説明

イブプロフェン含有製剤及びその製造方法

【課題】イブプロフェンの効果発現遅延を改善し、しかも持続性を向上させたイブプロフェン含有製剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】イブプロフェン及びカカオ脂の共溶融物を含有するイブプロフェン含有製剤、もしくはイブプロフェン及びカカオ脂を含有し、イブプロフェンが非晶質又は低結晶であるイブプロフェン含有製剤及びこれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解熱鎮痛効果の発現が早く、しかも持続性に優れたイブプロフェン含有製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
徐放性製剤は、生体内での消失半減期が短い薬物に対し、その効果を持続させることができる有用性の高い製剤である。このように薬物を徐々に放出する方法として、エチルセルロースのような水不溶性コーティング膜で制御する方法、腸溶性膜剤やワックス類のような耐酸性膜剤に分散させる方法がある。
しかし、この技術を用いてイブプロフェン(半減期:約2時間)の効果を持続させようとすると、イブプロフェンが難水溶性であるために十分な初期放出性が得られず、効果の発現が遅くなるという課題があった。このため徐放性粒子と溶解性を早めた粒子を同時に配合する方法が提案されているが、この方法では作業性が悪くなり、経済的でないという問題がある。
作業性改善に対する技術として、耐酸性膜に界面活性剤を添加したイブプロフェンの徐放製剤(特許文献1:特許第4078567号公報)が提案されているが、効果発現の遅延という点においては十分改善されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4078567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、イブプロフェンの効果発現遅延を改善し、しかも持続性を向上させたイブプロフェン含有製剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、イブプロフェンとカカオ脂との共溶融物であって、非晶質又は低結晶イブプロフェンとカカオ脂とを含む製剤とすることで、イブプロフェンの初期溶解性を高め、効果発現を早めることができる上に、腸管内での滞留性を高めて持続性を向上させることができることを見出すと共に、イブプロフェンとカカオ脂とを共溶融させることで、イブプロフェンを容易に非晶質化又は低結晶化することができ、簡単な工程で上記製剤を得ることができることを見出し、本発明をなすに至った。
なお、本発明において、初期溶解性が早いとは、後述するラット・ランダール−セリット法により測定した疼痛閾値が、60分後に90%以上であることをいう。また、本発明において、共溶融とは、イブプロフェンを含む2成分以上を加熱又は溶剤の添加により均一に融解又は溶解させた状態をいい、これらを冷却してイブプロフェンを非結晶化又は低結晶化させた混合物を共溶融物という。組成比は特に限定されない。この場合、低結晶とは、DSC(示差走査熱量測定計)で測定したときの共溶融物のピークが、共溶融前の結晶ピークと比較し、同質量換算にて、50%以下であるものをいう。製造工程を考慮すると、加熱により共溶融する方法は、溶剤の添加による方法よりも簡便で優れている。
【0006】
即ち、本発明は、下記のイブプロフェン含有製剤及びその製造方法を提供する。
請求項1:
イブプロフェン及びカカオ脂の共溶融物を含むことを特徴とするイブプロフェン含有製剤。
請求項2:
イブプロフェン及びカカオ脂を含み、イブプロフェンが非晶質又は低結晶であることを特徴とするイブプロフェン含有製剤。
請求項3:
カカオ脂の含有量が、イブプロフェン1質量部に対して1〜10質量部である請求項1又は2記載のイブプロフェン含有製剤。
請求項4:
更に、カカオ末、チョコレートフレーバー及びビターチョコレートから選ばれる1種又は2種以上を含む請求項1乃至3のいずれか1項記載のイブプロフェン含有製剤。
請求項5:
チュアブル錠、口腔内崩壊錠、口腔内溶解錠又はトローチ剤である請求項1乃至4のいずれか1項記載のイブプロフェン含有製剤。
請求項6:
カカオ脂及びイブプロフェンを加熱混合し、共溶融させた後、固化することを特徴とするイブプロフェン含有製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、イブプロフェンの初期溶解性を高めることで、解熱鎮痛効果の発現を早めることができ、しかも持続性にも優れたイブプロフェン含有製剤及びその製造方法を提供することができる。更にチョコレート風味を加えることで、服用性も向上させたイブプロフェン含有製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[イブプロフェン]
