説明

インクカートリッジ

【課題】インクカートリッジが取り外される際にプリンタ内にインク滴が垂れ落ちるのを低減する。
【解決手段】インクカートリッジ20は、内部にインクを貯溜するインク室と、側面20aから突出し先端面22aにインク供給口24が形成されたインク供給部22と、側面20aのインク供給部22の下方位置から突出した突出部30とを有している。インク供給部22と突出部30はいずれも側面20aから装着方向に突出しており、突出部30の先端面30aが先端面22aより側面20aから離れている。突出部30の上面及び下面には、インクを毛管力によって保持する微小間隔を構成する谷部33が複数形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクが貯溜されたインクカートリッジに関し、特に、プリンタに装着されたインクカートリッジを取り外す際にプリンタ内にインク滴が垂れ落ちることを低減するインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のインクカートリッジが平置きに並置されるインクジェット式記録装置が開示されている。インクカートリッジの容器本体の1の面には、インク供給口が形成されており、そのインク供給口にインクジェット式記録装置に設けられたインク供給針が挿入されて、インクカートリッジ内のインクがインクジェット式記録装置に供給される。インクカートリッジの容器本体の内部には、インク袋が収納されており、そのインク袋の内側と外側とはシール供給蓋により連通が遮断されている。シール供給蓋の内側には、バネ座が設けられており、そのバネ座がバネによりシール供給蓋方向に付勢され、シール供給蓋とバネ座とが当接して連通が遮断されている。よって、インク供給針がインク供給口に挿入された場合には、バネ座が反付勢方向に押されてインクの流路が形成される。
【0003】
【特許文献1】特開2005−238815号公報(図1及び図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のインクジェット式記録装置においては、インク供給口からインクカートリッジ内に挿入されたインク供給針にはインクが付着するため、インクカートリッジを取り外す際にインク供給針に付着したインクがインク供給口に乗り移り、インク供給口からインクカートリッジの装着部に垂れ落ちることがあった。また、インク供給針に付着するインクは、インク供給口から抜出された後でもインク供給針の先端に残留していることがあり、インク供給針が水平方向に突出して形成されているので、インク供給針の先端からインクカートリッジの装着部に垂れ落ちてしまうことがあった。このようにインクカートリッジの装着部にインク滴が垂れると、インクジェット式記録装置内が汚れるだけでなく、新たに装着された別のインクカートリッジにインクが付着して汚れてしまうという問題点があった。
【0005】
特に、インク供給口の連通の遮断を、バネ付勢されたインク供給口を開閉する弁を有するバルブ機構で行う場合には、かかる汚れの問題がより深刻になる。これは、弁がバネの付勢力によりインク供給口を閉じる方向に移動するため、インク供給口付近のインクがインク供給口の外に向けて押されるからであり、最悪の場合には、多量のインクがインク供給口から外部に垂れ落ちてしまうという問題点があった。
【0006】
なお、特許文献1のインクカートリッジは、そのインクカートリッジの一の面にインク供給口が形成されているが、その他に、インクカートリッジの一の面から外方に突出するインク供給部を有し、そのインク供給部の突出先端にインク供給口が形成されたインクカートリッジもある。インク供給部の突出先端にインク供給口が形成されるインクカートリッジであっても、上記のバルブ機構を備え平置きされる場合には、インク滴の垂れ落ちが発生する。即ち、バルブ機構を備えるインクカートリッジが平置きされるインクジェット式記録装置では、インクカートリッジの形状に関わらず、インク滴の垂れ落ちが発生して装着部が汚れやすいという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、インクカートリッジが取り外される際にプリンタ内にインク滴が垂れ落ちるのを低減するインクカートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクカートリッジは、プリンタに装着されたときにインクをプリンタに供給するインクカートリッジであって、インクが貯溜されたインク貯溜室と、前記インク貯溜室に貯溜されたインクを排出する供給口と、前記供給口を介したインク供給方向に関して前記供給口と交差する方向に突出し、前記インク供給方向に関して前記供給口よりも外側に突出先端を有する突出部とを備えている。そして、前記突出部には、前記供給口から排出されたインクを毛管力によって保持する複数の微小間隙が形成されている。
【0009】
