説明

イベントデータレコーダおよびそれを搭載した乗り物

【課題】コストアップを抑制しながら、自動二輪車1のような乗り物に搭載されたEDRの作動精度を向上させる。
【解決手段】乗り物に搭載された機器(例えばセンサやスイッチ21〜25)の出力を記録するための記録装置(例えば不揮発性メモリ35)と、乗り物の転倒を判定する判定装置(例えば転倒判定部30)と、乗り物の駆動輪(例えば後輪3)に繋がる駆動系の回転数が所定値以上に高いことを検出する検出装置(例えばトリガ生成部31)と、この判定装置によって乗り物の転倒が判定され、かつ検出装置によって駆動系の回転数が所定値以上に高いことが検出された場合に、機器の出力の記録を始めるように記録装置を制御する制御装置(例えばデータ出力制御部32)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転倒等の際に乗り物の各種機器の出力をデータとして保存し、転倒原因等の解析を可能とするためのイベントデータレコーダ、およびそれを搭載した乗り物に関し、特にデータの記録を開始するトリガーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転に関する情報を記録するために自動車に搭載されるイベントデータレコーダ(以下、EDRと略称する)は知られている。EDRは、例えば加速度センサにより所定以上の衝撃を検知すると、自動車に搭載された各種機器の衝撃検知前後における出力をROMに記録するものである。こうして記録された出力のデータから運転中のブレーキの使用や車速の急変等、自動車の挙動を把握して、運転状況の解析を行うことが可能になる。
【0003】
一例として特許文献1には、自動二輪車の走行状態において転倒センサの出力から転倒を判定した場合に、データの記録を開始するようにしたEDRについて記載されている。走行状態に限定するのは、いわゆる立ちゴケのように走行停止時にライダーが自動二輪車を倒してしまった場合にはEDRを動作させないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−310764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記特許文献1に記載のEDRでは、自動二輪車の走行状態において転倒と判定した場合にEDRを動作させるので、走行状態か否かの判定が難しい状況ではEDRが狙い通り動作しないおそれがある。例えば発進直後で車速がかなり低いときや砂地、沼地のように非常に滑りやすい路面状況で駆動輪が空転し、自動二輪車が転倒してもEDRは動作しないことがある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的はEDRの作動精度を従来よりも向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成すべく、本発明に係るイベントデータレコーダ(EDR)は、乗り物に搭載された機器の出力を記録するための記録装置と、前記乗り物の転倒を判定する判定装置と、前記乗り物の駆動輪に繋がる駆動系の回転数が所定値以上に高いことを検出する検出装置と、前記判定装置によって乗り物の転倒が判定され、かつ前記検出装置によって駆動系の回転数が所定値以上に高いことが検出された場合に、前記機器の出力の記録を始めるように前記記録装置を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0008】
なお、前記判定装置による転倒の判定は、一例として乗り物の前後方向の軸に対して、乗り物が傾斜して倒れ込んだ転倒自体を判定してもよく、実際に転倒しなくても前後軸周りの姿勢の急変を検知して、転倒と判定するようにしてもよい。前記した従来例(特許文献1)のように転倒センサび出力から転倒を判定することもできるし、転倒センサ以外の手段を用いて転倒判定してもよい。
【0009】
前記の構成のEDRでは、乗り物の転倒を判定したときに駆動系の回転数が高いことをトリガーとして、当該乗り物の機器の出力が記録装置に記録される。つまり、乗り物自体が走行移動中に転倒した場合は勿論のこと、その移動速度が非常に低い殆ど停止した状態であっても、駆動系の回転数が所定値以上に高い状態で転倒すればEDRが動作する。よって、例えば砂地や沼地で発進直後に駆動輪が空転し転倒する場合や何かに衝突して移動速度が低下した後に、駆動輪が回転した状態で転倒する場合にもEDRを動作させ、転倒の際の乗り物の挙動を表すデータを記録することができる。一方、駆動系の回転数が所定値未満であれば、乗り物が転倒してもEDRは動作しないので、いわゆる立ちゴケの際のデータは記録されない。よって、不所望なデータの記録を防ぎ、EDRの作動精度を従来よりも向上できる。
【0010】
より具体的に前記乗り物には、前記機器の出力のうちから少なくとも乗り物の運転者の操作に関連する第1の情報の出力を、更新しながら時系列のデータとして記憶する一時記憶装置が設けられていてもよい。そして、前記制御装置は、前記記録装置の記録動作を開始すると、この開始時点とそこから所定時間、遡った過去の時点との間の前記機器の出力のデータを、前記一時記憶装置から読み出して前記記録装置に記録させるようにしてもよい。
【0011】
こうすれば、乗り物が転倒する直前の所定時間における少なくとも運転者の操作に関連する第1の情報が記録されるので、これに基づいて転倒の状況を把握し、その解析を行うことが可能になる。第1の情報としては一例として過度の急制動、急操舵などのように、通常の移動中には起こりにくい運転者の操作に関連し、結果として転倒に繋がるような情報としてもよい。また、運転者の操作に関連していなくても転倒状況の解析に有用なものであればよい。
【0012】
また、前記制御装置は、前記判定装置による判定結果および前記検出装置による検出結果に依らず、前記機器の出力のうちから少なくとも前記乗り物の移動状態に関連する第2の情報の出力を記録するように、前記記録装置を制御するものであってもよい。第2の情報としては一例として、乗り物の移動速度の最大値やその分布、或いは転倒回数の累積値のように、ユーザの通常の使用状況、移動状態を表す情報としてもよい。また、前記の第1の情報に含まれない情報全般としてもよい。
