取に先立ってそれらの除去を容易にする。
【0078】
溶媒としてのイオン性液体から標的化学種を分離及び/又は精製することはまた、イオン性液体の第1化学形態が第2溶媒(たとえば、水)と不混和性でありそして第2化学形態のイオン性液体への改変がイオン性液体を第2溶媒と混和性にする場合可能であり得る。改変は、その場合には、標的化学種を第2溶媒中に放出させるために用いられ得る。
【0079】
逆に、第1化学形態のイオン性液体がイオン性液体及び標的化学種と共に存在する第2溶媒と混和性である場合、標的化学種が二相の一方のみ中に存在しそしてそれ故その混合物からより容易に抽出され得るところの二相溶媒系を生じさせるために、第2溶媒と不混和性である第2化学形態にイオン性液体を改変することが用いられ得る。
【0080】
このタイプの系はまた、不純物、不所望副生成物、過剰の反応体及び任意の他の廃物質の除去(たとえば、沈殿又は相分離により)のために用いられ得る。一般的に言えば、その場合には、イオン性液体の改変は、混合物中に存在する相の数の変化を誘発するようなものであり得、たとえば、固相の沈殿、それまでは懸濁されていた固体の溶解、それまでは不混和性の2種の流体の混合及び/又は2つ若しくはそれ以上の離散相への流体混合物の分離を誘発することである。次には、これは、標的化学種を2つの相の間で分配するために(たとえば、それらの相の一方からその分離を可能にするために)用いられ得る。
【0081】
かかる技法は、標的化学種が追加的化学種(不純物のような)を含有する混合物から分離されるよう所望されるところの任意の精製プロセスにおいて用いられ得る。同様な態様で、本発明は、2種又はそれ以上の化学種を互いに分離する(たとえば、それらの各々を溶解するべきイオン性液体の能力を調節することにより)ために用いられ得る。かくして、イオン性液体は、一般に、任意の分離、抽出、精製又は類似のプロセスにおいて溶媒として用いられ得る。特に、本発明は、標的物質(精油、あるいは医薬及び/又は栄養の用途がある分子)を植物物質から抽出するために又はたとえば製紙中に木材パルプから標的物質を抽出するために用いられ得る。
【0082】
本発明の第2具体的態様において、イオン性液体は、化学(この用語は生化学を包含する)反応剤用の反応媒質として用いられる。その使用中、イオン性液体中に担持された少なくとも1種の化学実在物は化学的に変換される−この変換はイオン性液体の第1化学形態及び第2化学形態の一方又は両方中で起こり得るが、しかし典型的にはそれはこれらの化学形態の一方中においてのみ進行する。
【0083】
かかる場合において、イオン性液体の改変は、変換(反応)のある側面、たとえばその速度(極端には反応が全く進行しないかどうかを含めて)、その効率及び/又は収率、反応に関与する任意の平衡のバランス、反応に参加する又は反応により生成される任意の化学種の安定性及び/又は溶解性、並びに/あるいは反応及びその生成物の特質に影響を及ぼすために用いられ得る。
【0084】
たとえば、本発明による一つの使用は反応媒質としてのイオン性液体の使用であり、しかしてある一つの化学変換が反応媒質としての第1化学形態のイオン性液体中で行われ、この化学変換中又は後に該イオン性液体の改変が行われ、そして次いで第2化学変換が反応媒質としての第2化学形態のイオン性液体中で行われる。本発明のこの側面は、第1反応工程が第1化学形態のイオン性液体中で適切に行われ得るがしかしこの第1化学形態の性質が第2反応工程を行うためには不適当又は不適切−たとえばその極性、その溶媒和能及び/又は存在する化学種の一つ若しくはそれ以上とのその相互作用に因り−であるところの多工程化学変換にとって特に有益であり得る。通常、かかる場合において、慣用の有機又は水性溶媒を用いるときは、第1化学変換の中間生成物を反応媒質から除去すること及び全く別個の反応媒質を第2化学変換のために与えることが必要である。しかしながら、本発明は、中間精製及び/又は存在する化学種のいずれかの除去の必要なしに、反応媒質それ自体の性質をその場で改変することによりこの工程の必要性を取り除き得る。
【0085】
イオン性液体の改変は、化学変換それ自体の変化を果たすために、たとえば反応工程を開始する、抑制する又はそうでなければ調節するために用いられ得る。必要である場合、改変は、反応工程にとって適当な溶媒であるところの第1化学形態からその反応工程にとって溶媒として比較的適当でないところの第2化学形態へイオン性液体を変化させ得、かくして該反応工程を抑制又はそれどころか所望時点にて停止され得るようにする。逆に、改変は、反応工程を開始又は加速し得る。
【0086】
多工程反応における2つより多い工程を所望順序で進行し得るようにする及び/又は各工程を適切な反応媒質中で行われ得るようにするように、イオン性液体は、上記に記載されたようにして1回より多く改変され得る。
【0087】
かくして、イオン性液体は、化学反応剤が該液体の化学形態の一方中において他方の化学形態中においてより活性である1種又はそれ以上の化学反応剤用の担体として用いられ得る。イオン性液体を改変することは、その場合には、化学反応を誘発するか若しくは停止するかのどちらかのために、又はそうでなければ反応の時間及び速度を適度にするために用いられ得る。好ましくは、諸反応剤の少なくとも一つはイオン性液体の化学形態の一方中において不活性であるが、しかし他方の化学形態中において活性である。たとえば、かかる反応剤は、そのイオン性液体環境の化学形態を改変することにより活性化又は不活性化され得る触媒特に酵素であり得る。
