説明

イグニッションコイル部品用樹脂組成物及びそれからなるイグニッションコイル部品

【課題】耐熱性、機械的強度に優れ、特に絶縁破壊特性に優れたイグニッションコイル部品用樹脂組成物及びそれからなるイグニッションコイル部品を提供すること。
【解決手段】(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂40〜90重量%、(B)スチレン系樹脂60〜10重量%の合計100重量部に対して、(C)強化充填材5〜50重量部、及び(D)フッ素樹脂0.1〜2重量部含有してなるイグニッションコイル部品用強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、機械的強度に優れ、特に絶縁破壊特性に優れたイグニッションコイル部品用樹脂組成物及びそれからなるイグニッションコイル部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性、電気特性、耐酸、耐アルカリ性等に優れ、しかも低比重、低吸水性である等の優れた特性を有する樹脂である。近年、電気特性、高耐熱の特性を生かし、無機充填材を配合した強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物材料が、電機部品のコイルボビンの芯材等に使われている。上記用途においては、強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、高耐熱、高機械的強度であることのほか、絶縁破壊特性が優れることが必要とされる。しかしながら、強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル樹脂、或いは強化材の存在により、押出機内で溶融混練した樹脂材料をダイスから連続的に吐出する際、該吐出口近傍に異物が付着し、時間が経つにつれ、熱や酸化により劣化し、変色等を起こす(これを「目やに」という)。この目やには吐出口にわずかずつ付着、堆積し、時として塊が剥落して、連続吐出している樹脂組成物に付着し、製品に混入することがある。この異物の混入は、製品の外観を損なう問題の原因となるほか、イグニッションコイルボビンのような優れた電気的特性が必要な用途の場合、該異物が絶縁破壊特性を低下させる原因となっていた。
【0003】
イグニッションコイルボビンに関する樹脂組成物としては、例えば、特許文献1には、特定構造を有するポリフェニレンエーテル樹脂/ブロック共重合体/耐衝撃性スチレン系樹脂/無機充填剤よりなる、成形性、耐熱性、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体が開示されている。また、特許文献2には、ポリフェニレンエーテル系樹脂に、無機充填剤及び硫化亜鉛を配合してなる、耐熱性、機械物性、エポキシ硬化剤に対する耐性に優れた樹脂組成物及び成形体が開示されている。該樹脂組成物は、特に、イグニッションコイルボビン芯材に適しており、ボビン芯材周りに接着剤としてエポキシ樹脂を使用する場合に、その効果が発揮されることが記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1、2に記載の樹脂組成物を用いてイグニッションコイルボビンを成形した場合、樹脂組成物の製造時に発生する目やに由来の異物が製品に混入することにより、製品外観、絶縁破壊特性の低下等の問題が発生する場合があった。
【0005】
特許文献3は、難燃性、機械的特性、耐加水分解性等の諸特性をバランス良く高度に発現し、かつ、腐食性・毒性ガスの発生を著しく抑制した、非ハロゲン難燃ポリエステル樹脂組成物に関する発明である。該樹脂組成物には、フッ素樹脂を配合することを必須としているが、樹脂成分はポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂の混合物であり、樹脂成分としてポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン系樹脂を用いた場合の樹脂組成物は例示されておらず、ポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン系樹脂を用いた場合に問題となる目やにの改善や、イグニッションコイル部品に必要とされる絶縁破壊特性等については、何ら述べられていない。
【0006】
【特許文献1】特開平6−192563号公報
【特許文献2】特開平11−5895号公報
【特許文献3】特開2004−10694公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性、耐衝撃性などの機械的強度に優れた強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、特に絶縁破壊特性に優れたイグニッションコイル部品用樹脂組成物及びそれからなるイグニッションコイル部品に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題について鋭意検討を重ねた結果、樹脂組成物を製造する際に発生する目やにを低減することにより、実成形品中への異物の混入を抑止することが可能となり、上記課題が解決することを見出した。この目やにの発生は、強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に特定量のフッ素樹脂を配合することで低減でき、イグニッションコイル部品に要求される諸物性をも十分満足することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂40〜90重量%と(B)スチレン系樹脂60〜10重量%の合計100重量部に対し、(C)強化充填材5〜50重量部、及び(D)フッ素樹脂0.1〜2重量部配合してなるイグニッションコイルボビン用強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及びそれからなるイグニッションコイル部品にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融混練等により樹脂組成物を製造する際の目やにの発生を低減し、製品への異物混入を防ぐことができるため、耐熱性、機械的強度、電気的特性、特に絶縁破壊特性に優れたイグニッションコイル部品用樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記一般式(1)で示されるフェニレンエーテルユニットを主鎖に持つ重合体であって、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。
【0012】
【化1】

