説明

インク、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法

【課題】 インクの吐出安定性に優れ、かつ、高い光沢性を有する画像を記録できるインク、該インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】 C.I.ピグメントレッド254、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂、及び、界面活性剤を含有するインクジェット用のインクであって、前記界面活性剤が、下記一般式(1)で表される界面活性剤、及び、下記一般式(2)で表される界面活性剤を含むことを特徴とするインク。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を含有するインクジェット用のインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法によって得られる画像の耐光性、耐ガス性、さらには耐水性などの堅牢性を優れたものとするために、色材として顔料を含有する顔料インクが用いられるようになってきている。しかし、顔料と同様に色材として用いられる染料を含有する染料インクと比較して、顔料インクを用いた場合には、得られる画像の発色性が劣る場合があることや、光沢を有する記録媒体などに記録した場合、画像の光沢性が十分に得られないという課題がある。
【0003】
発色性に関しては、シアン、マゼンタ、及びイエローの基本3原色のインクに加えて、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレットなど、基本3原色以外のいわゆる特色インクを追加し、色再現領域の拡大を図ることが行われている。特色インクのなかでも、レッドインクにより記録される色再現領域の彩度を高めるために、C.I.ピグメントレッド254を含有するインクの提案がある。(特許文献1参照)。
【0004】
また、光沢性に関しては、顔料は粒子の形状を有するため、顔料インクを用いて光沢を有する記録媒体などに記録した場合に得られる画像の光沢性は未だに十分なレベルとは言えない。これは、以下のような理由によるものである。インクジェット記録方法に使用する顔料インクには、通常、インク中において分散している状態での平均粒子径が100nm程度である顔料を含有させる。光沢を有する記録媒体にこのようなインクを付与すると、粒子径を有さないため記録媒体に浸透する染料とは異なり、顔料は記録媒体のインク受容層の細孔に浸透しづらいため、記録媒体の表面やその近傍に定着する。このため、光沢を有する記録媒体において、インクが付与された領域では、インクが付与されていない領域と比較して平滑性が相対的に低下し、光沢性が低下するのである。このため、記録媒体の表面に形成されるインクのドットの平滑性を高めることで画像の光沢性を向上させることを目的として、インクに特定の水溶性有機溶剤を含有させることに関する提案がある(特許文献2参照)。
【0005】
一方、顔料インクは染料インクと比較して、インクの長期保存安定性を維持するのが難しいことが知られている。かかる課題に対して、顔料の分散剤として使用する樹脂の構造及び酸価を特定し、さらに、プロピレンオキサイド基及びエチレンオキサイド基を共に有する界面活性剤を含有するインクに関する提案がある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−155830号公報
【特許文献2】特開2005−194500号公報
【特許文献3】特開2008−150407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、赤色領域の高い彩度と優れた光沢性を有する画像を記録できる、インクジェット用のレッドインクを得るために、C.I.ピグメントレッド254(顔料)を含有するインクを調製し、様々な検討を行った。その結果、前記顔料を含有するインクは、吐出の際に記録ヘッドのインク流路や吐出口の近傍に該顔料が付着し、吐出のヨレが発生するという、他の顔料にはない課題が生じることがわかった。
【0008】
このような現象に対して、本発明者らは、従来、分散剤として使用されてきたような樹脂を用いて顔料の粒子を被覆することについての検討を行った。そして、樹脂の構造や酸価を適切に決定し、顔料の粒子を強固に樹脂により被覆することで、C.I.ピグメントレッド254を用いた場合にも、吐出のヨレをある程度までは抑制できることがわかった。しかし、高周波数でインクを連続して吐出する場合や、高温低湿環境下で記録を行う場合などのような厳しい条件下では、吐出のヨレを抑制することはできなかった。加えて、このような樹脂を含有するインクにおいて吐出のヨレの抑制を図ろうとすると、形成した画像の光沢性が著しく低下することがわかった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、インクの吐出安定性に優れ、かつ、高い光沢性を有する画像を記録できるインク、該インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクは、C.I.ピグメントレッド254、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂、及び、界面活性剤を含有するインクジェット用のインクであって、前記界面活性剤が、下記一般式(1)で表される界面活性剤、及び、下記一般式(2)で表される界面活性剤を含むことを特徴とする。
【0011】
【化1】


