説明

イネ萎縮ウイルスの感染に必須なイネ遺伝子

【課題】 イネ萎縮ウイルス抵抗性および/またはいもち病菌抵抗性のイネの作出方法を確立し、イネ萎縮ウイルスに対する抵抗性および/またはいもち病菌抵抗性を有する品種を得ること。
【解決手段】 本発明により、RIM1配列が提供され、イネ萎縮病およびいもち病の処置または予防において有用な標的およびそれによるスクリーニング法、ならびにその方法によって同定される医薬を用いて、イネ萎縮病およびいもち病に関連する病害を処置することができるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネ萎縮ウイルス抵抗性イネの作出方法に関する。より具体的には、イネ萎縮ウイルスの複製に必要なウイルスの宿主である、イネの核酸分子であるイネRIM1核酸分子を用いた、イネ萎縮ウイルス抵抗性イネの作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネ萎縮ウイルスがヨコバイによって伝播され、虫体内で増殖することが、1930年代に証明された(非特許文献1=Fukishi,T:J,Fac.Hokkaido Imp. Univ. 45, 83−154 (1940))。様々なウイルスについて生物学的に多様な伝搬形式が明らかになってきている。昆虫を媒介者とする植物ウイルスは、その伝搬様式によって、4つに大別されている(非特許文献2=上田一郎および玉田哲男「植物ウイルスと媒介生物の相互関係」 細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ 分子レベルからみた植物の耐病性−植物と病原菌の相互作用に迫る− 156〜165 1997年)。
【0003】
イネ萎縮病の防除は、媒介昆虫であるツマグロヨコバイ等のヨコバイ類を薬剤処理することによって実施してきた。一旦、イネ萎縮病が発生すると、数年間その発生が終焉しない。そのため、薬剤処理によるイネ萎縮病の防除を実施しようとすると、大量の薬剤を使用しなければならず、環境汚染を起こす結果となる。
【0004】
イネ萎縮ウイルスの防除の代替的な手段としては、抵抗性品種の利用が最も有効な方法のひとつとして考えられるが、イネ萎縮病の病原であるイネ萎縮ウイルスに対する抵抗性品種は未だ報告されていない。
【非特許文献1】Fukishi,T:J,Fac.Hokkaido Imp. Univ. 45, 83−154 (1940)
【非特許文献2】上田一郎および玉田哲男「植物ウイルスと媒介生物の相互関係」 細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ 分子レベルからみた植物の耐病性−植物と病原菌の相互作用に迫る− 156〜165 1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、イネ萎縮ウイルス抵抗性イネの作出方法を確立し、イネ萎縮病ウイルスに対する抵抗性を有する品種を得ることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、イネ品種日本晴の内在性レトロトランスポゾンTos17による遺伝子破壊系統(ミュータントパネル)を用いて、イネ萎縮ウイルスの感染・増殖に関与する遺伝子を単離し、イネのウイルス病抵抗性育種素材の作出法を開発した。
【0007】
上述のイネ遺伝子破壊系統の一つはイネ萎縮ウイルスに対する感受性に変化が生じ、本ウイルるスに対し、抵抗性を示した。この抵抗性を示した個体において、Tos17の挿入により破壊された遺伝子の配列を解析した。さらに、この遺伝子を用いて、上記遺伝子破壊系統の形質転換を行ったところ、イネ萎縮ウイルスに対する感染性が野生型日本晴と同等に復帰した。このことにより、得られた遺伝子がイネ萎縮ウイルスの増殖に関与する遺伝子であると結論された。上述の遺伝子構造を解析したところ、2種のmRNAの存在が確認された8、図4および図5)。本発明者らは、上述の遺伝子をRice dwarf virus multiplication 1(RIM1)と命名した。また、この遺伝子の破壊系統では、いもち病に対しても抵抗性を獲得していることが示された。
【0008】
したがって、本願発明の方法に従うと、本遺伝子の機能を改変することによってイネ萎縮ウイルスといもち病に対する抵抗性を付与し得る。
【0009】
つまり、RIM1遺伝子の発現制御により、イネ萎縮ウイルスに対する抵抗性を付与することが可能であり、農業分野で利用され得る。
【0010】
上述のRIM1遺伝子を破壊した系統は葉先が捻れ、植物体の生長も抑制される場合がある。この問題が、組織、器官特異的なRIM1遺伝子の発現量の低下によるのであれば、RNAi、コサプレション、アンチセンスサプレションなどにより、RIM1遺伝子の発現を適度に抑制させ、それらRIM1遺伝子抑制株の中からRDV抵抗性系統を選出することによって、所望するイネ萎縮病ウイルスに対して耐性である品種を作出し得る。また、RDV抵抗性と生育、形態形成に関与するRIM1の作用点が異なるのであれば、ドミナントネガティブアレルを検索することによって、所望するイネ萎縮病ウイルスに対して耐性である品種が得られ得る。
【0011】
したがって、本発明は、以下を提供する。
(項目1)
(a)配列番号1または配列番号3に示す塩基配列;
(b)該(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;
(c)該(a)の塩基配列において、1または複数の置換、付加または欠失を有し、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;
(d)該(a)の塩基配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有し、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;
(e)該(a)の塩基配列からなる核酸分子の種相同体、スプライス変異体または対立遺伝子変異体をコードし、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列、および
(f)(a)〜(e)からなる群より選択される塩基配列のフラグメント
からなる群より選択される配列を含む、核酸分子。
(項目2) 前記生物学的機能は、植物におけるイネ萎縮ウイルスの増殖への関与および前記核酸分子の破壊によりイネ萎縮ウイルスに対する抵抗性が付与されることからなる群より選択される、項目1に記載の核酸分子。
(項目3) 前記抵抗性は、前記核酸分子における塩基配列の少なくとも一部が破壊されることもしくは発現が抑制されること、または該核酸分子によってコードされるポリペプチドの発現が抑制されることによって、付与される、項目2に記載の核酸分子。
(項目4) 前記生物学的機能は、植物におけるいもち病菌の増殖への関与および前記核酸分子の破壊によりいもち病菌に対する抵抗性が付与されることからなる群より選択される、項目1に記載の核酸分子。
(項目5) 前記抵抗性は、前記核酸分子における塩基配列の少なくとも一部が破壊されることもしくは発現が抑制されること、または該核酸分子によってコードされるポリペプチドの発現が抑制されることによって、付与される、項目4に記載の核酸分子。
(項目6) 前記生物学的機能は、イネ萎縮病に対する耐性を含む、項目1に記載の核酸分子。
(項目7) 前記生物学的機能は、いもち病に対する耐性を含む、項目1に記載の核酸分子。
(項目8) イネ萎縮ウイルスに対する抵抗性およびいもち病菌に対する抵抗性からなる群より選択される少なくとも1つの抵抗性を付与することができる因子であって、該因子は、項目1に記載の核酸分子の機能を阻害する機能を有する、因子。
(項目9) 前記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項目8に記載の因子。
(項目10) 前記因子は、項目1に記載される核酸分子と相互作用するか、または項目1に記載される核酸分子によってコードされるポリペプチドと相互作用することを特徴とする、項目8に記載の因子。
(項目11) 前記因子は、項目1に記載される核酸分子のアンチセンス核酸分子またはRNAi分子であるか、あるいは項目1に記載される核酸分子によってコードされるポリペプチドに対する抗体であることを特徴とする、項目8に記載の因子。
(項目12) 前記因子を特異的部位に送達させる手段をさらに含む、項目8に記載の因子。
(項目13) 前記手段は、前記特異的部位に特異的に前記核酸分子を発現させるものである、項目12に記載の因子。
(項目14) 前記手段は、プロモーターである、項目13に記載の因子。
(項目15) 項目1に記載の核酸分子を含む、ベクター。
(項目16) 項目1に記載の核酸分子の機能を阻害する阻害核酸分子を含む、ベクター。
(項目17) 前記阻害核酸分子は、ドミナントネガティブ実験における条件下において、項目1に記載の核酸分子または該核酸分子の発現を調節する配列とハイブリダイズすることを特徴とする、項目16に記載のベクター。
(項目18) 前記阻害核酸分子は、リプレッションドメインをコードする領域を含む、項目16に記載のベクター。
(項目19) 前記阻害核酸分子の発現を特異的部位においてのみ起こさせるためのプロモーターをさらに含む、項目16に記載のベクター。
(項目20) 項目1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物細胞。
(項目21) 項目1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物組織。
(項目22) 項目1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物器官。
(項目23) 項目1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物体。
(項目24) 項目1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物種子。
(項目25) イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を有する植物を作出する方法であって、
(A)目的とする植物において、項目1に記載の核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程
を包含する、方法。
(項目26) さらに、(B)イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を有する植物を選択する工程を包含する、項目25に記載の方法。
(項目27) 前記発現が抑制された植物を再生させる工程をさらに包含する、項目25に記載の方法。
(項目28) 前記抑制は、ジーンサイレンシング技術またはドミナントネガティブ法によって達成される、項目25に記載の方法。
(項目29) 前記ジーンサイレンシング技術は、RNAi、コサプレッション、リボザイム、キメラオリゴ、アンチセンスサプレッションおよびそれらの組合せからなる群より選択される、項目28に記載の方法。
(項目30) 前記植物は、イネ科植物である、項目25に記載の方法。
(項目31) 前記植物は、イネ属植物である、項目25に記載の方法。
(項目32) 前記植物は、イネである、項目25に記載の方法。
(項目33) 前記植物は、ジャポニカ種のイネである、項目25に記載の方法。
(項目34) イネ萎縮病に対して耐性を有する植物を作出する方法であって、
(A)目的とする植物において、項目1に記載の核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程
を包含する、方法。
(項目35) いもち病菌に対して抵抗性を有する植物を作出する方法であって、
(A)目的とする植物において、項目1に記載の核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程
を包含する、方法。
(項目36) さらに、(B)イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を有する植物を選択する工程を包含する、項目35に記載の方法。
(項目37) 前記発現が抑制された植物を再生させる工程をさらに包含する、項目35に記載の方法。
(項目38) 前記抑制は、ジーンサイレンシング技術またはドミナントネガティブ法によって達成される、項目35に記載の方法。
(項目39) 前記ジーンサイレンシング技術は、RNAi、コサプレッション、リボザイム、キメラオリゴ、アンチセンスサプレッションおよびそれらの組合せからなる群より選択される、項目38に記載の方法。
(項目40) 前記植物は、イネ科植物である、項目35に記載の方法。
(項目41) 前記植物は、イネ属植物である、項目35に記載の方法。
(項目42) 前記植物は、イネである、項目35に記載の方法。
(項目43) 前記植物は、ジャポニカ種のイネである、項目35に記載の方法。
(項目44) いもち病に対して耐性を有する植物を作出する方法であって、
(A)目的とする植物において、項目1に記載の核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程
を包含する、方法。
(項目45) 項目25、34、35または44のいずれか1項に記載の方法によって作出された、植物。
(項目46) イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を付与させる因子をスクリーニングするための方法であって、該方法は:
A)因子の候補を提供する工程;
B)該候補と項目1に記載の核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;
C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、
を包含する、方法。
(項目47) イネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子をスクリーニングするための方法であって、該方法は:
A)因子の候補を提供する工程;
B)該候補と項目1に記載の核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;
C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、
を包含する、方法。
(項目48) いもち病菌に対して抵抗性を付与させる因子をスクリーニングするための方法であって、該方法は:
A)因子の候補を提供する工程;
B)該候補と項目1に記載の核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;
C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、
を包含する、方法。
(項目49) いもち病に対して耐性を付与させる因子をスクリーニングするための方法であって、該方法は:
A)因子の候補を提供する工程;
B)該候補と項目1に記載の核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;
C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、
を包含する、方法。
(項目50) 項目46から49のいずれか1項に記載の方法によって同定された因子。
(項目51) 項目1に記載の核酸分子がコードするポリペプチド。
(項目52) 項目1に記載の核酸分子の、イネ萎縮病ウイルスに対する抵抗性を付与するための使用。
(項目53) 項目1に記載の核酸分子の、イネ萎縮病に対する耐性を付与するための使用。
(項目54) 項目1に記載の核酸分子の、いもち病菌に対する抵抗性を付与するための使用。
(項目55) 項目1に記載の核酸分子の、いもち病に対する耐性を付与するための使用。
(項目56) 項目1に記載の核酸分子と相互作用する因子の、イネ萎縮病ウイルスに対する抵抗性を付与するための使用。
(項目57) 項目1に記載の核酸分子と相互作用する因子の、イネ萎縮病に対する耐性を付与するための使用。
(項目58) 項目1に記載の核酸分子と相互作用する因子の、いもち病菌に対する抵抗性を付与するための使用。
(項目59) 項目1に記載の核酸分子と相互作用する因子の、いもち病に対する耐性を付与するための使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、イネ萎縮病およびいもち病の処置または予防において有用な標的およびそれによるスクリーニング法、ならびにその方法によって同定される生体分子を用いて、イネ萎縮病およびいもち病に関連する病害を処置することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞または形容詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0015】
本明細書において「イネ萎縮病」とは、植物ウイルス病の一種であって、その原因となるイネ萎縮ウイルス(RDV)は昆虫によって伝播される(例えば、体内にRDVを保毒した、ツマグロヨコバイ、クロスジツマグロヨコバイまたはイナズマヨコバイなどが、イネの汁液を吸うために口吻をイネに刺すときに、このイネ萎縮ウイルスがイネに感染する)。この植物ウイルス病にかかったイネは、斑紋を生じ、背丈が伸びなくなる。
【0016】
本明細書において「ウイルス」とは、核酸とタンパク質を主要な構成要素とする微小構造体をいう。ウイルスは、ゲノムの種類および構造、ウイルスを含む膜(「エンベロープ」)の有無、感染宿主などに基づいて分類される。その分類方法としては、例えば、国際ウイルス分類委員会(International Committer on Taxonomy of Viruses(ICTV))による分類法が挙げられる。ウイルス粒子は、ビリオンとも呼ばれ、その大きさは、約20〜約300nmである。
【0017】
本明細書において「構造タンパク質」とは、ウイルス粒子を構成するタンパク質をいい、他方、ウイルスゲノムにコードされるが、粒子を構成しないタンパク質を「非構造タンパク質」という。
【0018】