【0013】
こうすれば、第1の情報のように乗り物の転倒に直接的に関連する情報だけでなく、転倒に関連しない通常の移動状態のような第2の情報もEDRに記録され、両者を併せて考慮することで転倒の解析の精度を高めることができる。なお、第2の情報を、判定装置による判定結果や検出装置による検出結果に依らず記録するというのは、例えば一定の時間間隔で記録したり、乗り物の主電源のオン/オフ時に記録するなど、記録するタイミングが必ずしも前記の判定結果や検出結果に依存しない、という意味である。よって、第2の情報を記録するタイミングが結果的に第1の情報の記録と同じタイミングであってもよい。
【0014】
そうして通常の移動状態に関する第2の情報も記録する場合、この第2の情報は、第1の情報に比べて遙かに長い時間に亘って記録することになるので、その時間あたりの記録量は第1の情報に比べて少なくしてもよい。こうすれば、記録装置の限られた記録容量の範囲で有用な情報をなるべく多く記録することができる。一方、転倒の直前の所定時間における第1の情報のデータは、相対的に短い時間間隔の詳細データとして記録するのが好ましい。また、第1の情報の記録回数は予め設定された回数に制限してもよく、こうすれば、設定回数を超えた第1の情報の上書きを防止できるとともに、第2の情報の記憶容量を確保する上で有利になる。
【0015】
さらに、前記乗り物が一例として自動二輪車のように駆動輪と従動輪とを備えている場合に、前記第1の情報には従動輪の回転速度に関する情報が含まれていてもよい。従動輪の回転速度が含まれることで、駆動輪の回転速度と併せてスリップ状態などについても判断できる場合があり、転倒の原因を解析しやすくなる。また、自動二輪車に限らず第2の情報には、乗り物の転倒回数に関する情報が含まれていてもよい。転倒回数も転倒の原因の解析に役立つ可能性がある。
【0016】
見方を変えれば本発明の対象は、前記のようなEDR自体のみならず、EDRの搭載された乗り物でもある。また、前記のようにEDRを動作させるための制御方法および制御プログラムも本発明の対象である。
【発明の効果】
【0017】
以上、説明したように本発明に係るEDRは、乗り物が転倒していて、しかも駆動系の回転数が高いときに動作し、乗り物に搭載された機器の出力を記録するので、EDRの作動精度を従来よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1に示す自動二輪車に搭載されたEDRを説明するブロック図である。
【図3】図2に示すEDRの動作を説明するフローチャートである。
【図4】イベントデータおよびヒストリデータの記録される期間を模式的に示す説明図である。
【図5】一例としてヒストリデータに含まれる車速域の分布について説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の説明で用いる方向の概念は乗り物に乗車した運転者を基準とする。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る自動二輪車1(乗り物)の左側面図である。図1に示すように自動二輪車1は前輪2と後輪3とを備え、前輪2は、略上下方向に延びる左右一対のフロントフォーク4の下端部に回転自在に支持されている。左右のフロントフォーク4の上部は、図示は省略するが、アッパおよびロワの一対のブラケットによって互いに連結されるとともに、ステアリングシャフト(図示せず)を介して車体側のヘッドパイプ5に回転自在に支持されている。また、アッパブラケットには、左右へ延びるバー型のハンドル6が取り付けられており、このハンドル6を回動操作することによって運転者は、前記ステアリングシャフトを回動軸として前輪2を所望の方向へ転向させることができる。
【0021】
また、運転者の右手により把持されるハンドル6の右側のグリップは、手首のひねりにより回動させて走行速度を調節するスロットルグリップ(図示せず)となっており、反対側の左側のグリップの前方にはクラッチレバー8が設けられている。ハンドル6の左右の中央部の前方には、走行速度やエンジン回転数を表示するメータを有するメータユニット9が配設されている。
【0022】
一方、ハンドル6の後方のヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム10が若干下方に傾斜しながら後方へ延びており、その後部に左右一対のピボットフレーム11が接続されている。ピボットフレーム11には略前後方向に延びるスイングアーム12の前端部が枢支されており、このスイングアーム12の後端部に駆動輪である後輪3が回転自在に軸支されている。メインフレーム10の上方には燃料タンク13が設けられており、その後方に騎乗用のシート14が設けられている。
【0023】
メインフレーム10の下方には、このメインフレーム10およびピボットフレーム11に支持された状態でエンジンEが搭載されている。一例としてエンジンEの後側には、左右のメインフレーム10に挟まれてスロットル装置15が配設され、このスロットル装置15の上部にはエアクリーナボックス16が接続されている。一方、エンジンEの前側には排気管17が接続され、エンジンEの下方を潜って後方へと延びている。この排気管17を含めてエンジンE等を車体前方から両側にかけて覆うようにカウリング19が設けられている。
【0024】
また、本実施形態の自動二輪車1では、主にエンジンEなどの運転制御を行うためのECU18が設けられており、一例としてシート14の下方に収容されている。このECU18の本来の機能は、自動二輪車1に設けられた種々のセンサからの入力情報に基づいて予め定められた制御プログラムを実行し、エンジンEの種々のアクチュエータに駆動指令を与えて、エンジンEの運転制御を行うための制御装置である。一例としてECU18は、スロットル開度センサ、車速センサ、吸気圧センサ、ギヤポジションセンサからの情報に基づいて、燃料噴射装置および点火装置に駆動指令を与えるものであり、これによってエンジンEは、各種の運転状態に適した動作を行なう。