【0088】
イオン性液体の改変は、諸反応剤の一つ又はそれ以上の反応剤の反応性・活性に影響を与えることによる以外のやり方で、たとえば反応が起こることにより通じるか又は比較的通じないかのどちらかである環境を与えることにより、化学反応を制御するために用いられ得る。
【0089】
第1化学形態のイオン性液体が、それが担持する反応体がその中で反応し得ないようなものである場合、それは、反応が所望される時機まで反応体を担持しそして輸送するために用いられ得る。第2化学形態のイオン性液体への改変は、その場合には、反応を開始するように果たされ得る。これは、現地試験においてのような遠隔場所にて反応が行われる必要がある場合に又は携帯診断試験キットを用いる場合に有用であり得る。それは、反応体が酵素のような生物学的物質を含む場合に特に有用であり得る。
【0090】
逆に、化学変換は第1化学形態のイオン性液体中で行われ得、そして次いで第2化学形態のイオン性液体への改変時に反応は停止され得、また生成物は潜在的に貯蔵され且つ安定に保たれ得る。やはり、これは、診断試験キットにおいて、分析が行われ得る時機まで試験結果の安定性を保証するために有用であり得る。
【0091】
潜在的に、関係化学変換は、イオン性液体の二つの異なる形態中で異なる速度にて行われ得又は異なる収率を与え得、しかしてやはり本発明を反応速度及び生成物に影響を及ぼすために用いられ得るようにする。
【0092】
第3具体的態様において、第1化学形態のイオン性液体はそれが担持する出発物質を第1生成物に変換され得るようにするようなものである一方、イオン性液体の第2化学形態は同じ出発物質が第2の異なる生成物に変換されるようなものである。イオン性液体の改変は、その場合には、行われる反応の特質を任意の所与時機にそしてかくして関係生成物の特質及び収率を変えるために用いられ得る。
【0093】
これらのやり方での反応媒質としてのイオン性液体の使用は、化学合成(特にもっぱらでないけれども製薬物質のそして一層特には生物学的反応剤が関与する場合の化学合成)のあらゆる態様において用途があり得る。
【0094】
本発明の第4具体的態様において、反応媒質としての第1化学形態のイオン性液体中で化学反応を行い、そして次いで存在する化学種の一つ又はそれ以上(典型的には、所望反応生成物又は不純物若しくは反応副生成物)がもはや可溶でないところの第2化学形態にイオン性液体を改変することが可能であり得る。かかる改変は、関係化学種を沈殿させ、かくして反応混合物からのその除去を容易にするために用いられ得る。
【0095】
一般的に言えば、本発明は、別のプロセス(典型的には、化学反応又は抽出若しくは分離プロセス)がイオン性液体中で行われた後のそのイオン性液体中に存在するいずれかの化学種の分離、単離及び/又は除去を容易にするために、このやり方で用いられ得る。
【0096】
本発明の第5具体的態様において、イオン性液体は、機械的、電気的、電子的及び/又は光学的(電気光学的を包含し得る)プロセスにおいて流体として用いられ得る。たとえば、それは、作動液として、潤滑剤として、導体として、絶縁体として、電気泳動において、あるいは光を伝送する、受け取る及び/又は改変するシステム(たとえば、光を濾過する又は偏向するシステム)において用いられ得る。それはまた、リソグラフィー技法においてマスクとして用いられ得る。一般に、液体環境が必要とされるところのそしてイオン性液体の性質がその化学改変の前及び後の両方において適合させられるところの任意の用途において、イオン性液体は用いられ得る、ということが当業者に明らかであろう。
【0097】
かくして、本発明は、とりわけ化学合成、工業的化学反応及び精製プロセス、環境改善、並びにパイプ反応の終わりにおいて、イオン性液体の使用に広く適用可能であり得る、ということが分かり得る。
【0098】
上記に記載されたように、本発明によれば、第1及び第2予定目的は、典型的には、同属のタイプである。すなわち、第1化学形態のイオン性液体は、第2化学形態のイオン性液体と同属の目的のために(たとえば、担体、機械的流体、電気的流体、光学的流体、等として)用いられ得る。
【0099】
本発明の第2及び後続の側面の好ましい特徴は、先行の側面のいずれかに関連して記載されたとおりであり得る。
【0100】
本発明の他の特徴は、次の実施例から明らかになろう。一般的に言えば、本発明は、本明細書(いずれかの添付の請求項を含めて)に開示された特徴のいずれかの新規なもの又はいずれかの新規な組合わせに及ぶ。更に、別段記述されていなければ、本明細書に開示されたいずれかの特徴は、同じ又は同様な目的にかなう代替特徴により置き換えられ得る。
【0101】
実施例
実施例1 − 保護基の付加/除去
イオン性液体内の活性官能基の化学保護基の付加/除去は、該液体の物理的及び化学的性質をその場で劇的に且つしばしば可逆的に変えるべき潜在性を呈する。
【0102】
たとえば、ヒドロキシル側鎖(アンモニウムをベースとしたカチオンにおいてのような)を担持するイオン性液体について、該液体の物理化学的性質を変化させるために、シリル保護基が付加又は除去され得る。
【0103】
この実施例において、用いられたイオン性液体は、3−HOPMIm・PF6(ヘキサフルオロホスフェートアニオンを有する3−ヒドロキシプロピルメチルイミダゾリウムカチオン)であった。
【0104】
a)保護