本明細書中において「病原体」、「生物学的病原」、または「病原菌」とは、植物に病害を引き起こす原因であって、伝染性のものをいう。この病原体としては、例えば、糸状菌(カビ・菌類)、細菌、ウイルス、ウイロイド、ファイトプラズマ、リケッチア様微生物、線虫、原虫などが挙げられる。
【0019】
本明細書において「イネ萎縮ウイルス(Rice dwarf virus(RDV))」とは、レオウイルス科(Reoviridae)ファイトレオウイルス属(Phytoreovirus)のウイルスである。イネ萎縮ウイルスは、イネ萎縮病の原因となる。このイネ萎縮病は、昆虫によって伝搬される。イネ萎縮ウイルスは、12本のゲノムセグメント(S1〜S12)を有する。S1、S2、S3、S5、S7およびS8が、粒子を構成する構造タンパク質である、P1、P2、P3、P7およびP8をコードしていることが知られている(Suzuki,N.:Seminars in Virology 6:89−95)。上記イネ萎縮病を媒介するウイルスであり、体内にRDVを保毒した、ツマグロヨコバイ、クロスジツマグロヨコバイまたはイナズマヨコバイなどが、イネの汁液を吸うために口吻をイネに刺すときに、このイネ萎縮ウイルスがイネに感染する。この植物ウイルス病にかかったイネは、斑紋を生じ、背丈が伸びなくなる。
【0020】
本明細書において「レオウイルス」とは、ウイルスの一科であって、代表的には、そのウイルス粒子は直径70nm程度の正二十面体状である。このレオウイルスのゲノムは、10〜12分節の二本鎖RNAであることが知られている。各RNA分節からおおむね1種類のタンパク質がコードされる。キャプシド内部にRNAポリメラーゼを含み感染直後のウイルスmRNA合成に関与する。レオウイルス科のウイルスは、動物、昆虫、植物、の幅広い宿主に分布しているウイルスである。レオウイルスに属するウイルスとしては、例えば、オルトレオウイルス属(Orthoreovirus.1〜3型,レオウイルスなど)、オルビウイルス属(Orbivirus.1型ブルータングウイルスなど)、ロタウイルス属(Rotavirus.乳児胃腸炎ウイルス、仔ウシ下痢症ウイルスほか多種動物のロタウイルス)、ファイトレオウイルス属(Phytoreovirus)などが挙げられる。
【0021】
本明細書において「イネ萎縮ウイルスの増殖への関与」は、イネ萎縮ウイルスの植物内での増殖に直接または間接的に関与することを含み、例えば、ウイルスの細胞内への侵入、細胞内での生存、維持、増幅、分泌等を含むことが理解される。
【0022】
本明細書において「いもち病」とは、温帯地帯におけるイネの最大病害であって、病原体の寄生などによって起こる植物の病気である。その病原体は、Pyricularia属菌であり、この病原体は、古くは完全時代(有性生殖期)が見つからずに不完全菌類として扱われたが、最近完全時代が見つかり、子嚢菌の1種であることが明らかにされた。このようないもち病としては、例えば、イネいもち病、トウモロコシいもち病、シコクビエいもち病などが挙げられる。イネいもち病の病原菌は、P.oryzae cavaraで、自然条件下では分生子だけを形成し,長い間完全時代が不明であったが,人工培地上で本菌の完全時代が発見され、Magnaporthe grisea(Hebert)Barrとされている。イネいもち病はイネの最も重要な病気の1つであって、夏期の低温、曇天、多雨などの異常気象の際に大発生することが知られている。この病気の発生時期は、イネの生育の全期間に及ぶ。イネいもち病は、その発病する部位に応じて、苗いもち、葉いもち、節いもち、穂首いもち、穂いもちなどに分類される。特に、いもち病が穂に発生すると、イネの収量、品質とも著しく低下する。
【0023】
本明細書において「いもち病菌」とは、いもち病を媒介する菌をいう。Pyricularia属菌であり、子嚢菌の1種である。イネいもち病の病原菌は、P.oryzae cavaraを含む。
【0024】
本明細書において、ウイルス(例えば、イネ萎縮ウイルス)または菌(例えば、いもち病菌)に対する「抵抗性」または「耐性」とは、ウイルスまたは菌が侵入しようとする宿主生体(本明細書では、植物)が、ウイルスまたは菌の侵入に対して抵抗力を持つことをいう。本明細書では、抵抗力とは、宿主生体の通常の生存・増殖が維持される程度の性質のほか、その宿主生体の生存が維持されている限り、抵抗力を有するとみなす。
【0025】
本明細書において、病害(例えば、イネ萎縮病またはいもち病)に対する「耐性」または「抵抗性」とは、その病害に対して宿主生体(本明細書では、植物)が抵抗力を持つことをいう。従って、ウイルスまたは菌の侵入を許したとしても、そのようなウイルスまたは菌との共存が図られる限り、病害に対する耐性はあるといえる。
【0026】
本明細書では、特に言及するときは、抵抗性は、ウイルスまたは菌に対する性質をいい、耐性は病害に対する性質をいうが、交換可能に使用され得ることが理解される。
【0027】
本明細書において、「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。このような植物には、任意の有用植物、特に作物植物、蔬菜植物、および花卉植物が含まれる。好ましい植物としては、例えば、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガムなどのイネ科に属する単子葉植物が挙げられる。好ましい植物のほかの例としては、タバコ、ピーマン、ナス、メロン、トマト、サツマイモ、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ニンジン、キュウリ、柑橘類、白菜、レタス、モモ、ジャガイモおよびリンゴが挙げられる。本発明にとって最も好ましい植物としては、イネである。好ましい植物は作物に限られず、花、樹木、芝生、雑草なども含まれる。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物組織の例としては、維管束組織(篩部組織、木部組織などを含む)、頂端分裂組織、葉肉組織、厚角組織、柔組織などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0028】
本明細書において生物の「器官」とは、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。例えば、茎、根、葉、花、種子などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0029】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、器官の一部であり得る。器官内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
【0030】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
【0031】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0032】
本明細書では「核酸分子」もまた、核酸、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。したがって、本明細書では、たとえば、本発明の遺伝子には、そのスプライス変異体もまた包含され得る。
【0033】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、遺伝子というときは、通常、本発明の遺伝子の構造遺伝子ならびにそのプロモーターなどの転写および/または翻訳の調節配列の両方を包含する。本発明では、構造遺伝子のほか、転写および/または翻訳などの調節配列もまた、神経再生、神経疾患の診断、治療、予防、予後などに有用であることが理解される。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0034】
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0035】
本明細書において「アミノ酸誘導体」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのようなアミノ酸誘導体およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。本明細書では、アミノ酸誘導体およびアミノ酸アナログは、アミノ酸と同じ生物学的機能を提供し得る限り代替として使用され得ることが理解される。
【0036】
本明細書において「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。
【0037】
本明細書において「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。
【0038】
本明細書において「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
【0039】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。ヌクレオチドの配列は、本明細書において「ヌクレオチド配列」または「塩基配列」という。
【0040】
本明細書において「ヌクレオチド誘導体」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのようなヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのようなヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。本明細書では、ヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログは、ヌクレオチドと同じ生物学的機能を提供し得る限り、ヌクレオチドの代替として使用され得ることが理解される。
【0041】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
【0042】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0043】
本明細書において、「対応する」アミノ酸とは、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。
【0044】
本明細書において、「対応する」遺伝子とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子(例えば、RIM1)に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、イネの遺伝子に対応する遺伝子は、他の植物(コムギ、トウモロコシ、オオムギ、ソルガムなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある植物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子の配列をクエリ配列として用いてその植物(例えば、イネ、ソルガム)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
【0045】
本明細書中で使用される「異種」とは、異なる配列または対応しない配列、あるいは異なる種由来の配列である、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列をいう。例えば、イネのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は、ヒトのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に対して異種であり、そしてヒトの核酸配列またはアミノ酸配列は、ヒトアルブミンのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に対して異種である。
【0046】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0047】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本発明においては、例えば、植物におけるイネ萎縮ウイルスの増殖への関与、イネ萎縮ウイルスに対する抵抗性または感受性への関与、イネ萎縮病に対する耐性、植物におけるいもち病菌の増殖への関与、いもち病菌に対する抵抗性または感受性への関与、いもち病に対する耐性、これらの具体的な機能について直接的または間接的に関連する機能(例えば、ウイルスタンパク質との結合など)などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子との間の結合およびそれによって生じる生物学的変化、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。したがって、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。
【0048】
したがって、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が、挙げられる。
【0049】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物質についていうとき、一方の物質と他方の物質との間で力(例えば、分子間力(ファンデルワールス力)、水素結合、疎水性相互作用など)を及ぼしあうこという。通常、相互作用をした2つの物質は、会合または結合している状態にある。
【0050】
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つのタンパク質もしくは化合物または関連するタンパク質もしくは化合物の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
【0051】
本明細書中で使用される用語「調節する(modulate)」または「改変する(modify)」は、特定の活性、因子またはタンパク質の量、質または効果における増加または減少あるいは維持を意味する。
【0052】
本明細書において第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」とは、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して、第二の物質または因子以外の物質または因子(特に、第二の物質または因子を含むサンプル中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用することをいう。物質または因子について特異的な相互作用としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、リガンド−レセプター反応、酵素−基質反応など、核酸およびタンパク質の両方が関係する場合、転写因子とその転写因子の結合部位との反応など、タンパク質−脂質相互作用、核酸−脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター−リガンド反応による相互作用、酵素−基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、転写因子と、その転写因子が対象とする核酸分子の結合領域との間の相互作用が包含される。したがって、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に相互作用する因子」とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。本明細書において「因子」(agent)としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)などであって、代表的には分子量約10,000以下のもの(例えば、約1,000以下のもの)をさすがそれらに限定されない。)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0053】
本明細書において「Tos17」とは、本明細書中で使用される場合、レトロトランスポゾンの一種を表す。イネのレトロトランスポゾンTos17が培養によって活性化され転移をする性質を利用して、イネの多数の遺伝子破壊系統が作出されている。「トランスポゾン」は、動物、酵母、細菌および植物のゲノムに遍在することが知られる変異誘発遺伝子である。トランスポゾンは、その転移(transposition)機構により2つのクラスに分類されている。クラスIIに属するトランスポゾンは、複製することなくDNAの形態で転移する。クラスIIに属するトランスポゾンとして、トウモロコシ(Zeamays)のAc/Ds、Spm/dSpmおよびMu要素(Fedoroff、1989、Cell56、181−191;Fedoroffら、1983、Cell35、235−242;Schiefelbeinら、1985、Proc.Natl.Acad.Sci.USA82、4783−4787)、キンギョソウ(Antirrhinummajus)のTam要素(Bonasら、1984、EMBOJ、3、1015−1019)が知られている。クラスIIに属するトランスポゾンは、トランスポゾン・タッギングを利用する遺伝子単離に広く利用されている。この技術は、トランスポゾンがゲノム上で転移して、ある遺伝子 中に挿入されると遺伝子の生理学的および形態学的変異が起こり、遺伝子が制御する表現型が変化することを利用する。この変化を検出することにより影響を受けた遺伝子を単離する(Bancroftら、1993、The PlantCell、5、631−638;Colasantiら、1998、Cell、93、593−603;Grayら、1997、Cell、89、25−31;Keddieら、1998、The Plant Cell、10、877−887;Whithamら、1994、Cell、78、1101−1115)。
【0054】