【0025】
それに加えて本実施形態のECU18は、以下に述べるように自動二輪車1の転倒等に関連する情報を記録するイベントデータレコーダとしての機能も有しており、一例として、自動二輪車であれば一般的な転倒センサ21により転倒が検出されたときに、データを記録するようになっている。転倒センサ21は、自動二輪車1の前後軸回りの加速度または姿勢を検出するものを用いることができる。姿勢検知する場合には転倒センサ21は、振り子式のムーブメントが内蔵されており、ムーブメントが所定角度以上の回動状態を検知すると検知信号を出力する検知回路を有している。
【0026】
そして、転倒センサ21は、自動二輪車1が左右方向に所定角度(例えば65度)以上に傾倒したことを検知するようになっている。図1の例では転倒センサ21は、エンジンEの後方で左側のメインフレーム10の内側面に固定されている。この転倒センサ21からの入力情報に基づいてECU18は、自動二輪車1の転倒を判定するとエンジンEが停止するように各種アクチュエータに指令する。これによって転倒後もエンジンEが動作することを防ぐことができる。
【0027】
−イベントデータレコーダ−
図2は、図1に示す自動二輪車1に搭載されたイベントデータレコーダ20(以下、EDR20と略称)を説明するためのブロック図である。本実施形態のEDR20は、ECU18の演算機能を利用して構成されており、ECU18には転倒センサ21の他、自動二輪車1の前輪2および後輪3のそれぞれの回転数からいわゆる前輪車速、後輪車速を検出するための前輪車速センサ24、後輪車速センサ25(機器)と、それ以外の各種センサ22(機器)および各種スイッチ23(機器)とが少なくとも接続されている。また、ECU18にはエンジンEの吸気装置15や燃料噴射装置および点火装置等が少なくとも接続されている。
【0028】
個々には図示しないが前記の各種センサ22は、一例としてエンジン回転数センサ、スロットルポジションセンサ、ギヤポジションセンサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、GPSセンサ、サスペンションストロークセンサ、タイヤ空気圧センサ、グリップ感圧センサ、シート感圧センサ、水温センサ、油圧センサ、運転者監視センサ、二人乗り検知センサ等であってもよい。また、前記の各種スイッチ23は、一例としてブレーキスイッチ、クラッチスイッチ、スタンドスイッチ等であってもよい。
【0029】
なお、エンジン回転数センサは、エンジンEのクランク軸の回転数を検出する機能を有する。スロットルポジションセンサは、スロットル装置15のスロットル弁の開度を検出する機能を有する。ギヤポジションセンサは、変速装置の変速段を検出する機能を有する。加速度センサは、自動二輪車1の走行加速度を検出する機能を有する。ジャイロセンサは、車体の姿勢を検出可能であり、車体の左右方向の傾斜の角速度を検出することにより、車体のバンク角を検出可能とする機能を有する。GPSセンサは、GPS(global positioning system)に接続して自動二輪車1の位置情報を取得する機能を有する。サスペンションストロークセンサは、自動二輪車1の衝撃吸収を行うサスペンションの伸縮状態を検出する機能を有し、例えば、サスペンションの上端部と下端部との間の距離を検出可能な変位センサであるとよい。
【0030】
また、タイヤ空気圧センサは、前輪2および後輪3のタイヤ空気圧を検出する圧力センサとしての機能を有する。グリップ感圧センサは、ハンドル6の左右のグリップを運転者が把持している圧力を検出する機能を有する。シート感圧センサは、シート14に着座した運転者の体重による圧力を検出する機能を有する。水温センサは、冷却水の温度を検出する機能を有する。油圧センサは、各種油圧ラインの圧力を検出する機能を有する。運転者監視センサは、運転者のまばたき等の挙動を把握する公知のセンサとしてもよい。二人乗り検知センサは、シート14への負荷の圧力分布を検知するセンサ、リヤサスペンションの収縮量がフロントサスペンションに比べて所定値以上大きいことを検知するセンサ、または、同乗者用の足置きステップへの負荷を検知するセンサとしてもよい。
【0031】
また、ブレーキスイッチは、ブレーキ操作の有無を検出する機能を有する。クラッチスイッチは、クラッチ操作の有無を検出する機能を有する。スタンドスイッチは、駐車する際に車体が若干傾斜した状態で地面に当てて車体を支持するサイドスタンドの降下/上昇を検出する機能を有する。
【0032】
そして、ECU18は、前記の転倒センサ21および各種センサ22、各種スイッチ23並びに前後輪2,3の各車速センサ24,25からの出力を受けて、エンジンEの運転制御などを行うとともに、それらの出力のデータを所定時間毎に更新しながら記憶しておき、自動二輪車1が転倒したと判定した際に、少なくとも転倒前の所定期間における所定のデータを上書き不能に記録するEDRとしての機能も有している。さらに、ECU18にはシステムの診断用のコネクタ26が設けられており、詳しい説明は省略するが、その診断用コネクタ26に通信線(図示せず)を介してコンピュータ装置(図示せず)を接続し、前記記録したデータを読み取れるようになっている。
【0033】
そのデータの記録について、より詳しくは、前記の各種センサおよびスイッチ21〜25からの出力は、自動二輪車1の電源がONになっている間、ECU18のデータ出力制御部32によってRAM34(電源供給されないとデータ消去してしまう一時記憶装置)に時系列のデータとして記憶され、所定時間毎に更新される。そして、自動二輪車1の通常の使用状況における少なくとも移動状態を表す所定のデータ(第2の情報)がヒストリデータとして、電源供給されなくてもデータ消去されない不揮発性メモリ35に記録される。また、自動二輪車1が転倒したと判定されれば、これに関連し得る所定のデータ(第1の情報)がイベントデータとして不揮発性メモリ35に記録される。