乾燥3−HOPMIm・PF6(2.86g,10mmol)を丸底フラスコ中に入れ、そして50mlの乾燥THF中に溶解した。乾燥アルゴンの雰囲気下で、外部冷却及び撹拌しながら、乾燥トリメチルシリル(TMS)クロライド(1.05g)を乾燥THF溶液中に、30分の期間にわたって滴下的に添加した。撹拌を12時間続行した。
【0105】
反応の完了(TLC)時に、溶媒を真空中で除去して、シリル保護イオン性液体(3.52g,98%)すなわち3−TMSOPMIm・PF6が得られた。この物質は、水と事実上不混和性である高密度の粘稠な淡帯褐色液体であった。
【0106】
b)脱保護
3−TMSOPMIm・PF6(3g)をテトラエチルアンモニウムフルオライド(NEt4F)の水溶液(10ml中1.5g)に添加し、そして室温にて30分間振とうした。この期間の終わりに、初期には二相のこの混合物は均質になっていた。真空中での水の除去により、3−HOPMIm・PF6プラス残留NEt4F中の脱保護の生成物(NEt4OH及びTMSF)の溶液が得られた。
【0107】
実施例2 − 保護基の付加/除去
2モル当量のシリルハライドを用いたこと以外は実施例1に記載されたのと同じやり方で、N,N−ジエタノールアンモニウムメタンスルホネートを保護した。このシリル化物質の水混和性は実施例1の一保護3−HOPMImについて観測されたそれより実質的に大きかったが、しかしN,N−ジエタノールアンモニウムメタンスルホネートの未保護形態についてよりはるかに低かった。粘度及び融点もまた、保護工程により劇的に上げられた。かくして、この場合において、化学改変(保護/脱保護)は、相変化を誘発するために及びおそらく固体マトリックスと液体溶媒媒質との間で溶質の捕捉又は放出を可能にするために用いられ得る。
【0108】
実施例3 − 相変化を誘発するべきイオン交換
イオン性液体のアニオン又はカチオンはイオン交換樹脂を用いて変えられ得、そして生じた改変イオン性液体は未改変形態とは異なる物理化学的性質を有し得る。かかる性質変化は、イオンの交換が部分的のみである場合でさえ起こり得る。
【0109】
たとえば、HOPMIm・Cl(ヒドロキシプロピルメチルイミダゾリウムクロライド)は、次のようにDowexTM550A・OHの存在下でHOPMIm・OHに変換され得る。
【0110】
HOPMIm・Cl(14.5g)の溶液を、20.7gのアセトニトリル(MeCN,重量により41.2%〜58.8%)中に溶解した。32gのDowexTM550A・OH樹脂を含有するカラム(13.5cm×2cm)に、この溶液を通した。回収された溶液は二相にあり、しかして上相は>95%のMeCNであったのに対して、イオン性液体を含有する下相はわずか25.3%のMeCN(重量により)を担持していた。この生成物イオン性液体は、HOPMIm・ClとHOPMIm・OHの混合物(水中10%溶液のpH変化により決定して)であった。
【0111】
イオン交換のような化学改変が1つの流体相から2つの流体相を生じさせるために用いられ得る、ということがこの実施例から分かり得る。これは、次には、化学種を2つの相間で分配するために、特に溶質を2つの異なる液体相の間で分配するために用いられ得る。
【0112】
実施例4 − 粘度及び屈折率を変えるべきイオン交換
イオン交換樹脂を用いてイオン性液体n−ブチルジエタノールアンモニウムトリフルオロアセテートを対応するアセテートに転化するために、実施例3の方法と同様な方法を用いた。イオン性液体の屈折率及び粘度に対する転化の効果を観測した。
【0113】
Mettler Toledo RefractoTM30PXを用い、単波長光源(589.3nmにおけるナトリウムD線)を用いて、屈折率を測定した。AND VibroTMSV10機器(液体中に沈められたセンサー板の振動の振幅を制御して、該板を動かすのに必要とされる電流の変化を検出することにより、粘度を測定する)を用いて、粘度を測定した。
【0114】
n−ブチルジエタノールアンモニウムトリフルオロアセテート出発物質は、1.434の屈折率及び25℃において約440mPa.sの粘度を有していた。
【0115】
イオン交換樹脂を調製するために、約50mlのDowexTM550A・OHアニオン交換樹脂を約25mlの酢酸(濃厚)に添加した。これを定期的に撹拌しながら25℃にて30分間放置して平衡化させた。次いで、酸を濾過により除去し、そしてこれらのイオン交換ビーズをエタノールで3回洗浄しそして真空濾過により乾燥した。
【0116】
10mlのn−ブチルジエタノールアンモニウムトリフルオロアセテートをビーカー中で約50℃に加熱し、そして約25gの調製DowexTMアセテートをこれらのビーズがイオン性液体中に完全に沈められるように添加した。この混合物を定期的に振とう/撹拌しながら30℃にて約1時間放置して平衡化させた。かくして改変されたイオン性液体のサンプルを、残留エタノールを除去するべき真空濾過及び回転蒸発により回収した。
【0117】
この改変イオン性液体は、1.447の屈折率及び25℃において約280mPa.sの粘度を有することが分かった。純n−ブチルジエタノールアンモニウムアセテートの性質(屈折率1.464,粘度25℃において約285mPa.s)との比較により、これは出発物質が対応するアセテートにほとんど完全に転化されていたことを指摘した。
【0118】
表1は、これらの結果を要約する。
【表1】

【0119】
とりわけイオン性液体の屈折率及び粘度を改変するために、イオン交換プロセスが用いられ得る、ということが分かり得る。イオン交換が完了される程度は、得られる性質に影響を及ぼし得る。従って、イオン性液体に対する化学改変の度合いは、その改変形態の物理化学的性質を注文どおりにするために用いられ得る。
