説明

イソシアヌル環含有末端ビニルポリシロキサン

【課題】ハイドロシリレーション(付加反応)の特徴を生かした硬化物を与えることができ、光半導体用封止剤などに好適に用いられるイソシアヌル環含有オルガノポリシロキサンの提供。
【解決手段】下記式(1)で示され、イソシアヌル環を有し、分子中に少なくとも1つの末端ビニルシロキシ基を有するオルガノポリシロキサン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端ビニルシロキシ基を有し、耐熱性、機械的強度、電気絶縁性などの電気特性、耐水蒸気透過性などの気体透過性、透明性などの光学特性、耐薬品性、耐水性に優れた硬化物を与えるイソシアヌル環含有オルガノポリシロキサンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、付加硬化反応を応用した硬化性シリコーンゴム組成物が広く用いられている。このような硬化性シリコーンゴム組成物は、耐候性、耐熱性、電気絶縁性に優れており、電気電子部品のガスケット材、ポッティング材、コーティング材、ロール材、型取り材等の成形材料、電線被覆用材料、及び自動車用部品材料として広く使用されている。また、その光学特性を生かして光半導体の封止材や接着剤として活用されている。
【0003】
しかし、このような硬化性シリコーンゴム組成物は、シリコーン特有のシロキサン結合を有するため、そのイオン結合性によって、高温加湿下での使用等の極めて厳しい使用環境下においては、耐薬品性、耐水性、気体透過性といったシリコーンの優れた特性を発揮することが出来ないことがある。また、硬化物の表面にタックがあり、粉塵などが付着しやすいといった欠点もある。特に、シロキサン結合を含有するポリマーは気体透過性に優れており、酸素富化膜として活用されているが、半導体の封止材料としては、その水蒸気透過性が問題となっている。
【0004】
イソシアヌル環を含有する重合体、ポリマー、封止剤としては様々なものが知られている。Si−H含有ポリシロキサンにジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを付加反応させたイソシアヌル基含有ポリシロキサンをエポキシ基の開環反応で硬化させたもの(特許文献1)、イソシアヌル環含有ポリシロキサンとSi−H含有ポリシロキサンとを付加反応させて硬化したもの(特許文献2)、トリアリルイソシアヌレートとSi−H含有ポリシロキサンとを付加反応させて硬化したもの(特許文献3)、イソシアヌル環およびSi−Hを含有するポリシロキサンと、アルケニル基含有化合物とを付加反応させて硬化したもの(特許文献4〜6)が知られている。
【0005】
しかし、特許文献1及び2のイソシアヌル環含有重合体は、主剤にシロキサン結合を含むため、柔軟性はあるが架橋剤との相溶性が悪い。また、特許文献1及び2のイソシアヌル環含有重合体は、アルケニル基の存在位置が不確定であるため、付加反応による硬化が困難であり、ハイドロシリレーション(付加反応)の特徴(速やかな硬化反応)が生かされない。特許文献3〜6のイソシアヌル環含有重合体は、架橋密度が高く、剛直で柔軟性に欠ける。
【0006】
イソシアヌル環含有ポリシロキサンとSi−H含有ポリシロキサンとの付加反応による硬化物であって、柔軟性、硬化特性、相溶性に優れ、光学特性、耐水蒸気透過性に優れる硬化物はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−143954号公報
【特許文献2】特開2008−150506号公報
【特許文献3】特開平9−291214号公報
【特許文献4】特許第4073223号公報
【特許文献5】特開2006−291044号公報
【特許文献6】特開2007−9041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明者は鋭意検討した結果、本発明のオルガノポリシロキサンが上記特性に優れた硬化物を与えることを見出した。本発明は、ハイドロシリレーション(付加反応)の特徴を生かした硬化物を与えることができ、光半導体用封止剤などに好適に用いられるイソシアヌル環含有オルガノポリシロキサンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、下記式(1)で示され、イソシアヌル環を有し、分子中に少なくとも1つの末端ビニルシロキシ基を有するオルガノポリシロキサンである。
【化1】

