説明

イブプロフェン含有安定化内服液

【課題】イブプロフェンを内服液中で、安定性、均一性に優れた状態で長期間存在させるための技術を提供する。
【解決手段】精製水中で、加熱熔融により乳化した後に、微粒子の結晶としたイブプロフェンを含有する内服液剤。好適には、さらに、界面活性剤および増粘剤を含有する上記内服液であり、さらに、分散剤を含有する上記内服液である。界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、分散剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、増粘剤は、キサンタンガムが望ましい。さらに、イブプロフェン微粒子の結晶はメジアン径が、40μm以下、好ましくは20μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イブプロフェンが内服液中で、安定性、均一性に優れた状態で長期間存在させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
イブプロフェンを含有する懸濁液剤は、服用時におけるイブプロフェンの刺激感、苦味が強いため、満足できる服用感が得られていなかった。この刺激感、苦味はイブプロフェンが遊離し、その結晶が成長し沈澱・凝集が起こることに起因すると考えられている。イブプロフェン懸濁液剤の苦みのマスキングに関する報告はあるが、未だ満足できる服用感が得られていない(特許文献1及び2)。また、イブプロフェン懸濁液剤の安定性を確保するため、増粘剤及び界面活性剤の共存下で加熱処理をすることにより増粘剤へのイブプロフェンの吸着性が高まり、これにより安定性が向上し、さらにまた服用時の刺激感及び苦味の除去或いは軽減がされることが知られているが、十分な安定化効果が認められていない(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−258618号公報
【特許文献2】特開平2−286615号公報
【特許文献3】特開平8−333245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、これまでの上述のような問題点を解決すべく、イブプロフェンの内服液調製過程における、イブプロフェンの均一な分散化について長年に渡り鋭意研究を継続して行った結果、本願に記載の発明を完成するに到った。また、本発明者は、研究を行う中で、懸濁剤の製剤化における沈降防止や、均一な再分散性確保のための目的物質の微細化に関する問題点を解決すべく検討を行った。すなわち、これまで低融点物質では微粉砕が困難であったり、コスト高であったりする問題点が存在したが、その問題点を克服し本発明を完成するに到った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下に、本発明を説明する。すなわち、本発明は、(1)精製水中で、加熱熔融により乳化した後に、微粒子の結晶としたイブプロフェンを含有する内服液であり、好適には、
(2)さらに、界面活性剤及び増粘剤を含有する、(1)に記載の内服液、
(3)さらに、分散剤を含有する、(2)に記載の内服液、
(4)界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油であり、分散剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、増粘剤が、キサンタンガムである、(3)に記載の内服液、
(5)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の含有量が、液剤全量において、100−300mg/90mlであり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量が、液剤全量において、300−500mg/90mlであり、キサンタンガムの含有量が、液剤全量において、150−300mg/mlである、(4)に記載の内服液、
(6)イブプロフェンのメジアン径が、40μm以下である、(1)−(5)から選択されるいずれか1項に記載の内服液、
(7)イブプロフェンのメジアン径が、20μm以下である、(1)−(5)から選択されるいずれか1項に記載の内服液、
(8)40℃で3ヶ月保存した後の粒度分布をレーザー回析法により測定した場合の保存後と製造直後のイブプロフェンのメジアン径の比が、2.0以下である、(1)−(5)から選択されるいずれか1項に記載の内服液である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって得られるイブプロフェンを含有する内服液は、イブプロフェンの液剤中のメジアン径が一定の範囲であることから、イブプロフェンの粒子が沈降せずに、液剤中に均一に分散し、長時間に渡って液剤の状態が変化することがないことから有用である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の内服液のイブプロフェン含有量は、液剤全量において、300−500mg/90mlであり、好適には、450mg/90mlである。
「界面活性剤」とは、ショ糖脂肪酸エステル類、シュガーエステル、β−サイクロデキストリン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、ポリソルベート80)、ステアリン酸ポリオキシル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル類等界面活性剤であり、好適には、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)である。これらの界面活性剤の含有量は、液剤全量において、100−700mg/90mlであり、分散剤と併用する場合、好適には、200mg/90mlであり、分散剤を併用しない場合、好適には、400−700mg/mlである。
【0008】
「分散剤」とは、ヒドロキシプロピルセルロ−ス、ヒドロキシプロピルメチルセルロ−ス、 ヒドロキシエチルセルロ−ス、ヒドロキシエチルメチルセルロ−ス等の分散剤であり、好適には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。これらの増粘剤の含有量は、液剤全量において、300−500mg/90mlであり、好適には、400mg/90mlである。
【0009】