(一般式(1)中、C2m+1で表されるアルキル基は直鎖であり、mは12以上18以下、nは9以上50以下を表す。)
【0012】
【化2】


(一般式(2)中、x+yは1.3以上10.0以下を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクの吐出安定性に優れ、かつ、高い光沢性を有する画像を記録できるインク、該インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。先ず、本発明者らは、インクの色材として、発色性に優れるC.I.ピグメントレッド254を用いた場合に、他の顔料では生じない吐出のヨレが生じ、吐出安定性が得られない原因について検討を行い、以下の知見を得た。ここで、C.I.ピグメントレッド254の主たる骨格は、下記式(1)で表されるジケトピロロピロール骨格である。結晶状態では、隣接する複数の分子間において、下記式(1)中のイミノ基による水素結合や芳香環によるπ−π相互作用が生じるため、堅牢性に優れる。
【0015】
【化3】

【0016】
その反面、C.I.ピグメントレッド254は、上記分子構造に起因して顔料粒子が硬い。このため、顔料の合成過程での微粒子化や顔料の分散の際に、顔料粒子が互いに衝突することなどにより顔料粒子が欠け、所望の粒径よりも極端に小さい、いわゆる過分散状態の粒子が生じ、分散状態が不安定になりやすい。また、高周波数でインクを連続して吐出する場合には、記録ヘッドのインク流路や吐出口の近傍でのインクの激しい流動により、顔料粒子同士や、顔料粒子とインク流路壁との衝突が頻繁に起こり、さらに顔料の分散状態が不安定となる。インクジェット方式では熱や力学的なエネルギーによりインクを吐出するが、この問題は、どのような吐出方式であっても生じ得る。さらに、このようにして生じた分散状態が不安定な顔料を構成する一部の分子は、インクを構成する水性媒体に溶解すると考えられる。このようにして生じた、分散状態が不安定な顔料粒子や水性媒体に溶解した顔料分子は、記録ヘッドの吐出口の近傍において生じる、インク中の水分などの蒸発により析出する。分散状態が不安定な顔料粒子や溶解した顔料分子においても上述の水素結合やπ−π相互作用が働くため、このようにして生じた析出物が核となって凝集や結晶成長が起き、記録ヘッドのインク流路や吐出口の近傍に堆積物が付着する。すると、その後に記録ヘッドから吐出されるインクの液滴は、付着した堆積物の影響により、その吐出が正常に行われず、吐出のヨレが生じると考えられる。
【0017】
そこで、本発明者らは、C.I.ピグメントレッド254を含有するインクにおいて発生する吐出のヨレを抑制するためには、堆積物の発生を抑制すればよいと考え、該インクになんらかの化合物を添加することについて検討を行った。その結果、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂、一般式(1)で表される界面活性剤、及び、一般式(2)で表される界面活性剤をさらに添加することで、吐出のヨレを抑制できることがわかった。さらには、かかる構成のインクとすることで、形成した画像の光沢性をも向上することができることもわかった。
【0018】
上記構成により、インクの吐出安定性が得られ、画像の光沢性が向上したメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。以下、C.I.ピグメントレッド254のことを単に顔料と記載することがある。
【0019】
先ず、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂が粒子表面に吸着した顔料は親水性を有するようになるため、堆積物の発生を抑制する効果がある程度は得られる。一方、樹脂の酸価が50mgKOH/g未満であると、該樹脂が顔料に吸着してもその親水性は依然として不十分であり、堆積物の発生を抑制する効果は得られず、吐出のヨレも抑制することができない。また、樹脂の酸価が125mgKOH/gを超えると、樹脂の親水性が高くなり、顔料への吸着力が弱いため、やはり、堆積物の発生を抑制する効果は得られず、吐出のヨレも抑制することができない。
【0020】
しかし、以下のような場合においては、上記範囲の酸価を有する樹脂を用いた場合であっても、顔料が有する親水性がやや弱いため、堆積物の発生を抑制する効果が不十分であり、吐出のヨレを抑制できないことがわかった。このような場合としては、記録ヘッドの吐出口の近傍におけるインク中の水分などの蒸発速度が大きくなる高温低湿環境下や、顔料の分散状態が不安定となりやすい高周波数でインクを連続して吐出するような状況が挙げられる。
【0021】
