説明

インキ組成物及びこれを用いた加飾シート

【課題】加飾成形品に優れた高硬度性を付与すると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性を付与し、またハードコート層形成層を必要に応じて熱乾燥のみでタックフリーとすることができるという優れた製造効率を加飾シートに付与するインキ組成物、該インキ組成物を用いた加飾シート及び該加飾シートを用いた加飾成形品を提供する。
【解決手段】電離放射線硬化性官能基Aとしてビニル基、(メタ)アクリロイル基及びアリル基から選ばれる少なくとも一種を有する、重量平均分子量が50000未満である多官能性ラジカル重合型プレポリマー、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子、及び多官能イソシアネート化合物を含み、該プレポリマーの固形分と該反応性無機粒子との合計に対する該プレポリマーの固形分の含有量が15〜75質量%であるインキ組成物13、これを用いた加飾シート10、該シートを用いた加飾成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ組成物及びこれを用いた加飾シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元曲面などの複雑な表面形状を有する樹脂成形体の加飾には、射出成形同時加飾方法が用いられる。射出成形同時加飾方法とは、射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートをキャビティ内に射出注入された溶融した射出樹脂と一体化させて、樹脂成形体表面に加飾を施す方法であって、樹脂成形体と一体化される加飾シートの構成の違いによって、一般に射出成形同時ラミネート加飾法と射出成形同時転写加飾法に大別される。
射出成形同時転写加飾法においては、加飾シートを金型内面に密着させて型締した後、キャビティ内に溶融した射出樹脂を射出して該加飾シートと射出樹脂とを一体化し、次いで加飾成形品を冷却して金型から取り出した後、基材フィルムを剥離することにより転写層を転写した加飾成形品を得ることができる。
【0003】
このようにして得られる加飾成形品は、従来用いられている家庭用電化製品、自動車内装品などの分野に加えて、例えば近年パソコン市場の拡大に伴う、日常携帯できるモバイルパソコンを含めたノート型のパソコンの分野での使用や、自動車外装、携帯電話分野での使用も注目されている。これらの分野においては、加飾シートに対して、加飾成形品に優れた高硬度性などの表面特性を付与しうると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性が求められる。
【0004】
このような要求を満たすため、低分子量のポリマーと多官能イソシアネートを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いた保護層を有する転写材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、該保護層がタックフリーになりにくく、タックフリーの状態にするには、150℃という高温による焼付けや長時間の加熱処理を要したり、また高硬度性などの表面特性におけるより厳しい要求には対応できないといった問題があった。
【0005】
高硬度性などの表面物性を得ることを目的として、低分子量のポリマーと硬化剤とコロイダルシリカ粒子とを含む保護層を有する転写材が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、鉛筆硬度でH以上のより厳しい要求に対して十分ではない、加飾シートをロール状に巻き取った際にブロッキング(裏移り)する場合がある、あるいはより形状が複雑な成形品に対して、保護層が白化したり塗装割れを生じる場合があるといった問題があった。高硬度性などの表面特性と耐ブロッキング及び成形性とは相反する性能であり、これらの相反する性能を高いレベルで確保するものがないというのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3233595号公報
【特許文献2】特開2009−137219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下で、加飾成形品に優れた高硬度性を付与すると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性を付与し、またハードコート層形成層を必要に応じて熱乾燥のみでタックフリーとすることができるという優れた製造効率を加飾シートに付与するインキ組成物、該インキ組成物を用いた加飾シート及び該加飾シートを用いた加飾成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、以下のインキ組成物、これを用いた加飾シート、これを用いた加飾成形品の製造方法、及び該製造方法により得られる加飾成形品を提供するものである。
【0009】
1.電離放射線硬化性官能基Aとしてビニル基、(メタ)アクリロイル基及びアリル基から選ばれる少なくとも一種を有する、重量平均分子量が50000未満である多官能性ラジカル重合型プレポリマー、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子、及び多官能イソシアネート化合物を含み、該プレポリマーの固形分と該反応性無機粒子との合計に対する該プレポリマーの固形分の含有量が15〜75質量%であるインキ組成物。
2.基材フィルムの片面に少なくとも離型層とハードコート層形成層とを順に有する加飾シートであって、該ハードコート層形成層が上記1に記載のインキ組成物を用いて形成されるものである加飾シート。
3.下記の工程(1)〜工程(5)を有する加飾成形品の製造方法。
工程(1)射出成型金型内に上記2に記載の加飾シートを配する工程
工程(2)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形体と加飾シートとを積層一体化させる射出工程
工程(3)樹脂成形体と加飾シートとが一体化した成形体を金型から取り出す工程
工程(4)成形体から加飾シートの基材フィルムを剥離する工程
工程(5)前記成形体上に設けられたハードコート層形成層を電離放射線を用いて硬化させるハードコート層形成工程