クラスIに属するトランスポゾンは、レトロトランスポゾンとも呼ばれ、RNA中間体を介して複製し、転移する。しかクラスIトランスポゾンは、最初、ショウジョウバエおよび酵母で同定され、そして特徴付けられたが、最近の研究により植物ゲノム中に遍在し、そのかなりの部分を占めていることが明らかにされている(Bennetzen、1996、Trends Microbiol.、4、347−353;Voytas、1996、Science、274、737−738)。レトロトランスポゾンの大部分は、非移動性の組み込みユニットであるようである。最近の研究は、これらのいくつかが、創傷、病原体の攻撃および細胞培養などのストレス条件下で活性化されることを示している(Grandbastien、1998、Trends in PlantScience、3、181−187;Wessler、1996、Curr.Biol.6、959−961;Wesslerら、1995、Curr.Opin.Genet.Devel.5、814−821。例えば、タバコではTnt1AおよびTto1(Pouteauら、1994、PlantJ.、5、535−542;Takedaら、1988、Plant Mol.Biol.、36、365−376)、およびイネではTos17(Hirochikaら、1996、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93、7783−7788)について、ストレス条件下における活性化が報告されている。
【0055】
イネのレトロトランスポゾンTos17は、最も良く研究されている植物中のクラスI要素である。Tos17は、Ty1−copia群レトロ要素の間の逆転写酵素ドメインの保存アミノ酸配列を基に作成された縮重プライマーを用いたRT−PCR法によりクローン化された(Hirochikaら、1992、Mol. Gen.Genet.、233、209−216)。Tos17は、4.3kbの長さの、2つの同じ138bpのLTR(長鎖末端反復)および開始メチオニンtRNAの3’末端に相補的なPBS(プライマー結合部位)を持つ(Hirochikaら、1996、上述)。Tos17の転写は、組織培養により強く活性化され、そして培養時間とともにTos17のコピー数が増加する。ゲノム研究のモデルジャポニカ品種である日本晴では、Tos17の当初のコピー数は2であるが、組織培養後、再生した植物では、5〜30コピーに増加している(Hirochikaら、1996、上述)。酵母およびショウジョウバエで特徴付けられたクラスIトランスポゾンとは異なり、Tos17は、染色体中をランダムな様式で転移し、そして安定な変異を引き起こし、そしてそれ故、イネにおける遺伝子 の機能解析の強力なツールを提供する(Hirochika、1997、PlantMol.Biol.35,231−240;1999、Molecular Biology ofRice(K.Shimamoto編集、Springer−Verlag、43−58)。
【0056】
本明細書において「ミュータントパネル」とは、変異の集合体を意味し、より具体的には、イネの内在性レトロトランスポゾンTos17を転移させて作製したイネ品種「日本晴」遺伝子破壊系統を総称する。イネにおいては、イネレトロトランスポゾンTos17が、培養により活性化され、遺伝子内に転移する(Hirochikaら、Proc.Natl. Acad.Sci.USA、93、7783−7788(1996))ことから、イネの大量遺伝子破壊の手段として利用されている。
【0057】
本明細書中で使用される「接触(させる)」とは、化合物を、直接的または間接的のいずれかで、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して物理的に近接させることを意味する。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、多くの緩衝液、塩、溶液などに存在し得る。接触とは、核酸分子またはそのフラグメントをコードするポリペプチドを含む、例えば、ビーカー、マイクロタイタープレート、細胞培養フラスコまたはマイクロアレイ(例えば、遺伝子チップ)などに化合物を置くことが挙げられる。
【0058】
本明細書において「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらの断片、例えばF(ab’)およびFab断片、ならびにその他の組換えにより生産された結合体を含む。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。
【0059】
本明細書において「抗原」(antigen)とは、抗体分子によって特異的に結合され得る任意の基質をいう。本明細書において「免疫原」(immunogen)とは、抗原特異的免疫応答を生じるリンパ球活性化を開始し得る抗原をいう。
【0060】
本明細書において「複合分子」とは、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子をいう。そのような複合分子としては、例えば、糖脂質、糖ペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、配列番号2のアミノ酸を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントであって、イネ萎縮ウイルスの増殖に関与する生物学的な活性を有する限り、それぞれの改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸分子も使用することができる。また、そのような核酸分子を含む複合分子も使用することができる。
【0061】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、細胞、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0062】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、細胞、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0063】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0064】
本明細書において「純化(された)」および「クローニング(された)」とは、互換可能に用いられる。「純化(された)」および「クローニング(された)」とは、ある物質または核酸の状態についていい、その核酸の存在頻度を高い状態にすることであって、好ましくは、その物質または核酸が、他の種類の物質または核酸が実質的に伴わない状態をいう。本明細書において「純化」および「クローニング」に関する文脈において使用される場合、他の種類の物質または核酸が「実質的に伴わない状態」とは、それら他の種類の物質または核酸が全く存在しない状態か、または存在するとしても、目的の物質または核酸に対して、何ら影響を与えない状態をいう。従って、より好ましい状態では、純化された核酸または核酸組成物は、ある特定の核酸のみを含む。
【0065】
本明細書で使用される場合、「遺伝子導入」とは、生体内またはインビトロにおいて、標的細胞内に、天然、合成または組換えの所望の遺伝子または遺伝子断片を、導入された遺伝子がその機能を維持するように、導入することをいう。本発明において導入される遺伝子または遺伝子断片は、特定の配列を有するDNA、RNAまたはこれらの合成アナログである核酸を包含する。また、本明細書において使用される場合、遺伝子導入、形質転換、トランスフェクション、およびトランスフェクトは、互換可能に使用される。
【0066】
本明細書で使用される場合、「遺伝子導入ベクター」および「遺伝子ベクター」は互換可能に使用される。「遺伝子導入ベクター」および「遺伝子ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。「遺伝子導入ベクター」および「遺伝子ベクター」としては、ウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書で使用される場合、「遺伝子導入活性」とは、ベクターによる「遺伝子導入」の活性をいい、導入された遺伝子の機能(例えば、発現ベクターの場合、コードされるタンパク質の発現および/またはそのタンパク質の活性など)を指標として検出され得る。
【0068】
本明細書で使用される場合、「不活性化」とは、ゲノムを不活性化したウイルスをいう。この不活性化ウイルスは、複製欠損である。好ましくは、この不活性化は、UV処理またはアルキル化剤による処理によって、なされる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「外来遺伝子」とは、ウイルスエンベロープベクター内に含まれるウイルス以外の起源の核酸などをいう。本発明の1つの局面において、この外来遺伝子は、遺伝子導入ベクターによって導入された遺伝子が発現するために適切な調節配列(例えば、転写に必要なプロモーター、エンハンサー、ターミネーター、およびポリA付加シグナル、ならびに翻訳に必要なリボゾーム結合部位、開始コドン、終止コドンなど)と作動可能に連結される。本発明の別の局面において、外来遺伝子は、この外来遺伝子の発現のための調節配列を含まない。本発明のさらなる局面において、外来遺伝子は、オリゴヌクレオチドまたはデコイ核酸である。
【0070】
遺伝子導入ベクター内に含まれる外来遺伝子は、代表的にはDNAまたはRNAの核酸分子であるが、導入される核酸分子は、核酸アナログ分子を含んでもよい。遺伝子導入ベクター内に含まれる分子種は、単一の遺伝子分子種であっても、複数の異なる遺伝子分子種であってもよい。
【0071】
本明細書で使用される場合、「遺伝子ライブラリー」とは、天然より単離された核酸配列または合成の核酸配列を含む、核酸ライブラリーである。天然より単離された核酸配列の供給源としては、真核生物細胞、原核生物細胞、またはウイルス由来の、ゲノム配列、cDNA配列が挙げられるが、これらに限定されない。天然より単離された配列に、任意の配列(例えば、シグナル、タグなど)を付加したライブラリーもまた、本発明の遺伝子ライブラリーに含まれる。1つの実施態様において、遺伝子ライブラリーは、その中に含まれる核酸配列の、転写および/または翻訳をもたらすプロモーターなどの配列を含む。
【0072】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなど遺伝子産物の「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0073】
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「増加」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチドの発現量の増加を含む。本明細書において遺伝子の「発現」の「誘導」とは、ある細胞にある因子を作用させてその遺伝子の発現量を増加させることをいう。したがって、発現の誘導は、まったくその遺伝子の発現が見られなかった場合にその遺伝子が発現するようにすること、およびすでにその遺伝子の発現が見られていた場合にその遺伝子の発現が増大することを包含する。このような遺伝子または遺伝子産物(ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)の発現の増加または減少は、本発明の治療形態、予後形態または予防形態において有用であり得る。
【0074】
本明細書において「特異的部位に送達」させるとは、目的物質を、ある特定の部位に対して、他の部位よりも多く送達させることをいう。そのような手段としては、例えば、核酸分子における特異的プロモーターの使用、薬物送達システム(DDS)(例えば、リポソーム、シクロデキストリン、抗体など)の使用、特異的リガンドの使用などを挙げることができるが、それらに限定されない。
【0075】
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、動物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
【0076】
本明細書において「アンチセンス(活性)」とは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制または低減することができる活性をいう。アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列を有する分子を本明細書において「アンチセンス分子」、「アンチセンス核酸分子」または「アンチセンス核酸」と称し、これらは互換的に使用される。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、もっとも好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。本明細書中で開示される核酸配列(例えば、配列番号1または3)が与えられれば、本発明のアンチセンス核酸は、WatsonおよびCrick塩基対形成の法則またはHoogsteen塩基対形成の法則に従い設計され得る。アンチセンス核酸分子は、シグナル伝達因子のmRNAの全コード領域に相補的であり得るが、より好ましくは、mRNAのコード領域または非コード領域の一部のみに対してアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAの翻訳開始部位の周辺の領域に相補的であり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、または約50ヌクレオチド長であり得る。本発明のアンチセンス核酸は、当該分野で公知の手順を用いて、化学合成または酵素的連結反応を用いて構築され得る。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するヌクレオチド、またはその分子の生物学的安定性を増加させるかもしくはアンチセンス核酸とセンス核酸との間で形成された二本鎖の物理的安定性を増加させるように設計された種々の改変ヌクレオチドを用いて(例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドが使用され得る)化学合成され得る。アンチセンス核酸を生成するために使用され得る改変ヌクレオチドの例として、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルキューオシン(queosine)、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルキューオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキシン(wybutoxosine)、プソイドウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6−ジアミノプリンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0077】
本明細書において「ドミナントネガティブ」とは、発現すると変異型の表現型(特に、もとの遺伝子の抑制型)になることになることをいう。例えば、転写因子の代わりに、抑制因子に機能変換した転写因子を用いると、機能重複する転写因子に優先して標的遺伝子の発現を抑制し、ドミナントネガティブ型の表現型をもたらす。ドミナントネガティブ技術においてリプレッションドメイン(例えば、アミノ酸配列LDLELRLGFA)を用いることによって、目的とする核酸分子の転写を抑制することができる。
【0078】
本明細書中で使用される場合、「ジーンサイレンシング」とは、遺伝子発現の抑制現象を意味する。「ジーンサイレンシング」と呼ばれる現象としては、ゲノムインプリンティング、X染色体の不活性化、PEV(position effect variegation)、トウモロコシのパラミューテションなどが挙げられる。植物におけるトランスジーン(導入遺伝子)の不活性化の一つとして、相同性依存型ジーンサイレンシング(Homology−dependent gene silencing;HDGS)があり、そのHDGS様の現象は、植物内在性遺伝子、植物以外のトランスジェニックにおいても見られており、生物のなんらかの遺伝子制御機構であると考えられ、植物が動物に先んじて研究が進んでいる数少ない現象である(森野和子および島本功「植物の相同性依存型ジーンサイレンシング」細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ5 「植物のゲノムサイエンス 遺伝子・染色体から生体機能解明する」第4章 161〜169頁 1996年)。
【0079】
本明細書中で使用される場合、「相同性依存型ジーンサイレンシング」または「HDGS」は、複数の遺伝子が、その塩基配列の相同性またはその配列の類似性に依存して起こる遺伝子発現の抑制現象をいう。特に、特定の導入された遺伝子(導入遺伝子)を過剰発現させると、その導入遺伝子とともに本来ゲノムに存在していた(すなわち、内在的な)同一または相同な遺伝子が抑制される現象をいう。「HDGS」としては、例えば、「PTGS」および「TGS」が挙げられる。
【0080】
本明細書中で称される場合、「転写抑制型ジーンサイレンシング」または「TGS」は、転写自体が抑制される遺伝子発現の抑制現象をいう。
【0081】
本明細書中で使用される場合、「翻訳後型ジーンサイレンシング」または「PTGS」は、転写後に起こる遺伝子発現の抑制現象をいう。RNAiもPTGSの一種である。
【0082】
本明細書中において使用される場合、「コサプレッション」、「コーサプレッション」および「共抑制」は、同意義語として使用され得る。「コサプレッション」とは、導入遺伝子を含む植物において、その導入遺伝子と相同な配列を有する内在性の遺伝子(その植物において、その植物のゲノム上の存在していた、その導入遺伝子と同一であるかまたは相同である遺伝子)の両方の発現が抑制される現象をいう。この現象は、ペニュアの花の色素合成にかかる遺伝子の発現機構を研究している過程に発見された(Napoli,C.,Lemieux,C.&Jprgensen,R.:Plant Cell 2,291−299(1990);ならびにvan der Krol,R et al:Plant Cell 2,291−299(1990))。その後、植物のみでなくアカパンカビ、ショウジョウバエ、線虫、哺乳動物細胞などにおいてもそれらの同様の現象が発見されている。このような「コサプレッション」を、育種目的に利用した例は、SCIENCE Vol. 309 29 July 2005 p. 741−745などに記載されている。