イブプロフェンとしては、イブプロフェン(2−(4−isobutylphenyl)propionic acid)及びその塩類、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、メチルグルカミン、さらにはリジン等のアミノ酸との塩等が挙げられる。イブプロフェン又はその塩は解熱鎮痛薬として有効である。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。一般用医薬品とする場合、医薬品承認基準量に基づき、イブプロフェン1日服用量として200〜600mgが好ましく、390〜450mgが特に好ましい。また、本発明の効果には直接関係しないが、イブプロフェンの含有量は、本発明の製剤中に0.5〜80質量%含まれることが好ましく、より好ましくは5〜50質量%である。
【0009】
[カカオ脂]
カカオ脂は、本発明の製剤に徐放性を付与すると共に、解熱鎮痛効果の発現遅延を改善するために用いられる。本発明で用いられるカカオ脂としては、日本薬局方適合カカオ脂が挙げられる。本発明の製剤中、カカオ脂の含有量は、イブプロフェン1質量部に対し、1〜10質量部が好ましく、より好ましくは1.5〜9質量部、特に6質量部以下、とりわけ4質量部以下であることが好ましい。少なすぎると、イブプロフェンの持続効果が十分でなくなる場合があり、多すぎると、効き始めの効果が十分でなくなる場合がある。
【0010】
本発明の製剤には、本発明の効果を損なわない範囲で任意成分を配合し得る。任意成分としては、例えば、賦形剤、矯味剤、甘味剤、結合剤、着色剤、滑沢剤等を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0011】
具体的に、賦形剤としては、エリスリトール、キシリトール、トレハロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、マンニトール、乳糖、白糖、デンプン、結晶セルロース、クロスポピドン、二酸化珪素等を挙げることができる。
矯味剤、甘味剤としては、カカオ末、アスコルビン酸、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア、スクラロース、ソーマチン、白糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、チョコレート、チョコレートフレーバー、各種粉末香料等を挙げることができる。
結合剤としてはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
着色剤としては、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、食用黄色5号色素、食用赤3号色素、食用青2号色素、食用レーキ色素、酸化チタン等を挙げることができる。
滑沢剤としては、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0012】
[製造方法]
本発明の製剤の製造方法は、イブプロフェン、カカオ脂等を、例えば、80〜90℃で10〜30分間加熱混合し、共溶融させた後に、必要により甘味剤、香料、チョコレート等を加えて成型(固化)する方法の他、スプレークーリングや、押し出し造粒、流動層造粒等、製造工程中の加熱によって共溶融が可能な任意の製法により粉末化したものを、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、各種矯味剤、香料等と混合し、打錠して錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、口腔内溶解錠、トローチ剤、ゼリー錠、ドロップ等とすることができる。この場合、任意成分等の添加物は、本発明の製剤の製造(製剤化)に際して、適宜適当な工程で添加すれば良いが、イブプロフェン及びカカオ脂を共溶融させる際に添加する場合、製造工程管理の点から、イブプロフェン及びカカオ脂と共に溶融又は溶解する成分であることが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、イブプロフェン、カカオ脂及び任意成分から得られた製剤をチョコレート、甘味剤等でコーティングしてもよい。コーティングする場合の方法は、これらチョコレート、甘味剤等や、胃液中で崩壊・溶解又は融解する膜剤を選んで常法によりコーティングすることが良い。これらにより、イブプロフェンの苦みを抑えて、服用性を向上させたチョコレート製剤とすることができ、特に子供用(中高生用)製剤として有用である。
【実施例】
【0013】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0014】
[実施例1〜4]
表1に記載の1,000倍量のイブプロフェン及びカカオ脂を混合し、85℃まで加熱し、共溶融させた。均一確認後、室温まで冷却した。その後、乳鉢で粉砕して篩過し、250〜350μm画分を評価した。
【0015】
[比較例1〜5]
