説明

イネの弱勢判定方法

【課題】hbd2遺伝子及びhbd3遺伝子により引き起こされる弱勢を利用して、イネに属する植物個体が弱勢か否かを判定する方法の提供。
【解決手段】イネに属する植物が弱勢か否かを判定する方法であって、植物細胞のゲノム中のCKI1遺伝子の塩基配列を調べる工程を有することを特徴とする、イネの弱勢判定方法、イネに属する植物に、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現し得る発現ベクターを導入し、形質転換することを特徴とする、弱勢な植物の作製方法、並びに、イネの育種に用いられる親個体を選抜する方法であって、(a)候補植物個体のゲノム中のCKI1遺伝子の塩基配列、又は、(b)候補植物個体が、hbd3ホモ接合体、Hbd3/hbd3ヘテロ接合体、Hbd3ホモ接合体のいずれであるか、の少なくともいずれかの結果に基づいて選抜することを特徴とする、親個体の選抜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネに属する植物個体が弱勢か否かを判定する方法、弱勢な植物の作製方法、並びに、イネの育種に用いられる親個体を選抜する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生殖隔離は、種間又は種内における遺伝子交換を防止又は制限することにより、種分化に寄与している(非特許文献16及び41)。作用機構に基づき、生殖隔離は、2の主要タイプである接合前隔離と接合後隔離とに分類される。この2種のうち、接合前隔離は最も一般的であり、地理的隔離、開花時期の相違、授粉媒介者特異性、花粉管伸長の不適合性等を通して、同種間交配と異種間交配の両方を防止する(非特許文献46)。これに対して、接合後隔離は、接合体又は雑種が形成された後に起こる。接合後隔離は、しばしば、雑種における胎生期致死、種形成不全、弱勢、不妊等として現れる。この生殖隔離は、種又は集団に遺伝的な不適合をもたらし、動物と植物の両方の種分化に対して、有意に寄与する(非特許文献42)。
【0003】
接合後隔離のサブタイプ(非特許文献46)のうち、雑種不妊と雑種弱勢は(生存力低下又はネクローシスともいう。)、雑種第一世代にみられるが、雑種崩壊は、不妊や弱勢形質を通して、雑種第二代(F)及びそれ以降の世代に現れる。生殖隔離の遺伝的メカニズムは、理論的にBateson−Dobzhansky−Muller(BDM)モデル(非特許文献18、39、及び16)によって説明することができる。このモデルは、異なる種又は集団由来の2又はそれ以上の遺伝子の有害な相互作用が、接合後隔離を引き起こすと仮定している。
【0004】
これまでに、BDM不適合遺伝子の同定や、これらの遺伝子の植物における分子メカニズムの根拠については、ほとんど報告されていない。シロイヌナズナにおいて、重複遺伝子の相補的な欠損が、種間交配の雑種第二世代において胎生期致死を引き起こすことが分かっている(非特許文献10)。他の2研究では、イネの雑種不妊の原因遺伝子が同定されている(非特許文献13及び30)。
【0005】
弱勢形質は、雑種弱勢と雑種崩壊の両方においてみられ、植物の接合後隔離の一般的なタイプであると考えられている(非特許文献12)。しかしながら、弱勢形質は、不妊や生存力低下といった他の表現型に比べてあまり注意がはらわれない。シロイヌナズナでは、自己免疫が雑種弱勢に関係していることが報告されている(非特許文献11及び5)。しかしながら、他の植物では、弱勢形質の発現の生理学的及び分子学的メカニズムは、未だ確立されていない。イネ(Oryza sativa L.)は、数多くの同種間及び異種間の交配において弱勢がみられているため、この現象を調査して理解するための大きな潜在力を秘めている(非特許文献6、43、20、27、32、1、及び36)。
【0006】
以前に、本発明者らは、コシヒカリとハバタキの雑種第二世代における弱勢形質を含む雑種崩壊について報告した(非特許文献1)。雑種崩壊は、接合後隔離のサブタイプの1つであり、雑種第二世代又はその後代に見られる。遺伝子解析により、この雑種崩壊は、2つの劣性遺伝子、hybrid breakdown 2(hbd2)及びhbd3によって制御されていることがわかった。親品種(図1a)やhbd2若しくはhbd3がヘテロ接合体である植物(図1b、d)とは異なり、ハバタキのhbd2領域由来の染色体断片とコシヒカリのhbd3領域由来の染色体断片とを有する植物は弱勢形質を示した(図1c)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yamamoto E, et al. (2007) Theor Appl Genet 115:187-194
【非特許文献2】Agrawal GK, et al. (2000a) Biochem Biophys Res Commun 274(1):157-165
【非特許文献3】Agrawal GK, et al. (2000b) Biochem Biophys Res Commun 278(2):290-298
【非特許文献4】Agrawal GK, et al. (2003) Plant Physiol Biochem 41(1):81-90
【非特許文献5】Alcazar R, et al. (2009) Proc Natl Acad Sci USA 106(1):334-339
【非特許文献6】Amemiya A, et al. (1963) Bull Nat Inst Agric Sci Ser D 10:139-226
【非特許文献7】Axtell MJ, et al. (2003) Cell 112(3):369-377
【非特許文献8】Belkhadir Y, et al. (2004) Plant Cell 16(10):2822-2835
【非特許文献9】Bergelson J, et al. (2001) Science 292(5525):2281-2285
【非特許文献10】Bikard D, et al. (2009) Science 323(5914):623-626
【非特許文献11】Bomblies K, et al. (2007) PLoS Biol. 2007 5(9):e236
【非特許文献12】Bomblies K, et al. (2007) Nat Rev Genet 8(5):382-393
【非特許文献13】Chen J, et al. (2008) Proc Natl Acad Sci USA 105(32):11436-11441
【非特許文献14】Chisholm ST, et al. (2006) Cell 124(4):803-814
【非特許文献15】Coaker G, et al. (2005) Science 308(5721):548-550
【非特許文献16】Coyne JA, et al. (2004) Speciation. Sinauer Associates Sunderland, MA
【非特許文献17】DeYoung BJ, et al. (2006) Nat Immunol 7(12):1243-1249
【非特許文献18】Dobzhansky T (1937) Genetics and the Origin of Species. Columbia University Press, New York, NY
【非特許文献19】Dodds PN, et al. (2003) Proc Natl Acad Sci USA 103(23):8888-8893
【非特許文献20】Fukuoka S, et al. (1998) Theor Appl Genet 97:446-449
【非特許文献21】Fukuoka S, et al. (2005) Rice Genet Newsl 22:29
【非特許文献22】Gross SD, et al. (1998) Cell Signal 10(10):699-711
【非特許文献23】Jia Y, et al. (2000) EMBO J 19(15):4004-4014
【非特許文献24】Jones JD, et.al., (2006) Nature 444(7117):323-329
【非特許文献25】Knippschild U, et al. (2005) Cell Signal 17(6):675-689
【非特許文献26】Kojima Y, et al. (2005) Breed Sci 55(4):431-440
【非特許文献27】Kubo T, et al. (2002) Theor Appl Genet 105:906-911
【非特許文献28】Liu W, et al. (2003) Plant J 36: 189-202
【非特許文献29】Lomsadze A, et al. (2005) Nucleic Acids Res 33(20):6494-6506
【非特許文献30】Long Y, et al. (2008) Proc Natl Acad Sci USA 105(48):18871-18876
【非特許文献31】Mackey D, et al. (2002) Cell 108(6):743-754
【非特許文献32】Matsubara K, et al. (2007) Theor Appl Genet 115(2):179-186
【非特許文献33】Meyers BC, et al. (2003) Plant Cell 5(4):809-834
【非特許文献34】Midoh N, et al. (1996) Plant Cell Physiol 37(1):9-18
【非特許文献35】Mitsuhara I, et al. (2008) Mol Genet Genomics 279(4):415-427
【非特許文献36】Miura K, et al. (2008) Breed Sci 58(2): 99-105
【非特許文献37】Mondragon-Palomino M, et al. (2002) Genome Res 12:1305-1315
【非特許文献38】Mucyn TS, et al. (2006) Plant Cell 18(10):2792-2806
【非特許文献39】Muller HJ (1942) Biol Symp 6:71-124
