説明

イルメナイト成型体、その製造方法及びバイオディーゼル燃料製造用触媒

【課題】高純度のイルメナイト成型体が得られ、不純物に起因するイルメナイトの埋没、希釈効果による活性低下及び副反応が充分に抑制されるとともに、一次粒子径、二次粒子径及び形状をコントロールすることができ、種々の用途に好適に適用することができるイルメナイト成型体、その製造方法、その成型体を含有するエステル交換反応用触媒、及び、その成型体を含有するバイオディーゼル燃料製造用触媒を提供する。
【解決手段】イルメナイト構造を有する複合酸化物を含むイルメナイト成型体であって、上記イルメナイト成型体は、成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものであるイルメナイト成型体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イルメナイト成型体に関する。より詳しくは、エステル交換反応やエステル化反応用の触媒等の用途に好適に用いることができるイルメナイト成型体、その製造方法及びイルメナイト成型体を含むバイオディーゼル燃料製造用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
イルメナイト構造を有する複合酸化物は、代表的には、陽イオンと陰イオンとから形成される八面体構造を持つ複合酸化物であって、陰イオンが少し歪んだ六方最密充填をつくり、その八面体間隙に陽イオンが6配位で規則配列をする菱面体格子を持ったものが挙げられる。イルメナイト構造を有する複合酸化物を含む鉱石(イルメナイト鉱石)をケイ酸塩、有機物等の結合剤で固めたペレットの研究開発が盛んに行われ、優れた機能・性能を有する焼成ペレット、コールドペレット等が製造されている。
【0003】
従来のイルメナイト鉱石を用いたペレットの製造方法としては、イルメナイト粉体45〜60重量%、含鉄スラッジとして転炉ダスト24〜39重量%、高炉ダスト5〜15重量%、バインダー(セメント)8〜12重量%を混合混練造形する方法が記載されている(例えば、特許文献1参照)。このような製造方法により、圧潰強度の高いコールドペレットが得られるとされている。また、従来のイルメナイト鉱石を用いたペレットとしては、ブレーン指数1300〜3000cm/gに粉砕したイルメナイト鉱石60重量%以上、セメント系結合剤15〜20重量%を含む高チタン非焼成ペレットが記載されている(例えば、特許文献2参照)。このようなペレットは、イルメナイト鉱石を60重量%以上含むものでありながら、高炉操業に必要な強度が得られるとされている。更に、従来のイルメナイト砂鉱・粉鉱に対して30〜50重量%の微細金属鉄、及び、完全ケン化ポリビニルアルコール、澱粉及びベントナイト等を有する粘結材を混練後、加圧成型する方法が記載されている(例えば、特許文献3参照)。このような成型方法により、強度・高温特性等種々の性能が改善されるとされている。
【0004】
しかしながら、これらの成型方法により得られるペレットは、エステル交換反応及びエステル化反応等の触媒として用いる点について検討されたものではなく、結合剤等を添加してこれを取り除くことなく製造されるものであるため、触媒に使用する際に純度において工夫の余地があった。また、ペレットに含まれるケイ酸塩等が溶解するため、成型体を保持し触媒の選択率を一定に維持するための工夫の余地があった。更に、不純物に起因する副反応を防ぐための工夫の余地があった。そして、目的に応じた一次粒子径の成型体を得るための工夫が求められていた。また、成型体の二次粒子径及び形状のコントロールについても、工夫の余地があるものであった。
【0005】
また、従来の排気ガス精製触媒を含み、断熱体を備えた排気装置であって、断熱体が10〜50重量%のイルメナイト等の不透明剤、30〜88.9重量%の微粒状金属酸化物(シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等)、及び、1〜20重量%の繊維材料(グラスウール、ロックウール、スラグウール、アルミナ及び/又はシリカの溶融物から得られるセラミック繊維等)の組成を有することを特徴とする排気装置が開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、エステル交換反応及びエステル化反応等の触媒として用いる点について検討されたものではなく、微粒状金属酸化物、繊維材料等を添加して取り除くことなく製造されるものであるため、イルメナイト成型体としての純度が高いものではなく、触媒等として使用するための工夫の余地があった。また、成型体の一次粒子径、二次粒子径及び形状をコントロールするための工夫の余地があるものであった。
【0006】
更に、従来のアルミン酸亜鉛含有触媒を調製する方法、調製方法により得られた触媒が記載されている(例えば、特許文献5参照)。構成成分の導入順序、熱分解可能な他の亜鉛化合物による酸化亜鉛の置換、並びに、アルミナ解凝固剤又は酸化亜鉛を硝酸亜鉛に変換するための硝酸水溶液の添加により、触媒の物理的性質、力学的性質を変化させることができるとしているが、このような触媒の触媒径は1.5〜3.7mmと大きく、微細なものとすることができなかったので、反応基質の触媒粒内への拡散の影響を受ける反応系においては、見かけの反応速度を速くすることができず、より有効な触媒を調製するための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開昭61−153240号公報(第1、2頁)
【特許文献2】特開昭62−80230号公報(第1、2頁)
【特許文献3】特開平2−270919号公報(第1、2頁)
【特許文献4】特開昭63−138112号公報(第1、2頁)
【特許文献5】特開2004−276025号公報(第1−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高純度のイルメナイト成型体が得られ、不純物に起因するイルメナイトの埋没、希釈効果による活性低下及び副反応が充分に抑制されるとともに、一次粒子径、二次粒子径及び形状をコントロールすることができ、種々の用途に好適に適用することができるイルメナイト成型体、その製造方法、その成型体を含有するエステル交換反応用触媒、及び、その成型体を含有するバイオディーゼル燃料製造用触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、イルメナイト成型体について種々検討したところ、希釈されていない高純度のイルメナイト成型体が触媒等の種々の用途に利用可能であることにまず着目し、イルメナイト構造を有する複合酸化物を含むイルメナイト成型体であって、イルメナイト成型体が成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものとすることで、いわゆるバインダーフリーイルメナイト成型体とすることができ、触媒として使用する際に不純物に起因して起こる副反応・選択率の低下・ケイ酸塩等の溶解に伴って成型体を保持できなくなる等の不利な作用が低減されるとともに、成型体の一次粒子径をコントロールすることが可能であり、目的に応じた細孔容積や表面積の成型体を得ることが可能となることを見出した。更に二次粒子径及び形状をコントロールすることが可能であり、例えば成型体を微細にすることができ、触媒として用いた場合に反応基質の触媒粒内への拡散の影響を小さくし、見かけの反応速度が速くなることで、触媒の本来有している活性を十分に活用できる等、用途に応じた成型体を得ることができ、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また該イルメナイト成型体を、成型体100質量%とすると、イルメナイト構造を有する複合酸化物が85質量%以上であるものとすることで、更に本発明における優れた作用効果を発揮できること、また該イルメナイト成型体を直径0.2mm〜1.5mmの円柱形状とすることによって触媒等の種々の用途により好適に使用することができることも見いだした。