説明

イソプレノイド系化合物を含む抗菌剤

【課題】MRSA及び白癬菌に対する新規な抗菌剤の提供。
【解決手段】2種類のイソプレノイド化合物の組合せ、またはイソプレノイド化合物と他の抗菌性化合物との組合せ、を含んでなるMRSA及び白癬菌に対して相乗効果による高い抗菌活性を有する抗菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類以上のイソプレノイド系化合物、又はイソプレノイド系化合物と他の化合物とを含んでなり、それらの成分の組合せが相乗効果を有する抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲラニオール(Geraniol)、ファルネソール(Farnesol)、シトラール(Citral)等が抗菌・抗真菌剤として有効であることは知られている。さらに、ファルネソールがMRSA等のグラム陽性菌には最も強い抗菌活性を示すことが知られている。しかしながら、グラム陰性菌に対する抗菌活性は知られていない。更に、これらの化合物を併用した場合の抗菌活性についても知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明らは、上記の課題を解決すべく種々実験を行った結果、2種類以上のイソプレノイド系化合物の組合せ、又はイソプレノイド系化合物と他の化合物との組合せが、抗菌活性について相乗効果を有することを見出して本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明は、(1)ファルネソール(Farnesol)と、(2)ゲラニオール(Geraniol)、シトラール(Citral)及びシトロネロール(Citronellol)からなる群から選択される化合物とを組合せてなる、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin Resistant Staphyrococcus aureus; MRSA)に対する抗菌剤を提供する。
【0005】
本発明はまた、(1)ファルネソール(Farnesol)と、(2)ゲラニオール(Geraniol)、ゲラン酸(Geranic acid)、シトロネロール(Citronellol)及びヒノキチオール(Hinokitiol)からなる群から選択される化合物とを組合せてなる、白癬菌に対する抗菌剤を提供する。
【0006】
本発明は更に、(1)ヒノキチオール(ヒノキチオール)と、(2)ゲラニオール(Geraniol)、シトロネロール(Citronellol)、シトラール(Citral)及びゲラン酸(Geranic acid)からなる群から選択される化合物とを組合せてなる、白癬菌に対する抗菌剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において使用する抗菌剤は下記のとおりである。
【化1】

【実施例】
【0008】
次に、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。
(1)実験方法
【0009】
寒天培地の作成
1)Muller-Hinton Broth(21g)と寒天(15g)を蒸留水(1L)に溶かし、それを12mlずつ試験管に分ける。
白癬菌の場合はサブロー寒天培地を使用する。サブロー寒天培地(65g)を蒸留水(1L)に溶かし、それを12mlずつ試験管に分ける。
2)試験管をオートクレーブにかけ、滅菌する。
3)試験管は使用時まで室温で保管する。
【0010】
寒天培地への試薬の添加
1)保管しておいた試験管の寒天培地を湯せんで溶かす。
2)溶かした寒天培地を50℃に設定した湯煎に入れ、寒天が固まらないようにする。
3)2種類の被験物質(イソプレノイドなど)をそれぞれ目標の濃度となるようにDMSOに溶かし、寒天培地にブレンドする。
4)被験物質(イソプレノイドなど)入りの寒天培地をシャーレに流し込み、平板培地を作る。
5)平板培地を37℃のインキュベーターに入れ、30分間培地を乾燥させる。
【0011】
液体培地の作成
1)Muller-Hinton Broth(21g)を蒸留水(1L)に溶かし、それを20mlずつ試験管に分ける。
2)試験官をオートクレーブにかけ、滅菌する。
3)試験官は使用時まで室温で保管する。
【0012】
平板培地への菌株の接種
1)液体培地に菌株を接種し、一晩(18〜20h)培養する。
2)菌株を接種した培地の濁度を測定し、菌数を計算する。但し、白癬菌の場合、菌数測定は行わずそのまま接種する。
3)菌数が1.0×106CFU/mLとなるように液体培地で希釈する。
4)希釈した培地5μLを被験物質(イソプレノイド)入りの平板培地に接種する。
【0013】
結果の判定
菌を接種した平板培地を37℃にて18〜20時間インキュベートし、平板培地上に菌が増殖した場合は抗菌活性は無いと判定し、菌が増殖しなかった場合は、抗菌活性があると判定する。
【0014】
(2)結果
(A)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する抗菌活性
(a)被験物質単独の場合の抗菌活性(活性を示す最小濃度)
ゲラニオール 0.08%(700 μg/mL)
シトラール 0.08%(720 μg/mL)
シトロネノール 0.08%(690 μg/mL)
ファルネソール 0.02%(180 μg/mL)
【0015】
(b)併用による相乗効果(10倍段階希釈)
【表1】