【非特許文献40】Nishimura A, et al. (2005) Proc Natl Acad Sci USA 102(33):11940-11944
【非特許文献41】Rieseberg LH, et al. (2007) Science 317(5840):910-914
【非特許文献42】Rieseberg LH, et al. (2006) Nature 440(7083):524-527
【非特許文献43】Sato YI, et al. (1988) Theor Appl Genet 75:723-724
【非特許文献44】Schaffrath U, et al. (2000) Eur J Biochem 267(19):5935-5942
【非特許文献45】Shimono M, et al. (2007) Plant Cell 19(6):2064-2076
【非特許文献46】Stebbins GL Jr (1950) Variation and Evolution in Plants. Columbia University Press, New York, NY, pp189-250
【非特許文献47】Tian D, et al. (2003) Nature 423(6935):74-77
【非特許文献48】van Hulten M, et al. (2006) Proc Natl Acad Sci U S A 103(14):5602-5607
【非特許文献49】Yang S, et al. (2006) Plant Mol Biol 62(1-2):181-193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでに、本発明者らによって、コシヒカリとハバタキの雑種において、hbd2遺伝子及びhbd3遺伝子の相互作用によって弱勢形質が引き起こされることは報告されているものの、その分子的及び生理学的メカニズムは未だ明らかにされていない。
【0009】
本発明は、hbd2遺伝子及びhbd3遺伝子により引き起こされる弱勢を利用して、イネに属する植物個体が弱勢か否かを判定する方法、弱勢な植物の作製方法、並びに、イネの育種に用いられる親個体を選抜する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、ジャポニカ米の品種コシヒカリと、インディカ米の品種ハバタキとの雑種に現れる雑種崩壊の生理的及び分子学的根拠について鋭意研究した結果、hbd2遺伝子及びhbd3遺伝子の詳細なマッピングを行い、casein kinase I(CKI1)遺伝子がhbd2の原因遺伝子であること、及び、hbd3が植物において病害抵抗性(R)遺伝子の最も一般的な部類であるNBS−LRR遺伝子クラスターに位置することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) イネに属する植物が弱勢か否かを判定する方法であって、
植物細胞のゲノム中のCKI1(casein kinase I)遺伝子の塩基配列を調べる工程を有することを特徴とする、イネの弱勢判定方法、
(2) 前記CKI1遺伝子の塩基配列が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含む場合に、前記植物細胞が採取された植物個体、又は前記植物細胞が分化して得られる植物個体は弱勢ではないと判定することを特徴とする、前記(1)記載のイネの弱勢判定方法、
(3) イネに属する植物が弱勢か否かを判定する方法であって、
植物個体又は植物細胞における、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量を調べる工程を有することを特徴とする、イネの弱勢判定方法、
(4) 前記植物細胞が、イネ品種コシヒカリ由来の染色体断片とイネ品種ハバタキ由来の染色体断片とを含んでおり、
さらに、前記植物細胞の遺伝子型がhbd3/hbd3であるか否かを調べる工程を有することを特徴とする、前記(1)記載のイネの弱勢判定方法、
(5) ゲノム中のCKI1遺伝子の塩基配列が、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列であり、かつ、前記未分化細胞の遺伝子型がhbd3/hbd3である場合に、前記植物細胞が採取された植物個体、又は前記植物細胞が分化して得られる植物個体が弱勢であると判定することを特徴とする、前記(4)記載のイネの弱勢判定方法、
(6) イネに属する植物に、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現し得る発現ベクターを導入し、形質転換することを特徴とする、弱勢な植物の作製方法、
(7) ゲノム中に、イネ品種コシヒカリ由来の染色体断片を含む植物細胞に、前記発現ベクターを導入することを特徴とする、前記(6)記載の弱勢な植物の作製方法、
(8) イネの育種に用いられる親個体を選抜する方法であって、
(a)候補植物個体のゲノム中のCKI1(casein kinase I)遺伝子の塩基配列、又は、
(b)候補植物個体が、hbd3ホモ接合体、Hbd3/hbd3ヘテロ接合体、Hbd3ホモ接合体のいずれであるか、
の少なくともいずれかの結果に基づいて選抜することを特徴とする、親個体の選抜方法、
(9) 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターが導入された形質転換細胞、
(10) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(11) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含む塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(12) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(13) 前記(12)記載の発現ベクターが導入された形質転換細胞、
(14) 前記(12)記載の発現ベクターが導入された形質転換植物、
(15) イネ品種であることを特徴とする、前記(14)記載の形質転換植物、
(16) イネ品種コシヒカリ、又はイネ品種コシヒカリ由来の染色体断片を有する植物であることを特徴とする、前記(14)記載の形質転換植物、
(17) 配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現し得る発現ベクターが導入された形質転換細胞を培養し、得られた培養物から、前記ポリペプチドを回収する工程を有することを特徴とする、組換えタンパク質の製造方法、
(18) 配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと特異的に結合する抗体、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のイネの弱勢判定方法により、形態等の外観から弱勢か否かが判断できる時期より前に、遺伝子を解析した細胞が採取された個体又は当該細胞から得られた再生体が、弱勢形質を示すか否かを判定することができる。
また、本発明の弱勢な植物の作製方法により、所望のイネ個体に弱勢形質を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】コシヒカリ(Hbd2/Hbd2+hbd3/hbd3)、NIL−Hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、及びNIL−hbd2/hbd2+Hbd3/hbd3の形態と遺伝型を示した図である。
【図2】hbd2の詳細なマッピングの結果を示した図である。
【図3】hbd3の詳細なマッピングの結果を示した図である。
【図4】hbd2変異の起源を示した図である。
【図5】参考例1において、コシヒカリにおけるCKI1の組織特異的な発現を調べるための定量的RT−PCR解析の結果を示した図である。
【図6】参考例2において、病原体応答マーカー遺伝子の発現解析の結果を示した図である。
【図7】実施例1において、コシヒカリ(Hbd2/Hbd2+hbd3/hbd3)、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、NIL−hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3、及びハバタキCKI1過剰発現体におけるCKI1の組織特異的な発現を調べるための定量的RT−PCR解析の結果を示した図である。
【図8】実施例1において、コシヒカリ、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、コシヒカリCKI1過剰発現体、ハバタキCKI1過剰発現体、及び空ベクターを導入した対照植物の形態を示した図である。
【図9】実施例2において、コシヒカリ及びハバタキのゲノムDNAを鋳型とし、各分子マーカーを用いてPCRを行った結果に得られたPCR産物のバンドパターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
生殖隔離は、かつて異種交配により得られた個体群間において、遺伝子流動を制限し、遺伝的多様性を促進するため、種分化において重要な役割を果たしている(非特許文献42)。このため、種分化のよりよい理解のためには、生殖隔離に関与する分子学的及び生理学的メカニズムの解明が重要である。例えば、イネでは、雑種崩壊は、同種間交配と異種間交配の両方において一般的に観察される生殖隔離である。接合後の生殖隔離の典型例として、雑種第二代(F)及びそれ以降の世代において、不妊や弱勢が現れる。
【0015】
非特許文献1において報告されているように、ジャポニカ米の品種コシヒカリと、インディカ米の品種ハバタキとの雑種第二代(F)において、雑種弱勢が観察される。この雑種弱勢は、hbd2とhbd3の2種の劣性遺伝子により引き起こされることが分かっている。hbd2はコシヒカリとハバタキの雑種においてみられる雑種崩壊に関与する劣性遺伝子の1つであり、第2染色体の長腕に位置している。また、hbd2と相互作用し、弱勢形質を引き起こす劣性遺伝子hbd3は、第11染色体の長腕にある。
