説明

インクカートリッジおよびインクジェットプリンタ

【課題】インク消費に伴って可動蓋が下降する複数のインク室に各色のインクが充填されているインクカートリッジのインクの混色、インク内への異物混入を防止すること。
【解決手段】インクカートリッジ10の各インク室13(1)〜13(4)は、昇降可能な可動蓋33とインク室内周側面31aの隙間37に形成されたインクメニスカスによって密閉状態のインク貯留部35が形成され、インク貯留部35からインク取り出し部15を介してインクが外部に供給される。衝撃などが加わって隙間37から可動蓋33の背面側にインクが流出しても、背面側の部分は仕切り板20によってインク室毎に独立した空間38に仕切られているので、インクの混色が発生しない。流出したインクが廃インク室14のインク吸収体17に接触していないので、異物の混入も起きないので、再び隙間37を介してインク貯留部35に戻ったインクを用いても問題がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの消費に伴って可動部材が下降する構成の複数のインク室を備えたインクカートリッジに関し、さらに詳しくは、落下等により衝撃が加わった場合に、各インク室の可動部材の背面側に流出したインクの混色や、当該インクが外部に漏れ出ることを防止可能なインクカートリッジに関するものである。また、本発明は、かかるインクカートリッジをインク供給源とするインクジェットプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタのインクカートリッジとしては、インクが充填された可撓性のインク袋を剛性のプラスチックケースに収納した構成の袋式インクタンクや、インクを吸収保持したフォームやフェルトを剛性のプラスチックケースに収納した構成のフォーム式インクタンクが知られている。しかしながら、袋式インクタンクやフォーム式インクタンクは充填されているインクの取り出し効率が悪いという問題点がある。また全容量に対するインクの充填効率が低いので、インクタンクの小型化が困難であるとう問題点がある。さらに、袋式インクタンクでは、インク袋のインクシール不良によるインク漏れ、輸送時におけるインク袋とこれが収納されているプラスチックケースとの擦れに起因するインク袋の破れによるインク漏れなどの危険性がある。擦れや破れを防止するためにはインク袋を構成している可撓性材料の剛性、強度を高くすればよいが、このようにすると、インク供給用の負圧が増加してしまい、また、インク残量が増加する、インク残量のばらつきが増加するなどの弊害が発生してしまう。さらには、フォーム式インクタンクの場合には、フォームにインクを吸収保持させているので、ここから供給されるインク中に異物が混入する危険性が高く、異物がインクジェットヘッドの側に侵入してヘッド詰まりなどの弊害を引き起こす危険性が高い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願出願人は、このような問題点に鑑みて、構造が簡単でコンパクトに構成でき、しかも、インク取り出し効率およびインク充填効率の高いインクカートリッジを提案している。例えば、下記の特許文献においてかかるインクカートリッジを提案している。
特願2002−238491号(特開2004−74599号公報)
【0004】
図7にはこの特許文献に記載された形式のインクカートリッジを示してある。この図に示すように、インクカートリッジ100は、カートリッジケース101の内部に、上端が開口した4つのインク室102(1)〜102(4)が並列配置され、これらの上側部分から側方部分に掛けてL状に廃インク室110が形成されている。
【0005】
各インク室102(1)〜102(4)は、それらの内周側面102aに沿って上下に移動可能な可動蓋103(1)〜103(4)と、各インク室102(1)〜102(4)の底面に形成したインク取り出し部104(1)〜104(4)とを備えている。また、インク室底面102bとインク室内周側面102aと各可動蓋103(1)〜103(4)によりインク貯留部105が区画形成されており、ばね部材106によって可動蓋103(1)〜103(4)が常に上方に付勢され、これにより、インク貯留部105が負圧状態に保持されている。
【0006】
インク室内周側面102aと各可動蓋103(1)〜103(4)の隙間に形成されているインクメニスカスの強度は、インク取り出し部104(1)〜104(4)に作用するインクジェットヘッド側のインク吸引力によって破壊することの無い強度に設定されている。
【0007】
この構成のインクカートリッジ100は、独立した各インク室102(1)〜102(4)に異なる色のインクを貯留した多色用のインクカートリッジとして用いることができる。
