説明

イオン照射装置

【課題】 低エネルギーのイオンビームでも、多量にかつ平行性良く取り出すことができる装置を提供する。
【解決手段】 このイオン照射装置は、複数のイオン引出しスリットを有するイオン源20と、それから引き出されたイオンビーム30を曲げて質量分離を行う質量分離電磁石32とを備えている。質量分離電磁石32は、平面形状が湾曲しているビーム偏向領域40を有していて、当該領域40における磁束密度Bは、入口部42からのビーム進行方向への角度が大きくなるに従って大きくなり、かつ湾曲の外側方向へ行くに従って小さくなるように設定されており、それによって質量分離電磁石32は、ビーム偏向領域40の入口部42に複数箇所から互いに平行に入射したイオンビーム30を、出口部44において集束させ、かつ互いに平行な状態で出射させるよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばイオン注入装置等のように、被照射物にイオンビームを照射することに用いられるイオン照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン照射装置の一例であるイオン注入装置を例に説明すると、大型基板(被照射物)の表面により微細な半導体デバイスを高い処理能力(高スループット)で形成する等のためには、低エネルギー(例えば5keV程度以下)のイオンビームを多量に被照射物に照射してイオン注入を行うことができるイオン注入装置が必要である。
【0003】
このような必要性を満たすことができる技術の一つとして、特許文献1には、複数のイオン引出しスリットを有するイオン源と、このイオン源から引き出されたイオンビームから特定のイオン種を選別して導出する質量分離電磁石とを備えるイオン注入装置が提案されている。
【0004】
上記イオン源(特許文献1中のイオン源アセンブリ)は、プラズマを生成する部分であって、互いに平行に並べられた複数のイオン引出しスリットを有するプラズマ生成部(特許文献1中のイオン源)と、このプラズマ生成部からイオンビームを引き出す電極系であって、プラズマ生成部のイオン引出しスリットに対応する複数のイオン引出しスリットを有する引出し電極系とを備えている。
【0005】
上記質量分離電磁石(特許文献1中の磁気セクタ質量分析器)は、上記イオン源から引き出されたイオンビームを、そのプラズマ生成部および引出し電極系のイオン引出しスリットの長手方向と直交する面内で曲げて特定のイオン種を選別して導出するものである。
【0006】
周知のイオン源のようにイオン引出しスリットを1個にしておいて単にそのサイズを大きくしてイオンビーム量を大きくしようとすると、イオン引出しスリット周りの引出し電界が大きく歪むので、イオンビームの発散が大きくなるのに対して、上記イオン源のようにイオン引出しスリットを複数にすることによって、イオンビームの発散を抑制しつつ、多量のイオンビームを引き出すことが可能になる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−139944号公報(段落0009−0011、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記イオン注入装置を構成する質量分離電磁石は、上記イオン源から導入された幅の広いイオンビームを、当該電磁石の出口部から下流側に離れて設けられた質量選択スリットの位置で焦点を結ぶようにイオンビームを曲げるものであり(特許文献1中の段落0036、図1参照)、従って当該焦点よりも下流側に進むにつれてイオンビームは徐々に広がる。
【0009】
上記のように広がるイオンビームは、換言すれば平行性の悪いイオンビームは、被照射物の処理に好ましくない結果をもたらす。
【0010】
例えば、被照射物の表面に溝(または孔。以下同様)を有する場合、例えば図1に示す例のように、溝8を有するレジスト膜6を半導体基板4の表面に形成して成る被照射物2にイオンビーム10を照射してイオン注入を行う場合、イオンビーム10の平行性が悪いと、溝8の部分に陰の部分12が生じてしまい、しかも陰の部分の大きさが被照射物2の面内において互いに異なり、従って所望のイオン注入を行うことができなくなる。
