説明

イミド樹脂及びその樹脂組成物

【課題】 耐熱性が高く、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂と同様に取扱いが容易(例えば成形性等)な樹脂が求められていた。
【解決手段】 マレイミド単位、グルタルイミド単位、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル単位、更に必要により芳香族ビニル単位を含有して形成されるイミド樹脂を提供した。
アクリル系樹脂やスチレン系樹脂と同様の成形法で成形が可能であり、これらに比べ、非常に高い耐熱性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性と耐熱性に優れることを特徴とするイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特長を活かし、多様な用途で用いられるようになってきている。この中でも、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのディスプレイ分野では、画面の大型化が要求されるなかで、これに伴う重量増を抑制することも要求されている。
【0003】
この為、ディスプレイにおいては、従来透明性が要求される部材にガラスが使用されていたが、これを透明性が良好な樹脂へ置き換える流れが進んでいる。
【0004】
ポリメチルメタクリレートを代表とする種々の透明樹脂は、ガラスと比較して成形性、加工性が良好で、割れにくい、さらに軽量、安価という特徴などから、液晶ディスプレイや光ディスク、ピックアップレンズなどへの展開が検討され、一部実用化されている。
【0005】
しかし、自動車用ヘッドランプカバーや液晶ディスプレイ用部材など、用途の拡大に従って、透明樹脂は透明性に加え、耐熱性も求められるようになっている。ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂やポリスチレン等のスチレン系樹脂は透明性が良好であり、価格も比較的安価である特徴を有しているものの、耐熱性が低いため、適用範囲が制限されていた。例えば、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンの指差走査型熱量計(DSC)によるガラス転移温度は、100℃程度である。
【0006】
アクリル系樹脂の耐熱性を改善する方法として、メタクリル酸メチルとシクロヘキシルマレイミドを共重合させる方法が実用化されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、シクロヘキシルマレイミドは高価なモノマーである為に、コストが非常に高くなるという問題がある。
【0007】
また、アクリル系樹脂に一級アミンを処理して、耐熱性を向上させるという技術も知られている(例えば、特許文献2、3参照)。更に、スチレン系樹脂の耐熱性を改善する方法として、スチレンと無水マレイン酸を共重合させる方法が知られている(無水マレイン酸はスチレンとの共重合性に乏しく、実用化されているものでガラス転移温度は130℃程度である。)。
【0008】
しかし、これらの技術は、十分に耐熱性の要求を満足できるものではいか、無理に耐熱性を上げると他の特性に問題が生じるものがほとんどであった。
【特許文献1】特開昭62−156115号公報
【特許文献2】特開平06−240017号公報
【特許文献3】特開平06−256537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、耐熱性が高く、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂等の様に取扱いが容易(例えば成形性等)な樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究の結果、下記一般式(1)、(2)、(3)で表される繰り返し単位を有するイミド樹脂が、耐熱性が高く、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂等の様に取扱い性が容易であることを見出して、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)、(2)、(3)で表される繰り返し単位を含有して形成されることを特徴とするイミド樹脂を提供した。
一般式(1)
【0012】
【化5】

【0013】
一般式(2)
【0014】
【化6】

【0015】
一般式(3)
【0016】
【化7】

【0017】
更に下記一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成されるイミド樹脂を提供した。
一般式(4)
【0018】
【化8】

【0019】
また、ガラス転移温度が130℃以上である前記樹脂を提供した。
【0020】
また、無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体に、イミド化剤を反応させて得られることを特徴とする前記イミド樹脂を提供した。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐熱性が高く、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂等の様に取扱いが容易(例えば成形性等)な樹脂を提供することが可能となる。また、これにより本発明のイミド樹脂は、より多くの透明・耐熱が求められる成形体への展開が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、下記一般式(1)、(2)、(3)で表される繰り返し単位を含有して形成されることを特徴とするイミド樹脂に関するものである。
一般式(1)
【0023】
【化9】

【0024】
(ここで、R1は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
一般式(2)
【0025】
【化10】

【0026】
(ここで、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R4は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
一般式(3)
【0027】
【化11】