表2に記載の1,000倍量のイブプロフェン及び各成分を混合し、各成分が融解する温度以上まで湯煎で加熱し、共溶融させた。均一確認後、室温まで冷却した。その後、乳鉢で粉砕して篩過し、250〜350μm画分を評価した。
【0016】
[比較例6]
表2に記載の100倍量の各成分を乳鉢で混合粉砕して篩過し、250〜350μm画分を評価した。
【0017】
[評価方法]
<結晶性>
実施例1〜4及び比較例1〜6で調製したサンプル各約20mgずつをDSC(示差走査熱量測定計:(株)リガク THERMOFLEX TAS300)で測定したときのピークを、イブプロフェン単体結晶ピークと比較し、同質量換算にて結晶性を評価した。
同質量換算50%以下を低結晶と表示し、ピーク無しを非晶質と表示した。結果を表1,2に併記する。
【0018】
<疼痛閾値>
イブプロフェンの鎮痛効果を、ラット・ランダール−セリット法(例えば、「応用薬理」、第21巻、第5号、753−771頁、1981年)に準じて、以下のように測定した。
〈実験〉
ウィスター系雄性ラット1群6匹(4週齢、体重60〜90g)を用い、左後肢足蹠皮下に20質量%ビール酵母懸濁液0.1mLを皮下注射して起炎した。
次いで、表1,2に示す実施例1〜4及び比較例1〜6の各成分をそれぞれ含む懸濁水溶液を、イプブロフェン濃度が5質量%となるように調製し、次いでイブプロフェン投与量として、150mg/kgB.W.になるよう経口投与し、60分後、180分後の足蹠の疼痛閾値を圧刺激鎮痛効果測定装置(室町機械株式会社製)を用いて測定した。結果は、得られた疼痛閾値を、ビール酵母注射の1時間前(起炎前)に測定した疼痛閾値を100%とした換算値(%)で表中に併記する。平均疼痛閾値が90%以上を「解熱鎮痛効果あり」と評価した。なお、表2のコントロールは起炎後、蒸留水を10mL投与した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
比較例1〜5では、融点の高い油脂を用いているため、初期溶出性が遅くなり、効果発現が遅延した。
【0022】
使用した原料は下記の通りである。
【表3】

【0023】
[実施例5]
A成分を85℃で15分間加熱融解し、均一確認後、B成分を加えて懸濁し、均一化した。その後、成型し、冷却してチョコレート製剤(錠剤)を得た。
A成分
(a)イブプロフェン 150g
(b)カカオ脂 300g (配合比(a)/(b)=2)
B成分
カカオ末 150g
キシリトール 150g
アスパルテーム 28g
チョコレートフレーバー 0.8g
【0024】
[実施例6]
下記成分を用いて実施例5と同様にしてチョコレート製剤(錠剤)を得た。
A成分
(a)イブプロフェン 150g
(b)カカオ脂 300g (配合比(b)/(a)=2)
ビターチョコレート 200g
B成分
キシリトール 160g
アスパルテーム 28g
チョコレートフレーバー 0.8g
【0025】
[実施例7]
A成分を85℃で15分間加熱融解し均一確認後、スプレークーリング法(大川原化工機株式会社製)で粉末化した。これにB成分を加えて混合した後、タブレッティングテスターにて打錠し、錠剤とした。
A成分
(a)イブプロフェン 150g
(b)カカオ脂 300g (配合比(b)/(a)=2)
B成分
二酸化珪素(サイリシア350) 10g
結晶セルロース(セオラスPH302)150g
D−マンニトール 150g
ヒドロキシプロピルセルロース 30g
クロスポピドン(コリドンCL) 20g
ステアリン酸マグネシウム 3g
スクラロース 1.5g
香料 0.5g
【0026】
実施例5〜7の製剤も、実施例1〜4と同様に初期溶解性及び持続性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン及びカカオ脂の共溶融物を含むことを特徴とするイブプロフェン含有製剤。
【請求項2】
イブプロフェン及びカカオ脂を含み、イブプロフェンが非晶質又は低結晶であることを特徴とするイブプロフェン含有製剤。
【請求項3】
カカオ脂の含有量が、イブプロフェン1質量部に対して1〜10質量部である請求項1又は2記載のイブプロフェン含有製剤。
【請求項4】
更に、カカオ末、チョコレートフレーバー及びビターチョコレートから選ばれる1種又は2種以上を含む請求項1乃至3のいずれか1項記載のイブプロフェン含有製剤。
【請求項5】
チュアブル錠、口腔内崩壊錠、口腔内溶解錠又はトローチ剤である請求項1乃至4のいずれか1項記載のイブプロフェン含有製剤。
【請求項6】
カカオ脂及びイブプロフェンを加熱混合し、共溶融させた後、固化することを特徴とするイブプロフェン含有製剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−79796(P2011−79796A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235363(P2009−235363)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】