インクカートリッジ
【課題】インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路を容易に形成することができるインクカートリッジを提供する。
【解決手段】インク供給口4を備えた容器内にインクが収容されたインクカートリッジ1であって、上記容器本体2の表面にインク流路となるインク溝35が形成されるとともに、大気連通路となる大気連通溝36が形成され、上記容器本体2表面のインク溝35と大気連通溝36の開口が第1フィルム57で封止したことにより、容器本体2表面に形成したインク溝35や大気連通溝36の開口を第1フィルム57で封止して流路を形成したため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器本体2を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【解決手段】インク供給口4を備えた容器内にインクが収容されたインクカートリッジ1であって、上記容器本体2の表面にインク流路となるインク溝35が形成されるとともに、大気連通路となる大気連通溝36が形成され、上記容器本体2表面のインク溝35と大気連通溝36の開口が第1フィルム57で封止したことにより、容器本体2表面に形成したインク溝35や大気連通溝36の開口を第1フィルム57で封止して流路を形成したため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器本体2を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷信号に対応してインク滴を吐出する記録ヘッドにインクを供給するインクジェット記録装置用のインクカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録装置は、記録用紙の紙幅方向に往復動するキャリッジに、印刷信号に対応してインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドを搭載し、外部のインクタンクから記録ヘッドにインクを供給するように構成されている。このようなインクタンク等のインク貯蔵容器は、小型の記録装置にあってはキャリッジに着脱可能に搭載され、大型の記録装置にあっては函体に設置されてインク供給チューブにより記録ヘッドに接続されている。
【0003】
キャリッジに搭載されるインクカートリッジは、内部にスポンジ等の多孔質材を収容し、この多孔質材にインクを含浸させるタイプや、インクのみが収容されたインク収容部の供給口近傍に差圧弁を配置したタイプのものがある。
【0004】
これらのインクカートリッジにおいては、多孔質材や差圧弁によって記録ヘッドのノズル開口にかかるインク圧力を所定の値にすることができ、ノズル開口からのインク漏れの防止が可能になっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のようなインクカートリッジに関するものであり、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路を容易に形成することができるインクカートリッジを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のインクカートリッジは、インク供給口を備えた容器内にインクが収容されたインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、上記容器の表面にインク流路となるインク用凹部と、大気連通路となる大気連通用凹部が形成され、上記容器表面のインク用凹部と大気連通用凹部の開口がフィルムで封止されることにより、インク用凹部がインク流路に、大気連通用凹部が大気連通路にそれぞれ形成されていることを要旨とする。
【0007】
すなわち、本発明のインクカートリッジは、容器表面にインク用凹部や大気連通用凹部を形成し、これらの開口をフィルムで封止することにより流路を形成するため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【0008】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記インク用凹部と大気連通用凹部の開口が同一のフィルムで封止されている場合には、フィルムの枚数が必要以上に増えないため、製造工程が少なく、コスト面でも有利である。
【0009】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記フィルムが容器表面に溶着されることによりインク用凹部と大気連通用凹部の開口が封止されている場合には、フィルムの溶着によりインク用凹部および大気連通用凹部の封止が行なわれることから、製造が容易となる。
【0010】
また、本発明のインクカートリッジは、インク供給口を備えた容器内部にインクが収容され、容器内部に収容されたインクを差圧弁を介してインク供給口に供給するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、上記容器の表面に、上記差圧弁を収容する差圧弁収容室と連通するインク流路となるインク用凹部と、大気連通路となる大気連通用凹部が、仮想直線を境界にした第1の領域と第2の領域にそれぞれ形成され、上記インク用凹部と大気連通用凹部の開口が封止部材で封止されることにより、インク用凹部がインク流路に、大気連通用凹部が大気連通路にそれぞれ形成されていることを要旨とする。
【0011】
すなわち、大気連通路となる大気連通用凹部開口部が溶着の高さ精度が必要であり、またインク流路となるインク用凹部開口部が溶着強度を必要であるが、仮想直線を境界にした第1の領域と第2の領域にそれぞれ形成しているので、製造時における大気連通用凹部が形成された領域の高さ精度の管理、またはインク用凹部が形成された領域の溶着強度の管理が容易になる。また、比較的狭い面積の溶着状態を制御すればよくなることから、溶着の条件出しも比較的容易に行なえるようになる。
【0012】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記仮想直線がカートリッジの記録装置への挿入方向と同一の方向である場合は、大気連通用凹部とインク用凹部及びその他の構成要素を効率よく配置することができる。
【0013】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記差圧弁を収容する差圧弁収容室は、上記インク用凹部が形成された第1の領域に形成されている場合には、差圧弁収容室を高い溶着強度で封止部材と溶着でき、インク漏れ等の無い信頼性の高いインクカートリッジを実現できる。
【0014】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記大気連通路と接続する大気通気室を形成する通気室凹部は、上記大気連通路が形成された第2の領域に形成されている場合には、通気室凹部と大気連通凹部を同一の封止部材で形成することができ、簡単に製造することができる。
【0015】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記第2の領域が主として溶着の高さ精度の管理を要する領域であり、前記第1の領域は溶着強度の管理を要する領域である場合には、溶着の高さ精度が必要な領域では溶着の高さを精度よく管理し、溶着強度が必要な領域では溶着強度を高めるように管理することができる。
【0016】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記第1の領域を含む第1の溶着範囲と上記第2の領域を含む第2の溶着範囲を有し、上記第1の溶着範囲と第2の溶着範囲の境界に流路を構成しない溝が形成された場合には、フィルムを溶着させる溶着加圧面を、分割された溶着範囲同士の間でオーバーラップさせることができ、溶着装置の設計の自由度が向上する。
【0017】
また、本発明のインクカートリッジは、インク供給口を備えた容器内部にインクが収容され、容器内部に収容されたインクを差圧弁を介してインク供給口に供給するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、上記容器に形成された上記差圧弁を収容する差圧弁収容室と、内部に膜弁を収容した状態で上記差圧弁収容室の開口を封止し、かつ差圧弁収容室内部と連通するインク流路となるインク用凹部が形成された蓋体と、上記容器の表面及び前記蓋体上に接合され、上記蓋体に形成された上記インク用凹部を封止してインク流路を形成する封止部材とを備えたことを要旨とする。
【0018】
すなわち、差圧弁収容室とこれに連通するインク流路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に製造することができる。
【0019】
また、本発明のインクカートリッジは、インク供給口を備えた容器内にインクが収容されたインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、上記容器の表面にインク流路となるインク用凹部と、大気連通路となる大気連通用凹部が形成され、上記容器表面のインク用凹部と大気連通用凹部の開口がフィルムで封止されることにより、インク用凹部がインク流路に、大気連通用凹部が大気連通路にそれぞれ形成され、上記フィルム上には、このフィルムを覆う第2のオーバーシートが貼着されていることを要旨とする。
【0020】
すなわち、上記容器の表面に、上記フィルムを覆うオーバーシートが貼着されている場合には、フィルムがオーバーシートで保護されてフィルムの破損によるインク漏れが防止され、インクの蒸発も防ぐことができる。
【0021】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記オーバーシートが、容器表面以外の面まで覆う延長領域を有している場合や、上記延長領域がインク注入口を覆っている場合には、インク注入口まで1枚のオーバーシートで覆うことができ、工程の簡略化や部品点数の節減に有利である。