【0008】
しかしながら、この構成のインクカートリッジ100では、各インク室102(1)〜102(4)のインク貯留部105は可動蓋103(1)〜103(4)とインク室内周側面102aの隙間に形成されたインクメニスカスにより当該インク貯留部105に保持されている。従って、インクカートリッジ100を誤って落下させた場合や、インクカートリッジ100に衝撃力が加わった場合には、インクメニスカスが壊れて、可動蓋103(1)〜103(4)の背面側、すなわち、廃インク室110の側にインクが流出する惧れがある。
【0009】
廃インク室110の側にインクが流出すると、各インク室102(1)〜102(4)から流出したインクが相互に混じり合う可能性がある。可動蓋103(1)〜103(4)の背面側に流出したインクは、再びインク貯留部105の側に戻るので、混色状態のインクが各インク貯留部105に戻る危険性がある。また、廃インク室110にはフォームやフェルト製のインク吸収材が充填されているので、インク吸収材に含まれている細かな異物が流出したインクに混入して、インク貯留部105の側に侵入する危険性もある。
【0010】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、廃インク室からの異物侵入を防止可能なインクカートリッジを提案することにある。
【0011】
また、本発明の課題は、廃インク室からの異物混入および流出したインクの混色を防止可能なインクカートリッジを提案することにある。
【0012】
さらに、本発明の課題は、かかる新しいインクカートリッジをインク供給源とするインクジェットプリンタを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明のインクカートリッジは、
内部を大気に開放する為の大気開放孔を備えたカートリッジケースと、
このカートリッジケースの内部において、上端が開口した状態に形成された複数のインク室と、
各インク室の上端開口部を封鎖した状態に配置され、前記カートリッジケースの内部を、各インク室と、各インク室から溢れたインクを収容するための共通のインクトラップとに仕切っている仕切り部材と、
前記インクトラップ内に充填したインクを吸収保持可能なインク吸収体とを有し、
各インク室は、当該インク室の底面に形成されているインク取り出し部と、当該インク室の内周側面との隙間にインクメニスカスを形成しインク収容量の変化に伴い当該インク室の前記内周側面に沿って移動可能な可動部材と、前記底面、前記内周側面および前記可動部材によって区画形成されているインク貯留部と、このインク貯留部を負圧状態に保持するために、前記可動部材を付勢している付勢部材とを備えており、
前記インクトラップは前記大気開放孔を介して大気に開放されており、
前記仕切り部材は、各インク室の前記上端開口部を封鎖している部位における前記内周側面から離れた位置に形成された複数の大気連通孔を備え、
各インク室の前記可動部材と、当該インク室の前記上端開口部を封鎖している前記仕切り部材の部位との間の空間が、各大気連通孔を介して前記インクトラップに連通していることを特徴としている。
【0014】
本発明のインクカートリッジでは、インク室の上端開口部がインク室内周側面から離れ且つ上端開口部に対応した部位に形成され、前記インク室を前記大気開放孔を介して大気開放するための大気連通孔を備えた仕切り部材によって封鎖されている。すなわち、インク室はインクトラップから仕切られている。従って、可動部材の外周から背面側に流出したインクは大気連通孔からインクトラップ側に流出しにくい。たとえ、流出したとしても、インクトラップによりトラップされるためインクカートリッジの大気開放孔からのインク流出を防止できる。
【0015】
また、各インク室の上端開口部が仕切り部材によって封鎖されている。従って、各インク室において可動部材の背面側に流出したインクが、相互に混ざり合ってしまうことを防止できる。よって、流出したインクが再びインク貯留部に戻った場合においても混色による弊害が発生しない。また、可動部材の背面側に流出したインクに異物が混入し、インク貯留部に異物が侵入してしまうこともない。
【0016】
ここで、本発明では、前記インク吸収体は、各大気連通孔から離れた位置において各大気連通孔を取り囲む状態に充填されていることを特徴としている。
【0017】
大気連通孔にインク吸収体が接している場合には、可動部材の背面側に流出したインクが大気連通孔からインク吸収体の側に吸い上げられてしまい、インクの無駄が発生する。しかし、本発明では、大気連通孔からインクトラップの側に漏れ出たインクのみがインク吸収体に吸収されるので、インクの無駄を最小限に食い止めることができる。また、大気連通孔の周囲がインク吸収体によって包囲されているので、インク室からインクトラップの側に流出したインクがインク吸収体に吸収され、インク室に戻ってしまうことがない。
