説明

イオン濃度の変化量を示す測定装置

【課題】校正等の状況を容易に把握することができ、特に経験的な知識を有していなくても、校正等の終点を正しく見極めることができる測定装置を提供する。
【解決手段】検出部2から得た検出値に対して演算値を算出し、該演算値に基づいて複数の表示態様の内の1つを選択して点滅若しくは点灯表示する測定装置1であって、該点滅の周期及び/又はデューティー比を該演算値に応じて変化させる。この演算値は、ある時点での検出値と、それよりも前の時点での検出値との変化量であることが好ましく、検出部2はイオン電極であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定装置に関するものであり、特に検出手段から得た検出値の変化量を示す機能を備えた測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、試料水のイオン濃度を測定するイオン濃度測定装置が広く使用されている。例えば、半導体処理工場などのフッ化水素を使用するプラントの排水処理工程や最終放流水の監視用として、フッ化物イオン濃度測定装置が使用されている。イオン濃度測定装置は、試料水に浸漬したイオン電極が生ずる起電力(電極電位)を検出し、得られた電極電位を換算して遊離イオンの濃度値として表示するものである。この電極電位はイオン濃度の対数に比例するので、測定前に予め標準液を用いて校正することにより、精度良くイオン濃度を測定することができる。
【0003】
上記校正には、1種類の標準液を用いる簡易な1点校正や、濃度の異なる2種類の標準液を用いる2点校正等があるが、いずれもその操作は煩雑なうえ、正しく校正が行われなければ、その後に行われる測定の結果の信頼性が低下する。そこで、予め校正値の範囲を設定しておき、この範囲から外れた場合にエラーを表示したり、或いは校正の際に表示される値が安定するまでの時間を予め設定しておき、この時間を越えても変化が安定しない場合にエラーを表示したりする機能を備えた測定装置が提案されている(特許文献1及び2)。
【0004】
【特許文献1】特開平08−220049号公報
【特許文献2】特開2004−163349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなエラー表示機能を測定装置に備えることによって、ある程度信頼性の高い校正を行うことが可能となるものの、校正を行うには依然として経験的な知識が必要であった。即ち、一般に、イオン電極による濃度測定は応答が遅く、測定する水質によっては検出値(電極電位)が安定するまで5〜10分程度かかることがあり、イオン電極が汚れていたり劣化していたりする場合は、この応答時間は更に長くなるので、経験的な知識がなければ校正の終点を見極めるのが困難であった。
【0006】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、校正等の状況を容易に把握することができ、よって、特に経験的な知識を有していなくても、校正等の終点を正しく見極めることができる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明が提供する測定装置は、検出手段から得た検出値に対して演算値を算出し、該演算値に基づいて複数の表示態様の内の1つを選択して点滅若しくは点灯表示する測定装置であって、該点滅の周期及び/又はデューティー比を該演算値に応じて変化させることを特徴としている。
【0008】
また、上記本発明の測定装置においては、演算値が、ある時点での検出値と、それよりも前の時点での検出値との変化量であることが好ましい。更に、上記本発明の測定装置においては、検出手段がイオン電極であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検出手段から得た検出値に対して算出した演算値に基づいて、測定装置の表示部に所定の表示を行うので、オペレータは、校正等の状況を容易に把握することが可能となる。よって、特に経験的な知識を有していなくても、校正等の終点を正しく見極めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の測定装置は、イオン電極などの検出手段を試料水に浸漬したときに得られる検出値に対して演算値を算出し、この演算値に基づいて複数の表示態様の内の1つを選択して点滅若しくは点灯表示する。この複数の表示態様としては、限定するものではないが、濃度値を表示する液晶表示画面内に設けられた、個別に点滅若しくは点灯する複数のマークや、該液晶表示画面とは別に設けられた、個別に点滅若しくは点灯する複数のLEDなどが挙げられる。
【0011】
本発明においては、上記選択された1つの表示態様の点滅の周期及び/又はデューティー比を、上記演算値に応じて変化させることを特徴としている。ここにおいて、点滅の周期とは、選択された1つの表示態様が、点灯状態と消灯状態を交互に繰り返す際の、ある点灯状態の開始時点から次の点灯状態の開始時点までの時間をいう。また、デューティー比とは、1つの点滅の周期に対する点灯状態の開始時点から終了時点までの時間の割合をいう。
【0012】
これにより、オペレータは、校正等の際、複数の表示態様のうちのいずれが表示されているかを認識すると共に、その表示されている表示態様が、連続点灯状態にあるのか否か、連続点灯状態でなく点滅しているのであれば、いかなる周期及び/又はデューティー比で点滅しているのかを認識し、その結果、校正等の状況を容易に把握することができる。
【0013】