【0022】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記フィルムの厚みが、オーバーシートの厚みより薄く設定されている場合には、フィルムを溶着してインク用凹部および大気連通用凹部を封止する際、フィルムが容器表面に沿いやすいため、溶着強度や溶着精度の向上に有利である。また、比較的厚みの厚いオーバーシートによりフィルムを有効に保護できる。
【0023】
なお、本発明において「溶着範囲」とは、同一の溶着加圧面で溶着しうる範囲をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0025】
図1は、本発明のインクカートリッジが使用されるインクジェット式記録装置の一例を示す図である。この装置は、本発明が適用されたインクカートリッジ(以下「カートリッジ」という)1が搭載されるとともに、記録ヘッド73が取り付けられたキャリッジ75を備えている。
【0026】
上記キャリッジ75は、タイミングベルト77を介してステッピングモータ79に接続され、ガイドバー78に案内されて記録紙76の紙幅方向(主走査方向)に往復移動するようになっている。上記キャリッジ75は、上部に開放する大略箱型を呈し、記録紙76と対向する面(この例では下面)に、記録ヘッド73のノズル面が露呈するよう取り付けられるとともに、カートリッジ1が搭載されるようになっている。
【0027】
そして、上記記録ヘッド73にカートリッジ1からインクが供給され、キャリッジ75を移動させながら記録紙76上面にインク滴を吐出させて記録紙76に画像や文字をドットマトリックスにより印刷するようになっている。
【0028】
図2および図3は、本発明のカートリッジ1の一実施の形態を示す分解斜視図である。また、図4および図5は、それぞれ上記容器本体2を開口側から見た状態、容器本体2を表面側(以下、容器本体2の開口側と反対側の面を「容器本体2の表面」という)から見た状態を示す。
【0029】
上記カートリッジ1は、一方の面(図2における左側面)が開口した扁平な矩形状の容器本体2と、上記開口部に溶着されて開口を封止する蓋体3とを備えている。上記容器本体2および蓋体3は、いずれも合成樹脂から形成されている。
【0030】
上記容器本体2には、その表面に、インク流路となるインク溝35,18Aが形成されるとともに、大気連通路となる大気連通溝36が形成されている。そして、上記容器本体2表面に遮気性を有する1枚の第1フィルム57が溶着されることにより、上記インク溝35,18Aと大気連通溝36の開口が封止されてインク溝35,18Aがインク流路に、大気連通溝36が大気連通路にそれぞれ形成されている。
【0031】
このようにすることにより、本発明のカートリッジ1は、容器本体2表面に形成したインク溝35や大気連通溝36等の開口を第1フィルム57で封止して流路を形成するため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【0032】
以下、上記容器本体2の流路構造等について詳しく説明する。
【0033】
上記容器本体2のキャリッジ75への挿入方向の先端面(この例では下面)には、インク供給口4が形成され、正面と背面(図4における左右)にはそれぞれカートリッジ1着脱の際に把持される把持アーム5,6が容器本体2と一体的に形成されている。上記インク供給口4にはインク供給針の挿通により開弁する弁体(図示せず)が収容されている。なお、図3において、49はインク供給口4側の把持アーム6の下部に設けられた記憶手段である。
【0034】
上記容器本体2の開口側内部は、略水平方向でインク供給口4の側に若干下り傾斜となるように延びる壁10を含む枠状部14が形成されている。この枠状部14は、容器本体2の天井面および両側面と略一定の隙間を持たせて形成されている。上記枠状部14より下側の領域は、インクが収容される第1インク室11に形成されている。
【0035】
そして、上記枠状部14と容器本体2の外周壁との間に形成された隙間と、上記枠状部14のバルブ収容室8側に設けられた壁12とにより、通孔67を介して第1インク室11を大気と連通させる大気連通路13,13Aが形成されている。
【0036】
上記壁12と容器本体2の外周壁とに蓋体3が融着されて大気連通路13Aが形成される。また、上記大気連通路13Aを形成する壁12の上端部は、使用状態において第1インク室11内の液面より上方に突出するよう容器本体2の天井部近傍まで延びている。これにより、上記大気連通路13Aの開口が第1インク室11内の液面より上方に開口し、通孔67へのインクの逆流をできるだけ防止するようになっている。
【0037】
上記枠状部14の内部は、底部にインクが流通する連通口15Aが形成された縦方向に延びる壁15により左右に分割されている。そして、上記壁15で分割された図示の右側に位置する領域は、第1インク室11から吸い上げたインクを一時貯留する第2インク室16に形成されている。また、図示の左側に位置する領域には、第3インク室17,第4インク室23,第5インク室34等が形成されるとともに、膜弁52やバネ50等から構成される差圧弁が収容されるようになっている。
【0038】
上記第1インク室11の第2インク室16より下側の部分には、第2インク室16と容器本体2の底面2A近傍との間を連通させて第1インク室11のインクを第2インク室16に吸い上げる吸上げ流路18が形成されている。上記吸上げ流路18の下部には、周囲が壁19で囲まれた矩形の領域が形成され、上記壁19には、その下部と上面とにそれぞれ連通口19A,19Bが形成されている。
【0039】
上記吸上げ流路18は、容器本体2の表面に溝状のインク溝18Aを形成し、このインク溝18Aが第1フィルム57で封止されることにより形成されている。
【0040】
そして、上記吸上げ流路18は、その上部が連通口47を介して第2インク室16と連通し、下部の壁19で囲まれた矩形の領域内に開口部48が形成されて下端開口18B(図9参照)が第1インク室11と連通している。これにより、第1インク室11と第2インク室16とが吸上げ流路18を介して連通され、第1インク室11のインクが第2インク室16に導入されるようになっている。
【0041】
また、容器本体2の底面には、その吸上げ流路18に対応する箇所に、第1インク室11にインクを注入する際に用いられるインク注入口20が形成されている。さらに、上記インク注入口20の近傍には、インク注入の際に空気を排出する空気排出口21が形成されている。
【0042】
上記第3インク室17には、枠状部14の上面14Aとの間で所定間隔を隔てて横方向に延びる壁22が形成されている。また、上記第3インク室17は、上記壁22に連続した略円弧状を呈する壁24によって区画され、上記壁24に囲まれた部分が、差圧弁収容室33と第5インク室34が形成される領域になっている。
【0043】
上記円弧状の壁24で囲まれた領域は、第5インク室34と対向する領域の表面側に差圧弁収容室33を形成するよう壁25により厚み方向に2分割されている。上記壁25には、上記第5インク室34に流入したインクを差圧弁収容室33に導くインク流通口25Aが設けられている。
【0044】
上記略円弧状の壁24の下部には、壁10との間に連通口26Aを備えた区画壁26が形成され、この区画壁26より下流側(図4における左側)が第4インク室23に形成されている。また、上記略円弧状の壁24と枠状部14との間には下部に連通口27Aを備えて縦方向に延びる区画壁27、および上下に連通口32A,32Bを備えて縦方向に延びる区画壁32が設けられ、インク流路28A,28Bが形成されている。
【0045】
また、上記容器本体2には、上記区画壁27の上端部に連続するとともに、略円弧状の壁24および壁22に接続されるよう形成された円弧状の壁30が形成されている。そして、上記円弧状の壁30に囲まれた領域が、ブロック状(この例では円柱状)のフィルタ7が収容されるフィルタ収容室9に形成されている。
【0046】
そして、上記フィルタ収容室9を形成している円弧状の壁30にまたがって、大円と小円を連結した形状の貫通穴29が形成されている。そして、上記貫通穴29の大円側がインク流路28Aの上部に連通し、貫通穴29の小円側が、略円弧状の壁24の先端部に設けられた連通口24Aを介して第5インク室34の上部に連通している。これにより、上記貫通穴29を介してインク流路28Aと第5インク室34とが連通している。
【0047】
そして、第2インク室16から連通口15A,26A,32B,27A等を通過してインク流路28Aに流入したインクは、フィルタ収容室9のフィルタ7でろ過されて貫通穴29の大円側に流れ込む。ついで、貫通穴29に流入したインクは、貫通穴29の小円側から連通口24Aを介して第5インク室34に流れ込むようになっている。上記貫通穴29の容器本体2表面側の開口も第1フィルム57で封止されている。
【0048】
ここで、上記枠状部14の開口側には、遮気性の第2フィルム56が溶着されている。すなわち、上記第2フィルム56は、枠状部14,壁10,15,22,24,30,42,区画壁26,27,32と溶着され、インク室や流路を形成している。
【0049】
一方、容器本体2の表面側には、カートリッジ挿入方向である矢印Yと平行な方向の仮想直線X−X'により第1の領域と第2の領域に分けられ、第1の領域には少なくとも差圧弁収容室とインク溝35が形成され、第2の領域には少なくとも大気通気室と大気連通溝が形成されている。
【0050】
上記差圧弁収容室33の下部とインク供給口4とは、表面側に形成されたインク溝35と、このインク溝35を覆う遮気性の第1フィルム57とからなる流路により連通されている。上記インク溝35は、上下端部がそれぞれ差圧弁収容室33およびインク供給口4に連通している。これにより、第5インク室34に流入したインクは、インク流通口25Aを通過し、差圧弁収容室33を通ってインク溝35で形成される流路からインク供給口4に流れるようになっている。