【0034】
すなわち、一例としてECU18は、転倒判定部30、トリガ生成部31、データ出力制御部32および時刻生成部33を有している。転倒判定部30は、転倒センサ21の出力に基づいて自動二輪車1が転倒状態であるか否かを判定する機能を有する。即ち、転倒センサ21と転倒判定部30とにより判定装置が構成される。また、トリガ生成部31は、転倒判定部30により自動二輪車1が転倒したと判定された場合に、後輪車速センサ25によって検出される自動二輪車1の駆動輪である後輪3の車速が所定値以上に高ければ、データ出力制御部32にトリガーを送信する機能を有する。即ち、後輪車速センサ25とトリガ生成部31とにより検出装置が構成される。
【0035】
そして、前記トリガ生成部31からトリガーを受信するとデータ出力制御部32は、RAM34からイベントデータを読み出して不揮発性メモリ35に上書不可能に記録する。即ち、このデータ出力制御部32によって、自動二輪車1の転倒が判定されかつ後輪車速の所定値以上に高いことが検出された場合に、不揮発性メモリ35へのイベントデータの記録を開始する制御装置が構成される。なお、時刻生成部33は、現在時刻をデータ出力制御部32に適宜送信するタイマー機能を有する。
【0036】
また、ECU18の回路基盤には半導体メモリからなるRAM34と、一例としてEPROM等の一度記憶したデータの書き換えが不能な半導体メモリからなる不揮発性メモリ35とが、例えばハンダ付けされて着脱不能に取付けられている。本実施形態では不揮発性メモリ35によって、前記のセンサやスイッチ21〜25の出力を記録するための記録装置が構成されている。
【0037】
データ出力制御部32は、前記のようにイベントデータを不揮発性メモリ35に記録する際に、ヒストリデータもRAM34から読み出して、不揮発性メモリ35に記録するようにしてもよいが、これ以外にも、転倒判断と無関係にヒストリデータを不揮発性メモリ35に記録するようにしてもよい。一例としてデータ出力制御部32は、自動二輪車1の電源がOFFされたときにも一定期間、電源供給を維持してRAM34からヒストリデータを読み出し、不揮発性メモリ35に記録するようにしてもよい。
【0038】
こうしてEDRトリガー発生とは異なる時点にヒストリデータの不揮発性メモリ35への記憶を実行することで、ヒストリデータの不揮発性メモリ35への記憶回数を減らすことができるとともに、転倒時に記憶するデータ量を少なくすることができ、安定してイベントデータを不揮発性メモリ35に記憶することができる。さらに電源OFF時からEDRトリガー発生時までのヒストリデータについて、イベントデータと共に不揮発性メモリ35に記憶することが好ましい。これによって転倒直前でのヒストリデータについても不揮発性メモリ35に記憶できる。
【0039】
一例として不揮発性メモリ35には、ヒストリーデータの記憶領域とイベントデータの記憶領域とが別々に設定されていて、特にイベントデータについては、いわゆるミラーリングを行うための2つの記憶領域が設定されている。よって、前記のように自動二輪車1の転倒をトリガーとしてデータ出力制御部32がイベントデータを不揮発性メモリ35に記録するときに、転倒の際の衝撃などによってシステムが電気的に不安定になったとしても、2つの記憶領域のデータを対比することでその信憑性を確かめることができる。
【0040】
なお、不揮発性メモリ35には、前記のイベントデータおよびヒストリデータと併せて、自動二輪車1の識別に利用可能な識別情報のデータも記録されていてもよい。一例として識別情報は、ECU18の型番であってもよいし、自動二輪車1の機種や仕向地などの情報であってもよい。また、前記のヒストリデータに含まれる工場出荷からの自動二輪車1の通算の運転時間なども識別情報として利用可能である。
【0041】
−イベントデータレコーダの動作−
次に、図3に示すフローチャートを参照しながらEDR20の動作について説明する。一例として図2および図3に示すように、まず、運転者が電源をONすると、ECU18のデータ出力制御部32は、転倒センサ21、各種センサ22および各種スイッチ23並びに前輪車速センサ24、後輪車速センサ25の各出力をRAM34に記憶して、所定時間毎に更新する。即ちRAM34の記憶容量を超える分については最も古いデータの領域から順に上書き保存していく。なお、RAM34に記憶されるイベントデータの更新は、所定時間毎ではなく所定データ量の記憶毎に更新してもよく、予め定める条件に従って古いデータが消去されて新しいデータが記憶される構成であればよい。
【0042】
そして、トリガ生成部31により後輪車速センサ25の出力に基づいて、自動二輪車1が走行状態であるか否かが判断され(ステップSA1:走行中?)、後輪車速が所定値(例えば10km/h)未満で判断がNoの場合はステップSA1に戻る。一方、後輪車速が前記所定値以上で走行状態であるYesと判断されれば、今度はステップSA2において転倒判定部30により、転倒センサ21からの出力に基づいて自動二輪車1が転倒したか否かが判断される。
【0043】
この判定がNoで自動二輪車1は転倒していないのであれば、データ出力制御部32により、RAM34に保存されている前記のセンサおよびスイッチ23の出力のデータからヒストリデータが演算され(ステップSA3)、RAM34のヒストリデータの記憶領域に記憶されて、ステップSA1に戻る。なお、EDR動作のトリガー条件である前記後輪車速の所定値が10km/h以外でもよいことは勿論であり、さらに、車速、変速比、運転モードなどの運転状態に応じて変更してもよい。こうすれば、さらにEDRの動作精度を向上できる。
【0044】
