説明

イミダフェナシンを含有する口腔内崩壊錠

【課題】光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊錠を提供する。
【解決手段】イミダフェナシン含有顆粒を圧縮成型する製剤において、顆粒中のイミダフェナシンの濃度が0.001〜3質量%であり、かつ錠剤中に三二酸化鉄を0.05質量%以上含有することを特徴とする口腔内崩壊錠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダフェナシンを有効成分として含有する口腔内速崩壊錠に関する。
【背景技術】
【0002】
イミダフェナシンはムスカリン受容体M3及びM1拮抗作用を有する化合物であり(特許文献1)、過活動膀胱治療薬として提供される(非特許文献1)。イミダフェナシンを主成分とする製剤処方としては、イミダフェナシンを含有する経口固形製剤、経皮吸収剤などが知られている(特許文献2、3)。
特許文献2は、イミダフェナシン製剤が光に不安定なため、酸化チタン及び三二酸化鉄を含むコーティング液で錠剤を被覆することで光安定化を図ることが記載されている。
【0003】
一方、患者のQOL(Quality
of Life)の改善を目的に、製剤学的工夫を凝らした製剤開発が盛んであり、口腔内速崩壊錠は最も多く開発されている製剤である。口腔内速崩壊錠は、口腔内の少量の唾液でも瞬時に崩壊することから、服用が容易であり、通常の錠剤では嚥下が困難な高齢者や小児に最適な製剤である。また水なしで服用できるため服用の場所や時間が制限されない利点も有する。
【0004】
しかし、口腔内速崩壊錠は、崩壊性を保持したまま錠剤をチタン・三二酸化鉄コーティングすることは難しく、光安定なイミダフェナシン含有口腔内速崩壊錠についてはこれまで報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−215943号公報
【特許文献2】WO01/34147 A1パンフレット
【特許文献3】WO2006/082888 A1パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水分を摂取することなく服用可能で、光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊錠を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、顆粒中のイミダフェナシン濃度を調整するとともに、三二酸化鉄を添加することにより光安定性及び崩壊性に優れた口腔内速崩壊錠が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、イミダフェナシン含有顆粒を圧縮成型する製剤において、顆粒中のイミダフェナシンの濃度が0.001〜3質量%であり、かつ錠剤中に三二酸化鉄を0.05質量%以上含有することを特徴とする口腔内崩壊錠、に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、口腔内崩壊性及び光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊錠の提供が可能となり、嚥下が困難な高齢及び小児患者への投与が容易となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本願発明について詳細に説明するが、本願明細書において口腔内速崩壊錠とは、口腔内で唾液の存在下、咀嚼無しに約90秒、好ましくは約60秒、更に好ましくは40秒より短い時間で崩壊する固形医薬製剤をいう。
【0011】
本発明の口腔内速崩壊錠における有効成分であるイミダフェナシンとは、膀胱に選択的な抗コリン作用を有する頻尿・尿失禁治療薬である4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミドである。
【0012】
イミダフェナシンの濃度は、光安定性の点からは顆粒中0.001質量%以上が好ましく、さらに好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、よりさらに好ましくは0.05質量%以上、ことさら好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上である。また、含量均一性の点からは顆粒物中3質量%以下が好ましく、さらに好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、よりさらに好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。
【0013】
イミダフェナシン含有顆粒の造粒法は、乾式造粒法、攪拌造粒法、押出造粒法、流動層造粒法、転動流動層造粒法、噴霧造粒法などであり、好ましくは流動層造粒法又は転動流動層造粒法である。造粒物の平均粒径0.1〜350μmであることが好ましく、さらに好ましくは50〜200μmである。造粒物は、本発明の効果を損なわない限り、医薬品成分、賦形剤以外の成分を配合することができる。光安定性の点から造粒物中に配合する賦形剤は、澱粉が好ましく、さらに好ましくは部分アルファー化デンプンである。
また、イミダフェナシン含有造粒物は、医薬品成分の安定性、錠剤の製造容易性の点から造粒後乾燥することもできる。乾燥法は、医薬品製剤の製造に使用可能な方法であれば特に限定はない。
【0014】
また、光安定化のため三二酸化鉄で配合する。本発明で使用される三二酸化鉄は、黄色三二酸化鉄又は赤色三二酸化鉄であり、これらは単独若しくは混合して用いることができる。
三二酸化鉄の含有量は、錠剤中0.001質量%以上が好ましく、さらに好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。
【0015】
本発明の口腔内速崩壊錠は、イミダフェナシン粒子とは別に賦形剤及び崩壊剤を配合する。ここで配合される賦形剤は、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用できる。例えば、乳糖、ブドウ糖などの糖類、D−ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、結晶セルロースなどのセルロース類、部分アルファ化デンプン、トウモロコシデンプンなどの澱粉類などを挙げることができる。好ましくは糖アルコールである。
【0016】
本発明で使用される崩壊剤は、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用できる。例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム,メチルセルロースなどのセルロース類、クロスポビドンなどを使用することができ、飲用のし易さ(口当たりのよさ)の点からクロスポビドンを使用することが好ましい。崩壊剤の配合量は、錠剤中1〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは2〜6質量%である。
【0017】
口腔内速崩壊錠は、必要により医薬品製剤の製造に使用可能な添加物を配合することができる。具体的には、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用でき、例えば、滑沢剤としてステアリン酸及びその金属塩類、並びにタルク、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステル等、甘味剤として糖類、糖アルコール類、アスパルテーム、サッカリン及びその塩類、グリチルリチン酸及びその塩類、ステビア、並びにアセスルファムカリウム等、嬌味剤としてクエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸及びフマル酸等、着色剤として三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カラメル、リボフラビン及びアルミニウムレーキ等、香料としてメントール及びオレンジ油等が挙げられる。
【0018】
本発明において、成形される錠剤の形状は、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定はされない。例えば、中抜き、多角形及び凹型などの特殊な形状にすることができる。また、錠剤の舌の上での接触面積を増やし、口腔内水分を迅速に錠剤内部へ浸透させ、口腔内速崩壊性を高めるために、錠厚を薄く、錠径を大きくした扁平状の錠剤に成形することもできる。