【0016】
図1に、コシヒカリ(Hbd2/Hbd2+hbd3/hbd3)、NIL−Hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、及びNIL−hbd2/hbd2+Hbd3/hbd3の形態と遺伝型を示す。図中、遺伝型図の水平線はジェノタイピングに用いたマーカーの位置を示す。白抜き領域と斜線部領域は、それぞれ、コシヒカリとハバタキの染色体を示す。スケールバーは1mを表す。
【0017】
図1に示す系統のうち、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3のみが、コシヒカリ(Hbd2/Hbd2+hbd3/hbd3)と比べて、弱勢形質を示した。NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3は、コシヒカリの遺伝的背景にハバタキのhbd2ローカスのホモ接合性アレルを持ち込んだものである。
【0018】
NIL−hbd2/hbd2+Hbd3/hbd3(図1d)とハバタキ(hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3)では、弱勢形質は見られなかった。つまり、ハバタキのゲノムで見つかったその優性遺伝子であるHbd3は、hbd2の有害な効果を抑制する。
【0019】
このように、弱勢を引き起こす原因遺伝子が、hbd2を含むハバタキ由来の染色体断片と、hbd3を含むコシヒカリ由来の染色体断片とに、それぞれ存在していることは示唆されるものの、具体的な原因遺伝子は特定されていなかった。そこで、本発明者らは、詳細なマッピングを行うことにより、これらの原因遺伝子の特定を試みた。
【0020】
<マッピング方法>
マッピングには、コシヒカリ及び図1に示す一連の準同質遺伝子系統(NILs)を用いた。NILsの作製方法及びジェノタイピングに使用した分子マーカーは、非特許文献1の記載に準じて行った。
【0021】
詳細なマッピングのために、11,520のNIL−Hbd2/hbd2+hbd3/hbd3の個体と、5,760のNIL−hbd2/hbd2+Hbd3/hbd3の個体とをそれぞれ解析した。ジェノタイピング及び詳細な組換え体のスクリーニングに用いる各植物個体のゲノムDNAは、TPS(Tris−Potassium chloride−Disodium salt)メソッド法により以下のようにして抽出した。まず、TPSメソッドのために、約2cm長のイネの葉頂を採取し、Multi−Beads Shocker(安井機械社製)を用いてTPSバッファー[100mM Tris−HCl (pH8.0)、1M KCl、及び10mM EDTA]中で粉砕した。遠心分離後、上清を回収し、等量のイソプロピルアルコールを加えた。遠心分離処理によりイソプロピルアルコール不溶性物を回収し、沈殿を75%エタノール溶液で洗浄した。その後、この沈殿を乾燥させ、TEバッファー[10mM Tris−HCl (pH8.0)及び1mM EDTA]に溶解させた。ジェノタイピングに用いた分子マーカーのプライマーの塩基配列を、表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
なお、表1中、「Maeker type」の欄の「STS」は、STS(Sequence Tagged Site)マーカーを、「dCAPS」はdCAPS(derived Cleaved Amplified Polymorphic Sequence)マーカーを示す。いずれも、SNP(一塩基多型)等の多型の検出に汎用されているマーカーである。STS法は、配列タグ部位(STS)を増幅するプライマーセット(表1に記載のフォワードプライマーとリバースプライマーのセット)を用いてPCRを行い、PCR産物の有無やその塩基対長の相違を利用して、多型を検出する方法である。dCAPS法は、多型部位を含む領域をPCRにより増幅する際に、使用するプライマーにミスマッチを導入することによって増幅産物内に新たな制限酵素部位を作出し、PCR産物が制限酵素により切断されるか否かによって、多型を検出する方法である。
【0024】
<DNAシークエンス解析及び候補領域の遺伝子予測>
コシヒカリゲノムシークエンス解析は、Illumina Genome Analyzer system(Illumina社製)を用いて、製造者による仕様書に従って行った。得られた塩基配列をmaq(http://maq.sourceforge.net/)を用いて統合した。ハバタキの塩基配列では、hbd2からBACクローンHAB027I16が単離され、hbd3からは、BACクローンHAB024P12、Haba40C09、及びHAB046J05が単離された。hbd2及びhbd3の候補領域における遺伝子予測は、イネゲノム自動アノテーションシステム(http://RiceGAAS.dna.affrc.go.jp/)とEukaryotic GeneMark.hmm(非特許文献29)とを用いて行った。
【0025】
<hbd2の詳細なマッピング>
図2に、hbd2の詳細なマッピングの結果を示した。図2(a)は、第2染色体中のhbd2の位置を示した図であり、図2(b)は、hbd2の高分解能連鎖地図である。図2(b)中、両端矢頭の矢印は、hbd2の位置を示し、垂直のバーは分子マーカーの位置を示す。分子マーカー間の組換え体の数は、垂直のバーの間に記載した。
11,520のNIL−Hbd2/hbd2+hbd3/hbd3の個体を用いてhbd2の詳細なマッピングを行った結果、hbd2の候補領域が、dj1a−F3とdj1a−F7の2つの分子マーカーの間に位置する17kbの長さにまで狭めることができた(図2b)。
【0026】
遺伝子予測により、この領域はオープンリーディングフレームが唯一つ同定され、これはCKI1をコードしていることが分かった。CKI1は、RAP2遺伝子座中のOs02g0622100に対応する。CKI1は14のエキソンからなり、463アミノ酸をコードしている。DNA配列の比較から、このゲノム領域には、コシヒカリとハバタキとの間で多くの変異が存在していることがわかったが、アミノ酸配列の比較から、このファミリーにおいてあまり保存されていない可変ドメイン中の一アミノ酸のみが変化していることがわかった。このアミノ酸置換は可変ドメインに生じており、357番目のアミノ酸がコシヒカリではイソロイシンであるが、ハバタキではリジンに変わっている。なお、ハバタキのCKI1のアミノ酸配列(配列番号1)及びDNA配列(配列番号3)は、本発明者らにより初めて明らかにされたものである。
【0027】
図2(c)に、CKI1遺伝子の一次構造を模式的に示した。図2(c)中、塗りつぶした箱はコーディング配列を示す。左側の白抜きの箱は5’−UTRを表し、右側の白抜きの五角形は3’−UTRを表す。矢印は、CKI1タンパク質において一アミノ酸変化が起こっているSNPの位置を示している。また、図2(d)に、CKI1遺伝子の一次構造を模式的に示した。図2(d)中、矢印は、一アミノ酸変化の位置を示している。図中に示す一塩基置換により、357番目のアミノ酸が、コシヒカリのイソロイシンからハバタキのリジンに変化していた。
【0028】
後記参考例1に示すように、コシヒカリの様々な組織におけるCKI1転写レベルを解析するために、定量的RT−PCRを行ったところ、CKI1転写は、葉、茎、栄養期茎頂、花及び根において検出された(図5)。他の組織に比べて、葉で最も高い転写レベルがみられた。
【0029】
次いで、後記実施例1に示すように、様々な遺伝的及び生理学的背景を持つ葉のCKI1転写レベルを調べた。この解析には、コシヒカリ(Hbd2/Hbd2+hbd3/hbd3)、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3 、及びNIL−hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3の葉を用いた。hbd2アレルのホモ接合性の植物中のCKI1転写は、優性のHbd2アレルのホモ接合性の植物(コシヒカリ)よりも高かったが、その差は有意ではなかった(図7)。同様に、弱勢形質を示す植物(NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3)は、正常に成育するNIL-hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3と比較して、CKI1転写レベルに有意な差はなかった(図7)。
【0030】
hbd2は劣性遺伝子であるため、本発明者らはCKI1がhbd2の原因遺伝子であることを確認するために、コシヒカリのCKI1ゲノム領域を、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3のカルスに導入して形質転換し、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3の弱勢形質を回復することを試みた。しかしながら、理由はわからないが、アグロバクテリウムを介した形質転換によっては、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3のカルスから全く再生体を得ることができなかった。
【0031】
そこで、その替わりに、後記実施例1に示すように、コシヒカリとハバタキのCKI1コーディング配列を含む発現ベクターを作製し、この発現ベクターをコシヒカリのカルスに導入して形質転換し、CKI1の過剰発現体を得た。この発現ベクターにおいては、CKI1コーディング配列をイネのアクチンプロモーターの下流に配置することにより、このアクチンプロモーターによりCKI1発現を制御した。NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3のカルスと比べて、コシヒカリのカルスは再生しやすかった。
【0032】