また、自動二輪車1が転倒し、車体が継続して所定角度以上に傾斜することにより、転倒センサ21から検知状態に相当する出力が所定時間にわたり連続して出力されれば、前記のステップSA2で転倒しているYesと判断され、トリガ生成部31からデータ出力制御部32にトリガーが送信される。データ出力制御部32では、その転倒の判断が予め設定した回数n未満か否か判断され(ステップSA4)、転倒回数i<nでYesであればRAM34からイベントデータおよびヒストリデータが読み出され、不揮発性メモリ35に上書き不能に記録される(ステップSA5)。その後、ステップSA6で転倒判断の累積回数iがインクリメントされ(i←i+1)、ステップSA1に戻る。
【0045】
一方、自動二輪車1が転倒して前記のように転倒の判断がなされても(ステップSA2でYes)、この転倒の判断の累積回数iが設定回数n以上の場合は(ステップSA4でNo)、不揮発性メモリ35へのイベントデータの記録は行わない。この場合は、データ出力制御部32によりRAM34からヒストリデータのみが読み出されて、不揮発性メモリ35に上書き不能に記録され(ステップSA7)、その後、ステップSA1に戻る。
【0046】
すなわち、前記したように不揮発性メモリ35は書き換え不能なものであり、その記憶容量は限られているので、データ量の非常に多いイベントデータは、その記録回数を設定回数n(例えばn=3〜5とすればよい)に制限している。図4に模式的に示すように、イベントデータDeは、トリガー受信時点とそこから所定時間(例えば8秒間)遡った過去の時点との間のセンサおよびスイッチ21〜25の出力のデータであり、サンプリング時間が非常に短いことから、転倒時の状況を詳細に表すものであるが、データ量は非常に多くなる。
【0047】
これに対しヒストリデータDhは、一例として過去の車速(後輪車速)の最大値や電源ONの回数等であり、その時間あたりのデータ量はイベントデータに比べて格段に少ない。よって、不揮発性メモリ35におけるヒストリデータの記憶領域はあまり大きく設定しなくても、概ね10年以上に亘ってヒストリデータを記録することができる。
【0048】
つまり、本実施形態では、自動二輪車1の転倒時の状況を表すためにデータ量が非常に多くなるイベントデータについては、その記録回数を制限し、工場出荷時点から現在に至るヒストリデータの記憶容量を確保するようにしており、不揮発性メモリ35の限られた記録容量の範囲内において有用な情報をなるべく多く記録することができる。なお、前記したようにイベントデータの記録の制限回数を超えてもヒストリデータの記録は継続され、その中には転倒回数も含まれている。
【0049】
−イベントデータ−
具体的にイベントデータは、少なくとも乗物の運転者の操作に関連する情報を含み、転倒の状況を把握し、その解析が可能となりやすい情報であって、通常の運転中には起こりにくい運転者の操作に関連し、結果として転倒につながるような情報であってもよい。すなわち、イベントデータは、転倒要因として挙げられる過度の急制動、急操舵、急加速などのように、通常の移動中には起こりにくい運転者の操作に関連し、結果として転倒に繋がるような情報を得るためのものであればよいが、運転者の操作に関連していなくても転倒状況の把握、解析に有用なものであればよい。
【0050】
イベントデータは、複数のセンサからの出力値の情報が予め定める時間間隔毎に記憶される。各情報は、時間変化の大小から記憶される時間間隔が異なるように設定されてもよい。例えば時間経過に対する変化が小さい情報は、時間経過に対する変化が大きい情報に比べて、時間間隔が長く設定される。また各情報は、注目する時点でそれぞれの情報を対比可能となるように、時間経過が同期するように記憶してもよい。またセンサの出力値の時間変化が判断可能となるように、注目するセンサからの出力値が時間経過に応じて複数記憶される。例えばサンプリング期間をsとすると、記憶される期間は、トリガー発生からさかのぼって、s×mとして設定される(mは自然数)。
【0051】
このようにイベントデータは、トリガー発生から所定期間さかのぼった期間まで、センサ・ECUの出力値の情報量をそのまま記憶することで、転倒状況の解析をしやすくすることができる。またイベントデータとして記憶される期間をトリガー発生からさかのぼった所定期間の間に制限することで、データ量が不所望に増加することを防ぐことができる。一例としてイベントデータは、自動二輪車1の転倒の際の状況を把握し、その原因などについて解析できるように、0.1〜0.5秒のサンプリング時間でRAM34に記憶させ、RAM34の記憶容量に対応して例えば10秒くらいの間隔でデータを更新するようにしてもよい。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に一例を示すようにイベントデータは、前輪車速、後輪車速、スロットル開度、ギヤポジション、クラッチスイッチの出力、エンジン回転数、燃料噴射量、エラーフラグの他に、自動二輪車1の各種モード等々であってもよい。また、図示はしないが、二輪車特有の出力事項として、ジャイロセンサにより出力される車体のバンク角や、グリップ感圧センサにより出力される運転者のグリップ把持圧力などが挙げられる。転倒時の自動二輪車1のバンク角の遷移が記録されていれば、転倒の際の姿勢の変化を解析する上で有用である。
【0054】
より具体的にイベントデータとして、トリガー発生からさかのぼった所定期間のエンジン回転数のほか、走行速度または駆動輪車速が所定期間毎に複数記憶されることで、転倒直前での駆動輪のスリップ状況を解析することができる。同様に、走行速度および従動輪車速が所定期間毎に複数記憶されることで、転倒直前での従動輪のスリップ状況を解析することができる。
【0055】
また、イベントデータとして、各種センサ・アクチュエータのエラーフラグが記憶されることで、転倒直前での各種センサ・アクチュエータの異常状態の有無を判断することができ、異常状態が転倒に影響したかどうか解析することができる。また、イベントデータとして、各種エンジン制御モードの有無が記憶されることで、各種モードに起因する転倒かどうか解析することができる。例えば出力制限制御、燃費優先制御、スリップ判断時の出力抑制制御許、前後輪ロック時のABS制御許などの許可・不許可と、転倒との関係を判断することができる。
【0056】
