説明

イオン電極法による硝酸性窒素の測定に供する校正液、該校正液の調製方法、該校正液を用いた測定方法および測定装置

【課題】 野菜等作物体あるいは土壌中の硝酸性窒素濃度の測定において、硝酸イオン以外の成分のイオン強度や妨害イオンの影響を受けることなく、高精度でかつ簡便なイオン電極法による硝酸性窒素の測定方法および測定装置を提供すること、また、その測定に供する校正液および該校正液の調製方法を提供すること。
【解決手段】 予め複数の試料抽出液を実測し、実測値から最適化され決定された濃度の硝酸イオンを含み、電解質によって導電率が調製された少なくとも1つの校正液を用い、野菜等作物体あるいは土壌を特定試料とし、該特定試料中の硝酸性窒素濃度を測定する方法であって、少なくとも(B1)試料抽出液の作製、(B2)校正操作、(B3)試料抽出液中の硝酸イオン濃度の測定、(B4)特定試料中の硝酸性窒素の濃度の算出、を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン電極法による硝酸性窒素の測定に供する校正液、該校正液の調製方法、該校正液を用いた測定方法および測定装置に関するものである。特に、作物体あるいは土壌を特定試料として、該特定試料から抽出された試料抽出液中の硝酸イオン濃度を、イオン電極を用いて実測することによって、特定試料中の硝酸性窒素の測定する方法および測定装置に関するものであり、その測定に供する校正液および該校正液の調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作物体中の硝酸態窒素化合物(以下「硝酸性窒素」という。)は、人体で亜硝酸などに変換され悪影響を及ぼすことが知られている。食の安全・安心に対する意識の高まりから、作物体中の硝酸性窒素の低減が望まれており、生産者や流通業者は、土壌や作物体中の硝酸性窒素を制御し、低硝酸性窒素作物を高付加価値商品として販売しようとしている。従って、測定に精通せずとも簡便に硝酸性窒素の濃度を測定しうる装置が必要となる。
【0003】
作物体中の硝酸性窒素の測定装置としては、種々の測定原理を用いた装置が実用化されているが、例えば、従前は比色法を用いた装置が主流であったが、近年は感度、操作性に優れたイオンクロマトグラフィーを用いた装置が多用されている。一方、低価格で小型の装置を用いて溶液中の硝酸イオン濃度を測定する方法としてイオン電極法があり、これを作物体中の硝酸性窒素の測定に用いる試みも行われている(例えば非特許文献1参照)。また、「五訂増補日本食品標準成分表」の表11「備考欄収載の成分の測定法」において、硝酸イオンの測定方法としてイオンクロマトグラフ法が明記されているように、本技術分野における硝酸イオンの基準測定法となっている。また、溶液中の硝酸性窒素の測定する方法としては、「環境基準」には、総和法(還元蒸留+分解蒸留−吸光光度法)およびイオンクロマトグラフ法が明記されており、JIS「工業排水試験方法」には、還元蒸留−インドフェノール青吸光光度法、還元蒸留−中和滴定法、銅・カドミウムカラム還元−ナフチルジアミン吸光光度法、ブルシン吸光光度法およびイオンクロマトグラフ法が明記されている(例えば非特許文献2参照)。JIS「硝酸イオン標準液」には、イオンクロマトグラフ法および吸光光度法が明記されている(例えば非特許文献3参照)。
【0004】
イオン電極法とは、硝酸イオン(NO)に対して特異的に感応する応答膜を介して、溶液中の硝酸イオン濃度(正確には、硝酸イオンの活量(以下「NO活量aNO3−」という))の変化に応じた電極電位の変化を検出し、NO活量aNO3−から溶液中の硝酸イオン濃度を得る方法をいう。すなわち、硝酸イオン電極電位E(mv)と測定対象であるNO活量aNO3−との間に下式1に示すネルンストの式が絶対温度Tで成立し、硝酸イオン電極電位Eの測定からNO活量aNO3−が計算できる。従って、実測したNO活量aNO3−から溶液中の硝酸イオン濃度を得ることができる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
E=Eo+[(RT)/(nF)]×log[aNO3−+(1/K)×ax]・・(式1)
但し、Eo:基準電位(標準水素電極の電位に対する硝酸イオン濃度が1mol/L時の電位)
E:硝酸イオン電極電位(硝酸イオン起電力)
NO3−:NO活量
K:共存許容限界値
ax:塩化物イオン活量
R:気体定数
F:ファラデー定数
n:価数
T:絶対温度
(RT)/(nF):ネルンスト勾配
【0006】
【非特許文献1】山本敦、松本明信、安井明美「硝酸イオン電極による野菜中の硝酸塩の分析法とそのイオンクロマトグラフ法との比較」(分析化学、Vol.45,No.4(1996))p.363〜366
【非特許文献2】日本工業規格「JIS K0102−1998」
【非特許文献3】日本工業規格「JIS K0031−1995」
【特許文献1】特開平2002−228629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記測定装置では、以下のような課題が生じることがあった。
(1)イオンクロマトグラフ法は、装置が高価であること、ランニングコストが高いこと、および測定液の希釈が必要となること等、作物体や土壌等を対象とする場合、測定専門機関や研究レベルでの使用はともかく、現場での簡易な測定や頻繁に測定を行う場合においては、実用性に問題点がある。
【0008】