【0011】
また、上記のように平行性の悪いイオンビームを輸送すると、ビーム輸送系の限られた空間内においてイオンビームが構造物に当たってスパッタしやすくなり、その結果、スパッタによって飛び出した不所望イオン種および不所望エネルギーのイオンがイオンビーム中に混入しやすくなる。即ち、イオン種およびエネルギーのコンタミネーション(汚染)が多くなる。
【0012】
そこでこの発明は、低エネルギーのイオンビームでも、多量にかつ平行性良く質量分離電磁石の下流側へ取り出すことができる装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る第1のイオン照射装置は、プラズマを生成する部分であって、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリットを有するプラズマ生成部と、このプラズマ生成部からイオンビームを引き出す電極系であって、プラズマ生成部のイオン引出しスリットに対応する複数のイオン引出しスリットを有する引出し電極系とを備えるイオン源と、前記イオン源から引き出されたイオンビームを、前記プラズマ生成部および引出し電極系のイオン引出しスリットの長手方向と実質的に直交する面内で曲げて特定のイオン種を選別して導出する質量分離電磁石とを備えるイオン照射装置において、前記質量分離電磁石は、前記面内における平面形状が湾曲しているビーム偏向領域を有していて、当該ビーム偏向領域における磁束密度は、当該ビーム偏向領域の入口部からのイオンビーム進行方向への角度が大きくなるに従って大きくなり、かつ当該ビーム偏向領域の湾曲の外側方向へ行くに従って小さくなるように設定されており、それによって前記質量分離電磁石は、前記ビーム偏向領域の入口部に複数箇所から互いに実質的に平行に入射したイオンビームを、前記ビーム偏向領域の出口部において集束させ、かつ当該出口部から互いに実質的に平行な状態で出射させるよう構成されていることを特徴としている。
【0014】
上記イオン照射装置によれば、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリットを有するイオン源を備えているので、高エネルギーのイオンビームは勿論のこと、低エネルギーのイオンビームでも、多量にかつ発散を抑えて平行性良く引き出すことができる。
【0015】
しかも、前記質量分離電磁石は、そのビーム偏向領域の入口部に複数箇所から互いに実質的に平行に入射したイオンビームを、出口部において集束させ、かつ出口部から互いに実質的に平行な状態で出射させるよう構成されているので、イオンビームを平行性良く下流側へ取り出すことができる。
【0016】
この発明に係る第2のイオン照射装置は、プラズマを生成する部分であって、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリットを有するプラズマ生成部と、このプラズマ生成部からイオンビームを引き出す電極系であって、プラズマ生成部のイオン引出しスリットに対応する複数のイオン引出しスリットを有する引出し電極系とを備えるイオン源と、前記イオン源から引き出されたイオンビームを、前記プラズマ生成部および引出し電極系のイオン引出しスリットの長手方向と実質的に直交する面内で曲げて特定のイオン種を選別して導出する質量分離電磁石とを備えるイオン照射装置において、前記質量分離電磁石は、前記面内における平面形状が湾曲しているビーム偏向領域を形成する相対向する磁極を有していて、当該磁極間のギャップ長は、前記ビーム偏向領域の入口部からのイオンビーム進行方向への角度が大きくなるに従って小さくなり、かつ前記ビーム偏向領域の湾曲の外側方向へ行くに従って大きくなるように設定されており、それによって前記質量分離電磁石は、前記ビーム偏向領域の入口部に複数箇所から互いに実質的に平行に入射したイオンビームを、前記ビーム偏向領域の出口部において集束させ、かつ当該出口部から互いに実質的に平行な状態で出射させるよう構成されていることを特徴としている。
【0017】