さらに、イベントデータとして、減速時の燃料カット制御、スリップ時の出力抑制制御またはブレーキロック時のABS制御状態など、運転操作を支援するための制御の実行状態の有無を記憶してもよい。これによって転倒直前でのECUによる制御状態が転倒に影響したかどうか解析することができる。その他、バンク角、操舵角、ブレーキ圧、加速度、燃料情報などの時間変化、ターンシグナル動作情報、ヘッドランプのハイビーム有無、ハザードランプ、がイベントデータに含まれてもよい。
【0057】
−ヒストリデータ−
一方、ヒストリデータは、自動二輪車1の走行移動状態に関連する情報を含み、例えば運転者の運転操作の傾向を示すものである。以下の表2に一例を示すようにヒストリデータは、車速(後輪車速)の最大値、工場出荷からn回目のEDRトリガ発生までの電源ONの回数、n回目のEDRトリガ発生から読み出しまでの電源ONの回数の他に、TRC制御(Traction Control)の累積時間等々であってもよく、さらに車速の分布、スロットル開度の分布等やエンストの回数、転倒(立ちゴケを含む)の回数であってもよい。これらは、自動二輪車1のユーザの通常の使用状況を表しており、イベントデータを併せて自動二輪車1の転倒の原因などの解析に用いられる。
【0058】
【表2】

【0059】
また、ヒストリデータは、乗物移動速度の最大値、移動速度分布(全工場出荷時から計測された移動速度を速度域毎に累積し、累積結果を速度域ごとに示したもの)、転倒回数の累積値なども含んでいてもよい。ヒストリデータは、各センサ・ECUの出力値の累積値・極値を用いて、情報量を削減するように情報処理されて記憶されることで、データ取得期間が長期にわたる場合でも、出力値をそのまま記憶する場合に比べて、データ容量を削減することができる。
【0060】
例えばヒストリデータとして、工場出荷時から累積演算される自動二輪車1の電源ON回数・電源ON期間のほか、工場出荷時からn回目のEDRトリガー発生まで累積演算される電源オン回数・電源オン期間が記憶されることで、転倒に至るまでの運転者の操作傾向を分析することができる。
【0061】
また、自動二輪車1の走行移動速度の分布、スロットル開度の分布、最大車速等がヒストリデータとして記憶されることで、運転者の運転操作傾向を判断することができ、転倒原因の解析に利用できる。転倒判断時においてエンジン停止制御を実行した回数、スリップ判断時の出力抑制制御を実行した累積実行期間(トラコン制御の累積実行期間)などを記憶することで同様に運転者の運転操作傾向を判断できる。
【0062】
さらに、ヒストリデータとして、エンジンストップ回数、スリップ判断時の出力抑制制御を実行した回数(トラコン制御回数)、ABS制御回数、ABS制御の累積実行期間、ブレーキ圧の最大値、故障フラグ発生回数、故障フラグ発生累積期間、リザーブタンク使用回数、バッテリ上がり回数、スロットル開度時間変化率の最大値、ブレーキ圧時間変化率の最大値、最大バンク角など、各種センサ出力値の累積値・極値・平均値を含んでもよい。
【0063】
さらにまた、本実施形態ではヒストリデータとして、生データの加工値(累積値・極値・平均値)を用いることで、情報量を圧縮するとしているが、他の方法を用いて情報量を圧縮してもよい。例えばイベントデータに比べてサンプリング間隔を広げてもよい。
【0064】
前記ヒストリデータの一例として図5には、自動二輪車1の走行移動速度の分布、即ち車速域の分布について具体的に示す。これは、新車時からの車速のデータを累積し、一例として第1〜第6の車速域に分類して累積の使用時間として保存したものである。この例では第3車速域での運転頻度が一番高く、それに次いで第4車速域での運転頻度が高い。また、アイドルを含む第1車速域での運転時間が比較的長い。このことから、市街地走行が多く、ユーザはあまり高速走行をしないと考えられる。
【0065】
以上の構成により本実施形態のEDR20によると、自動二輪車1が転倒したときに後輪車速が高ければEDR20が動作し、イベントデータやヒストリデータがECU18の不揮発性メモリ35に記録される。転倒をトリガーとしているので、衝撃によるEDR20の誤動作を抑止できる。また、自動二輪車1が走行中に転倒した場合は勿論のこと、砂地や沼地等で後輪3が空転し転倒する場合や衝突により走行速度が低下した後に転倒する場合であっても、後輪車速が高ければEDR20を動作させて、イベントデータやヒストリデータを記録することができる。一方、いわゆる立ちゴケの場合は後輪車速が低いので、余計なデータが記録されることはない。つまり、自動二輪車1のEDR20の作動精度を向上させることができる。
【0066】
そうして後輪車速に基づいてEDR20を動作させることから、後輪車速センサ25が必要であるが、これは自動二輪車1には一般的に備わっているので、新たにセンサを設けるためのコストアップは不要である。また、ECU18がEDR機能(プログラム)を有するので、部品点数・設置スペースの削減が可能であり、スペースの少ない自動二輪車1等、鞍乗り型車両に好適である。
【0067】
そして、ECU18の不揮発性メモリ35に記録されたイベントデータなどは、ECU18の診断用コネクタ26にパソコン等を接続してダウンロードすることができ、このデータに含まれる情報に基づいて転倒時の状況を把握し、その解析を行うことが可能になる。不揮発性メモリ35にはイベントデータと併せてヒストリーデータも記録されるので、両方のデータを組み合わせることで転倒の解析の精度を高めることができる。
【0068】
なお、前記した実施形態のように転倒センサ21により検出される車体の傾倒角度に基づいて、自動二輪車1の転倒状態を判定するのではなく、一例として車体の傾斜角度の時間変化が所定範囲を超えたときに、即ち自動二輪車1の姿勢が急変したときにその後に転倒すると推定し、後輪車速が高ければトリガ生成部31からトリガーが送信させて、データ出力制御部32によりイベントデータなどの記録を開始させるようにしてもよい。自動二輪車1の転倒(前記の姿勢の急変を含む)は、上述した転倒センサ21の代わりに例えばバンク角センサ、ジャイロセンサ、接触センサ等を用いて行うようにしてもよい。