4.上記3に記載の製造方法により得られる加飾成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加飾成形品に優れた高硬度性を付与すると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性を付与し、またハードコート層形成層を必要に応じて熱乾燥のみでタックフリーとすることができるという優れた製造効率を加飾シートに付与するインキ組成物、該インキ組成物を用いた加飾シート及び該加飾シートを用いた加飾成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の加飾シートの断面を示す模式図である。
【図2】本発明の加飾成形品の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[インキ組成物]
本発明のインキ組成物は、電離放射線硬化性官能基Aとしてビニル基、(メタ)アクリロイル基及びアリル基から選ばれる少なくとも一種を有する、重量平均分子量が50000未満である多官能性ラジカル重合型プレポリマー、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子、及び多官能イソシアネート化合物を含み、該プレポリマーの固形分と該反応性無機粒子との合計に対する該プレポリマーの固形分の含有量が15〜75質量%である組成物である。
【0013】
〈電離放射線硬化性官能基Aを有する多官能性ラジカル重合型プレポリマー〉
電離放射線硬化性とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線などの照射により励起して、重合反応を生じることにより架橋、硬化する性能のことである。また、電離放射線硬化性官能基とは、上記電離放射線硬化性を発現しうる官能基のことであり、本発明においてはビニル基、(メタ)アクリロイル基及びアリル基といったエチレン性不飽和結合を有する官能基のことである。
【0014】
多官能性ラジカル重合型プレポリマーは、上記電離放射線硬化性官能基Aを有するプレポリマーであれば特に制限はなく、例えばアクリル(メタ)アクリレート系プレポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマー、ポリエステル(メタ)アクリレート系プレポリマー、エポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマー、及びポリエーテル(メタ)アクリレート系プレポリマーなどのプレポリマーが好ましく挙げられ、なかでもアクリル(メタ)アクリレート系プレポリマーが好ましい。本発明においては、これらのプレポリマーを単独で、あるいは複数を組合せて用いてもよい。
【0015】
ここで、アクリル(メタ)アクリレート系プレポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、これと共重合可能な、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどの官能基含有(メタ)アクリル系化合物、あるいは(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボン酸とを共重合してなるプレポリマーである。
ウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンプレポリマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
ポリエステル(メタ)アクリレート系プレポリマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルプレポリマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるプレポリマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
エポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマーは、例えば比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレート系プレポリマーを用いることもできる。
ポリエーテル(メタ)アクリレート系ポリマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0016】
本発明で用いられるプレポリマーの重量平均分子量は、50000未満であることを要し、好ましくは5000〜50000未満であり、より好ましくは5000〜40000であり、さらに好ましくは10000〜35000である。重量平均分子量が上記範囲内であれば、優れた高硬度性と耐ブロッキング性を得ることができる。ここで、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された値であり、標準サンプルにポリスチレンを用いた条件で測定された値である。
【0017】
また、優れた表面特性を得る観点から、プレポリマーの二重結合当量は、100〜800、好ましくは150〜500、より好ましくは150〜300である。ここで、二重結合当量は、電離放射線硬化性官能基1molあたりの分子量を意味する。
【0018】
〈反応性無機粒子〉
本発明のインキ組成物は、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子を含有する。電離放射線硬化性官能基Bとしては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、及びアリル基といったエチレン性不飽和結合や、エポキシ基、シラノール基などが好ましく挙げられ、高硬度性及び耐スクラッチ性の向上の観点から、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、及びアリル基がより好ましい。
【0019】
無機粒子としては、シリカ粒子(コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、沈降性シリカなど)、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、酸化亜鉛粒子などの金属酸化物粒子が好ましく挙げられ、高硬度性の向上の観点から、シリカ粒子及びアルミナ粒子が好ましく、特にシリカ粒子が好ましい。
【0020】