【0028】
(ここで、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R7は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂を構成する、第一の構成単位は、下記一般式(1)で表される(以下、この構造をマレイミド単位と呼ぶことがある。)。
一般式(1)
【0030】
【化12】

【0031】
(ここで、R1は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0032】
マレイミド単位は、本発明のイミド樹脂の耐熱性向上に有効に利用できる。本発明のマレイミド単位として、各種構造のものが使用できるが、特に入手の点、また反応性、耐熱性の点から、R1が水素、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基であるものが好ましい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂を構成する、第二の構成単位は、下記一般式(2)で表される(以下、この構造をグルタルイミド単位と呼ぶことがある。)。
一般式(2)
【0034】
【化13】

【0035】
(ここで、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R4は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0036】
グルタルイミド単位は、本発明のイミド樹脂の耐熱性向上に有効に利用できる。尚、各種構造のグルタルイミド単位が本発明で使用できるが、R2、R3が水素またはメチル基であり、R4が水素、メチル基、またはシクロヘキシル基であることが好ましい。特に入手の点から、R2がメチル基であり、R3が水素であり、R4がメチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基である場合が、特に好ましい。
【0037】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R2、R3、R4が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂を構成する、第三の構成単位は、下記一般式(3)で表される(以下、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル単位と呼ぶことがある。)。
一般式(3)
【0039】
【化14】

【0040】
(ここで、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R7は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0041】
本発明のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル単位を与える単量体としては、各種構造のものが使用できるが、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル系化合物には、特に限定がなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中で、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0042】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R5、R6、R7が異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0043】
本発明のイミド樹脂は、下記一般式(4)で表される繰り返し単位を含有していることが好ましい(第四の構成単位)。
一般式(4)
【0044】
【化15】