【0120】
これらのような変化は、あらゆる態様の用途において有用であり得る。たとえば、粘度の変化はイオン性液体が作動液又は潤滑剤として用いられる場合に、屈折率の変化はイオン性液体が電気光学的システムにおいて用いられる場合に価値があり得る。かかる変化は、たとえば系の温度又は圧力を変える必要なしに、化学的にもたらされ得る。
【0121】
実施例5 − 可溶化力を変えるべきイオン交換
この実施例において、ペニシリンG(ナトリウム塩)用の溶媒として働くべきイオン性液体の能力に対する改変の効果を査定するために、イオン性液体ジメチルエタノールアンモニウムトリフルオロアセテートをイオン交換によりジメチルエタノールアンモニウムクロトネートに転化した。
【0122】
約50mlのエタノール中のクロトン酸(10.0g)に、40.3gのDowexTM550A・OHアニオン交換樹脂を添加した。この混合物を定期的に振とうしながら室温にて約30分間放置して平衡化させた。次いで、これをエタノールで3回洗浄し、そして真空濾過により乾燥した。
【0123】
かくして調製されたDowexTMクロトネートビーズ(約25g)に、ジメチルエタノールアンモニウムトリフルオロアセテート/エタノール(25/75 v/v)中のペニシリンG(ナトリウム塩)の溶液16mlを添加した。この溶液中のペニシリン濃度は、60mg/mlであった。エタノールは、部分的には溶液の粘度を低減しそして従ってプロセスを加速するために及び部分的にはイオン交換ビーズを収容するのを助けるために(実験はビーカー規模にて行われたので)用いられた。実験はまた、より少ないエタノールを用いて又はそれどころか溶媒として純ジメチルエタノールアンモニウムトリフルオロアセテートを用いてさえうまくいったであろう。
【0124】
DowexTM/イオン性液体/エタノール/ペニシリン混合物を室温にて撹拌した。ペニシリンは、数秒内で沈殿し始めた。
【0125】
純ジメチルエタノールアンモニウムトリフルオロアセテート中のペニシリンG(ナトリウム塩)の溶解度は、>275mg/mlである。ジメチルエタノールアンモニウムトリフルオロアセテート/エタノール(25/75 v/v)中において、その溶解度は76mg/ml(すなわち、易溶性)である。
【0126】
しかしながら、純ジメチルエタノールアンモニウムクロトネート中の上記の抗生物質の溶解度はわずか約20mg/mlであり、そしてジメチルエタノールアンモニウムクロトネート/エタノール(25/75 v/v)中においてその溶解度は約50mg/mlであると分かった。かくして、溶媒のイオン性液体成分のトリフルオロアセテートからクロトネートへの改変は該抗生物質の溶解度を有意に変えて、究極的にはその沈殿に通じた。
【0127】
このように、本発明の方法は、化学種の混合物から標的化学種(たとえば、反応生成物又は不所望不純物のどちらか)を選択的に沈殿させるために用いられ得、そして次には反応生成物又は抽出物質の採取を援助し得る。
【0128】
実施例6 − 酵素活性に対する改変の効果
本発明によるイオン性液体の化学改変は、該液体中に保持された化学種の活性を改変するためにそしてかくして該液体中で行われる反応の特質及び/又は速度を調節するために用いられ得る。
【0129】
ある範囲のイオン性液体中の補因子依存性酵素モルフィンデヒドロゲナーゼ(MDH)の活性が表2に示されている(出典: Walker & Bruce,Chem. Commun.,2004,2570〜2571)。関係反応は、NADP+補因子を再循環するためにクリプトコックス・ユニグッツラツス(Cryptococcus uniguttulatus)からのグルコースデヒドロゲナーゼを用いての、コデイノンへのコデインの酸化であった。それは、<100ppmの水の存在下で行われた。モルフィンデヒドロゲナーゼは、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)M10から得られた。
【0130】
【表2】

【0131】
イオン性液体溶媒におけるアニオンをたとえば上記の実施例に記載されたようなイオン交換により改変することにより、イオン性液体中に担持された酵素の活性について有意な変化が達成され得る、ということが表2から分かり得る。これは、次には、該液体中で起こる酵素触媒反応の進行を調節する(たとえば、反応を所望の時機及び/又は場所にて開始する、必要な時に反応を停止する並びに/あるいは反応速度を要件に従って改変することにより)ために用いられ得る。
【0132】
たとえば、BMIm・PF6中でMDH活性は極めて低く、反応が進行するためには水が必須である。しかしながら、水素結合性BMImグリコレート中で、活性は大いに改善される。かくして、PF6アニオンとグリコレートアニオンとの間の改変(たとえば、イオン交換による)は、MDH触媒反応用のオン/オフスイッチとして効果的に用いられ得る。
【0133】
HOPMIm塩の場合において、反応速度は存在するアニオンを変えることにより改変され得、しかして塩化物は非常に小さい活性を、グリコレートは中レベルの活性を、そしてヘキサフルオロホスフェートは高レベルの活性を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体を用いる方法であって、
(a)第1化学形態を有するイオン性液体を用意し、
(b)第1化学形態のイオン性液体を第1予定目的のために用い、
(c)第1化学形態のイオン性液体を第2化学形態に変化させるようにそれを化学的に改変し、そして
