説明

イクラの加工方法

【課題】 イクラの風味を失うことなく固形状にし、カラスミと同様の風合、賞味を得ながらも、廉価で簡単に製造できるようにすることにある。
【解決手段】 裏漉しして皮を除去した液体状のイクラに、保存性を確保するための塩、粘着性を高めるための卵黄、生臭さをとり滑らかな状態にするための酒、ゼラチンや寒天等の凝固剤を添加混合して加熱により粘度の高いコロイド状とし、次いで冷却させて空気を抜くために練り、固形化したことを特徴とする構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イクラの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イクラは、塩漬や醤油漬けにし、酒肴品として或いは寿司ネタとして生で食されるものであり、極めて嗜好度の高い食材である。しかしながらイクラは、直径5mm程度の卵の粒であり、潰れ易いため取り扱いに慎重を要し、賞味手段も例えば寿司ネタの場合は所謂軍艦巻き形態とならざるを得ず、限定されており、更に生であるので鮮度が要求される等の問題があった。そこで本発明者は、上記イクラの味覚を生かしながらも上記賞味手段にとらわれない新たなイクラ製品の開発を模索した。
【0003】
処で、旧来より日本の三大珍味の一つに挙げられる高級食材として、ボラの卵巣であるカラスミがある。このカラスミは乾燥製品であるので或る程度の日保ちがあり、非常に美味であるところから珍重されているものである。
【0004】
しかしながらカラスミの製造は、その時期的なもの及び製造過程の複雑さから極めて手間のかかるものになっている。即ち先ず、ボラの卵巣は10月から12月が成長期で採れる時期が限定されており、1年を通じて美味を維持することが困難であるため、カラスミに加工する独特の方法が採られる。
【0005】
カラスミの製造手段の一例を挙げるならば、ボラの卵巣を針で刺して細かい孔を穿ち、水に1日漬けて血抜きし、まな板に挟んで水気を切り、約1日塩漬けにし、次いで約1日酒付けにし、水気を切って約3週間点日干しにしするのである。このように素材自体が稀少であるだけでなく、製造工程が複雑にして手間がかかり熟練を要するがため、カラスミをもって高級食材とされる所以なのである。
【0006】
またカラスミは、本来或る程度の保存目的もあるため乾燥させ過ぎるきらいがある。美味にしてやわらかく新鮮なカラスミ製品を得るには乾燥度や塩分を控えれば良いのであるが、ボラの卵巣素材自体が最高級品以外のものであると、どうしてもその品質の悪さを乾燥度や塩分の調整で補わざるを得ない。
【0007】
このような問題に鑑みて従来より、ボラの卵巣以外の素材からカラスミの代替となるような製品の開発が多々行われてきた。例えば以下の如き発明の提案がある。
【特許文献1】特公昭35−729号公報
【特許文献2】特開昭63−169968号公報
【特許文献3】特開2005−58135号公報
【特許文献4】特開平7−115936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記文献1では、「ボラ以外のサケやマス等の魚卵に食塩、調味料、固着材、防腐剤等を加えて混合撹拌し、動物の腸等に詰め、加熱しながら乾燥させるカラスミ風の製造法」が開示されている。しかしながらこの混合撹拌手段では魚卵同士の粘着が充分に行えず、魚卵の皮残滓によって結着力が落ちる等の問題があり、加重圧搾や天日乾燥を繰り返すため、更に粘着性・結着性の劣る欠点がある。
【0009】
次に上記文献2では、「サケやシシャモ等の魚卵または魚肉、畜肉等にジュランガム、食塩、結着剤、弾力剤等を加えて混合し、加熱或いは塩蔵するカラスミ様食品の製造法」が開示されている。しかしながら実施例によれば魚卵の場合は「つぶさない」ようにし、或いは魚肉等の場合は擂り潰すようであるが、それに加えてシャモを練る形態であって、相互同士の粘着は専らジュランガムに頼っており、素材自体には粘着性がない。ジュランガムのような異物が食品としての風味を大きく損なうことは明らかであり、カラスミ様食品が得られる公算は極めて低いといわざるを得ない。
【0010】
次に上記文献3は、「弾力値の異なる魚肉練り素材により複数種の粒状食品を混合等して、カラスミ風卵製品等の卵状食品の製造法」の開示であって、素材自体の粘着性・結着性には触れられていない。
【0011】