(式中、Xは、互いに独立に、下記式(2)で示される基であり、
【化2】

は互いに独立にメチル基またはフェニル基であり、Rはビニル基、メチル基、またはフェニル基であり、Rの少なくとも1つはビニル基であり、nは1〜50の整数であり、Pは1〜10の整数である。)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で調製した化合物のH−NMRチャートである。
【図2】実施例1で調製した化合物のGPCスペクトルである。
【図3】実施例2で調製した化合物のH−NMRチャートである。
【図4】実施例2で調製した化合物のGPCスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のオルガノポリシロキサンは、上記式(1)で表わされるイソシアヌル環含有オルガノポリシロキサンであり、分子中に少なくとも1つの末端ビニルシロキシ基を有することを特徴とする。
【0012】
式(1)において、Rは、互いに独立にメチル基又はフェニル基であり、硬化特性、柔軟性、及び合成の容易さよりメチル基であることが好ましく、全Rの50モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0013】
Xは夫々、下記式で示す基である。式中、Rは互いに独立にメチル基またはフェニル基であり、Rはビニル基、メチル基、またはフェニル基であり、Rの少なくとも1つはビニル基である。
【化3】

【0014】
nは、1〜50の整数であり、好ましくは1〜30の整数である。
【0015】
Pは、1〜30の整数であり、好ましくは1〜10の整数である。
【0016】
該オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は好ましくは500〜10000であり、より好ましくは600〜5000である。
【0017】
該オルガノポリシロキサンの25℃における粘度は好ましくは0.1〜100Pa・S、より好ましくは0.2〜10Pa・Sである。
【0018】
本発明のイソシアヌル環含有オルガノポリシロキサンは、以下の方法により製造することができる。
【0019】
まず、下記式(3)で表されるトリヒドロキシエチルイソシアヌレートと、下記式(4)及び、所望により下記式(5)で表わされるクロロシランを脱塩酸反応させ、下記式(6)で表される中間体化合物を製造する。反応温度は−20〜40℃であり、好ましくは0〜10℃である。また、反応時間は1〜8時間、好ましくは2〜4時間である。
【0020】
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

(式中、R、Rは上述の通り。)
【0021】
上記反応において、副生する塩化水素を反応系から除くため塩化水素捕捉剤を用いることが好ましい。このような塩化水素捕捉剤としては特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどのトリアルキルアミン、ピリジン、イミダゾール、テトラメチル尿素、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。塩基の量はクロロシラン1モルに対して1モル以上用いることが好ましい。
【0022】
上記式(3)のトリヒドロキシエチルイソシアヌレート1モルに対して、式(4)及び式(5)のクロロシランの合計が3〜6モル、好ましくは3.5〜4.5モルとなる量で用いる。分子中に少なくとも1つの末端ビニルシロキシ基を有するオルガノポリシロキサンを得るためには、上記式(4)のクロロシランを過剰量用いるのが好ましい。
【0023】
次に、上記式(6)の中間体化合物と、下記式(7)で表されるハイドロジェンオルガノポリシロキサンを付加反応させることにより、上記式(1)のイソシアヌル環含有オルガノポリシロキサンを製造することができる。反応温度は室温〜250℃であり、好ましくは50〜180℃である。また、反応時間は0.1〜120時間、好ましくは1〜10時間である。
【化8】

(式中、R、nは上述の通り。)
【0024】
上記式(7)のハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、上記式(6)のビニル基1当量に対して、SiH基が0.1〜1当量、好ましくは0.3〜0.6当量となる量で用いる。
【0025】
該反応には、触媒として、例えば白金、ロジウムまたはパラジウムを含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金−オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。触媒の配合量は、式(6)の化合物に対し、含まれる金属量が0.01〜10,000ppmとなることが好ましく、より好ましくは0.1〜100ppmである。
【0026】
また、本発明のポリオルガノシロキサンの製造において、必要に応じて溶剤を反応混合物に加えることができる。溶剤としては、トルエン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルアセトアミド、1,4−ジオキサン、ジフェニルエーテルなどを使用することができる。
【0027】
本発明のオルガノポリシロキサンとしては、以下のものが例示される。
【化9】