(d)第2化学形態のイオン性液体を第2予定目的のために用いる
ことを、上記順序で含む方法。
【請求項2】
第1予定目的と第2予定目的が異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1予定目的と第2予定目的が、同属のタイプである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1及び/又は第2予定目的が、1種又はそれ以上の化学種用の担体としてのイオン性液体の使用を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第1及び/又は第2予定目的が、1種又はそれ以上の化学種用の溶媒としてのイオン性液体の使用を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第1及び/又は第2予定目的が、反応媒質としてのイオン性液体の使用を含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
第1及び/又は第2予定目的が、触媒反応用媒質としてのイオン性液体の使用を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応が、酵素触媒される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
イオン性液体の改変が、その中で起こっているか又はまさに起ころうとする反応の少なくとも1つの性質を変える、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
イオン性液体の改変が、その中で起こっているか又はまさに起ころうとする反応の速度を変える、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
反応が、イオン性液体の第1化学形態及び第2化学形態のうちの一方のみ中で進行する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
イオン性液体の改変が、その中で起こっているか又はまさに起ころうとする反応の収率を変える、請求項6〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第1反応を第1化学形態のイオン性液体中で行い、そして引き続いて第2の異なる反応を第2化学形態のイオン性液体中で行う、請求項6〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
イオン性液体の改変が、それが担持する化学種の一つ又はそれ以上を可溶化するその能力を変える、請求項4〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
イオン性液体の改変が、それが担持する化学種の一つ又はそれ以上の反応性を変える、請求項4〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
イオン性液体により担持された化学種の一つが、イオン性液体の第1化学形態又は第2化学形態のどちらか中で不活性である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
イオン性液体の改変が、イオン性液体とそれが担持する化学種との間での相分離をもたらすことになる、請求項4〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
第1及び/又は第2予定目的が、機械的プロセスにおけるイオン性液体の使用を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
第1及び/又は第2予定目的が、作動液としてのイオン性液体の使用を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
第1及び/又は第2予定目的が、潤滑剤としてのイオン性液体の使用を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
第1及び/又は第2予定目的が、電気的プロセスにおけるイオン性液体の使用を含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
第1及び/又は第2予定目的が、電気的導体若しくは絶縁体としての又は電気泳動におけるイオン性液体の使用を含む、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
第1及び/又は第2予定目的が、熱的導体又は絶縁体としてのイオン性液体の使用を含む、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
第1及び/又は第2予定目的が、光学的プロセスにおけるイオン性液体の使用を含む、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
第1予定目的から第2予定目的への使用変化を容易にするために、イオン性液体の改変が使用者により計画的に行われる、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも第2予定目的が、イオン性液体の環境の変化がイオン性液体をその第1化学形態から第2化学形態に改変するところの該環境の変化を検出するために、センサー及び/又はインジケーターとしてのイオン性液体の使用を含む、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