前記質量分離電磁石の磁極間においては、そこでの磁束密度Bとギャップ長gとの間には次式の関係があるので、即ち磁束密度Bとギャップ長gとは反比例の関係にあるので、ギャップ長gを上記のように設定することによっても、前記第1のイオン照射装置を構成する質量分離電磁石の場合と同様の作用を奏する。数1において、Fはコイルの起磁力、μ0 は真空の透磁率、k1 は定数である。
【0018】
[数1]
Bg=Fμ0 =k1
【0019】
前記質量分離電磁石は、そのビーム偏向領域の入口部に複数箇所からイオンビーム量の過半が進行方向に対して±4度以内に入るような平行状態で入射したイオンビームを、当該ビーム偏向領域の出口部でのイオンビーム偏向面内における幅が入口部の幅の1/5以下になるように集束させ、かつ当該出口部からイオンビーム量の過半が進行方向に対して±6度以内に入るような平行状態で出射させるよう構成しておいても良い。
【0020】
前記質量分離電磁石の出口部の下流側付近に、前記特定のイオン種を通しその他のイオン種を阻止する質量分離スリットを設けておいても良い。
【発明の効果】
【0021】
請求項1〜4に記載の発明によれば、前記のような複数のイオン引出しスリットを有するイオン源および前記のようなビーム偏向を行う質量分離電磁石を備えているので、高エネルギーのイオンビームは勿論のこと、低エネルギーのイオンビームでも、多量にかつ平行性良く質量分離電磁石の下流側へ取り出すことができる。
【0022】
即ち、平行性が良くて被照射物表面の溝や孔に陰の部分を作らず、かつイオン種およびエネルギーのコンタミネーションの少ない良質のイオンビームを多く取り出すことができるので、被照射物に対して良質の処理を施すことができると共に、そのようなイオンビームを多量に取り出すことができるので、被照射物処理のスループット(単位時間当たりの処理能力)を高めることができる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、前記のような質量分離スリットを設けているので、当該スリットが前記質量分離電磁石と協働して、イオンビームの質量分離性能をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図2は、この発明に係るイオン照射装置の一実施形態を示す概略平面図である。なお、これ以降の幾つかの図中には、各機器等の三次元空間における向きの例を示すために、一点で互いに直交する三軸、即ちX軸(例えば水平軸)、Y軸(例えば垂直軸)およびZ軸(例えば水平軸)を図示しており、必要に応じてこれらを参照して説明する。
【0025】
このイオン照射装置は、イオン源20から引き出したイオンビーム30を、質量分離電磁石32において曲げて特定のイオン種を選別して導出し、更に質量分離スリット52を通した後、必要に応じて図示しない加速器、走査器等を経由して、ホルダ14に保持された被照射物(例えば半導体基板)2に照射して、当該被照射物2にイオン注入等の処理を施すよう構成されている。なお、イオンビーム30が通る経路は、図示しない真空容器内にあり、真空雰囲気に保たれる。
【0026】
イオン源20は、図3に示す例のように、アーク放電、高周波放電、マイクロ波放電等によってガスや蒸気を電離させてプラズマを生成するプラズマ生成部22と、このプラズマ生成部22から(より具体的にはその内部のプラズマから)電界の作用でイオンビーム30を引き出す引出し電極系26とを備えている。
【0027】
プラズマ生成部22は、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリット24を有している。より具体的には、各イオン引出しスリット24は、Y軸方向に長くX軸方向に短い形状(例えば長方形状、長円形状等)をしており、このような複数のイオン引出しスリット24を、各イオン引出しスリット24の長辺(または長軸)が互いに実質的に平行になるように、各イオン引出しスリット24の短辺(または短軸)方向(この例ではX軸方向)に並べている。
【0028】
引出し電極系26は、図示例では1枚の電極で構成されているが、これに限られるものではなく、複数枚の電極で構成されていても良い。この引出し電極系26も、プラズマ生成部22の各イオン引出しスリット24に対応する位置に、各イオン引出しスリット24に対応する形状の複数のイオン引出しスリット28を有している。この引出し電極系26の各イオン引出しスリット28から、断面がイオン引出しスリット28の形状に対応した形状のイオンビーム30が、矢印A1 方向(この例ではZ軸方向)に互いに実質的に平行な状態で引き出される。即ち、イオン源20の複数箇所から、イオンビーム30が互いに実質的に平行な状態で引き出され、これが質量分離電磁石32に入射される。