無機粒子の形状としては、球、楕円体、多面体、鱗片形などが挙げられ、これらの形状が均一で、整粒であることが好ましい。
また、無機粒子の平均粒子径は、インキ組成物により形成する層の厚さにより適宜選択しうるが、通常0.005〜0.5μmが好ましく、0.01〜0.1μmがより好ましい。ここで、平均粒子径は、溶液中の該粒子を動的光散乱方法で測定し、粒子径分布を累積分布で表したときの50%粒子径(d50:メジアン径)であり、Microtrac粒度分析計(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0021】
また、無機粒子のなかでも、高硬度性の観点からは、異形無機粒子が好ましい。異形無機粒子は、無機粒子が平均連結数2〜40個の連結凝集した無機粒子群からなるものであり、本発明においては無機粒子に包含されるものである。連結凝集は、規則的であっても不規則的であってもよい。該無機粒子群を形成する無機粒子としては、シリカ(コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、沈降性シリカなど)、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛などの金属酸化物からなる無機粒子が好ましく挙げられ、高硬度性の向上の観点から、シリカあるいはアルミナからなる異形無機粒子であることが好ましい。すなわち、異形無機粒子は、シリカ粒子あるいはアルミナ粒子が平均連結数2〜40個の連結凝集したシリカ粒子群あるいはアルミナ粒子群からなるものであることが好ましく、特にシリカ粒子が平均連結数2〜40個の連結凝集したシリカ粒子群からなる異形シリカ粒子が好ましい。
【0022】
上記無機粒子群を形成する無機粒子の形状は、球、楕円体、多面体、鱗片形などが好ましく挙げられ、これらの形状が均一で、整粒であることが好ましい。
上記無機粒子群を形成する無機粒子の平均粒子径は、0.005〜0.5μmであることが好ましく、0.01〜0.1μmであることがより好ましい。また、異形無機粒子の平均粒子径としては、インキ組成物により形成する層の厚さにより適宜選択しうるが、通常0.005〜0.5μmが好ましく、0.01〜0.1μmがより好ましい。ここで、平均粒子径は、上記した無機粒子の平均粒子径と同じ方法により測定したものである。
【0023】
反応性無機粒子としては、上記したようにシリカ粒子あるいは異形シリカ粒子の表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性シリカ粒子あるいは反応性異形シリカ粒子が好ましく、シランカップリング剤で表面装飾されたものが好ましい。
シランカップリング剤としては、ビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、アリル基などを有する公知のシランカップリング剤が好ましく挙げられ、より具体的には、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などが好ましく挙げられ、より好ましくは、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシランである。
【0024】
無機粒子をシランカップリング剤で表面装飾する方法は、特に制限はなく公知の方法であればよく、シランカップリング剤をスプレーする乾式の方法や、無機粒子を溶剤に分散させてからシランカップリング剤を加えて反応させる湿式の方法などが挙げられる。
【0025】
〈多官能イソシアネート化合物〉
本発明のインキ組成物は、イソシアネート基を2個以上有する多官能イソシアネート化合物を含有する。多官能イソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、あるいは、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンジイソシアネート(MDI)、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族(ないしは脂環式)イソシアネート等のポリイソシアネートが挙げられる。また、これら各種イソシアネートの付加体又は多量体、例えば、トリレンジイソシアネートの付加体、トリレンジイソシアネート3量体(trimer)等や、ブロック化されたイソシアネート化合物等も挙げられる。
また、本発明においては、多官能イソシアネート化合物のうち、電離放射線硬化性官能基Cとしてビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基及びエポキシ基から選ばれる少なくとも一種を有するものが、高硬度性の観点から特に好ましく、具体的には「Laromer LR9000(商品名)」(BASF社製)のように、エチレン性不飽和結合を有する官能基を少なくとも1個と、2個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0026】
〈溶媒〉
本発明のインキ組成物は、粘度を調整する目的で溶媒を含有してもよい。溶媒としては、トルエン、キシレンなどの炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、メチルグリコール、メチルグリコールアセテート、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ニトロメタン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどの含窒素化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、テトラクロルエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどのその他の物;またはこれらの混合物が好ましく挙げられる。より好ましい溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
インキ組成物中の溶媒の量は、該組成物の粘度に応じて適宜選定すればよいが、前記プレポリマーの固形分、反応性無機粒子及びその他後述する光重合開始剤などを合わせた固形分の含有量が通常10〜70質量%程度、好ましくは20〜50質量%となるような量である。
【0027】
〈光重合開始剤〉
本発明のインキ組成物は、光重合開始剤を配合することができる。