【0083】
本明細書において「RNAi(RNA interference)」とは、二本鎖RNA(double stranded RNA:dsRNA)によって配列特異的にmRNAが分解されることによって、タンパク質への翻訳が阻害され、遺伝子発現が抑制される現象をいう。遺伝子発現抑制手法としての植物におけるRNAiについての総説は、例えば、三木ら、「植物におけるRNAiの分子機構とその応用」(実験医学 Vol.22 No.4(3月号)2004)(本明細書中で、参考として援用される)などが挙げられる。RNAiの利点の一つとして、弱いものから強いものまで様々なレベルの発現抑制が個々の遺伝子によって取得され得ること挙げられる。現在、RNAiは、簡便かつ有効な遺伝子発現抑制法として利用されている。好ましい実施形態において、「RNAi」は、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。
【0084】
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0085】
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものをRNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
【0086】
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
【0087】
本発明においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。
【0088】
本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
【0089】
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0090】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
【0091】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
【0092】
本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明の処置方法および組成物において有用である。
【0093】
本明細書において、配列番号2または4のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどのタンパク質をコードする天然の核酸は、例えば、配列番号1または3の核酸配列の一部またはその改変体を含むPCRプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブを有するcDNAライブラリーから容易に分離される。配列番号2または4のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸は、本質的に1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);1mM EDTA;42℃の温度で 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に2×SSC(600mM NaCl;60mM クエン酸ナトリウム);50℃の0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、さらに好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA; 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に50℃の1×SSC(300mM NaCl;30mM クエン酸ナトリウム);1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、最も好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);200mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA;7%SDSを含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に65℃の0.5×SSC(150mM NaCl;15mM クエン酸ナトリウム);0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下に配列番号1または3に示す配列の1つまたはその一部とハイブリダイズし得る。
【0094】
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の対象となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチドなどが挙げられるがそれに限定されない。
【0095】
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。
【0096】
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用される配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドなどには、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0097】
本明細書中で使用される場合、「類似性」とは、2以上の配列における、互いに対する同一性の程度をいう。配列間の類似性の測定は、配列間のアライメントを構成し、それらの配列間の同一性の割合、ならびにより複雑な計測に基づくスコアを用いことによって、定量化される。「類似性」は、あらゆる配列間において定義可能である(例えば、2以上の塩基配列間において、「類似性」が定義され、その同一性の程度は、容易に決定される)。本明細書中で使用される場合、「アライメント(する)」または「並置(する)」は、2以上の配列群を比較し、配列中で同じ並び方をしている文字列や配列パターンを発見する手続きをいい、また、その比較した結果をいう。本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含まれる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。
【0098】
配列における同一性または類似性の測定は、当該分野で公知の配列解析ソフトウエアを利用することで容易に決定され得る。配列における類似性検索を行う方法としては、例えば、BLAST(たとえば、(Altshulら、1997、Nucleic Acids Res.、25、3389−3402、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)、FASTA(Pearson ら(1988)、PNAS 85:2444−2448)、スミス−ウォーターマンアルゴリズム(Smith,T.F. and Waterman, M. S. (1981))、ニードルマン−ブンシュアルゴリズム(Needleman and Wunsch C.D (1970) J.Mol.Biol.,48,443−453)、さらに、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、 Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−402、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)が挙げられるが、何らこれに限定されるものではない。
【0099】
類似性検索における、上述のような配列解析ソフトウエアを実行する際のパラメータ設定は、それらの使用目的に応じて、当業者により容易に選択され得る。「類似性」は、上述のような方法による測定方法のほか、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。
【0100】
本明細書において、ハイブリダイゼーションのための「ストリンジェントな条件」とは、標的配列に対して類似性または相同性を有するヌクレオチド鎖の相補鎖が標的配列に優先的にハイブリダイズし、そして類似性または相同性を有さないヌクレオチド鎖の相補鎖が実質的にハイブリダイズしない条件を意味する。ある核酸配列の「相補鎖」とは、核酸の塩基間の水素結合に基づいて対合する核酸配列(例えば、Aに対するT、Gに対するC)をいう。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、そして種々の状況で異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。一般に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHでの特定の配列についての熱融解温度(Tm)より約5℃低く選択される。Tは、規定されたイオン強度、pH、および核酸濃度下で、標的配列に相補的なヌクレオチドの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である。「ストリンジェントな条件」は配列依存的であり、そして種々の環境パラメーターによって異なる。核酸のハイブリダイゼーションの一般的な指針は、Tijssen(Tijssen(1993)、Laboratory Technniques In Biochemistry And MolecularBiology−Hybridization With Nucleic Acid Probes Part I、第2章 「Overview ofprinciples of hybridization and the strategy of nucleic acid probeassay」、Elsevier,New York)に見出される。
【0101】
代表的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が約1.0M Na未満であり、代表的には、pH7.0〜8.3で約0.01〜1.0MのNa濃度(または他の塩)であり、そして温度は、短いヌクレオチド(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃、そして長いヌクレオチド(例えば、50ヌクレオチドより長い)については少なくとも約60℃である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によって達成され得る。本明細書におけるストリンジェントな条件として、50%のホルムアミド、1MのNaCl、1%のSDS(37℃)の緩衝溶液中でのハイブリダイゼーション、および0.1×SSCで60℃での洗浄が挙げられる。
【0102】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0103】
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(Cold Spring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:a Practical approach、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSOまたはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:a Practical Approach、第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
【0104】
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
(℃)=81.5+16.6(log[Na])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
【0105】
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015M ナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
【0106】
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015M ナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
【0107】
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1M NaClにおける融解温度の適切な概算は、
Tm=(1つのA−T塩基につき2℃)+(1つのG−C塩基対につき4℃)
によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、Developmental Biology Using Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
【0108】
「相同性」は、2以上の配列の比較において、それらの配列が進化的に祖先を共有することを示す。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較により類似性に基づいた判定をおこなうか、またはストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。配列の直接の比較により類似性に基づいた判定をおこなう場合、その類似性測定過程のアライメントにおける最も単純な解釈として、同一な(もしくは等価である)文字列(塩基、アミノ酸残基など)で並置されている文字列が、これらの領域が祖先配列のまま変化しなかったものであることを示し、同一でない(もしくは、等価でない)文字列が、突然変異が一方の配列で起こったものであるとの考察が可能である。アライメントにおけるギャップ(インデル)は、配列の一方で、挿入または欠失が起こったものであると考えられる。つまり、それらの配列の同一性または類似性は高いことは、それらの配列における相同性を強く示唆することが理解される。

【0109】
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
【0110】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0111】
(遺伝子、タンパク質分子、核酸分子などの改変)
あるタンパク質分子において、配列に含まれるあるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
【0112】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0113】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
【0114】
当該分野において、親水性指数もまた、改変設計において考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0115】
本明細書において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0116】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。そのような改変体としては、基準となる核酸分子またはポリペプチドに対して、1または数個の置換、付加および/または欠失、あるいは1つ以上の置換、付加および/または欠失を含むものが挙げられるがそれらに限定されない。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用である。オルソログは、通常別の種において、もとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0117】
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0118】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、短縮化、脂質化(lipidation)、ホスホリル化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0119】
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
【0120】
本発明のポリペプチドがポリマーに結合している、化学修飾されたポリペプチド組成物は、本発明の範囲に包含される。このポリマーは、水溶性であり得、水溶性環境(例えば、生理学的環境)でこのタンパク質の沈澱を防止し得る。適切な水性ポリマーは、例えば、以下からなる群より選択され得る:ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、または他の炭水化物に基づくポリマー、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)およびポリビニルアルコール。この選択されたポリマーは、通常は改変され、単一の反応性基(例えば、アシル化のための活性エステルまたはアルキル化のためのアルデヒド)を有し、その結果、重合度は制御され得る。ポリマーは、任意の分子量であり得、そして、このポリマーは分枝状でも分枝状でなくてもよく、そしてこのようなポリマーの混合物はまた、使用され得る。この化学修飾された本発明のポリマーは、治療用途に決定付けられる場合、薬学的に受容可能なポリマーが使用するために選択される。
【0121】