【0029】
図2を再び参照して、質量分離電磁石32は、イオン源20から入射されたイオンビーム30を、イオン源20のイオン引出しスリット24、28と実質的に直交する面内(この例ではX−Z面内)で磁場46によって曲げる領域であって、当該面内における平面形状が例えば半円形状または扇状等に湾曲しているビーム偏向領域40を有している。
【0030】
上記質量分離電磁石32のより具体例を図4および図5に示す。図4は、図2中の質量分離電磁石の一例を示す概略縦断面図である。図5は、図4の線C1 −C1 に沿う概略横断面図であり、コイルの図示は省略している。
【0031】
この質量分離電磁石32は、縦断面形状がC形をした鉄芯34と、この鉄芯34の両端部にあってギャップをあけて相対向していて上記ビーム偏向領域40を形成する一対の磁極36と、鉄芯34を励磁するコイル38とを備えている。この相対向する磁極36間に前記磁場46が形成され、かつ前記イオン源20からイオンビーム30が導入される。
【0032】
上記質量分離電磁石32のビーム偏向領域40における磁束密度Bは、当該ビーム偏向領域40の入口部42からのイオンビーム進行方向への角度α(図5参照)が大きくなるに従って大きくなり、かつ当該ビーム偏向領域40の湾曲の外側へ行くに従って小さくなるように設定されており、それによって質量分離電磁石32は、そのビーム偏向領域40の入口部42に複数箇所から互いに実質的に平行に入射したイオンビーム30を、ビーム偏向領域40の出口部44において集束させ、かつ出口部44から互いに実質的に平行な状態で出射させるよう構成されている。
【0033】
質量分離電磁石32の磁極36間においては、そこでの磁束密度Bとギャップ長gとの間には前記数1の関係があるので、即ち磁束密度Bとギャップ長gとは反比例の関係にあるので、ビーム偏向領域40における上記のような磁束密度Bの分布を実現する一手段として、ギャップ長gを図3、図4に示す例のように設定しても良い。
【0034】
即ちこの質量分離電磁石32では、その磁極36間のギャップ長gは、ビーム偏向領域40の入口部42からのイオンビーム進行方向への角度αが大きくなるに従って小さくなり、かつビーム偏向領域40の湾曲の外側方向へ行くに従って大きくなるように設定されており、それによってこの質量分離電磁石32は、ビーム偏向領域40の入口部42に複数箇所から互いに実質的に平行に入射したイオンビーム30を、ビーム偏向領域40の出口部44において集束させ、かつ出口部44から互いに実質的に平行な状態で出射させるよう構成されている。
【0035】
一例として、上記のようにギャップ長gを変化させた質量分離電磁石32の図5中の線O−R1 に沿う磁極36の断面を図4中に実線48で示し、線O−R2 に沿う磁極36の断面を図4中に一点鎖線50で示す。
【0036】
上記イオン照射装置によれば、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリット24、28を有するイオン源20を備えているので、高エネルギーのイオンビーム30は勿論のこと、低エネルギーのイオンビーム30でも、多量にかつ発散を抑えて平行性良く引き出すことができる。
【0037】
しかも、質量分離電磁石32は、そのビーム偏向領域40の入口部42に複数箇所から互いに実質的に平行に入射したイオンビーム30を、出口部44において集束させ、かつ出口部44から互いに実質的に平行な状態で出射させるよう構成されているので、イオンビーム30を平行性良く下流側へ取り出すことができる。
【0038】
即ち、平行性が良くて被照射物2の表面の溝や孔に図1に示したような陰の部分12を作らず、かつイオン種およびエネルギーのコンタミネーションの少ない良質なイオンビーム30を多く取り出すことができるので、被照射物2に対して良質の処理を施すことができると共に、そのようなイオンビーム30を多量に取り出すことができるので、被照射物2の処理のスループット(単位時間当たりの処理能力)を高めることができる。