【0019】
添加成分の混合は、通常の混合法を用いることができ、例えば、V字型混合機などを用いることができる。圧縮成形
については、通常の打錠法を用いることができ、例えば、ロータリー打錠機などを用いることができる。
【0020】
以下に、本発明の実施例、比較例、試験例を挙げて、さらに具体的に本発明を説明する。
【0021】
イミダフェナシン含有造粒物及びコーティング顆粒の評価方法は以下の通りである。
[粒度分布測定]篩式粒度分布測定器(ATM、ソニックシフター)にて、目開き75、106、150、180、212、355μmの篩を用いて測定した。
また、粒度分布測定より平均粒子径(50%径)を算出した。
口腔内速崩壊錠の評価方法
[硬度試験]錠剤硬度計(岡田精工社製)を用いて測定した。試験は5錠で行い、その平均値を示す。
[崩壊試験]崩壊試験機(富山産業社製)を用いて測定した。試験は6錠で行い、その平均値を示す。試験液は水を用い、錠剤が完全に崩壊し溶解するまでの時間を測定した。
【0022】
なお、以下の実施例及び比較例に用いた商品名で示される化合物は、下記の通りである。
1.商品名コリドン90F(BASF):ポビドン
2.商品名スターチ1500G(日本カラコン):部分α化デンプン
3.商品名ペアリトール(ROQUETTE JAPAN):D−マンニトール
4.商品名ポリプラスドンXL−10(ISP):クロスポビドン
5.商品名カープレックス#67(DSLジャパン):含水二酸化ケイ素
6.商品名ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)
7.商品名コリドン25(BASF):ポビドン
【0023】
実施例1
イミダフェナシン4.0g、コリドン90F(BASF)4g及び三二酸化鉄(癸巳化成)4gを精製水194g、エタノール194gの混液に溶解分散した。スターチ1500G(日本カラコン)388gを流動層造粒機(ダルトン製、NQ‐160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:159μm)。さらに、この造粒物25g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)374.5g、ポリプラスドンXL−10(ISP)45g及びカープレックス#67(DSLジャパン)1gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)4.5gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧850kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5kg(n=5)を示した。
【0024】
実施例2
イミダフェナシン4.0g、コリドン90F(BASF)4g及び三二酸化鉄(癸巳化成)20gを精製水186g、エタノール186gの混液に溶解分散した。スターチ1500G(日本カラコン)372gを流動層造粒機(ダルトン製、NQ‐160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:166μm)。さらに、この造粒物25g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)374.5g、ポリプラスドンXL−10(ISP)45g及びカープレックス#67(DSLジャパン)1gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)4.5gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧850kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5kg(n=5)を示した。
【0025】
実施例3
イミダフェナシン4.0g、コリドン90F(BASF)4gを精製水196g、エタノール196gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)392gを流動層造粒機(ダルトン製、NQ‐160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度50℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:192μm)。別に、コリドン25(BASF)3g、三二酸化鉄(癸巳化成)3gを精製水47g、エタノール47gの混液に溶解分散した。イミダフェナシン含有造粒物294gを流動層造粒機(ダルトン製、NQ‐160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度75℃)、コーティング顆粒を得た(平均粒子径:191μm)。
さらに、このコーティング顆粒25.5g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)374g、ポリプラスドンXL−10(ISP)45g及びカープレックス#67(DSLジャパン)1gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)4.5gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧730kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度4.4kg(n=5)を示した。
【0026】
実施例4
イミダフェナシン4.0g、コリドン90F(BASF)4gを精製水196g、エタノール196gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)392gを流動層造粒機(ダルトン製、NQ‐160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度50℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:192μm)。別に、コリドン25(BASF)15g、三二酸化鉄(癸巳化成)15gを精製水235g、エタノール235gの混液に溶解分散した。イミダフェナシン含有造粒物270gを流動層造粒機(ダルトン製、NQ‐160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度75℃)、コーティング顆粒を得た。
さらに、このコーティング顆粒22.4g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)297.2g、ポリプラスドンXL−10(ISP)36g及びカープレックス#67(DSLジャパン)0.8gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)3.6gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧720kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度4.2kg(n=5)を示した。
【0027】
比較例1
イミダフェナシン4.0g、コリドン90F(BASF)4gを精製水196g、エタノール196gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)392gを流動層造粒機(ダルトン製、NQ‐160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度50℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:192μm)。さらに、この造粒物25g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)374.5g、ポリプラスドンXL−10(ISP)45g及びカープレックス#67(DSLジャパン)1gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)4.5gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧1000kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度7.1kg(n=5)を示した。
【0028】