【0051】
また、容器本体2の表面には、インクの蒸発をできるだけ防止する蛇行した大気連通溝36と、上記大気連通溝36に連通し、差圧弁収容室33および大気連通溝36の周囲を囲む幅広の溝37とが形成されている。また、上記容器本体2の表面には、その第2インク室16に対応する領域に矩形状の凹部38が形成されている。
【0052】
上記矩形状の凹部38内には、一段下がりの状態で枠部39およびリブ40が形成されている。そして、これらに發インク性を有する通気性シート55が張設されることにより、上記矩形状の凹部38内が、大気連通溝36および溝37を介して大気に連通する大気通気室に形成されている。
【0053】
上記凹部38の奥面には貫通穴41が穿設され、第2インク室16内の長円状の壁42で区画された細長い領域43に連通されている。また、上記凹部38の通気性シート55よりも表面側の領域には大気連通溝36が連通している。さらに、上記細長い領域43の貫通穴41と反対側の端部には貫通穴44が穿設されている。この貫通穴44は、容器本体2の表面側に形成された連通用の溝45、および上記溝45と連通するよう穿設された貫通穴46を介して大気開放弁室であるバルブ収容室8に連通されている。
【0054】
上記バルブ収容室8には、第1インク室11に形成された大気連通路13Aに形成された通孔67に連通する貫通穴60が形成されている。これにより、大気連通溝36および溝37を通って凹部38に入った空気は、貫通穴41,細長い領域43,貫通穴44,46を介してバルブ収容室8に至り、バルブ収容室8から貫通穴60,通孔67,大気連通路13,13Aを介して第1インク室11に至るようになっている。
【0055】
また、上記バルブ収容室8は、そのカートリッジ挿入側(この実施例では下側)が開放されていて、後述するように、記録装置本体に設けられた識別片や作動杆が進入可能になっており、上部に上記作動杆の進入により開弁して常時開放弁状態を維持する大気開放弁が収容される。
【0056】
図6は、前述の第5インク室34および差圧弁収容室33近傍の断面構造を示す。なお、図示の右側が差圧弁収容室33のある容器本体2の表面側である。上記差圧弁収容室33には、バネ50とエラストマー等の弾性変形可能な材料により構成され、中心に貫通穴51を備えた膜弁52が収容されている。上記膜弁52はその周囲が環状の厚肉部52Aを有し、この厚肉部52Aに一体に形成された枠部54を介して容器本体2に固定されている。また、上記バネ50は、一端が膜弁52のバネ受け部52Bに当接され、他端が差圧弁収容室33を蓋する蓋体53のバネ受け部53Aに当接されて支持されている。
【0057】
このような構成により、第5インク室34からインク流通口25Aを通過したインクは、膜弁52によって流通を阻止される。この状態でインク供給口4の圧力が低下すると、その負圧により膜弁52がバネ50の付勢力に抗して弁座部25Bから離れ、インクは貫通穴51を通過してインク溝35で形成された流路を経由してインク供給口4に流れ込む。
【0058】
インク供給口4のインク圧力が所定の値に上昇すると、膜弁52がバネ50の付勢力によって弁座部25Bに弾接され、インクの流通が遮断される。このような動作を繰り返すことにより一定の負圧を維持しながらインクをインク供給口4から排出することができる。
【0059】
図7は、大気連通用のバルブ収容室8の断面構造を示す。なお、図示の右側が容器本体2の表面側である。上記バルブ収容室8を区画する壁には貫通穴60が穿設され、ここにゴム等の弾性部材により構成された押圧部材61がその周囲を容器本体2に支持されて移動可能に挿入されている。上記押圧部材61の進入側の先端には、弾性部材62に支持されて貫通穴60に常時付勢された弁体65が配置されている。上記弾性部材62は、この例では下端が突起63で固定され、中央部が突起64で規制された板バネが用いられている。
【0060】
一方、上記押圧部材61の反対側には、アーム66が配置されている。上記アーム66は、そのカートリッジ1の挿入方向側(この例では下端)が、後述する作動杆70より内側に位置する回動支点66Aを介して容器本体2に固定されている。また、上記アーム66は、その引き抜き側(この例では上部側)が作動杆70の進入路に斜めに突出している。上記アーム66の先端には、押圧部材61を弾圧する凸部66Bが形成されている。このような構成により、弁体65の開弁時に、上述したように、第1インク室11の上部に設けられた通孔67が、貫通穴60,バルブ収容室8,貫通穴46,溝45,貫通穴44,細長い領域43,貫通穴41を介して大気連通用の凹部38に接続される。
【0061】
また、上記バルブ収容室8には、アーム66よりも挿入側(この例では下側)に記録装置に対するカートリッジ1の適否を判断するための識別用凸部68が設けられている。この識別用凸部68は、インク供給針72(図8参照)にインク供給口4を連通させる前でかつ弁体65を開弁させる前に、識別片(作動杆)70による判定が可能な位置に設けられている。
【0062】
このような構成により、図8に示したように下面に作動杆70が立設されたカートリッジホルダ71にカートリッジ1が装填されると、作動杆70が傾斜したアーム66に当接し、カートリッジ1の押込みとともに押圧部材61を弁体65の側に傾斜させる。これにより弁体65が貫通穴60から離れ、前述したように貫通穴46,溝45,貫通穴44,領域43,貫通穴41を介して大気連通用の凹部38を大気開放させる。
【0063】
また、カートリッジホルダ71から引き抜かれた場合には、アーム66が作動杆70の支持を失うため、弾性部材62の付勢力により弁体65が貫通穴60を封鎖し、インク収容領域と大気との連通を断つ。
【0064】
つぎに、上記のように弁等の全ての部材が容器本体2に組み込まれた状態で、表面には、少なくとも凹部が形成されている領域を覆うように遮気性の第1フィルム57を貼付する。これにより、表面側には凹部と第1フィルム57により大気連通路となるキャピラリが形成される。
【0065】
ここで、上記キャピラリを含む流路の配置や流路の形成等について詳しく説明する。
【0066】
上記カートリッジ1では、上述したように、上記容器本体2の表面に、1枚の第1フィルム57が溶着されることにより、容器本体2表面に形成されたインク溝35,貫通穴29,インク溝18A,溝45,大気連通溝36および凹部38の開口がそれぞれ封止され、インク溝35,貫通穴29,インク溝18Aおよび溝45は、それぞれインク流路に形成され、大気連通溝36および凹部38は、それぞれ大気連通路に形成される。第1フィルム57を溶着した状態のカートリッジ1を図9に示す。
【0067】
このとき、第1フィルム57の容器本体2表面への溶着は、例えば、第1フィルム57を容器本体2表面に被せ、加熱加圧板で押圧することにより熱溶着することが行なわれる。
【0068】
ここで、大気連通溝36は、インクの蒸発をできるだけ防止するとともに流路抵抗を必要以上に大きくしないよう、複雑に屈曲させた細くて浅い溝が形成されている。したがって、大気連通溝36を第1フィルム57で封止する際には、溶着の際の高さを高精度に管理しないと、大気連通溝36が潰れて空気の流通を妨げてしまうおそれがある。一方、インク溝35等のインク流路を形成する凹部は、インク漏れを防ぐために溶着強度を重視して溶着することが望ましい。
【0069】
そこで、上記容器本体2の表面は、図10に示すように、インク溝35や貫通穴29等の主としてインク流路となる凹部が形成された領域(b)と、主として大気連通溝36が形成された領域(a)とに大略区分されるように流路を配置している。また、上記容器本体2表面の領域(a)と領域(b)との境界の部分に、流路を構成しない溝31を形成している。
【0070】
そして、第1フィルム57を容器本体2に溶着する際に1つの加熱加圧板で一度に加圧する範囲(以下「溶着範囲」という)を、主として溶着の高さ精度の管理を要する領域(a)と、主として溶着強度の管理を要する領域(b)とに分割し、それぞれの領域(a)(b)で独立して溶着条件の制御を行なうようにしている。このようにすることにより、溶着精度管理と溶着強度管理とを併せて行なうことができるうえ、比較的狭い面積の溶着状態を制御すればよくなることから、溶着の条件出しも比較的容易に行なえるようになる。
【0071】
さらに、言い換えれば、上記第1フィルム57の溶着範囲は、カートリッジ1内に負圧を発生させる差圧弁よりも下流側のインク流路となるインク溝35が形成された領域(b)と、他の領域(a)とに分割されている。すなわち、差圧弁を有するカートリッジ1では、比較的インク流路や大気連通路等の流路形状が複雑となることから、複雑な流路を容易に形成できる効果が顕著である。
【0072】
また、上記流路を構成しない溝31が、分割された溶着範囲(a)(b)の境界部に位置しているため、第1フィルム57を溶着させる溶着加圧面を、分割された溶着範囲(a)(b)同士の間でオーバーラップさせることができ、溶着装置の設計の自由度が向上する。図9において、57Aは第1フィルム57の、溝31に対応する部分に設けられた切欠部である。
【0073】
上記カートリッジ1は、図11に示すように、上記容器本体2の表面に、上記第1フィルム57を覆うオーバーシート59が貼着されている。このようにすることにより、第1フィルム57がオーバーシート59で保護されて第1フィルム57の破損によるインク漏れが防止され、インクの蒸発も防ぐことができる。図において、59Aはオーバーシート59の、溝31に対応する部分に設けられた切欠部である。
【0074】
上記オーバーシート59は、第1フィルム57の厚みより厚いものが用いられている。すなわち、上記カートリッジ1では、第1フィルム57の厚みが、オーバーシート59の厚みより薄く設定されている。このようにすることにより、第1フィルム57を溶着してインク溝35,18Aや大気連通溝36等を封止する際、第1フィルム57が容器本体2の表面に沿いやすいため、溶着強度や溶着精度の向上に有利である。また、比較的厚みの厚いオーバーシート59により第1フィルム57を有効に保護できる。