(2)一方、イオン電極法は、簡便な硝酸イオンの測定法として知られているが、測定に際しイオン強度の調整等が必要となることがあり、簡便さが損なわれる場合や測定値が他の測定法と一致しないなどの課題があった。つまり、被測定溶液のイオン強度や妨害イオンの影響を受けることから、高精度に測定するためには、被測定溶液のイオン強度の影響を補正すること、妨害イオンを除去することが必要となる。イオン強度の影響を補正する方法には、被測定溶液のイオン強度を測定した上でイオン強度が任意の一定値となるように電解質を添加する方法や、被測定溶液のイオン強度の変動の影響がない範囲まで被測定溶液および校正液に過剰の電解質を添加しイオン強度を一定値にする方法がある。しかしながら、前者は、実際に調整することが難しく、被測定溶液の数量が増えれば作業負荷も多く、簡便性を損なうことになる。後者は、導電率の過剰な増加によって、後述するようにイオン電極の感度低下が生じ、低濃度の硝酸イオンの測定においては測定精度が低下することが判った。また、妨害イオンの除去には、妨害イオンと結合しやすい電解質を加えるなどの手法がとられるが、電解質添加は、測定液のイオン強度を高くし、上記のような測定誤差の要因となり、低濃度域での感度低下を引き起こすことになる。
【0009】
(3)また、作物体あるいは土壌を特定試料としてイオン電極法を適用する場合については、従前の測定方法のようなイオン強度の影響を補正や妨害イオンの排除だけでは、十分な測定精度を確保することが難しいことが判った。作物体あるいは土壌から抽出された抽出液(以下「試料抽出液」という)中には有機成分などが多く共存することから、こうした成分の共存影響等によって生じるものと推定されるが、イオンクロマトグラフ法などと測定値の相関性が悪く、正確な硝酸イオン濃度の測定を行うことができなかった。
【0010】
そこで、本発明はこうした問題点を解決し、広い硝酸性窒素の測定濃度範囲を確保しながら、硝酸イオン以外の成分の影響を排除し、迅速かつ簡便な測定方法を確立することを目的とする。つまり、野菜等作物体あるいは土壌中の硝酸性窒素濃度の測定において、被測定溶液のイオン強度や妨害イオンおよび特定試料固有の影響を受けることなく、高精度でかつ簡便なイオン電極法による硝酸性窒素の測定方法および測定装置を提供することを目的とする。また、その測定に供する校正液および該校正液の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すイオン電極法による硝酸性窒素の測定方法および測定装置、また、その測定に供する校正液および該校正液の調製方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は、野菜等作物体あるいは土壌を特定試料とし、イオン電極法により該特定試料中の硝酸性窒素を測定する場合に用いられ、硝酸イオンおよび電解質を含む校正液であって、前記硝酸イオンの濃度が、予め前記特定試料から抽出した複数の試料抽出液をイオン電極によって実測したときの電位出力から最適化され、決定された硝酸イオン濃度の少なくとも1つと同一で、かつ、前記電解質の量が、前記試料抽出液と略同じ導電率となるように調製されたことを特徴とする。
【0013】
イオン電極法における測定誤差の要因として妨害イオンによる影響以外にイオン強度の影響がある一方、作物体あるいはその土壌については、こうした影響を排除する従前のような測定方法では正確な硝酸イオン濃度の測定を行うことができなかった。本発明者は、こうした被測定溶液(試料抽出液)中のイオン強度および試料抽出液固有の影響について検証した結果、試料抽出液中の硝酸イオン濃度と該試料抽出液の導電率との間には、硝酸イオン以外の成分(イオンを含む)が存在した場合においても、高い相関性があることを見出した。つまり、これらの特定試料については、硝酸イオンの量と他のイオンの量とが比例関係に近い相関性を有することから、実測可能な導電率を指標とすることによって、たとえ作物体の種類や土壌が異なっても、硝酸イオン濃度を精度よく測定することができることを見出した。本発明は、こうした知見を基に、硝酸イオン濃度と導電率との関係および他のイオンの存在による導電率の変化に伴う影響を、直接イオン電極の校正条件に適用できるように、校正点(校正液中の硝酸イオン濃度)を試料抽出液の実測のイオン電極の電位出力に対して最適化して決定するとともに、実測の試料抽出液と同一の導電率を有する校正液を調製することとしたものである。こうした校正液を用いることによって、試料抽出液のイオン強度や妨害イオンおよび特定試料固有の影響を受けることなく、高精度でかつ簡便なイオン電極法による硝酸性窒素の測定が可能となった。
【0014】
本発明は、野菜等作物体あるいは土壌を特定試料とし、イオン電極法により該特定試料中の硝酸性窒素の測定に供する校正液の調製方法であって、少なくとも以下の操作;
(A1)予め、既知の前記特定試料から抽出した複数の試料抽出液について、硝酸イオン濃度を検定する、
(A2)前記複数の試料抽出液について、導電率を実測する、
(A3)前記複数の試料抽出液をイオン電極によって実測し、このときの電位出力から、最適化された少なくとも1つの校正点つまり校正液中の硝酸イオン濃度を決定する、
(A4)前記(A3)において決定された濃度と同一の硝酸イオンを含み、かつ前記試料抽出液と略同じ導電率となる、少なくとも1つの校正液を調製する、
を行うことを特徴とする。
【0015】
上記のように、イオン電極法によって作物体あるいは土壌中の硝酸性窒素濃度を測定する場合には、校正点を試料抽出液の実測のイオン電極の電位出力に対して最適化して決定するとともに、実測の試料抽出液と同一の導電率を有する少なくとも1つの校正液を用いることが好ましい。本発明は、こうした校正液の調製方法を明確にしたもので、予め複数の試料抽出液を実測し、実測値から最適化され決定された濃度の硝酸イオンを含み、電解質によって実測された導電率を調製することによって、被測定溶液に高い相関性を有し、正確な硝酸イオン濃度が確定された校正液を提供することが可能となった。
【0016】