これによると、プリンタに装着されたインクカートリッジを取り外す際に供給口からインクが垂れ落ちたとしても、これを突出部で受けるとともに、微小間隙における毛管力によって保持することができる。そのため、インクカートリッジを取り外す際に供給口から垂れ落ちたインク滴によってインクカートリッジを装着するプリンタが汚されるという問題を極力回避することができる。
【0010】
本発明において、前記突出部が前記インク供給方向と平行に突出していることが好ましい。また、このとき、前記突出部が前記プリンタに装着されるときの姿勢である装着姿勢にあるときに側面となる一端面から突出していると共に、前記供給口が前記一端面又は前記一端面から突出した位置に形成されていてもよい。これにより、インクカートリッジの構造が単純となって製造しやすい。
【0011】
また、このとき、前記装着姿勢にあるときに、前記突出部が、前記供給口の下方に位置していてもよい。これにより、突出部が供給口から自由落下したインク滴をより確実に受け取って保持することができる。
【0012】
また、本発明において、前記微小間隙の間隔が、5mm以下であることが好ましい。これにより、垂れ落ちてきたインク滴を確実に捕捉することができる。
【0013】
また、本発明において、前記複数の微小間隙が、前記突出部の前記供給口側に形成されていることが好ましい。これにより、垂れ落ちてきたインク滴を突出部で受けると同時に捕捉することができる。
【0014】
また、このとき、前記突出部には、鋭角に交わる2つの平面からなる谷部が複数連続して形成されており、各谷部が前記微小間隙を構成していてもよい。これによると、谷部の2つの平面が交差する交差点に近づくに連れてより大きな毛管力が生じる。そのため、垂れ落ちてきたインク滴をより確実に捕捉することができる。また、複数の谷部が連続して形成されているので、垂れ落ちてきたインク滴をより多く保持することができる。
【0015】
また、このとき、前記突出部には、所定方向に配列する複数の凸部が形成され、隣接する凸部の対向面は互いに平行であり、隣接する凸部間の空間が前記微小間隙を構成していてもよい。これにより、複数の凸部間で垂れ落ちてきたインク滴を保持することができる。
【0016】
また、本発明において、前記突出部には、複数の貫通孔が形成されており、各貫通孔の内壁面が前記微小間隙を構成することが好ましい。これにより、複数の貫通孔内で垂れ落ちてきたインク滴を保持することができる。また、貫通孔が複数形成されているので、垂れ落ちてきたインク滴をより多く保持することができる。
【0017】
また、本発明において、前記プリンタに装着された際に、前記突出部が挿入される挿入部が前記プリンタに形成されており、前記突出部が、前記挿入部の内周面形状に対応した断面形状を有しており、前記プリンタに装着された際に、前記挿入部の内部に設けられた前記突出部の有無を検知する検知手段によって検知されることが好ましい。これにより、突出部を、インクカートリッジがプリンタに装着されたことの検知と垂れ落ちたインク滴の保持とに兼用することができるので、インクカートリッジの構造が簡略化される。また、プリンタに装着した際に、インクカートリッジの正確な位置決めができる。
【0018】
また、本発明において、前記供給口からインクが排出される状態と、前記供給口からインクが排出されない状態とを切換可能なバルブをさらに備えていることが好ましい。これによると、バルブが設けられていることで、インクカートリッジからインクが排出される状態とインクが排出されない状態とを切り換えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態によるインクカートリッジが採用されたインクジェットプリンタの概略構成図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、記録用紙Pに向けてインクを吐出する複数のノズル2aを有するインクジェットヘッド2と、インクカートリッジ20が装着される装着部16と、インクジェットヘッド2と装着部16に装着されたインクカートリッジ20とを連通させる可撓性のチューブ15と、インクジェットヘッド2を一方向に直線的に往復移動させるキャリッジ5と、記録用紙Pを搬送する搬送機構6と、インクジェットヘッド2内のエアや高粘度化したインクを吸引するパージ装置7とを含んでいる。
【0021】
記録用紙Pに対する印刷に際して、インクジェットプリンタ1のインクジェットヘッド2がキャリッジ5により図1の紙面垂直方向に往復移動され、記録用紙Pが搬送機構6により図1の紙面左右方向に搬送される。インクジェットヘッド2は記録用紙Pに対して所定間隔を介して対向配置され、互いに交差する方向に相対移動される。インクジェットヘッド2の往復移動と記録用紙Pの搬送移動とは、図示しない制御手段により同期して行われ、インクジェットヘッド2が記録用紙Pを横切るごとにノズル2aからインクが吐出されて印刷が行われる。このインクは、装着部16に装着されたインクカートリッジ20からチューブ15を介してインクジェットヘッド2に供給されている。なお、ノズル2aからインクが吐出されていない状態で、ノズル2aからインクが漏れるのを防止するために、ノズル2aは、装着部16及びインクカートリッジ20よりも高い位置に配置されている。