【0039】
なお、上記質量分離電磁石32のビーム偏向領域40に入り出て行くイオンビーム30の特性を定量的に表現すると、上記質量分離電磁石32は、例えば、図5を参照して、そのビーム偏向領域40の入口部42に複数箇所から入射したイオンビーム量の過半が進行方向A1 に対して±4度以内になるような平行状態で入射したイオンビーム30を、ビーム偏向領域40の出口部44でのイオンビーム偏向面内における幅W2 が入口部の幅W1 の1/5以下になるように集束させ、かつ出口部44からイオンビーム量の過半が進行方向A2 に対して±6度以内に入るような状態で出射させるよう構成しておいても良い。
【0040】
また、図2を参照して、質量分離電磁石32の出口部44の下流側付近に、この例のように、前記特定のイオン種を通しその他のイオン種を阻止する質量分離スリット52を設けておくのが好ましい。そのようにすると、当該質量分離スリット52と質量分離電磁石32とが協働して、イオンビーム30の質量分離性能(質量分解能)をより向上させることができる。
【0041】
次に、質量分離電磁石32(より具体的にはそのビーム偏向領域40。以下同様)において、イオンビーム30を上記のように出口部44において集束させ、かつ出口部44から互いに実質的に平行な状態で出射させることを実現する磁束密度Bのより具体的な設定の仕方を図6および図7を参照して説明する。
【0042】
図6は、入口部角度θ1 、出口部角度θ2 の質量分離電磁石における磁束密度とビーム軌道との関係を説明するための図である。図7は、図6の質量分離電磁石におけるビーム軌道角度θとビーム軌道半径r等との関係を説明するための図である。いずれも、ビーム偏向領域40の入口部42および出口部44が、基準線(直線)60からの入口部角度θ1 および出口部角度θ2 をそれぞれ持っている一般的な場合のものである。なお、図5に示した質量分離電磁石32は、この入口部角度θ1 が0度、出口部角度θ2 が180度の場合の例である。Oは中心点である。
【0043】
今、質量分離電磁石32のビーム偏向領域40における磁束密度をB、イオンビーム30の軌道半径をr、ビーム偏向領域40における前記基準線60からのビーム軌道角度をθ、イオンビーム30を構成する所望のイオンの質量をm、電荷をe、イオンビーム30のエネルギーをE、ビーム偏向領域40の入口部42の内側位置でのイオンビーム30の軌道半径をra 、同外側位置での軌道半径をrc 、ビーム偏向領域40の出口部44でのイオンビーム30の軌道半径をrb とする。
【0044】
以上の内で、磁束密度Bおよびビーム軌道半径r以外は既知であり、磁束密度Bはビーム軌道角度θの関数で表すと以下のようになる。
【0045】
磁束密度Bの磁場中でのイオンビーム30の軌道半径rは一般的に次式で表される。
【0046】
[数2]
Br=e-1√(2mE)
【0047】
質量分離電磁石32の出口部44から出るイオンビーム30が集束され、かつ互いに平行であるためには、図7に示すような、ビーム軌道半径rを縦軸、ビーム軌道角度θを横軸とする平面において、ra およびrb を通る直線68に、rc およびrb を通る円弧70がrb において接すれば良いので、円弧70の中心Pの座標を(θk 、rk )とし、半径をnとすれば、次の数3およびそれを変形した数4が成立する。
【0048】
[数3]
(r−rk 2 +(θ−θk 2 =n2
【0049】
[数4]
r=rk +√{n2 −(θ−θk 2
【0050】
一方、ra =rb とした場合のra およびrb を通る直線66からの上記直線68の傾斜角をψ(プサイ)とすると、次の数5およびそれを変形した数6が成立する。
【0051】
[数5]
tanψ=(rb −ra )/(θ2 −θ1
【0052】
[数6]
ψ=tan-1{(rb −ra )/(θ2 −θ1 )}
【0053】
上記中心Pの座標の各成分は次式で表される。
【0054】
[数7]
θk =θ2 +n・sinψ
【0055】
[数8]
k =rb +n・cosψ
【0056】