光重合開始剤としては、アセトフェノン系、ケトン系、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、ケタール系、アントラキノン系、ジスルフィド系、チオキサントン系、チウラム系、フルオロアミン系などの光重合開始剤が挙げられる。なかでも、アセトフェノン系、ケトン系、ベンゾフェノン系が好ましく挙げられる。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で使用することができ、また複数を組み合わせて使用することもできる。
光重合開始剤の含有量は、前記プレポリマーの固形分100質量部に対して、0.5〜10質量部程度とすることが好ましく、より好ましくは1〜8質量部、さらに好ましくは3〜8質量部である。
【0028】
〈その他の成分〉
本発明のインキ組成物は、得られる所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、酸化防止剤、レベリング剤、チキソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、熱ラジカル発生剤、アルミキレート剤などが挙げられる。
また、本発明のインキ組成物は、その効果を阻害しない範囲で、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂などのポリマーや、電離放射線硬化性官能基としてビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基及びエポキシ基から選ばれる少なくとも一種を有するモノマー、例えばウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、及びポリエーテル(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートなどの反応性モノマーを配合することもできる。
【0029】
〈インキ組成物の組成〉
本発明のインキ組成物は、上記したプレポリマー、反応性無機粒子及び多官能イソシアネート化合物を含むものであり、該プレポリマーの固形分と反応性無機粒子との合計に対する該プレポリマーの固形分の含有量は、15〜75質量%であることを要し、好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは30〜50質量%である。
該プレポリマーの含有量が上記範囲内であれば、該インキ組成物を用いてハードコート層形成層を形成する際、離型層上に該インキ組成物を塗布して形成したハードコート層形成層は、必要に応じて熱乾燥するだけでタックフリーとなるため、電離放射線の照射や高温の焼付けなどによる半硬化処理を行うことなく、シートをロール状に巻き取ってもブロッキング(裏移り)することがない。また、上記半硬化処理の必要がなくなるため、成形した際に成形前後の加飾シートの面積比が130%以上となるような深絞りであっても、最大延伸部に塗膜割れや白化が生じることなく、良好に型の形状に追従できるハードコート形成層の形成が可能となる。さらに、成型転写後にハードコート形成層を電離放射線を用いて硬化することにより、優れた高硬度性が得られる。
【0030】
また、本発明のインキ組成物における多官能イソシアネート化合物の固形分の含有量は、前記プレポリマーの固形分100質量部に対して、1〜30質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、3〜15質量部がさらに好ましい。多官能イソシアネート化合物の固形分の含有量が上記範囲内であると、優れた高硬度性と成形性を維持したまま、成形時の耐熱性が得られる。
【0031】
[加飾シート]
本発明の加飾シートは、基材フィルムの片面に少なくとも離型層とハードコート層形成層とを順に有しており、該ハードコート層形成層が本発明のインキ組成物を用いて形成されるものである。以下、本発明の加飾シートを、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の加飾シートの好ましい一態様についての断面を示す模式図である。図2は、本発明の加飾成形品の好ましい一態様についての断面を示す模式図である。
図1に示される本発明の加飾シート10は、ポリエステルフィルムからなる基材フィルム11の一方の表面に、離型層12、ハードコート層形成層13、アンカー層14、絵柄層15及び接着層16を順に積層してなり、基材フィルム11の他方の面(離型層11を設けた面とは反対側の面)に帯電防止層19を積層してなるものである。また、図2に示される本発明の加飾成形品20は、樹脂成形体21の表面に、接着層16、絵柄層15、アンカー層14及びハードコート層形成層13が硬化してなるハードコート層22が順に積層したものである。
【0032】
《基材フィルム》
基材フィルム11としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、三酢酸セルロース、セロファン、ポリカーボネート、ポリウレタン系などのエラストマー系樹脂などによるものが利用される。これらのうち、成形性及び剥離性が良好である点から、ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という。)が好ましい。
基材フィルム11の厚さとしては、成形性や形状追従性、取り扱いが容易であるとの観点から、25〜150μmの範囲が好ましく、さらに25〜75μmの範囲がより好ましい。
【0033】
《離型層12》
離型層12は、好ましくはハードコート層形成層13、アンカー層14、絵柄層15及び接着層16が順に積層してなる転写層17が基材シート11からの剥離を容易に行われるために設けられる層である。該離型層12を有することで、本発明の加飾シートから転写層17を確実に、かつ容易に被転写体へ転写させ、基材フィルム11、離型層12、及び必要に応じて設けられる帯電防止層19からなる剥離層18を確実に剥離することができる。
【0034】
離型層12には、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース樹脂系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤、アクリル樹脂系離型剤及びこれらの複合型離型剤などの離型剤が好ましく用いられる。これらのうち、離型層とハードコート層形成層との剥離強度を所定の範囲内とし、剥離層18を確実に剥離する観点から、メラミン樹脂系離型剤及びアクリル樹脂系離型剤、あるいはアクリル−メラミン系などのこれらを複合したものが好ましい。