式中、2つのRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、2つのRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、2つのRが共に水素原子になることはない。
【0013】
ホモポリマーとしては、具体的には、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル等の2,6−ジアルキルフェニレンエーテルの重合体が挙げられ、コポリマーとしては、各種2,6−ジアルキルフェノール/2,3,6−トリアルキルフェノール共重合体が挙げられる。本発明に使用される(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、2,6−ジメチルフェノール/2,3,6−トリメチルフェノール共重合体が好ましい。
【0014】
本発明で使用される(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、クロロホルム中、温度30℃で測定した固有粘度が0.2〜0.8dl/gであるものが好ましく、0.2〜0.7dl/gのものがより好ましく、0.25〜0.6dl/gのものが特に好ましい。固有粘度を0.2dl/g以上とすることにより、樹脂組成物の機械的強度の低下を防ぐことができ、0.8dl/g以下とすることにより、樹脂流動性が良好となり、成形性加工が容易となる。
【0015】
本発明に用いられる(B)スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の重合体、スチレン系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体及びスチレン系グラフト共重合体等が挙げられる。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。
スチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられ、これらの中でも、シアン化ビニル単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0016】
スチレン系単量体の重合体としては、例えば、ポリスチレン樹脂等が、スチレン系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体としては、例えば、AS樹脂等が、スチレン系グラフト共重合体としては、例えば、HIPS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂等が挙げられる。スチレン系共重合体の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいは塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
【0017】
本発明の強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の樹脂成分は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂40〜90重量%、好ましくは45〜80重量%、より好ましくは50〜80重量%と、(B)スチレン系樹脂60〜10重量%、好ましくは55〜20重量%、より好ましくは50〜20重量%からなるものである。ポリフェニレンエーテル系樹脂を40重量%以上とすることにより、荷重撓み温度や機械的強度を優れたものとすることができ、ポリフェニレンエーテル系樹脂を90重量%以下とすることにより、樹脂組成物の流動性を良好に保ち成形加工が容易となるため、成形時の樹脂滞留劣化を起こすことなく、得られる成形品の性能を優れたものとすることができる。
【0018】
本発明に用いる(C)強化充填材は、樹脂の強化充填材として使用されるものであればその形状等に特に制限はなく、有機充填材でも無機充填材でも良い。その具体例として、例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ミルドファイバー、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、窒化硼素、チタン酸カリウィスカー等が挙げられるが、これらの中でも、ガラス繊維が好ましい例として挙げられる。
【0019】
本発明で好ましく使用されるガラス繊維は、平均直径が20μm以下のものが好ましく、さらに1〜15μmのものが、物性バランス(耐熱剛性、衝撃強度)をより一層高める点、並びに成形反りをより一層低減させる点で好ましい。
【0020】
ガラス繊維の長さは特定されるものでなく、長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)等から選択して用いることができる。この場合の集束本数は、100〜5000本程度であることが好ましい。また、樹脂組成物混練後の樹脂組成物中のガラス繊維の長さが平均0.1mm以上で得られるならば、いわゆるミルドファイバー、ガラスパウダーと称せられるストランドの粉砕品でもよく、また、連続単繊維系のスライバーのものでもよい。原料ガラスの組成は、無アルカリのものも好ましく、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス等が挙げられるが、本発明では、Eガラスが好ましく用いられる。
【0021】
本発明における(C)強化充填材の配合量は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂40〜90重量%及び(B)スチレン系樹脂60〜10重量%からなる樹脂成分100重量部に対し、5〜50重量部、好ましくは8〜45重量部である。強化充填材の配合量を5重量部以上とすることにより機械的強度を効果的に改良でき、50重量部以下とすることにより、樹脂流動性及び成形品外観を良好なものとすることができる。強化充填材がより多く含まれると機械的強度は向上するものの、一方で目やにも発生しやすくなるため、強化充填材の配合量が多い場合に、特にフッ素樹脂添加による目やに改善効果が大きい。
【0022】
本発明で用いられる(D)フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン等のフッ素化ポリオレフィン等が挙げられ、好ましくはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。
(D)フッ素樹脂は、温度350℃おける溶融粘度が、1.0×10〜1.0×1015Pa・sのものが好ましく、1.0×10〜1.0×1014Pa・sのものがより好ましく、1.0×1010〜1.0×1012Pa・sのものが特に好ましい。溶融粘度を1.0×10Pa・s以上とすることにより、目やに防止効果を十分発揮することができ、1.0×1015Pa・s以下とすることにより、樹脂組成物の流動性を良好に保つことができる。