このポリマーがアシル化反応によって改変される場合、このポリマーは、単一の反応性エステル基を有するべきである。あるいは、このポリマーが還元アルキル化によって改変される場合、このポリマーは単一の反応性アルデヒド基を有するべきである。好ましい反応性アルデヒドは、ポリエチレングリコール、プロピオンアルデヒド(このプロピオンアルデヒドは、水溶性である)または、そのモノC1〜C10の、アルコキシ誘導体もしくはアリールオキシ誘導体である(例えば、米国特許第5,252,714号(これは、本明細書中で全体が参考として援用される)を参照のこと)。
【0122】
本発明のポリペプチドのペグ化(pegylation)は、例えば、以下の参考文献に記載されるような、当該分野で公知の、任意のペグ化反応によって実施され得る:Focus on Growth Factors 3,4−10(1992);EP 0 154 316 ;およびEP 0 401 384(これらの各々は、本明細書中で、全体が参考として援用される)。好ましくは、このペグ化は、反応性ポリエチレングリコール分子(または、類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応を介して実施される。本発明のポリペプチドのペグ化のための好ましい水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。本明細書中で使用される場合、「ポリエチレングリコール」は、PEGの任意の形態の包含することを意味し、ここで、このPEGは、他のタンパク質(例えば、モノ(C1〜C10)アルコキシポリエチレングリコールまたはモノ(C1〜C10)アリールオキシポリエチレングリコール)を誘導体するために使用される。
【0123】
ポリペプチドの化学誘導体化は、生物学的に活性な物質を活性化したポリマー分子と反応させるのに使用される適切な条件下で、実施され得る。ペグ化した本発明のポリペプチドを調製するための方法は、一般に以下の工程を包含する:(a)ポリペプチドが1以上のPEG基に結合するような条件下で、ポリエチレングリコール(例えば、PEGの、反応性エステルまたはアルデヒド誘導体)とこのポリペプチドを反応させる工程および(b)この反応生成物を得る工程。公知のパラメータおよび所望の結果に基づいて、最適な反応条件またはアシル化反応を選択することは当業者に容易である。
【0124】
ペグ化された本発明のポリペプチドは、一般に、本明細書中に記載のポリペプチドを投与することによって、緩和または調節され得る状態を処置するために使用され得るが、しかし、本明細書中で開示された、化学誘導体化された本発明のポリペプチド分子は、それらの非誘導体分子と比較して、さらなる活性、増大された生物活性もしくは減少した生物活性、または他の特徴(例えば、増大された半減期または減少した半減期)を有し得る。本発明のポリペプチド、それらのフラグメント、改変体および誘導体は、単独で、併用して、または他の薬学的組成物を組み合わせて使用され得る。これらのサイトカイン、増殖因子、抗原、抗炎症剤および/または化学療法剤は、徴候を処置するのに適切である。
【0125】
同様に、「ポリヌクレオチドアナログ」、「核酸アナログ」は、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
【0126】
本明細書において使用される核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0127】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0128】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0129】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0130】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0131】
(遺伝子工学)
本発明において用いられる配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドならびにそのフラグメントおよび改変体は、遺伝子工学技術を用いて生産することができる。
【0132】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。そのような制限酵素部位およびマルチプルクローニング部位は、当該分野において周知であり、当業者は、目的に合わせて適宜選択して使用することができる。そのような技術は、本明細書に記載される文献(例えば、Sambrookら、前出)に記載されている。好ましいベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、エピソーム、ウイルス粒子またはウイルスおよび組み込み可能なDNAフラグメント(すなわち、相同組換えによって宿主ゲノム中に組み込み可能なフラグメント)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
ベクターの1つの型は、「プラスミド」であり、これは、さらなるDNAセグメントが連結され得る環状二重鎖DNAループをいう。別の型のベクターは、ウイルスベクターであり、ここで、さらなるDNAセグメントは、ウイルスゲノム中に連結され得る。特定のベクター(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)は、これらが導入される宿主細胞中で自律的に複製し得る。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞中への導入の際に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、特定のベクターは、これらが作動可能に連結される遺伝子の発現を指向し得る。このようなベクターは、本明細書中で、「発現ベクター」といわれる。
【0134】
従って、本明細書において「発現ベクター」または「発現プラスミド」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、植物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0135】
本発明において用いられ得る原核生物細胞に対する「組み換えベクター」としては、pcDNA3(+)、pBluescript−SK(+/−)、pGEM−T、pEF−BOS、pEGFP、pHAT、pUC18、pFT−DESTTM42GATEWAY(Invitrogen)などが例示される。原核生物細胞は、遺伝子の増幅、改変などに用いることができる。
【0136】
本明細書において用いられ得る植物細胞に対する「組み換えベクター」としては、pBE7133−GUS−Hygro(pE7ΩIGUS−Hygro)、pPZP2H−lacを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0137】
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、およびポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に寄与し、そして遺伝子 の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターの例としては、CaMV35Sターミネーター、およびノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。
【0139】
プロモーターは、誘導性であっても、構成的であっても、部位特異的であっても、時期特異的であってもよい。プロモーターとしては、例えば、哺乳動物細胞、大腸菌、酵母などの宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。
【0140】
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、植物の部位におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、植物の発達段階に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。部位特異的調節エレメントを使用して核酸を発現することによって、組換え植物発現ベクターでは、特定の細胞型において核酸の発現を優先的に指向し得る。部位特異的調節エレメントは、当該分野で公知である。
【0141】
「部位特異的発現プロモーター」とは、器官(例えば、根、茎、葉、果実、種子ならびにそれらの組合せなど)、組織(例えば、表皮、篩部、柔組織、木部、維管束、ならびにそれらの組合せなど)、発達段階(例えば、発芽期、生長期、開花期、登期ならびにそれらの組み合わせなど)などにおいて、特異的なプロモーターである。原理的には、個体において特異的に発現している遺伝子を単離し、そのプロモーター、発現制御シス領域を単離することによって得られる。
【0142】
本明細書において、プロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の成長/増殖のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、ノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上(例えば、5日目および15日目))の同一または対応する部位のいずれにおいても、ほぼ同程度の発現量がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。本発明のプロモーターの発現が「応答性」であるとは、少なくとも1つの因子が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を因子に対して「誘導性」といい、発現量が減少する性質を因子に対して「減少性」という。「減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析で発現量を分析することまたは発現されたタンパク質をウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。因子に対して誘導性のプロモーターを本発明の部位特異的組換え誘導因子をコードする核酸とともに組み込んだベクターで形質転換された哺乳動物細胞または哺乳動物(特定の組織などを含む)は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件下での部位特異的組換え配列の部位特異的組換えを行うことができる。
【0143】
本発明のポリヌクレオチドは、そのままでまたは改変されて、当業者に周知の方法を用いて、適切な植物発現ベクターに連結され、公知の遺伝子 組換え技術により、植物細胞に導入され得る。導入された遺伝子 は、植物細胞中のDNAに組み込まれて存在する。なお、植物細胞中のDNAとは、染色体のみならず、植物細胞中に含まれる各種オルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体など)に含まれるDNAを含む。
【0144】
「植物発現ベクター」は、本発明の遺伝子の発現を調節するプロモーターなどの種々の調節エレメントが宿主植物の細胞中で作動可能に連結されている核酸配列をいう。本願明細書で用いる用語「制御配列」は、機能的プロモーターおよび、任意の関連する転写要素(例えば、エンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有するDNA配列をいう。本願明細書で用いる用語「作動可能に連結」は、遺伝子が発現し得るように、それに関するポリヌクレオチドと、その発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントとが宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。植物発現ベクターは、好適には、植物遺伝子、プロモーター、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子およびエンハンサーを含み得る。発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。本発明に用いる植物発現ベクターは、さらにT−DNA領域を有し得る。T−DNA領域は、特にアグロバクテリウムを用いて植物を形質転換する場合に遺伝子の導入の効率を高める。
【0145】
本明細書において「植物遺伝子プロモーター」は、植物で発現するプロモーターを意味する。再生植物のすべての組織において、本発明のポリヌクレオチドの発現を指向させる植物プロモーターフラグメントを採用し得る。構成的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Langridge,1985,Plant CellRep.4,355)、カリフラワーモザイクウイルス19S−RNAを生じるプロモーター(Guilley,1982,Cell30,763)、カリフラワーモザイクウイルス35S−RNAを生じるプロモーター(Odell,1985,Nature313,810)、イネのアクチンプロモーター(Zhang,1991,PlantCell3,1155)、トウモロコシユビキチンプロモーター(Cornejo 1993,PlantMol.Biol.23,567)、REXφプロモ−タ−(Mitsuhara,1996,Plant CellPhysiol.37,49)などを用いることができる。
【0146】
あるいは、植物プロモーターは、特定組織において本発明のポリヌクレオチドの発現を指向させ得るか、またはそうでなければ、より特異的な環境または発達の制御下にあり得る。このようなプロモーターは、本明細書では、「誘導可能な」プロモーターと称する。誘導可能なプロモーターとしては、例えば、光、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。この様なプロモーターとしては、例えば、光照射によって発現するリブロース−1,5−2リン酸カルボキシラーゼ小サブユニットをコードする遺伝子 のプロモーター(Fluhr,1986,Pro.Natl.Acad.Sci.USA 83,2358)、低温によって誘導されるイネのlip19遺伝子 のプロモーター(Aguan,1993,Mol.Gen.Genet.240,1)、高温によって誘導されるイネのhsp72、hsp80遺伝子 のプロモーター(Van Breusegem,1994,Planta 193,57)、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナのrab16遺伝子 のプロモーター(Nundy,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,1406)、紫外線の照射によって誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子 のプロモーター(Schulze−Lefert,1989,EMBO J.8,651)などが挙げられる。また、rab16遺伝子 のプロモーターは植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
【0147】
本明細書において「薬剤耐性遺伝子」は、形質転換植物の選抜を容易にするものであることが望ましい。カナマイシン耐性を付与するためのネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、およびハイグロマイシン耐性を付与するためのハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子などが好適に用いられ得るが、これらに限定されない。これらの薬剤耐性遺伝子は、本発明においてスクリーニング技術などにおいて用いられる。
【0148】
上記のような植物発現ベクターは、当業者に周知の遺伝子 組換え技術を用いて作製され得る。植物発現ベクターの構築には、例えば、pBI系のベクターまたはpUC系のベクターが好適に用いられるが、これらに限定されない。
【0149】
DNA導入のための植物材料としては、導入法などに応じて、葉、茎、根、塊茎、プロトプラスト、カルス、花粉、種子胚、苗条原基などから適当なものを選択することができる。「植物細胞」とは、任意の植物細胞であり得る。「植物細胞」の例としては、葉および根などの植物器官の細胞、カルスならびに懸濁培養細胞が挙げられる。植物細胞は、培養細胞、培養組織、培養器官、または植物体のいずれの形態であってもよい。好ましくは、培養細胞、培養組織、または培養器官であり、より好ましくは培養細胞である。
【0150】
また一般に、植物培養細胞へDNAを導入する場合、材料としてプロトプラストが用いられ、エレクトロポーレーション法、ポリエチレングリコール法などの物理・化学的方法によってDNAの導入が行われるのに対して、植物組織へDNAを導入する場合、材料としては葉、茎、根、塊茎、カルス、花粉、種子胚、苗条原基など、好ましくは葉、茎、カルスが用いられ、ウイルスもしくはアグロバクテリウムを用いた生物学的方法、またはパーティクルガン法などの物理・化学的方法によってDNAの導入が行われる。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Microbiol.Lett.,67,325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、植物発現ベクターで(例えば、エレクトロポレーションによって)アグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをリーフディスク法などの周知の方法により植物組織に導入する方法である。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
【0151】
植物発現ベクターを導入された細胞は、例えば、カナマイシン耐性などの薬剤耐性を基準として選択される。選択された細胞は、常法により植物体に再生され得る。
【0152】