イオン性液体の改変が、イオン性液体が第2予定目的のために用いられるために必要である、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
イオン性液体の改変が、第1及び第2予定目的のためのイオン性液体の使用とは別個である、請求項1〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
イオン性液体の第1化学形態及び第2化学形態の両方が、それらのそれぞれの操作温度において液体形態にある、請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
イオン性液体の第1化学形態及び第2化学形態の少なくとも一方が、40℃未満において液体形態で存在することが可能である、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
イオン性液体の第1化学形態及び第2化学形態の少なくとも一方が、室温において液体形態で存在することが可能である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
イオン性液体の第1化学形態及び第2化学形態の両方が、関係温度において液体形態で存在することが可能である、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
イオン性液体の改変が、その物理化学的性質の少なくとも一つを変える、請求項1〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
イオン性液体の改変が、化学反応性、極性、解離定数、ルイス又はブレンステッド酸度及び塩基度、水素結合を受容する及び供与する能力、電子を受容する及び供与する能力、レドックス電位、キラリティー、融点又は凝固点、沸点、粘度、表面張力、比熱容量及び他の熱力学的性質、電磁的性質、誘電率、電磁スペクトルの任意の部分における吸光度、屈折率及び他の光学的性質、電気的及び熱的伝導性、溶媒和親和力、並びにそれらの組合わせから成る群から選択された性質を変える、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
イオン性液体の改変が、その化学反応性を変える、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
イオン性液体の改変が、その極性、その解離定数、そのルイス又はブレンステッド酸度及び塩基度、水素結合を受容する及び供与するその能力、電子を受容する及び供与するその能力並びにその溶媒和親和力の一つ又はそれ以上を変える、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
イオン性液体の改変が、その凝固点を変える、請求項34〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
イオン性液体の改変が、その粘度及び/又は表面張力を変える、請求項34〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
イオン性液体の改変が、その屈折率を変える、請求項34〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
イオン性液体の改変が、その第1予定使用及び/又はその第2予定使用中に存在する別の流体とのその混和性を変える、請求項34〜39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
イオン性液体の改変が、その熱的及び/又は電気的伝導性を変える、請求項34〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
イオン性液体の改変が、電磁スペクトルの任意の部分におけるその吸光度を変える、請求項34〜41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
イオン性液体の改変が、その物理形態の変化をもたらすことになる、請求項1〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
第1予定目的又は第2予定目的のどちらかが、固体マトリックス中に化学種を担持するためのイオン性液体の使用を含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
イオン性液体の改変が、そのアニオン及び/又はカチオンの少なくとも一部の置換を含む、請求項1〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
イオン性液体の改変が、そのアニオンの少なくとも一部の置換を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
イオン性液体の改変が、イオン性液体の構造の少なくとも一部の化学変換を含む、請求項1〜46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
化学変換が、化学反応により直接的に遂行される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