その結果、コシヒカリ由来のCKI1(以下、コシヒカリCKI1)のコーディング配列を含む発現ベクターで形質転換することにより得られたコシヒカリCKI1過剰発現体は、形質転換前のコシヒカリと同様の生育性を示した。これに対して、ハバタキ由来のCKI1(以下、ハバタキCKI1)のコーディング配列を含む発現ベクターで形質転換することにより得られたハバタキCKI1過剰発現体は、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3と同様に弱勢形質を示した(図7)。実際、ハバタキCKI1過剰発現体の形態学的な特徴は、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3とあまり相違がなかった。これらの結果から、コシヒカリの遺伝的背景にハバタキのCKI1が存在していることにより、弱勢形質が引き起こされることが示唆された。よって、CKI1がhbd2の原因遺伝子であることが確認された。つまり、コシヒカリとハバタキのCKI1における357番目のアミノ酸の一アミノ酸置換が、雑種崩壊の原因変異であると考えられる。
【0033】
コシヒカリCKI1過剰発現体は弱勢形質を示さないため、CKI1の過剰発現自体による有害効果の可能性は排除された(図7)。しかしながら、この結果は普通ではない。もしも、コシヒカリの遺伝的背景を持つ植物において、ハバタキCKI1が存在することが有害であるならば、ヘテロ接合体(Hbd2/hbd2)は弱勢形質を示すはずである。しかしながら、hbd2は完全に劣性遺伝子であり、NIL−Hbd2/hbd2+hbd3/hbd3は正常な成育形質を示す(図1b)。この矛盾は、ハバタキCKI1過剰発現体の実験の結果である。一つの説明は、過剰発現体において、コシヒカリCKI1が完全に過剰発現させたハバタキCKI1に置き換えられた、というものである。しかしながら、本発明者らは、この説明はありそうにないと考える。というのも、解析により、ハバタキCKI1過剰発現体において、相対的なCKI1転写量は、コシヒカリタイプのCKI1の10〜50%程度であったためである(データ不掲載)。かわりに、弱勢形質は、コシヒカリタイプ又はハバタキタイプのCKI1の量によって決定されると推定される。おそらく、hbd2/hbd2は、弱勢形質を引き起こすために十分な量のCKI1を発現し得る唯一の遺伝型なのだろう。
【0034】
答えを出すべきもう一つの疑問として、どちらのCKI1が弱勢形質を決定しているのであろうか、という疑問が挙げられる。もし、ハバタキCKI1が、機能が欠損したアレルである場合、例えば、キナーゼ活性や基質特異性が失われている場合であって、ハバタキCKI1過剰発現体において、正常な機能を有するコシヒカリCKI1の量が減少しているのであれば、コシヒカリCKI1量の減少が弱勢形質を決定しているといえる。この仮説を検証するために、本発明者らは、CKI1のアンチセンス鎖を過剰発現させることにより、CKI1の転写レベルを低下させた形質転換系列を作製した。しかしながら、いずれの形質転換植物においても、異常な形質は何も発見されなかった(データ不掲載)。CKI1量の低減が不十分であった可能性は除外できず、CKI1の機能欠損変異体を観察する等のさらなる解析が必要とされるものの、コシヒカリCKI1量は、弱勢形質を決定していないと推定される。さらに、ハバタキCKI1の量が増えることによってこの弱勢形質が決定されるようであり、本発明者らの実験によっては、これと矛盾する証拠は得られなかった。したがって、本発明者らは、hbd2はCKI1をコードし、可変ドメイン中の一アミノ酸が変化しているhbd2−CKI1の量が増えることが、コシヒカリの遺伝的背景を持つ植物において弱勢形質を引き起こす、と結論した。
【0035】
<hbd3の詳細なマッピング>
図3に、hbd3の詳細なマッピングの結果を示した。図3(a)は、第11染色体中のhbd3の位置を示した図であり、図3(b)は、hbd3の高分解能連鎖地図である。図3(b)中、両端矢頭の矢印は、hbd3の位置を示し、垂直のバーは分子マーカーの位置を示す。分子マーカー間の組換え体の数は、垂直のバーの間に記載した。
5,760のNIL−hbd2/hbd2+Hbd3/hbd3の個体を用いてhbd3の詳細なマッピングを行った結果、候補領域が、コシヒカリで168.7kb、ハバタキで130.4kbに狭められた(図3c)。ただし、本発明者らは、十分なスケールの形質転換体を得ることが困難であったため、遺伝子の候補領域を、コシヒカリにおいて168.7kb、ハバタキにおいて130.4kbにまでしか狭めることができず、詳細なマッピングによっては、hbd3の原因遺伝子を同定することができなかった。2つの候補領域のDNA配列を比較したところ、両配列とも非常に多様であり、その大部分の領域において、類似する配列が見つからなかった。そして、この多様性のために、形質転換体を得ることが困難であったとわかった。
【0036】
2つの塩基配列の遺伝子予測から、両配列がNBS−LRR遺伝子クラスターを有していることが明らかになった。図3(c)は、コシヒカリとハバタキのhbd3の候補領域同士を比較した模式図である。図中、「Ko」はコシヒカリの配列を、「Ha」はハバタキの配列を、それぞれ表す。格子縞の五角形はNBS−LRR遺伝子クラスターを示す。縦縞の五角形は、NBSドメインのみを含むコーディング配列を示す。横縞の五角形は、LRRドメインのみを含むコーディング配列を示す。斜線部の五角形は、その他の遺伝子クラスのコーディング配列を示す。白抜きの五角形は、機能未知のタンパク質を示す。黒の五角形は、転移性因子を示す。NBS−LRRに関連する遺伝子は、太線で囲んだ。遺伝子に隣接する5桁の数値は、対応する最新のRAP2遺伝子座(Os11g04XXXXX)である。LOCは、MSU Osa1 Rice Loci LOC Os11g29000に対応する。2つの配列を繋ぐ網掛け領域は、DNA配列に類似性が認められた領域を表している。垂直のバーは分子マーカーの位置を示す。
【0037】
NBS−LRR遺伝子クラスターは、しばしば多様な配列が観察されている(非特許文献9)。NBS−LRR遺伝子は、植物において、病害抵抗性(R)遺伝子の最も一般的な部類である(非特許文献24)。hbd3の候補領域中にある予測された遺伝子の幾つかは、核酸結合部位(NBS)とロイシンリッチリピート(LRR)ドメインの両方を含んでいる(図3c、格子縞の5角形)。その一方で、その他の予測された遺伝子は、NBS(図3c、縦縞の5角形)又はLRR(図3c、横縞の5角形)のいずれか一方のみを含んでいた。
【0038】
NBS−LRRは、病原体による攻撃に応答して、免疫シグナルを誘発する(非特許文献14及び17)。シロイヌナズナにおいて、Bomblies ら (非特許文献11)と Alcazarら (非特許文献5) は、NBS−LRRが雑種弱勢に関与していることを示唆し、弱勢形質において免疫応答シグナルの活性化することを示した。hbd3はNBS−LRR遺伝子クラスターに位置しているため、シロイヌナズナの雑種弱勢と同様に、自己免疫応答が弱勢形質に関与していると考えられた。
【0039】
この仮説を確かめるため、本発明者らは、病原体応答における幾つかの分子マーカー遺伝子の発現解析を行った。具体的には、後記参考例2に示すように、定量的RT−PCRにより、コシヒカリ、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、及びハバタキCKI1過剰発現体における病原体応答マーカー遺伝子の発現レベルを調べた。病原体応答マーカー遺伝子は、免疫応答シグナルの活性化によって上方制御されることが知られている。
【0040】
この結果、これらの病原体応答マーカー遺伝子の大部分は、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3及びハバタキCKI1過剰発現体では、いかなる病原体にも感染していない状態で、コシヒカリに比べて上方制御されていることがわかった(図6)。加えて、この2つの発現プロファイルは非常に良く似ており、ハバタキCKI1過剰発現体は、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3の表現型と、形態学的特徴のみならず、生理学的メカニズムにおいても、全くよく似ていることが示唆された。
【0041】
これらの結果は、NBS−LRR(s)がhbd3の原因遺伝子からなるという仮説を支持する。有意な上方制御が観察されたにもかかわらず、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3とハバタキCKI1過剰発現体の両方において、これらの遺伝子の発現レベルは、病原体に感染した植物(非特許文献35)に比べて低かった。よって、雑種崩壊における免疫応答シグナルは、実際の病原体により攻撃された場合よりも低いレベルで活性化されることが示唆された。
【0042】
活性化された免疫応答シグナルを維持するために必要とされる高い細胞代謝は、植物の生育を抑制することが報告されている(非特許文献47及び48)。NBS−LRRは免疫応答を誘発するため、hbd2及びhbd3による雑種崩壊には、免疫応答シグナルが関与していると考えられた。病原体応答マーカー遺伝子の発現解析の結果もこれを裏付ける。雑種の弱勢における自己免疫応答の関与は、既にシロイヌナズナにおいて報告されている(非特許文献11及び5)。本発明者らの結果は、このメカニズムが、イネにおいても存在することを示唆している。さらに、この種のメカニズムが、植物における弱勢形質による接合後隔離の証明のための大きな可能性があることも暗示される。
【0043】
すなわち、病原体応答マーカー遺伝子の過剰発現解析により、この雑種崩壊における弱勢形質は、自己免疫応答に起因し得ることが示唆された。これまでのところ、本発明者らによるこの成果は、イネにおける自己免疫応答と接合後隔離との関連を示す初めての証拠である。よって、この結果は、植物における接合後隔離を構築する分子的及び進化学的メカニズムの理解のための新規な知見を提供するものである。
【0044】
なお、hbd3には、その他のクラスの遺伝子も存在していたが、シロイヌナズナの雑種弱勢の原因遺伝子がNBS−LRR遺伝子クラスターに位置していることが、既に2つ報告されていたため、本発明者らは、1又はそれ以上のNBS−LRR遺伝子がhbd3の原因遺伝子であると推察した。さらに、表現型の類似性(例えば、弱勢)と今回なされた詳細なマッピングの結果の詳細により、本研究の雑種崩壊も、NBS−LRR(s)によって引き起こされることが示唆された。