【0075】
また、上記オーバーシート59は、容器本体2の下面まで覆う延長領域59Bが形成され、上記延長領域59Bがインク注入口20および空気排出口21を覆っている。このように、インク注入口20や空気排出口21まで1枚のオーバーシート59で覆うことができ、工程の簡略化や部品点数の節減に有利である。
【0076】
一方、容器本体2の開口部には、上述したように、枠状部14,壁10,15,22,24,30,42,区画壁26,27,32に対して気密的になるよう、遮気性の第2フィルム56が熱溶着等により貼着される。そして、そのうえから蓋体3をかぶせて溶着等により固定される。これにより、各壁によって区画された領域が連通口や開口を介してのみ連通するように封止される。
【0077】
さらに、バルブ収容室8の開口側も、同様に熱溶着により遮気性の第3フィルム58で封止され、カートリッジ1に仕上げられる。このようにインク収容領域を遮気性の第1および第2フィルム56,57等により封止する構造を採ることにより、容器本体2を容易に成形できるばかりでなく、キャリッジの往復動に起因するインクの揺動を第1および第2フィルム56,57の膜変形により吸収してインク圧力をなるべく一定に維持することが可能となる。
【0078】
ついで、インク注入口20にインク注入管を挿通するとともに、空気排出口21を開放した状態で、十分に脱気したインクを注入する。注入が完了した後、インク注入口20および空気排出口21をフィルムおよびオーバーシート59で封止する。
【0079】
このように構成されたカートリッジ1は、弁等により大気との連通が断たれて保存されるため、インクの脱気度が十分に維持される。
【0080】
そして、カートリッジ1をカートリッジホルダ71に装填する際、当該カートリッジホルダ71に適合したカートリッジ1である場合には、インク供給口4がインク供給針72に挿通される位置まで進入し、また前述したように作動杆70により貫通穴60が開放され、インク収容領域が大気に連通し、またインク供給口4のバルブもインク供給針72により開弁される。
【0081】
一方、当該ホルダに適合しない場合には、インク供給口4がインク供給針72に到達する前に、識別用凸部68がホルダ71の識別片70Aに当接して進入が阻止される。この状態では、作動杆70もアーム66に到達できないため、弁体65が封止状態を維持し、インク収容領域の大気開放が阻止されてインクの蒸発を防止する。
【0082】
カートリッジ1がカートリッジホルダ71に正常に装着され、印刷が行なわれて記録ヘッド73によりインクが消費されると、インク供給口4の圧力が規定値以下に低下するため、前述のように膜弁52が開放される。また、インク供給口4の圧力が上昇すると膜弁52が閉弁する。このようにして、所定の負圧に維持されたインクが記録ヘッド73に流れ込む。
【0083】
記録ヘッド73でのインクの消費が進行すると、第1インク室11のインクが吸上げ流路18を介して第2インク室16に流れ込む。ここに流れ込んだ気泡は浮力により上昇し、インクだけが下部の連通口15Aを経由して第3インク室17に流れ込む。
【0084】
第3インク室17のインクは、略円形に形成された壁24下端部に形成された区画壁26の連通口26Aを通過して第4インク室23を通り、インク流路28A,28Bへ流れ込む。
【0085】
インク流路28Aを流れたインクは、フィルタ収容室9に流れ込んでフィルタ7でろ過される。上記フィルタ収容室9を通過したインクは、貫通穴29の大円側から小円側と流れ、連通口24Aを通過して第5インク室34の上部に流れ込む。
【0086】
ついで、第5インク室34に流入したインクは、インク流通口25Aを通過して差圧弁収容室33に流れ込み、前述したように膜弁52の開閉動作により所定の負圧でインク供給口4に流れ込む。
【0087】
ここで、第1インク室11は、大気連通路13,13Aおよび通孔67,バルブ収容室8等を介して大気に連通されており、大気圧に維持されているため、負圧が発生してインクの流れを阻害することにはならない。仮に、第1インク室11のインクが逆流して凹部38まで流れ込んだとしても、ここには發インク性の通気性シート55が設けられているから、この通気性シート55により大気との連通は維持しつつインクの流出が阻止される。これにより、大気連通溝36にインクが流れ込んで固化する等により大気連通溝36が閉塞するような不都合を未然に防止できる。
【0088】
このように、上記カートリッジ1では、容器本体2表面に形成したインク溝35等や大気連通溝36を形成し、それらの開口を第1フィルム57で封止することにより流路を形成するため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【0089】
なお、上記各実施の形態では、フィルタ7として円柱状のものを用いた例を示したが、これに限定するものではなく、ブロック状を呈したフィルタであれば、各種の形状大きさのものを含む趣旨である。
【0090】
以上のように、本発明のインクカートリッジによれば、容器表面にインク用凹部や大気連通溝を形成し、それらの開口をフィルムで封止することにより流路を形成するため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明のカートリッジが用いられるインクジェット式記録装置を示す斜視図である。
【図2】本発明のカートリッジの一実施の形態を示す分解斜視図である。
【図3】上記カートリッジを示す分解斜視図である。
【図4】容器本体の開口部の状態を示す図である。
【図5】容器本体の表面の状態を示す図である。
【図6】差圧弁収容室の断面構造を拡大して示す図である。
【図7】バルブ収容室の断面構造を拡大して示す図である。
【図8】カートリッジホルダの一例を示す図である。
【図9】第1フィルムを溶着した状態を示す図である。
【図10】本発明のカートリッジの流路配置を説明する図である。
【図11】オーバーシートを溶着した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1…カートリッジ、2…容器本体、3…蓋体、4…インク供給口、5…把持アーム、6…把持アーム、7…フィルタ、8…バルブ収容室、9…フィルタ収容室、10…壁、11…第1インク室、12…壁、13…大気連通路、13A…大気連通路、14…枠状部、14A…上面、15…壁、15A…連通口、16…第2インク室、17…第3インク室、18…吸上げ流路、18A…インク溝、19…壁、19A…連通口、19B…連通口、20…インク注入口、21…空気排出口、22…壁、23…第4インク室、24…壁、24A…連通口、25…壁、25A…インク流通口、25B…弁座部、26…区画壁、26A…連通口、27…区画壁、27A…連通口、28A…インク流路、28B…インク流路、29…貫通穴、30…壁、31…溝、32…区画壁、32A…連通口、32B…連通口、33…差圧弁収容室、34…第5インク室、35…インク溝、36…大気連通溝、37…溝、38…凹部、39…枠部、40…リブ、41…貫通穴、42…壁、43…細長い領域、44…貫通穴、45…溝、46…貫通穴、47…連通口、48…開口部、49…記憶手段、50…バネ、51…貫通穴、52…膜弁、52A…厚肉部、52B…バネ受け部、53…蓋体、53A…バネ受け部、54…枠部、55…通気性シート、56…第2フィルム、57…第1フィルム、57A…切欠部、58…第3フィルム、59…オーバーシート、59A…切欠部、59B…延長領域、60…貫通穴、61…押圧部材、62…弾性部材、63…突起、64…突起、65…弁体、66…アーム、66A…回動支点、66B…凸部、67…通孔、68…識別用凸部、70…作動杆、70A…識別片、71…カートリッジホルダ、72…インク供給針、73…記録ヘッド、75…キャリッジ、76…記録紙、77…タイミングベルト、78…ガイドバー、79…ステッピングモータ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷信号に対応してインク滴を吐出する記録ヘッドにインクを供給するインクジェット記録装置用のインクカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録装置は、記録用紙の紙幅方向に往復動するキャリッジに、印刷信号に対応してインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドを搭載し、外部のインクタンクから記録ヘッドにインクを供給するように構成されている。このようなインクタンク等のインク貯蔵容器は、小型の記録装置にあってはキャリッジに着脱可能に搭載され、大型の記録装置にあっては函体に設置されてインク供給チューブにより記録ヘッドに接続されている。
【0003】
キャリッジに搭載されるインクカートリッジは、内部にスポンジ等の多孔質材を収容し、この多孔質材にインクを含浸させるタイプや、インクのみが収容されたインク収容部の供給口近傍に差圧弁を配置したタイプのものがある。
【0004】
これらのインクカートリッジにおいては、多孔質材や差圧弁によって記録ヘッドのノズル開口にかかるインク圧力を所定の値にすることができ、ノズル開口からのインク漏れの防止が可能になっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のようなインクカートリッジに関するものであり、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路を容易に形成することができるインクカートリッジを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のインクカートリッジは、インク供給口を備えた容器内にインクが収容されたインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、上記容器の表面にインク流路となるインク用凹部と、大気連通路となる大気連通用凹部が形成され、上記容器表面のインク用凹部と大気連通用凹部の開口がフィルムで封止されることにより、インク用凹部がインク流路に、大気連通用凹部が大気連通路にそれぞれ形成されていることを要旨とする。