次に、本発明の測定装置の一具体例を図1〜図3を参照しながら説明する。本発明の一具体例の測定装置1は、図1に示すように、信号ケーブル3を介して検出部2に接続されている。測定装置1には、必要に応じて、記録計などの外部装置4が接続されていても良い。
【0014】
検出部2は、電極部2aと、この電極部2aを先端部に保持する浸漬型の電極ホルダー2bとを有している。この電極部2aは、水素イオン、フッ化物イオン、塩化物イオンなどの水中の遊離イオンの濃度を検知するイオン電極である。
【0015】
図2には、測定装置1の内部構成が、概略ブロック図で示されている。具体的には、測定装置1は、電極部2aから得た検出値を換算してイオン濃度値を求める演算や、後述する検出値の変化量を算出する演算などの各種演算処理を行うCPU10と、該演算用のプログラムなどを記憶するROM11と、演算結果や入力データなどを一時的に記憶するRAM12と、各種の入力操作を行う入力操作部13と、CPU10での演算結果を表示する液晶表示画面などの表示部14とを有している。
【0016】
図3には、これら入力操作部13及び表示部14が配置された測定装置1の操作パネル1aの例が示されている。表示部14は、その略中央部に、CPU10での換算によって得られたイオン濃度値を単位と共に表示する第1の表示部14aを有している。図3においては、この第1の表示部14aに「12.3」の値が表示されており、更に、表示部14の枠外右側に記載されている「mg/L」に対応する位置に矩形のマークが表示されており、イオン濃度値が「12.3mg/L」であることを示している。
【0017】
更に、表示部14は、その左端部に、複数の表示態様を表示する第2の表示部14bを有している。本実施形態においては、この第2の表示部14bは、3つの表示態様を表示するようになっている。即ち、表示部14の枠外左側に記載されている「三角形」、「正方形」及び「逆三角形」の右隣に、それぞれ第1〜第3の矩形マークを点滅若しくは点灯表示するようになっている。図3においては、上記表示形態の一例として、表示部14の枠外左側に記載されている「三角形」の右隣に、第1の矩形マークが表示されている。
【0018】
尚、図3のように、「三角形」の右隣の矩形マーク(第1の矩形マーク)が表示されているときは、検出値が増加傾向にあることを示している。また、「正方形」の右隣の矩形マーク(第2の矩形マーク)が表示されているときは、検出値がほぼ安定していることを示しており、「逆三角形」の右隣の矩形マーク(第3の矩形マーク)が表示されているときは、検出値が減少傾向にあることを示している。
【0019】
次に、濃度の異なる2種類の溶液A及び溶液B(溶液Aの濃度よりも溶液Bの濃度の方が高い)に対して上記構成の測定装置1を用いた場合、具体的には、溶液Aが入った容器から溶液Bが入った容器に検出器2を移し変えた場合の測定装置1の作用について説明する。
【0020】
測定装置1では、電極部2aにおいて検出した検出値が逐次CPU10に送られる。CPU10は、電極部2aから送られる当該検出値を換算し、これにより得られた値をイオン濃度として表示部14に表示する。CPU10は、更に電極部2aから送られてくる検出値に対して下記の演算を行う。
【0021】
[数式1]
Δ=(E−En−5)/S
【0022】
ここで、Eはある時点に電極部2aで検出された電極電位(mV)、En−5はEが検出される5秒前に電極部2aで検出された電極電位(mV)である。また、Sは、電極部2aの電極感度(mV/decade)である。CPU10は、更に下記の表1に示す判別式に基づいて、5秒前の検出値との比較として逐次算出される演算値Δに対して検出の状況に関する判別を行う。尚、演算値Δは、上記数式1に限定されるものではなく、ある時点での検出値と、それよりも前の時点での検出値との変化量であれば良い。
【0023】
【表1】

【0024】
その結果、CPU10は、第2の表示部14bにおける3つの表示態様の内の1つを選択すると共に、選択した3つの表示態様の内の1つを、表1に基づいて点滅若しくは点灯させる。ところで、前述したようにイオン電極は応答が遅く、濃度の異なる標準液に電極を移した場合など、イオン濃度が大きく変化したときの直後は電極電位が大きく変化するものの、時間の経過に伴って緩慢な変化となり、最終的に溶液Bの濃度の示す電極電位に落ち着く。このとき、検出値の変化量である演算値Δは、上記時間の経過に伴って徐々にゼロに近づいていくため、これに応じて、第2の表示部14bは、表1に従って段階的に表示内容を変えていく。
【0025】
例えば、低濃度の溶液から高濃度の溶液に電極を移した直後や、試料水のフッ化物イオン濃度が高濃度側に変化した直後は、表示部14の枠外左側に記載されている「三角形」の右隣に位置する第1の矩形マークが連続して点灯し、その後、この第1の矩形マークは0.2秒周期の素早い点滅を開始し、更に時間が経過すると1秒周期のややゆっくりした点滅となる。
【0026】
更に時間が経過すると、この第1の矩形マークの点滅が消え、代わりに表示部14の枠外左側に記載されている「正方形」の右隣に位置する第2の矩形マークが5秒周期でゆっくりと点滅を開始する。その後、この第2の矩形マークは連続的に点灯する。この第2の矩形マークの連続的な点灯は、検出値の変化が安定して検出値が終点に到達したことを表しているので、オペレータは、第1の表示部14aに表示されている濃度値を試料液のイオン濃度として読み取ることができる。また、標準校正の場合では、終点に到達したことを容易に見極めることができるため、校正を行うタイミングを正確に知ることができる。
【0027】