更に、上記成型前駆体が、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル若しくは亜鉛の金属元素を必須として構成される金属酸化物又は金属塩と、酸化チタンとを必須成分とするものとし、また、上記成型前駆体が、水溶性セルロースを含むものとすることにより、本発明における優れた作用効果をより充分に発揮することができることを見いだした。そして、このようなイルメナイト成型体を調製するイルメナイト成型体の製造方法、このようなイルメナイト成型体を構成成分とするエステル交換反応用触媒、このようなイルメナイト成型体を構成成分とするバイオディーゼル燃料製造用触媒が有用であることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、イルメナイト構造を有する複合酸化物を含むイルメナイト成型体であって、上記イルメナイト成型体は、成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものであるイルメナイト成型体である。
本発明はまた、上記イルメナイト成型体を調製するイルメナイト成型体の製造方法でもある。
本発明は更に、上記イルメナイト成型体を構成成分とするエステル交換反応用触媒でもある。
本発明はそして、上記イルメナイト成型体を構成成分とするバイオディーゼル燃料製造用触媒でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明のイルメナイト成型体は、イルメナイト構造を有する複合酸化物(以下、「イルメナイト」ともいう。)を含むものであり、上記イルメナイト成型体は、成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものである。
【0011】
焼成により、成型前駆体に結合剤等を実質的に含有せずに、イルメナイト成型体を調製することができ、いわゆるバインダーフリーのイルメナイト成型体とすることができる。なお、バインダーフリーの成型体とは、本質的に結合剤を含有しない成型体をいう。また、微細なイルメナイト成型体を調製することが可能である。
すなわち、本発明のイルメナイト成型体は、ケイ酸塩、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、有機物等の結合剤を実質的に含有することなく調製したものなので、高純度であり、不純物によりイルメナイト構造を有する複合酸化物が実質的に埋没したり希釈されることがなく効率的に利用することができる。「実質的に含有しない」とは、成型前駆体を焼成して得られたイルメナイト成型体に結合剤が含有しないことを意味し、例えば前駆体に結合剤が含有されていても、焼成工程で燃焼又は揮発し消失してしまう様な有機の結合剤であればイルメナイト成型体の結合剤とはならない。また、本発明のイルメナイト成型体は、イルメナイト鉱物を成型するものではなく、成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものであるため、一次粒子径をコントロールすることが可能であり、目的に応じた細孔容積や表面積の成型体を得ることが可能となる。更に、不純物に起因する選択率の低下・副反応・ケイ酸塩等の溶解により成型体が保持できなくなること等が充分に抑制され、そして、二次粒子径及び形状をコントロールすることが可能であり、例えば成型体を微細にすることができ、触媒として用いた場合に反応基質の触媒粒内への拡散の影響を小さくし、見かけの反応速度が速くなることで、触媒の本来有している活性を十分に活用できる等、用途に応じた成型体を得ることができる点で、優れたものである。
成型体の一次粒子径は、例えば焼成の温度によってコントロールすることが可能である。
上記焼成の温度は、例えば、500〜2000℃であることが好ましい。下限は600℃、上限は1800℃であることがより好ましい。更に好ましい下限は700℃、上限は1500℃である。
焼成の時間は、1〜12時間であることが好ましい。下限は2時間、上限は10時間であることがより好ましい。更に好ましい下限は3時間、上限は8時間である。
焼成中の気相雰囲気は、結晶構造の安定性等を考慮して設定することが好適であり、例えば、空気、窒素、アルゴン、酸素、水素等が好ましく、またそれらの混合ガスであってもよい。より好ましくは、空気中、窒素中で焼成することである。
また、FeTiO触媒を調製する場合は窒素中で焼成することが好ましい。空気中で焼成するとFeTiOに変質してしまうおそれがある。
尚、二次粒子径及び形状は、用いる金型の孔の大きさや形によりコントロールすることが可能となる。
例えば、下記の実施例1、6、7では直径0.4mmの孔から押し出しているが、実施例8のように1.5mmの孔から押し出せば、直径が大きい成型体を得ることが可能となる。
【0012】
本発明のイルメナイト成型体において、上記成型前駆体は、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル若しくは亜鉛の金属元素を必須として構成される金属酸化物又は金属塩と、酸化チタンとを必須成分とするものであることが好ましい。成型前駆体をこのようなものにすることにより、本発明のイルメナイト成型体は、例えば触媒として使用するとき、高い触媒活性を発揮することができ、活性成分の溶出を抑制する効果、触媒寿命等においても優れたものとなり、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。上記成型前駆体は、上記金属酸化物又は金属塩と、酸化チタンとを粉体混合したものであることがより好ましい。
【0013】
上記コバルト、鉄、マンガン、ニッケル又は亜鉛の金属元素からなる金属酸化物としては、例えば、CoO、FeO、Fe、MnO、NiO、ZnO等が挙げられる。中でも、NiO、ZnOが好ましい。
上記コバルト、鉄、マンガン、ニッケル又は亜鉛の金属元素からなる金属塩としては、例えば、CoCO、FeCO、Fe(CO、MnCO、NiCO、ZnCO、Co(NO、Fe(NO、Mn(NO、Ni(NO、Zn(NO、CoCl、FeCl、FeCl、MnCl、NiCl、ZnCl、CoSO、FeSO、Fe(SO、MnSO、NiSO、ZnSO等が挙げられる。中でも、MnCO、Ni(NO、ZnClが好ましい。
【0014】
上記酸化チタンとしては、特に限定されないが、水酸化チタニル、チタニアゾル、アナターゼ型TiO、ルチル型TiO及びそれらの混合物が用いられる。水酸化チタニルやチタニアゾルを用いても、前駆体の焼成過程でアナターゼ型やルチル型のTiOを経由する場合があるので、中でもアナターゼ型TiO、ルチル型TiOが好ましい。
【0015】
金属酸化物又は金属塩と酸化チタンとの配合モル比は金属成分として40:60〜60:40の範囲である。
【0016】
本発明のイルメナイト成型体において、上記成型前駆体は、更に水溶性セルロースを含むものであることが好ましい。
成型前駆体が更に水溶性セルロースを含むことにより、水溶性セルロースの粘性付与効果、潤滑効果、保湿効果により、微細な成型体をより容易に得ることができるようになる。特に、直径0.5mm以下の円柱形状のイルメナイト成型体を調製するのに好適であり、例えば、0.3mmの円柱形状のイルメナイト成型体を調製するのに非常に有効である。
【0017】