加えて、上記範囲の酸価を有する樹脂を含有するインクを用いて形成した画像は、光沢性が著しく低いことがわかった。これは、インクジェット用のインクに一般的に使用される樹脂と比べて、樹脂の酸価が比較的低いために生じる問題であると考えられる。インクが記録媒体に付与された後のインクの浸透や乾燥に伴い、樹脂の溶解性は低下するが、この際、低酸価の樹脂は凝集し易く、インクが記録媒体に対して十分に濡れ広がる以前にインク中の固形分が定着する。この結果、インクで形成されるドット(記録部)と非記録部との間や複数のドット間に段差が生じ、平滑にならないため、画像の光沢性が低くなる。
【0022】
そこで、本発明者らがさらに検討を行い、吐出ヨレの抑制と画像の光沢性向上を両立できる構成として見出したのが、上記顔料及び樹脂に加えて、一般式(1)で表される界面活性剤、及び、一般式(2)で表される界面活性剤を併用した本発明のインクである。
【0023】
先ず、本発明者らが考えている、各界面活性剤により堆積物の発生が抑制されるメカニズムについて説明する。一般式(1)で表される界面活性剤のアルキル基は直鎖であり、分子構造が直線状であるため、界面に吸着する際には界面活性剤の分子が密に配列して分子膜を形成する。つまり、一般式(1)で表される界面活性剤は顔料に吸着している樹脂に配向するが、その際には分子が密に配列し、隣接する分子間の疎水基同士、また、親水基同士の分子間力により安定な分子膜が形成される。このため、顔料の凝集が阻害されるようになり、上記範囲の酸価を有する樹脂を含有し、一般式(1)で表される界面活性剤を含有しないインクと比べて、より有効に堆積物の発生を抑制することができると考えられる。
【0024】
また、顔料に吸着した樹脂は、吐出の際にかかるエネルギーによってその一部が脱離し、疎水性である顔料の表面が剥き出しになることで顔料の凝集が始まり、そのために顔料の分散状態が不安定となる場合がある。このような現象は、高周波数でインクを連続して吐出するような状況で、記録ヘッドの吐出口の近傍において特に発生しやすい。ここで、他の構造の界面活性剤と比較して、一般式(2)で表される界面活性剤は形成された界面への配向速度が早く、上述のようにして生じた顔料の疎水部に対して速やかに配向する。このようにして、顔料の凝集が阻害され、堆積物の発生を抑制することができる。
【0025】
上記範囲の酸価を有する樹脂及び2種の界面活性剤のうち1種又は2種のみを含有するインクでは、堆積物の発生をある程度抑制することができるものの、その効果は十分ではない。一方、これらの3種の成分を全て含有するインクによりはじめて、上記で説明したメカニズムが相乗的に発生する。そして、高周波数でインクを連続して吐出する場合や、高温低湿環境下で記録を行う場合などのような厳しい条件下であっても、堆積物の発生が抑制され、吐出のヨレも抑制することができる。
【0026】
次に、本発明者らが考えている、各界面活性剤により画像の光沢性が向上するメカニズムについて説明する。先に述べた通り、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂を含有するインクで形成した画像の光沢性が低くなるのは、該樹脂の凝集に起因して画像が平滑にならないためである。したがって、画像の光沢性を向上するためには、上記樹脂の凝集を抑制すればよいことになる。
【0027】
一般式(1)で表される界面活性剤は、その疎水性部が樹脂に吸着し、安定した分子膜を形成するが、該分子膜の表面には親水性部が位置しているため、樹脂に親水性を付与することになる。これにより、樹脂の凝集速度が緩和され、平滑性の低下を抑制することができる。また、一般式(2)で表される界面活性剤は上述の通り界面に速やかに配向するため、吐出の際にインクの液滴が形成されると、速やかにその界面張力が低下する。このため、インクの液滴が記録媒体に付与されると、その表面においてインクが濡れ広がりやすくなり、その結果、ドットの高さが抑えられ、平滑性を向上させることができる。
【0028】
上記範囲の酸価を有する樹脂を用い、2種の界面活性剤のうちいずれか1種のみを含有するインクでは、上述のメカニズムにより光沢性をある程度は向上することができるものの、その効果は十分ではない。一方、2種の界面活性剤を共に含有するインクにより、上記で説明したメカニズムが相乗的に発生することで、樹脂の凝集を抑制したうえでインクを濡れ広げることができ、画像の光沢性を向上することができる。
【0029】
<インク>
以下、好ましいレッドの色調を有する、本発明のインクを構成する各成分について説明する。
【0030】
(C.I.ピグメントレッド254)
本発明のインクに用いる顔料はC.I.ピグメントレッド254である。C.I.ピグメントレッド254は下記式(2)で表される構造を有し、レッド領域の彩度が高く、堅牢性にも優れる。インク中のC.I.ピグメントレッド254の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.20質量%以上10.0質量%以下、さらには1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0031】
【化4】

