説明

インキュベータ及び培養方法

【課題】 炭酸ガスを必要とするインキュベータを小型化する。
【解決手段】 インキュベータ1は、培養ディッシュ3を収容する培養容器2の内部に反応槽10を設けて、これにイオン交換水と炭酸水素ナトリウムを入れて透明ヒータ13で加熱する構造で、炭酸水素ナトリウムの分解による炭酸ガスと水分が培養容器2内に供給される。炭酸水素ナトリウムを炭酸ガスの発生源としているので、炭酸ガス供給用のボンベは不要であるし、反応槽10から発生する炭酸ガスの圧力は低いから、装置構成を単純かつ小型化できる。炭酸ガスだけでなく水分も培養容器2の内部で発生するので、加湿のための構成も必要としない。従って、この点からも装置構成を単純かつ小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡観察用培養装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
細胞、組織、細菌、微生物等の生体系試料を培養ディッシュ内で長時間生存状態とするために、培養ディッシュを収容する培養容器内に炭酸ガスを供給することが行われる。例えば特開2003−29164号公報(特許文献1)には、CO2ガスボンベから供給される炭酸ガスをガス混合室に導入し、他のガス成分と混合して培養容器内に供給する顕微鏡観察用培養装置が開示されている。
【特許文献1】特開2003−29164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載のインキュベータ(顕微鏡観察用培養装置)は、炭酸ガスの供給源としてCO2ガスボンベを用いており、しかも高圧のガスを取り扱うので、必然的に装置構成が複雑化し大型になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載のインキュベータは、培養ディッシュを収容する培養容器と、該培養容器と連通しており、炭酸水素ナトリウムが含まれる水溶液を貯留する反応槽と、該反応槽の水溶液を加熱するヒータとを備えたことを特徴とする。
【0005】
反応槽の水溶液をヒータで例えば37℃以上に加熱すると、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)がCO2及びH2Oを失って炭酸ナトリウム(Na2CO3)に変化する反応が起こる。つまり、炭酸ガスと水が発生する。
【0006】
なお、この反応は炭酸ナトリウムなどのアルカリ塩を添加することによって抑制できる。つまり、ヒータによる温度制御とアルカリの添加量とで炭酸ガスの発生量をコントロールできる。
【0007】
反応槽は培養容器と連通しているので、この炭酸ガスが培養容器に供給される。また、水分も培養容器に供給されて加湿する。
炭酸水素ナトリウムを炭酸ガスの発生源としているので、CO2ガスボンベは不要であるし、反応槽から発生する炭酸ガスの圧力はガスボンベに比べれば格段に低圧であるから、装置構成を単純かつ小型化できる。
【0008】
培養容器と反応槽とは、請求項2記載のように、培養容器と反応槽とを一体化することもできるし、請求項3記載のように、培養容器と反応槽とを別体として、これらを管路で接続する構成にもできる。
【0009】
請求項2記載の構成を採用して培養容器と反応槽とを一体化する場合、請求項3記載のように、反応槽を培養容器内に設けることができる。また、反応槽に培養容器を連接した構造にもできる。いずれの場合も、装置をさらに小型化できる。
【0010】
請求項4記載のように、反応槽と培養容器とを管路によって接続する構成であると、反応槽と培養容器との距離、相対的な位置関係を自由に選択できる利点がある。
反応槽と培養容器とを管路で接続した場合、請求項5記載の構成にすることもできる。すなわち、請求項4記載のインキュベータにおいて、前記培養容器内に副反応槽を設け、前記反応槽の水溶液を前記副反応槽に送り込む送出ポンプと、前記副反応槽から又は該副反応槽から溢れた水溶液を前記反応槽に送り返す回収ポンプとを備えた構成である。
【0011】
この場合、上述の炭酸水素ナトリウムがCO2及びH2Oを失う反応が副反応槽で発生するが、炭酸水素ナトリウムが含まれる水溶液を反応槽と培養容器内の副反応槽との間で循環させるので、炭酸ガスの発生量が不足するおそれはない。
【0012】