なお、上記水溶性セルロースは、焼成の際に燃焼または揮発するため、本発明のイルメナイト成型体における不純物とはならない。従って、粉体混合の際に水溶性セルロースを添加して成型前駆体を調製しても、本発明のイルメナイト成型体の純度を低下させることはない。水溶性セルロースは、微細な成型体を得る目的のために適宜使用することができる。
【0018】
上記水溶性セルロースとしては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を挙げることができる。中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好適に用いられる。
また、水溶性セルロースの添加量は、成型前駆体成分100質量%に対して、15質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、10質量%未満である。
【0019】
溶媒の使用量は、成型前駆体の固形分質量100質量%に対して10〜200質量%であることが好ましい。
10質量%未満であると、充分な粘性が得られず、粉化し成型できないおそれがあり、200質量%を超えると、成型前駆体の保形性が悪く最適な形状の成型体が得られないおそれがある。
【0020】
本発明におけるイルメナイト成型体は、成型体100質量%とすると、イルメナイト構造を有する複合酸化物が85質量%以上であるものであることが好ましい。85質量%未満であると、不純物によりイルメナイトが埋没したり希釈効果による活性低下により、効率的に利用することができなくなるおそれがある。また、触媒として用いた場合、不純物に起因する副反応が充分に抑制される点、不純物が溶解して成型体が充分保持できなくなることが生じない点で、優れたものである。特に、90質量%以上であることが好ましい。
なお、成型体質量に対するイルメナイト構造を有する複合酸化物の質量比は、粉末X線回折測定(XRD)により定量することができる。
【0021】
上記イルメナイト構造を有する複合酸化物は、イルメナイト構造によって構成されるものである。
上記イルメナイト構造は、代表的には、陽イオンと陰イオンとから形成される八面体構造を持つ複合酸化物であって、陰イオンが少し歪んだ六方最密充填をつくり、その八面体間隙に陽イオンが6配位で規則配列をする菱面体格子を持ったものが挙げられる。例えば、FeTiOに代表される複合酸化物があり、該複合酸化物の構造は、α−アルミナ(コランダム型)のAlの位置を規則的にFeとTiに置き換えられて少し歪んだ構造である。このような構造を有することにより、例えば、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを生成する触媒として使用するとき、原料である油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステルやグリセリン等)とのいずれにも充分に不溶性となるとともに、触媒寿命が格段に向上することから、触媒のリサイクル性がより向上されるうえに、触媒の分離除去工程を著しく簡略化又は不要とすることができ、ユーティリティーコストや設備費を充分に削減することが可能となる。
【0022】
本発明のイルメナイト成型体は例えば、触媒として用いた場合には、BET比表面積が0.2m/g以上であることが好ましい。0.2m/g未満であると触媒としての性能を充分発揮できない恐れがある。
また、本発明のイルメナイト成型体の水銀圧入法多孔度は、0.1ml/g以上であることが好ましく、0.2ml/g以上であることがより好ましい。また、本発明のイルメナイト成型体の平均細孔径は1μm以上であることが好ましい。水銀圧入法多孔度、平均細孔径をこのような範囲とすることにより、例えば触媒として用いた場合に充分な性能を発揮することとなる。
【0023】
本発明のイルメナイト成型体において、上記イルメナイト構造を有する複合酸化物は、下記一般式(1);
XTiO (1)
(Xは、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル又は亜鉛の金属元素を表す。)で表される化合物から形成されるものであることが好ましい。
【0024】
上記一般式(1)(Xは、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル又は亜鉛の金属元素を表す。)で表される化合物から形成されるとは、一般式(1)の化合物と同一の組成を有する結晶が形成されることをいい、本発明のイルメナイト成型体を焼成等により製造する前の原料(成型前駆体)を一般式(1)で表される化合物に限定するものではない。
【0025】
本発明のイルメナイト成型体において、上記イルメナイト構造を有する複合酸化物を上記一般式(1)で表される化合物から形成されるものとすることにより、例えば触媒として使用するとき、高い触媒活性を発揮することができ、活性成分の溶出を抑制する効果、触媒寿命等においても更に優れたものとなり、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。
より好ましくは、上記XTiOが、MnTiO、FeTiO、CoTiO、NiTiO又はZnTiOであることである。
このような複合酸化物を含有するイルメナイト成型体を触媒として用いることにより、酸化チタンやシリカ坦持酸化チタン等よりも高活性となるため、本発明の製造方法において、該触媒のリサイクル性がより向上され、ユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、高収率かつ高選択的に脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することが可能となる。なお、上記触媒が、イルメナイト構造を有することは、粉末X線回折測定(XRD)により確認することができる。
【0026】
本発明のイルメナイト成型体は、直径0.2mm〜1.5mmの円柱形状であることが好ましい。
上記直径は、ノギスや顕微鏡等を用いて、任意の100個のイルメナイト成型体の直径を測定した平均値である。
本発明のイルメナイト成型体を直径0.2mm〜1.5mmの円柱形状とすることにより、微細な成型体となるため、触媒等として使用した場合、反応基質の触媒粒内への拡散の影響を小さくし、見かけの反応速度を向上させることが可能となり好適である。
直径が0.2mmより小さいと、成型できなくなるおそれがあり、1.5mmより大きいと、反応基質の触媒粒内への拡散の影響が大きくなって触媒としての使用等に好適でなくなるおそれがある。
見かけの反応速度とは、実際に測定できる反応速度であり、粒内拡散の影響を受ける反応系では、粒内拡散の影響がない理想的な反応速度に対して遅くなる。粒内拡散の影響が大きい反応系において、見かけの反応速度を理想的な反応速度に近づけるためには、触媒の粒子径を小さくすることが有効な手段となる。
【0027】
直径0.2〜1.5mmの円柱形状の形成方法は、特に限定されないが、例えば、原料(成型前駆体)と水とを混合したペーストを、直径0.3〜1.5mmの孔を有するダイ(金型)を用いて押し出し成型し、乾燥・焼成することによって形成することができる。直径0.3mmの孔のダイを用いて押出したものは、焼成で焼きしまり、実際は0.3mmより細くなる場合がある。
【0028】
本発明はまた、上記イルメナイト成型体を調製するイルメナイト成型体の製造方法でもある。
上記イルメナイト成型体は、通常、金属酸化物又は金属塩と酸化チタンの混合物に溶媒を加えたペーストを押出し成型し、乾燥後、剪断して長さを揃えた成型前駆体を焼成することによって得ることができる。
上記成型前駆体としては、上述したものを用いることができる。
また、焼成の条件も、上述した通りである。
