説明

イオン発生装置のソースハウジングに堆積したフッ素化合物を除去する方法およびイオン発生装置

【課題】イオン注入装置において、ソースハウジング内に堆積したフッ素を含む析出物を除去する方法の一つとして、水素化合物ガスをイオン化し水素イオンを発生させ、フッ素と水素イオンとを反応させ、フッ酸蒸気として排気することが有効であるが、イオン源のカソードフィラメントが切れると、ガスをイオン化できない。
【解決手段】イオン発生装置内に、高周波電源と接続した対向電極を設けることで、カソードフィラメントが切れた場合でも、水素化合物ガスをイオン化することを可能とし、水素イオンを発生させることにより、真空中でソースハウジング内に堆積したフッ素化合物を還元し、その反応で発生したフッ素を含むガスを真空ポンプで排気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置を構成するイオン発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来のイオン発生装置の形態を示す概念図である。図3(a)に示すように、イオン発生装置9は、チャンバー7と、チャンバー内に熱電子を発生するためのカソード8と、チャンバー7の外側であってカソード8の近傍に配置されたフィラメント1と、フィラメント1に直列接続されている直流電源2と、チャンバー7にガスを導入するガス導入口5と、チャンバー7内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口6などから構成されている。図3(b)ではフィラメント1がチャンバー7の内側に配置される構成となっている。
【0003】
イオン注入装置において、BF3などのフッ素化合物ガスをイオンソースガスとしてイオン注入作業を行うと、上記イオン発生装置やソースハウジング等にフッ素化合物ガスから生成されるフッ素を含有する析出物が堆積してしまう。イオン発生装置やソースハウジングをクリーニングするためには、大気開放をする必要があるが、フッ素を含有する析出物と大気中の水分が反応しHFが生成されるため、HFを含む蒸気がクリーンルーム内に拡散してしまうという懸念がある。
【0004】
クリーンルーム内へのHF蒸気の拡散を防止するために、ソースハウジング内を大気パージし、その後、真空ポンプで真空引きを行い、また、大気パージをする工程を繰り返して、フッ素を含有する析出物の量を減らす、あるいは、HF蒸気を含む大気が排出される経路に、除害装置を有する排気経路と吸引排気ポンプを設ける、などの方策を施している。(例えば、特許文献1参照)
一方、BF3などのフッ素化合物ガスのイオン注入作業の後に、PH3などの水素化合物ガスを用いてイオン注入作業を行うと、水素化合物ガスをイオン化することにより発生する水素イオンとフッ素を含有する析出物との還元反応により、HF蒸気となり、真空ポンプで排気されるので、フッ素を含有する析出物が減ることが、経験的にわかっている。従って、大気開放前には、水素化合物ガスをイオン化して水素イオンを発生させソースハウジング内に導入した後に、水素化合物ガスの導入を止めて、Arガスなどの不活性ガスに切り替えて導入することにより、水素化合物ガスの濃度を薄めた後に、大気パージする方法も有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−167728号公報
【特許文献2】特開2001−167707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
BF3などのフッ素化合物ガスおよび、AsH3、PH3などの水素化合物ガスをイオンソースとして導入するイオン注入装置において、大気開放前に、水素化合物ガスをイオン化してソースハウジング等に堆積しているフッ素を含有する析出物と反応させて析出物を除去することが有効である。ところで、大気開放をする場合の一つとして、カソードフィラメントが切れてしまった場合に、カソードフィラメントを交換するために、ソースハウジングを大気開放する場合がある。カソードフィラメントが切れる場合として、水素化合物ガスを用いてイオン注入中にカソードフィラメントが切れてしまう場合と、フッ素化合物ガスを用いてイオン注入中にカソードフィラメントが切れてしまう場合とがある。水素化合物ガスを用いてイオン注入中にカソードフィラメントが切れてしまった場合には、水素化合物ガスの導入を止め、不活性ガスや大気と置換して大気開放を行うが、フッ素化合物ガスを用いてイオン注入中にカソードフィラメントが切れてしまった場合には、フッ素化合物ガスから水素化合物ガスに切り替えて、水素化合物ガスをイオン化することができない。そこで、本発明は、カソードフィラメントが切れた後に、カソードフィラメントが切れた状態で水素化合物ガスをイオン化し、ソースハウジング等に堆積したフッ素化合物を除去する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、以下のような手段をとった。
【0008】
まず、チャンバーと、チャンバー内に熱電子を発生するためのカソードと、チャンバーの外側に配置されカソードの近傍に配置されたフィラメントと、フィラメントに直列接続されている直流電源と、チャンバー内にガスを導入するガス導入口と、チャンバー内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口と、チャンバー内に向い合わせに配置された1対の対向電極と、チャンバー外にあって前記対向電極に接続されている高周波電源とにより構成されていることを特徴とするイオン発生装置とする。