【0018】
また、本発明では、前記インクトラップの側の各大気連通孔は、前記仕切り部材の上面より突出している上端突出部に形成されていることを特徴としている。このようにすれば、インク室から大気連通孔を介して仕切り部材の上面に溢れ出たインクはインク室に戻ることが阻止されるので、インクと共に異物が混入し、インク貯留部に異物が侵入するという弊害を防止できる。
【0019】
本発明において、前記カートリッジケースの底板部分により前記インク室底面が規定される場合には、当該底板部分に、前記インク取り出し部と、前記インクトラップに廃インクを回収するための廃インク回収部を形成し、前記カートリッジケースの天板部分に前記大気開放孔を形成すればよい。
【0020】
一方、本発明はインクジェットプリンタに関するものであり、上記構成のインクカートリッジをインク供給源とすることを特徴としている。本発明によれば、インクカートリッジにおいてインクの混色、インクへの異物混入、インク貯留部への気泡の侵入を防止できるので、インクジェットヘッドの目詰まりなどの危険性がなく、常に高印字品位の印刷を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のインクカートリッジにおいては、インク室の上端開口部がインク室内周側面から離れ且つ上端開口部に対応した部位に形成され、前記インク室を前記大気開放孔を介して大気開放するための大気連通孔を備えた仕切り部材によって封鎖されている。インクカートリッジを落下させた場合、衝撃力が作用した場合などにおいて、インク貯留部から可動部材の背面側にインクが流出しても、仕切り部材の上側の大気連通孔は、インク室の内周側面から離れ部位に形成されているので、可動蓋の周囲から流出したインクが大気連通孔からインクトラップの側に直接に漏れ出てしまうことがない。流出したインクは仕切り部材によって仕切られたインク室の可動部材の背面側の空間に一旦溜まるが、再び各インク室のインク貯留部に戻り、所定のインク取り出し量を保つことができる。
【0022】
多色用のインクカートリッジの場合も同様に各インク室から流出したインクが、それぞれ各インク室の背面側の空間に溜まるので、各色のインクの混色を防止できる。よって、流出したインクが再び各インク室のインク貯留部に戻っても問題が発生しない。インクが流出したとしても、インクトラップによりトラップされるためインクカートリッジの大気開放孔からのインク流出を防止できる。
【0023】
また、インクトラップ側において、大気連通孔の周囲がインクを吸収するインク吸収体によって包囲されている場合には、インク室から流出したインクがインク吸収体に吸収されてインク室に戻れないので効果的である。大気連通孔からインク吸収体を離してある場合には、可動部材の背面側に流出したインクが大気連通孔からインク吸収体に吸い上げられてしまうことがなく、大気連通孔からインクトラップに漏れ出たインクのみがインク吸収体に吸収される。よって、インクの無駄を極力防止できる。
【0024】
さらに、仕切り部材の大気連通孔が、仕切り部材の上面より突出している上端突出部に形成した場合には、インク室のインクが大気連通孔から仕切り部材の上面に溢れ出た場合に、当該インクが再びインク室に戻ることが阻止されるので、インクに混入した異物がインク貯留部に侵入するという弊害を防止できる。
【0025】
一方、本発明のインクカートリッジをインク供給源とするインクジェットプリンタでは、衝撃が加わった場合でも、インクカートリッジのインク室においては、インク室内への異物混入、気泡混入が発生せず、また、多色印字用のインクカートリッジの場合にはインクの混色も発生しない。よって、インクノズルの目詰まりの発生が起きず、印字品位に優れた印字を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したインクカートリッジを備えたインクジェットプリンタの実施の形態を説明する。
【0027】
(インクジェットプリンタ)
図1は本実施の形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。インクジェットプリンタ1は、記録用紙2を紙送り方向Yに向けて搬送するプラテン3と、このプラテン3にノズル面が対峙しているインクジェットヘッド4と、このインクジェットヘッド4を印刷方向Xに向けて往復移動させるためのキャリッジ5と、インクジェットヘッド4の各インクノズルに各色のインクを供給する多色印字用のインクカートリッジ10を装着可能なインクカートリッジ装着部7と、各部分の駆動を制御する駆動制御装置8とを有している。