【0045】
一般的に、自己免疫応答を引き起こすNBS−LRR中の変異は、優性となる。しかしながら、コシヒカリにおけるhbd3は劣性遺伝子であり、hbd3がNBS−LRR(s)をコードするという推察と矛盾する。RPM1は、シロイヌナズナにおいて最も解析が進んでいるNBS−LRRであるが、RPM1−interacting protein 4(RIN4)のレベルを減少させた遺伝的背景を持つシロイヌナズナにおいて、量依存的に弱勢形質を引き起こす(非特許文献8)。これにより、ある状況においては、NBS−LRR(s)により誘発される免疫応答シグナルの活性が、アレルの数に影響されることが示唆される。実際に、NBS−LRRをコードしているシロイヌナズナの雑種弱勢遺伝子DM1は優性であるが、この遺伝子のホモ接合性アレルは、ヘテロ接合体よりもより強い表現型を引き起こす(非特許文献11)。それ故、この雑種崩壊において、検出可能な免疫応答を引き起こすためには、hbd3中のNBS−LRRが、1つ(ヘテロ接合性)ではなく2コピーあることが必要である可能性がある。
【0046】
この研究の結果から、雑種崩壊に関与するメカニズムとして、おそらく、hbd3ローカス中の1又はそれ以上のNBS−LRR遺伝子によって活性化された自己免疫応答がある。NBS−LRR(s)は、エフェクターにより誘発される免疫システムに関与しており、当該システムにおいて、NBS−LRRが非病原性(Avr)タンパク質を認識する(非特許文献14及び17)。Avrタンパク質は、同族のR遺伝子が存在しない場合に毒性機能を授ける特殊な病原性エフェクターである。NBS−LRRはAvrタンパク質を直接認識することができ(非特許文献23及び19)、間接的に認識することもできる(非特許文献31、7、15、及び38)。間接的な認識メカニズムでは、NBS−LRRは、Avrタンパク質によって引き起こされた細胞内部にある細胞成分の変化を検出する。
【0047】
ショウジョウバエ及び酵母においては、CKI1ファミリーは細胞周期、形態、サーカディアンリズム、及びシグナル伝達等の多くの細胞機能に関与している(非特許文献22及び25)。アンチセンス系統の解析によって、本研究におけるCKI1は、根伸長及びホルモン感受性に関与していることが報告されている(非特許文献28)。しかしながら、CKI1が免疫応答に関与していることを示唆する証拠はない。
【0048】
したがって、この雑種崩壊における最も妥当でありそうなメカニズムは、hbd2−CKI1がAvrタンパク質又はAvrタンパク質によって阻害されるタンパク質のように機能し、hbd3中の1又はそれ以上のNBS−LRRsが、直接的又は間接的にhbd2−CKI1を認識し、免疫応答シグナルを誘発する、というものである。
【0049】
<hbd変異の起源>
さらに本発明者らは、hbd2の原因変異を決定した。世界イネコレクション(非特許文献26)に登録されている69の植物を用いて、イネにおけるhbd2変異の分布を調べた。hbd2変異の分布は、各登録植物のhbd2の変異部位のシークエンス解析により行った。具体的には、各植物から抽出されたゲノムDNAを鋳型として、プライマーペア(5’−CGGAGAGCACACAAAGCACAG−3’と5’−TCCAGAATACAGAGTTCCAGC−3’)を用いてhbd2変異部位の増幅を行い、得られた増幅産物の塩基配列を解析した。Peta及びIR262のDNAサンプルは、親切にも国際イネ研究所より提供していただいた。調べられた69登録植物のうち、Milyang23のみがhbd2の変異を有していた。
【0050】
ハバタキとMilyang23は、いずれも、最近の育種プログラムによって得られたインディカタイプの近代品種である。ハバタキの系図は複雑すぎたため、Milyang23の系図のみを、hbd2の親ドナーを同定するためのさらなる解析において検討した。Milyang23の祖先親に対して、hbd2のジェノタイプを調べた結果を図4に示す。図4(a)はMilyang23の系図であり、四角で囲われている系統が、hbd2変異を有する。また、図4(a)のMilyang23の系図に含まれている品種及び在来種のリストを図4(b)に示す。図中、「N.A.」はhbd2変異の有無を解析していないことを意味する。また、「?」は起源が不明であることを意味する。
【0051】
この結果、hbd2の変異は、インドネシア産のインディカタイプの陸稲であるPetaから受け継いだことがわかった。hbd2変異は、Petaにおいて、有害な効果なしで自然に生じたもののようである。そして、栽培品種内において中立的に保存され、イネ育種プログラムを通して、少数の近代品種に偶然組み込まれたと推察される。
【0052】
hbd2は、現在までのところ、イネの種分化にはあまり影響していなかった。この変異は、おそらく、ある集団において、中立的な動向を通して、予期せぬ好都合な効果又は遺伝的ヒッチハイキングとともに欠失又は固定されたのであろう。よって、雑種崩壊は、BDM不適合形成の最初のステップにおいてのみ起こる。
【0053】
Bomblies と Weigel(非特許文献12)によって十分に議論されたように、雑種弱勢における自己免疫応答の重要性は、本研究の結果によって支持される。加えて、本発明者らは、幾つかの最近の研究において報告されているように(非特許文献11及び5)、NBS−LRRsが雑種弱勢に重要な貢献を果たしていることも示唆した。NBS−LRRは、他の生物種よりも植物において、大きなファミリーを構成しており、イネでは500(非特許文献49)、シロイヌナズナではおよそ150(非特許文献33)を数える。加えて、NBS−LRRsは、多様化淘汰によって、多様化する傾向にある(非特許文献37及び49)。これらの条件により、植物のNBS−LRRsは、Avrタンパク質の他にも、他の集団や種において生産されている遺伝子産物を含む多くの基質を認識していることが示唆される。本発明者らは、hbd2の変異のようなささいな変異が、他の個体や種由来の高度に多様化したNBS−LRRsのターゲットとなる可能性があると予測する。したがって、他の遺伝子クラスと比べて、植物のNBS−LRRsは、雑種弱勢を構築し、種分化における進化力となる可能性が高い。雑種弱勢は、イネのみならず(非特許文献6、43、20、21、27、32、1、及び36)、他の植物種においても報告されている(非特許文献12)。他の植物においてこの現象の原因遺伝子を同定することによって、この仮説の有効性を決定されるだろう。
【0054】
以上に述べたように、本発明者らによって、CKI1遺伝子がhbd2の原因遺伝子であること、コシヒカリにハバタキCKI1を過剰発現させることにより、弱勢形質を有する植物個体が得られることが明らかにされた。本発明は、これらの知見に基づきなされたものである。
【0055】
<イネの弱勢判定方法>
本発明のイネの弱勢判定方法は、イネに属する植物が弱勢か否かを判定する方法であって、植物細胞のゲノム中のCKI1遺伝子の塩基配列を調べる工程を有することを特徴とする。判定対象とする植物細胞は、イネの個体から採取したものであってもよく、カルス等の脱分化処理により得られた未分化細胞であってもよく、形質転換処理がなされた細胞であってもよい。
【0056】
本発明のイネの弱勢判定方法において判定対象とされる植物細胞は、イネに属する植物由来の細胞であれば特に限定されるものではなく、栽培品種であってもよく、在来品種であってもよく、イネに属する植物を親個体とする雑種であってもよい。本発明においては、コシヒカリ又はハバタキの遺伝的背景を有する植物細胞であることが好ましい。このような植物細胞として、例えば、コシヒカリ、ハバタキ、及び種子親と花粉親の少なくともいずれか一方がコシヒカリ若しくはハバタキである雑種又はその後代個体、並びに、これらの植物細胞の形質転換細胞等が挙げられる。
【0057】
植物細胞のゲノムにおいて、CKI1遺伝子が含まれる遺伝子座が、Hbd2ホモ接合体(Hbd2/Hbd2)又はヘテロ接合体(Hbd2/hbd2)である場合には、当該植物細胞が採取された植物個体、又は当該植物細胞から得られる再生体は、正常な成育性を示す。これに対して、hbd2ホモ接合体(hbd2/hbd2)である場合には、hbd3が含まれる遺伝子座によっては、当該植物細胞が採取された植物個体、又は当該植物細胞から得られる再生体は、弱勢を示す。
【0058】
具体的には、ゲノムDNA中のCKI1遺伝子の塩基配列が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含む場合には、弱勢ではない、と判定することができる。一方、両方の染色体において、ゲノムDNA中のCKI1遺伝子の塩基配列が、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列である場合には、弱勢である可能性があると判定される。ここで、配列番号1で表されるアミノ酸配列は、ハバタキCKI1のアミノ酸配列であり、配列番号2で表されるアミノ酸配列は、コシヒカリCKI1のアミノ酸配列である。
【0059】
なお、ゲノム中のCKI1遺伝子の塩基配列の測定は、常法により行うことができる。
また、特に、CKI1の367番目のアミノ酸をコードする領域の塩基配列を解析することが好ましい。
【0060】
また、判定対象であるイネが形質転換体である場合、ゲノムDNA中のCKI1遺伝子の塩基配列が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含む場合であっても、十分量のハバタキCKI1が発現している場合には、弱勢を示す。このため、植物個体又は植物細胞における、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(ハバタキCKI1)の発現量を調べることによっても、弱勢か否かを判定することができる。
【0061】