また、請求項6記載のように、請求項4記載のインキュベータにおいて、前記管路を前記反応槽で発生した炭酸ガスが含まれる気体を前記培養容器に送るための送気管路にすることもできる。この場合、反応槽から培養容器に至る送気管路の管路長や管径などにもよるが、通常は送気のためのブロワ又はポンプを設けなくて済む。
【0013】
請求項1〜6のいずれか記載のインキュベータにおいて、請求項7記載のように、前記反応槽の水溶液を攪拌する攪拌手段と、前記反応槽の水溶液の温度を測定する温度センサと、該温度センサの測定値に基づいて前記ヒータを制御する温度コントローラとを備えれば、反応槽内の水溶液の温度を精度良く制御できるので、炭酸ガスの発生量を精度良く制御できる。
【0014】
請求項8記載の培養方法は、請求項1〜7のいずれか記載のインキュベータを用い、炭酸水素ナトリウムと、アルカリ塩とを含んだ前記水溶液を前記反応槽に投入して、前記ヒータによって前記反応槽の水溶液を加熱し、発生した炭酸ガスを前記培養容器に供給することを特徴とする。
【0015】
炭酸水素ナトリウムのみの水溶液でも炭酸ガスを発生させるには十分であるが、投入直後の炭酸ガス発生量が多くなりすぎる(培養容器の炭酸ガス濃度が高くなりすぎる)ことがある。
【0016】
しかし、上述したように炭酸ナトリウムなどのアルカリ塩を添加することによって、この反応を抑制できるから、炭酸水素ナトリウムとアルカリ塩とを含んだ水溶液を用いるのが好ましい。
【0017】
特に、請求項9記載のように、前記アルカリ塩としては炭酸ナトリウムが適している。
炭酸ナトリウムをバッファーとする水溶液(緩衝溶液)は、請求項10記載のように、炭酸水素ナトリウム濃度が5〜10wt%、炭酸ナトリウム濃度が1.8〜2.5wt%の範囲が好ましい。
【0018】
そして、反応槽内の液温を40〜60℃の範囲で制御することで、炭酸ガス濃度を細胞培養に最適な炭酸ガス濃度(一般に5〜10%)に制御できる。
但し、アルカリ塩(例えば炭酸ナトリウム)をバッファーとして用いる場合には炭酸ガス濃度5%前後で平衡状態になる傾向にあるので、より高濃度にする場合は、請求項11に記載のようにクエン酸を添加するとよい。こうすれば、炭酸ガス濃度を10%前後で平衡させることができる。
【0019】
なお、上記の炭酸水素ナトリウムが含まれる水溶液の調製に当たって水道水を使用すると、残留塩素の影響により、炭酸ガスの平衡濃度が変化するので、純水(イオン交換水)を使用するのが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施例等により発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は下記の実施例等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまに実施できることは言うまでもない。
[実施例1]
図1及び図2に示すように、本実施例のインキュベータ1は、培養容器2と培養ディッシュ3とを備えている。
【0021】
培養容器2は箱状で、その底部5に設けられた円形の装着穴6にOリング7を介して培養ディッシュ3がはめ付けられる。
培養容器2の底部5には培養ディッシュ3を取り囲むように、円筒状の仕切壁8が立設されており、この仕切壁8と培養容器2の周壁9との間に反応槽10が形成されている。また、周壁9を貫通して温度センサ12が取り付けられている。
【0022】
そして、培養容器2の上部の開口は透明ヒータ13によって閉じられ、その上には培養容器2の周壁9に沿った矩形リング状の押さえ14が載せられる。
図示は省略するが、温度センサ12及び透明ヒータ13はコントローラに接続されており、コントローラで目標温度を設定すれば、培養容器2の内部温度が目標温度になるように、コントローラが温度センサ12の測定値に基づいて透明ヒータ13を制御する。また、温度センサ12の測定値はコントローラの表示パネルに数値表示される。
【0023】
培養ディッシュ3は、例えば石英ガラス等の透明な容器であり、周知の培地が充填され、その培地に培養対象の細胞などが接種される。なお、この培養ディッシュ3は倒立顕微鏡による底側からの内部観察が可能である。
【0024】
このインキュベータ1を用いて培養、観察操作を行うには、まず反応槽10に水(イオン交換水)と炭酸水素ナトリウムを入れる。この際に、炭酸ガスの発生量をコントロールするためにアルカリ塩(例えば炭酸ナトリウム)を添加する。
