説明

イオン源

【課題】従来のイオン源に比べて電極枚数が少ないにも関わらず、従来のイオン源と同等の機能を有する新規なイオン源を提供する。
【解決手段】イオン源1は、下流側(Z方向側)からの電子の流入を抑制する抑制電極を備えていないイオン源1である。そして、イオンビーム3の引出し方向(Z方向)に沿って配置された複数枚の電極(5、6、7)と、それら電極(5、6、7)の下流側(Z方向側)に配置され、イオン源1より引出されたイオンビーム3を横切る磁界を発生させる少なくとも一対の磁極14を有する磁界発生手段11とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源の下流側よりイオン源に流入する電子を捕捉する磁界発生手段を備えたイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置やイオンドーピング装置、あるいはイオンビーム配向装置といったイオンビーム照射装置のイオン源には、イオンビームを引出す為に引き出し電極系と呼ばれる複数枚の電極で構成される電極群が用いられている。
【0003】
特許文献1の図2には、このような引出し電極系の例が開示されている。ここでは、引出し電極系を構成する電極として、プラズマ電極、引き出し電極、抑制電極、接地電極の4枚電極が用いられている。
【0004】
プラズマ電極は引き出すイオンビームのエネルギーを決める電極であり、引き出し電極はプラズマ電極との間に電位差を生じさせ、それによる電界によってプラズマからイオンビームを引き出す為の電極である。抑制電極はイオン源の下流側からイオン源に電子が流入するのを抑制する電極であり、電極の電位が接地電位に対して負電位となるように設定されており、これによって負の電荷を有する電子をイオン源の下流側へ追い返す機能を有している。そして、接地電極は電位を固定する為に電気的に接地された電極である。
【0005】
このような引出し電極系で用いられる電極の枚数は4枚に限定されていない。例えば、特許文献2の図1、図2にはプラズマ電極、抑制電極、接地電極からなる3枚の電極から構成される引き出し電極系が開示されており、このような引出し電極系を用いて、イオン源よりイオンビームの引出しが行われることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−115511(図2、段落0037〜段落0039)
【特許文献2】特開平5−82075(図1、図2、段落0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引出し電極系で用いられる各電極の電位を設定する為に、複数の電源が用いられている。このような電源は高価なものである為、出来るだけ使用したくないという要望がある。
【0008】
電源の数を減らす為には電極の枚数を減らすことが考えられるが、単純に電極を取り除くだけであればイオン源の機能に支障を来たしてしまう。
【0009】
そこで本発明では、従来のイオン源に比べて電極枚数が少ないにも関わらず、従来のイオン源と同等の機能を有する新規なイオン源を提供することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のイオン源は、下流側からの電子の流入を抑制する抑制電極を備えていないイオン源であって、イオンビームの引出し方向に沿って配置された複数枚の電極と、前記電極の下流側に配置され、前記イオン源より引出された前記イオンビームを横切る磁界を発生させる少なくとも一対の磁極を有する磁界発生手段とを備えていることを特徴としている。
【0011】
このような磁界発生手段を備えたイオン源であれば、従来のイオン源よりも電極枚数を少なくすることが出来るだけでなく、従来のイオン源と同等の機能を有することが出来る。
【0012】
また、磁界発生手段によって偏向されるイオンビームの進行方向を修正するには、前記磁界発生手段は、前記イオンビームの引出し方向に沿って異なる位置で、前記イオンビームを挟んで配置された一対の磁極を有する第一の磁極対と第二の磁極対とを備えているとともに、各磁極対間で発生される磁界の方向が互いに逆向きであることが望ましい。
【0013】
このような構成を採用すると、イオンビームの進行方向を修正することが出来る。
【0014】
さらには、前記第一の磁極対と前記第二の磁極対は磁性体で構成されており、各磁極対を構成する磁性体は永久磁石を介して連結されていることが望ましい。
【0015】
このような構成を採用すると、磁界発生手段を簡素な構成にしておくことが出来る。
【0016】