【0007】
すなわち、本発明のインクカートリッジは、容器表面にインク用凹部や大気連通用凹部を形成し、これらの開口をフィルムで封止することにより流路を形成するため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【0008】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記インク用凹部と大気連通用凹部の開口が同一のフィルムで封止されている場合には、フィルムの枚数が必要以上に増えないため、製造工程が少なく、コスト面でも有利である。
【0009】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記フィルムが容器表面に溶着されることによりインク用凹部と大気連通用凹部の開口が封止されている場合には、フィルムの溶着によりインク用凹部および大気連通用凹部の封止が行なわれることから、製造が容易となる。
【0010】
また、本発明のインクカートリッジは、インク供給口を備えた容器内部にインクが収容され、容器内部に収容されたインクを差圧弁を介してインク供給口に供給するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、上記容器の表面に、上記差圧弁を収容する差圧弁収容室と連通するインク流路となるインク用凹部と、大気連通路となる大気連通用凹部が、仮想直線を境界にした第1の領域と第2の領域にそれぞれ形成され、上記インク用凹部と大気連通用凹部の開口が封止部材で封止されることにより、インク用凹部がインク流路に、大気連通用凹部が大気連通路にそれぞれ形成されていることを要旨とする。
【0011】
すなわち、大気連通路となる大気連通用凹部開口部が溶着の高さ精度が必要であり、またインク流路となるインク用凹部開口部が溶着強度を必要であるが、仮想直線を境界にした第1の領域と第2の領域にそれぞれ形成しているので、製造時における大気連通用凹部が形成された領域の高さ精度の管理、またはインク用凹部が形成された領域の溶着強度の管理が容易になる。また、比較的狭い面積の溶着状態を制御すればよくなることから、溶着の条件出しも比較的容易に行なえるようになる。
【0012】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記仮想直線がカートリッジの記録装置への挿入方向と同一の方向である場合は、大気連通用凹部とインク用凹部及びその他の構成要素を効率よく配置することができる。
【0013】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記差圧弁を収容する差圧弁収容室は、上記インク用凹部が形成された第1の領域に形成されている場合には、差圧弁収容室を高い溶着強度で封止部材と溶着でき、インク漏れ等の無い信頼性の高いインクカートリッジを実現できる。
【0014】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記大気連通路と接続する大気通気室を形成する通気室凹部は、上記大気連通路が形成された第2の領域に形成されている場合には、通気室凹部と大気連通凹部を同一の封止部材で形成することができ、簡単に製造することができる。
【0015】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記第2の領域が主として溶着の高さ精度の管理を要する領域であり、前記第1の領域は溶着強度の管理を要する領域である場合には、溶着の高さ精度が必要な領域では溶着の高さを精度よく管理し、溶着強度が必要な領域では溶着強度を高めるように管理することができる。
【0016】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記第1の領域を含む第1の溶着範囲と上記第2の領域を含む第2の溶着範囲を有し、上記第1の溶着範囲と第2の溶着範囲の境界に流路を構成しない溝が形成された場合には、フィルムを溶着させる溶着加圧面を、分割された溶着範囲同士の間でオーバーラップさせることができ、溶着装置の設計の自由度が向上する。
【0017】
また、本発明のインクカートリッジは、インク供給口を備えた容器内部にインクが収容され、容器内部に収容されたインクを差圧弁を介してインク供給口に供給するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、上記容器に形成された上記差圧弁を収容する差圧弁収容室と、内部に膜弁を収容した状態で上記差圧弁収容室の開口を封止し、かつ差圧弁収容室内部と連通するインク流路となるインク用凹部が形成された蓋体と、上記容器の表面及び前記蓋体上に接合され、上記蓋体に形成された上記インク用凹部を封止してインク流路を形成する封止部材とを備えたことを要旨とする。
【0018】
すなわち、差圧弁収容室とこれに連通するインク流路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に製造することができる。
【0019】
また、本発明のインクカートリッジは、インク供給口を備えた容器内にインクが収容されたインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、上記容器の表面にインク流路となるインク用凹部と、大気連通路となる大気連通用凹部が形成され、上記容器表面のインク用凹部と大気連通用凹部の開口がフィルムで封止されることにより、インク用凹部がインク流路に、大気連通用凹部が大気連通路にそれぞれ形成され、上記フィルム上には、このフィルムを覆う第2のオーバーシートが貼着されていることを要旨とする。
【0020】
すなわち、上記容器の表面に、上記フィルムを覆うオーバーシートが貼着されている場合には、フィルムがオーバーシートで保護されてフィルムの破損によるインク漏れが防止され、インクの蒸発も防ぐことができる。
【0021】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記オーバーシートが、容器表面以外の面まで覆う延長領域を有している場合や、上記延長領域がインク注入口を覆っている場合には、インク注入口まで1枚のオーバーシートで覆うことができ、工程の簡略化や部品点数の節減に有利である。
【0022】
本発明のインクカートリッジにおいて、上記フィルムの厚みが、オーバーシートの厚みより薄く設定されている場合には、フィルムを溶着してインク用凹部および大気連通用凹部を封止する際、フィルムが容器表面に沿いやすいため、溶着強度や溶着精度の向上に有利である。また、比較的厚みの厚いオーバーシートによりフィルムを有効に保護できる。
【0023】
なお、本発明において「溶着範囲」とは、同一の溶着加圧面で溶着しうる範囲をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0025】
図1は、本発明のインクカートリッジが使用されるインクジェット式記録装置の一例を示す図である。この装置は、本発明が適用されたインクカートリッジ(以下「カートリッジ」という)1が搭載されるとともに、記録ヘッド73が取り付けられたキャリッジ75を備えている。
【0026】
上記キャリッジ75は、タイミングベルト77を介してステッピングモータ79に接続され、ガイドバー78に案内されて記録紙76の紙幅方向(主走査方向)に往復移動するようになっている。上記キャリッジ75は、上部に開放する大略箱型を呈し、記録紙76と対向する面(この例では下面)に、記録ヘッド73のノズル面が露呈するよう取り付けられるとともに、カートリッジ1が搭載されるようになっている。
【0027】
そして、上記記録ヘッド73にカートリッジ1からインクが供給され、キャリッジ75を移動させながら記録紙76上面にインク滴を吐出させて記録紙76に画像や文字をドットマトリックスにより印刷するようになっている。
【0028】
図2および図3は、本発明のカートリッジ1の一実施の形態を示す分解斜視図である。また、図4および図5は、それぞれ上記容器本体2を開口側から見た状態、容器本体2を表面側(以下、容器本体2の開口側と反対側の面を「容器本体2の表面」という)から見た状態を示す。
【0029】
上記カートリッジ1は、一方の面(図2における左側面)が開口した扁平な矩形状の容器本体2と、上記開口部に溶着されて開口を封止する蓋体3とを備えている。上記容器本体2および蓋体3は、いずれも合成樹脂から形成されている。
【0030】
上記容器本体2には、その表面に、インク流路となるインク溝35,18Aが形成されるとともに、大気連通路となる大気連通溝36が形成されている。そして、上記容器本体2表面に遮気性を有する1枚の第1フィルム57が溶着されることにより、上記インク溝35,18Aと大気連通溝36の開口が封止されてインク溝35,18Aがインク流路に、大気連通溝36が大気連通路にそれぞれ形成されている。
【0031】
このようにすることにより、本発明のカートリッジ1は、容器本体2表面に形成したインク溝35や大気連通溝36等の開口を第1フィルム57で封止して流路を形成するため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【0032】
以下、上記容器本体2の流路構造等について詳しく説明する。
【0033】
上記容器本体2のキャリッジ75への挿入方向の先端面(この例では下面)には、インク供給口4が形成され、正面と背面(図4における左右)にはそれぞれカートリッジ1着脱の際に把持される把持アーム5,6が容器本体2と一体的に形成されている。上記インク供給口4にはインク供給針の挿通により開弁する弁体(図示せず)が収容されている。なお、図3において、49はインク供給口4側の把持アーム6の下部に設けられた記憶手段である。
【0034】