本発明は、上記イオン電極法による硝酸性窒素の測定に供する校正液の調製方法であって、前記操作(A3)における実測結果を基に、試料抽出液中の硝酸イオン濃度とこれに対するイオン電極からの出力との相関について、演算する硝酸イオン濃度範囲を設定し、該範囲における前記相関を次数の異なる2以上の回帰曲線の交点から2以上の校正点を算出することを特徴とする。
【0017】
上記のように、複数の試料抽出液をイオン電極によって実測し、このときの電位出力から、最適化された少なくとも1つの校正点つまり校正液中の硝酸イオン濃度を決定し、このときの試料抽出液と略同じ導電率となる少なくとも1つの校正液を調製し、これによって校正することによって硝酸イオン以外の成分のイオン強度の影響を排除することができる。このとき、校正点の数は、上記式1のネルンストの式を基本として1点とすること、あるいは硝酸イオン濃度の多次関数を求めその曲線上の1点とすることも可能である。しかし、試料抽出液中の硝酸イオン濃度は、後述するように作物体の種類によって非常に幅広く、特にその土壌を含めた場合には3〜5桁の数値幅となることから、複数の校正点を設定することが好ましい。また、試料抽出液の実測値の最適化として、直線近似あるいは2次曲線近似など数次の回帰曲線を作成する方法がある。本発明は、最適化において、こうした次数の異なる2以上の回帰曲線を設定し、この交点を校正点とする校正液の調製方法によって校正液を調製することによって、より実測の試料抽出液の特性に対応した校正が可能となり、低濃度から高濃度までの広い測定濃度範囲の高精度な測定が可能となった。
【0018】
本発明は、上記校正液または上記調製方法によって調製された少なくとも1つの校正液を用いるとともに、野菜等作物体あるいは土壌を特定試料とし、該特定試料中の硝酸性窒素濃度を測定する方法であって、少なくとも以下の操作;
(B1)前記特定試料から硝酸性窒素を抽出し、複数の成分イオンとともに硝酸イオンが存在する試料抽出液を作製する、
(B2)前記校正液をイオン電極によって実測し、このときの電位出力から、イオン電極の出力と試料抽出液中の硝酸イオン濃度の関係を校正する、
(B3)前記校正後、測定対象となる特定試料についての試料抽出液をイオン電極によって実測し、このときの電位出力から該試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定する、
(B4)前記試料抽出液の硝酸イオン濃度から特定試料中の硝酸性窒素の濃度を算出する、
を行うことを特徴とする。
【0019】
イオン電極法における測定誤差の要因として妨害イオンによる影響以外にイオン強度の影響がある一方、作物体あるいはその土壌については、こうした影響を排除する従前のような測定方法では正確な硝酸イオン濃度の測定を行うことができなかった。本発明者は、こうした被測定溶液(試料抽出液)中のイオン強度および試料抽出液固有の影響について検証した結果、試料抽出液中の硝酸イオン濃度と該試料抽出液の導電率との間には、硝酸イオン以外の成分(イオンを含む)が存在した場合においても、高い相関性があることを見出した。つまり、これらの特定試料については、硝酸イオンの量と他のイオンの量とが比例関係に近い相関性を有することから、実測可能な導電率を指標とすることによって、たとえ作物体の種類や土壌が異なっても、硝酸イオン濃度を精度よく測定することができることを見出した。本発明は、こうした知見を基に、硝酸イオン濃度と導電率との関係および他のイオンの存在による導電率の変化に伴う影響を、直接イオン電極の校正条件に適用できるように、実測の試料抽出液と同一の導電率を有する校正液を調製するとともに、校正点(校正液中の硝酸イオン濃度)を試料抽出液の実測のイオン電極の電位出力に対して最適化して決定することとしたものである。これによって、試料抽出液のイオン強度や妨害イオンおよび特定試料固有の影響を受けることなく、高精度でかつ簡便なイオン電極法による硝酸性窒素の測定方法を提供することが可能となった。
【0020】
本発明は、上記イオン電極法による硝酸性窒素の測定方法であって、前記特定試料が土壌であるとき、前記試料抽出液の塩化物イオンを除去することを特徴とする。
【0021】
上記のように、イオン電極の電位出力に対して、実測可能な導電率を指標として調製された校正液を用いて校正することによって、イオン強度や特定試料固有の影響を排除できることが可能となった。一方、特定試料が土壌であるとき、一般に試料抽出液中の硝酸イオン濃度は非常に低濃度であることから、他の成分のイオン、特に塩化物イオンの妨害影響が無視できない。従って、本発明においては、イオン電極法における測定誤差の要因の1つであるイオン強度や特定試料固有の影響を上記のように排除するとともに、妨害イオンによる影響を排除することによって、イオン電極法による低濃度の硝酸性窒素に対する高精度でかつ簡便な測定方法を提供することが可能となった。具体的な硝酸イオン電極に対する個々のイオンの妨害影響度については後述する。
【0022】
本発明は、硝酸性窒素を含む特定の試料から抽出した試料抽出液を導入する液槽および該試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定するイオン電極が設けられた検出部、を有する該特定試料中の硝酸性窒素を測定する装置であって、
上記校正液または上記調製方法によって調製された少なくとも1つの校正液を用いて、イオン電極の出力と前記特定試料中の硝酸イオン濃度の関係を校正することを特徴とする。
【0023】
硝酸イオン電極を用いた作物体あるいは土壌中の硝酸性窒素の測定においては、イオン強度ではなく、実測可能な導電率を指標として他のイオンの影響を排除でき、測定対象となる作物体や土壌の種類が異なっても、所定範囲内の測定精度を確保することが可能となった。本発明は、予め実測した複数の試料抽出液の導電率および硝酸イオン濃度のデータを基に少なくとも1つの校正液を調製し、これを用いて校正を行うことによって、硝酸イオン以外の成分のイオン強度や妨害イオンの影響を受けることなく、高精度でかつ簡便なイオン電極法による硝酸性窒素の測定方法を提供することが可能となった。