また、前記第一の磁極対間と前記第二の磁極対間とで発生される磁界によって、前記イオンビームに対して向きが逆向きで大きさが略等しいローレンツ力が働くことように構成しておいても良い。
【0017】
このような構成を採用すると、イオンビームが磁界発生手段を通過する前後で、イオンビームの進行方向をほぼ同一に保つことが出来る。その為、イオンビーム照射装置全体の光学系を容易に設計にすることが出来る。
【0018】
そのうえ、前記磁極には前記イオンビームの引出し方向と略直交する方向に延設された電極支持溝が形成されていても良い。
【0019】
このような構成を採用すると、磁界発生手段で電極を支持することが出来るので、電極の支持部材を特別に設けておく必要がない。
【0020】
また、前記電極と対向する前記磁極の面上に、最も下流側に配置される前記電極が配置されていても良い。
【0021】
このような構成を用いても、前述した構成と同様に磁界発生手段で電極を支持することが出来るので、電極の支持部材を特別に設けておく必要がない。
【発明の効果】
【0022】
従来の引出し電極系で用いられている抑制電極の代わりにイオン源の下流側からの電子の流入を抑制する磁界発生手段を用いているので、従来のイオン源よりも電極枚数を少なくすることが出来るだけでなく、従来のイオン源と同等の機能を有することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明で用いられるイオン源の一例を示す平面図である。
【図2】図1のイオン源をX方向からみた様子を表す平面図である。
【図3】磁界発生手段に電子が流入した時の様子を表す。
【図4】第一、第二の磁極対を有する磁界発生手段の他の例である。
【図5】一対の磁極を有する磁界発生手段の例である。
【図6】一対の磁極を有する磁界発生手段の他の例である。
【図7】磁界発生手段に形成された電極支持構造の一例である。
【図8】磁界発生手段に形成された電極支持構造の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、Z方向をイオン源より引き出されるイオンビームの引出し方向とし、Z方向に対して互いに直交する2方向をX方向、Y方向としている。また、本発明において下流側とは、イオンビーム引出し方向側(Z方向側)を意味する。
【0025】
図1には、本発明で用いられるイオン源の一例が示されている。このイオン源1はいわゆるバケット型イオン源と呼ばれるタイプのイオン源の一種である。
【0026】
このイオン源1は長方形状のプラズマ生成容器4を備えており、プラズマ生成容器4より略リボン状のイオンビーム3が引き出される。以下の実施例では、イオン源1より引き出されるイオンビーム3の形状を、X方向に長辺を有しY方向に短辺を有するものとして説明するが、本発明が適用されるイオン源1で用いられるイオンビーム3の形状はこれに限られない。
【0027】
プラズマ生成容器4には図示されないバルブを介してガス源2が取り付けられており、このガス源2よりイオンビーム3の原料となるガスの供給がなされる。なお、このガス源2には図示されないガス流量調節器(マスフローコントローラー)が接続されており、これによってガス源2からプラズマ生成容器4内部へのガスの供給量が調整されている。
【0028】
プラズマ生成容器4の一側面には、X方向に沿って複数のU字型のフィラメント8が取り付けられている。そして、フィラメント8の端子間に接続される電源Vを用いて、各フィラメント8に流す電流量の調整が行えるように構成されている。このような構成にしておくとこで、イオン源1より引き出されるイオンビーム3の電流密度分布の調整が可能となる。
【0029】
フィラメント8に電流を流し、当該フィラメント8を加熱させることによって、そこから電子が放出される。この電子が、プラズマ生成容器4内部に供給されたガスに衝突してガスの電離を引き起こし、プラズマ生成容器4内にプラズマ9が生成される。
【0030】
また、このイオン源1においては、プラズマ生成容器4の外壁に沿って複数の永久磁石12が取り付けられている。この永久磁石12によって、プラズマ生成容器4の内部領域にカスプ磁場が形成され、フィラメント8より放出された電子が所定領域内に閉じ込められる。
【0031】
イオン源1は引出し電極系として3枚の電極を有しており、プラズマ生成容器4からZ方向に沿ってプラズマ電極5、引出し電極6、接地電極7の順に配置されている。そして、これらの電極にはそれぞれ複数の孔が設けられており、これらの孔を通してイオンビーム3の引出しが行なわれる。これらの電極の機能は、従来技術で説明されている機能と同等である為、その説明は省略する。各電極とプラズマ生成容器4との電位は、複数の電源(V〜V)によって、それぞれ異なる値に設定されているとともに、各部材の取り付けは絶縁物10を介してなされている。なお、上述したプラズマ電極5は加速電極と呼ばれることもある。