上記容器本体2の開口側内部は、略水平方向でインク供給口4の側に若干下り傾斜となるように延びる壁10を含む枠状部14が形成されている。この枠状部14は、容器本体2の天井面および両側面と略一定の隙間を持たせて形成されている。上記枠状部14より下側の領域は、インクが収容される第1インク室11に形成されている。
【0035】
そして、上記枠状部14と容器本体2の外周壁との間に形成された隙間と、上記枠状部14のバルブ収容室8側に設けられた壁12とにより、通孔67を介して第1インク室11を大気と連通させる大気連通路13,13Aが形成されている。
【0036】
上記壁12と容器本体2の外周壁とに蓋体3が融着されて大気連通路13Aが形成される。また、上記大気連通路13Aを形成する壁12の上端部は、使用状態において第1インク室11内の液面より上方に突出するよう容器本体2の天井部近傍まで延びている。これにより、上記大気連通路13Aの開口が第1インク室11内の液面より上方に開口し、通孔67へのインクの逆流をできるだけ防止するようになっている。
【0037】
上記枠状部14の内部は、底部にインクが流通する連通口15Aが形成された縦方向に延びる壁15により左右に分割されている。そして、上記壁15で分割された図示の右側に位置する領域は、第1インク室11から吸い上げたインクを一時貯留する第2インク室16に形成されている。また、図示の左側に位置する領域には、第3インク室17,第4インク室23,第5インク室34等が形成されるとともに、膜弁52やバネ50等から構成される差圧弁が収容されるようになっている。
【0038】
上記第1インク室11の第2インク室16より下側の部分には、第2インク室16と容器本体2の底面2A近傍との間を連通させて第1インク室11のインクを第2インク室16に吸い上げる吸上げ流路18が形成されている。上記吸上げ流路18の下部には、周囲が壁19で囲まれた矩形の領域が形成され、上記壁19には、その下部と上面とにそれぞれ連通口19A,19Bが形成されている。
【0039】
上記吸上げ流路18は、容器本体2の表面に溝状のインク溝18Aを形成し、このインク溝18Aが第1フィルム57で封止されることにより形成されている。
【0040】
そして、上記吸上げ流路18は、その上部が連通口47を介して第2インク室16と連通し、下部の壁19で囲まれた矩形の領域内に開口部48が形成されて下端開口18B(図9参照)が第1インク室11と連通している。これにより、第1インク室11と第2インク室16とが吸上げ流路18を介して連通され、第1インク室11のインクが第2インク室16に導入されるようになっている。
【0041】
また、容器本体2の底面には、その吸上げ流路18に対応する箇所に、第1インク室11にインクを注入する際に用いられるインク注入口20が形成されている。さらに、上記インク注入口20の近傍には、インク注入の際に空気を排出する空気排出口21が形成されている。
【0042】
上記第3インク室17には、枠状部14の上面14Aとの間で所定間隔を隔てて横方向に延びる壁22が形成されている。また、上記第3インク室17は、上記壁22に連続した略円弧状を呈する壁24によって区画され、上記壁24に囲まれた部分が、差圧弁収容室33と第5インク室34が形成される領域になっている。
【0043】
上記円弧状の壁24で囲まれた領域は、第5インク室34と対向する領域の表面側に差圧弁収容室33を形成するよう壁25により厚み方向に2分割されている。上記壁25には、上記第5インク室34に流入したインクを差圧弁収容室33に導くインク流通口25Aが設けられている。
【0044】
上記略円弧状の壁24の下部には、壁10との間に連通口26Aを備えた区画壁26が形成され、この区画壁26より下流側(図4における左側)が第4インク室23に形成されている。また、上記略円弧状の壁24と枠状部14との間には下部に連通口27Aを備えて縦方向に延びる区画壁27、および上下に連通口32A,32Bを備えて縦方向に延びる区画壁32が設けられ、インク流路28A,28Bが形成されている。
【0045】
また、上記容器本体2には、上記区画壁27の上端部に連続するとともに、略円弧状の壁24および壁22に接続されるよう形成された円弧状の壁30が形成されている。そして、上記円弧状の壁30に囲まれた領域が、ブロック状(この例では円柱状)のフィルタ7が収容されるフィルタ収容室9に形成されている。
【0046】
そして、上記フィルタ収容室9を形成している円弧状の壁30にまたがって、大円と小円を連結した形状の貫通穴29が形成されている。そして、上記貫通穴29の大円側がインク流路28Aの上部に連通し、貫通穴29の小円側が、略円弧状の壁24の先端部に設けられた連通口24Aを介して第5インク室34の上部に連通している。これにより、上記貫通穴29を介してインク流路28Aと第5インク室34とが連通している。
【0047】
そして、第2インク室16から連通口15A,26A,32B,27A等を通過してインク流路28Aに流入したインクは、フィルタ収容室9のフィルタ7でろ過されて貫通穴29の大円側に流れ込む。ついで、貫通穴29に流入したインクは、貫通穴29の小円側から連通口24Aを介して第5インク室34に流れ込むようになっている。上記貫通穴29の容器本体2表面側の開口も第1フィルム57で封止されている。
【0048】
ここで、上記枠状部14の開口側には、遮気性の第2フィルム56が溶着されている。すなわち、上記第2フィルム56は、枠状部14,壁10,15,22,24,30,42,区画壁26,27,32と溶着され、インク室や流路を形成している。
【0049】
一方、容器本体2の表面側には、カートリッジ挿入方向である矢印Yと平行な方向の仮想直線X−X'により第1の領域と第2の領域に分けられ、第1の領域には少なくとも差圧弁収容室とインク溝35が形成され、第2の領域には少なくとも大気通気室と大気連通溝が形成されている。
【0050】
上記差圧弁収容室33の下部とインク供給口4とは、表面側に形成されたインク溝35と、このインク溝35を覆う遮気性の第1フィルム57とからなる流路により連通されている。上記インク溝35は、上下端部がそれぞれ差圧弁収容室33およびインク供給口4に連通している。これにより、第5インク室34に流入したインクは、インク流通口25Aを通過し、差圧弁収容室33を通ってインク溝35で形成される流路からインク供給口4に流れるようになっている。
【0051】
また、容器本体2の表面には、インクの蒸発をできるだけ防止する蛇行した大気連通溝36と、上記大気連通溝36に連通し、差圧弁収容室33および大気連通溝36の周囲を囲む幅広の溝37とが形成されている。また、上記容器本体2の表面には、その第2インク室16に対応する領域に矩形状の凹部38が形成されている。
【0052】
上記矩形状の凹部38内には、一段下がりの状態で枠部39およびリブ40が形成されている。そして、これらに發インク性を有する通気性シート55が張設されることにより、上記矩形状の凹部38内が、大気連通溝36および溝37を介して大気に連通する大気通気室に形成されている。
【0053】
上記凹部38の奥面には貫通穴41が穿設され、第2インク室16内の長円状の壁42で区画された細長い領域43に連通されている。また、上記凹部38の通気性シート55よりも表面側の領域には大気連通溝36が連通している。さらに、上記細長い領域43の貫通穴41と反対側の端部には貫通穴44が穿設されている。この貫通穴44は、容器本体2の表面側に形成された連通用の溝45、および上記溝45と連通するよう穿設された貫通穴46を介して大気開放弁室であるバルブ収容室8に連通されている。
【0054】
上記バルブ収容室8には、第1インク室11に形成された大気連通路13Aに形成された通孔67に連通する貫通穴60が形成されている。これにより、大気連通溝36および溝37を通って凹部38に入った空気は、貫通穴41,細長い領域43,貫通穴44,46を介してバルブ収容室8に至り、バルブ収容室8から貫通穴60,通孔67,大気連通路13,13Aを介して第1インク室11に至るようになっている。
【0055】
また、上記バルブ収容室8は、そのカートリッジ挿入側(この実施例では下側)が開放されていて、後述するように、記録装置本体に設けられた識別片や作動杆が進入可能になっており、上部に上記作動杆の進入により開弁して常時開放弁状態を維持する大気開放弁が収容される。
【0056】
図6は、前述の第5インク室34および差圧弁収容室33近傍の断面構造を示す。なお、図示の右側が差圧弁収容室33のある容器本体2の表面側である。上記差圧弁収容室33には、バネ50とエラストマー等の弾性変形可能な材料により構成され、中心に貫通穴51を備えた膜弁52が収容されている。上記膜弁52はその周囲が環状の厚肉部52Aを有し、この厚肉部52Aに一体に形成された枠部54を介して容器本体2に固定されている。また、上記バネ50は、一端が膜弁52のバネ受け部52Bに当接され、他端が差圧弁収容室33を蓋する蓋体53のバネ受け部53Aに当接されて支持されている。
【0057】
このような構成により、第5インク室34からインク流通口25Aを通過したインクは、膜弁52によって流通を阻止される。この状態でインク供給口4の圧力が低下すると、その負圧により膜弁52がバネ50の付勢力に抗して弁座部25Bから離れ、インクは貫通穴51を通過してインク溝35で形成された流路を経由してインク供給口4に流れ込む。
【0058】
インク供給口4のインク圧力が所定の値に上昇すると、膜弁52がバネ50の付勢力によって弁座部25Bに弾接され、インクの流通が遮断される。このような動作を繰り返すことにより一定の負圧を維持しながらインクをインク供給口4から排出することができる。
【0059】
図7は、大気連通用のバルブ収容室8の断面構造を示す。なお、図示の右側が容器本体2の表面側である。上記バルブ収容室8を区画する壁には貫通穴60が穿設され、ここにゴム等の弾性部材により構成された押圧部材61がその周囲を容器本体2に支持されて移動可能に挿入されている。上記押圧部材61の進入側の先端には、弾性部材62に支持されて貫通穴60に常時付勢された弁体65が配置されている。上記弾性部材62は、この例では下端が突起63で固定され、中央部が突起64で規制された板バネが用いられている。