ハバタキCKI1の発現量は、定量的RT−PCR法等の当該技術分野において公知のいずれの手法を用いて行ってもよい。例えば、ハバタキCKI1と特異的に結合する抗体を用いて、免疫反応を利用して検出することもできる。なお、本発明及び本願明細書において、「ハバタキCKI1と特異的に結合する抗体」とは、コシヒカリCKI1に対する結合性よりも、ハバタキCKI1に対する結合性が有意に高い抗体を意味し、ハバタキCKI1以外のあらゆる物質と結合しないまでの特異性を要求するものではない。このような抗体は、ハバタキCKI1の367番目のアミノ酸を含む部分ペプチドを抗原として常法により作製することができる。
【0062】
また、判定対象のイネが、イネ品種コシヒカリ由来の染色体断片とイネ品種ハバタキ由来の染色体断片とを含んでいる場合には、さらに、hbd3領域として、ハバタキ由来の染色体断片を有しているか否かを調べることにより、hbd2ホモ接合体である場合に、当該植物細胞が採取された植物個体、又は当該植物細胞から得られる再生体が弱勢を示すか否かを判定することができる。
【0063】
hbd3を含む遺伝子座が、Hbd3ホモ接合体(Hbd3/Hbd3)又はヘテロ接合体(Hbd3/hbd3)である場合には、hbd2ホモ接合体であったとしても、当該植物細胞が採取された植物個体、又は当該植物細胞から得られる再生体は正常な成育性を示す。これに対して、hbd3ホモ接合体(hbd3/hbd3)であって、hbd2ホモ接合体である場合には、当該植物細胞が採取された植物個体、又は当該植物細胞から得られる再生体は、弱勢を示す。
【0064】
hbd3を含む遺伝子座の遺伝子型は、hbd3と連鎖する分子マーカーを用いて調べることができる。このような分子マーカーとしては、例えば、図3(b)及び表1に記載の分子マーカー等が挙げられる。
【0065】
具体的には、STSマーカーを用いる場合には、判定対象のイネから抽出したDNAを鋳型として、各STSマーカー特有のプライマーセットを用いてPCRを行い、PCR産物の有無や得られたPCR産物の大きさを測定し、コシヒカリ若しくはハバタキから抽出したDNAを鋳型とした場合の結果と比較する。
【0066】
後記実施例2において示すように、例えば、分子マーカーdj1b−11の場合には、コシヒカリから抽出したDNAを鋳型として、表1に記載のプライマーを用いてPCRを行うと、約200bpのPCR産物が得られるのに対して、ハバタキから抽出したDNAを鋳型とした場合には、約230bpのPCR産物が得られる。そこで、判定対象のイネから抽出したDNAを鋳型としてPCRを行った場合に、約200bpのPCR産物が得られた場合には、当該イネはhbd3ホモ接合体(hbd3/hbd3)であり、約200bpと約230bpのPCR産物が得られた場合には、当該イネはヘテロ接合体(Hbd3/hbd3)であり、約230bpのPCR産物が得られた場合には、当該イネはHbd3ホモ接合体(Hbd3/Hbd3)である。
【0067】
dCAPSマーカーを用いる場合には、判定対象のイネから抽出したDNAを鋳型として、各dCAPSマーカー特有のプライマーセットを用いてPCRを行い、得られたPCR産物が、特定の制限酵素により切断されるか否かを測定し、コシヒカリ若しくはハバタキから抽出したDNAを鋳型とした場合の結果と比較する。
【0068】
分子マーカーdj1b−12又はdj1b−20の場合には、表1に記載の各プライマーセットを用いてPCRを行った場合に、コシヒカリから抽出したDNAを鋳型として得られたPCR産物は制限酵素Hha Iにより切断されるのに対して、ハバタキから抽出したDNAを鋳型として得られたPCR産物は切断されない。そこで、判定対象のイネから抽出したDNAを鋳型としてPCRを行って得られたPCR産物が、制限酵素Hha Iにより切断された場合には、当該イネはhbd3ホモ接合体(hbd3/hbd3)であり、切断されなかった場合には、当該イネはHbd3ホモ接合体(Hbd3/Hbd3)又はヘテロ接合体(Hbd3/hbd3)である。
【0069】
分子マーカーdj1b−23の場合には、表1に記載のプライマーセットを用いてPCRを行った場合に、コシヒカリから抽出したDNAを鋳型として得られたPCR産物は制限酵素Sma Iにより切断されるのに対して、ハバタキから抽出したDNAを鋳型として得られたPCR産物は切断されない。そこで、判定対象のイネから抽出したDNAを鋳型としてPCRを行って得られたPCR産物が制限酵素Sma Iにより切断された場合には、当該イネはhbd3ホモ接合体(hbd3/hbd3)であり、切断されなかった場合には、当該イネはHbd3ホモ接合体(Hbd3/Hbd3)又はヘテロ接合体(Hbd3/hbd3)である。
【0070】
なお、コシヒカリ由来の染色体断片とハバタキ由来の染色体断片とを含んでいるイネとしては、例えば、コシヒカリとハバタキの雑種及びその後代個体や、コシヒカリの染色体の一部をハバタキ由来の染色体断片で置換した染色体断片置換系統等が挙げられる。
【0071】
本発明のイネの弱勢判定方法を用いることにより、育苗中(すなわち、圃場に栽培する前)のイネに対して、各植物個体の弱勢を判定することができる。弱勢のイネからは、通常は充分な米が収穫できないため、圃場に栽培したイネの中に弱勢が出てしまうと、栽培場所や労力が無駄になってしまう。弱勢と判定された幼苗を、圃場へ移植する前に取り除くことにより、このような無駄を回避することができる。
【0072】
<弱勢な植物の作製方法>
本発明の弱勢な植物の作製方法は、イネに属する植物に、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現し得る発現ベクターを導入し、形質転換することを特徴とする。植物中に、充分量のハバタキCKI1を発現させることにより、当該植物を弱勢とすることができる。
【0073】
本発明の弱勢な植物の作製方法において発現ベクターが導入される植物は、本発明のイネの弱勢判定方法と同様に、イネに属する植物であれば特に限定されるものではない。中でも、ゲノム中に、イネ品種コシヒカリ由来の染色体断片を含む植物、又はハバタキの遺伝的背景を有する植物であることが好ましく、コシヒカリの遺伝的背景を有する植物であることがより好ましい。
【0074】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現し得る発現ベクターは、当該ポリペプチドをコードする塩基配列を有するDNAを、周知の遺伝子組み換え技術を用いて発現ベクターに組み込むことにより作製することができる。
【0075】
本発明の弱勢な植物の作製方法において用いられる発現ベクターは、植物細胞において転写が可能なプロモーター配列と、ポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を有する発現ベクターであって、植物細胞に導入した場合に、組み込まれたポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されるものではなく、形質転換植物細胞や形質転換植物の作製のために通常用いられる任意の発現ベクターを用いることができる。該発現ベクターとして、例えば、pIG121、pIG121Hm等のバイナリーベクター等がある。使用可能なプロモーターとして、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター等がある。また、使用可能なターミネーターとして、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター等がある。その他、組織や器官に特異的なプロモーターを用いてもよい。
【0076】
該発現ベクターは、配列番号1で表されるポリペプチドをコードする塩基配列を有するDNAのみならず、薬剤耐性遺伝子等も組み込まれた発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターにより形質転換された植物と形質転換されていない植物の選抜を容易に行うことができるためである。該薬剤耐性遺伝子として、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子等がある。
【0077】
本発明において、発現ベクターを用いて形質転換植物を作製する方法は、特に限定されるものではなく、形質転換植物細胞や形質転換植物を作製する場合に通常用いられている方法により行うことができる。該方法として、例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、及びPEG(ポリエチレングリコール)法等がある。このうち、アグロバクテリウム法で行うことが好ましい。なお、形質転換植物細胞や形質転換植物は、薬剤耐性等を指標として選抜することができる。また、宿主として、植物培養細胞を用いてもよく、植物器官や植物組織を用いてもよい。
【0078】
周知の植物組織培養法等を用いることにより、形質転換された植物細胞やカルス等から形質転換植物を得ることができる。例えば、形質転換植物細胞を、ホルモンフリーの再分化培地等を用いて培養して、得られた発根した幼植物体を土壌等に移植して栽培することにより、形質転換植物を得ることができる。
【0079】
<親個体の選抜方法>
本発明の親個体の選抜方法は、本発明のイネの弱勢判定方法と同様にして親個体の弱勢を判定し、この結果を、育種に用いる親個体の選抜に利用したものである。より具体的には、イネの育種に用いられる親個体を選抜する方法であって、下記(a)又は(b)の少なくともいずれかの結果に基づいて選抜することを特徴とする。
(a)候補植物個体のゲノム中のCKI1遺伝子の塩基配列、又は
(b)候補植物個体が、hbd3ホモ接合体、Hbd3/hbd3ヘテロ接合体、Hbd3ホモ接合体のいずれであるか。
【0080】
遠縁交雑の多くの場合には、生殖隔離により、雑種弱勢が引き起こされる。本発明の親個体の選抜方法においては、親個体中の弱勢に影響する遺伝子を調べ、その結果に基づいて交配の相手個体を選択することにより、遠縁交雑による雑種弱勢の一部を回避することができ、育種の幅を広げる効果が期待できる。
【0081】
一般的な育種では、まず、固定系統(品種)同士を交配する。各固定系統の個体のhbd2を含む遺伝子座(CKI1遺伝子が含まれる遺伝子座)及びhbd3を含む遺伝子座の遺伝子型は、次の4つのタイプに分類可能である。
パターン1:Hbd2ホモ接合体であり、Hbd3ホモ接合体である個体(Hbd2/Hbd2+Hbd3/Hbd3)。