【0032】
従来のイオン源には、上述した電極群の1つとして、接地電極の電位に対して500V程度の負電位に設定されている電極で、イオン源の下流側(本発明で言うところのイオン源よりZ方向側)よりイオン源に流入する電子を抑制する抑制電極が備えられているが、本発明ではこの抑制電極が備えられていない。その代わりに後述する磁界発生手段11が備えられている。
【0033】
抑制電極は、イオン源1より引き出されるイオンビーム3のエネルギーや広がりに影響を与えない電極である。また、抑制電極の電位設定に用いられる抑制電源には、引出し電極系の電極間で異常放電が起こった際に、大電流が流れてしまう可能性が高い。その為、抑制電源の容量を十分に大きなものにしておかなければならない。その場合、電源の価格も高価なものになってしまう。このような点に着目して、本発明ではイオン源の引出し電極系より抑制電極を削除している。
【0034】
本実施形態の磁界発生手段11は、Z方向に沿って第一の磁極対20と第二の磁極対21とを有しており、イオンビーム3は各磁極対20、21の間を通過している。図1には、このような磁極対20、21のイオンビーム3を挟んで配置される一方側の様子が描かれている。
【0035】
各磁極対20、21は個別の磁性体14により構成されており、異なる磁極対を構成する磁性体14は永久磁石13を介して連結されている。この図1に示される構成と同様のものが、イオンビーム3を挟んでY方向反対側にも設けられている。ただし、異なる磁極対を構成する磁性体14の間に設けられた永久磁石13の極性の向きは図1に示されているものと反対である。
【0036】
上述した構成の磁界発生手段11において、第一の磁極対20では、イオンビーム3に対しておおよそX方向に向けてF1のローレンツ力が働くことになる。一方で、第二の磁極対21では、イオンビーム3に対しておおよそX方向と逆方向に向けてF2のローレンツ力が働くことになる。このような構成にすることで、第一の磁極対20で偏向されたイオンビーム3を、第二の磁極対21で反対方向に曲げ戻すことが出来るので、イオンビーム3の進行方向を修正することが出来る。
【0037】
イオンビーム3の進行方向はイオンビーム照射装置で製造されるデバイスの微細化の程度やイオン源1の下流側に配置される光学要素(分析電磁石や加速管等)の性能や構成、あるいはイオン源1からイオンビーム3が照射されるターゲット(ウエハやガラス基板等)までの距離といった要素を総合的に考慮すると、必ずしもZ方向に平行でなければならないというものではない。
【0038】
イオンビーム照射装置の構成や製造するデバイスに応じた許容範囲が設けられているので、磁界発生手段11を通過した後のイオンビーム3の進行方向が、そのような許容範囲内に入るように修正されていれば十分である。その為、前述したイオンビーム3に働くローレンツ力F1とF2とは同じ大きさである必要はない。
【0039】
しかしながら、イオンビーム照射装置全体の光学設計を考えた場合、これを容易に行なうには、磁界発生手段11をイオンビーム3が通過する前後でその進行方向を略同一に保っておくことが望まれる。その為、このような観点からは、イオンビーム3に働くローレンツ力F1とF2とを略同一にしておくことが望まれる。
【0040】
なお、ローレンツ力F1とローレンツ力F2とが向きが反対で略等しい大きさを持つ場合、磁界発生手段11に入る前のイオンビーム3の中心軌道の位置A1と磁界発生手段11を出た後のイオンビームの3の中心軌道の位置A2とは、X方向において距離Dだけ離間することになる。ただし、この中心軌道のズレはあまり問題にならない。
【0041】
磁界発生手段11を用いて、イオン源1側への電子の流入を抑制する為には、数mTといった小さな磁束密度の磁界が形成出来れば十分である。イオン源1より引出されるイオンビーム3のエネルギーの値やイオンの種類にもよるが、磁界発生手段11でイオンビーム3が偏向される量はさほど大きなものにはならない。その為、距離Dの値もそれほど大きなものではない。
【0042】