【0032】
〔顔料の分散方式〕
インクを構成する水性媒体へのC.I.ピグメントレッド254(顔料)の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いて顔料を分散する樹脂分散顔料や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散型顔料を用いることができる。また、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型の自己分散顔料や、顔料粒子の表面の少なくとも一部を樹脂などにより被覆したマイクロカプセル顔料なども用いることができる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明のインクには、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂を含有させることが必要である。上述の分散方式に上記範囲の酸価を有する樹脂を用いても、又は、顔料の分散には該樹脂を使用せずにインクに添加して用いてもよい。つまり、本発明においては、上記範囲の酸価を有する樹脂がインク中に存在すれば、本発明の効果を損なわない限り、それ以外の樹脂をさらに用いてもよい。
【0034】
上記範囲の酸価を有する樹脂とは異なる樹脂をさらに使用する場合には、インクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。例えば、その重量平均分子量が、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下の樹脂を用いることが好ましい。また、インク中の樹脂の含有量は、インク中における顔料の含有量に対して、質量比率で、0.1倍以上3.0倍以下であること、すなわち、樹脂の含有量/顔料の含有量=0.1以上3.0以下であることが好ましい。なお、この場合の樹脂及び顔料の含有量の値は、インク全質量を基準とした場合における各成分の含有量のことであり、樹脂の含有量とは、上記範囲の酸価の樹脂及びそれとは異なる樹脂の合計の含有量のことである。
【0035】
(酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂)
本発明のインクには、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂を含有させることが必要である。このような樹脂は、C.I.ピグメントレッド254(顔料)を分散するための分散剤として使用してもよいし、又は、顔料の分散には上記樹脂を使用せずにインクに添加して用いてもよい。インク中の上記範囲の酸価を有する樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.2質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。0.2質量%未満であると、吐出のヨレを十分に抑制することができない場合があり、3.0質量%を超えると、画像の光沢性が十分に得られない場合がある。また、顔料の粒子表面への吸着力がより強くなり、堆積物の発生をより効果的に抑制することができるため、酸価が50mgKOH/g以上95mgKOH/g以下である樹脂を用いることがより好ましい。
【0036】
本発明のインクに含有させる、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂は、上記範囲の酸価を有することを満足すればどのようなものを用いてもよい。例えば、酸価を調整するために必要となる酸基含有モノマー、及び、顔料への吸着に必要となる疎水性モノマーを少なくとも用いて得られた共重合体やその塩を使用することができる。具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸などの酸基含有モノマーと、スチレン、アルキル(メタ)アクリレートなどのエステル化合物、ビニルナフタレンなどの疎水性モノマーとに由来するユニットを少なくとも含む共重合体を用いることができる。共重合体はさらに、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマーに由来するユニットなどのその他のユニットを有していてもよい。なお、樹脂の酸価は、酸基含有ユニットが樹脂中に占める割合により調整することができる。また、樹脂の重量平均分子量は、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上10,000以下であることが好ましい。
【0037】
(界面活性剤)
本発明のインクは、下記一般式(1)で表される界面活性剤及び下記一般式(2)で表される界面活性剤を含有することが必要である。なお、本発明のインクには、これらの界面活性剤に加えて、その他の界面活性剤をさらに使用してもよい。インク中の界面活性剤の合計含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.2質量%以上10.0質量%以下、さらには0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0038】
〔一般式(1)で表される界面活性剤〕
本発明のインクには、下記一般式(1)で表される界面活性剤を含有させることが必要である。インク中の一般式(1)で表される界面活性剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.1質量%以上3.0質量%以下、さらには0.3質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。0.10質量%未満、又は、3.0質量%を超えると、吐出のヨレを十分に抑制することができない場合や、画像の光沢性も十分に得られない場合がある。
【0039】
【化5】