このように、本発明の測定装置の一具体例によれば、オペレータは、測定の際に表示される濃度値が増加傾向にあるのか若しくは減少傾向にあるのかを認識することができるのみならず、この値が安定する迄どの程度時間がかかるのかをある程度予想することが可能となる。
【0028】
即ち、例えば、「三角形」の右隣の第1の矩形マークが連続的に点灯しているのであれば、表示されている濃度値は依然として増加傾向にあって、これが安定する迄まだしばらく時間がかかることを予想することができる。よって、オペレータは、その間別の作業を行う等して時間を有効に使うことが可能となる。
【0029】
また、オペレータは、第2の表示部14bでの表示内容を確認することによって、表示されている濃度値の変化が安定しているか否かを容易に把握できるので、表示されている濃度値の変化が安定する前に誤って校正を終了させたり、試料液の濃度を示していると誤って判断したりすることが回避される。よって、経験的な知識を特に有していなくても正しく測定装置を操作することが可能となる。
【0030】
尚、上記一具体例においては、第2の表示部14bの「三角形」の右隣の第1の矩形マークは、「連続点灯」、「0.2秒周期で点滅」、及び「1秒周期で点滅」の3段階のうちのいずれかで表示されるものであったが、これに限定するものではなく、例えば図4に示すように、点滅の周期を演算値Δに応じて無段階的になめらかに変化させても良い。更に、点滅の周期の変化に同期させて、或いは点滅の周期の変化の代わりに、点滅のデューティー比を変更させても良い。
【0031】
また、上記一具体例においては、第2の表示部14bは、表示部14の枠外左側の「三角形」などに対応した3つの矩形マークであったが、これに限定するものではなく、例えば、「三角形」、「正方形」、「逆三角形」などの図形を液晶表示画面内で直接点滅若しくは点灯表示させても良い。また、これら図形以外に、例えば、「増加」、「減少」、「安定」などの文字、「1」、「2」、「3」などの数字、電極形状などをモチーフにした図柄などを点滅若しくは点灯表示させても良い。更に、表示態様の数が3つ以外であったり、表示態様の複数個を点滅若しくは点灯させたりしても良いことはいうまでもない。
【0032】
次に、上記の検出部2が接続された測定装置1を二点校正する操作手順について説明する。尚、一点校正の操作手順は、二点校正における第1の標準液の校正までの操作手順とほぼ同等であるので説明を省略する。
【0033】
先ず、第1の標準液に電極部2aを浸漬して一点目の校正を開始する。このとき、第1の表示部14aには電極部2aにおいて検出した検出値が換算されてイオン濃度として表示されるとともに、第2の表示部14bには、検出値の変化の状態が、第1〜第3の矩形マークのうちのいずれか1つの点灯若しくは点滅によって表示される。しばらくして、「正方形」の右隣の第2の矩形マークが連続点灯状態になれば、検出値の変化が安定したことを表しているため、一点目の校正を完了させる。
【0034】
次に、電極部2aを第2の標準液に浸漬して二点目の校正を開始する。しばらくして、一点目の校正時同様、「正方形」の右隣の第2の矩形マークが連続点灯状態になれば、二点目の校正を完了させる。以上の操作により、二点校正が終了する。
【0035】
次に、電極感度Sを設定する手順について説明する。イオン電極の電極感度Sとは、イオン濃度が10倍変化したときの電位差であり、これは二点校正によって求めることができる。電極感度Sの設定は、二点校正を行う毎に自動的に設定されるが、測定対象イオンごとに、例えば、フッ化物イオンならば−59mVなどの固定値を設定しても良い。
【0036】
尚、上記の実施形態においては、検出手段がイオン電極である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、pH、電気伝導率、DO(溶存酸素)、温度等様々な種類の電極又はセンサに適用することができる。また、校正以外に測定にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一具体例の測定装置及びイオン電極を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一具体例の測定装置の内部構成を示す概略ブロック図である。
【図3】本発明の一具体例の測定装置の操作パネルの構成を示す概略正面図である。
【図4】本発明の他の具体例として、点滅周期が、演算値Δに応じて無段階的になめらかに変化する様子を示したグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 測定装置
2 検出部
3 信号ケーブル
10 CPU
11 ROM
12 RAM
13 入力操作部
14 表示部
14a 第1の表示部
14b 第2の表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出手段から得た検出値に対して演算値を算出し、該演算値に基づいて複数の表示態様の内の1つを選択して点滅若しくは点灯表示する測定装置であって、該点滅の周期及び/又はデューティー比を該演算値に応じて変化させることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記演算値が、ある時点での前記検出値と、それよりも前の時点での前記検出値との変化量であることを特徴とする、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記検出手段がイオン電極であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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