本発明のポリヌクレオチドが導入された植物細胞から植物を再生させるには、このような植物細胞を、再分化培地、ホルモンフリーのMS培地などに培養すればよい。発根した幼植物体は、土壌に移植して栽培することにより植物体とすることができる。再生(再分化)の方法は植物細胞の種類により異なる。様々な文献にイネ(Fujimura,1995,Plant Tissue CultureLett.2,74)、トウモロコシ(Shillito,1989,Bio/Technol.7,581、Gorden−Kamm,1990,Plant Cell 2,603)、ジャガイモ(Visser,1989,Theor.Appl.Genet.78,594)、タバコ(Nagata,1971,Planta 99,12)など各種の植物に対しての再分化の方法が記載されている。
【0153】
再生した植物体においては、当業者に周知の手法を用いて、導入された本発明の遺伝子の発現を確認し得る。この確認は、例えば、ノーザンブロット解析を用いて行い得る。具体的には、植物の葉から全RNAを抽出し、変性アガロースでの電気泳動の後、適切なメンブランにブロットする。このブロットに、導入遺伝子の一部分と相補的な標識したRNAプローブをハイブリダイズさせることにより、本発明の遺伝子のmRNAを検出し得る。
【0154】
本発明のポリヌクレオチドを用いて形質転換され得る植物は、遺伝子導入の可能ないずれの植物をも包含する。
【0155】
大腸菌を宿主細胞として使用する場合、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌およびファージ等に由来するプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp x2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0156】
本明細書において「複製起点」とは、DNA複製が開始する染色体上の特定領域をいう。複製起点は、内因性起点を含むようにそのベクターを構築することによって提供され得るか、または宿主細胞の染色体複製機構により提供され得るかのいずれかであり得る。そのベクターが、宿主細胞染色体中に組み込まれる場合、後者が十分であり得る。あるいは、ウイルス複製起点を含むベクターを使用するよりも、当業者は、選択マーカーと本発明のDNAとを同時形質転換する方法によって、哺乳動物細胞を形質転換し得る。適切な選択マーカーの例は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはチミジンキナーゼである(米国特許第4,399,216号を参照)。
【0157】
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。例えば、エンハンサーとして、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が用いられるが、これらに限定されない。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0158】
本発明において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。エンハンサーとしては、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好適である。エンハンサーは、1つの植物発現ベクターあたり複数個用いられ得る。
【0159】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0160】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0161】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)が挙げられる。
【0162】
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
【0163】
本発明において遺伝子操作などにおいて原核生物細胞が使用される場合、原核生物細胞としては、Escherichia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属などに属する原核生物細胞、例えば、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1が例示される。
【0164】
本明細書において使用される場合、組換えベクターの導入方法としては、DNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法[Methods.Enzymol.,194,182(1990)]、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法などが挙げられる。
【0165】
本明細書において遺伝子発現(たとえば、mRNA発現、ポリペプチド発現)の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526−32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0166】
(抵抗性の評価)
本発明の方法によって作出された遺伝子組換え植物が、病原体に対する抵抗性を有しているか否かは、例えば、Methodsfor Isolation,Cultivation,InoculationofPlant Pathogens,Japan Plant Protection Associationに記載されている試験方法により容易に確認し得る。例えば、イネいもち病の場合は、特定のイネ品種にその品種に親和性のイネいもち病菌のレースを接種した場合の病斑形成や病斑面積率の程度を、原品種と組換え体とを比較することによって検定することが可能であるが、これに限定されることはない。例えば、イネいもち病の抵抗性検定については、今回の実験で使用した噴霧接種法の他に、イネの葉に接種用パンチで穴を開け、その上にいもち病菌胞子のペーストをのせて感染させるパンチ接種法、針の先にいもち病菌胞子ペーストを付けて葉を突き刺す針接種法が挙げられる。これらの接種法では、病斑は葉の傷口から広がるように発病するので、病斑の伸展長を測定することによって、抵抗性強度の検定を行い得る(例えば、K.Ohataら、MethodsforIsolation,Cultivation,InoculationofPlant Pathogens、第37−41頁、JapanPlant ProtectionAssociation(1995)を参照のこと)。
【0167】
本明細書において「発現量」とは、対象となる細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0168】
本明細書において「上流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの5’末端に向かう位置を示す。
【0169】
本明細書において「下流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの3’末端に向かう位置を示す。
【0170】
本明細書において「相補的」または「相補体」という用語は、本明細書では、相補領域全体がそのまま別の特定のポリヌクレオチドとWatson & Crick塩基対を形成することのできるポリヌクレオチドの配列を示す。本発明の目的で、第1のポリヌクレオチドの各塩基がその相補塩基と対になっている場合に、この第1のポリヌクレオチドは第2のポリヌクレオチドと相補であるとみなす。相補塩基は一般に、AとT(あるいはAとU)、またはCとGである。本願明細書では、「相補」という語を「相補ポリヌクレオチド」、「相補核酸」および「相補ヌクレオチド配列」の同義語として使用する。これらの用語は、その配列のみに基づいてポリヌクレオチドの対に適用されるものであり、2つのポリヌクレオチドが事実上結合状態にある特定のセットに適用されるものではない。
【0171】
(本明細書において用いられる一般的技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、糖鎖科学、マイクロフルイディクス、微細加工、有機化学、生化学、遺伝子工学、分子生物学、微生物学、遺伝学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。
【0172】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法、糖鎖科学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Maniatis,T.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel,F.M.,et al. eds,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons Inc.,NY,10158(2000);Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press;Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac ,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman & Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(1996).Bioconjugate Techniques,Academic Press;Method in Enzymology 230、242、247、Academic Press、1994;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0173】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0174】
1つの局面において、本発明は、(a)配列番号1または配列番号3に示す塩基配列;(b)該(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;(c)該(a)の塩基配列において、1または複数の置換、付加または欠失を有し、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;(d)該(a)の塩基配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有し、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;(e)該(a)の塩基配列からなる核酸分子の種相同体、スプライス変異体または対立遺伝子変異体をコードし、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列、および(f)(a)〜(e)からなる群より選択される塩基配列のフラグメントまたは変異体からなる群より選択される配列を含む、核酸分子、ならびにこれがコードするポリペプチドを提供する。本明細書においてRice dwarf virus multiplication 1(RIM1)と呼ぶ。この核酸分子は、予想外に、植物におけるイネ萎縮ウイルスの増殖への関与、核酸分子の破壊によりイネ萎縮ウイルスに対する抵抗性が付与されること、植物におけるいもち病菌の増殖への関与、核酸分子の破壊によりいもち病菌に対する抵抗性が付与されること、イネ萎縮病に対する耐性または感受性、いもち病に対する耐性または感受性に関与していることを見出した。
【0175】
1つの実施形態において、上記(c)における置換、付加および欠失の数は限定されていてもよく、例えば、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下であることが好ましい。別の実施形態において、上記(c)における置換、付加および欠失の数は限定されていてもよく、例えば、50以上、40以上、30以上、20以上、15以上、10以上、9以上、8以上、7以上、6以上、5以上、4以上、3以上、2以上、1以上であることが好ましい。置換、付加および欠失は、生物学的活性(好ましくは、本発明における抵抗性または耐性に関与する活性)を付与する限り、任意の数であり得る。
【0176】
好ましい実施形態において、上記(d)の塩基配列に対する相同性は、少なくとも約80%であり得、より好ましくは少なくとも約90%であり得、さらに好ましくは少なくとも約98%であり得、少なくとも約99%であり得るが、全く同一のものは排除され得る。
【0177】
本発明のポリペプチドは、通常、少なくとも3の連続するアミノ酸配列を有する。本発明のポリペプチドが有するアミノ酸長は、目的とする用途に適合する限り、どれだけ短くてもよいが、好ましくは、より長い配列が使用され得る。従って、好ましくは、少なくとも4アミノ酸長、より好ましくは少なくとも5アミノ酸長、少なくとも6アミノ酸長、少なくとも7アミノ酸長、少なくとも8アミノ酸長、少なくとも9アミノ酸長、少なくとも10アミノ酸長であってもよい。さらに好ましくは少なくとも15アミノ酸長であり得、なお好ましくは少なくとも20アミノ酸長であり得る。これらのアミノ酸長の下限は、具体的に挙げた数字のほかに、それらの間の数(例えば、11、12、13、14、16など)あるいは、それ以上の数(例えば、21、22、...30、など)であってもよい。本発明のポリペプチドは、ある因子と相互作用することができる限り、その上限の長さは、配列番号2または4に示す配列の全長と同一であってもよく、それを超える長さであってもよい。
【0178】
好ましい実施形態において、本発明の核酸分子またはそのフラグメントおよび改変体は、少なくとも8の連続するヌクレオチド長であり得る。本発明の核酸分子は、本発明の使用目的によってその適切なヌクレオチド長が変動し得る。より好ましくは、本発明の核酸分子は、少なくとも10の連続するヌクレオチド長であり得、さらに好ましくは少なくとも15の連続するヌクレオチド長であり得、なお好ましくは少なくとも20の連続するヌクレオチド長であり得る。これらのヌクレオチド長の下限は、具体的に挙げた数字のほかに、それらの間の数(例えば、9、11、12、13、14、16など)あるいは、それ以上の数(例えば、21、22、...30、など)であってもよい。本発明の核酸分子は、目的とする用途(例えば、アンチセンス、RNAi、マーカー、プライマー、プローブ、所定の因子と相互作用し得ること)として使用することができる限り、その上限の長さは、配列番号1に示す配列の全長であってもよく、それを超える長さであってもよい。あるいは、プライマーとして使用する場合は、通常少なくとも約8のヌクレオチド長であり得、好ましくは約10ヌクレオチド長であり得る。プローブとして使用する場合は、通常少なくとも約15ヌクレオチド長であり得、好ましくは約17ヌクレオチド長であり得る。
【0179】
本発明では、核酸分子における塩基配列の少なくとも一部が破壊されることもしくは発現が抑制されることもしくは発現が抑制されること、または核酸分子によってコードされるポリペプチドの発現が抑制されることによって、付与され得るが、それに限定されず、所望の結果が達成される限り、どのような改変が加えられても良いことを当業者は理解する。
【0180】
1つの局面において、本発明は、イネ萎縮ウイルスに対する抵抗性およびいもち病菌に対する抵抗性からなる群より選択される少なくとも1つの抵抗性を付与することができる因子を提供する。このような因子は、本発明の核酸分子の機能を阻害する機能を有する。本明細書において、「核酸分子の機能を阻害する」とは、その核酸分子が生体内で果たしている役割を何らかの形で阻害することをいい、例えば、DNAのRNAへの転写の抑制DNAの複製の阻害、DNAの破壊または置換、DNAがコードするタンパク質またはポリペプチドの機能の抑制または低減、DNAがコードするmRNAからタンパク質またはポリペプチドへの転写の抑制または低減などを挙げることができるがそれらに限定されない。そのような因子としては、どのようなものでも用いることができるが、例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子等を挙げることができる。
【0181】
1つの実施形態では、本発明の因子は、本発明の核酸分子と相互作用し得るか、または請求項1に記載される核酸分子によってコードされるポリペプチドを相互作用し得る。
【0182】
別の実施形態では、本発明の因子は、本発明の核酸分子のアンチセンス核酸分子またはRNAi分子であり得るか、あるいは本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチドに対する抗体であり得る。
【0183】
別の実施形態では、本発明の因子、本発明の因子を特異的部位に送達させる手段をさらに含んでいてもよい。そのような送達手段は、特異的部位への送達を実現するものであれば、どのようなものでもよく、例えば、特異的部位に特異的に目的とする核酸分子を発現させるもの、例えば、プロモーターなどであり得る。
【0184】
別の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。あるいは、本発明は、本発明の核酸分子の機能を阻害する阻害核酸分子を含むベクターを提供する。本発明において使用されるベクターは、所望の目的(発現、送達、挿入、導入など)を達成する限り、どのようなベクターを用いても良いことが理解される。
【0185】
好ましい実施形態では、阻害核酸分子の発現を特異的部位においてのみ起こさせるためのプロモーターをさらに含む。
【0186】
別の好ましい実施形態では、本発明は、本発明の核酸分子を含む植物細胞、植物組織、植物器官、植物体および植物種子を提供する。ここで、含まれるべき本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子であり得る。さらに好ましくは、この核酸分子は、植物におけるイネ萎縮ウイルスの増殖への関与、核酸分子の破壊によりイネ萎縮ウイルスに対する抵抗性が付与されること、植物におけるいもち病菌の増殖への関与、核酸分子の破壊によりいもち病菌に対する抵抗性が付与されること、イネ萎縮病に対する耐性または感受性、いもち病に対する耐性または感受性に関与していることに関し、好ましくは、その核酸分子の破壊によりイネ萎縮ウイルスおよび/またはいもち病菌に対する抵抗性が付与されるか、イネ萎縮病および/またはいもち病に対する耐性が付与されることが好ましい。