(一般式(1)中、C2m+1で表されるアルキル基は直鎖であり、mは12以上18以下、nは9以上50以下を表す。)
【0040】
一般式(1)におけるmは12以上18以下の整数であり、C2m+1で表されるアルキル基としては、ラウリル基(m=12)、ミリスチル基(m=14)、セチル基(m=16)、ステアリル基(m=18)などが挙げられる。mが12未満であると、界面活性剤の疎水性が低く、分散状態が不安定化した顔料への吸着力が弱いため、安定な分子膜が形成されず、顔料の凝集を阻害することもできない。一方、mが18を超えると、インクを構成する水性媒体に対する界面活性剤の溶解性が低くなるため、高温環境下などではインクから界面活性剤が遊離し、その作用が発揮されない。したがって、mが12未満、又は18を超えると、吐出のヨレを抑制することができず、また、画像の光沢性も得られない。
【0041】
また、一般式(1)におけるnはエチレンオキサイド基の数であり、顔料及び樹脂への吸着力、また、親水性を付与する性能を得るために、nは9以上50以下である必要がある。nが9未満、又は50を超えると、吐出のヨレを抑制することができず、また、画像の光沢性も得られない。
【0042】
一般式(1)におけるC2m+1で表されるアルキル基が分岐鎖であると、顔料や樹脂に配向する際に、その3次元的な構造により密に配列することができず、安定な分子膜を形成することができない。このため、吐出のヨレを抑制することができず、また、画像の光沢性も得られない。これと同様の理由により、一般式(1)で表される界面活性剤がその構造中にプロピレンオキサイド基〔−CH−CH(CH)−O−〕を含む場合も、吐出のヨレを抑制することができず、また、画像の光沢性も得られない。
【0043】
本発明においては、一般式(1)で表される界面活性剤のグリフィン法により求められるHLB値が11.9以上であることが好ましい。HLB値が11.9未満であると、記録媒体へのインクの定着を緩和する作用が弱くなり、光沢性を十分に向上することができない場合がある。なお、HLB値の上限は後述する通り20.0であり、本発明のインクに使用することができるポリオキシエチレンアルキルエーテルのHLB値も20.0以下である。ここで、グリフィン法について説明する。グリフィン法によるHLB値は、20×[(界面活性剤の親水性基の式量)/(界面活性剤の分子量)から求められる値である。グリフィン法によるHLB値は界面活性剤の親水性や親油性の程度を示すものであり、0.0から20.0の値を取る。このHLB値が低いほど界面活性剤の親油性すなわち疎水性が高くなり、逆に、HLB値が高いほど界面活性剤の親水性が高くなる。
【0044】
〔一般式(2)で表される界面活性剤〕
本発明のインクには、下記一般式(2)で表される界面活性剤を含有させることが必要である。インク中の一般式(2)で表される界面活性剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。0.05質量%未満であると、吐出のヨレを十分に抑制することができない場合がある。一方、3.0質量%を超えると、堆積物の発生を抑制することはできるが、記録ヘッドの吐出口の近傍において生じる、インク中の水分などの蒸発により界面活性剤の濃度が高まる場合がある。すると、顔料や樹脂の分散状態をかえって不安定化してしまうことがあり、吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0045】
【化6】


(一般式(2)中、x+yは1.3以上10.0以下を表す。)
【0046】
一般式(2)におけるx+yはエチレンオキサイド基の付加モル数の平均値を表し、1.3以上10.0以下であることが必要である。x+yが1.3未満であると、界面活性剤の親水性が低いため、上記で説明したメカニズムを十分に発揮するのに必要な量を溶解させることが難しく、また、x+yが10.0を超えると、界面活性剤の親水性が高いため、界面への配向速度が低くなる。したがって、x+yが1.3未満、又は10.0を超えると、吐出のヨレを抑制することができず、また、画像の光沢性も得られない。界面への配向速度が高く、より効率よく吐出のヨレが抑制され、また、画像の光沢性を特に向上することができるため、x+yが4.0以下であることがより好ましい。
【0047】
(水性媒体)
本発明のインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。
【0048】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0049】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドにより上記で説明した本発明のインクを吐出して、記録媒体に画像を記録する方法である。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0050】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えてなり、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクが収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。又は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の顔料分散体及びインクの調製に関する記載で、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0052】
<顔料分散体の調製>
下記表1に示す使用量の顔料(C.I.ピグメントレッド254)及び樹脂(分散剤、固形分)と、合計100部となるようにイオン交換水を混合し、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散した。前記樹脂としては、下記表1に示す酸価を有するスチレン−アクリル酸共重合体を、10.0%水酸化ナトリウム水溶液で中和することにより得られたものを用いた。その後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去し、さらに、ポアサイズが3.0μmであるセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過し、各顔料分散体を得た。
【0053】
【表1】