【0024】
本発明は、上記イオン電極法による硝酸性窒素の測定装置であって、前記特定試料が土壌であるとき、前記試料抽出液を液槽へ導入する移送流路あるいは移送手段に塩化物イオン除去部を設けることを特徴とする。
【0025】
上記のように、特定試料が土壌であるとき、試料抽出液中の硝酸イオン濃度は非常に低濃度であることから、他の成分のイオン特に塩化物イオンの妨害影響が無視できない。本発明においては、イオン電極が設けられた検出部までの試料抽出液の移送流路あるいはその移送手段に塩化物イオン除去部を設けることによって妨害イオンによる影響を排除するもので、低濃度の硝酸性窒素に対する高精度でかつ簡便な測定が可能となった。特に、移送手段の試料導入導出部に塩化物イオン除去部を設けることによって、移送手段への導入操作および検出部への移送操作時に、試料抽出液が2度該塩化物イオン除去部を通過し、よりその除去機能の確実を図ることが可能となった。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によって、広い硝酸性窒素の測定濃度範囲を確保しながら、イオン強度や妨害イオンおよび特定試料固有の影響を排除し、迅速かつ簡便な測定方法を確立することが可能となった。従って、野菜等作物体あるいは土壌中の硝酸性窒素濃度の測定において、イオン強度や妨害イオンおよび特定試料固有の影響を受けることなく、高精度でかつ簡便なイオン電極法による硝酸性窒素の測定方法および測定装置を提供することが可能となった。また、その測定に供する校正液および該校正液の調製方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。この発明に係る特定試料中の硝酸性窒素濃度を測定する方法(以下「本方法」という。)は、(A)被測定溶液(試料抽出液)に高い相関性を有しかつ正確な硝酸イオン濃度が確定された校正液の調製操作と、(B)被測定溶液の作製、該校正液を用いた校正操作と校正後の被測定溶液の測定操作および特定試料中の硝酸性窒素の濃度の算出操作から構成される。
【0028】
ここで、特定試料とは、硝酸性窒素を含有し、その含有量を測定することに意義を有する対象物をいい、具体的には、作物体や土壌、生体液、自然水、プロセス生成物、地下水あるいは工業・農業排水などを挙げることができる。特に、本発明は、作物体や土壌などのように、多種多様な成分が混合した状態で硝酸塩とともに含有された物質中の硝酸性窒素を測定する場合に好適である。
また、硝酸性窒素とは、硝酸塩として特定試料に含まれる窒素をいい、試料抽出液中においては、硝酸イオンとして存在する。「人の健康の保護に関する環境基準」として、日本工業規格K0102に定める測定方法によって10mg/L以下が基準値とされる。本発明においては、後述する表1および表2に例示するような作物体と土壌を特定試料とするについて述べる。
【0029】
<校正液の調製>
図1は、本発明に係る校正液の調製操作を例示する。以下の操作手順(A1)〜(A4)に沿って、その詳細を説明する。つまり、(A1)予め、既知の前記特定試料から抽出した複数の試料抽出液について、硝酸イオン濃度を検定する操作、(A2)複数の試料抽出液について、導電率を実測する操作、(A3)複数の試料抽出液をイオン電極によって実測し、このときの電位出力から、最適化された少なくとも1つの校正点つまり校正液中の硝酸イオン濃度を決定する操作、(A4)前記(A3)において決定された濃度と同一の硝酸イオンを含み、かつ前記試料抽出液と略同じ導電率となる、少なくとも1つの校正液を調製する操作、から構成される。
【0030】
(A1)試料抽出液について、硝酸イオン濃度を検定する操作
硝酸イオン電極によって特定試料中の硝酸性窒素を測定するためには、予め、特定試料から抽出し硝酸イオンを含む試料抽出液を作製し、既知の前記特定試料から抽出した複数の試料抽出液について、硝酸イオン濃度を検定する操作必要がある。
【0031】
具体的には、後述する(B1)作物体および(B1’)土壌についての抽出操作によって硝酸イオンを含む試料抽出液を作製し、硝酸イオン濃度を検定する。下表1に本発明において検証した作物体の一部および下表2に同じく土壌の一部について、その硝酸イオン濃度を他の共存するイオン濃度とともに示す。硝酸イオン濃度の検定およびこのときの各イオン成分の濃度の測定は、イオンクロマトグラフィー(島津製作所製、PIA−1000)によって行ったものである。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
(A2)試料抽出液の導電率を実測する操作
得られた既知濃度の複数の試料抽出液について、導電率を実測する。ここで、導電率を実測する意義は、以下のように試料抽出液(被測定溶液)のイオン強度との関係から導き出すことができる。
【0035】
被測定溶液のイオン強度Iは、次式2で表される。
I=1/2×Σ(Ci×Z)・・(式2)
ここで、Ciは、被測定溶液中に含まれる代表的なイオンの濃度値、すなわち、例えば、Na濃度値、PO2−濃度値、Cl濃度値、NO濃度値、SO2−濃度値、Zは、前記各イオンの価数を表す。
【0036】
一般にイオン強度は実測可能な導電率を指標とすることができる。ここで、種々の生体物の試料抽出液を被測定溶液とする本発明においては、試料抽出液中の硝酸イオン濃度と該試料抽出液の導電率との間には、硝酸イオン以外の成分(イオンを含む)が存在した場合においても、高い相関性があることを見出した。
【0037】
〔実施例〕
(a)測定条件
(a−1)標準液:硝酸イオン濃度10000ppm(脱イオン水ベース)の標準液を準備し、これを順に1/2希釈し、5000ppm、2500ppm・・として7種準備した。