【0045】
(ここで、R8は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R9は、炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0046】
この第四の構成単位は、単一の種類でもよく、R8、R9が異なる複数の種類を含んでいても構わない。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジン等の芳香族ビニル系単量体が挙げられるが、スチレンが特に好ましい。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂には、必要に応じ発明の主旨を損なわない範囲で、更に第五の構成単位が共重合されていてもかまわない。第五の構成単位として、例えばアクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル等のビニルエステル単量体等の残基が挙げられる。これらはイミド樹脂中で直接共重合してあっても良く、グラフト共重合等の特殊な形態で結合していてもかまわない。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂における一般式(1)、(2)、(3)、または必要に応じ一般式(4)の構成単位の比率は特に制限はないが、樹脂の耐熱性が必要な場合には一般式(1)、(2)の構成単位の比率が高い方が好ましい。この点から考えた場合、一般式(1)と(2)を合わせた比率が本発明における樹脂中において20重量%以上であることが好ましい。20重量%以上であると、ガラス転移温度が130℃以上(市場で要求されることの多い耐熱温度)となる可能性が高くなる。
【0049】
本発明のイミド樹脂は、各種方法で形成することができるが、無水マレイン酸残基(C=C二重結合が開いて反応した状態。尚COOH基はマレイミド化反応が可能であれば、無水化していても、COOHの状態であっても、エステル化していても、塩などを形成していても構わない。)、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体に、イミド化剤を反応させることにより容易に得ることができる。無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体としては、イミド化、マレイミド化反応が可能なものであれば、各種構造のものが使用できる。尚、具体的にはメタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体等が好適に使用できる。ポリマーの形態は、リニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、またはこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても問題ない。また、コアシェルポリマーは、ただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても問題ない。
【0050】
本発明のイミド樹脂には、必要に応じて、他の樹脂、特に好適には熱可塑性樹脂を添加することができる。
【0051】
無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体に、イミド化剤を反応させて本発明のイミド樹脂を製造する場合には、押出機、バッチ式反応槽(圧力容器)などが使用できる。
【0052】
押出機を使用する場合は、単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機等、各種タイプの押出機が使用可能である。その中でも、原料となる共重合体に対するイミド化剤の混合を効率的に行える点で、特に二軸押出機を使用することが好ましい。二軸押出機には、更に非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等の各種タイプがあるが、この中でも噛合い型同方向回転式は高速回転が可能であり、アクリル系樹脂に対するイミド化剤の混合を効率的に行える点で特に好ましい。これらの押出機は単独で用いても、直列につないで用いても構わない。また、未反応のイミド化剤や副生物を除去する目的で、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着した押出機を用いることが好ましい。
【0053】
押出機の代わりに、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に使用できる。
【0054】
バッチ式反応槽(圧力容器)を使用する場合には、原料ポリマーを溶解した溶液を加熱、攪拌でき、イミド化剤を添加できる構造であれば特に制限ないが、反応の進行によりポリマー溶液の粘度が上昇することもあり、攪拌効率が良好なものがよい。例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンドなどを例示することができる。
【0055】
本発明のイミド樹脂は、無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体、例えばメタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体を溶解でき、イミド化反応に対して非反応性の溶媒を用いて、溶液状態のアクリル系樹脂にイミド化剤を添加することによっても得られる。
【0056】
イミド化反応に対し非反応性の溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の脂肪族アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、クロロトルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のケトン、エーテル系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上を混合したものであってもよい。これらの中で、トルエンが好ましい。
【0057】
溶媒を使用する場合、コストの面から考えると、溶媒の量は少ない方が好ましく、具体的には、固形分濃度として10〜80%、特に20〜70%が好ましい。
【0058】
本発明で使用されるイミド化剤は無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体(例えばメタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体)をイミド化、マレイミド化することができれば特に制限されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンが挙げられる。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素の如き加熱によりこれらのアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミンが好ましい。
【0059】
尚、メタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体をイミド化剤によりイミド化する場合、メタクリル酸メチル部より無水マレイン酸部の方が反応が進みやすい傾向にある。
【0060】
イミド化剤の添加量は、必要な物性を発現するためのイミド化率によって決定される。
【0061】
無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体)をイミド化剤によりイミド化する際には、イミド化、マレイミド化を進行させ、一方で過剰な熱履歴による樹脂の分解、着色などを抑制するために、反応温度は150〜400℃の範囲で行うことが好ましい。更に180〜320℃が好ましく、特に200〜280℃が好ましい。
【0062】
無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体をイミド化剤によりイミド化する際には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0063】
本発明によるイミド樹脂は、比較的高い曲げ弾性率、耐溶剤性、熱安定性、良好な光学特性、耐候性などの特性を有しており、各種用途に好適に使用可能である。
【0064】
本発明で得られるイミド樹脂は、単独で用いてもよく、または他の熱可塑性ポリマーとブレンドしても構わない。イミド樹脂単独、または他の熱可塑性ポリマーとブレンドしたものは、通常、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などのような各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。また、本発明で得られるイミド樹脂を溶解可能な溶剤(例えば塩化メチレン等)に溶解させて得られるポリマー溶液を用いる流延法やスピンコート法によっても成形可能である。