押出し成型とは、ペーストをダイ(金型)の孔に通すことにより型取りを行うことである。剪断とは、押し出し成型し、通常乾燥させた後、成型前駆体の長さが一定になるように切断することである。このような工程を経て焼成することにより、均一な大きさで本発明のイルメナイト成型体を製造することができる。
本発明の製造方法により、高純度であり、触媒等の用途に好適に使用することができるイルメナイト成型体を得ることができる。
本発明におけるイルメナイト成型体は成型前駆体から調製するため、成型前駆体の調製工程で押出し成型器の内部に残った原料や、分級操作等で回収された目的のサイズではない前駆体を回収し、乾燥後、再度、水を加えてペーストにすることにより、押出し成型をすることが可能である。こうすることにより、通常、捨てるはずであった原料を再利用することが可能となり、触媒の原料コストを低減することが可能となる。
【0029】
本発明は更に、上記イルメナイト成型体を構成成分とするエステル交換反応用触媒でもある。
エステル交換反応用触媒とは、エステル交換反応活性を有する触媒のことである。
【0030】
本発明はそして、上記イルメナイト成型体を構成成分とするバイオディーゼル燃料製造用触媒でもある。
バイオディーゼル燃料製造用触媒とは、バイオディーゼル燃料を製造するのに用いられる触媒のことであり、油脂類に主成分として含まれるトリグリセリドとアルコールとのエステル交換反応と油脂類に不純物として含まれる遊離脂肪酸とアルコールとのエステル化反応の両反応に対して同時に活性を有する触媒のことである。すなわち、バイオディーゼル燃料製造用触媒は、エステル交換反応とエステル化反応の両反応に対して活性を有するものをいう。バイオディーゼル燃料とは、ディーゼルエンジン用の燃料の一種であり、通常、油脂類より製造される脂肪酸アルキルエステルである。バイオディーゼル燃料製造用触媒としては、MnTiO、ZnTiOが触媒活性が高い点で好ましい。
【0031】
本発明のイルメナイト成型体を、エステル交換反応用触媒又はバイオディーゼル燃料製造用触媒の構成成分として用いることにより、リサイクル性がより向上され、ユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、高純度のイルメナイト成型体であるため、結合剤等の不純物に起因するイルメナイトの埋没、副反応も充分に抑制され、微細な成型体を得ることができるため反応基質の触媒粒内への拡散の影響を小さくすることができ高収率かつ高選択的に脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することが可能となる。
【0032】
上記エステル交換反応用触媒は、エステル交換反応用触媒100質量%中、本発明のイルメナイト成型体を85質量%以上含むものであることが好ましい。より好ましくは、90質量%以上である。なお、本発明のエステル交換反応用触媒は、本発明のイルメナイト成型体に他の触媒を併用して用いてもよい。また、上記エステル交換反応用触媒は、1種又は2種以上用いてもよく、本発明の作用効果を奏する限り、他の成分を含有していてもよい。
【0033】
上記バイオディーゼル燃料製造用触媒は、バイオディーゼル燃料製造用触媒100質量%中、本発明のイルメナイト成型体を85質量%以上含むものであることが好ましい。より好ましくは、90質量%以上である。なお、本発明のバイオディーゼル燃料製造用触媒は、本発明のイルメナイト成型体に他の触媒を併用して用いてもよい。また、上記バイオディーゼル燃料製造用触媒は、1種又は2種以上用いてもよく、本発明の作用効果を奏する限り、他の成分を含有していてもよい。
【0034】
本発明のエステル交換反応用触媒又はバイオディーゼル燃料製造用触媒を用いる脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法は、通常、油脂類とアルコールとをエステル交換反応用触媒又はバイオディーゼル燃料製造用触媒の存在下に接触させる工程を含んでなるものである。
上記接触工程においては、例えば、下記式に示すように、トリグリセリドとメタノールとのエステル交換反応により、脂肪酸メチルエステルとグリセリンとが生成することになる。
【0035】
【化1】

【0036】
式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数6〜22のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数6〜22のアルケニル基を表す。
上記製造方法においては、上記バイオディーゼル燃料製造用触媒を用いることによりエステル交換反応とエステル化反応とを同時に行うことができることから、原料である油脂類が遊離脂肪酸を含むものであっても、エステル交換反応工程で同時に遊離脂肪酸のエステル化反応が進行するため、エステル交換反応工程とは別にエステル化反応工程を設けなくても脂肪酸アルキルエステルの収率を向上することができる。本発明でいう脂肪酸アルキルエステル類の収率は、原料油脂中の有効脂肪酸類成分の反応率を意味するものであり、下記式によって算出される。
脂肪酸アルキルエステル類の収率(モル%)=(反応出口における脂肪酸アルキルエステル類の合計モル流量/入り口における有効脂肪酸類の合計モル流量)×100(%)
上記製造方法においてはまた、上記式に示すように、エステル交換反応により脂肪酸アルキルエステルと共にグリセリンが得られることになる。本発明においては、高純度のグリセリンを工業的に簡便に得ることができるが、このようなグリセリンは、化学原料として各種の用途に好適に用いることが可能である。
【0037】
上記接触工程において、油脂類としては、グリセリンの脂肪酸エステルを含有するものであって、アルコールと共に脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの原料となるものであればよく、一般的に「油脂」と呼ばれるものを使用することができる。通常では、トリグリセリド(グリセリンと高級脂肪酸とのトリエステル)を主成分として、ジグリセリド、モノグリセリドやその他の副成分を少量含有する油脂を用いることが好ましいが、トリオレイン等のグリセリンの脂肪酸エステルを用いてもよい。
上記油脂としては、ナタネ油、キャノーラ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ココナッツ油、ベニバナ油、アマニ油、綿実油、キリ油、ナンヨウアブラギリ油、ヒマシ油、麻油、マスタード油、ピーナッツ油、ホホバ油等の植物油脂;牛脂、豚油、魚油、鯨脂等の動物油脂;各種の食用油の使用済み油(廃食油)等が好適であり、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
上記油脂類が不純物としてリン脂質やタンパク質等を含む場合、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸を添加して、不純物を除去する脱ガム工程を行ったものを用いることが好ましい。脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法は、本発明のバイオディーゼル燃料製造用触媒が鉱酸によって反応阻害を受けにくいものであるので、脱ガム工程を行った後、油脂類に鉱酸が含まれていても、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを効率よく製造することができる。
【0039】
上記接触工程において、アルコールとしては、バイオディーゼル燃料の製造を目的にする場合には、炭素数1〜6のアルコールであることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3のアルコールである。炭素数1〜6のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール等が挙げられる。特に、メタノールが好ましい。これらは、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