【0028】
インクカートリッジ10には、後述のように、例えば、ブラックインク、シアンインク、イエローインク、マゼンタインクがそれぞれ貯留されている独立した4つのインク室と廃インクを回収する1つの廃インク室とが備わっている。インクカートリッジ装着部7には、各インク室からインクを取り出すためのインク供給針7(1)〜7(4)と、廃インクを排出するためのインク回収針7(5)とが備わっている。このインクカートリッジ装着部7にインクカートリッジ10を装着すると、インクカートリッジ10からインクジェットヘッド4へ、各色のインクを供給するインク供給経路が形成される。
【0029】
また、インクジェットプリンタ1は、プラテン3から印刷方向Xに外れた位置に、ノズルキャップ9を備えている。このノズルキャップ9はインクポンプ6を介してインク回収針7(5)に繋がっている。従って、インクカートリッジ10をインクカートリッジ装着部7に装着すると、ノズルキャップ9からインク回収針7(5)を経てインクカートリッジ10内の廃インク室に到る廃インク回収経路が形成される。インクジェットヘッド4のノズル面4aにノズルキャップ9を被せた状態でインクポンプ6を駆動すると、ヘッド側から廃インクを廃インク室に回収できる。
【0030】
(インクカートリッジ)
図2(a)〜(d)はインクカートリッジ10を示す平面図、正面図、左側側面図および右側側面図であり、図3はその斜視図であり、図4はその分解斜視図である。また、図5(a)および(b)は図2のA−Aで切断した部分を示す断面図および拡大部分断面図である。
【0031】
まず、これらの図を参照して、インクカートリッジ10の全体構成を説明する。インクカートリッジ10は、横に長い扁平な矩形筒状のカートリッジケース12と、この内部を仕切ることにより形成されている4個のインク室13(1)〜13(4)および1個の廃インク室14とを備えている。カートリッジケース12は、ケース本体12aと、このケース本体12aの上端開口を封鎖しているケース蓋板(カートリッジケースの天板部分)12bから構成されており、ケース蓋板12bは薄板状で、裏面はほぼ平坦面となっている。ケース本体12aの底板部分21には、各インク室13(1)〜13(4)からインクを取り出すためのインク取り出し部15(1)〜15(4)と、廃インクを廃インク室14に回収するための廃インク回収部16が形成されている。
【0032】
次に、インクカートリッジ10の各部分を詳細に説明する。カートリッジケース12のケース本体12aは、インク取り出し部15(1)〜15(4)および廃インク回収部16が形成されている底板部分21と、この底板部分21の長辺側の縁から直角に起立している一対の側板部分22、23と、底板部分21の短辺側の縁から垂直に起立している一対の端板部分24、25から構成されている。本実施の形態では、端板部分25は円弧形状をしており、前後の側板部分22、23に滑らかに連続している。
【0033】
カートリッジケース12のケース本体12aの内部には、一対の側板部分22、23の間に掛け渡した状態に形成した4ヶ所の仕切り板部分26、27、28、29によって、上端が開口している4個の円形断面のインク室13(1)〜13(4)が形成されている。各インク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aは一枚のプラスチック製などの素材からなる仕切り部材である仕切り板20によって封鎖されている。
【0034】
ここで、図6(a)、(b)はそれぞれ、仕切り板20を上面側および裏面側から見た場合の斜視図である。これらの図に示すように、仕切り板20の裏面には、各インク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aの円環状縁端面13b(図4参照)に対応した4つの円環状突起20aが形成されている。円環状縁端面13bに対して当該突起20aを熱融着することにより、当該円環状端面13bに仕切り板20が接合されている。
【0035】
仕切り板20における各円環状突起20aの中心には、当該仕切り板20を厚さ方向に貫通している大気連通孔20bが形成されている。各大気連通孔20bの裏面側の外周縁部分には垂直に突出させた円筒状突起20cが形成されている。各大気連通孔20bの仕切り板上面側の開口端は、仕切り板上面20eよりも突出している上端突出部20dの中央部に位置している。
【0036】
再び、図2〜図5を参照して説明すると、仕切り板20とケース蓋板12bの間には、横方向に延びる細長い空間のインクトラップが形成されている。また、端板部分24と仕切り板部分26の間には廃インク用の空間部が形成されている。本実施の形態では、インクトラップと廃インク室とは連通して略L状の空間を成しているので、これらを廃インク室14と呼ぶものとする。