更に上記文献4は、「カラスミ様食品」の発明であるが、素材としては魚肉が主成分であり、素材自体の粘着性には注目しておらず、しかも過度の乾燥を条件としているため、ぱさぱさ、ぼそぼそとした風合のものになり、カラスミとは外形が似ているだけの食品である。
【0012】
よって本発明は、上述した従来技術の欠点、不都合、不満を解消するべく開発されたイクラの加工方法であって、イクラの風味を失うことなく固形状にし、カラスミと同様の風合、賞味を得ながらも、廉価で簡単に製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のイクラの加工方法は、裏漉しして液体状となったイクラに、塩、卵黄、酒、凝固剤を添加して混合して加熱し、次いで冷却させて練り、固形化したことを特徴とする構成である。
【発明の効果】
【0014】
従って本発明では、先ずイクラを裏漉しして液体状とし、皮を除去するので、脂と液汁による粘度の高いイクラ液体を得ることができ、卵黄の添加により粘着性が高まり、また凝固剤の添加により凝固し易くなる。そしてこのイクラ液体を加熱することによって、卵黄と凝固剤と共に相俟って極めて粘着力の高い製品となるのである。そして、この粘着力の高い製品を冷却させて練ることにより空気を抜くため、固形化した製品にひび割れが生じることもなく、滑らかな外観となる。尚、イクラの味を損ねない程度に適量の塩を添加により或る程度の保存性が確保され、酒の添加により生臭さがとれ、滑らかな状態にすることができる。
【0015】
ここでは最小限の塩、卵黄、酒、凝固剤を添加するだけであるので素材が充分に生かされ、イクラが本来具有する風味が失われることはなく、空気抜きのために練る程度であって強く圧縮する訳ではないので、組織が分解したり風味が損なったりすることもない。即ち特に生の食材の美味特性を発揮させるには、素材の確実な活用が極めて重要であり、本発明では上記した加工手段を採ることによりこれを達成することができるのである。
【0016】
因みにイクラ以外の魚卵では、加熱すると更に相互の粘着力が小さくなるので、本発明のように固形化しようとするには、多くの他の粘着剤、凝固剤を添加せざるを得なくなり、ますます風味が落ちることになる。
【0017】
本発明は、カラスミに較べると廉価で通年にわたって入手可能な、しかも大きい嗜好度のあるイクラを使用するので、簡単に短時間で製造できて広く普及が期待され、カラスミとは異なる風味を得ることができる等、多くの優れた作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のイクラの加工方法にあって、イクラの裏漉しは、細かいメッシュの金網笊にイクラを入れ、しゃもじで漉すことにより液体状とするもので、皮は笊に残る。添加する凝固剤としては、イクラの味覚に影響を与えないゼラチンや寒天が望ましい。
【0019】
液体状のイクラを鍋に投入し、約20分、弱火にて加熱すると粘度の高いコロイド状になる。加熱時間を調整し、短ければ比較的粘度が低く、長ければ比較的高くなる。次いでの段階で自然冷却させ、ビニール袋等に収納して空気抜きのために練り、例えばカラスミ形態に形を整え、冷蔵庫で約1日、冷却させると、やわらかく固形化するため、例えばスライスして賞味に供することになる。
【実施例1】
【0020】
カラスミを賞味するに際しては大根を添えることが多い。これはカラスミと大根との相性が良いからであり、また歯につき易い不満を解消するためである。従って本発明でも大根と併せて賞味できるようにするのが望ましい。
【0021】
但し、生の大根であると傷み易いので、本発明では、イクラ製品を空気抜きのために練り終わった段階で延ばし、適度の細さの沢庵を包み込んで形を整え、冷却させると良いであろう。
【実施例2】
【0022】
また、味覚にアクセントを付ける点、及び分量を多くする点に鑑みて、練ったイクラ製品を延ばし、棒状のチーズを包み込んで形を整え、冷却させても良い。
【実施例3】
【0023】
或いは、加熱時間を約5分ほどにして液体に近い状態のイクラ製品を、煮たり蒸したレンコンの穴に流し込み、冷却させても良い。
【実施例4】
【0024】
更には、塩等を添加する段階でイカスミを混入させると、イカスミ風味が加わるだけでなく、外観形態もインパクトの強いものになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏漉しして液体状となったイクラに、塩、卵黄、酒、凝固剤を添加して混合して加熱し、次いで冷却させて練り、固形化したことを特徴とするイクラの加工方法。