【0009】
また、チャンバーと、チャンバーの中に配置され熱電子を発生するためのフィラメントと、フィラメントに直列接続されている直流電源と、チャンバー内にガスを導入するガス導入口と、チャンバー内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口と、フィラメントの両端であって、直流電源と前記フィラメントとの間に1枚ずつ配置された対向電極と、直流電源と並列して配置される高周波電源とにより構成され、直流電源と高周波電源はスイッチにより対向電極との接続を選択できるようになっていることを特徴とするイオン発生装置とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カソードフィラメントが切れた場合でも、水素化合物ガスをイオン化するために設けた対向電極に高周波電源を印加することで水素化合物ガスをイオン化し、水素イオンを発生させることにより、真空中でソースハウジング内に堆積したフッ素化合物を還元し、その反応で発生したフッ素を含むガスを真空ポンプで排気し、安全に除害装置施設に排出できる。また、大気開放時に発生するHFガスも低減されるので、大気中に放出されるHFガスも低減される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のイオン発生装置の第1の実施形態を示す概念図。
【図2】本発明のイオン発生装置の第2の実施形態を示す概念図。
【図3】従来のイオン発生装置の形態を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のイオン発生装置の実施形態を図に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明のイオン発生装置の第1の実施形態を示す概念図である。
【0013】
図1(a)に示すように、イオン発生装置10は、チャンバー7と、チャンバー内に配置され熱電子を発生するためのカソード8と、チャンバー7の外側に配置されカソード8の近傍に配置されたフィラメント1と、フィラメント1に直列接続されている直流電源2と、チャンバー7内にガスを導入するガス導入口5と、チャンバー7内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口6と、チャンバー7内に向い合わせに配置された1対の対向電極3と、チャンバー7外にあって1対の対向電極3に接続されている高周波電源4、などから構成されている。なお、図示するようにカソード8はチャンバー7の下端にもあり、このカソード8の近傍にフィラメント1(図示していない)があって直流電源2に接続されている。
【0014】
ウェハにイオン注入をする時には、フィラメント1に直流電源2を接続し電流を流し、フィラメント1から発生する熱電子を利用して、ガス導入口5から導入されたガスをイオン化し、イオンをイオンビーム取り出し口6より取り出す。取り出されたイオンはイオンビームとなってビームライン部を介してディスク上に並べられたウェハにイオン注入される。ところが、図1(b)に示すように、フィラメント1が切れてしまうと、フィラメント1によるイオン化ができなくなってしまう。そこで、この場合には、対向電極3に接続する高周波電源4の系を用いてガスをイオン化する。ガス導入口5より水素化合物ガスを導入し、対抗電極3に高周波を印加し、水素化合物ガスをイオン化させ水素イオンを発生させる。水素イオンは、イオンビーム取り出し口6からソースハウジング内に排出され、ソースハウジング内に堆積したフッ素化合物を還元し、発生したフッ素を含むガスが真空ポンプで排気されることにより、ソースハウジング等に堆積したフッ素を含む析出物を除去することができる。
(第2の実施形態)
図2(a)に示すように、イオン発生装置10は、チャンバー7の中に配置され熱電子を発生するためのフィラメント1と、フィラメント1に直列接続されている直流電源2と、チャンバー7内にガスを導入するガス導入口5と、チャンバー7内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口6と、チャンバー7内のフィラメント1の両端であって、直流電源2とフィラメント1との間に1枚ずつ配置された対向電極3と、直流電源2と並列して配置される高周波電源4などから構成されている。なお、直流電源2と高周波電源4はスイッチにより対向電極3との接続を選択できるようになっている。
【0015】
ウェハにイオン注入をする時には、フィラメント1に直流電源2を接続し電流を流し、フィラメント1から発生する熱電子を利用して、ガス導入口5から導入されたガスをイオン化し、イオンをイオンビーム取り出し口6より取り出す。ところが、図2(b)に示すように、フィラメント1が切れてしまうと、フィラメント1によるイオン化ができなくなってしまう。この場合には、直流電源2の接続を切り離し、対向電極3と高周波電源4を接続する。次いで、ガス導入口5より水素化合物ガスを導入し、対抗電極3に高周波を印加し、水素化合物ガスをイオン化させ水素イオンを発生させる。水素イオンは、イオンビーム取り出し口6からソースハウジング内に排出され、ソースハウジング内に堆積したフッ素化合物を還元し、発生したフッ素を含むガスが真空ポンプで排気されることにより、ソースハウジング等に堆積したフッ素を含む析出物を除去することができる。