【0187】
このような植物としては、どのようなものでも良いが、好ましくは、イネ萎縮ウイルスおよび/またはいもち病菌に罹患する植物であり、さらに好ましくは、イネ科植物(コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ソルガムなど)、さらにより好ましくはイネ属植物、さらにより好ましくは、イネ(例えば、ジャポニカ種またはインディカ種)であり得る。
【0188】
(抵抗性・耐性植物の作出)
別の局面において、本発明は、イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性、イネ萎縮病に対して耐性、いもち病菌に対して抵抗性および/またはいもち病に対して耐性を有する植物(好ましくは、イネ萎縮病ウイルスに対する抵抗性(またはイネ萎縮病に対する耐性)といもち病菌に対して抵抗性(いもち病に対して耐性)とを両方有する植物)を作出する方法、ならびにこの方法によって作出された植物(例えば、植物細胞、植物組織、植物器官、植物体、植物種子など)を提供する。ここで、この方法は、(A)目的とする植物において、本発明のRIM1核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程を包含する。発現の抑制は、DNAまたはRNA複製のレベルであっても、RNA転写レベルであってもタンパク質翻訳レベルであっても、翻訳後のレベルであってもよい。この方法は、さらに、(B)イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を有する植物を選択する工程を包含し得る。選択は、抵抗性を有する植物を選択することができる限り、どのような方法を用いてもよく、細胞レベルでもよく、植物体レベルでもよい。このような植物としては、どのようなものでも良いが、好ましくは、イネ萎縮ウイルスおよび/またはいもち病菌に罹患する植物であり、さらに好ましくは、イネ科植物(コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ソルガムなど)、さらにより好ましくはイネ属植物、さらにより好ましくは、イネ(例えば、ジャポニカ種またはインディカ種)であり得る。
【0189】
好ましくは、本発明のRIM1核酸分子の発現が抑制された植物を再生させる工程をさらに包含し得る。この抑制は、ジーンサイレンシング技術(例えば、RNAi、コサプレッション、リボザイム、キメラオリゴ、アンチセンスサプレッションおよびそれらの組合せ)またはドミナントネガティブ法によって達成され得る。
【0190】
(スクリーニング方法)
本発明は、イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を付与させる因子、イネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子、いもち病菌に対して抵抗性を付与させる因子およびいもち病菌に対して抵抗性を付与させる因子からなる群より選択される少なくとも1つの因子をスクリーニングするための方法ならびにこの方法によって提供されまたは同定された因子(例えば、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子等)を提供する。本発明のスクリーニング方法は、A)因子の候補を提供する工程;B)該候補と本発明のRIM1核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、を包含する。このようなスクリーニングは、目的とする核酸分子またはポリペプチドに対して特異的に相互作用する因子ならびにその改変体およびフラグメントからなる群より選択される少なくとも1つの分子とそれらに相互作用する分子との相互作用に、試験因子が有意に影響を与える(減少、増強、消失など)かどうかを判定することによって同定することができる。このような試験因子の判定方法は、当該分野において周知であり、任意の統計学的手法を用いて結果を算出することができる。このようなスクリーニングまたは同定の方法は、当該分野において周知であり、例えば、そのようなスクリーニングまたは同定は、マイクロタイタープレート、DNAまたはプロテインなどの生体分子アレイまたはチップを用いて行うことができる。スクリーニングの試験因子を含む対象としては、例えば、遺伝子のライブラリー、コンビナトリアルライブラリーで合成した化合物ライブラリーなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0191】
したがって、本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
本発明は、他の実施形態において、本発明の化合物に対する調節活性についての有効性のスクリーニングの道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物を包含する。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化するは、CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
【0192】
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用してで行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765〜784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell and Olsen,Proteins:Structure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物を設計することができる。
【0193】
別の局面において、本発明は、本発明の上記同定またはモデリング方法によって同定される因子を提供する。
【0194】
(使用)
別の局面において、本発明は、本発明の核酸分子またはその核酸分子と相互作用する因子の、イネ萎縮病ウイルスに対する抵抗性、イネ萎縮病に対する耐性、いもち病菌に対する抵抗性および/またはいもち病に対する耐性を付与するための使用を提供する。ここで使用される核酸分子および因子は、本明細書において上記される任意の核酸分子であり得ることが理解される。
【0195】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0196】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0197】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA)、和光純薬(大阪、日本)、インビトロジェン株式会社(東京、日本)、Amersham Biosciences Corp.(NJ,USA)、タカラバイオ株式会社(大津、日本)、Promega Corporation(Madison, USA)などから市販されるものを用いた。
【0198】
(実施例1:培養によるTos17の活性化および得られた変異体の特徴付け)
ジヤポニカ種の品種「日本晴」の完熟種子を出発材料に用い、先に記載のように(Hirochikaら、1996、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93、7783−7788)(前述)、カルス開始培養および細胞懸濁培養を行った。遺伝子破壊を行うために使用したTos17を活性化するための培養条件は、大槻(1990)の方法(イネ・プロトプラスト培養系、農林水産技術情報協会)の方法に従った。
【0199】
要約すれば、イネの完熟種子を2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)を添加したMS培地(大槻(1990)、前述)で培養し(25℃、5ケ月間)、カルス誘導を行った。得られたカルスを、2,4−Dを添加したN6液体培地(大槻(1990)、前述)で5ケ月間培養したのち、再分化培地(大槻(1990)、前述)に移し再分化イネ(第1世代(R1)植物)を得た。
【0200】
得られたR1イネの各々を1株とし、それぞれの株から全てのR1種子を回収した。イネへのRDVの接種は、約80%がRDVを保毒したツマグロヨコバイの成虫を健全イネ1株当たり5頭以上になるように放飼、26℃程度の温室で約1日間イネを吸汁させて行った。図1は、イネ萎縮ウイルス接種後2ヶ月目の比較である。図1においては、左側に野生型株(左に健全株、右にRDV接種株を示す)、図1においては、右にrim1変異系統株(左に健全株、右にRDV接種株を示す)を示している。図1より、rim1変異系統は、RDVに対して抵抗性を有しており、イネ萎縮病に対して耐性が付与されたことを示す。
【0201】
図2には、RDV接種後の外殻タンパク質蓄積量の相対強度を示す。白抜きがrim1変異株であり、黒は野生型を示す。このように接種後約2週間から野生型では、ウイルスに由来するタンパク質の蓄積が見られるのに対して、rim1変異株では、50日後でもほとんど見出されなかった。従って、ウイルスのタンパク質生成に対して抑制効果が働いていることが理解される。
【0202】
(実施例2:Tos17の隣接配列の単離)
実施例1で見られたような表現型を支配する遺伝子を突き止めるために、ゲノムDNA中に転移されたTos17の隣接配列を単離した。
【0203】
実施例1で得られたR2イネ(独立に、16個体)からCTAB法(MurrayおよびThompson、1980、NucleicAcidsRes.8、4321−4325)によりDNAを調製した。Tos17標的部位配列の増幅は、Miyaoら、1998、PlantBiotechnology 15、 253-256、総DNAを用いるTAILPCR により実施した。
【0204】
要約すれば、まず、Tos17挿入変異株(RDV抵抗性株)、およびTos17挿入の認められない株(RDV感受性株)を1株ずつ選抜し、総DNAを抽出した。これらの総DNA約30ng を鋳型に用いてTAIL PCRをおこなった。Tos17特異的プライマーとしては、Tos17−tail2:AGTCGCTGATTTCTTCACCAAGG(配列番号6)、Tos17−tail3:GAGAGCATCATCGGTTACATCTTCTC(配列番号7)、Tos17−tail4;ATCCACCTTGAGTTTGAAGGG(配列番号8)を用い、ランダムプライマーとしては、AD1: NGTCGA(G/C)(A/T)GANA(A/T)GAA(配列番号9)、AD2:GTNCGA(G/C)(A/T)CANA(A/T)GTT(配列番号10)、AD3:(A/T)GTGNAG(A/T)ANCANAGA(配列番号11)を用いた。Tos17挿入変異株(RDV抵抗性株)を鋳型に用いた場合にのみ増幅したDNAをpCR4ベクター(インビトロジェン)にクローン化し、塩基配列を決定した。シークエンサーはABI PRISM 3100 Genetic Analyzerを用いた。この配列を基にして設計したプライマーOhmura07_check+373: ACAGCACTCGCTTCGTAGAAT(配列番号12)とTos17 tail6: CTATTGTTAGGTTGCAAGTTAGTTAAGA(配列番号13),を用いて増幅したDNAをプローブに用いたサザン解析より、RDV抵抗性株とRDV感受性株におけるTos挿入の有無を確認した。さらにRIM SSLP FP1: GGTTTCCATGATTAATTCGTAAATTTTGG(配列番号14)、RIM SSLP RP1: CGTCCATGTCAAGCAGCTAGTAAC(配列番号15)を用いたPCRを行うことにより、RDV抵抗性株とRDV感受性株におけるTos挿入の有無を確認した。図3はRIM1遺伝子を含むゲノム配列を示し、National Center for Biotechnology Infomation(NCBI: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に登録されているBACクローンOJ1263H11上の88147−93620の塩基を示した。
【0205】
これをエキソン・イントロン構造を解析した結果を図4に示す。図4は、RIM1遺伝子のエキソン−イントロン構造を示す。ボックスはエキソンを、ラインはイントロンを示す。RIM1は2種のmRNAをコードしており、上が、RIM1-Lであり、下がRIM1-Sである。これらのエキソンのゲノム上での位置は、RIM1−Lでは、5’末端側のエキソンから、第89353位〜第89509位;第91000位〜第91277位;第91463位〜第91819位;第91923位〜第92336位;第92438位〜第92519位;第92646位〜第93310位である。他方、RIM1−Sでは、5’末端側のエキソンから、第89353位〜第89509位;第91000位〜第91277位;第91463位〜第91819位;第91923位〜第92336位;第92438位〜第92519位;第92639位〜第92679である。RIM1は2種のmRNA(RIM1−LおよびRIM1−S)をコードしていることが明らかになった。RIM1−Lを配列番号1として、RIM1−Sを配列番号3として示す(図5)。これらのポリペプチドの配列は、配列番号2および4に記載のポリペプチドである。
【0206】
(実施例3:変異体の原因遺伝子の構造解析)
土壌で14日間生育させた野生型イネ(日本晴)の幼苗から以下のようにRNAを調製した。まず、ISOGEN(ニッポンジーン)を用いて幼苗から総RNAを調製した。総RNA 1μgを用いてReverTraAce(TOYOBO)のマニュアルに従い、逆転写反応を行い、cDNAを合成し、プライマーRIM1−Bam FP:CGGGATCCATGGCGCCCGTGAGTTTGCCTCCA RIM1−Xba RP:GCTCTAGATTAGTGATCGCACTCAGCTGGAGTGを用いてPCRを行い、増幅したRIM1 cDNAをpGEM3Zf(+)にクローン化した。5’末端および3’末端はGeneRacer(インビトロジェン)のマニュアルに従って決定した。塩基配列の決定はABI PRISM 3100 Genetic Analyzerを用いた。配列決定分析にはGenetyx Mac ver12(ゼネティックス)を用いた。その結果RIM1−Lは3487bpの長さからなり、650アミノ酸からなる1953bpのORFが同定された。RIM1−Sは3494bpの長さからなり、442アミノ酸からなる1326bpのORFが同定された。
【0207】
(実施例4:いもち病に対する耐性)
次に、上記実施例において作出したrim1変異系統について、いもち病に対する耐性を調べた。その方法は以下の通りである。つまり、15×104個/mlのいもち病菌胞子を0.01%Tween20溶液に懸濁し、検体であるイネの葉に噴霧した。これを24時間、湿度100%の条件で保持した後、25℃に保持したインキュベータにイネを保持する。その8日後にいもち病斑形成を調べた。
【0208】
その結果を図6に示す。図6の上パネルには、日本晴(標準株)とrim1変異体とを比較した結果を示す。明らかなように、日本晴は、いもち病に罹病したのに対して、rim1変異体は、いもち病に対して耐性が付与されていることが明らかになった。
【0209】
図6下パネルには、いもち病の発病指数(感染後8日目)および胞子/100mg新鮮葉(感染後8日目)のデータを示す。示されるように、日本晴については、いもち病菌に起因する発病指数が高く、より多くの菌胞子の増殖が見られたのに対して、rm1変異体では、いずれも低く抑えられていた。
【0210】
従って、本発明によって、いもち病菌に対する抵抗性およびいもち病に対する耐性が付与されることが理解される。
【0211】
(実施例5:転写レベルでのスクリーニング)
次に、本発明の因子をスクリーニングする方法として、イネの細胞株または初代培養脂肪細胞を用いて、候補薬物ライブラリーの(種々の濃度での)存在下または非存在下で、これらの細胞を培養する。
【0212】
rim1遺伝子のmRNAの発現は、上記実施例に記載される技術に準じて測定する。
【0213】
これにより、mRNAレベルで、発現量を活性化させる化合物を測定することができる。
【0214】
(実施例6:翻訳レベルでのスクリーニング)
次に、本発明の因子をスクリーニングする方法として、イネの細胞株または初代培養脂肪細胞を用いて、候補薬物ライブラリーの(種々の濃度での)存在下または非存在下で、これらの細胞を培養する。
【0215】
rim1遺伝子のタンパク質の発現は、上記実施例に記載される技術に準じて測定する。
【0216】
これにより、タンパク質の発現レベルで、発現量を活性化させる化合物を測定することができる。
【0217】
(実施例7:RNAi技術によりRIM1遺伝子の発現を抑制した、形質転換イネの作出)
RIM1遺伝子を破壊した系統において葉先が捻れ、植物体の生長の抑制が著しいものについては、RIM1遺伝子の発現を適度に抑制させ、それらのRIM1遺伝子抑制株の中からRDV抵抗性系統を選出することで、RDV抵抗性植物体を得る。
【0218】
植物におけるRNAiのプロトコルについては、「実験医学別冊 注目のバイオ実験シリーズ8 改訂 RNAi実験プロトコール より効果的な遺伝子の発現抑制を行うための最新テクニック」(羊土社;2004年10月1日)の「生物種別RNAi実験プロトコール 2 植物」などに記載される。このようなプロトコールにしたがって、形質転換植物を作製し得る。
(1)RIM1遺伝子に特異的な領域(RNAiを引き起こす因子)を、特異的なプライマーセットを用いて増幅する;
(2)制限酵素またはGateway(Invitrogen)システムなどを用いて、形質転換用のRNAiバイナリーベクターを作製する;
(3)RNAiを引き起こす因子を(2)のベクターにクローニングする;
(4)上記ベクターをエレクトロポレーション法などによってアグロバクテリウムへ導入する;
(5)アグロバクテリウムにベクターが導入されていることを、PCRなどにより確認する;