【0060】
一方、上記押圧部材61の反対側には、アーム66が配置されている。上記アーム66は、そのカートリッジ1の挿入方向側(この例では下端)が、後述する作動杆70より内側に位置する回動支点66Aを介して容器本体2に固定されている。また、上記アーム66は、その引き抜き側(この例では上部側)が作動杆70の進入路に斜めに突出している。上記アーム66の先端には、押圧部材61を弾圧する凸部66Bが形成されている。このような構成により、弁体65の開弁時に、上述したように、第1インク室11の上部に設けられた通孔67が、貫通穴60,バルブ収容室8,貫通穴46,溝45,貫通穴44,細長い領域43,貫通穴41を介して大気連通用の凹部38に接続される。
【0061】
また、上記バルブ収容室8には、アーム66よりも挿入側(この例では下側)に記録装置に対するカートリッジ1の適否を判断するための識別用凸部68が設けられている。この識別用凸部68は、インク供給針72(図8参照)にインク供給口4を連通させる前でかつ弁体65を開弁させる前に、識別片(作動杆)70による判定が可能な位置に設けられている。
【0062】
このような構成により、図8に示したように下面に作動杆70が立設されたカートリッジホルダ71にカートリッジ1が装填されると、作動杆70が傾斜したアーム66に当接し、カートリッジ1の押込みとともに押圧部材61を弁体65の側に傾斜させる。これにより弁体65が貫通穴60から離れ、前述したように貫通穴46,溝45,貫通穴44,領域43,貫通穴41を介して大気連通用の凹部38を大気開放させる。
【0063】
また、カートリッジホルダ71から引き抜かれた場合には、アーム66が作動杆70の支持を失うため、弾性部材62の付勢力により弁体65が貫通穴60を封鎖し、インク収容領域と大気との連通を断つ。
【0064】
つぎに、上記のように弁等の全ての部材が容器本体2に組み込まれた状態で、表面には、少なくとも凹部が形成されている領域を覆うように遮気性の第1フィルム57を貼付する。これにより、表面側には凹部と第1フィルム57により大気連通路となるキャピラリが形成される。
【0065】
ここで、上記キャピラリを含む流路の配置や流路の形成等について詳しく説明する。
【0066】
上記カートリッジ1では、上述したように、上記容器本体2の表面に、1枚の第1フィルム57が溶着されることにより、容器本体2表面に形成されたインク溝35,貫通穴29,インク溝18A,溝45,大気連通溝36および凹部38の開口がそれぞれ封止され、インク溝35,貫通穴29,インク溝18Aおよび溝45は、それぞれインク流路に形成され、大気連通溝36および凹部38は、それぞれ大気連通路に形成される。第1フィルム57を溶着した状態のカートリッジ1を図9に示す。
【0067】
このとき、第1フィルム57の容器本体2表面への溶着は、例えば、第1フィルム57を容器本体2表面に被せ、加熱加圧板で押圧することにより熱溶着することが行なわれる。
【0068】
ここで、大気連通溝36は、インクの蒸発をできるだけ防止するとともに流路抵抗を必要以上に大きくしないよう、複雑に屈曲させた細くて浅い溝が形成されている。したがって、大気連通溝36を第1フィルム57で封止する際には、溶着の際の高さを高精度に管理しないと、大気連通溝36が潰れて空気の流通を妨げてしまうおそれがある。一方、インク溝35等のインク流路を形成する凹部は、インク漏れを防ぐために溶着強度を重視して溶着することが望ましい。
【0069】
そこで、上記容器本体2の表面は、図10に示すように、インク溝35や貫通穴29等の主としてインク流路となる凹部が形成された領域(b)と、主として大気連通溝36が形成された領域(a)とに大略区分されるように流路を配置している。また、上記容器本体2表面の領域(a)と領域(b)との境界の部分に、流路を構成しない溝31を形成している。
【0070】
そして、第1フィルム57を容器本体2に溶着する際に1つの加熱加圧板で一度に加圧する範囲(以下「溶着範囲」という)を、主として溶着の高さ精度の管理を要する領域(a)と、主として溶着強度の管理を要する領域(b)とに分割し、それぞれの領域(a)(b)で独立して溶着条件の制御を行なうようにしている。このようにすることにより、溶着精度管理と溶着強度管理とを併せて行なうことができるうえ、比較的狭い面積の溶着状態を制御すればよくなることから、溶着の条件出しも比較的容易に行なえるようになる。
【0071】
さらに、言い換えれば、上記第1フィルム57の溶着範囲は、カートリッジ1内に負圧を発生させる差圧弁よりも下流側のインク流路となるインク溝35が形成された領域(b)と、他の領域(a)とに分割されている。すなわち、差圧弁を有するカートリッジ1では、比較的インク流路や大気連通路等の流路形状が複雑となることから、複雑な流路を容易に形成できる効果が顕著である。
【0072】
また、上記流路を構成しない溝31が、分割された溶着範囲(a)(b)の境界部に位置しているため、第1フィルム57を溶着させる溶着加圧面を、分割された溶着範囲(a)(b)同士の間でオーバーラップさせることができ、溶着装置の設計の自由度が向上する。図9において、57Aは第1フィルム57の、溝31に対応する部分に設けられた切欠部である。
【0073】
上記カートリッジ1は、図11に示すように、上記容器本体2の表面に、上記第1フィルム57を覆うオーバーシート59が貼着されている。このようにすることにより、第1フィルム57がオーバーシート59で保護されて第1フィルム57の破損によるインク漏れが防止され、インクの蒸発も防ぐことができる。図において、59Aはオーバーシート59の、溝31に対応する部分に設けられた切欠部である。
【0074】
上記オーバーシート59は、第1フィルム57の厚みより厚いものが用いられている。すなわち、上記カートリッジ1では、第1フィルム57の厚みが、オーバーシート59の厚みより薄く設定されている。このようにすることにより、第1フィルム57を溶着してインク溝35,18Aや大気連通溝36等を封止する際、第1フィルム57が容器本体2の表面に沿いやすいため、溶着強度や溶着精度の向上に有利である。また、比較的厚みの厚いオーバーシート59により第1フィルム57を有効に保護できる。
【0075】
また、上記オーバーシート59は、容器本体2の下面まで覆う延長領域59Bが形成され、上記延長領域59Bがインク注入口20および空気排出口21を覆っている。このように、インク注入口20や空気排出口21まで1枚のオーバーシート59で覆うことができ、工程の簡略化や部品点数の節減に有利である。
【0076】
一方、容器本体2の開口部には、上述したように、枠状部14,壁10,15,22,24,30,42,区画壁26,27,32に対して気密的になるよう、遮気性の第2フィルム56が熱溶着等により貼着される。そして、そのうえから蓋体3をかぶせて溶着等により固定される。これにより、各壁によって区画された領域が連通口や開口を介してのみ連通するように封止される。
【0077】
さらに、バルブ収容室8の開口側も、同様に熱溶着により遮気性の第3フィルム58で封止され、カートリッジ1に仕上げられる。このようにインク収容領域を遮気性の第1および第2フィルム56,57等により封止する構造を採ることにより、容器本体2を容易に成形できるばかりでなく、キャリッジの往復動に起因するインクの揺動を第1および第2フィルム56,57の膜変形により吸収してインク圧力をなるべく一定に維持することが可能となる。
【0078】
ついで、インク注入口20にインク注入管を挿通するとともに、空気排出口21を開放した状態で、十分に脱気したインクを注入する。注入が完了した後、インク注入口20および空気排出口21をフィルムおよびオーバーシート59で封止する。
【0079】
このように構成されたカートリッジ1は、弁等により大気との連通が断たれて保存されるため、インクの脱気度が十分に維持される。
【0080】
そして、カートリッジ1をカートリッジホルダ71に装填する際、当該カートリッジホルダ71に適合したカートリッジ1である場合には、インク供給口4がインク供給針72に挿通される位置まで進入し、また前述したように作動杆70により貫通穴60が開放され、インク収容領域が大気に連通し、またインク供給口4のバルブもインク供給針72により開弁される。
【0081】
一方、当該ホルダに適合しない場合には、インク供給口4がインク供給針72に到達する前に、識別用凸部68がホルダ71の識別片70Aに当接して進入が阻止される。この状態では、作動杆70もアーム66に到達できないため、弁体65が封止状態を維持し、インク収容領域の大気開放が阻止されてインクの蒸発を防止する。
【0082】
カートリッジ1がカートリッジホルダ71に正常に装着され、印刷が行なわれて記録ヘッド73によりインクが消費されると、インク供給口4の圧力が規定値以下に低下するため、前述のように膜弁52が開放される。また、インク供給口4の圧力が上昇すると膜弁52が閉弁する。このようにして、所定の負圧に維持されたインクが記録ヘッド73に流れ込む。
【0083】
記録ヘッド73でのインクの消費が進行すると、第1インク室11のインクが吸上げ流路18を介して第2インク室16に流れ込む。ここに流れ込んだ気泡は浮力により上昇し、インクだけが下部の連通口15Aを経由して第3インク室17に流れ込む。
【0084】
第3インク室17のインクは、略円形に形成された壁24下端部に形成された区画壁26の連通口26Aを通過して第4インク室23を通り、インク流路28A,28Bへ流れ込む。
【0085】
インク流路28Aを流れたインクは、フィルタ収容室9に流れ込んでフィルタ7でろ過される。上記フィルタ収容室9を通過したインクは、貫通穴29の大円側から小円側と流れ、連通口24Aを通過して第5インク室34の上部に流れ込む。
【0086】
ついで、第5インク室34に流入したインクは、インク流通口25Aを通過して差圧弁収容室33に流れ込み、前述したように膜弁52の開閉動作により所定の負圧でインク供給口4に流れ込む。