円弧70がrc を通ることにより、数3のrにrc を代入し、θにθ1 を代入すると次式が得られる。
【0057】
[数9]
(rc −rk 2 +(θ1 −θk 2 =n2
【0058】
上記式に数7のθk および数8のrk を代入すると次式となる。
【0059】
[数10]
(rc −rb −n・cosψ)2 +(θ1 −θ2 −n・sinψ)2 =n2
【0060】
上記式を変形し、(cosψ)2 +(sinψ)2 =1を適用すると、n2 に関する項は消え、次の数11およびそれを変形した数12が得られる。
【0061】
[数11]
(rc −rb 2 +(θ1 −θ2 2 =2n{(rc −rb )cosψ+(θ1 −θ2 )sinψ}
【0062】
[数12]
n={(rc −rb 2 +(θ1 −θ2 2 }/2{(rc −rb )cosψ+(θ1 −θ2 )sinψ}
【0063】
また、上記数2と数4とから次式が導かれる。
【0064】
[数13]
B=e-1√(2mE)/[rk +√{n2 −(θ−θk 2 }]
【0065】
上記数12の半径nは既知の値から成り、その結果、数13の磁束密度Bは、ビーム軌道角度θの変数のみに依存する関係になる。即ち、数13の磁束密度Bは、ビーム軌道角度θを除き、既知(条件設定)の数値から構成されている。従って、上記数13に従って、質量分離電磁石32のビーム偏向領域40の各位置における磁束密度Bを(即ち磁束密度Bの分布を)設定することにより、前述したような質量分離電磁石32を構成することができる。
【0066】
また、磁束密度Bとギャップ長gとの間には前記数1の関係があるので、上記のようにして磁束密度Bが定まれば、そのような磁束密度Bを実現するギャップ長gを設定することができる。
【0067】
なお、実際の質量分離電磁石32の製作に当たっては、上記数13で表される磁束密度Bや、それと数1とから定まるギャップ長gについては、必ずしも上記数式どおりの値に設定される必要はなく、製作上の通常の誤差が許容されることは勿論である。次に示す例においても同様である。
【0068】
上記例は、イオンビーム30が質量分離電磁石32の(より具体的にはその前記ビーム偏向領域40の。以下同様)入口部42および出口部44に直角に入出射(入射および出射)する場合のものである。そこで次に、イオンビーム30が質量分離電磁石32の入口部42および出口部44に直角に入出射しない、より一般的な場合の例を、前記図6に対応する図8を参照して、上記例との相違点を主体に説明する。
【0069】
今、質量分離電磁石32の入口部42に入射するイオンビーム30の前記軌道半径ra 、rc の点から前記基準線60に下ろした垂線71、72と当該基準線60との交点をそれぞれh、iとし、質量分離電磁石32の出口部44から出射するイオンビーム30の前記軌道半径rb の点から前記基準線60に下ろした垂線73と当該基準線60との交点をjとする。また、入射イオンビーム30が垂線71、72と成す角度をβとし(入射イオンビームは互いに実質的に平行であるから一つの角度βとなる)、出射イオンビーム30が垂線73と成す角度をγとする。
【0070】
点ra 、rc をそれぞれ通り入射イオンビーム30にそれぞれ直交する直線75、76が、前記中心点Oにおいて基準線60と直交する直線74とそれぞれ交わる点をs、tとし、点ra −s間の距離をra1とし、点rc −t間の距離をrc1とする。同様に、点rb を通り出射イオンビーム30に直交する直線77が直線74と交わる点をuとし、点rb −u間の距離をrb1とする。そして以下において、上記距離ra1、rc1、rb1をそれぞれ表す式を求める。
【0071】
まず軌道半径ra の入射イオンビーム30の部分について考えると、次式が成立する。
【0072】
[数14]
Oh=ra ・cosθ1 =ra1・cosβ
∴ra1=ra ・cosθ1 /cosβ
【0073】
同様に、軌道半径rc の入射イオンビーム30の部分について考えると次の数15が成立し、軌道半径rb の出射イオンビーム30の部分について考えると次の数16が成立する。
【0074】
[数15]
Oi=rc ・cosθ1 =rc1・cosβ
∴rc1=rc ・cosθ1 /cosβ
【0075】
[数16]