上記アルコールとしてはまた、食用油、化粧品、医薬等の製造を目的とする場合には、ポリオールであることが好ましい。上記ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が好適である。中でも、グリセリンが好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。このように上記アルコールとしてポリオールを用いる場合、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、グリセリドを得る方法において好適に用いることができることとなる。
上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法においては、油脂類、アルコール及び触媒以外のその他の成分が存在してもよい。
【0040】
上記アルコールの使用量としては、油脂類とアルコールとの反応における理論必要量の1〜15倍であることが好ましい。1倍未満であると、油脂類とアルコールとが充分には反応しないおそれがあり、転化率を充分には向上できないおそれがある。15倍を超えると、余剰アルコールの回収やリサイクル量が大きくなるためコストがかかるおそれがある。下限値として、より好ましくは2倍であり、特に好ましくは3倍である。上限値として、より好ましくは13倍であり、特に好ましくは11倍である。
なお、アルコールの理論必要量は、油脂類のけん化価に対応するアルコールのモル数を意味しており、下記式で算出することができる。
アルコールの理論必要量(kg)=アルコールの分子量×[油脂の使用量(kg)×けん化価(g−KOH/kg−油脂)/56100]
【0041】
上記アルコールとしてポリオールを用いる場合には、上述したように脂肪酸アルキルエステルの製造方法により、ジグリセリド類を好適に得ることができる。このようにして得られるジグリセリド類は、油脂の可塑性改良用添加剤等として食品分野等で好適に用いることができる。また、ジグリセリド類を食用の油脂とし、各種の食品に配合すると、肥満防止、体重増加抑制作用等を発揮することから、ジグリセリド類を食用の油脂として使用することができる。
上記ジグリセリド類を得る形態において、例えば、ポリオールとしてグリセリンを用いる場合、下記式に示すような反応が進行することとなる。
【0042】
【化2】

【0043】
式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数6〜22のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数6〜22のアルケニル基を表す。
【0044】
上記製造方法によりジグリセリド類を得る方法としては、まずモノグリセリドとジグリセリドとを主成分とする混合物を得、これに遊離脂肪酸又はそのアルキルエステルを添加して、リパーゼの存在下で反応させることが好ましく、これにより、高選択率でジグリセリド類を得ることができる。
上記リパーゼとしては、固定化リパーゼ又は菌体内リパーゼであることが好ましい。より好ましくは、1,3位に選択的に作用する固定化リパーゼ又は菌体内リパーゼである。固定化リパーゼとしては、1,3位選択的リパーゼをイオン交換樹脂に固定化して得られたものが好ましい。1,3位選択的リパーゼとしては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギウス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、カンジダ(Candida)属、サーモマイセス(Thermomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属等の微生物に由来するリパーゼが好適である。
上記リパーゼを作用させる条件としては、良好なリパーゼ活性が得られる条件を適宜選択することができるが、反応温度としては、10〜100℃が好ましく、より好ましくは、20℃以上、80℃以下である。
【0045】
一般にジグリセリド類を得る方法としては、触媒を用いて油脂類とポリオールとを反応させる第1反応、及び、得られた混合物にリパーゼを作用させる第2反応とを行う方法が挙げられる。このような方法では、第1反応において触媒としてアルカリを用いた場合、第2反応におけるpHをリパーゼの活性に最適な範囲とするため、第1反応終了後にpHを調整することが必要となる。しかしながら、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法を第1反応として用いることにより、第2反応でpHを調整する必要性が低下し、反応プロセスを簡略化することができる。このように、上記バイオディーゼル燃料(脂肪酸アルキルエステル)の製造方法を、ジグリセリド類を得る方法において用いることは、好ましい実施形態の1つである。
【0046】
上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法において、反応温度としては、下限が100℃、上限が300℃であることが好ましい。100℃未満であると、反応速度を充分には向上できないおそれがあり、300℃を超えると、アルコールが分解する等の副反応を充分には抑制できないおそれがある。より好ましくは、下限が120℃、上限が270℃であり、更に好ましくは、下限が150℃、上限が235℃である。
なお、上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法に用いるエステル交換反応用触媒又はバイオディーゼル燃料製造用触媒としては、上記範囲内の反応温度で用いる場合に、活性金属成分が溶出しないものであることが好ましい。このような触媒を用いることにより、反応温度が高温であっても触媒の活性を充分に維持することができ、反応を良好に行うことができる。
【0047】
上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法において、反応圧力としては、下限が0.1MPa、上限が10MPaであることが好ましい。0.1MPa未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、10MPaを超えると、副反応が進行しやすくなるおそれがある。また、高圧に耐え得る特殊な装置が必要になり、ユーティリティーコストや設備費を充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、下限が0.2MPa、上限が9MPaであり、更に好ましくは、下限が0.3MPa、上限が8MPaである。
【0048】
このように反応温度や圧力を充分に低下させた場合においても、上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法においては、上述したように高活性の触媒を用いるため、反応を良好に実施することが可能となる。
なお、本発明のエステル交換反応用触媒又はバイオディーゼル燃料製造用触媒は、使用するアルコールの超臨界状態で用いることもできる。超臨界状態とは、物質固有の臨界温度及び臨界圧力を超えた領域をいい、アルコールとしてメタノールを使用する場合、温度が239℃以上であり、圧力が8.0MPa以上の条件を指す。該バイオディーゼル燃料製造用触媒を用いることにより、超臨界条件下においても効率的に脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することができる。