試験例1
実施例1〜5及び比較例1の製剤について純度試験を実施した。光線照射前後の分解物の生成量の結果を表1に示す。なお,分解物の定量は液体クロマトグラフ法(HPLC法)により評価した。
【0029】
HPLC法
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル(平均粒径5 μm,内径4.6 mm×長さ250mm) (ジーエルサイエンス株式会社 商品名Inertsil ODS-3)
A液:薄めたリン酸(1→200)にジエチルアミンを加え,pHを6.0に調整する。
B液:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル
C液:液体クロマトグラフィー用メタノール
送液:A液,B液及びC液の混合比を変えて濃度勾配制御する。
検出器:UV
測定波長:220 nm
【0030】
【表1】

顆粒中に三二酸化鉄を配合した実施例1〜3の製剤や顆粒を三二酸化鉄でコーティングした実施例4,5の製剤は、三二酸化鉄を配合していない比較例1と比べて光線照射による分解物の生成量は小さかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダフェナシン含有顆粒を圧縮成型する製剤において、顆粒中のイミダフェナシンの濃度が0.001〜3質量%であり、かつ錠剤中に三二酸化鉄を0.05質量%以上含有することを特徴とする口腔内崩壊錠。


【公開番号】特開2010−229075(P2010−229075A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78200(P2009−78200)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】