Oj=rb ・cos(180−θ2 )=rb1・cosγ
∴rb1=rb ・cos(180−θ2 )/cosγ
【0076】
上記距離ra1、rc1、rb1は、それぞれ、前記軌道半径ra 、rc 、rb を一般化して表したものである。そこで、イオンビーム30が質量分離電磁石32の入口部42および出口部44に直角に入出射しない場合は、先に(即ち数13以前に)示した軌道半径ra 、rc 、rb を、それぞれ、上記距離ra1、rc1、rb1で読み替えれば(置き換えれば)良い。それによって、イオンビーム30が質量分離電磁石32の入口部42および出口部44に直角に入出射しない、より一般的な場合の前記磁束密度Bやギャップ長gを求めて設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】被照射物に平行性の悪いイオンビームが入射する状態の一例を示す概略断面図である。
【図2】この発明に係るイオン照射装置の一実施形態を示す概略平面図である。
【図3】図2中のイオン源の一例を示す概略斜視図である。
【図4】図2中の質量分離電磁石の一例を示す概略縦断面図である。
【図5】図4の線C1 −C1 に沿う概略横断面図であり、コイルの図示は省略している。
【図6】入口部角度θ1 、出口部角度θ2 の質量分離電磁石における磁束密度とビーム軌道との関係を説明するための図である。
【図7】図6の質量分離電磁石におけるビーム軌道角度θとビーム軌道半径r等との関係を説明するための図である。
【図8】イオンビームが質量分離電磁石の入口部および出口部に直角に入射しない、より一般的な場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0078】
20 イオン源
22 プラズマ生成部
24 イオン引出しスリット
26 引出し電極系
28 イオン引出しスリット
30 イオンビーム
32 質量分離電磁石
36 磁極
40 ビーム偏向領域
42 入口部
44 出口部
52 質量分離スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを生成する部分であって、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリットを有するプラズマ生成部と、このプラズマ生成部からイオンビームを引き出す電極系であって、プラズマ生成部のイオン引出しスリットに対応する複数のイオン引出しスリットを有する引出し電極系とを備えるイオン源と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームを、前記プラズマ生成部および引出し電極系のイオン引出しスリットの長手方向と実質的に直交する面内で曲げて特定のイオン種を選別して導出する質量分離電磁石とを備えるイオン照射装置において、
前記質量分離電磁石は、前記面内における平面形状が湾曲しているビーム偏向領域を有していて、当該ビーム偏向領域における磁束密度は、当該ビーム偏向領域の入口部からのイオンビーム進行方向への角度が大きくなるに従って大きくなり、かつ当該ビーム偏向領域の湾曲の外側方向へ行くに従って小さくなるように設定されており、それによって前記質量分離電磁石は、前記ビーム偏向領域の入口部に複数箇所から互いに実質的に平行に入射したイオンビームを、前記ビーム偏向領域の出口部において集束させ、かつ当該出口部から互いに実質的に平行な状態で出射させるよう構成されていることを特徴とするイオン照射装置。
【請求項2】
プラズマを生成する部分であって、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリットを有するプラズマ生成部と、このプラズマ生成部からイオンビームを引き出す電極系であって、プラズマ生成部のイオン引出しスリットに対応する複数のイオン引出しスリットを有する引出し電極系とを備えるイオン源と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームを、前記プラズマ生成部および引出し電極系のイオン引出しスリットの長手方向と実質的に直交する面内で曲げて特定のイオン種を選別して導出する質量分離電磁石とを備えるイオン照射装置において、