【0037】
廃インク室14にはフォーム、フェルトなどのインク吸収体17が充填されている。ケース蓋板12bにおけるインク室13(1)よりも横方の部位には大気開放孔12dが形成され、廃インク室14はこの大気開放孔12dを介して大気開放されている。ここで、廃インク室14において、仕切り板20の各大気連通孔20bが位置している部分にはインク吸収体17が存在しない円形断面の空所14aがそれぞれ形成されている。これにより、大気連通孔20bは当該空所14aによってインク吸収体17から隔てられている。
【0038】
次に、インク室13(1)〜13(4)の構造を説明する。これらのインク室13(1)〜13(4)には、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクがそれぞれ充填されている。これらのインク室13(1)〜13(4)の構造は同一であるので、インク室13(2)の構造を以下に説明し、それ以外のインク室13(1)、13(3)、13(4)の説明に当たっては対応する部分には同一符号を付して説明するものとする。
【0039】
インク室13(2)は、底板部分21と、一対の側板部分22、23と、一対の仕切り板部分27、28とによって構成されている円筒状容器部分31を備えている。この円筒状容器部分31の上端開口部、すなわちインク室13(2)の上端開口部13aは、上記のように仕切り板20によって封鎖されている。円筒状容器部分31の内部には、仕切り板20を熱融着するのに先立って上端開口部13aからコイルばね34および可動蓋(可動部材)33が挿入されている。可動蓋33は、コイルばね34(付勢部材)によって上方に付勢されている。円筒状容器部分31の底面中心部分にはインク取り出し部15(2)が形成されている。
【0040】
円筒状容器部分31の底面31bと、その内周側面31aと、可動蓋33によって、インクが貯留されているインク貯留部35が区画形成されている。可動蓋33の上側空間38は、仕切り板20に形成されている大気連通孔20bを介して、大気開放されている廃インク室14に連通している。
【0041】
可動蓋33は、円筒状容器部分31の内周側面31aに沿って上下に往復移動可能であり、円盤状の蓋本体部分33aと、この外周縁から下方に延びている一定長さの筒状胴部33bとを備えている。筒状胴部33bを所定の長さとすることにより、可動蓋33のがたつきや筒状胴部33bの内周側面に対するかじりなどを伴うことなく、円滑に可動蓋33を移動させることができる。インク貯留部35にインクを充填すると、可動蓋33と円筒状容器部分31の内周側面31aとの隙間37にインクが進入してインクメニスカスを形成する。この隙間37を適切な寸法に設定することにより、インク取り出し部15(2)に作用するインク吸引力よりも当該隙間37に形成されるインクメニスカスの強度を大きくして、インク吸引時においてもインクメニスカスが壊れることの無い様にすることができる。
【0042】
例えば、可動蓋33の筒状胴部33bの外径寸法が円筒状容器部分31の内周側面31aの内径寸法よりも約0.1mm小さくなるように形成されている。この場合、可動蓋33が円筒状容器部分31に同心状態に挿入されると、これらの間には幅0.05mmの隙間37が円環状に形成されることになる。また、筒状胴部33bの内周側面に対するかじりがないように長さを8mmに設定している。
【0043】
また、コイルばね34による可動蓋33の押し上げ力によって、インク貯留部35は常に所定の負圧状態に保持されているので、インク取り出し部15(2)にインク吸引力が作用しない状態においても、インク貯留部35からインク取り出し部15(2)を介してインクが外部に漏洩することがない。
【0044】
さらに、コイルばね34による可動蓋33の押し上げ力はインクメニスカスの強度およびインク取り出し孔15bに作用するインク吸引力よりも小さくなるように設定されているので、コイルばね34の押し上げ力でインクメニスカスを壊して気泡がインク貯留部35に進入することなく、インク取り出し部15(2)からインクが吸引されると、インク吸引量に応じて可動蓋33がインク取り出し部15(2)の側に移動することになる。例えば、コイルばねの押し上げ力は隙間37のメニスカス強度から5gf〜15gfに設定されている。
【0045】
ここで、上記のように、各インク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aの中心部分に対応する仕切り板20の裏面部分には下方に僅かに突出した円筒状突起20cがそれぞれ形成されている(図6(b)参照)。可動蓋33の上面中央部分は平坦な面とされているので、可動蓋33が上昇すると、円形突起20cに実質的に線接触状態で当接して、当該可動蓋33がそれ以上上昇することはない。