(a−2)特定試料:上記(A1)の操作によって、ほうれん草、小松菜、キャベツ、チンゲン菜、白菜、サラダ菜について試料抽出液を30種、その土壌について20種準備した。
(a−3)測定機器:硝酸イオン濃度については、上記イオンクロマトグラフィー(島津製作所製、PIA−1000)、導電率については、導電率メータ(堀場製作所製、TWIN導電率計B−143)を用いて測定した。
(a−4)試料抽出液を適宜脱イオン水にて希釈し、イオンクロマトグラフィーにて硝酸イオン濃度を求める。同様に導電率についても希釈した抽出液を用いて求める。それらのデータを利用して相関関係について考察する。
(b)結果
(b−1)作物体については、図2に示すように、硝酸イオン濃度と導電率の相関は、試料抽出液については、ばらつきR=0.905で、関数Y=0.0207X0.745で近似することができる(図2中(a))。一方、参考として標準液について同様に測定した結果は、ばらつきR=0.998で、1次関数Y=0.0017Xで近似することができる(図2中(b))。
(b−2)土壌については、図3に示すように、硝酸イオン濃度と導電率の相関は、試料抽出液から塩素イオンを除去した後の被測定溶液を測定した場合については、ばらつきR=0.9504で、1次関数Y=2.3437Xで近似することができる(図3中(a))。一方、試料抽出液をそのまま測定した場合については、ばらつきR=0.9163で、関数Y=3.5252Xで近似することができる(図3中(b))。
【0038】
(A3)校正点を決定する操作
校正液は、被測定溶液中の測定成分濃度を中心として、それを挟むように大小の測定成分濃度値とすることが好ましい。また、作物体を特定試料とした場合においては、上記式1のネルンストの式を基本として1点とすることも可能である。さらに、図2中(a)のように、硝酸イオン濃度に対して多次関数の相関となる場合には、試料抽出液中の硝酸イオン濃度の中心値として、硝酸イオン濃度5000ppm(脱イオン水ベース)を選択することも可能である。
【0039】
また、試料抽出液の実測値の最適化として、直線近似あるいは2次曲線近似など数次の回帰曲線を作成する方法がある。本発明は、最適化において、こうした次数の異なる2以上の回帰曲線を設定し、この交点を校正点とすることによって、より実測の試料抽出液の特性に対応した校正が可能となる。具体的には、図2中(a)のような試料抽出液の実測値において、図4に例示するように、直線回帰させた場合との交点として硝酸イオン313ppmおよび10000ppmあるいは5000ppmの校正液を調製することによって、500ppm以下の低濃度から5000ppm以上の高濃度までの広い測定濃度範囲の高精度な測定が可能となる。
【0040】
土壌特定試料とした場合においても、同様の方法によって操作を行うことができる。ただし、図3中(a)に示すように、試料抽出液の実測値を最適化した場合、直線近似とすることができることから、測定範囲の任意の2点の校正液とする一般的方法によって校正することが可能となる。具体的には、硝酸イオン濃度20ppmと200ppm(脱イオン水ベース)を選択することによって、20〜200ppmの低濃度の測定濃度範囲の高精度な測定が可能となる。
【0041】
(A4)校正液を調製する操作
硝酸イオン濃度の標準液に電解質を添加し、前記(A3)において決定された濃度と同一の硝酸イオンを含み、かつ前記試料抽出液と略同じ導電率となる、校正液を調製する。図2中(a)においては、硝酸イオン濃度5000ppm(脱イオン水ベース)における試料抽出液の導電率11.8mS/cmとなるように調製する。ここで、イオン強度調整用物質である電解質としては、易溶性で解離度が高く、硝酸イオン電極に対して妨害が少ないことが好ましい。例えば、硫酸ナトリウムや硫酸アンモニウムを挙げることができる。
【0042】
具体的には、以下のように調製する。
(A4−1)硝酸イオン濃度300ppmの場合
硝酸カリウム(KNO)を489mgと、硫酸ナトリウム(NaSO)407mgを1L脱イオン水中に溶解する。
(A4−1)硝酸イオン濃度5000ppmの場合
KNOを8150mgと、NSO2076mgを1L脱イオン水中に溶解する。
【0043】
土壌特定試料とした場合においても、同様の方法によって操作を行うことができる。ただし、図3中(a)に示すように、硝酸イオン濃度150ppm(脱イオン水ベース)における試料抽出液の導電率350μS/cmとなるように調製する。具体的には、硝酸カリウム(KNO)を244mgと、硫酸ナトリウム(NaSO)133mgを1L脱イオン水中に溶解する。
【0044】
<特定試料として作物体に本方法を適用した場合(第1例)>
図5は、本方法の第1例として、作物体を特定試料とした場合の測定操作を例示する。つまり、(B1)作物体から硝酸イオンを抽出して試料抽出液を作製する操作、(B2)イオン電極の出力と試料抽出液中の硝酸イオン濃度の関係を校正する操作、(B3)試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定する操作、(B4)特定試料中の硝酸性窒素の濃度を算出する操作、から構成される。
以下の操作手順(B1)〜(B4)に沿って、その詳細を説明する。
【0045】
(B1)作物体から硝酸イオンを抽出して試料抽出液を作製する操作
硝酸イオン電極によって作物体中の硝酸性窒素を測定するためには、作物体から抽出し硝酸イオンを含む試料抽出液を作製する必要がある。
【0046】
具体的には、例えば、作物体として「ほうれん草」について、以下の操作によって、試料抽出液を作製する。
(B1−1)ほうれん草の可食部の代表的な部分を準備する。
(B1−2)包丁にて、適当な大きさに切る。このときの重量を測る。