【0035】
メラミン樹脂系離型剤を用いる場合、該離型剤の硬化を促進するため、酸触媒を使用することが好ましい。上記酸触媒としては特に限定されず、例えば、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などが好ましく挙げられる。酸触媒の使用量は、メラミン樹脂系離型剤に含まれるメラミン樹脂の固形分に対して0.05〜3%程度が好ましく、0.05〜1%がより好ましい。また、離型剤の硬化を促進させるために、130〜170℃の加熱処理を30秒〜2分程度行うことが好ましい。
【0036】
離型層12の形成は、上記のような離型剤に必要な添加剤を加えたものを適当な溶剤に溶解または分散して調製したインキを、基材シート11上に公知の手段により塗布・乾燥させて行うことができ、厚みは0.1〜5μm程度が好ましい。
【0037】
《ハードコート層形成層13》
ハードコート層形成層13は、上記した本発明のインキ組成物を用いて形成される層であり、電離放射線硬化することにより加飾成形品20におけるハードコート層22を形成する層である。該ハードコート層22は、加飾成形品の最外層となり、摩耗や薬品などから成形品や絵柄層を保護するための層である。よって、ハードコート層形成層13は、硬化することで、優れた高硬度性と耐スクラッチ性はもちろんのこと、耐薬品性や耐汚染性などの表面物性に優れるという性能を有する層であることを要する。
【0038】
〈ハードコート層形成層13の形成〉
ハードコート層形成層13は、本発明のインキ組成物をグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、ダイコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などにより塗工することで、形成することができる。
ハードコート層形成層13の厚さは、0.5〜30μmの範囲が好ましく、より好ましくは3〜15μmである。厚さが上記範囲内であると、優れた高硬度性と耐スクラッチ性はもちろんのこと、耐薬品性や耐汚染性などの表面物性が得られると同時に、優れた成形性や形状追従性を得ることができる。また、材料費の点でも有利である。
【0039】
《アンカー層14》
アンカー層14は、ハードコート層形成層13と接着層16、あるいは絵柄層15がある場合は絵柄層15との密着性を向上させるために、所望により設けられる層である。
アンカー層14は、2液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、塩素含有ゴム系樹脂、塩素含有ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系共重合体樹脂などを使用し、例えば上記のように形成したハードコート層形成層13の上に、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などにより塗工して形成することができる。
アンカー層14の厚さは、通常0.1〜5μm程度であり、好ましくは1〜5μm程度である。
【0040】
《絵柄層15》
絵柄層15は、加飾成形品に所望の意匠性を付与するための層であり、所望により設けられる層である。絵柄層15の絵柄は任意であるが、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字などからなる絵柄を挙げることができる。また、絵柄層15は、上記絵柄を表現する柄パターン層及び全面ベタ層を単独で又は組み合わせて設けることができ、全面ベタ層は、通常、隠蔽層、着色層、着色隠蔽層などとして用いられる。
【0041】
絵柄層15は、通常は、上記のように形成したハードコート層形成層13の上、あるいはアンカー層14の上に、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース系樹脂などの樹脂をバインダーとし、適当な色の顔料又は染料を着色剤として含有する印刷インキによる印刷を行うことで形成する。印刷方法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷法が挙げられる。
絵柄層15の厚みは、意匠性の観点から5〜40μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。
【0042】
《接着層16》
接着層16は、転写層17を接着性よく樹脂成形体に転写するために形成される層である。この接着層16には、樹脂成形体の素材に適した感熱性又は感圧性の樹脂を適宜使用する。例えば、樹脂成形体の材質がアクリル系樹脂の場合は、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂成形体の材質がポリフェニレンオキサイド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用することが好ましい。さらに、樹脂成形体の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂を使用することが好ましい。
【0043】
接着層16の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。なお、絵柄層15が樹脂成形体に対して充分な接着性を有する場合には、接着層16を設けなくてもよい。
接着層16の厚さは、通常0.1〜5μm程度が好ましい。
【0044】
《帯電防止層19》
本発明の加飾シートは、帯電防止層19を設けることができる。帯電防止層19は、加飾シートへの異物の付着を防止するために好ましく設けられる層であり、基材フィルム11の離型層を設ける面とは反対側の面に設けられる。
帯電防止層に用いられる帯電防止剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、リン酸系などのアニオン性界面活性剤;第4級アンモニウム系などのカチオン系界面活性剤;アルキルベタイン系、アルキルイミダゾリン系、アルキルアラニン系などの両性界面活性剤;アルキレンオキサイド重合体、アルキレンオキサイド共重合体、脂肪族アルコール−アルキレンオキサイド付加物などのノニオン系界面活性剤;カーボンや、金、白金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、モリブデンなどの各種金属粉末などの無機導電性物質;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、あるいはアミノカルボン酸、ジカルボン酸及びポリエチレングリコールからなるポリエーテルエステルアミド樹脂などの導電性高分子などが好ましく挙げられる。