前記質量分離電磁石は、前記面内における平面形状が湾曲しているビーム偏向領域を有していて、当該ビーム偏向領域における磁束密度は、当該ビーム偏向領域の入口部からのイオンビーム進行方向への角度が大きくなるに従って大きくなり、かつ当該ビーム偏向領域の湾曲の外側方向へ行くに従って小さくなるように設定されており、それによって前記質量分離電磁石は、前記ビーム偏向領域の入口部に複数箇所からイオンビーム量の過半が進行方向に対して±4度以内に入るような平行状態で入射したイオンビームを、前記ビーム偏向領域の出口部でのイオンビーム偏向面内における幅が入口部の幅の1/5以下になるように集束させ、かつ当該出口部からイオンビーム量の過半が進行方向に対して±6度以内に入るような平行状態で出射させるよう構成されていることを特徴とするイオン照射装置。
【請求項3】
プラズマを生成する部分であって、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリットを有するプラズマ生成部と、このプラズマ生成部からイオンビームを引き出す電極系であって、プラズマ生成部のイオン引出しスリットに対応する複数のイオン引出しスリットを有する引出し電極系とを備えるイオン源と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームを、前記プラズマ生成部および引出し電極系のイオン引出しスリットの長手方向と実質的に直交する面内で曲げて特定のイオン種を選別して導出する質量分離電磁石とを備えるイオン照射装置において、
前記質量分離電磁石は、前記面内における平面形状が湾曲しているビーム偏向領域を形成する相対向する磁極を有していて、当該磁極間のギャップ長は、前記ビーム偏向領域の入口部からのイオンビーム進行方向への角度が大きくなるに従って小さくなり、かつ前記ビーム偏向領域の湾曲の外側方向へ行くに従って大きくなるように設定されており、それによって前記質量分離電磁石は、前記ビーム偏向領域の入口部に複数箇所から互いに実質的に平行に入射したイオンビームを、前記ビーム偏向領域の出口部において集束させ、かつ当該出口部から互いに実質的に平行な状態で出射させるよう構成されていることを特徴とするイオン照射装置。
【請求項4】
プラズマを生成する部分であって、互いに実質的に平行に並べられた複数のイオン引出しスリットを有するプラズマ生成部と、このプラズマ生成部からイオンビームを引き出す電極系であって、プラズマ生成部のイオン引出しスリットに対応する複数のイオン引出しスリットを有する引出し電極系とを備えるイオン源と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームを、前記プラズマ生成部および引出し電極系のイオン引出しスリットの長手方向と実質的に直交する面内で曲げて特定のイオン種を選別して導出する質量分離電磁石とを備えるイオン照射装置において、
前記質量分離電磁石は、前記面内における平面形状が湾曲しているビーム偏向領域を形成する相対向する磁極を有していて、当該磁極間のギャップ長は、前記ビーム偏向領域の入口部からのイオンビーム進行方向への角度が大きくなるに従って小さくなり、かつ前記ビーム偏向領域の湾曲の外側方向へ行くに従って大きくなるように設定されており、それによって前記質量分離電磁石は、前記ビーム偏向領域の入口部に複数箇所からイオンビーム量の過半が進行方向に対して±4度以内に入るような平行状態で入射したイオンビームを、前記ビーム偏向領域の出口部でのイオンビーム偏向面内における幅が入口部の幅の1/5以下になるように集束させ、かつ当該出口部からイオンビーム量の過半が進行方向に対して±6度以内に入るような平行状態で出射させるよう構成されていることを特徴とするイオン照射装置。
【請求項5】
前記質量分離電磁石の出口部の下流側付近に、前記特定のイオン種を通しその他のイオン種を阻止する質量分離スリットを設けている請求項1ないし4のいずれかに記載のイオン照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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