パターン2:Hbd2ホモ接合体であり、hbd3ホモ接合体である個体(Hbd2/Hbd2+hbd3/hbd3)。
パターン3:hbd2ホモ接合体であり、Hbd3ホモ接合体である個体(hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3)。
パターン4:hbd2ホモ接合体であり、hbd3ホモ接合体である個体(hbd2/hbd2+hbd3/hbd3)。
【0082】
パターン4の個体は弱勢であり、固定系統の中には存在しないと仮定した場合には、パターン1〜3の中では6通りの交配が考えられる。具体的には、パターン1の個体同士の交配、パターン2の個体同士の交配、パターン3の個体同士の交配、パターン1の個体とパターン2の個体との交配、パターン1の個体とパターン3の個体との交配、及びパターン2の個体とパターン3の個体との交配である。理論的には、この6通りの交配のうち、パターン2の個体とパターン3の個体との交配では、交配により得られる後代個体において雑種崩壊が起こる。一方で、パターン2の個体とパターン3の個体との交配以外では、雑種崩壊は起こらない。
【0083】
弱勢遺伝子近傍は確率的に弱勢個体と行動を共にする。このため、弱勢遺伝子近傍に有望な形質が存在していたとしても発見し難く、弱勢遺伝子近傍の遺伝子効果は弱勢形質によって隠されてしまう可能性が高い。本発明の親個体の選抜方法を用いて、パターン2の個体とパターン3の個体との組み合わせ以外の組み合わせを親個体として選択することにより、雑種崩壊に伴う問題を回避することができる。
【0084】
一方で、親個体として、パターン2の個体とパターン3の個体との組み合わせを選択することにより、雑種第一世代は親個体と同様に正常に成育し、雑種第二世代には、ある一定の確率で弱勢が引き起こされるような品種を育種することもできる。雑種第二世代に弱勢を引き起こすことにより、連続した再生産(コピー)を防止することができる。
【0085】
また、パターン2の個体とパターン3の個体との交配により得られる雑種集団内の個体同士を交配させて新品種を育成する場合に、例えば、候補植物個体の一方が、ヘテロ接合体(Hbd2/hbd2)であった場合、他方の親個体として、Hbd2ホモ接合体(Hbd2/Hbd2)を選ぶことにより、雑種第一世代における雑種弱勢を確実に回避することができる。同様に、候補植物個体の一方がhbd3ホモ接合体であった場合、他方の親個体として、Hbd3ホモ接合体(Hbd3/Hbd3)を選ぶことにより、雑種第一世代における雑種弱勢を確実に回避することができる。
【0086】
本発明の親個体の選抜方法において、親個体の候補植物としては、本発明のイネの弱勢判定方法と同様に、イネに属する植物であれば特に限定されるものではない。中でも、ゲノム中に、イネ品種コシヒカリ由来の染色体断片を含む植物、又はハバタキの遺伝的背景を有する植物であることが好ましく、コシヒカリの遺伝的背景を有する植物であることがより好ましい。
【0087】
その他、大腸菌や酵母、培養細胞等の汎用されている組換えタンパク質発現系を利用することにより、ハバタキCKI1やコシヒカリCKI1の組換えタンパク質を製造することができる。具体的には、配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現し得る発現ベクターが導入された形質転換細胞を培養し、得られた培養物から、前記ポリペプチドを回収する工程により、組換えタンパク質を製造することができる。
【0088】
発現ベクターへのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの組み込み、作製された発現ベクターの宿主細胞への導入、発現させたポリペプチドの回収・精製等は、特に限定されるものではなく、宿主の種類等を考慮して、組換えタンパク質を製造する場合に通常用いられている方法の中から適宜選択して行うことができる。
【実施例】
【0089】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
[参考例1]
定量的RT−PCRを行い、コシヒカリの様々な組織におけるCKI1転写レベルを解析した。
具体的には、まず、コシヒカリの葉、茎、栄養期茎頂、花、繁殖期茎頂、及び根を採取し、RNeasy plant kit(Qiagen社製)を用いてトータルRNAを抽出した。次いで、約1μgのトータルRNAから、オリゴ(dT)プライマーとOmniscript RT kit(Qiagen社製)を用いて、最初のcDNA鎖を合成した。定量的RT−PCRは、LightCycler system(Roche社製)及びQuantiTect SYBR Green PCR kit(Qiagen社製)を用いて実施した。
この解析のために、線形のスタンダードカーブと指定された転写レベルの対数値に対するサイクル数の閾値とを、各PCR産物の希釈系列(10−17、10−18、10−19、及び10−20M)を用いて作成した。次いで、全ての未知サンプルの転写レベルを、スタンダードカーブを用いて決定した。UBQ1は、cDNA濃度差をノーマライズするための内部標準物質として用いた。定量的RT−PCRに用いたプライマーペアの塩基配列を、表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
図5に、コシヒカリにおけるCKI1の組織特異的な発現を調べるための定量的RT−PCR解析の結果を示した。データは、5回の試行の平均値を表している。バーは、標準偏差(means±SD)を表す。UBQ1は、ノーマライゼーションのための内部標準として用いた。この結果、CKI1転写は、葉、茎、栄養期茎頂、花及び根において検出された。他の組織に比べて、葉で最も高い転写レベルがみられた。
【0093】
[参考例2]
定量的RT−PCRにより、コシヒカリ、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、及びハバタキCKI1過剰発現体における病原体応答マーカー遺伝子の発現レベルを調べた。本実験では、病原体応答マーカー遺伝子として、PR1a(非特許文献2参照。)、PR1b(非特許文献3参照。)、PR2(非特許文献45参照。)、PR4(非特許文献3参照。)、GST−u4(非特許文献45参照。)、Cytochrome 450(非特許文献45参照。)、PBZ1(非特許文献34参照。)、及びLipoxygenase(非特許文献44参照。)を用いた。各遺伝子の配列データは、Rice Annotation Project Database(RAP−DB)から入手可能である。各病原体応答マーカー遺伝子のlocus IDを図6(a)に示す。
具体的には、まず、6枚葉ステージの植物体から採取した4枚の葉から、参考例1と同様にしてトータルRNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型とし、表2に記載のプライマーペアを用いて、参考例1と同様にして定量的RT−PCRを行い、各病原体応答マーカー遺伝子の転写レベルを調べた。解析結果を図6(b)に示す。図中、「HaCKI1」はハバタキCKI1過剰発現体を表す。また、バーは、標準偏差(means±SD)を表す。UBQ1は、ノーマライゼーションのための内部標準として用いた。
【0094】
この結果、いかなる病原体にも感染していない状態で、コシヒカリに比べて、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3及びハバタキCKI1過剰発現体では、解析された病原体応答マーカー遺伝子の大部分が上方制御されていた。
【0095】
病原体応答マーカー遺伝子の過剰発現解析により、この雑種崩壊における弱勢形質は、自己免疫応答に起因し得ることが示唆された。これまでのところ、本研究の成果は、イネにおける自己免疫応答と接合後隔離との関連を示す初めての証拠である。この結果は、植物における接合後隔離を構築する分子的及び進化学的メカニズムの理解のための新規な知見を提供するものである。
【0096】
[実施例1]
定量的RT−PCRを行い、様々な遺伝的及び生理学的背景を持つ葉のCKI1転写レベル及び弱勢形質の有無を調べた。本解析には、コシヒカリ(Hbd2/Hbd2+hbd3/hbd3)、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、NIL−hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3、コシヒカリCKI1過剰発現体、及びハバタキCKI1過剰発現体を用いた。対照として、空ベクターを導入した形質転換細胞を用いた。
まず、以下のようにして、CKI1過剰発現体及びハバタキCKI1過剰発現体を作製した。コーディング配列を、プライマーペア(5’−TCTAGAATGGAGCATGTGATCGGG−3’と5’−CCCGGGTTATTTCCTTCTGTCAGCA−3’)を用いてRT−PCRを行い、増幅した。増幅された核酸断片は、pCRII(Invitrogen社製)に組み込んだ。クローンは塩基配列を解析し、PCR中に塩基が置換されなかったことを確認した。クローンの核酸断片は、制限酵素XbaI及びSmaI(タカラ社製)を用いて切り出し、バイナリーベクターpNiR::NiRcDNA::NiRtに組み込み、このバイナリーベクターを、ニシムラらの方法(非特許文献40)によりコシヒカリのカルスに形質転換した。両CKI1の発現は、pBI−Hm2由来のイネアクチンプロモーターによって制御した。
次いで、各イネの葉を採取し、参考例1と同様にして定量的RT−PCRを行い、CKI1の転写レベルを調べた。測定結果を図7に示す。図7中、L1〜L7はハバタキCKI1過剰発現体の結果を示している。また、バーは、標準偏差(means±SD)を表す。UBQ1は、ノーマライゼーションのための内部標準として用いた。
【0097】
この結果、hbd2アレルのホモ接合性の植物中のCKI1転写は、優性のHbd2アレルのホモ接合性の植物(コシヒカリ)よりも高かったが、その差は有意ではなかった。同様に、弱勢形質を示す植物(NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3)は、正常に成育するNIL-hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3と比較して、CKI1転写レベルに有意な差はなかった。