【0045】
帯電防止層は、上記した帯電防止剤と有機溶剤などからなる塗料を、グラビアコート法、ロールコート法などのコート法や、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法により形成する。このようにして形成する帯電防止層の厚さは、通常0.1〜5μmであることが好ましい。帯電防止層の厚さが上記範囲内であれば、優れた帯電防止性能が効率よく得られる。
【0046】
《加飾シートの用途など》
本発明の加飾シートは、ハードコート層形成層が必要に応じて熱乾燥するだけタックフリーとなるため、耐ブロッキング性に優れ、同時に耐熱性も付与できるので製造効率に優れるものである。また、タックフリーとするために電離放射線の照射や高温の焼付けなどによる半硬化処理を行う必要がないため、優れた成形性や形状追従性を有するものとなる。さらに、成型転写後にハードコート層形成層を電離放射線を用いて硬化することにより、優れた高硬度性及び耐スクラッチ性が得られる。これらのことから、家庭用電化製品、自動車内装品などの分野や、パソコンの分野、とりわけパソコンの筐体など、幅広い分野において使用することができる。
【0047】
[加飾成形品の製造方法]
本発明の加飾成形品の製造方法は、工程(1)射出成型金型内に本発明の加飾シートを配する工程;工程(2)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形体と加飾シートとを積層一体化させる射出工程;工程(3)樹脂成形体と加飾シートとが一体化した成形体を金型から取り出す工程;工程(4)成形体から加飾シートの基材フィルムを剥離する工程;及び工程(5)前記成形体上に設けられたハードコート層形成層を電離放射線を用いて硬化させるハードコート層形成工程を有するものである。
【0048】
《工程(1)》
工程(1)は、本発明の加飾シートを成形金型内に配し、挟み込む工程である。具体的には、加飾シートを、可動型と固定型とからなる成形用金型内に転写層17を内側にして、つまり、基材フィルム11が固定型側となるように加飾シートを送り込む。この際、枚葉の加飾シートを1枚ずつ送り込んでもよいし、長尺の加飾シートの必要部分を間欠的に送り込んでもよい。
【0049】
加飾シートを成形金型内に配する際、(i)単に金型を加熱し、該金型に真空吸引して密着するように配する、あるいは(ii)転写層17側から熱盤を用いて加熱し軟化させて、加飾シートが金型内の形状に沿うように予備成型して、金型内面に密着させる型締を行って、配することができる。(ii)の時の加熱温度は、基材フィルム11のガラス転移温度近傍以上で、かつ、溶融温度(または融点)未満の範囲であることが好ましく、通常はガラス転移温度近傍の温度で行う。なお、上記のガラス転移温度近傍とは、ガラス転移温度±5℃程度の範囲であり、一般に70〜130℃程度である。また、(ii)の場合には、加飾シートを成形金型表面により密着させる目的で、加飾シートを熱盤で加熱し軟化させる際に、真空吸引することもできる。
【0050】
《工程(2)》
工程(2)は、キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形体と加飾シートとを積層一体化させる射出工程である。射出樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、加熱溶融によって流動状態にして、また、射出樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、未硬化の液状組成物を適宜加熱して流動状態で射出して、冷却して固化させる。これによって、加飾シートが、形成された樹脂成形体と一体化して貼り付き、加飾成形品となる。射出樹脂の加熱温度は、射出樹脂によるが、一般に180〜280℃程度である。
【0051】
(射出樹脂)
加飾成形品に用いられる射出樹脂としては、射出成形可能な熱可塑性樹脂あるいは、熱硬化性樹脂(2液硬化性樹脂を含む)であればよく、様々な樹脂を用いることができる。このような熱可塑性樹脂材料としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂(耐熱ABS樹脂を含む)、AS樹脂、AN樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、2液反応硬化型のポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独でもよいし、二種以上混合して用いてもよい。
【0052】
《工程(3)及び工程(4)》
工程(3)は、加飾シートと樹脂成形体とが一体化した成形体を金型から取り出す工程であり、工程(4)は、該成形体から加飾シートの基材フィルムを剥離する工程である。基材フィルム11は、離型層12を有しているので、該離型層12とハードコート層形成層13との境界面で、基材フィルム11と離型層12、及び必要に応じて設けられる帯電防止層19を含む剥離層18を加飾成形品20から容易に剥離することができる。このようにして、樹脂成形体21の表面に、接着層16、絵柄層15、アンカー層14及びハードコート層形成層13が順に積層する成形品が得られる。
【0053】
《工程(5)》
工程(5)は、工程(4)で得られた成形品におけるハードコート層形成層13を電離放射線を用いて硬化させて、ハードコート層を形成する工程である。工程(5)の硬化においては、酸素濃度2%以下の雰囲気下で電離放射線を照射して行うことができる。このように硬化を行うことで、さらに優れた高硬度性及び耐スクラッチ性を得ることができる。
【0054】
酸素濃度2%以下の雰囲気は、例えば窒素、アルゴン、水素など、好ましくは窒素を用いる、あるいは酸素濃度が2%以下程度となるように空気吸引を行うなどの方法により得ることができる。
【0055】
ハードコート層形成層13の硬化は、電子線及び紫外線などの電離放射線を照射して行うことができる。