【化10】

(式中、n、Pは上述の通り。)
【0028】
本発明のイソシアヌル環含有オルガノポリシロキサンは、SiH基を持つ化合物と反応させ、機械的特性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、耐水性、気体透過性、光学特性に優れた硬化物を与えることができる。該硬化物は、透明性を必要とするLED用レンズやLED用封止材料などの光学材料や、特に半導体の封止材に最適な材料である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例と比較例を参照して本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0030】
実施例で用いた測定装置を以下に示す。
NMR:JMN LA−300WB(JEOL社製)、1H−NMR
GPC:SC−8020(東ソー社製)
粘度はBM型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
【0031】
[実施例1]
トリヒドロキシエチルイソシアヌレート150g(0.57モル)とイミダゾール156g(2.3モル)、ジメチルアセトアミド500gを2Lのセパラブルフラスコに仕込み0℃に冷却し、ジメチルビニルクロロシラン242g(2.01モル)を滴下した。0℃で3時間攪拌した後、トルエンを加え水洗を行った。トルエンを減圧留去して、無色透明の液体を得た。
【0032】
H−NMRによる測定の結果、下記式(8)で示される化合物であることが確認された(粘度(25℃):0.3Pa・S)。
【化11】

【0033】
上記式(8)の化合物100g(1.94モル)とトルエン100g、塩化白金酸トルエン溶液0.03g(白金として0.5wt%含有)を1Lのセパラブルフラスコに仕込み、80℃に加熱した後、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン13g(0.097モル)(ビニル基/SiH基=2/1(モル比))を滴下した。80℃で8時間攪拌した後、トルエンを減圧留去し、無色透明の液体を得た。1H−NMR及びGPCの測定結果より、下記の化合物であることが確認された。化合物の重量平均分子量は3004(Pの平均=3.95)であった。H―NMRデータを図1に、GPCデータを図2に示す。
【化12】

【0034】
[実施例2]
トリヒドロキシエチルイソシアヌレート250g(0.957モル)とイミダゾール260g(3.83モル)、ジメチルアセトアミド500gを2Lのセパラブルフラスコに仕込み0℃に冷却し、ジメチルビニルクロロシラン277g(2.30モル)とトリメチルクロロシラン125g(1.15モル)を滴下した。0℃で3時間攪拌した後、トルエンを加え水洗を行った。トルエンを減圧留去して、無色透明の液体を得た。
【0035】
H−NMRによる測定の結果、下記式(9)で示される化合物であることが確認された(粘度(25℃):0.3Pa・S)。
【化13】

【0036】
上記式(9)の化合物50g(0.198モル)とトルエン100g、塩化白金酸トルエン溶液0.02g(白金として0.5wt%含有)を1Lのセパラブルフラスコに仕込み、80℃に加熱した後、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン6.64g(0.0494モル(ビニル基/SiH基=2/1(モル比)))を滴下した。80℃で8時間攪拌した後、トルエンを減圧留去し、無色透明の液体を得た。1H−NMR及びGPCの測定結果より、下記の化合物であることが確認された。化合物の重量平均分子量は2392(Pの平均=2.85)であった。H―NMRデータを図3に、GPCデータを図4に示す。
【化14】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のイソシアヌル環含有オルガノポリシロキサンは、SiH基を持つ化合物と反応させ、機械的特性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、耐水性、気体透過性、光学特性に優れた硬化物を与えることができる。該硬化物は、透明性を必要とするLED用レンズやLED用封止材料などの光学材料や、特に半導体の封止材に最適な材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示され、イソシアヌル環を有し、分子中に少なくとも1つの末端ビニルシロキシ基を有するオルガノポリシロキサン。
【化1】

(式中、Xは、互いに独立に、下記式(2)で示される基であり、
【化2】

は互いに独立にメチル基またはフェニル基であり、Rはビニル基、メチル基、またはフェニル基であり、Rの少なくとも1つはビニル基であり、nは1〜50の整数であり、Pは1〜10の整数である。)
【請求項2】
下記式(6)の化合物と、下記式(7)の化合物を反応させることにより請求項1に記載のオルガノポリシロキサンを製造する方法。
【化3】

【化4】

(式中、R、R、nは上述の通りであり、Rの少なくとも1つはビニル基である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−99008(P2011−99008A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253114(P2009−253114)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】