【0025】
培養試料の種類などにより要求される炭酸ガス濃度が異なり、それに応じた炭酸ガスの発生量にするための炭酸水素ナトリウムの濃度や炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの配合比は一律には決まらないので、予備実験などで好適な条件を求めておくとよい。
【0026】
通常は、炭酸水素ナトリウムの濃度は5〜10wt%、炭酸ナトリウムの濃度は1.8〜2.5wt%の範囲が好ましい。また、反応槽10内の液温は40〜60℃の範囲で制御するのが好ましい。
【0027】
次に、このインキュベータ1を倒立顕微鏡のステージにセットする。
続いて、透明ヒータ13による加温を開始し、温度センサ12によって測定された内部温度が目標温度(炭酸水素ナトリウムを分解させる必要上37℃以上、かつ培養試料が生存可能な温度)にて安定させる。加温により炭酸水素ナトリウムが分解するので、培養容器2の内部に炭酸ガスと水分が放出される。
【0028】
内部温度が目標温度にて安定したところで、培養試料を接種した培養ディッシュ3をセットし、顕微鏡による観察を開始する。
以上のように、インキュベータ1は、培養ディッシュ3を収容する培養容器2の内部に反応槽10を設けて、これに水と炭酸水素ナトリウムを入れて透明ヒータ13で加熱する構造であるから、炭酸水素ナトリウムの分解による炭酸ガスと水分が培養容器2内に供給される。
【0029】
炭酸水素ナトリウムを炭酸ガスの発生源としているので、炭酸ガス供給用のボンベは不要であるし、反応槽10から発生する炭酸ガスの圧力は低いから、装置構成を単純かつ小型化できる。
【0030】
また、炭酸ガスだけでなく水分も培養容器2の内部で発生するので、加湿のための構成も必要としない。従って、この点からも装置構成を単純かつ小型化できる。
炭酸ガスの発生量は、炭酸水素ナトリウムの投入量、透明ヒータ13による温度制御及び炭酸ナトリウムなどのアルカリ塩の添加量により、コントロールできる。
[実施例2]
図3に示すように、本実施例のインキュベータ21は、反応槽23の側面部に培養容器22を連接して、培養容器22と反応槽23とを一体化した構造をしている。
【0031】
反応槽23の容積は1lを充分に上回り、図示のように1lの水溶液を投入しても上部に空間が残され、この空間によって培養容器22と連通する。
反応槽23には温度センサ24及びヒータ25が装着されている。温度センサ24及びヒータ25がコントローラに接続され、コントローラによる温度制御及び温度表示が行われるのは、実施例1と同様である。
【0032】
また、反応槽23の下にはマグネチックスターラ26が配されるので、反応槽23内に入れられた攪拌子27をマグネチックスターラ26にて回転させて、水溶液を攪拌できる。
【0033】
培養容器22は透明な蓋28を備えており、この蓋27を開けることで培養ディッシュ3を出し入れできる。蓋28が透明であるから、この蓋28を透かして培養ディッシュ3を観察できる。また、底29も透明であるから、底29側からも培養ディッシュ3を観察できる。なお、培養ディッシュ3は実施例1と同じものである。
【0034】
このインキュベータ21を用いて培養、観察操作を行うには、まず反応槽23に炭酸水素ナトリウム、アルカリ塩(例えば炭酸ナトリウム)及び水(イオン交換水)を投入して水溶液とする。又は、予め調製した同水溶液を投入する。水溶液成分の濃度、配合比は実施例1で述べた通りである。
【0035】
次に、培養ディッシュ3を顕微鏡のステージ上に位置させるべく、インキュベータ21と顕微鏡を配置する。
続いて、ヒータ25による加温を開始し、温度センサ24によって測定された水溶液の温度が目標温度(例えば43℃)にて安定したところで、培養試料を接種した培養ディッシュ3をセットし、顕微鏡による観察を開始する。加温により炭酸水素ナトリウムが分解するので、反応槽23の水溶液から炭酸ガスと水分が放出され、これらは培養容器22に流入する。
【0036】
マグネチックスターラ26による水溶液の攪拌は、培養ディッシュ3のセット前から行い、水溶液の炭酸水素ナトリウム及びアルカリ塩(例えば炭酸ナトリウム)が完全に溶解してから培養ディッシュ3をセットするのが望ましい。
【0037】