電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いるポリマーやモノマーの種類、あるいはハードコート層形成層13の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度が好ましい。照射線量は、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。また、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射し、その照射線量は500〜1500mJ程度である。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。
【0056】
このようにして得られた加飾成形品は、優れた高硬度性を有し、耐薬品性や耐汚染性などの表面物性にも優れるものである。また、より形状が複雑な成形品に対応しうる成形性が得られる本発明の加飾シートを使用することで、仕上がりにも優れた加飾成形品が得られる。
本発明の加飾成形品は、これらの優れた特性をいかして、家庭用電化製品、自動車内装品などの分野や、パソコンの分野、とりわけパソコンの筐体など、幅広い分野において好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。なお、本発明における評価方法は、以下の方法にて行った。
1.試験サンプルの作製
基材フィルム(「F99(品番)」,厚さ:50μm,東レ株式会社製)上に、メラミン樹脂系離型剤(メラミン樹脂の固形分比0.5%の酸触媒(パラトルエンスルホン酸)を添加)を塗工量2g/m2でグラビア印刷し、150℃のオーブン内で60秒間加熱処理して離型層を形成した上に、各実施例及び比較例で用いられるインキ組成物をバーコーターで塗工し、100℃のオーブン内で60秒間乾燥し、試験サンプルを得た。ここで、インキ組成物の塗工量は乾燥後のインキ塗工層の厚さが6g/m2となるような量とした。
2.耐ブロッキング性(シート巻取り適性)の評価
試験サンプルのインキ塗工層面に、試験サンプルの作製に用いたPETフィルムを重ね合わせて、インキブロッキングテスター(「DG−BT(型番)」,大和グラビヤ株式会社製)を用いて、1kg/cm2の荷重を加えながら、40℃のオーブン内で12時間放置した。その後、試験サンプルを取り出して、重ね合わせたPETフィルムを剥離した。剥離したPETフィルムへのインキ塗工層の取られ(裏移り)を、下記の基準で評価した。
○ :裏移りは全くなかった
△ :裏移りは若干あるものの、実用上問題なかった
× :裏移りが著しかった
3.高硬度性の評価
試験サンプルを、各実施例及び比較例における硬化方法により硬化させた後、JIS K5600−5−4に準拠して、鉛筆引掻き塗膜硬さ試験機(「D−NP(型番)」,株式会社東洋精機製作所製)、及び鉛筆引掻き値試験用鉛筆(三菱鉛筆株式会社製)を用いて鉛筆硬度を測定した。
各硬度の鉛筆でインキ塗工層を引掻く試験を5回行い、3回以上傷跡が生じなかった鉛筆の硬度を、試験サンプルの鉛筆硬度とした。
【0058】
合成例(プレポリマーの合成)
冷却器、滴下ロート及び温度計付きの2L四つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン(MIBK)120g、メチルエチルケトン(MEK)210gを仕込み、該四つ口フラスコに、グリシジルメタクリレート(GMA)80g、メチルメタクリレート(MMA)20g及びアゾ系の開始剤(アゾビスイソブチロニトリル,AIBN−1)1gからなる混合液を滴下ロートで2時間かけて滴下させながら、100〜110℃の温度下で4時間反応させた後、アゾ系の開始剤(アゾビスイソブチロニトリル,AIBN−2)1gをさらに加えて、3時間保温後、室温まで冷却した。これに、アクリル酸(AA)40.6g、トリフェニルホスフィン2g、及びメトキノン0.5gからなる混合液を加えて、付加反応を行った。水酸化カリウム溶液の中和滴定で、反応性生物の酸価の消失を確認し、反応を終了させた。
得られた反応生成物(プレポリマー)の重量平均分子量は25000であり、二重結合当量は250g/mol(計算値)であり、固形分は30%であった。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値であり、標準サンプルにポリスチレンを用いた条件で測定された値である。
【0059】
【表1】

*,表中の配合組成欄の数値は、いずれもグラムである。
【0060】
実施例1
(1)加飾シートの製造
基材フィルム(「F99(品番)」,厚さ:50μm,東レ株式会社製)上に、メラミン系樹脂を主成分とする塗工液(「メラン265」(品番),日立化成工業株式会社製,イソブチルアルコール変性メラミン樹脂)を塗工量2g/m2でグラビア印刷して離型層を形成し、下記に示されるインキ組成物を塗工量6g/m2でグラビア印刷してハードコート層形成層を形成した。次いで、アクリル系樹脂を主成分とする塗料を塗工量4g/m2でグラビア印刷してアンカー層を形成し、次いでアクリル系印刷インキを塗工量8g/m2で、木目模様をグラビア印刷して絵柄層を形成し、アクリル系塗工液を厚さ4μmで塗布して接着層を形成した。さらに、基材フィルムの離型層を設けた面とは反対側の面に、カチオン系界面活性剤を主成分とする塗工液(カチオン系界面活性剤:第4級アンモニウム塩)を塗工量1g/m2でグラビア印刷し、帯電防止層を形成し、実施例1の加飾シートを得た。また、実施例1で用いたインキ組成物を用いて、上記1.試験サンプルの作製に基づいて試験サンプルを作製し、耐ブロッキング性(シート巻取り適性)の評価、高硬度性の評価を行った。これらの評価を第2表に示す。
(インキ組成物)
プレポリマー:20.0質量部(固形分6質量部),アクリルアクリレート系プレポリマー(上記合成例で合成したプレポリマーである)
反応性異形シリカ粒子:10質量部(固形分4質量部),(「ELCOM V−8803(品番)」,日揮触媒化成株式会社製,反応性異形シリカ粒子,平均連結数:規則的に2〜10個,異形無機粒子の平均粒子径;25nm)
反応性多官能イソシアネート:1質量部(固形分1質量部),(「Laromer LR9000(品番)」,BASF社製)
光重合開始剤:0.4質量部(「IRGACURE 184(品番)」,チバ・ジャパン株式会社製,1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)
溶媒:6.7質量部,メチルエチルケトンとメチルイソブチルケトンの混合溶剤(配合比70:30)
【0061】
(2)加飾成形品の製造
上記(1)で得られた加飾シートを、70℃に加熱した金型に吸引し、金型内面に密着させた。金型は、80mm角の大きさで、立ち上がり5mm、コーナー部が12Rのトレー状である深絞り度の高い形状のものを用いた。