【0054】
<界面活性剤の準備>
インクの調製には、下記表2及び表3に示す各界面活性剤を準備して用いた。界面活性剤A〜Mは常法により合成したもの、また、界面活性剤a〜eはそれぞれ川研ファインケミカル製のものである。なお、界面活性剤J〜M及び界面活性剤fはそれぞれ一般式(1)及び一般式(2)には該当せず、比較例のインクに使用したものである。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
<インクの調製>
下記表4〜6に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが3.0μmであるミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。なお、実施例15のインクに使用した樹脂水溶液とは、酸価95mgKOH/gのスチレン−アクリル酸共重合体の固形分10.0%水溶液である。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
<評価>
(吐出安定性)
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS990i(キヤノン製)のレッドインクのポジションに装着した。そして、温度30℃、相対湿度10%の高温低湿の環境下で、記録媒体(キヤノン写真用紙・光沢ゴールド;キヤノン製)に、記録デューティを150%としたA4サイズのベタ画像を100枚分連続して記録した。その後、PIXUS990iのノズルチェックパターンを記録し、得られたパターンにおける画像の乱れの状態を目視で確認して、吐出のヨレが生じていないかを調べた。また、上記の記録後に、記録ヘッドを観察し、堆積物が付着していないかを確認した。そして、吐出のヨレ、記録ヘッドへの堆積物の付着の状態から、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は下記の通りである。結果を表7に示す。本発明においては、下記の評価基準でAAを優れているレベル、Aが許容できるレベル、B及びCが許容できないレベルとした。
AA:吐出のヨレがなく、堆積物もなかった
A:吐出のヨレはなかったが、堆積物がわずかに生じていた
B:吐出のヨレが生じ、堆積物がわずかに生じていた
C:吐出のヨレが生じ、堆積物もかなり多く生じていた。
【0062】
(光沢性)
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS990i(キヤノン製)のレッドインクのポジションに装着した。そして、記録媒体(キヤノン写真用紙・光沢ゴールド;キヤノン製)に、記録デューティを150%としたベタ画像を記録した。得られた画像について、マイクロヘイズメータープラス(BYKガートナー製)を用いて、その20°光沢度を測定し、光沢性の評価を行った。光沢性の評価基準は下記の通りである。結果を表7に示す。本発明においては、下記の評価基準でAが優れているレベル、Bが許容できるレベル、Cが許容できないレベルとした。
A:20°光沢度が60以上であった
B:20°光沢度が40以上60未満であった
C:20°光沢度が40未満であった。
【0063】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.ピグメントレッド254、酸価が50mgKOH/g以上125mgKOH/g以下である樹脂、及び、界面活性剤を含有するインクジェット用のインクであって、
前記界面活性剤が、下記一般式(1)で表される界面活性剤、及び、下記一般式(2)で表される界面活性剤を含むことを特徴とするインク。
【化1】


(一般式(1)中、C2m+1で表されるアルキル基は直鎖であり、mは12以上18以下、nは9以上50以下を表す。)
【化2】


(一般式(2)中、x+yは1.3以上10.0以下を表す。)
【請求項2】
インク中の前記樹脂の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.2質量%以上3.0質量%以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
インク中の前記一般式(1)で表される界面活性剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.1質量%以上3.0質量%以下である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
インク中の前記一般式(2)で表される界面活性剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上3.0質量%以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
前記樹脂の酸価が、95mgKOH/g以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
一般式(2)中のx+yが、4.0以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
インクを収容するインク収容部を有するインクカートリッジであって、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項8】
インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2011−241235(P2011−241235A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111542(P2010−111542)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】