「増粘剤」とは、キサンタンガム、プルラン、デキストラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、カラギーナン、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、キト酸、タマリンドガム等の増粘剤であり、好適には、キサンタンガムである。これらの増粘剤の含有量は、液剤全量において、50−250mg/90mlであり、好適には、220mg/90mlである。
【0010】
「メジアン径」とは、粒子体の一つの集団の全体積を100%として累積曲線を求めた時、累積曲線が50%となる点の粒子径(累積平均径)である。
本発明には、通常、懸濁剤で用いられる各種添加剤を、さらに、含有することが出来る。例えば、甘味料、防腐剤、酸味料、香料、矯味剤、増粘剤、pH調整剤他である。
また、調製液に窒素ガスを通気したり、空間部を窒素ガスで満たしたり等、製品が酸素に触れぬよう処理することができる。
【0011】
(一般的製造方法)
本発明の内服液剤は以下の方法によって製造することができる。
(1)イブプロフェン、界面活性剤及び精製水を、60−90℃(好適には、75−85℃)に加熱し、イブプロフェン及び界面活性剤(好適には、HCO−60、日光ケミカルズ株式会社製のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)を熔融させた後、ホモミキサーを用いて乳化させる。
(2)(1)で調整した乳液を冷後、増粘剤を基剤(例えば、濃グリセリン)に分散させたものをあらかじめ加温した精製水に加え溶解させた後、(1)の乳化液に加え混合、分散する。
(3)更に各種添加剤を精製水に溶解した液を加えた後、精製水で調製する。
【0012】
本発明の特徴は、(1)精製水の存在下で、イブプロフェンを加熱、熔融することにあり、イブプロフェンのような低融点物質では微粉砕が困難であった問題点を解決したものである。また、本発明の特徴は、(2)イブプロフェンを精製水中で加熱、熔融した後、界面活性剤を加え乳化し、さらに、増粘剤、分散剤を加えて液剤を調製することによって安定な液剤を調整していることである。界面活性剤、増粘剤、分散剤の含量は、多すぎても、少なすぎても、安定な液剤はできない。調整後の液剤中には、均一で、好適な範囲の粒子径の粒子としてイブプロフェンがサスペンジョンとなっている。しかし、界面活性剤、増粘剤、分散剤等が、多すぎたり、少なすぎたりすると、粒子が、液化と固化を繰り返す等して、不均一になり、サスペンジョンとしての安定性が低下してしまう。 不均一なサスペンジョンは、内服液としての安定性にのみ問題が生じるわけではなく、服用感を損なうことからも問題である。
【実施例】
【0013】
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0014】
(実施例1)
イブプロフェン5.0g、HCO−60 5.0g及び精製水60gをとり、約80℃に加熱し、イブプロフェン及びHCO−60を熔融させた後、この液をホモミキサーを用いて乳化させ乳化液を得た。その乳化液を冷後、キサンタンガム1.5gを濃グリセリンに分散させたものをあらかじめ加温した精製水に加え溶解させて、乳化液に加え混合・分散した。更に精製白糖270g、d-マレイン酸クロルフェニラミン0.039g、臭化水素酸デキストロメトルファン0.533g、グアヤコールスルホン酸2.778g、無水カフェイン0.833g、安息香酸ナトリウム1.0g、クエン酸2.778g及びクエン酸ナトリウムを精製水に溶解した液を加えた後、最後に精製水で調整して1Lの内服液を製造した。
【0015】
(実施例2)
イブプロフェン5.0g、HCO−60 5.0g、シュガーエステル0.5g及び精製水を60gとり、約80℃に加熱し、イブプロフェン以下を熔融させた後、この液をホモミキサーを用いて乳化させ乳化液を得た。その乳化液を冷後、キサンタンガム1.0gを濃グリセリンに分散させたものをあらかじめ加温した精製水に加え溶解させて、乳化液に加え混合・分散した。更に精製白糖270g、d-マレイン酸クロルフェニラミン0.039g、臭化水素酸デキストロメトルファン0.533g、グアヤコールスルホン酸2.778g、無水カフェイン0.833g、安息香酸ナトリウム1.0g、クエン酸2.778g及びクエン酸ナトリウムを精製水に溶解した液を加えた後、最後に精製水で調整して1Lの内服液を製造した。
【0016】
(実施例3)
イブプロフェン5.0g、βサイクロデキストリン6.667g、ポリソルベート80 0.667g及び精製水60gをとり、約80℃に加熱し、イブプロフェン以下を熔融させた後、この液をホモミキサーを用いて乳化させ乳化液を得た。その乳化液を冷後、キサンタンガム1.0gを濃グリセリンに分散させたものをあらかじめ加温した精製水に加え溶解させて、乳化液に加え混合・分散した。更に精製白糖270g、d-マレイン酸クロルフェニラミン0.039g、臭化水素酸デキストロメトルファン0.533g、グアヤコールスルホン酸2.778g、無水カフェイン0.833g、安息香酸ナトリウム1.0g、クエン酸2.778g及びクエン酸ナトリウムを精製水に溶解した液を加えた後、最後に精製水で調整して1Lの内服液を製造した。
【0017】
(実施例4)
イブプロフェン5.0g、HCO−60 2.222g及び精製水50gをとり、約80℃に加熱し、イブプロフェン及びHCO−60を熔融させた後、この液をホモミキサーを用いて乳化させ乳化液を得た。その乳化液を冷後、精製水60gにヒドロキシプロピルメチルセルロ−ス4.444gを溶かした溶液を加温した後添加し、再度乳化させる。その乳化液を冷後、キサンタンガム2.444gを濃グリセリンに分散させたものをあらかじめ加温した精製水に加え溶解させて、乳化液に加え混合・分散した。更に精製白糖260g、dl-マレイン酸クロルフェニラミン0.083g、リン酸ジヒドロコデイン0.266g、dl-塩酸メチルエフェドリン0.666g、無水カフェイン0.833g、安息香酸ナトリウム0.75g、クエン酸2.778g及びクエン酸ナトリウムを精製水に溶解した液を加えた後、最後に精製水で調整して1Lの内服液を製造した。
【0018】
(比較例1)
実施例1と同成分を同量測り、ホモミキサーを用いて精製水に各成分を分散または溶解させて内服液を製造した。イブプロフェンは微粉砕品を用い、熔融することなく分散させた。
(比較例2)
実施例3と同成分を同量測り、ホモミキサーを用いて精製水に各成分を分散または溶解させて内服液を製造した。イブプロフェンは微粉砕品を用い、熔融することなく分散させた。
【0019】
(試験例)
1.内服液製造直後のイブプロフェンの粒度分布をレーザー回析法により測定し、メジアン径を求めた結果を以下に示す。