【0049】
また上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法において、反応に用いる触媒量としては、固定床流通式の場合、下記式により算出される単位時間あたりの触媒に対する接触液量(LHSV)が、下限が0.1hr−1、上限が20hr−1であることが好ましい。より好ましくは、下限が0.2hr−1、上限が10hr−1であり、更に好ましくは、下限が0.3hr−1、上限が5hr−1である。
LHSV(hr−1)={1時間あたりの油脂の流量(mL・hr−1)+1時間あたりのアルコールの流量(mL・hr−1)}/触媒容量(mL)
【0050】
上記接触工程の好ましい形態としては、触媒分離の工程が不要となることから、固定床流通式であることが好適である。すなわち、上記接触工程は、固定床流通反応装置を使用して行われることが好ましい。
【0051】
上記製造方法においてはまた、触媒を用いることにより反応を繰り返し実施することができるため、反応終了後に未反応原料や中間体グリセリド等を含んでいてもよい。この場合には、例えば、反応終了後の混合液から触媒の非存在下、アルコール及び水等の軽沸分を留去した後、この流出液から未反応のグリセリド類及び遊離脂肪酸を分離及び回収し、原料油脂類とともに再使用することが好ましい。これにより、高純度の脂肪酸アルキルエステルやグリセリンをより高収率で得ることが可能となり、精製コストを更に充分に削減することができる。
【0052】
上記製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステル、中でも、植物性油脂や廃食油を原料として得られる脂肪酸アルキルエステルを用いたディーゼル燃料は、その製造工程においてユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、触媒回収工程が不要で触媒を繰り返し利用できるため、製造段階から環境保全効果を充分に発揮することが可能となり、各種の燃料として好適に利用することができる。
【0053】
脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法における製造工程の好ましい形態を図1に示す。
図1においては、固定床連続流通式反応装置により、油脂類としてパーム油を用いてアルコールとしてメタノールを用いて、これらを固体触媒を固定相とした充填反応塔内でバイオディーゼル燃料製造用触媒と接触させる工程が示されている。触媒充填反応塔内で反応した反応後液をセトラー内で静置して、エステル相とグリセリン相とに分離する。グリセリン相を分離して得られたエステル相を、更に触媒充填反応塔内でメタノールと反応させて得られた反応後液からメタノールを留去した後に、セトラー内で静置してエステル相とグリセリン相とに分離して、脂肪酸メチルエステルとグリセリンを得る。このような形態においては、反応液を相分離する前であって、各触媒充填反応塔から得られた反応液からメタノールを留去することが、脂肪酸メチルエステル類とグリセリンとの分離が向上できる点で好ましい。このようにして得られた脂肪酸メチルエステル及び/若しくはグリセリンは、目的に応じて、蒸留塔の操作により、更に精製することが好ましい。
【発明の効果】
【0054】
本発明のイルメナイト成型体は、上述した構成よりなり、高純度のイルメナイト成型体であり、不純物によるイルメナイトの埋没、また不純物に起因する副反応が充分に抑制され、また一次粒子径をコントロールして、目的に応じた細孔容積や表面積の成型体を得ることが可能となり、更に、二次粒子径及び形状をコントロールして、例えば微細な成型体を得ることができるため、反応基質の触媒粒内への拡散の影響を受ける反応系においても、見かけの反応速度を十分に速くすることができるなど、種々の用途に好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
下記の実施例等において、収率は下記式により算出した。
脂肪酸メチルエステル収率(モル%)=(反応終了時の脂肪酸メチルエステル生成モル数)/(仕込み時の有効脂肪酸類のモル数)×100(%)
グリセリンの収率(モル%)=(反応終了時の遊離グリセリンの生成モル数)/(仕込み時の有効グリセリン成分のモル数)×100(%)
なお、有効脂肪酸類とは、油脂類に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類、遊離脂肪酸類のことをいう。すなわち、仕込み時の有効脂肪酸類のモル数は、下記式で算出される。
仕込み時の有効脂肪酸類のモル数(モル)=[油脂類の仕込み量(g)×油脂類のけん化価(mg−KOH/g−油脂)/56100]
また、有効グリセリン成分とは、本発明の方法によってグリセリンを生成することができる成分をいい、具体的には、油脂類中に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類をいう。有効グリセリン成分の含有量は、油脂類(反応原料)をけん化することによって遊離するグリセリンの存在量をガスクロマトグラフィーによって定量することによって算出される。
【0056】
実施例1(MnTiO
炭酸マンガン353gとアナターゼ型酸化チタン196g及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業株式会社製 メトローズ90SH−15000)8gをよく混合した。混合された粉体に、183gの水を幾度かに分けて均一に加え、更によく混合した。これを、湿式押出造粒機(不二パウダル株式会社製 ドームグラン DG−L1)にて、直径0.4mmの孔から押出した。押出したものを、120℃で一昼夜乾燥させ、微粉砕装置(不二パウダル株式会社製 サンプルミル)にて、長さを5mmに剪断した。剪断したものを、空気雰囲気下1000℃で5時間焼成し、成型体を得た。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は95質量%であった。不純物としてMnが4質量%、ルチル型酸化チタンが1質量%含有されていた。
XRD分析で用いた装置及び測定条件は、以下の通りである。
装置:PANalytical社製 X’PertPRO
測定条件:X線出力設定:40mA、45kV
管球:Cu管球
測定範囲:20〜80(°2Theta)
スキャン速度:5(°2Theta/min)
ステップサイズ:0.008(°2Theta/min)
XRDチャートを図2に示す。また、イルメナイト成型体中におけるイルメナイトの純度のXRDによる簡易定量結果を図3に示す。
図2中、「2Theta」は、X線の回折角(°)を表し、「Counts」は、回折されたX線の強度を表す。
図3中、「manganese titanate 95%」、「Mn2O3,dimanganese trioxide」、「titanium dioxide 1%」はそれぞれ、イルメナイト成型体100質量%中、MnTiOが95質量%含まれていること、Mnが4質量%含まれていること、ルチル型酸化チタンが1質量%含まれていることを意味する。
【0057】
実施例2(MnTiO
焼成温度を1100℃とした以外は実施例1と同様に行った。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は98質量%であり、不純物としてMnが2質量%含有されていた。
実施例3(MnTiO
焼成温度を1200℃とした以外は実施例1と同様に行った。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は98質量%であり、不純物としてMnが2質量%含有されていた。