1lの水溶液を反応槽23に投入する場合、水溶液の炭酸水素ナトリウム濃度を5〜10wt%、炭酸ナトリウム濃度を1.8〜2.5wt%の範囲として、反応槽23内の液温を40〜60℃の範囲で制御することで、培養容器22中の炭酸ガス濃度を5%前後に維持して約1週間の観察が可能である。
【0038】
以上のように、このインキュベータ21は、培養ディッシュ3を収容する培養容器22と連通している反応槽23に水と炭酸水素ナトリウムを入れてヒータ25で加熱することで、炭酸水素ナトリウムの分解による炭酸ガスと水分を培養容器22内に供給する構成であるから、実施例1と同様の効果が得られる。
【0039】
また、本実施例のインキュベータ21は、培養容器22と反応槽23とを一体化した点では実施例1と同様であるが、反応槽23の側面部に培養容器22を連接した構造であるので、実施例1に比べて反応槽23を大型にできる。従って、実施例1よりも多量の炭酸ガスを発生させて培養容器22に供給できる。
[実施例3]
図4に示すように、本実施例のインキュベータ31は、培養容器32と反応槽33が分離されている。
【0040】
反応槽33には、実施例2と同様の温度センサ24、ヒータ25及びマグネチックスターラ26が装備されている。実施例1と同様に温度センサ24及びヒータ25がコントローラに接続され、コントローラによる温度制御及び温度表示が行われ、実施例2と同様に攪拌子27をマグネチックスターラ26にて回転させて、反応槽33内の水溶液を攪拌できる。
【0041】
培養容器32の内部には副反応槽34が設けられており、副反応槽34と培養ディッシュ3(実施例1と同じ)の収容部36とは、仕切壁35によって仕切られている。なお、副反応槽34には溢流槽37が付属しており、副反応槽34から溢流槽37に溢流させることで、副反応槽34の液量が一定に保たれる。
【0042】
また、培養容器32は実施例1と同様の透明ヒータ38によって閉鎖されるが、透明ヒータ38を取り外せば培養ディッシュ3を出し入れできる。さらに、培養容器32には実施例1と同様の温度センサ39も備わっている。
【0043】
実施例1と同様に、温度センサ39及び透明ヒータ38はコントローラに接続されており、コントローラが温度センサ39の測定値に基づいて透明ヒータ38を制御して、培養容器32の内部温度を目標温度にする。
【0044】
反応槽33と培養容器32とは、反応槽33から副反応槽34に至る給液配管40a及び溢流槽37から反応槽33に至る回収配管40bとによって接続され、給液配管40aには送出ポンプP1aが、回収配管40bには回収ポンプP1bが介装されている。これにより、送出ポンプP1aを稼働させれば反応槽33の水溶液を副反応槽34に送り込むことができ、回収ポンプP1bを稼働させれば溢流槽37から反応槽33へ水溶液を回収できる。
【0045】
このインキュベータ31を用いて培養、観察操作を行うには、まず反応槽33に炭酸水素ナトリウム、アルカリ塩(例えば炭酸ナトリウム)及び水(イオン交換水)を投入して水溶液とする。又は、予め調製した同水溶液を投入する。水溶液成分の濃度、配合比は実施例1、2で述べた通りである。
【0046】
また、培養ディッシュ3を顕微鏡のステージ上に位置させるべく、培養容器32と顕微鏡を配置しておく。
続いて、マグネチックスターラ26による水溶液の攪拌を行いながら、送出ポンプP1a及び回収ポンプP1bを稼働させて、水溶液を反応槽33と副反応槽34の間で水溶液を循環させる。
【0047】
また、これと並行的にヒータ25による加温と透明ヒータによる加温を行う。
温度センサ24によって測定された反応槽33内の水溶液の温度及び温度センサ39によって測定された培養容器32の内部温度が、それぞれ目標温度(例えば43℃)にて安定したところで、培養試料を接種した培養ディッシュ3をセットし、顕微鏡による観察を開始する。
【0048】
ヒータ25によって水溶液が加温されているので、副反応槽34内の炭酸水素ナトリウムが分解して炭酸ガスと水分が放出され、培養容器32内に供給される。
以上のように、このインキュベータ31は、培養ディッシュ3を収容する培養容器32内の副反応槽34に炭酸水素ナトリウムの水溶液を循環させて、炭酸水素ナトリウムの分解による炭酸ガスと水分を培養容器32内に供給する構成であるから、実施例1と同様の効果が得られる。
【0049】