一方、射出樹脂としてABS樹脂(「クラスチックMTH−2(品番)」,日本エイアンドエル株式会社製)を用いて、これを230℃にて溶融状態にしてから、キャビティ内に射出した。冷却して金型から取り出した後、基材フィルムを剥離して、樹脂成形品の表面に接着層、印刷層、アンカー層及びハードコート層形成層を順に有する成形品を得た。さらに、大気雰囲気下において、出力可変型UVランプシステム(「DRS−10/12QN(型番)」,フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社製)を用い、照射線量:1000mJで、該成形品に紫外線を照射して、ハードコート層形成層を硬化させて、ハードコート層とした実施例1の樹脂成形品を得た。
【0062】
4.外観(耐熱性)の評価
また、得られた樹脂成形品について、ゲート部(樹脂射出部)周囲の外観(耐熱性)を下記の基準で評価した。当該評価を第2表に示す。
◎ :ハードコート層(及びその形成層)に流動による変形や白化が全く確認できず、良好に金型の形状に追従した
○ :ハードコート層(及びその形成層)に僅かな流動による変形や軽微な白化が確認された
△ :ハードコート層(及びその形成層)に若干の流動による変形や軽微な白化が確認されたが、実用上問題ない
× :ハードコート層(及びその形成層)に著しい流動による変形や白化が確認された
【0063】
実施例2、3及び比較例1〜3
実施例1において、インキ組成物を第2表に示される以外は実施例1と同様にして、実施例2、3及び比較例1〜3の加飾シート及び加飾成形品を得た。使用したインキ組成物について、上記の耐ブロッキング性(シート巻取り適性)の評価、高硬度性の評価を行い、得られた加飾成形品について、上記の外観評価を行った。その結果を第2表に示す。
【0064】
【表2】

*1,非反応性コロイダルシリカ粒子(「MEK−ST−L(品番)」,日産化学工業株式会社製,平均粒子径d50:40nm)
*2,多官能イソシアネート:「コロネートHX(品番)」,日本ポリウレタン工業株式会社製
*3,溶媒の量は、溶媒を加えた量と、ポリマー1と反応性無機粒子として使用した「ELCOM V−8803(品番)」に含まれる溶媒との合計量である。
*4,プレポリマー固形分と反応性無機粒子との合計に対するプレポリマー固形分の含有量(質量%)である。
*5,プレポリマー、反応性無機粒子、(反応性)多官能イソシアネート、光重合開始剤及び溶剤の合計に対するプレポリマー固形分、反応性無機粒子、(反応性)多官能イソシアネート及び光重合開始剤の合計の含有量(質量%)である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、加飾成形品に優れた高硬度性を付与すると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性を付与し、またハードコート層形成層を必要に応じて熱乾燥のみでタックフリーとすることができるという優れた製造効率を加飾シートに付与するインキ組成物、該インキ組成物を用いた加飾シート及び該加飾シートを用いた加飾成形品を提供することができる。よって、本発明に係るインキ組成物、該インキ組成物を用いた加飾シート及び該加飾シートを用いた加飾成形品は、家庭用電化製品、自動車内装品、自動車外装、携帯電話分野などの分野や、パソコンの分野、とりわけパソコンの筐体などの、幅広い分野において有効である。
【符号の説明】
【0066】
10 加飾シート
11 基材フィルム
12 離型層
13 ハードコート層形成層
14 アンカー層
15 絵柄層
16 接着層
17 転写層
18 剥離層
19 帯電防止層
20 加飾成形体
21 樹脂成形体
22 ハードコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線硬化性官能基Aとしてビニル基、(メタ)アクリロイル基及びアリル基から選ばれる少なくとも一種を有する、重量平均分子量が50000未満である多官能性ラジカル重合型プレポリマー、表面に電離放射線硬化性官能基Bを有する反応性無機粒子、及び多官能イソシアネート化合物を含み、該プレポリマーの固形分と該反応性無機粒子との合計に対する該プレポリマーの固形分の含有量が15〜75質量%であるインキ組成物。
【請求項2】
反応性無機粒子が、反応性シリカ粒子及び/又は反応性異形シリカ粒子である請求項1に記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記多官能性ラジカル重合型プレポリマーが、アクリル(メタ)アクリレート系プレポリマーである請求項1又は2に記載のインキ組成物。
【請求項4】
多官能イソシアネート化合物が、電離放射線硬化性官能基Cとしてビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基及びエポキシ基から選ばれる少なくとも一種を有するものである請求項1〜3のいずれかに記載のインキ組成物。
【請求項5】
基材フィルムの片面に少なくとも離型層とハードコート層形成層とを順に有する加飾シートであって、該ハードコート層形成層が請求項1〜4のいずれかに記載のインキ組成物を用いて形成されるものである加飾シート。
【請求項6】
基材フィルムの離型層を設ける面とは反対側の面に、帯電防止層を有する請求項5に記載の加飾シート。
【請求項7】
下記の工程(1)〜工程(5)を有する加飾成形品の製造方法。
工程(1)射出成型金型内に請求項5又は6に記載の加飾シートを配する工程
工程(2)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形体と加飾シートとを積層一体化させる射出工程
工程(3)樹脂成形体と加飾シートとが一体化した成形体を金型から取り出す工程
工程(4)成形体から加飾シートの基材フィルムを剥離する工程
工程(5)前記成形体上に設けられたハードコート層形成層を電離放射線を用いて硬化させるハードコート層形成工程
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られる加飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−41480(P2012−41480A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185498(P2010−185498)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】