(6)形質転換イネの作出は、カルス化したイネにアグロバクテリウムを感染させ、その後、再分化させ形質転換イネを作製することによって行われ得る(アグロバクテリウム法による形質転換イネの作出は、Sander,Mら:EMBO J.,21:5824〜5832,2002、ならびにAlder M.Nら:RNA,9 25−32,2003などの詳説があり、これらを参考に作出し得る)。
【0219】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明は、イネ萎縮病およびいもち病の処置または予防において有用な標的およびそれによるスクリーニング法、ならびにその方法によって同定される医薬を用いて、イネ萎縮病およびいもち病に関連する病害を処置することができるという有用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0221】
【図1】図1は、rim1変異系統はRDVに対して抵抗性を示すことを示す。イネ品種「日本晴」の野生型およびrim1変異系統において、イネ萎縮ウイルス(RDV)を接種した個体と、健全個体との比較を示す(イネ萎縮ウイルス接種後2ヶ月目の比較である)。
【図2】図2は、rim1変異系統におけるRDVの外殻タンパク質蓄積の経時変化を示す。縦軸は、外殻タンパク質蓄積量の相対強度であり、横軸は、イネ萎縮ウイルス接種後の日数を示す。
【図3】図3は、RIM1遺伝子を含むゲノム配列を示す。RIM1遺伝子はイネ第3染色体上のBACOJ1263H11 (gene bankaccession:AC118980)に存在する。上記塩基配列はOJ1263H11上の88147-93620の塩基を示した。
【図4】図4は、RIM1遺伝子のエキソン−イントロン構造を示す。ボックスはエキソンを、ラインはイントロンを示す。RIM1は2種のmRNAをコードしており、上が、RIM1-Lであり、下がRIM1-Sである。これらのエキソンのゲノム上での位置は、RIM1−Lでは、5’末端側のエキソンから、第89353位〜第89509位;第91000位〜第91277位;第91463位〜第91819位;第91923位〜第92336位;第92438位〜第92519位;第92646位〜第93310位である。他方、RIM1−Sでは、5’末端側のエキソンから、第89353位〜第89509位;第91000位〜第91277位;第91463位〜第91819位;第91923位〜第92336位;第92438位〜第92519位;第92639位〜第92679である。
【図5】図5は、RIM1 cDNA の塩基配列を示す。
【図6】図6は、rim1変異系統がいもち病に対して抵抗性を示すことを表す図である。(上)日本晴の野生型とrim1変異体における、外観の比較。(左)日本晴の野生型とrim1変異体における、発病指数(Disease Severity):の比較。この発病指数とは、抵抗性の程度を示す指標である。浅賀の方法(浅賀宏一、1981、イネ品種のいもち病に対する圃場抵抗性の検定方法に関する研究、農事試験報35:51-138)に従ってこの指標を得た(右)日本晴の野生型とrim1変異体における、胞子/100mg新鮮葉あたりのいもち菌の胞子数(Spores/100mgFreshLeaf)の比較。
【配列表フリーテキスト】
【0222】
配列番号1:RIM1-LcDNA(3469 bp)の核酸配列
配列番号2:配列番号1に記載の核酸配列配列によってコードされるタンパク質
配列番号3:RIM1-ScDNA(3476 bp)の核酸配列
配列番号4:配列番号1に記載の核酸配列配列によってコードされるタンパク質
配列番号5:イネ第3染色体上のBAC OJ1263H11 (gene bank accession: AC118980)の88147-93620の塩基配列(ゲノム配列)
配列番号6:Tos17特異的プライマーである、Tos17−tail2の核酸配列:AGTCGCTGATTTCTTCACCAAGG
配列番号7:Tos17特異的プライマーである、Tos17−tail3の核酸配列:GAGAGCATCATCGGTTACATCTTCTC
配列番号8:Tos17特異的プライマーである、Tos17−tail4の核酸配列;ATCCACCTTGAGTTTGAAGGG
配列番号9:ランダムプライマーである、AD1の核酸配列: NGTCGA(G/C)(A/T)GANA(A/T)GAA
配列番号10:ランダムプライマーである、AD2の核酸配列:GTNCGA(G/C)(A/T)CANA(A/T)GTT
配列番号11:ランダムプライマーである、AD3の核酸配列:(A/T)GTGNAG(A/T)ANCANAGA
配列番号12:プライマーOhmura07_check+373の核酸配列: ACAGCACTCGCTTCGTAGAAT
配列番号13:プライマーTos17 tail6の核酸配列: CTATTGTTAGGTTGCAAGTTAGTTAAGA
配列番号14:RIM SSLP FP1の核酸配列: GGTTTCCATGATTAATTCGTAAATTTTGG
配列番号15:RIM SSLP RP1の核酸配列: CGTCCATGTCAAGCAGCTAGTAAC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1または配列番号3に示す塩基配列;
(b)該(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;
(c)該(a)の塩基配列において、1または複数の置換、付加または欠失を有し、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;
(d)該(a)の塩基配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有し、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列;
(e)該(a)の塩基配列からなる核酸分子の種相同体、スプライス変異体または対立遺伝子変異体をコードし、生物学的機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列、および
(f)(a)〜(e)からなる群より選択される塩基配列のフラグメント
からなる群より選択される配列を含む、核酸分子。
【請求項2】
前記生物学的機能は、植物におけるイネ萎縮ウイルスの増殖への関与および前記核酸分子の破壊によりイネ萎縮ウイルスに対する抵抗性が付与されることからなる群より選択される、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記抵抗性は、前記核酸分子における塩基配列の少なくとも一部が破壊されることもしくは発現が抑制されること、または該核酸分子によってコードされるポリペプチドの発現が抑制されることによって、付与される、請求項2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記生物学的機能は、植物におけるいもち病菌の増殖への関与および前記核酸分子の破壊によりいもち病菌に対する抵抗性が付与されることからなる群より選択される、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記抵抗性は、前記核酸分子における塩基配列の少なくとも一部が破壊されることもしくは発現が抑制されること、または該核酸分子によってコードされるポリペプチドの発現が抑制されることによって、付与される、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記生物学的機能は、イネ萎縮病に対する耐性を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記生物学的機能は、いもち病に対する耐性を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項8】
イネ萎縮ウイルスに対する抵抗性およびいもち病菌に対する抵抗性からなる群より選択される少なくとも1つの抵抗性を付与することができる因子であって、該因子は、請求項1に記載の核酸分子の機能を阻害する機能を有する、因子。
【請求項9】
前記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、請求項8に記載の因子。
【請求項10】
前記因子は、請求項1に記載される核酸分子と相互作用するか、または請求項1に記載される核酸分子によってコードされるポリペプチドと相互作用することを特徴とする、請求項8に記載の因子。
【請求項11】
前記因子は、請求項1に記載される核酸分子のアンチセンス核酸分子またはRNAi分子であるか、あるいは請求項1に記載される核酸分子によってコードされるポリペプチドに対する抗体であることを特徴とする、請求項8に記載の因子。
【請求項12】
前記因子を特異的部位に送達させる手段をさらに含む、請求項8に記載の因子。
【請求項13】
前記手段は、前記特異的部位に特異的に前記核酸分子を発現させるものである、請求項12に記載の因子。
【請求項14】
前記手段は、プロモーターである、請求項13に記載の因子。
【請求項15】
請求項1に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項16】
請求項1に記載の核酸分子の機能を阻害する阻害核酸分子を含む、ベクター。
【請求項17】
前記阻害核酸分子は、ドミナントネガティブ実験における条件下において、請求項1に記載の核酸分子または該核酸分子の発現を調節する配列とハイブリダイズすることを特徴とする、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
前記阻害核酸分子は、リプレッションドメインをコードする領域を含む、請求項16に記載のベクター。
【請求項19】
前記阻害核酸分子の発現を特異的部位においてのみ起こさせるためのプロモーターをさらに含む、請求項16に記載のベクター。
【請求項20】
請求項1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物細胞。
【請求項21】
請求項1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物組織。
【請求項22】
請求項1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物器官。
【請求項23】
請求項1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物体。
【請求項24】
請求項1に記載の核酸分子であって、配列番号1または3に示す配列とは同一ではない核酸分子を含む、植物種子。
【請求項25】
イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を有する植物を作出する方法であって、
(A)目的とする植物において、請求項1に記載の核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程
を包含する、方法。
【請求項26】
さらに、(B)イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を有する植物を選択する工程を包含する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記発現が抑制された植物を再生させる工程をさらに包含する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記抑制は、ジーンサイレンシング技術またはドミナントネガティブ法によって達成される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記ジーンサイレンシング技術は、RNAi、コサプレッション、リボザイム、キメラオリゴ、アンチセンスサプレッションおよびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記植物は、イネ科植物である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記植物は、イネ属植物である、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記植物は、イネである、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記植物は、ジャポニカ種のイネである、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
イネ萎縮病に対して耐性を有する植物を作出する方法であって、
(A)目的とする植物において、請求項1に記載の核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程
を包含する、方法。
【請求項35】
いもち病菌に対して抵抗性を有する植物を作出する方法であって、
(A)目的とする植物において、請求項1に記載の核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程
を包含する、方法。
【請求項36】
さらに、(B)イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を有する植物を選択する工程を包含する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記発現が抑制された植物を再生させる工程をさらに包含する、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記抑制は、ジーンサイレンシング技術またはドミナントネガティブ法によって達成される、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記ジーンサイレンシング技術は、RNAi、コサプレッション、リボザイム、キメラオリゴ、アンチセンスサプレッションおよびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記植物は、イネ科植物である、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記植物は、イネ属植物である、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記植物は、イネである、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
前記植物は、ジャポニカ種のイネである、請求項35に記載の方法。
【請求項44】
いもち病に対して耐性を有する植物を作出する方法であって、
(A)目的とする植物において、請求項1に記載の核酸分子またはそれに対応する核酸分子の発現を抑制させる工程
を包含する、方法。
【請求項45】
請求項25、34、35または44のいずれか1項に記載の方法によって作出された、植物。
【請求項46】
イネ萎縮病ウイルスに対して抵抗性を付与させる因子をスクリーニングするための方法であって、該方法は:
A)因子の候補を提供する工程;
B)該候補と請求項1に記載の核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;
C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、
を包含する、方法。
【請求項47】
イネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子をスクリーニングするための方法であって、該方法は:
A)因子の候補を提供する工程;
B)該候補と請求項1に記載の核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;
C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、
を包含する、方法。
【請求項48】
いもち病菌に対して抵抗性を付与させる因子をスクリーニングするための方法であって、該方法は:
A)因子の候補を提供する工程;
B)該候補と請求項1に記載の核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;
C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、
を包含する、方法。
【請求項49】
いもち病に対して耐性を付与させる因子をスクリーニングするための方法であって、該方法は:
A)因子の候補を提供する工程;
B)該候補と請求項1に記載の核酸分子とを相互作用させて、該核酸分子の機能が抑制されるかどうかを検出する工程;
C)該機能の抑制を提供する候補をイネ萎縮病に対して耐性を付与させる因子であると判定する工程、
を包含する、方法。
【請求項50】
請求項46から49のいずれか1項に記載の方法によって同定された因子。
【請求項51】
請求項1に記載の核酸分子がコードするポリペプチド。
【請求項52】
請求項1に記載の核酸分子の、イネ萎縮病ウイルスに対する抵抗性を付与するための使用。
【請求項53】
請求項1に記載の核酸分子の、イネ萎縮病に対する耐性を付与するための使用。
【請求項54】
請求項1に記載の核酸分子の、いもち病菌に対する抵抗性を付与するための使用。
【請求項55】
請求項1に記載の核酸分子の、いもち病に対する耐性を付与するための使用。
【請求項56】
請求項1に記載の核酸分子と相互作用する因子の、イネ萎縮病ウイルスに対する抵抗性を付与するための使用。
【請求項57】
請求項1に記載の核酸分子と相互作用する因子の、イネ萎縮病に対する耐性を付与するための使用。
【請求項58】
請求項1に記載の核酸分子と相互作用する因子の、いもち病菌に対する抵抗性を付与するための使用。
【請求項59】
請求項1に記載の核酸分子と相互作用する因子の、いもち病に対する耐性を付与するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−89402(P2007−89402A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278950(P2005−278950)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】