なお、本実施例のインキュベータ31は、培養容器32と反応槽33とを分離した構成であるので、実施例1、2と比べて装置構成はやや大型化するが、実施例1に比べて反応槽33を大型にでき、実施例1よりも多量の炭酸ガスを発生させて培養容器32に供給できる。また、培養容器32と反応槽33とが別体であるから、反応槽33を例えば顕微鏡(ステージ)とから離れた場所に設置できる等、反応槽33の設置場所については制約が少なく自由度が高い。
[実施例4]
図5に示すように、本実施例のインキュベータ41も、実施例3と同様に培養容器42と反応槽43が分離されている。但し、反応槽43から培養容器42に送出されるのは液ではなく気体である点が実施例3とは異なる。
【0050】
反応槽43には、実施例2、3と同様の温度センサ24、ヒータ25が備わっている。温度センサ24及びヒータ25は温度コントローラTC2に接続されており、実施例2、3と同様に温度コントローラTC2による温度制御が行われる。
【0051】
また、反応槽43には、実施例2、3と同様のマグネチックスターラ26が装備されており、実施例2、3と同様に攪拌子27をマグネチックスターラ26にて回転させて、反応槽43内の水溶液を攪拌できる。
【0052】
さらに、反応槽43にはフロートスイッチ44が備わっていて、液面が上下の設定範囲から外れた場合には、これを検出できる。
反応槽43の上部(液面の上限よりも高い位置)には送出配管45に一端が突き出されており、送出配管45の他端は培養容器42に接続されている。
【0053】
また、培養容器42と反応槽43とは、回収配管55によっても接続されている。この回収配管55には回収ポンプP2が介装されており、培養容器42から吸引した気体を反応槽43の液中に吐出する。回収ポンプP2を稼働させれば、培養容器42が相対的に低圧、反応槽43が相対的に高圧になるので、反応槽43内で発生した炭酸ガスを培養容器42に供給できる。
【0054】
培養容器42は透明な底と蓋を備えた箱状であり、蓋を開ければ培養ディッシュ3を出し入れできる。
培養容器42には実施例1と同様の温度センサ46が備わっており、その検出出力は温度コントローラTC1に入力される。温度コントローラTC1は恒温用のヒータ47の制御用である。
【0055】
恒温用のヒータ47は、循環用ポンプP1のデリバリ配管48に装着されていて、このデリバリ配管48内を流れる気体を加温する。循環用ポンプP1のサクション配管49とデリバリ配管48は共に培養容器42に接続されており、ヒータ47及び循環用ポンプP1を稼働させることで、培養容器42に加温気体を循環させてこれを加温できる。
【0056】
上述の送出配管45、回収配管55、デリバリ配管48及びサクション配管49の筐体50から出ている部分は、結露防止用のエアジャケットホース51に収容されており、エアジャケットホース51に温風を送り込むためのヒータ52及びブロワF1が筐体50内に配されている。
【0057】
エアジャケットホース51の吐出端には温度センサ53が配されており、この温度センサ53の検出出力が入力される温度コントローラTC3にてヒータ52を制御することで、エアジャケットホース51に送り込まれる温風の温度を制御できる。
【0058】
また、筐体50にはエアフィルタ付のファンF2が取り付けられており、ファンF2を稼働されば外気を取り入れできる。
このインキュベータ41を用いて培養、観察操作を行うには、まず反応槽43に炭酸水素ナトリウム、アルカリ塩(例えば炭酸ナトリウム)及び水(イオン交換水)を投入して水溶液とする。又は、予め調製した同水溶液を投入する。水溶液成分の濃度、配合比は実施例1、2で述べた通りである。
【0059】
その一方で、培養ディッシュ3を顕微鏡のステージ上に位置させるべく、培養容器42と顕微鏡を配置しておく。
次に、ヒータ52及びブロワF1を稼働させてエアジャケットホース51に温風を送り込む。
【0060】
その後、ヒータ47及び循環用ポンプP1を稼働させて培養容器42を加温
する。
また、マグネチックスターラ26による水溶液の攪拌を行いながら、ヒータ25により水溶液を加温し、回収ポンプP2を稼働させて、反応槽43内で発生した炭酸ガスを培養容器42に供給する。
【0061】
温度センサ24によって測定された反応槽43内の水溶液の温度及び温度センサ46によって測定された培養容器42の内部温度が、それぞれ目標温度(例えば43℃)にて安定したところで、培養試料を接種した培養ディッシュ3をセットし、顕微鏡による観察を開始する。