【0046】
また、図5(b)に示すように、各インク室13(1)〜13(4)におけるインク貯留部35の内周側面31aにおける底面31bの近傍部分は、下方に向かうに連れて内径寸法が漸減しているテーパ状内周側面部分31dとされている。また、このテーパ状内周側面部分31dの下端31eの内径寸法は可動蓋33の外径寸法と同一とされ、これよりも下側部分は円弧状の湾曲内周面部分31fとされ、この湾曲内周面部分31fの下端が底面31bに滑らかに連続している。従って、可動蓋33が下降して底面31bに接近すると、可動蓋33と内周側面31aの隙間が狭くなり、従って、そこに形成されるインクメニスカス強度が高くなる。可動蓋33の下端がテーパ状内周側面部分31dの下端に至ると、可動蓋33が当該内周側面部分に嵌り込み、ロックされた状態が形成されている。
【0047】
次に、本例のインク取り出し部15(2)の構造を説明する。円筒状容器部分31の底面中心には円形開口41が形成され、この外周縁部分からは底板部分21の下方に突出した円筒枠42が形成されている。この円筒枠42には円盤状のゴムパッキン43が装着されており、その中心に開けた貫通孔がインク取り出し孔15bとして機能する。円形開口41のインク貯留部側の外周縁部分からも円筒枠44が上方に突出しており、この中心開口部分がインク取り出し孔15bとインク貯留部35とを連通する連通路45とされている。この連通路45には、インク取り出し孔15bを封鎖可能な弁46が配置されており、この弁46は常にコイルばね47によってゴムパッキン43の背面に押し付けられ、インク取り出し孔15bを封鎖している。
【0048】
インク貯留部35内に突出している円筒枠44の上端開口には異物除去用のフィルタ49が取り付けられている。従って、インク貯留部35からインク供給針7(2)の側に供給されるインクに混入している異物がこのフィルタ49によって捕捉され、インクジェットヘッド4の側に入り込むことを防止できる。
【0049】
(インク供給動作、作用効果)
このように構成した本例のインクカートリッジ10のインク供給動作、および作用効果を説明する。図5に示すように、インク室13(1)〜13(4)のインク貯留部35内に各色のインクが充填されている状態では可動蓋33が仕切り板20の側に偏位している。すなわち、可動蓋33は円筒状容器部分31の上端位置近傍に位置している。
【0050】
また、可動蓋33と円筒状容器部分31の内周側面31aとの隙間37にはインクメニスカスが形成されているので、廃インク室14に通じている可動蓋33の背面側の上側空間38とインク貯留部35とは当該可動蓋33によって仕切られた状態にある。さらに、コイルばね34によって可動蓋33が押し上げられているので、インク貯留部35は所定の負圧状態に保持されている。
【0051】
インク取り出し孔15bに、インクジェットプリンタ1のインクジェットヘッド4の側からのインク吸引力が作用すると、可動蓋33はコイルばね34のばね力に逆らってインク取り出し孔15bの側に移動するので、所定量のインクがインク取り出し孔15bからインクジェットヘッド4の側に供給される。
【0052】
ここで、移動する可動蓋33と円筒状容器部分31の内周側面31aの隙間37に形成されているインクメニスカスの強度はインク吸引力よりも大きいので、インク吸引力によってインクメニスカスが破壊されることはない。よって、可動蓋33の上側から当該隙間37を介して気泡がインク貯留部35の側に進入することはない。また、当該隙間37を介してインク貯留部35の側から可動蓋33の上側にインクが漏れ出ることもない。
【0053】
各インク室13(1)〜13(4)におけるインクエンドの状態では、各可動蓋33が円筒状容器部分31の底面に当たる位置まで下降し、インク貯留部35の容積が最小となる。可動蓋33が円筒状容器部分31の底面近傍まで下降して、円筒状容器部分31のテーパ状内周側面部分31dに到った後は、図5(b)を参照して説明したように、可動蓋33の下降に伴って、可動蓋33とテーパ状内周側面部分31dの隙間37が漸減する。この結果、可動蓋33の下降に伴って、隙間37に形成されているインクメニスカスの強度が大きくなる。可動蓋33が下降すると、コイルばね34が圧縮され、可動蓋33の押し上げ力が増加するので、インクメニスカスが壊れ易くなる。
【0054】
しかしながら、上記のように、可動蓋33の下降に伴ってインクメニスカス強度が大きくなるので、インクメニスカスが破壊されることを確実に回避できる。よって、インク残量が少なくなった状態においても、インクメニスカスが壊れて気泡がインク貯留部35に侵入することを防止できる。