化学変換が、非化学手段により誘発される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
化学変換が、イオン性液体のイオンの一つにおける置換基の変換を含む、請求項47〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
化学変換が、保護基の付加又は除去を含む、請求項47〜50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
化学変換が、イオン性液体のイオンの一つ内の結合の開裂又は形成を含む、請求項47〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
化学変換が、ポリマー、オリゴマー又はダイマーのイオン性液体の形成又は分解を含む、請求項47〜52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
イオン性液体の改変が、イオン性液体の基本格子単位において共溶媒を全部又は一部分付加する、除去する又は置き換えることを含む、請求項1〜53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
イオン性液体の改変が、その温度及び/又は圧力の実質的変化なしに果たされる、請求項1〜54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
イオン性液体の改変が一工程変換である、請求項1〜55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
イオン性液体の改変が、少なくとも部分的に可逆である、請求項1〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
イオン性液体の改変が不可逆である、請求項1〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
イオン性液体の改変中、第1化学形態のイオン性液体の少なくとも25モル%が第2化学形態に変化される、請求項1〜58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
イオン性液体の改変中、第1化学形態のイオン性液体の少なくとも75モル%が第2化学形態に変化される、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
イオン性液体の改変中、第1化学形態のイオン性液体の実質的にすべてが第2化学形態に変化される、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
イオン性液体の改変が、イオン性液体の2つの異なる化学形態の混合物をもたらすことになる、請求項1〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
イオン性液体の改変が、プロセスの速度を改変するために用いられる、請求項1〜62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
イオン性液体の改変が、プロセス用のオン/オフスイッチとして用いられる、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
プロセスが、化学又は生化学反応である、請求項63又は64に記載の方法。
【請求項66】
反応が触媒される、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
イオン性液体の改変が、ある期間にわたってのイオン性液体からの化学種の放出を制御するために並びに/あるいはその放出の目標を所望の時機及び/又は場所にするために用いられる、請求項1〜66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
イオン性液体の改変が、標的化学種を混合物中に存在する他の化学種から分離するために用いられる、請求項1〜67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
イオン性液体の改変が、混合物中に存在する相の数の変化を誘発する、請求項1〜68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
イオン性液体の改変が、第1予定目的のためのその使用に続いてその場で行われる、請求項1〜69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
イオン性液体に対する1つ又はそれ以上の更なる化学改変を含む、請求項1〜70のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−515619(P2008−515619A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535237(P2007−535237)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003848
【国際公開番号】WO2006/038013
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(503372842)ケンブリッジ エンタープライズ リミティド (32)
【Fターム(参考)】