【0058】
実施例4(MnTiO
実施例1の作業で湿式押出造粒機内に残った原料を回収し、120℃で一昼夜乾燥させた。実施例1の作業を繰り返し行い、同様に回収した原料を集め、微粉砕した回収原料1460gに294g水を幾度かに分けて均一に加え、更によく混合した。押出し工程以降は実施例1と同様にして行い成型体を得た。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は95質量%であった。不純物としてMnが3質量%、ルチル型酸化チタンが2質量%含有されていた。
実施例5(MnTiO
実施例1の原料としてアナターゼ型酸化チタンの代わりにルチル型酸化チタンを用いた他は実施例1と同様に行った。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は97質量%であった。
【0059】
実施例6(ZnTiO
実施例1の原料として、炭酸マンガン239gの代わりに酸化亜鉛196gを用い、アナターゼ型酸化チタンの量を196gにし、加えた水の量を150gにし、焼成温度を900℃にした他は、実施例1と同様に行った。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は95質量%であった。
【0060】
実施例7(ZnTiO
実施例1の原料として、炭酸マンガン239gの代わりに塩化亜鉛334gを用い、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの量を10gにし、水の量を135gにし、焼成温度を900℃にした他は実施例1と同様に行った。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は98質量%であった。
【0061】
実施例8(ZnTiO
酸化亜鉛200gとアナターゼ型酸化チタン200gをニーダーに投入し、充分に混合した。更に水177gを投入し混練した。混練中はニーダーのジャケットに100℃のシリコンオイルを循環させ水分を蒸発させながら水分量を調整した。最終的な水分量は114gであった。混練後、湿式押出造粒機にて、直径1.5mmの孔から押出した。押出したものを120℃で一昼夜乾燥させ、微粉砕装置にて、長さを5mmに剪断した。剪断したものを、空気雰囲気下、900℃で5時間焼成し、成型体を得た。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は95質量%であった。
【0062】
実施例9(NiTiO
実施例1の原料として、炭酸マンガン239gの代わりに酸化ニッケル196gを用い、アナターゼ型酸化チタンの量を196gにし、加えた水の量を75gにした他は、実施例1と同様に行った。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は85質量%であった。
【0063】
実施例10(NiTiO
実施例1の原料として、炭酸マンガン239gの代わりに硝酸ニッケル六水和物714gを用い、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの量を19gにし、水の量を232gにした他は実施例1と同様に行った。XRD分析の結果、成型体はイルメナイト構造を有しており、純度は98質量%であった。
【0064】
比較例1
FeTiO(Aldrich社製)を油圧式粉末試料成型機(リガク社製)を用いて25MPaの圧力で加圧成型を行った。得られた成型体は手で軽く力を加えただけで粉々になった。
【0065】
比較例2
FeTiOの代わりにMnTiO(Alfa Aesar社製)を用いた以外は比較例1と同様にして加圧成型を行った。得られた成型体は手で軽く力を加えただけで粉々になった。
【0066】
評価
(BET比表面積)
BET比表面積は、吸着ガスに窒素を使用し、150℃で60分脱気した重合性吸湿性粉体を、自動BET比表面積計(湯浅アイオニクス社製)を用いて測定することができる。
(水銀圧入法多孔度、平均細孔径)
水銀圧入法多孔度及び平均細孔径は例えば、ポロシメーター(カンタクローム社製)を用いて測定することができる。
実施例1、2、5〜7、9の成型体のBET比表面積、多孔度、平均細孔径について、以下の表1に示す。
【0067】
(バイオディーゼル燃料製造用触媒を用いた脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンの製造1)
触媒充填部のサイズが内径21.2mm、長さ1000mmのSUS−316製ジャケット付き直管反応器内に、実施例1で得られたMnTiOの成型体300mLを充填した。反応器出口には背圧弁を取り付けて、圧力制御できるようにした。
精密高圧定量ポンプを使用して、パーム油とメタノールの流量を、双方とも2.1g/min(当量比9、LHSV=1.0(hr−1)の流量で反応器に流通させながら、背圧弁で反応管内の圧力を5.0MPaに設定した。反応管部はジャケットに加熱したシリコンオイルを循環させて加熱し、反応管内部の温度が200℃になるように設定した。温度と圧力が安定してから50時間後の反応出口における脂肪酸メチルエステルの収率は93モル%で、グリセリンの収率は88モル%であった。
【0068】
(バイオディーゼル燃料製造用触媒を用いた脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンの製造2)
触媒としての成型体の活性について、触媒反応を行って検討した。触媒反応のモデルとして、油脂(トリグリセリド;パーム油)とメタノールから、脂肪酸メチルエステルとグリセリンを合成するエステル交換反応とした。
内径10mm、長さ210mmのSUS−316製直管反応器内に、実施例6で得られたZnTiOの成型体15mLを充填した。反応器出口には背圧弁を取り付けて、圧力制御できるようにした。
精密高圧定量ポンプを使用して、パーム油とメタノールの流量を、双方とも0.05g/min(当量比9、LHSV=0.5(hr−1))の流量で反応器に流通させながら、背圧弁での反応管内の圧力を5.0MPaに設定した。反応管部はGC(ガスクロマトグラフィー)オーブンを使用して外部から加熱し、温度を200℃に設定した。温度と圧力が安定してから70時間後の反応出口における脂肪酸メチルエステルの収率は78モル%で、グリセリンの収率は65モル%であった。
【0069】
(焼成温度に対する一次粒子径の値)
成型体の一次粒子径は例えば焼成温度によってコントロールすることが可能であり、実施例1〜3の成型体(MnTiO)について、焼成温度に対する一次粒子径の値を以下の表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
上記表1において、一次粒子径は、成型体を電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 FE−SEM S−4800)で観察し、表示されるスケールに基づいて範囲を出すことができる。
このように、イルメナイト成型体を成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものとすることにより、一次粒子径をコントロールすることができる。
【0072】
参考例1(イルメナイトを触媒として用いた脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンの製造)
イルメナイトとα−アルミナを混合して1000℃で5時間焼成した触媒を粉砕してバッチ反応で評価した。イルメナイト純度は、XRDにより測定した。