(B1−3)細断されたほうれん草をビニール袋に入れて、木槌で叩きジュースを出す。
(B1−4)ビニール袋のコーナー部を、はさみで切り取る。
(B1−5)ジュースをビニール袋から濾紙を介して試料容器(例えばビーカー)に移す。
(B1−6)試料抽出液を希釈する場合には、試料容器に所要量を移した後、その所定倍量の脱イオン水を追加導入し攪拌する。
(B1−7)このようにして、同一作物体あるいは異なる作物体についての試料抽出液を各試料容器に作製する。
【0047】
(B2)イオン電極の出力と試料抽出液中の硝酸イオン濃度の関係を校正する操作
次に、調製された校正液を用い、本方法によって実測し、このときの電位出力から、硝酸イオン電極の出力と試料抽出液中の硝酸イオン濃度の関係を校正する。具体的には、図2中(a)において、硝酸イオン5000ppmで導電率11.8mS/cmとなる校正液を実測し、このときの硝酸イオン電極の出力が、試料抽出液中の硝酸イオン5000ppm相当であるとし、以降この関係を基に測定を行う。
【0048】
なお、従前においては、被測定溶液のイオン強度の影響を排除するために、被測定溶液に電解質を多く注入して高いイオン強度の被測定溶液とし、測定成分以外の成分のイオン強度の変化があっても、被測定溶液全体のイオン強度が殆んど変化しない状態にする方法があった。しかしながら、高いイオン強度領域においては、試料抽出液中の硝酸イオン濃度と硝酸イオン電極の電位との直線関係からのずれや飽和現象が現れることが判った。つまり、この領域にあっては、試料抽出液中の硝酸イオン濃度に変化があっても、硝酸イオン電極の電位が殆んど変化せず、測定精度の低下が生じている。特に低濃度の硝酸イオンの測定においては、その影響が大きい。
【0049】
具体的には、図6に例示するように、横軸に硝酸イオン濃度、縦軸に硝酸イオン電極で測定された電位を示している。硝酸イオンのみで調製された被測定溶液に、0.1、0.2、0.5、1.0、2.0、5.0mS/cm分の硫酸ナトリウムを添加した場合の電位の変化をそれぞれ示している。図4より明らかなように、導電率が高くなることで直線性が崩れ、感度が低下している様子が判る。
【0050】
(B3)試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定する操作
校正後、測定対象となる特定試料についての試料抽出液を本方法によって実測し、このときの電位出力から該試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定する。
【0051】
(B3−1)測定条件
具体的には、下表3の条件の下で、図2中(a)において実測の硝酸イオン電極の出力を、前記(B2)における硝酸イオン電極の出力と試料抽出液中の硝酸イオン濃度の関係に適用した。
【0052】
【表3】

【0053】
(B3−2)その結果、図7に示すような、実測の試料抽出液中の硝酸イオン濃度を得ることができた。X軸は、イオンクロマトグラフィーによって測定した実測の硝酸イオン濃度を表し、Y軸は、本方法によって測定した実測の硝酸イオン濃度を表し、ばらつきR=0.937で、1次関数Y=0.988Xで近似することができた。非常に両者の相関性が高く、精度の高い測定を行うことができた。
【0054】
(B4)作物体中の硝酸性窒素の濃度を算出する操作
以上によって、試料抽出液の測定は完了するが、本方法の本来の目的である作物体中の硝酸性窒素に換算する必要がある。つまり、作物体Agから硝酸イオン濃度Bwt%の試料抽出液Cgが得られた場合の作物体中の硝酸性窒素Dwt%は、D=B×A/C×14/62で求めることができる(14:窒素の原子量、62:硝酸イオンの分子量)。
【0055】
<特定試料として土壌に本方法を適用した場合(第2例)>
図8は、本方法の第2例として、土壌を特定試料とした場合の測定操作を例示する。以下の操作手順(B’1)〜(B’4)に沿って、その詳細を説明する。第1例と同一操作については、説明を省略する。
【0056】
(B’1)土壌から硝酸イオンを抽出して試料抽出液を作製する操作
特定試料を土壌とする場合には、(B’1・1)抽出操作に加え、(B’1・2)塩化物イオン除去操作を行うことが好ましい。上記表2に示すように、土壌からの試料抽出液中の硝酸イオン濃度は非常に低濃度であることから、他の成分のイオン特に塩化物イオンの妨害影響が無視できない。
【0057】
(B’1・1)抽出操作
具体的には、以下の操作によって、試料抽出液を作製する。
(B’1・1−1)土壌を準備する。前処理として粉砕あるいは分粒することが好ましい。
(B’1・1−2)試料容器A(例えばビーカー)に所定量を移す。
(B’1・1−3)試料容器Aに抽出液(例えば脱イオン水)を所定量注入する。抽出液の温度は予め設定した所定温度とすることによって、抽出機能の安定化を図ることができる。
(B’1・1−4)試料容器A内を所定時間攪拌する。専用のミキサーを用いることによって抽出機能の安定化を図ることができる。
(B’1・1−5)攪拌終了後、所定の静止時間を設け、土壌と抽出液との分離を図る。
(B’1・1−6)静止時間経過後、上澄みの抽出液を、移送手段(例えばスポイド)を用いて所定量採取し、別途準備した試料容器Bに移す。試料抽出液を、導入部を介して直接イオン電極が設けられた検出部に導入する移送流路がある場合には、導入部に注入する。
(B’1・1−7)試料抽出液を希釈する場合には、試料容器Bにその所定倍量の脱イオン水を追加導入し攪拌する。
(B’1・1−8)このようにして、同一土壌あるいは異なる土壌についての試料抽出液を各試料容器に作製する。
【0058】
(B’1・2)塩化物イオン除去操作