距離Dの大きさはさほど大きなものではないが、それでもその値を小さなものにする必要がある場合には、第一の磁極対20と第二の磁極対21とのZ方向における間隔を狭めておけばよい。この場合、イオンビーム3は最初に偏向された後、すぐに逆方向に偏向されることになるので、距離Dの間隔を小さなものにすることが出来る。ただし、第一の磁極対20と第二の磁極対21との間隔を狭め過ぎると、永久磁石13で発生する磁場がイオンビーム3に影響することが考えられる。その為、第一の磁極対20と第二の磁極対21との間隔は、永久磁石13で発生した磁場がイオンビーム3に及ぼす影響を考慮した上で、適当なものに設定しておく必要がある。
【0043】
さらに、距離Dを見越して、予めイオン源1をX方向逆側にずらして配置しておいても良い。そのような配置にしておくことで、イオン源1より下流側に配置されたビーム光学系でイオンビーム3の中心軌道ずれによる影響を生じなくすることが出来る。
【0044】
図2には、図1のイオン源1をX方向から見た時の様子が描かれている。また、この図2ではプラズマ電極5やフィラメント8等に接続されている電源(V、V〜V)および接地(グランド)の記載を省略している。
【0045】
第一の磁極対20と第二の磁極対21とを構成する各磁性体14は、Y方向に沿ってイオンビーム3側に突出している。このように磁性体14を構成しておくことで、Z方向に引き出されるイオンビーム3を横切る磁界を容易に発生させることが出来る。
【0046】
また、第一の磁極対20に発生する磁界の方向と第二の磁極対21に発生する磁界の方向とは逆向きとなっており、このような磁界によって逆方向のローレンツ力F1とローレンツ力F2が発生する。
【0047】
なお、磁界発生手段11は、接地電極7の下面からZ方向に向けて延設された図示されない接地電極の支持枠の内壁にボルト等で取り付けられていても良いし、これとは別にイオン源1のフランジに取り付けられていても良い。
【0048】
図3には、電子がイオン源1の下流側から磁界発生手段11に流入する様子が描かれている。電子は第二の磁極対21に形成された磁場領域に進入すると、磁力線に沿って螺旋運度をしながら進行する。このように磁界発生手段11によって電子が捕捉されることになるので、磁界発生手段11よりも上流側(Z方向反対側)への電子の進入を防止することが出来る。
【0049】
図4(a)〜(e)には、これまでに述べてきた磁界発生手段11の変形例が描かれている。これらの構成について以下に説明する。なお、各図においてX、Y、Z軸の方向は共通であって、各磁極対20、21に描かれる矢印は磁界の向きを表す。
【0050】
図4(a)では、各磁極対20、21を永久磁石13で構成している。永久磁石13の数は図1〜3で述べた構成に比べて2つ増えることになるが、本発明の磁界発生手段11としては図4(a)の構成を採用しても良い。
【0051】
図4(b)でも図4(a)と同じく各磁極対20、21を永久磁石13で構成している。永久磁石13は磁性体14の端部に設けられている必要はないので、図4(b)に示す構成を採用してもいいことは言うまでもない。また、図4(a)、図4(b)ともに磁性体14とした部分は非磁性体としても良い。さらに、磁性体、非磁性体問わず、Z方向において各磁極対を個別に支持するような構成にしておいても良い。
【0052】
図4(c)には、図1〜3に描かれた磁界発生手段11と類似する構成が描かれている。図4(c)のようにZ方向に沿って延びた磁性体14の途中からイオンビーム3側に突出するように各磁極対20、21を構成するようにしても構わない。
【0053】
図4(d)では、第一の磁極対20を永久磁石13で構成し、第二の磁極対21を磁性体14で構成している。第二の磁極対21を構成する磁性体14は、第一の磁極対20を構成している永久磁石13に連接しているので、図4(c)の例と同様に永久磁石13の数を少なくすることが出来る。なお、図4(d)の構成とは反対に、第一の磁極対20を磁性体14で構成し、第二の磁極対21を永久磁石13で構成しても良い。
【0054】
さらには、図4(e)に開示されているように、永久磁石13の代わりにコイル15をY方向に配置された各磁性体14に巻き回しておき、そこに電流を流すことで磁界を発生させるようにしておいても良い。各磁性体14に対してコイル15を同じ方向に巻いておく場合には、各コイルに流す電流の向きを逆にしておく。反対に、各磁性体14に対してコイル15を逆方向に巻いておく場合には、各コイルに流す電流の向きを同じにしておく。図4(e)の例では、左側の磁性体14に巻き回されるコイル15の向きが右巻きであるのに対して、右側の磁性体14に巻き回されるコイル15の向きが左巻きとなっている。その為、各コイル15に対して同じ方向(Z方向の向きに、上から下へ)に電流を流している。このような構成を用いることで、他の例と同様にイオンビーム3を横切るように逆向きとなる磁界を発生させることが可能となる。