【0062】
ヒータ25によって水溶液が加温されているので、反応槽43内の炭酸水素ナトリウムが分解して炭酸ガスと水分が放出され、これらが培養容器42内に供給される。
以上のように、このインキュベータ41は、反応槽43内の炭酸水素ナトリウムの分解による炭酸ガスと水分を培養容器42内に供給する構成であるから、実施例1と同様の効果が得られる。
【0063】
なお、本実施例のインキュベータ41は、培養容器32と反応槽43とを分離した構成であるので、実施例1、2と比べて装置構成はやや大型化するが、実施例1に比べて反応槽43を大型にでき、実施例1よりも多量の炭酸ガスを発生させて培養容器42に供給できる。また、培養容器32と反応槽33とが別体であるから、反応槽43を例えば顕微鏡(ステージ)とから離れた場所に設置できる等、反応槽43の設置場所については実施例3と同様に制約が少なく自由度が高い。
[実施例5]
図6に示すように、この実施例5は、実施例4のインキュベータ41において、回収配管55を滅菌フィルタ61、62にて外気に通じさせて、空気の取り込みと排出を行うようにした。回収配管55を外気に通じさせてあるので、系内に空気を取り込むことができ、培養容器2の内部が酸素不足になるのを予防できる。
【0064】
また 恒温用のヒータ47、循環用ポンプP1、デリバリ配管48及びサクション配管49を廃して、培養容器42の蓋を透明ヒータ63にした。透明ヒータ63を制御するための温度センサ46及び温度コントローラTC1は必要であるが、ヒータ47、循環用ポンプP1、デリバリ配管48及びサクション配管49がなくなるので、構成がコンパクトになる。
【0065】
その他の構成は実施例4と同じであるから説明を省略するが、実施例4と同様の効果が得られることは言うまでもない。
[バッファー効果の確認実験]
実施例4のインキュベータ41を使用して、炭酸ナトリウムによるバッファー効果を確認するための実験を行った。
【0066】
実験1(バッファーあり)
イオン交換水2000g、炭酸水素ナトリウム150g、炭酸ナトリウム50gの水溶液(緩衝溶液)を調製し、反応槽43に投入し、反応槽43内の液温を45℃に保つ。
【0067】
培養ディッシュ3には、SIGMA製、D−MEM(high glucose),liquid,(D5796)培地を充填したが、細胞なし(ブランクテスト)である。培地温度は37℃、培地のpH値は添加したフェノールレッドの色を指標にして制御した。
【0068】
培養容器42内の炭酸ガス濃度を、校正した炭酸ガス濃度計を用いて測定し、記録した。その炭酸ガス濃度のプロットを図7(a)に示す。なお、横軸は経過時間で、1目盛り100分、縦軸は炭酸ガス濃度で幅(レンジ)は20%である。
【0069】
このチャートに示すとおり、上記調製した緩衝溶液を反応槽43に投入した直後に炭酸ガス濃度が約6%に達し、以後は5%前後で安定した状態(平衡濃度と考えられる)を保った。
【0070】
また、途中で培養容器42を何回か開放したが、その都度自然に平衡濃度に復帰した。これは緩衝溶液が、炭酸ガス濃度の変化の影響を受けない効果を発揮したためと考えられる。
【0071】
実験2(バッファーなし)
イオン交換水2000g、炭酸水素ナトリウム150gの水溶液を調製し、反応槽43に投入し、反応槽43内の液温を45℃に保つ。その他の条件は実験1と同じである。
【0072】
この実験における炭酸ガス濃度のプロットを図7(b)に示す。
このチャートに示すとおり、上記調製した緩衝溶液を反応槽43に投入した直後にプロットペンが振り切れた。測定レンジを変更してみたところ、このときの炭酸ガス濃度は30%を超えていた。このままでは培地のpH値が低くなり過ぎるので何回か反応槽を開放した。
【0073】
その炭酸ガス濃度が20%を超えた状態が約24時間継続した後、数日を経過して炭酸ガス濃度が5%前後で安定した(平衡状態になったと考えられる)。
考察
実験1、2の比較から明らかなように、炭酸水素ナトリウムのみの水溶液(バッファー無し)では平衡状態になるまでに非常に長い時間を必要とする。
【0074】
一方、アルカリ塩(例えば炭酸ナトリウム)をバッファーとして使用すると、投入後短時間で平衡状態になる。
なお、緩衝溶液にクエン酸を添加すれば、炭酸ガス濃度が10%前後で平衡状態にできる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施例1のインキュベータの平面図及びA−A断面図。