本方法において、試料抽出液中の塩化物イオンは大きな妨害影響を及ぼしている。具体的には、図9に例示するように、硝酸イオン電極に対する検出感度比[Cl]/[NO]≒0.05との結果を得た。また、この影響は特に硝酸イオンの低濃度測定において大きく、その除去効果は非常に大きい。詳細は後述する。
【0059】
試料抽出液中の塩化物イオンの除去操作は、移送手段に塩化物イオン除去部を設けることあるいはイオン電極が設けられた検出部までの試料抽出液の移送流路に塩化物イオン除去部を設けることによって行うことができる。前者については、具体的には、図10のような方法を挙げることができる。つまり、移送手段2(例えばスポイド)によって、試料容器(ビーカー)1から試料抽出液を抜き取り、検出部4に注入することによって、効率よく塩化物イオン除去操作を行うことができる。このとき、スポイド2’のように予め塩化物イオン除去部5を設けた場合には、スポイド2’への試料抽出液の導入操作および検出部4への試料抽出液の移送操作時に、試料抽出液が2度塩化物イオン除去部5を通過させることができることから、よりその除去機能の確実を図ることが可能となった。実際に本操作の効果を確認すると、下表4に示すように、非常に高い除去効率を確保することができた。
【0060】
【表4】

【0061】
(B’2)イオン電極の出力と試料抽出液中の硝酸イオン濃度の関係を校正する操作
第1例と同様の方法によって操作を行うことができる。
【0062】
(B’3)試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定する操作
第1例と同様の方法によって操作を行うことができる。具体的には、以下の条件の下で測定を行った。
【0063】
(B’3−1)測定条件
具体的には、下表5の条件の下で、測定を行った。
【0064】
【表5】

【0065】
(B’3−2)その結果、図11に示すような、実測の試料抽出液から塩素イオンを除去した後の被測定溶液中の硝酸イオン濃度を得ることができた。X軸は、イオンクロマトグラフィーによって測定した実測の硝酸イオン濃度を表し、Y軸は、本方法によって測定した実測の硝酸イオン濃度を表し、ばらつきR=0.937で、1次関数Y=0.988Xで近似することができた。非常に両者の相関性が高く、精度の高い測定を行うことができた。
【0066】
(B’4)土壌の硝酸性窒素の濃度を算出する操作
以上によって、試料抽出液の測定は完了するが、本方法の本来の目的である土壌中の硝酸性窒素に換算する必要がある。つまり、土壌A’gから硝酸イオン濃度B’wt%の試料抽出液C’gが得られた場合の土壌中の硝酸性窒素D’wt%は、D’=B’×A’/C’×14/62で求めることができる(14:窒素の原子量、62:硝酸イオンの分子量)。
【0067】
(B’5)塩化物イオン除去効果について
第2例においては、以上の操作中(B’1・2)塩化物イオン除去が最も重要な処理操作となる。塩化物イオン除去処理前後の試料抽出液中の硝酸イオン濃度について、イオンクロマトグラフ法による測定値と硝酸イオン電極法による測定値との相関を、各々図12および図13に例示する。処理前においては、図12(A)のように比較的高濃度を含む測定濃度範囲においては相関性がよいが、図12(B)のように50ppm以下の低濃度の測定濃度範囲においては非常に誤差が大きい。これを処理した後においては、図13(A)および(B)のように50ppm以下の低濃度の測定濃度範囲においても相関性がよく、非常に誤差が小さくなった。
【0068】
<本方法を適用する装置>
この発明に係る特定試料中の硝酸性窒素を測定する装置(以下「本装置」という。)は、特定試料から硝酸イオンを抽出する抽出部、抽出した試料抽出液を導入する液槽、および試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定するイオン電極が設けられた検出部を有し、少なくとも1つの校正液、予め行った実測や校正あるいは特定試料の実測によって得られた種々のデータを演算する演算処理部を有する構成からなる。
【0069】
具体的には、図14(A)に例示するような、上記各構成要素を個別に操作することができる簡易な測定装置を挙げることができる。つまり、試料容器であるビーカー1が抽出部として機能し、スポイド2によって検出端3(液槽に相当し、イオン電極の一部を構成する)に注入された試料抽出液を、検出部4によって測定することができる。各構成要素を全て纏めた測定キットとして、現場での測定に供することが可能である。また、上記のような校正方法を用いることによって、従前の測定装置に比較して高い測定精度を有している。土壌を特定試料とする場合には、スポイド2’のように塩化物イオン除去部5を設けることによって、妨害イオンの影響を排除することができる。特に予め図14(A)のスポイド2’のように塩化物イオン除去部5を設けることによって、スポイド2’への試料抽出液の導入操作および検出端3への試料抽出液の移送操作時に、試料抽出液が2度塩化物イオン除去部5を通過させることができることから、よりその除去機能の確実を図ることが可能となった。
【0070】
また、図14(B)に例示するような、上記各構成要素が半自動的に機能する測定装置を挙げることができる。つまり、複数の抽出端11a,11bおよび11cを有する抽出部11に試料抽出液および校正液を注入すると、順に移送ポンプ12によって吸引されて検出部13内部に導入される。検出部13には、液槽14とともにイオン電極15が設けられ、試料抽出液中の硝酸イオンを測定することができる。土壌を特定試料とする場合には、抽出部11と検出部13の間に塩化物イオン除去部16を設けることによって、妨害イオンの影響を排除することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上は、特定試料として作物体や土壌を対象とした場合について述べたが、本方法あるいは本装置は、生体液、自然水、プロセス生成物、地下水あるいは工業・農業排水についても適用可能であり、塩化物イオン以外のイオンの除去手段の適用が可能であればさらに広い範囲を分野において適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る校正液の調製操作手順を例示する説明図。