【0065】
成形加工の際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0066】
本発明のイミド樹脂から得られる成形品は、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具、などに使用可能である。
【実施例】
【0067】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法は次の通りである。
【0068】
(1)イミド化率の測定
本実施例のイミド樹脂は、メタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体をイミド化剤と反応させて形成したものであり、マレイミド単位量はイミド化反応前の無水マレイン酸単位量と同量とした。グルタルイミド単位量は、得られたイミド樹脂ペレットをそのまま用いて、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定することで算出した。得られたスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)の比から、イミドカルボニル基量を算出し、そのイミドカルボニル基量からマレイミド基量を差し引いたものをグルタルイミド単位量とした。
【0069】
(2)ガラス転移温度(Tg)
形成したイミド樹脂10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0070】
(3)成形方法
射出成形機(型締め圧:80トン)を用い、シリンダー温度はイミド樹脂のガラス転移温度+100℃、金型温度は50℃の条件で成形を行った。ペレットの乾燥は、100℃で12時間とした。このような条件で、厚み6.4mmのバー(長さ:127mm、幅:12.7mm)、厚み3.2mmのASTM1号ダンベル試験片を作製した。
【0071】
(4)機械物性評価方法
<曲げ強度、曲げ弾性率>
厚み6.4mmのバーを用いて、ASTM D−790に従い曲げ試験を行い、最大強度及び曲げ弾性率を求めた。
【0072】
<引張強度、引張伸び>
厚み3.2mmのASTM1号ダンベル試験片を用いて、ASTM D−638に従い引張試験を行い、最大強度及び伸度を求めた。
【0073】
(製造例1)
市販のメチルメタクリル酸−スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(デグサ製PLEXIGLAS−HW55)、イミド化剤としてモノメチルアミン(三菱ガス化学(株)製)を用いて、イミド樹脂を製造した。使用した押出機は口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数500rpmとし、メチルメタクリル酸−スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を1.0kg/hrで供給し、モノメチルアミンの供給量はメタクリル系樹脂に対して40重量部とした。ホッパーからメチルメタクリル酸−スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を投入し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルからモノメチルアミンを注入した。反応ゾーンの末端にはシールリングを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を−0.02MPaに減圧して脱揮した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
【0074】
得られたイミド樹脂のイミド化率、ガラス転位温度を表1に記載する。
【0075】
(製造例2)
モノメチルアミンの供給量を20重量部、スクリュー回転数を150rpmとした以外は、製造例1と同様に行った。
【0076】
(製造例3)
モノメチルアミンの代わりにシクロヘキシルアミン(広栄化学(株)製)を用い、シクロヘキシルアミンの供給量を40重量部とし、スクリュー回転数を150rpmとした以外は、製造例1と同様に行った。
【0077】
(製造例4)
耐圧硝子(株)製TEM−V1000N(200mL耐圧容器)を用いて、トルエン100重量部に市販のメチルメタクリル酸−スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(デグサ製PLEXIGLAS−HW55)100重量部を溶解させた。ドライアイス−メタノール混合溶液に反応容器を浸し、冷却した状態でモノメチルアミン15重量部を添加し、その後230℃で2.5時間反応させた。放冷後、反応混合物を塩化メチレンに溶解させ、メタノールを用いて沈殿させて生成物を回収した。
【0078】
(実施例1)
製造例1で得られたイミド樹脂のマレイミド単位量(比率)、グルタルイミド単位量(比率)、ガラス転移温度、ならびに成形体の機械強度を表1に示す。
【0079】
(実施例2)
製造例2で得られたイミド樹脂のマレイミド単位量(比率)、グルタルイミド単位量(比率)、ガラス転移温度、ならびに成形体の機械強度を表1に示す。
【0080】
(実施例3)
製造例3で得られたイミド樹脂のマレイミド単位量(比率)、グルタルイミド単位量(比率)、ガラス転移温度、ならびに成形体の機械強度を表1に示す。
【0081】
(実施例4)
製造例4で得られたイミド樹脂のマレイミド単位量(比率)、グルタルイミド単位量(比率)、ガラス転移温度、ならびに成形体の機械強度を表1に示す。
【0082】
何れの実施例も、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂と同様の成形法で成形が可能であった。また、これらに比べ、非常に高い耐熱性を有していることが伺える。
【0083】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、(2)、(3)で表される繰り返し単位を含有して形成されることを特徴とするイミド樹脂。
一般式(1)
【化1】

(ここで、R1は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
一般式(2)
【化2】

(ここで、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R4は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
一般式(3)
【化3】

(ここで、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R7は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【請求項2】
更に下記一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成されることを特徴とする請求項1に記載のイミド樹脂。
一般式(4)
【化4】

(ここで、R8は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R9は、炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【請求項3】
ガラス転移温度が130℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のイミド樹脂。
【請求項4】
無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体に、イミド化剤を反応させて得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のイミド樹脂。
【請求項5】
前記無水マレイン酸残基、一般式(3)、または必要に応じて一般式(4)で表される繰り返し単位を含有して形成される共重合体が、メタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項4に記載のイミド樹脂。
【請求項6】
溶剤不在下にてイミド化剤を反応させて得られたことを特徴とする請求項4または5に記載のイミド樹脂。
【請求項7】
溶剤存在下にてイミド化剤を反応させて得られたことを特徴とする請求項4または5に記載のイミド樹脂。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のイミド樹脂を含有してなる樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−124592(P2006−124592A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317405(P2004−317405)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】