【図2】実施例1のインキュベータの斜視図。
【図3】実施例2のインキュベータの構造説明図。
【図4】実施例3のインキュベータの構造説明図。
【図5】実施例4のインキュベータのプロセスフロー図。
【図6】実施例5のインキュベータのプロセスフロー図。
【図7】バッファー効果の確認実験における培養容器内の炭酸ガス濃度のチャート。
【符号の説明】
【0076】
1・・・インキュベータ、
2・・・培養容器、
3・・・培養ディッシュ、
8・・・仕切壁、
10・・・反応槽、
21・・・インキュベータ、
22・・・培養容器、
23・・・反応槽、
31・・・インキュベータ、
32・・・培養容器、
33・・・反応槽、
34・・・副反応槽、
36・・・収容部、
37・・・溢流槽、
40a・・・給液配管、
40b・・・回収配管、
P1a・・・送出ポンプ、
P1b・・・回収ポンプ、
41・・・インキュベータ、
42・・・培養容器、
43・・・反応槽、
45・・・送出配管、
55・・・回収配管、
P1・・・循環用ポンプ、
P2・・・回収ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養ディッシュを収容する培養容器と、
該培養容器と連通しており、炭酸水素ナトリウムが含まれる水溶液を貯留する反応槽と、
該反応槽の水溶液を加熱するヒータと
を備えたことを特徴とするインキュベータ。
【請求項2】
請求項1記載のインキュベータにおいて、
前記培養容器と前記反応槽とが一体化されている
ことを特徴とするインキュベータ。
【請求項3】
請求項2記載のインキュベータにおいて、
前記反応槽は前記培養容器内に設けられている
ことを特徴とするインキュベータ。
【請求項4】
請求項1記載のインキュベータにおいて、
前記反応槽と前記培養容器とが管路によって接続されている
ことを特徴とするインキュベータ。
【請求項5】
請求項4記載のインキュベータにおいて、
前記培養容器内に副反応槽を設け、
前記反応槽の水溶液を前記副反応槽に送り込む送出ポンプと、
前記副反応槽から又は該副反応槽から溢れた水溶液を前記反応槽に送り返す回収ポンプと
を備えたことを特徴とするインキュベータ。
【請求項6】
請求項4記載のインキュベータにおいて、
前記管路は前記反応槽で発生した炭酸ガスが含まれる気体を前記培養容器に送るための送気管路である
ことを特徴とするインキュベータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載のインキュベータにおいて、
前記反応槽の水溶液を攪拌する攪拌手段と、
前記反応槽の水溶液の温度を測定する温度センサと、
該温度センサの測定値に基づいて前記ヒータを制御する温度コントローラと
を備えたことを特徴とするインキュベータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載のインキュベータを用い、
炭酸水素ナトリウムと、アルカリ塩とを含んだ前記水溶液を前記反応槽に投入して、前記ヒータによって前記反応槽の水溶液を加熱し、発生した炭酸ガスを前記培養容器に供給することを特徴とする培養方法。
【請求項9】
請求項8記載の培養方法において、
前記アルカリ塩が炭酸ナトリウムであることを特徴とする培養方法。
【請求項10】
請求項9記載の培養方法において、
炭酸水素ナトリウム濃度が5〜10wt%、炭酸ナトリウム濃度が1.8〜2.5wt%の前記水溶液を前記反応槽に投入して、前記反応槽内の液温を40〜60℃の範囲とすることを特徴とする培養方法。
【請求項11】
請求項9又は10記載の培養方法において、
前記水溶液にはクエン酸が添加されていることを特徴とする培養方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−262894(P2006−262894A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12714(P2006−12714)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(505072993)
【出願人】(505073004)アルテア技研株式会社 (7)
【Fターム(参考)】