【表1】

【0020】
実施例1−3では、比較例1、2よりも微細な粒度が得られた。粒度は分散前の原体の粒度に大きく依存すると考えられた。イブプロフェンのように低融点物質では、通常の方法で粉砕を工業的に行うことは、粉砕器への熔融−固着等が発生し、ロスが大きく問題であり、また、ジェットミル等を使用する場合には、設備が大がかりなものになったり、生産効率の低下が避けられなかったりという不都合が生ずると考えられた。しかし本発明によれば、一度イブプロフェンを熔融してから乳化、サスペンジョンの生成という工程を経るので、あらかじめ原体の粒度を規定する必要もなく、かつ、均一で微細な粒度が得られる点で優れている。特に、実施例4では界面活性剤と分散剤とを併用することによって、実施例1−3に比べ更に微細な粒子の懸濁液剤が得られる点で優れている。
2.内服液を40℃で3ヶ月保存した後のイブプロフェンの粒度分布をレーザー回析法により測定し、メジアン径を求めた。また、保存後と製造直後のメジアン径の比を求めた。
【0021】
【表2】

実施例1−4では経時的に結晶の成長が少ないうえ、経時後の結晶の粒度も試験例の製造直後と変わりなく、服用に適するものであった。特に分散剤を併用した実施例4では粒度の変化はほとんど見られなかった。しかし、比較例1、2では結晶の成長が著しく、服用時にざらつき感を感じることがあると考えられる。本発明によれば微細な粒度が得られるだけでなく、安定性も優れていることが証明された。
【0022】
(レーザー回析法による粒度分布測定)
<測定条件>
1.使用機器:レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA LA−910)
2.機器条件:デ−タ取り込み回数:20回、相対屈折率:1.28−0.00i、攪拌(測定溶液槽の攪拌速度):3、循環(測定溶液の循環速度):2、超音波処理:無
3.分散媒:精製水
4.測定値表示条件:粒子径基準:体積、頻度分布スケ−ル:固定、グラフ軸:LogX−LinearY
<測定手順>
1.分散媒を測定溶液槽に添加
2.攪拌、循環をONにしてノイズが無くなるのを待つ(1分程度)
3.ブランク測定を行う(これにより透過率が100%にリセットされる)
4.サンプルを測定溶液槽に加える(透過率が65〜75%位になるように添加量を加減する)
5.測定結果が表示されたら、結果を印刷する
6.測定溶液槽の溶液を排出する
7.流路系洗浄のため精製水を加えて攪拌、循環をONにする(2回繰り返す)
8.洗浄水を廃棄した後、次の測定を行う(1-7の繰り返し)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製水中で、加熱熔融により乳化した後に、微粒子の結晶としたイブプロフェンを含有する内服液。
【請求項2】
さらに、界面活性剤及び増粘剤を含有する、請求項1に記載の内服液。
【請求項3】
さらに、分散剤を含有する、請求項2に記載の内服液。
【請求項4】
界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油であり、分散剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、増粘剤が、キサンタンガムである、請求項3に記載の内服液。
【請求項5】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の含有量が、液剤全量において、100−300mg/90mlであり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量が、液剤全量において、300−500mg/90mlであり、キサンタンガムの含有量が、液剤全量において、150−300mg/mlである、請求項4に記載の内服液。
【請求項6】
イブプロフェンのメジアン径が、40μm以下である、請求項1−5から選択されるいずれか1項に記載の内服液。
【請求項7】
イブプロフェンのメジアン径が、20μm以下である、請求項1−5から選択されるいずれか1項に記載の内服液。
【請求項8】
40℃で3ヶ月保存した後の粒度分布をレーザー回析法により測定した場合の保存後と製造直後のイブプロフェンのメジアン径の比が、2.0以下である、請求項1−5から選択されるいずれか1項に記載の内服液。

【公開番号】特開2009−242383(P2009−242383A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52772(P2009−52772)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】