【0055】
なお、コイル15を用いた場合、磁界の強さを制御することが出来る。その為、イオン源1の下流側でイオンビーム3の進行方向を測定しておき、これに応じて磁界発生手段11にてイオンビーム3の進行方向を微調整することも可能となる。さらに、図4(e)では、各磁極対20、21を構成する磁性体14を一体ものとしているが、これを個別に分けておき、それぞれにコイル15を巻き回しておくようにしておいても良い。そうすると、各磁極対で形成される磁界の強さを各磁極対で細かく調整することが出来る。
【0056】
また、図4(a)〜(e)にはYZ平面内での様子のみが描かれているが、ここに記載されている磁界発生手段11もX方向に長辺を有するリボン状のイオンビーム3を取り扱う場合、図1に示された磁界発生手段11と同様にX方向において長さを有している。
【0057】
図5(a)〜(c)には、一対の磁極22を有する磁界発生手段11の例が描かれている。図4と同様に、各図においてX、Y、Z軸の方向は共通しているとともに、磁極対に描かれる矢印は磁界の向きを表す。イオンビーム3のエネルギーが比較的高い場合(例えば、300keV以上)、磁界発生手段11で発生される磁界によって、イオンビーム3はほとんど偏向されない。また、イオンビーム3のエネルギーが低い場合であっても、前述したように磁界発生手段11を通過したイオンビーム3の進行方向が許容範囲内であれば、イオンビーム3を曲げ戻す為の磁界を発生させる必要がない。その為、図5(a)〜(c)に示すようにイオンビーム3を横切る磁界が1方向にのみに発生されるものであっても構わない。
【0058】
図5(a)には一組の永久磁石13とそれを支持する磁性体14で構成された磁界発生手段11が開示されている。この例においては一対の磁極22を構成する永久磁石13を磁性体14のZ方向における中央部に配置しているが、これを端部に設けるようにしても良い。また、永久磁石13の支持部材として磁性体14を用いているが、これを非磁性体としても良い。
【0059】
図5(b)には一組の永久磁石13を支持する磁性体14がY方向に突出し、これが一対の磁極22を形成している磁界発生手段11が開示されている。このような構成を採用しても良い。
【0060】
図5(c)には一組の磁性体14にコイル15が巻き回された磁界発生手段11が開示されている。コイル15を巻き回する方向とそれに流す電流Iの向きについては、図4(e)の例と同じように構成しておけば良い。
【0061】
なお、図5(a)〜(c)の構成においても、X方向に長辺を有するリボン状のイオンビーム3を取り扱う場合、図1に示された磁界発生手段11と同様にX方向において長さを有している。
【0062】
図6には、一対の磁極22を有する磁界発生手段11の他の例が描かれている。この例において、磁性体14のY方向に突起した部分が一対の磁極22を構成している。この場合、永久磁石13に近い位置をイオンビーム3が通過すると、永久磁石13からの強い磁場の影響を受けてイオンビーム3の形状が変形してしまう恐れがある。その為、イオンビーム3を通過させる一対の磁極22の部分を永久磁石13より十分に離しておくようにすることが望まれる。
【0063】
図7には、磁界発生手段に形成された電極支持構造の一例が描かれている。磁界発生手段11を構成する引出し電極系側に配置された第一の磁極対20に、イオンビーム3の引出し方向と略直交する方向に延設された電極支持溝16が形成されている。
【0064】
この例では、この電極支持溝16に対して、第一の電極対20にもっとも近い位置にある接地電極7がスライドにより収納されるように構成されている。この場合、接地電極7そのものを電気的に接地せずに、接地電極7を支持する磁性体14を接地しておいても良い。また、この例において磁界発生手段11として第一の磁極対20と第二の磁極対21を有する構成のものを挙げたが、前述したような一対の磁極22を有する構成の磁界発生手段11にここに記載した電極支持溝16を設けても良い。
【0065】
図8には、磁界発生手段に形成された電極支持構造の他の例が描かれている。図8(a)には、磁界発生手段11を構成する引出し電極系側に配置された第一の磁極対20の上面を電極支持面17とし、ここに接地電極7をボルト18等で固定させる。この様子が図8(b)に描かれている。
【0066】
図7の例と同じく、図5、図6で説明した一対の磁極22を有する構成の磁界発生手段11に図8の例を適用させても良い。
【0067】