イルメナイト成型体のイルメナイト純度に対する触媒活性について、触媒反応を行って検討した。触媒反応のモデルとして、油脂(トリグリセリド;パーム油)とメタノールから、脂肪酸メチルエステルとグリセリンを合成するエステル交換反応とした。
200mLのオートクレーブ内に、パーム油61.5g、メタノール20g(当量比3)を加え、触媒(MnTiOとα−Alとの混合焼成物)を、パーム油、メタノール及び触媒の総仕込み量に対し、3質量%となるように充填した。内部を攪拌しながら200℃で3時間反応を行った。イルメナイト純度(質量%)に対する脂肪酸メチルエステルの収率(モル%)を図4に示す。
図4において、FAME収率は、脂肪酸メチルエステルの収率を表す。
図4より、イルメナイト純度が85質量%の点が変曲点であり、イルメナイト純度が85質量%以上となることにより脂肪酸アルキルエステルの収率が向上することが明らかである。従って、イルメナイト純度を85質量%以上とすることにより、触媒としての有利な効果が発揮され、本発明の効果が顕著に現れることになる。
【0073】
上述した実施例及び比較例から、次のようにいえることがわかった。すなわち、FeTiOやMnTiOは圧縮成型ができず触媒等として使用することができる成型体を得ることはできないが、成型前駆体、例えば炭酸マンガン、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酸化ニッケル又は硝酸ニッケルとアナターゼ型酸化チタン又はルチル型酸化チタンの組み合わせを混合し、成型したものをそれぞれ焼成することにより、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの合成のための好適な触媒として使用できる、微細なイルメナイト成型体を得ることができる。すなわち、成型前駆体を焼成する工程によって、好適な触媒等として使用することができるイルメナイト成型体を得ることができる。
【0074】
なお、上述した実施例では、成型前駆体として炭酸マンガン、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酸化ニッケル又は硝酸ニッケルとアナターゼ型酸化チタン又はルチル型酸化チタンの組み合わせを混合し、成型したものをそれぞれ焼成してイルメナイト成型体を調製しているが、イルメナイト成型体である限り、特にエステル交換反応用触媒やバイオディーゼル燃料製造用触媒として使用できる可能性のあるイルメナイト成型体であれば、不純物へのイルメナイトの埋没、希釈効果による活性低下及び不純物に起因する副反応といった問題を生じさせる機構は同様である。したがって、イルメナイト成型体が、成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものとすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、イルメナイト成型体が、上述した成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものとする場合は、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【0075】
また、上述した実施例から、高純度のイルメナイト成型体が脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの合成のための好適な触媒として使用することができることも明らかとなった。
高純度のイルメナイト成型体は、不純物へのイルメナイトの埋没、希釈効果による活性低下及び不純物に起因する副反応が充分に抑制され、微細な成型体を得ることができるため反応基質の触媒粒内への拡散の影響を受ける反応系においても、見かけの反応速度を十分速くすることができ、触媒等の種々の用途に好適に適用することができる。
【0076】
このようなイルメナイト成型体は、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの合成のための好適な触媒となることから、バイオディーゼル燃料製造用触媒として好適に利用することができるものである。これらのことは、上述した実施例及び比較例で明確に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、本発明のバイオディーゼル燃料製造用触媒を用いた脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。
【図2】図2は、本発明のイルメナイト成型体のXRDチャートを示す図である。
【図3】図3は、本発明のイルメナイト成型体のXRD測定の簡易定量結果を示す図である。
【図4】図4は、イルメナイトを触媒として用いた場合のイルメナイト純度(質量%)に対する脂肪酸メチルエステルの収率(モル%)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イルメナイト構造を有する複合酸化物を含むイルメナイト成型体であって、
該イルメナイト成型体は、成型前駆体を焼成する工程を必須として調製されるものである
ことを特徴とするイルメナイト成型体。
【請求項2】
前記イルメナイト成型体は、成型体100質量%とすると、イルメナイト構造を有する複合酸化物が85質量%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のイルメナイト成型体。
【請求項3】
前記イルメナイト構造を有する複合酸化物は、下記一般式(1);
XTiO (1)
(Xは、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル又は亜鉛の金属元素を表す。)で表される化合物から形成されるものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のイルメナイト成型体。
【請求項4】
前記イルメナイト成型体は、直径0.2mm〜1.5mmの円柱形状である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のイルメナイト成型体。
【請求項5】
前記成型前駆体は、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル若しくは亜鉛の金属元素を必須として構成される金属酸化物又は金属塩と、酸化チタンとを必須成分とするものである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のイルメナイト成型体。
【請求項6】
前記成型前駆体は、更に水溶性セルロースを含むものである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のイルメナイト成型体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のイルメナイト成型体を調製することを特徴とするイルメナイト成型体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のイルメナイト成型体を構成成分とする
ことを特徴とするエステル交換反応用触媒。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のイルメナイト成型体を構成成分とする
ことを特徴とするバイオディーゼル燃料製造用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−94657(P2008−94657A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278137(P2006−278137)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】