【0016】
以上の結果より、ファルネソールに、少量のゲラニオール、シトラール又はシトロネロールを加えることにより、ファルネソールのMRSAに対する抗菌活性が数倍上昇することがわかった。
【0017】
(c)併用による相乗効果(2倍段階希釈)
10倍段階希釈において得られた結果、ファルネソールに他の少量のイソプレノイド類を加えれば、活性が数倍上昇することが示された。よって、今度はファルネソールに体積比率0.001%のゲラニオール、シトラール又はシトロネロールを加えた状態での最小阻止濃度を決定した。
【0018】
【表2】

【0019】
以上の結果より、ファルネソールに、これらのイソプレノイド類を0.001%加えるだけで、ファルネソールのMRSAに対する抗菌活性は10倍も上昇することが示された。
まとめ
以上の結果、下記の最小濃度の組合せにおいて、相乗的に抗菌活性が認められた。
ゲラニオール(8.8μg/mL)+ファルネソール(18μg/mL)
シトラール(9μg/mL)+ファルネソール(18μg/mL)
シトロネロール(8.7μg/mL)+ファルネソール(18μg/mL)
【0020】
(B)白癬菌(Trichophyton sp.)に対する抗菌活性
(a)被験物質単独の場合の抗菌活性(活性を示す最小濃度)
ゲラニオール 0.01%(88 μg/mL)
シトラール 0.008%(72 μg/mL)
シトロネノール 0.004%(34 μg/mL)
ゲラン酸 0.0008%(7.5 μg/mL)
ファルネソール 0.0004%(3.5 180μg/mL)
ヒノキチオール 17μg/mL
【0021】
(b)ゲラニオール+ファルネソール
【表3】

【0022】
以上の結果より、ゲラニオールとファルネソールとを組み合わせると、白癬菌に対する抗真菌活性(最小阻止濃度)はそれぞれ0.004%及び0.0001%であり、単独で用いるよりもそれぞれ2.5倍及び4.0倍、抗真菌活性が増加することがわかった。
【0023】
(c)シトロネロール+ファルネソール
【表4】

【0024】
以上の結果より、シトロネロールとファルネソールとを組み合わせると、白癬菌に対する抗真菌活性(最小阻止濃度)はそれぞれ0.002%と0.0002%であり、単独で用いるよりもそれぞれ2.0倍ずつ抗真菌活性が増加することがわかった。
【0025】
(d)ファルネソール+ゲラン酸
【表5】

【0026】
以上の結果より、ファルネソールとゲラン酸とを組み合わせると、白癬菌に対する抗真菌活性(最小阻止濃度)はそれぞれ0.0002%及び0.0001%であり、単独で用いるよりも2.0倍、8.0倍抗真菌活性が増加することがわかった。
【0027】
(e)ゲラニオール+ヒノキチオール
【表6】

【0028】
以上の結果より、ゲラニオールとヒノキチオールとを組み合わせると、白癬菌に対する抗真菌活性(最小阻止濃度)はそれぞれ0.0002%及び6.8μg/mlであり、単独で用いるよりもそれぞれ12.5倍及び2.5倍抗真菌活性が増加することがわかった。
【0029】
(f)ファルネソール+ヒノキチオール
10倍段階希釈
【表7】

【0030】
2倍段階希釈
【表8】

【0031】
以上の結果より、ファルネソールとヒノキチオールとを組み合わせると、白癬菌に対する抗真菌活性(最小阻止濃度)はそれぞれ0.0001%及び6.8μg/mlであり、単独で用いるよりもそれぞれ4.0倍及び2.5倍抗真菌活性が増加することがわかった。
【0032】
(g)シトロネロール+ヒノキチオール
【表9】