本発明では、上述のようなフッ素系樹脂を配合することにより、溶融混練時の目やにの発生を低減することが可能となった。目やに低減の要因は明らかではないが、溶融混練時に、配合されたフッ素系樹脂が、ダイスから吐出された樹脂ストランド表面に存在することにより、該ストランドとダイスの吐出口とのすべり性が向上し、吐出口に異物が付着、堆積することを抑止できるためであると考えられる。
【0023】
(D)フッ素樹脂の配合量は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂及び(B)スチレン系樹脂の合計100重量部に対して0.1〜2重量部であり、好ましくは0.1〜1.5重量部である。フッ素樹脂の配合量を0.1重量部以上とすることにより、目やに防止能を十分に発揮することができ、2重量部以下とすることにより、樹脂組成物製造時の押出安定性を良好に保ち、機械的性質の著しい低下を抑止することができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、上記成分のほか必要に応じて公知の樹脂添加剤等を配合することもできる。添加剤としては、例えば、染顔料、酸化防止剤、熱安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、触媒失活剤、滑剤、帯電防止剤、色調改良剤、発泡剤、可塑剤、核剤、耐衝撃改良剤等が挙げられる。これら他の添加剤は、1種又は2種以上配合することができる。
【0025】
本発明においては、樹脂組成物の製造及び成形工程における溶融混練時や高温雰囲気で使用時の熱安定性を向上させる目的で、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物、酸化亜鉛等の(E)安定剤を配合することが好ましい。
ヒンダードフェノール系化合物の具体例としては、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)等が挙げられる。これらの中で、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンが好ましい。
【0026】
リン系化合物としては、例えば、ホスホナイト化合物、ホスファイト化合物を用いることが好ましい。
ホスホナイト化合物としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリメチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3−ジメチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられ、中でも、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
ホスファイト化合物としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)等が挙げられ、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等が好ましい。
【0027】
酸化亜鉛としては、例えば、平均粒径が0.02〜1μmのものが好ましく、平均粒径が0.08〜0.8μmのものがより好ましい。
【0028】
(E)安定剤の配合量は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂及び(B)スチレン系樹脂の合計100重量部に対し、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.05〜3重量部である。安定剤の配合量を0.01重量部以上とすることにより、安定剤としての効果を十分に発揮することができ、5重量部以下とすることにより機械的強度の低下や成形時のモールドデボジット発生を抑止することができる。これらの安定剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
また、本発明の強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(B)スチレン系樹脂以外のその他の樹脂を配合することができる。その他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらその他の樹脂の配合量は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂中の50重量%以下であることが好ましく、45重量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
通常、樹脂組成物において、フッ素樹脂は難燃剤と併用して難燃性を向上させる目的で使用されるが、一般にイグニッションコイル用部品では難燃性が必須でない。製品に難燃性が必要な場合は、難燃剤を使用しても良いが、ハロゲン系難燃剤や赤燐は毒性の問題やガスの発生の問題があり、含水無機化合物や燐酸エステルは多量に添加する必要があって機械的強度や成形性を損なう問題がある等、イグニッションコイル用部品の他の要求性能を犠牲にする場合もあるため、難燃剤の使用は好ましくない。従って、難燃剤と併用しない場合にフッ素樹脂を単独で使用することはこれまでになく、また、フッ素樹脂を用いた場合の目やに防止効果についても、全く示唆されたものはなかった。
【0031】
本発明の強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の製造は、特定の方法に限定されないが、溶融混練が好ましく、熱可塑性樹脂について一般に実用されている混練方法が適用できる。製造方法の例としては、例えば、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(B)スチレン系樹脂、(C)強化充填材、(D)フッ素樹脂及び必要に応じて配合される他の成分を、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で溶融混練することができる。各成分は混練機に一括でフィードしてもよく、混練機の上流部に(A)成分、(B)成分、(D)成分及び必要に応じて配合されるその他の成分とをフィードし、中流部から(C)強化充填材をフィードし、溶融混練した後、ダイスから押出し、冷却後ペレット化して強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を得てもよい。別の方法としては、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂及び/又は(B)ポリスチレン系樹脂の混合樹脂の一部に、所定の配合比率より多い(D)フッ素樹脂又は、(C)強化充填材及び(D)フッ素樹脂を練り込んだマスターペレットを予め調整し、これを残りの成分とドライブレンドしたのち溶融混練することによっても、本発明における強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