【0098】
また、コシヒカリCKI1過剰発現体では、コシヒカリ、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、及びNIL−hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3と比較して、CKI1転写が明らかに増加していた(データは図示せず。)。しかしながら、これらの全ては、コシヒカリと類似した正常な表現型を示していた。一方で、ハバタキCKI1過剰発現体では、CKI1転写レベルが、コシヒカリ、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、及びNIL−hbd2/hbd2+Hbd3/Hbd3と比較して、個体差はあるものの、明らかに高かった(図7)。
【0099】
図8は、コシヒカリ、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3、コシヒカリCKI1過剰発現体、ハバタキCKI1過剰発現体、及び空ベクターを導入した対照植物の形態を示した図(写真)である。スケールバーは1mを表す。さらに、表3に、各系統の背丈とひこばえの数を示した。表3中の数値は、各系統の7個体の平均値及び標準偏差(means±SD)を示している。また、図8及び表3中、「KoCKI1」はコシヒカリCKI1を、「HaCKI1」はハバタキCKI1を、それぞれ表す。
【0100】
【表3】

【0101】
この結果、コシヒカリCKI1過剰発現体とは異なり、全てのハバタキCKI1過剰発現体は、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3と同様に弱勢形質を示した。実際、ハバタキCKI1過剰発現体の形態学的な特徴は、NIL−hbd2/hbd2+hbd3/hbd3とあまり相違がなかった(表3)。
これらの結果から、ハバタキCKI1を過剰発現させることにより、弱勢形質のイネを作製し得ることが明らかである。
【0102】
[実施例2]
表1に記載のマーカーのうち、dj1b−22、dj1b−12、dj1b−11、dj1b−23、dj1b−20、及びdj1b−15の各分子マーカーを用いることにより、イネ個体中のhbd3を含む遺伝子座が、Hbd3ホモ接合体(Hbd3/Hbd3)、ヘテロ接合体(Hbd3/hbd3)、又はhbd3ホモ接合体(hbd3/hbd3)のいずれであるのかを調べ、当該イネ個体の弱勢を判定し得ることを確認した。
【0103】
まず、コシヒカリとハバタキから、TPSメソッド法により、それぞれのゲノムDNAを抽出した。具体的には、約2cm長のイネの葉頂を採取し、Multi−Beads Shocker(安井機械社製)を用いてTPSバッファー[100mM Tris−HCl (pH8.0)、1M KCl、及び10mM EDTA]中で粉砕した。遠心分離後、上清を回収し、等量のイソプロピルアルコールを加えた。遠心分離処理によりイソプロピルアルコール不溶性物を回収し、沈殿を75%エタノール溶液で洗浄した。その後、この沈殿を乾燥させ、TEバッファー[10mM Tris−HCl (pH8.0)及び1mM EDTA]に溶解させた。
【0104】
次いで、得られたゲノムDNAを鋳型として、表1に記載の各分子マーカーのプライマーセットを用いてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロース電気泳動にかけて分離した後、当該アガロースゲルを染色してバンドを検出した。なお、dj1b−12マーカー及びdj1b−20マーカーのプライマーを使用して得られたPCR産物は、HhaIによる制限酵素処理をしたものを、また、dj1b−23マーカーのプライマーを使用して得られたPCR産物は、SmaIによる制限酵素処理をしたものを、それぞれアガロース電気泳動にかけた。
【0105】
得られたバンドパターンを図9に示す。図9(A)〜(C)の上図はアガロースゲルの染色像であり、下図は上図のバンドパターンを模式的に示した図である。図中、各マーカーの左レーンがコシヒカリの結果であり、右レーンがハバタキの結果である。また、「Marker1」はΦX174 DNA/HaeIIIマーカーを、「Marker2」は100bp ladder(100bp−900bp) マーカーを、それぞれ示す。この結果、いずれの分子マーカーを用いた場合も、コシヒカリのゲノムDNAを鋳型とした場合とハバタキのゲノムDNAを鋳型とした場合とで、得られるPCR産物の大きさが異なっており、両者を区別することができた。特に、分子マーカーdj1b−11の場合には、コシヒカリでは約200bpのPCR産物が得られるのに対して、ハバタキでは約230bpのPCR産物が得られていた。また、dj1b−12マーカー、dj1b−20マーカー、及びdj1b−23マーカーの場合には、ハバタキのPCR産物よりもコシヒカリのPCR産物が小さく、コシヒカリのPCR産物は各制限酵素により切断されたのに対して。ハバタキのPCR産物は切断されなかったことが確認された。
これらの結果から、表1に記載のこれらの分子マーカーを用いることにより、イネ個体のhbd3を含む遺伝子座の遺伝子型を調べられること、調べた結果を当該イネ個体の弱勢の判定に利用できること、が明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のイネの弱勢判定方法や親個体の選抜方法は、特にイネの育種の分野において利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネに属する植物が弱勢か否かを判定する方法であって、
植物細胞のゲノム中のCKI1(casein kinase I)遺伝子の塩基配列を調べる工程を有することを特徴とする、イネの弱勢判定方法。
【請求項2】
前記CKI1遺伝子の塩基配列が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含む場合に、前記植物細胞が採取された植物個体、又は前記植物細胞が分化して得られる植物個体は弱勢ではないと判定することを特徴とする、請求項1記載のイネの弱勢判定方法。
【請求項3】
イネに属する植物が弱勢か否かを判定する方法であって、
植物個体又は植物細胞における、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量を調べる工程を有することを特徴とする、イネの弱勢判定方法。
【請求項4】
前記植物細胞が、イネ品種コシヒカリ由来の染色体断片とイネ品種ハバタキ由来の染色体断片とを含んでおり、
さらに、前記植物細胞の遺伝子型がhbd3/hbd3であるか否かを調べる工程を有することを特徴とする、請求項1記載のイネの弱勢判定方法。
【請求項5】
ゲノム中のCKI1遺伝子の塩基配列が、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列であり、かつ、前記未分化細胞の遺伝子型がhbd3/hbd3である場合に、前記植物細胞が採取された植物個体、又は前記植物細胞が分化して得られる植物個体が弱勢であると判定することを特徴とする、請求項4記載のイネの弱勢判定方法。
【請求項6】
イネに属する植物に、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現し得る発現ベクターを導入し、形質転換することを特徴とする、弱勢な植物の作製方法。
【請求項7】
ゲノム中に、イネ品種コシヒカリ由来の染色体断片を含む植物細胞に、前記発現ベクターを導入することを特徴とする、請求項6記載の弱勢な植物の作製方法。
【請求項8】
イネの育種に用いられる親個体を選抜する方法であって、
(a)候補植物個体のゲノム中のCKI1(casein kinase I)遺伝子の塩基配列、又は、
(b)候補植物個体が、hbd3ホモ接合体、Hbd3/hbd3ヘテロ接合体、Hbd3ホモ接合体のいずれであるか、
の少なくともいずれかの結果に基づいて選抜することを特徴とする、親個体の選抜方法。
【請求項9】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターが導入された形質転換細胞。
【請求項10】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項11】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含む塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項12】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項13】
請求項12記載の発現ベクターが導入された形質転換細胞。
【請求項14】
請求項12記載の発現ベクターが導入された形質転換植物。
【請求項15】
イネ品種であることを特徴とする、請求項14記載の形質転換植物。
【請求項16】
イネ品種コシヒカリ、又はイネ品種コシヒカリ由来の染色体断片を有する植物であることを特徴とする、請求項14記載の形質転換植物。
【請求項17】
配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現し得る発現ベクターが導入された形質転換細胞を培養し、得られた培養物から、前記ポリペプチドを回収する工程を有することを特徴とする、組換えタンパク質の製造方法。
【請求項18】
配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと特異的に結合する抗体。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−155966(P2011−155966A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127255(P2010−127255)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】