【符号の説明】
【0016】
1 フィラメント
2 直流電源
3 対向電極
4 高周波電源
5 ガス導入口
6 イオンビーム取り出し口
7 チャンバー
8 カソード
9 イオン発生装置
10 イオン発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、前記チャンバーの中に配置され熱電子を発生するためのフィラメントと、前記フィラメントに直列接続されている直流電源と、前記チャンバー内にガスを導入するガス導入口と、前記チャンバー内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口と、前記フィラメントの両端であって、前記直流電源と前記フィラメントとの間に1枚ずつ配置された対向電極と、前記直流電源と並列して配置される高周波電源とにより構成され、前記直流電源と高周波電源はスイッチにより前記対向電極との接続を選択できるようになっているイオン発生装置において、
フッ素化合物ガスを用いてイオン注入中に前記フィラメントが切れてしまった場合に、前記フィラメントが切れている状態で水素化合物ガスをイオン化して、ソースハウジング等に堆積したフッ素化合物を除去する方法であって、
前記直流電源の接続を切り離し、前記対向電極と前記高周波電源とを接続する工程と、
次いで、前記ガス導入口より水素化合物ガスを導入する工程と、
対抗電極に高周波を印加し、前記水素化合物ガスをイオン化させ水素イオンを発生させる工程と、
前記水素イオンを前記イオンビーム取り出し口から前記ソースハウジング内に排出し、前記ソースハウジング内に堆積したフッ素化合物を還元し、発生したフッ素を含むガスを真空ポンプで排気する工程と、
からなるイオン発生装置のソースハウジングに堆積したフッ素化合物を除去する方法。
【請求項2】
チャンバーと、前記チャンバー内に熱電子を発生するためのカソードと、前記チャンバーの外側に配置され前記カソードの近傍に配置されたフィラメントと、前記フィラメントに直列接続されている直流電源と、前記チャンバー内にガスを導入するガス導入口と、前記チャンバー内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口と、前記チャンバー内に向い合わせに配置された1対の対向電極と、前記チャンバー外にあって前記対向電極に接続されている高周波電源とにより構成されていることを特徴とするイオン発生装置において、
フッ素化合物ガスを用いてイオン注入中に前記フィラメントが切れてしまった場合に、前記フィラメントが切れている状態で水素化合物ガスをイオン化して、ソースハウジング等に堆積したフッ素化合物を除去する方法であって、
前記直流電源の接続を切り離し、前記対向電極と前記高周波電源とを接続する工程と、
次いで、前記ガス導入口より水素化合物ガスを導入する工程と、
対抗電極に高周波を印加し、前記水素化合物ガスをイオン化させ水素イオンを発生させる工程と、
前記水素イオンを前記イオンビーム取り出し口から前記ソースハウジング内に排出し、前記ソースハウジング内に堆積したフッ素化合物を還元し、発生したフッ素を含むガスを真空ポンプで排気する工程と、
からなるイオン発生装置のソースハウジングに堆積したフッ素化合物を除去する方法。
【請求項3】
チャンバーと、前記チャンバーの中に配置され熱電子を発生するためのフィラメントと、前記フィラメントに直列接続されている直流電源と、前記チャンバー内にガスを導入するガス導入口と、前記チャンバー内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口と、前記フィラメントの両端であって、前記直流電源と前記フィラメントとの間に1枚ずつ配置された対向電極と、前記直流電源と並列して配置される高周波電源とにより構成され、前記直流電源と高周波電源はスイッチにより前記対向電極との接続を選択できるようになっていることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項4】
チャンバーと、前記チャンバー内に熱電子を発生するためのカソードと、前記チャンバーの外側に配置され前記カソードの近傍に配置されたフィラメントと、前記フィラメントに直列接続されている直流電源と、前記チャンバー内にガスを導入するガス導入口と、前記チャンバー内で発生したイオンを外部へ引き出すイオンビーム取り出し口と、前記チャンバー内に向い合わせに配置された1対の対向電極と、前記チャンバー外にあって前記対向電極に接続されている高周波電源とにより構成されていることを特徴とするイオン発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−65898(P2011−65898A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216241(P2009−216241)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】