【0055】
なお、可動蓋33がテーパ状内周側面部分31dの下端31eに至ると、その部分の内径寸法は可動蓋33の外径寸法と同一であるので、可動蓋33はここに嵌り込み、ロックされた状態になる。
【0056】
ここで、この構成のインクカートリッジ10を誤って落下させた場合、あるいはインクカートリッジ10に衝撃力が加わった場合について説明する。この場合には、可動蓋33が振動して、一時的に隙間37のインクメニスカスが壊れるなどして、可動蓋33の背面側にインクが流出することがある。可動蓋33の背面側の空間38は、可動蓋33と仕切り板20とによって、各インク室13(1)〜13(4)毎に独立した空間となっている。
【0057】
従って、ここに流出したインクが、他のインク室から流出したインクと混じ合ってしまうことがない。また、大気連通孔20bは、インク室の内周側面31aから離れ部位に形成されており、本実施の形態では各インク室の略中央部に配置されていることから、可動蓋33の周囲から流出したインクが大気連通孔20bから廃インク室14の側に直接に漏れ出てしまうことがない。そこで背面側の空間に溜まったインクは、インク室の壁面を伝わって、再び各インク室のインク貯留部に戻るため、所定のインク取り出し量を保つことができる。
【0058】
仕切り板20の上側の大気連通孔20bは、仕切り板上面20eよりも突出している上端突出部20dの中央部に設けられている、したがって、インクが廃インク室14の側に漏れ出たとしても、流出したインクが他の大気連通孔20bから各インク室13(1)〜13(4)に入ることはない。よって、流出したインクの混色を防止できる。
【0059】
また、仕切り板20の上側の大気連通孔20bは、廃インク室14に充填されているインク吸収材17に囲まれていることから、廃インク室14側に流出したインクはインク吸収体17に吸収され再び各インク室13(1)〜13(4)に入ることはない。
【0060】
上記のように各インク室13(1)〜13(4)から流出したインクが再びインク室に入ることはないので、インク吸収体17に接触した際の異物などがインク室のインクに混入することもない。従って、例え可動蓋33の背面側に流出したインクが再び可動蓋33と内周側面31aの隙間37を通ってインク貯留部35に戻っても、インクには混色、異物混入などの弊害が発生しない。
【0061】
さらには、大量のインクが流出して空間38がインクで充たされた場合において、当該空間38と廃インク室14を連通している大気連通孔20bにはインク吸収体17が接していないので、当該大気連通孔20bから流出したインクがインク吸収体17に吸い上げられてしまうこともない。よって、大気連通孔20bから廃インク室14に漏れ出たインクのみがインク吸収体17に吸収されるだけであるので、無駄インクの発生を極力抑えることができる。
【0062】
さらにまた、可動蓋33は、仕切り板20の円筒状突起20cに当接した状態になるので、可動蓋33の上面が仕切り板20に面接触して当該仕切り板20に貼りついてしまう危険性もない。
【0063】
これに加えて、インク残量が少なくなり、可動蓋33が底面部分に接近した場合には、隙間37が漸減しているので、インクメニスカス強度が増加する。よって、可動蓋33に作用しているコイルばね34の押し上げ力が増加しても、インクメニスカスが壊れて、気泡がインク貯留部に侵入することも確実に防止される。
【0064】
(その他の実施の形態)
上記の実施の形態に係るインクカートリッジ10は4つのインク室を備えているが、4つ以外の複数のインク室を備えている場合であっても、本発明を同様に適用可能である。
【0065】
また、本実施の形態はベストの対策を施したが、それぞれの対策が全て施さなければ達成できないものではない。例えば、仕切り板20の上側の大気連通孔20bは、仕切り板上面20eよりも突出している上端突出部20dに設けられているが、突出していなくとも、周囲にインク吸収部体があるだけでも、他のインク室への移動を防ぎ、混色を防ぐことができるものである。
【0066】
さらには、本実施の形態では、仕切り板20に設けた円筒状突起20cによって、仕切り板20と可動蓋33の接触面同士が密着するリンギング現象を無くしているが、その突起は可動蓋33だけにあってもよいし、両方にあってもよいものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明を適用したインクカートリッジをインク供給源としているインクジェットプリンタの例を示す概略構成図である。
【図2】(a)〜(d)はそれぞれ、図1のインクカートリッジを示す平面図、正面図、左側側面図、および右側側面図である。
【図3】図1のインクカートリッジを示す斜視図である。