【0069】
また、ハンドル6の操舵による前輪2の回動角度を検出する舵角センサを設け、その出力から自動二輪車1の直進走行時と旋回走行時とを判別して、転倒と判断する条件(バンク角、所定時間、単位時間あたりのバンク角変化量など)を異ならせてもよい(例えば、直進走行時の方が転倒と判定するバンク角を小さく設定する)。また、転倒と判断するバンク角は、走行速度や旋回半径に応じて変化させてもよい(走行速度が大きい場合に転倒であると判断するバンク角を大きく設定する)。すなわち、旋回中に車体に働く遠心力を考慮して、この遠心力を受けたとしても転倒してしまうであろうバンク角を、転倒と判断するバンク角としてもよい。
【0070】
さらに、前記図3のフローでは、後輪車速が所定値以上で走行状態であるYesと判断した後に、転倒センサ21からの出力に基づいて自動二輪車1が転倒したか否かを判断しているが、この順番は逆にして転倒判断後に後輪車速(駆動輪の回転速度)による判断をしてもよい。
【0071】
さらにまた、駆動輪の回転速度の代わりに駆動輪に繋がる駆動系の回転速度によって判断することもできる。一例として駆動源からの動力を遮断するクラッチなどを備える場合には、クラッチよりも動力伝達方向下流側の回転体の回転数をトリガー発生条件として用いるのが好ましい。また、例えば変速装置の動力伝達方向下流側の出力軸を用いてもよい。
【0072】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態のイベントデータレコーダは、自動二輪車1の前輪2または後輪3のスリップ率が所定値以上に大きくなって、当該自動二輪車1が転倒すると推定(判定)されたときに、EDR20を動作させるようにしたものである。それ以外の構成は第1の実施形態と共通なので、共通の構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0073】
図示は省略するが、本発明の第2実施形態に係る自動二輪車に搭載されたイベントデータレコーダにおいては、前輪車速センサ24および後輪車速センサ25がECU18の転倒判定部30に接続されている。この転倒判定部30は、一例として前輪2および後輪3の車輪速度の差が所定値以上に大きい場合に、いずれかの車輪がロックないし空転状態になっていて、自動二輪車1が転倒すると推定(判定)する。
【0074】
そうして転倒判定部30により自動二輪車1が転倒したと判定された場合に、後輪車速センサ25によって検出される自動二輪車1の後輪車速が所定値(例えば10km/h)以上に高ければ、トリガ生成部31からデータ出力制御部32にトリガーが送信される。
【0075】
以上の構成によれば、自動二輪車1が転倒しそうな状況で後輪車速が高ければ、EDR20が動作し、イベントデータやヒストリデータがECU18の不揮発性メモリ35に記録される。前記実施形態1のように転倒センサ21の出力によって転倒が判定されるよりも少し早いタイミングで、EDR20を動作させることができるので、転倒の際の衝撃などによってシステムが電気的に不安定になったとしても、その前にデータの記録を行うことができる。
【0076】
なお、前記のように前輪2および後輪3の車輪速度の差に基づいて、自動二輪車1の転倒を推定するのに限らず、一例として加速度センサの出力に基づいて、加速度の所定値以上に大きな状態が所定時間以上、続いたときに転倒すると判定してもよい。勿論、加速度センサを備えるのであれば、自動二輪車1の衝突による大きな加速度を検出したときには、この条件だけでEDR20を動作させるようにしてもよい。
【0077】
また、前記第1の実施形態のように転倒センサ21等の出力から自動二輪車1の転倒を判定することも併せて行い、この転倒の判定と前記の転倒の推定とのいずれかに応じてEDR20を動作させるようにしてもよい。
【0078】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態について説明する。この第3の実施形態のイベントデータレコーダは、自動二輪車1の走行中に運転者が自動二輪車1から離れたときに、転倒に伴って運転者が投げ出されたものと判定して、EDR20を動作させるようにしたものである。それ以外の構成は第1の実施形態と共通なので、共通の構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0079】
図示は省略するが、EDR20は、運転者がシート14(図1)に着座していることを検出するシート感圧センサと、運転者がハンドル6(図1)のグリップを握っていることを検出するグリップ感圧センサとを備えている。シート感圧センサおよびグリップ感圧センサは、ECU18の転倒判定部30に接続されており、この転倒判定部30には後輪車速センサ25も接続されている。
【0080】
そして、シート感圧センサの出力が所定値以下(シート14への負荷が所定値以下)であり、グリップ感圧センサの出力が所定値以下(ハンドル6のグリップへの負荷が所定値以下)であり、かつ、後輪車速センサ25で検出される後輪車速が所定値(例えば10km/h)以上であると、転倒判定部30により、自動二輪車1が転倒して運転者が投げ出されたと判定される。そして、トリガ生成部31からデータ出力制御部32にトリガーが送信される。
【0081】
以上の構成によれば、前記の第1、第2の実施形態と同様に自動二輪車1が転倒したときにEDR20を動作させて、イベントデータやヒストリデータをECU18の不揮発性メモリ35に記録させることができる。なお、前記のシート感圧センサやグリップ感圧センサを用いることに限定されず、例えば電子キーシステムを有する自動二輪車であれば、電子キーECUおよび後輪車速センサ25からの出力に基づいて、前記と同様に運転者が投げ出されたことを判定するようにしてもよい。
【0082】
電子キーシステムは、公知のように電子キーを所持したユーザが自動二輪車に近づくとエンジン始動が可能となるように自動的にアンロックがなされ、電子キーを所持するユーザが自動二輪車から遠ざかるとエンジン始動が不可能となるように自動的にロックされるシステムである。