【図2】作物体からの試料抽出液における導電率を例示する説明図。
【図3】土壌からの試料抽出液における導電率を例示する説明図。
【図4】試料抽出液の実測値についての回帰曲線から校正点を求める方法を例示する説明図。
【図5】本発明に係る測定方法の第1例の操作手順を例示する説明図。
【図6】試料抽出液における硝酸イオン濃度とイオン電極の電位出力との相関を例示する説明図。
【図7】各種作物体についての試料抽出液中の硝酸イオン濃度の測定結果を例示する説明図。
【図8】本発明に係る測定方法の第2例の操作手順を例示する説明図。
【図9】試料抽出液中の塩化物イオンによる妨害影響を例示する説明図。
【図10】試料抽出液中の塩化物イオンを除去する方法を例示する説明図。
【図11】各種土壌についての試料抽出液中の硝酸イオン濃度の測定結果を例示する説明図。
【図12】塩化物イオン除去前の各種作物体についての試料抽出液中の硝酸イオン濃度の測定結果を例示する説明図。
【図13】塩化物イオン除去後の各種作物体についての試料抽出液中の硝酸イオン濃度の測定結果を例示する説明図。
【図14】本発明に係る測定装置を例示する説明図。
【符号の説明】
【0073】
1 試料容器(ビーカー)
2 移送手段(スポイド)
3 検出端
4 検出部
5 塩化物イオン除去部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜等作物体あるいは土壌を特定試料とし、イオン電極法により該特定試料中の硝酸性窒素を測定する場合に用いられ、硝酸イオンおよび電解質を含む校正液であって、
前記硝酸イオンの濃度が、予め前記特定試料から抽出した複数の試料抽出液をイオン電極によって実測したときの電位出力から最適化され、決定された硝酸イオン濃度の少なくとも1つと同一で、かつ、前記電解質の量が、前記試料抽出液と略同じ導電率となるように調製されたことを特徴とするイオン電極法による硝酸性窒素の測定に供する校正液。
【請求項2】
野菜等作物体あるいは土壌を特定試料とし、イオン電極法により該特定試料中の硝酸性窒素の測定に供する校正液の調製方法であって、少なくとも以下の操作;
(A1)予め、既知の前記特定試料から抽出した複数の試料抽出液について、硝酸イオン濃度を検定する、
(A2)前記複数の試料抽出液について、導電率を実測する、
(A3)前記複数の試料抽出液をイオン電極によって実測し、このときの電位出力から、最適化された少なくとも1つの校正点つまり校正液中の硝酸イオン濃度を決定する、
(A4)前記(A3)において決定された濃度と同一の硝酸イオンを含み、かつ前記試料抽出液と略同じ導電率となる、少なくとも1つの校正液を調製する、
を行うことを特徴とするイオン電極法による硝酸性窒素の測定に供する校正液の調製方法。
【請求項3】
前記操作(A3)における実測結果を基に、試料抽出液中の硝酸イオン濃度とこれに対するイオン電極からの出力との相関について、演算する硝酸イオン濃度範囲を設定し、該範囲における前記相関を次数の異なる2以上の回帰曲線の交点から2以上の校正点を算出することを特徴とする請求項2記載のイオン電極法による硝酸性窒素の測定に供する校正液の調製方法。
【請求項4】
請求項1記載の校正液または請求項2あるいは3記載の調製方法によって調製された少なくとも1つの校正液を用いるとともに、野菜等作物体あるいは土壌を特定試料とし、該特定試料中の硝酸性窒素濃度を測定する方法であって、少なくとも以下の操作;
(B1)前記特定試料から硝酸性窒素を抽出し、複数の成分イオンとともに硝酸イオンが存在する試料抽出液を作製する、
(B2)前記校正液をイオン電極によって実測し、このときの電位出力から、イオン電極の出力と試料抽出液中の硝酸イオン濃度の関係を校正する、
(B3)前記校正後、測定対象となる特定試料についての試料抽出液をイオン電極によって実測し、このときの電位出力から該試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定する、
(B4)前記試料抽出液の硝酸イオン濃度から特定試料中の硝酸性窒素の濃度を算出する、
を行うことを特徴とするイオン電極法による硝酸性窒素の測定方法。
【請求項5】
前記特定試料が土壌であるとき、前記試料抽出液の塩化物イオンを除去することを特徴とする請求項4記載のイオン電極法による硝酸性窒素の測定方法。
【請求項6】
硝酸性窒素を含む特定の試料から抽出した試料抽出液を導入する液槽および該試料抽出液中の硝酸イオン濃度を測定するイオン電極が設けられた検出部、を有する該特定試料中の硝酸性窒素を測定する装置であって、
請求項1記載の校正液または請求項2あるいは3記載の調製方法によって調製された少なくとも1つの校正液を用いて、イオン電極の出力と前記特定試料中の硝酸イオン濃度の関係を校正することを特徴とするイオン電極法による硝酸性窒素の測定装置。
【請求項7】
前記特定試料が土壌であるとき、前記試料抽出液を液槽へ導入する移送流路あるいは移送手段に塩化物イオン除去部を設けることを特徴とする請求項6記載のイオン電極法による硝酸性窒素の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−122181(P2008−122181A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305217(P2006−305217)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】