【図4】図1のインクカートリッジを示す分解斜視図である。
【図5】(a)は図2のインクカートリッジをA−Aで切断した部分の断面図であり、(b)はその部分拡大断面図である。
【図6】(a)および(b)は、それぞれ図2のインクカートリッジにおける仕切り板を上側および下側から見た場合の斜視図である。
【図7】本発明の前提となるインクカートリッジを示す説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 インクジェットプリンタ、4 インクジェットヘッド、7 インクカートリッジ装着部、7(1)〜7(4) インク供給針、7(5) インク回収針、10 インクカートリッジ、12 カートリッジケース、12a ケース本体、12b ケース蓋板、13(1)〜13(4) インク室、14 廃インク室(インクトラップ)、14a 空所、15(1)〜15(4) インク取り出し部、16 廃インク回収部、17 インク吸収体、20 仕切り板、20a 円環状突起、20b 大気連通孔、20c 円筒状突起、20d 上端突出部、20e 上面、21 底板部分、22,23 側板部分、24,25 端板部分、26〜29 仕切り板部分、31 円筒状容器部分、31a 内周側面、31b 底面、31d テーパ状内周側面部分、33 可動蓋、34 コイルばね、35 インク貯留部、37 隙間、38 可動蓋の背面側の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を大気に開放する為の大気開放孔を備えたカートリッジケースと、
このカートリッジケースの内部において、上端が開口した状態に形成された複数のインク室と、
各インク室の上端開口部を封鎖した状態に配置され、前記カートリッジケースの内部を、各インク室と、各インク室から溢れたインクを収容するための共通のインクトラップとに仕切っている仕切り部材と、
前記インクトラップ内に充填したインクを吸収保持可能なインク吸収体とを有し、
各インク室は、当該インク室の底面に形成されているインク取り出し部と、当該インク室の内周側面との隙間にインクメニスカスを形成しインク収容量の変化に伴い当該インク室の前記内周側面に沿って移動可能な可動部材と、前記底面、前記内周側面および前記可動部材によって区画形成されているインク貯留部と、このインク貯留部を負圧状態に保持するために、前記可動部材を付勢している付勢部材とを備えており、
前記インクトラップは前記大気開放孔を介して大気に開放されており、
前記仕切り部材は、各インク室の前記上端開口部を封鎖している部位における前記内周側面から離れた位置に形成された複数の大気連通孔を備え、
各インク室の前記可動部材と、当該インク室の前記上端開口部を封鎖している前記仕切り部材の部位との間の空間が、各大気連通孔を介して前記インクトラップに連通していることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
前記インク吸収体は、各大気連通孔から離れた位置において各大気連通孔を取り囲む状態に充填されていることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
前記インクトラップの側の各大気連通孔は、前記仕切り部材の上面より突出している上端突出部に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
前記カートリッジケースの底板部分により前記インク室底面が規定されており、
当該底板部分には、前記インク室から前記インクを取り出すためのインク取り出し部と、前記インクトラップに廃インクを回収するための廃インク回収部が形成されており、
前記カートリッジケースの天板部分に前記大気開放孔が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの項に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項に記載のインクカートリッジをインク供給源とすることを特徴とするインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−123562(P2006−123562A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33355(P2006−33355)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【分割の表示】特願2003−410313(P2003−410313)の分割
【原出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】