【0087】
ここで、第1インク室11は、大気連通路13,13Aおよび通孔67,バルブ収容室8等を介して大気に連通されており、大気圧に維持されているため、負圧が発生してインクの流れを阻害することにはならない。仮に、第1インク室11のインクが逆流して凹部38まで流れ込んだとしても、ここには發インク性の通気性シート55が設けられているから、この通気性シート55により大気との連通は維持しつつインクの流出が阻止される。これにより、大気連通溝36にインクが流れ込んで固化する等により大気連通溝36が閉塞するような不都合を未然に防止できる。
【0088】
このように、上記カートリッジ1では、容器本体2表面に形成したインク溝35等や大気連通溝36を形成し、それらの開口を第1フィルム57で封止することにより流路を形成するため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【0089】
なお、上記各実施の形態では、フィルタ7として円柱状のものを用いた例を示したが、これに限定するものではなく、ブロック状を呈したフィルタであれば、各種の形状大きさのものを含む趣旨である。
【0090】
以上のように、本発明のインクカートリッジによれば、容器表面にインク用凹部や大気連通溝を形成し、それらの開口をフィルムで封止することにより流路を形成するため、インク流路や大気連通路等の比較的複雑な流路が形成された容器を容易に成形することができ、成形型の設計や加工等が容易になり、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明のカートリッジが用いられるインクジェット式記録装置を示す斜視図である。
【図2】本発明のカートリッジの一実施の形態を示す分解斜視図である。
【図3】上記カートリッジを示す分解斜視図である。
【図4】容器本体の開口部の状態を示す図である。
【図5】容器本体の表面の状態を示す図である。
【図6】差圧弁収容室の断面構造を拡大して示す図である。
【図7】バルブ収容室の断面構造を拡大して示す図である。
【図8】カートリッジホルダの一例を示す図である。
【図9】第1フィルムを溶着した状態を示す図である。
【図10】本発明のカートリッジの流路配置を説明する図である。
【図11】オーバーシートを溶着した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1…カートリッジ、2…容器本体、3…蓋体、4…インク供給口、5…把持アーム、6…把持アーム、7…フィルタ、8…バルブ収容室、9…フィルタ収容室、10…壁、11…第1インク室、12…壁、13…大気連通路、13A…大気連通路、14…枠状部、14A…上面、15…壁、15A…連通口、16…第2インク室、17…第3インク室、18…吸上げ流路、18A…インク溝、19…壁、19A…連通口、19B…連通口、20…インク注入口、21…空気排出口、22…壁、23…第4インク室、24…壁、24A…連通口、25…壁、25A…インク流通口、25B…弁座部、26…区画壁、26A…連通口、27…区画壁、27A…連通口、28A…インク流路、28B…インク流路、29…貫通穴、30…壁、31…溝、32…区画壁、32A…連通口、32B…連通口、33…差圧弁収容室、34…第5インク室、35…インク溝、36…大気連通溝、37…溝、38…凹部、39…枠部、40…リブ、41…貫通穴、42…壁、43…細長い領域、44…貫通穴、45…溝、46…貫通穴、47…連通口、48…開口部、49…記憶手段、50…バネ、51…貫通穴、52…膜弁、52A…厚肉部、52B…バネ受け部、53…蓋体、53A…バネ受け部、54…枠部、55…通気性シート、56…第2フィルム、57…第1フィルム、57A…切欠部、58…第3フィルム、59…オーバーシート、59A…切欠部、59B…延長領域、60…貫通穴、61…押圧部材、62…弾性部材、63…突起、64…突起、65…弁体、66…アーム、66A…回動支点、66B…凸部、67…通孔、68…識別用凸部、70…作動杆、70A…識別片、71…カートリッジホルダ、72…インク供給針、73…記録ヘッド、75…キャリッジ、76…記録紙、77…タイミングベルト、78…ガイドバー、79…ステッピングモータ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク供給口を備えた容器を有するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、
大気連通路となる大気連通溝と、
上記容器の表面に設けられ、上記大気連通溝を介して大気に連通する大気連通室となる凹部と、
を備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
上記凹部は上記容器の表面に設けられたフィルムによって封止されている請求項1記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
上記凹部は矩形状であることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
上記凹部内に枠部及びリブが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
上記枠部及びリブに發インク性を有する通気性シートが設けられていることを特徴とする請求項4に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
インク供給口を備えた容器を有するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、
大気連通路となる大気連通溝と、
上記容器の表面に設けられ、上記大気連通溝を介して大気に連通する大気連通室となる凹部と、
上記凹部を覆うように上記容器の表面に設けられたフィルムと、
上記フィルムを覆うオーバーシートと、
を備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項7】
インク供給口を備えた容器内部にインクが収容され、容器内部に収容されたインクを差圧弁を介してインク供給口に供給するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、
上記容器の表面に、上記差圧弁を収容する差圧弁収容室と、大気連通路となる大気連通用凹部とが、上記インクカートリッジの上記記録装置への挿入方向に延びる仮想の境界線を境界にした第1の領域と第2の領域とにそれぞれ形成され、
上記大気連通用凹部の開口が封止されることにより、大気連通用凹部が大気連通路になること
を特徴とするインクカートリッジ。
【請求項1】
インク供給口を備えた容器を有するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、
大気連通路となる大気連通溝と、
上記容器の表面に設けられ、上記大気連通溝を介して大気に連通する大気連通室となる凹部と、
を備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
上記凹部は上記容器の表面に設けられたフィルムによって封止されている請求項1記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
上記凹部は矩形状であることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
上記凹部内に枠部及びリブが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
上記枠部及びリブに發インク性を有する通気性シートが設けられていることを特徴とする請求項4に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
インク供給口を備えた容器を有するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、
大気連通路となる大気連通溝と、
上記容器の表面に設けられ、上記大気連通溝を介して大気に連通する大気連通室となる凹部と、
上記凹部を覆うように上記容器の表面に設けられたフィルムと、
上記フィルムを覆うオーバーシートと、
を備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項7】
インク供給口を備えた容器内部にインクが収容され、容器内部に収容されたインクを差圧弁を介してインク供給口に供給するインクジェット記録装置用のインクカートリッジであって、
上記容器の表面に、上記差圧弁を収容する差圧弁収容室と、大気連通路となる大気連通用凹部とが、上記インクカートリッジの上記記録装置への挿入方向に延びる仮想の境界線を境界にした第1の領域と第2の領域とにそれぞれ形成され、
上記大気連通用凹部の開口が封止されることにより、大気連通用凹部が大気連通路になること
を特徴とするインクカートリッジ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−106137(P2007−106137A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20650(P2007−20650)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【分割の表示】特願2002−143629(P2002−143629)の分割
【原出願日】平成14年5月17日(2002.5.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【分割の表示】特願2002−143629(P2002−143629)の分割
【原出願日】平成14年5月17日(2002.5.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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