【0033】
以上の結果より、シトロネロールとヒノキチオールとを組み合わせると、白癬菌に対する抗真菌活性(最小阻止濃度)はそれぞれ0.0008%及び3.4μg/mlであり、単独で用いるよりもそれぞれ5.0倍及び5.0倍抗真菌活性が増加することがわかった。
【0034】
(h)シトラール+ヒノキチオール
【表10】

【0035】
以上の結果より、シトラールとヒノキチオールとを組み合わせると、白癬菌に対する抗真菌活性(最小阻止濃度)はそれぞれ0.0008%及び1.7μg/mlであり、単独で用いるよりもそれぞれ10倍及び10倍抗真菌活性が増加することがわかった。
【0036】
(i)ゲラン酸+ヒノキチオール
10倍段階希釈
【表11】

【0037】
2倍段階希釈
【0038】
【表12】

以上の結果より、ゲラン酸とヒノキチオールとを組み合わせると、白癬菌に対する抗真菌活性(最小阻止濃度)はそれぞれ0.0001%及び8.4μg/mLであり、単独で用いるよりもそれぞれ8.0倍及び2.0倍抗真菌活性が増加することがわかった。
【0039】
まとめ
以上の結果、下記の最小濃度の組合せにおいて、相乗的に抗菌活性が認められた。
(ファルネソールと他の物質との組合せ)
ゲラニオール(35μg/mL)(2.5倍)+ファルネソール(0.88μg/mL)(4.0倍)
シトロネロール(17μg/mL)(2.0倍)+ファルネソール(1.8μg/mL)(2.0倍)
ゲラン酸(0.97μg/mL)(8.0倍)+ファルネソール(1.8μg/mL)(2.0倍)
【0040】
(ヒノキチオールと他の物質との組合せ)
ゲラニオール(7.0μg/mL)(12.5倍)+ヒノキチオール(6.8μg/mL)(2.5倍)
ファルネソール(0.88μg/mL)(4.0倍)+ヒノキチオール(6.8μg/mL)(2.5倍)
シトロネロール(6.8μg/mL)(5.0倍)+ヒノキチオール(3.4μg/mL)(5.0倍)
シトラール(7.2μg/mL)(10倍)+ヒノキチオール(1.7μg/mL)(10倍)
ゲラン酸(17μg/mL)(0.97倍)+ヒノキチオール(8.4μg/mL)(2.0倍)
【0041】
発明の効果
以上のとおり、2種類のイソプレノイド化合物、またはイソプレノイド化合物と他の抗菌性化合物との併用により、MRSA及び白癬菌に対して、相乗効果による高い抗菌活性が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ファルネソール(Farnesol)と、(2)ゲラニオール(Geraniol)、シトラール(Citral)及びシトロネロール(Citronellol)からなる群から選択される化合物とを組合せてなる、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin Resistant Staphyrococcus aureus; MRSA)に対する抗菌剤。
【請求項2】
(1)ファルネソール(Farnesol)と、(2)ゲラニオール(Geraniol)、ゲラン酸(Geranic acid)、シトロネロール(Citronellol)及びヒノキチオール(Hinokitiol)からなる群から選択される化合物とを組合せてなる、白癬菌に対する抗菌剤。
【請求項3】
(1)ヒノキチオール(ヒノキチオール)と、(2)ゲラニオール(Geraniol)、シトロネロール(Citronellol)、シトラール(Citral)及びゲラン酸(Geranic acid)からなる群から選択される化合物とを組合せてなる、白癬菌に対する抗菌剤。

【公開番号】特開2008−231058(P2008−231058A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75438(P2007−75438)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年 化学系学協会東北大会 プログラムおよび講演予稿集(発行所:日本化学会東北支部 発行日:平成18年9月22日)、平成18年10月29日に開催の日本薬学会東北支部主催の第45回日本薬学会東北支部大会にて発表、創立50周年記念 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会 講演要旨集(発行所:創立50周年記念 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会 発行日:平成18年11月6日)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】