このような電極支持面17を磁界発生手段11の一部に備えておくことで、電極の支持部材を別に用意しておく必要がなくなる。
【0068】
<その他の変形例>
本発明では、バケット型のイオン源を例にとって説明したが、このタイプのイオン源に限定されるわけではない。例えば、フリーマン型、バーナス型あるいは傍熱型陰極を有するイオン源であっても構わない。
【0069】
また、イオン源より引き出されるイオンビーム3はX方向に長辺を有し、Y方向に短辺を有するリボン状のイオンビーム3を例に挙げて説明したが、引き出されるイオンビーム3の形状はこれに限られない。例えば、引き出されるイオンビームの形状は、スポット状であっても良い。
【0070】
さらに、フィラメント8の本数も複数本ではなく1本であっても構わない。そして、引出し電極系を構成する電極群は抑制電極を有していないものであれば、どのような枚数であって構わない。
【0071】
一方、本発明で述べた実施形態では、各磁極対間の中央にイオンビーム3の中心が位置するようにしているが、イオンビーム3の中心位置が一方の磁極側にずれていても構わない。ただし、中心位置が磁極間の中央に位置しいている場合、磁界を通過した際にイオンビーム3が対称性をもって偏向されることになるので、イオン源の後段に続く光学系において取り扱いがし易いと言える。
【0072】
また、引出し電極系として使用される電極は多孔電極に限らず、スリットを有する電極であっても良い。
【0073】
さらに、本実施形態において磁界発生手段11で発生される磁界の方向とイオンビーム3の進行方向とが略直交する関係であるように図示されているが、そのような関係でなくても良い。例えば、磁界発生手段11で発生される磁界の方向とイオンビーム3の進行方向とが斜めに交差していても良く、磁界発生手段11で発生される磁界がイオンビーム3を横切るように形成されていれば、両者がどのような関係であっても構わない。
【0074】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0075】
1.イオン源
3.イオンビーム
4.プラズマ生成容器
5.プラズマ電極
6.引出し電極
7.接地電極
8.フィラメント
9.プラズマ
10.絶縁物
11.磁界発生手段
13.永久磁石
14.磁性体
16.電極支持溝
17.電極支持面
20.第一の磁極対
21.第二の磁極対


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流側からの電子の流入を抑制する抑制電極を備えていないイオン源であって、
イオンビームの引出し方向に沿って配置された複数枚の電極と、
前記電極の下流側に配置され、前記イオン源より引出された前記イオンビームを横切る磁界を発生させる少なくとも一対の磁極を有する磁界発生手段とを備えていることを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記磁界発生手段は、前記イオンビームの引出し方向に沿って異なる位置で、前記イオンビームを挟んで配置された一対の磁極を有する第一の磁極対と第二の磁極対とを備えているとともに、各磁極対間で発生される磁界の方向が互いに逆向きであることを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記第一の磁極対と前記第二の磁極対は磁性体で構成されており、各磁極対を構成する磁性体は永久磁石を介して連結されていることを特徴とする請求項2記載のイオン源。
【請求項4】
前記第一の磁極対間と前記第二の磁極対間とで発生される磁界によって、前記イオンビームに対して向きが逆向きで大きさが略等しいローレンツ力が働くことを特徴とする請求項2または3記載のイオン源。
【請求項5】
前記磁極には前記イオンビームの引出し方向と略直交する方向に延設された電極支持溝が形成されていることを特徴とする請求項1、2、3または4記載のイオン源。
【請求項6】
前記電極と対向する前記磁極の面上に、最も下流側に配置される前記電極が配置されていることを特徴とする請求項1、2、3または4記載のイオン源。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−146424(P2012−146424A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2578(P2011−2578)
【出願日】平成23年1月8日(2011.1.8)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】