混練温度と混練時間は、樹脂組成物や混練機の種類等の条件により、任意に選ぶことができるが、通常、混練温度は200〜350℃、好ましくは220〜320℃、混練時間は20分以下が好ましい。温度350℃以下、時間20分以下の条件を選択することにより、ポリフェニレンエーテル系樹脂やスチレン系樹脂の熱劣化や成形品物性の低下等を起こすことなく、外観の優れた製品を製造することができる。また、200℃以上の温度で製造することにより、樹脂組成物を十分に混練することができ、例えば、強化充填材やフッ素樹脂の分散不良による物性の低下を防ぐことができる。
【0033】
本発明の強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち射出成形、射出圧縮成形、中空成形、押出成形、熱成形、回転成形、プレス成形等の各種成形法によって成形することができる。特に好ましい成形方法は、流動性の観点から、射出成形である。射出成形にあたっては、樹脂温度を、例えば、270〜320℃にコントロールするのが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の例に限定されるものではない
【0035】
実施例及び比較例の各樹脂組成物を得るにあたり、次に示す原料をした。
【0036】
(A−1)ポリフェニレンエーテル系樹脂:
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル(以下「PPE1」と略記する)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品「商品名:PX100L」、クロロホルム中で測定した30℃の固有粘度0.47dl/g
(A−2)ポリフェニレンエーテル系樹脂:
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル(以下「PPE2」と略記する)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品「商品名:PX100F」、クロロホルム中で測定した30℃の固有粘度0.38dl/g
【0037】
(B−1)スチレン系樹脂:
ハイインパクトポリスチレン(以下「HIPS」と略記する)、PSジャパン社製「商品名:HT478」、分子量Mw200,000、MFR3.0g/10分
【0038】
(B−2)スチレン系樹脂:
ポリスチレン(以下「GPPS」と略記する)、PSジャパン社製「商品名:HF77」、分子量Mw222,000、MFR8.0g/10分
【0039】
(C)強化充填材:
ガラス繊維、旭ファイバー社製「商品名:CS03JA404」
【0040】
(D)フッ素樹脂:
ポリテトラフルオロエチレン、三菱レイヨン社製「商品名:A3800」
【0041】
その他成分:
安定剤1:リン系酸化防止剤、クラリアントジャパン社製「商品名:サンドスタブP−EPQ」
安定剤2:フェノール系老化防止剤、住友化学社製「商品名:スミライザーBHT」
【0042】
[実施例1、2及び比較例1、2]
表1に示す割合で原材料を秤量し、強化充填材を除く原材料をタンブラーにて15分混合した後、得られた原材料混合物にさらに強化充填材を加え、タンブラーにて3分混合した。得られた原材料混合物は、二軸押出機(池貝社製「PCM30」、スクリュー径30mm、L/D=42)を用いて、シリンダー温度250℃、スクリュー回転数400rpmの条件にて溶融混練しペレット化した。混練に際し、上記混合した原材料は、ホッパーに一括して投入した。
【0043】
[評価法]
(1)目やに
溶融混練時の目やにの発生を評価した。目やにの発生は、上記の方法で得られた樹脂組成物のペレットを目視観察し、目やに混入によるペレット中の異物の有無で評価した。異物が認められるものを「有」、認められないものを「無」とし、表1に示した。
【0044】
(2)〜(5)機械的性質、及び、(6)絶縁破壊強さ
上記の方法で得られた樹脂組成物のペレットを120℃で5時間乾燥後、住友重機械工業社製SG125型射出成形機により、金型温度90℃、シリンダー設定温度300℃、射出圧力98MPa、成形サイクル40秒で下記評価用試験片を成形し、以下の(2)〜(6)の試験を実施した。評価結果を表1に示す。
(2)引張破壊強さ:ISO527に準じて行った。
(3)曲げ弾性率、曲げ強度:ISO178に準じて行った。
(4)シャルピー衝撃強さ:ISO527に準じて行った。
(5)荷重撓み温度:負荷1.80MPaで、ISO75に準じて行った。
(6)絶縁破壊強さ:IEC60243に準じて行った。
【0045】
【表1】

【0046】
表1より、本発明の強化ポリフェニレン系樹脂組成物は、フッ素樹脂を特定量配合することにより、溶融混練時に目やにが発生せず、機械的強度及び耐熱性を損なうことなく、絶縁破壊強さに優れることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、耐熱性、機械的強度に優れ、特に絶縁破壊特性に優れているため、優れた電気特性が要求されるイグニッションコイル部品用材料として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂40〜90重量%、(B)スチレン系樹脂60〜10重量%の合計100重量部に対して、(C)強化充填材5〜50重量部、及び(D)フッ素樹脂0.1〜2重量部含有してなるイグニッションコイル部品用強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項2】
(C)強化充填材がガラス繊維である、請求項1に記載のイグニッションコイル部品用強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(E)安定剤を、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)スチレン系樹脂の合計100重量部に対し、0.01〜5重量部含有してなる、請求項1又は2に記載のイグニッションコイル部品用強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなるイグニッションコイル部品。

【公開番号】特開2008−24889(P2008−24889A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201805(P2006−201805)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】