【0083】
また、例えば自動二輪車1に、図示は省略するが、運転者の身体に固定するアームバンド等のような体固定具を設けて、この体固定具の状態を検出するスイッチと後輪車速センサ25からの出力とに基づいて、前記と同様に運転者が投げ出されたことを判定するようにしてもよい。
【0084】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態について種々、説明したが、本発明は前記第1〜第3の実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、前記の各実施形態では自動二輪車1のECU18を利用して一体的にEDR20を構成しているが、これに限らず、必要な演算回路や記録装置等を別途、設けてECU18とは別体のEDRを構成してもよい。
【0085】
また、前記の各実施形態のEDR20では、不揮発性メモリ35を書き換え不能な半導体メモリによって構成しているが、これは書き換え可能な半導体メモリを用いてもよいし、この不揮発性メモリ35にイベントデータやヒストリデータを記録する際に、データの上書きを禁止するようにしてもよい。
【0086】
また、前記の各実施形態のEDR20では、イベントデータの記録回数を制限しているが、この制限は設けなくてもよい。また、イベントデータとヒストリデータの両方を記録するのではなく、自動二輪車1の転倒時の状況を把握し、その解析を行うという目的からは例えばイベントデータを記憶して、ヒストリデータは記憶しないようにしてもよい。
【0087】
また、前記の各実施形態では、EDR20を転倒状況の把握とその解析に用いるとしているが、他の目的でEDR20を用いてもよい。例えば自動二輪車1の故障分析に用いてもよいし、運転技能の確認に用いてもよく、その他、用いられかたについては限定されない。
【0088】
さらに、前記各実施形態では自動二輪車を例に説明したが、本発明に係るイベントデータレコーダは、自動二輪車に限らず例えば乗鞍式不整地走行車両など転倒の可能性がある乗り物全般に適用することができる。乗り物の動力源は、前記各実施形態のようにエンジンEであってもよいし、電動モータであってもよいし、それらの両方からなるハイブリッド・タイプのものであってもよい。また、本発明は、イベントデータレコーダ自体だけでなく、イベントデータレコーダの搭載された乗り物やイベントデータレコーダの制御方法および制御プログラムも対象とする。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように本発明に係るイベントデータレコーダは、その作動精度を向上させることができる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できる自動二輪車等の乗り物に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 自動二輪車(乗り物)
2 前輪
3 後輪(駆動輪)
18 ECU
20 イベントデータレコーダ(EDR)
21 転倒センサ(機器、判定装置)
22 各種センサ(機器)
23 各種スイッチ(機器)
24 前輪車速センサ(機器)
25 後輪車速センサ(機器、検出装置)
30 転倒判定部(判定装置)
31 トリガ生成部(検出装置)
32 データ出力制御部(制御装置)
34 RAM(一時記憶装置)
35 不揮発性メモリ(記録装置)
De イベントデータ(第1の情報)
Dh ヒストリデータ(第2の情報)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物に搭載された機器の出力を記録するための記録装置と、
前記乗り物の転倒を判定する判定装置と、
前記乗り物の駆動輪に繋がる駆動系の回転数が所定値以上に高いことを検出する検出装置と、
前記判定装置によって乗り物の転倒が判定され、かつ前記検出装置によって駆動系の回転数が所定値以上に高いことが検出された場合に、前記機器の出力の記録を始めるように前記記録装置を制御する制御装置と、を備えていることを特徴とするイベントデータレコーダ。
【請求項2】
前記乗り物には、前記機器の出力のうちから少なくとも乗り物の運転者の操作に関連する第1の情報の出力を、更新しながら時系列のデータとして記憶する一時記憶装置が設けられ、
前記制御装置は、前記記録装置の記録動作を開始すると、この開始時点とそこから所定時間、遡った過去の時点との間の前記機器の出力のデータを、前記一時記憶装置から読み出して前記記録装置に記録させる、請求項1に記載のイベントデータレコーダ。
【請求項3】
前記制御装置は、前記判定装置による判定結果および前記検出装置による検出結果に依らず、前記機器の出力のうちから少なくとも前記乗り物の移動状態に関連する第2の情報の出力を記録するように、前記記録装置を制御する、請求項2に記載のイベントデータレコーダ。
【請求項4】
前記記録装置に記録される前記第2の情報は、前記第1の情報に比べて時間あたりの記録量が少ない、請求項3に記載のイベントデータレコーダ。
【請求項5】
前記第1の情報の記録回数が予め設定された回数に制限されている、請求項2〜4のいずれか1つに記載のイベントデータレコーダ。
【請求項6】
前記乗り物は駆動輪の他に従動輪を備えており、
前記第1の情報には、前記従動輪の回転速度に関する情報が含まれている、請求項2〜5のいずれか1つに記載のイベントデータレコーダ。
【請求項7】
前記第2の情報には、前記乗り物の転倒回数に関する情報が含まれている、請求項3または4のいずれかに記載のイベントデータレコーダ。
【請求項8】
請求項1に記載のイベントデータレコーダが搭載されていることを特徴とする乗り物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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