【0022】
パージ装置7は、インク吐出面に対して接近及び離隔する方向に移動可能で且つインク吐出面を覆うようにインクジェットヘッド2に装着可能なパージキャップ10と、ノズル2aからインクを吸引する吸引ポンプ11とを含んでいる。そして、インクジェットヘッド2が記録用紙Pに印刷可能な印刷範囲外にあるときは、吸引ポンプ11により、インクジェットヘッド2内に混入したエアや水分が蒸発して高粘度化したインクをノズル2aから吸引することが可能である。このパージ動作により、インクジェットヘッド2のインク吐出特性が回復される。
【0023】
装着部16は、図1に示すように、右方に向かって開口した凹部16aが形成されている。そして、この凹部16aの開口からインクカートリッジ20が左方に向けて水平方向に挿入され、装着部16にインクカートリッジ20が装着される。一方、インクカートリッジ20を装着部16から取り外す場合は、インクカートリッジ20の右端を右方に平行に引っ張ることで凹部16aから取り外される。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態によるインクカートリッジ20の概略斜視図である。図3(a)は、インクカートリッジ20が装着部16に装着される直前の状態を示す部分断面図であり、図3(b)はインクカートリッジ20が装着部16に装着されたときの状態を示す部分断面図である。
【0025】
インクカートリッジ20は、図1及び図2に示すように、略直方体形状の外形を有し、インクが充填されたインク室(インク貯溜室)21が内部に形成されている。図1に示すように、装着部16にインクカートリッジ20が装着されたときにおいて、装着部16の側面16b(凹部16の底面となる面)と対向するインクカートリッジ20の側面20aには、側面20aから側面16bに向かう方向(すなわち、装着部16に対してインクカートリッジ20を装着する装着方向)に突出した円筒状のインク供給部22が形成されている。インク供給部22の内部には装着方向に貫通する貫通部23が形成されており、インク室21と連通している。この貫通部23がインクを外部に供給するインク供給流路を形成しており、インク供給流路によるインク供給方向は装着方向と平行となる。そして、図3(a)に示すように、インク供給部22の先端面22aには、インク室21から装着方向(インク供給方向)に流れてくるインクが排出されるインク供給口(貫通部23の一方の開口)24が形成されている。先端面22aはインク供給方向と直交する面であり、よって、インク供給口24はインク供給方向と直交する面内に画定されている。
【0026】
貫通部23の中央よりややインク供給口24側には、図3(a)に示すように、円筒状のシール部材25が設けられている。シール部材25は、ゴム等の弾性材料によって構成されており、後述するインク供給針17の外周側面と弾性的に圧接することで、装着部16に対してインクカートリッジ20が装着されているときにおいて貫通部23とインク供給針17の外周側面との間からインクが外部に漏れ出すのを防ぐものである。また、貫通部23のインク室21側には、インク供給口24よりもその径が拡大した拡径部26が形成されている。拡径部26は、貫通部23のインク室21側の端部から中央近傍まで延在している。そして、この拡径部26内には、コイルバネ27とバルブ28とが配置されている。コイルバネ27は、拡径部26のインク室21側に配置されており、バルブ28を装着方向に付勢している。バルブ28は、拡径部26の径とほぼ同じ大きさの径を有しており、コイルバネ27によって貫通部23の段差面29と当接するように付勢されていることでインク室21内のインクが外部に漏れ出すのを防いでいる。つまり、バルブ28とコイルバネ27とが設けられていることで、インクカートリッジ20からインクが排出される状態とインクが排出されない状態とを切り換えることができる。なお、バルブ28は、後述するようにインク供給針17に押し込まれることで、段差面29との当接が解除され、このときインク室21内のインクがインク供給針17内に流れ込む。
【0027】
また、インクカートリッジ20には、図2に示すように、側面20aから装着方向(先端面22aに対して垂直方向)に突出した突出部30が形成されている。突出部30は、装着方向に対して垂直な面によって切られた断面外形形状がいずれにおいても同じ形状であるように、一様に装着方向に延在して形成されている。突出部30は、側面20aの下端近傍であってインク供給部22の下方に配置されている。また、突出部30は、インク供給部22よりも側面20aからの突出距離が大きくなっており、その先端面(突出先端)30aが、図3(a)に示すように、先端面22aよりも側面20aから離れている。さらに、突出部30は、インクカートリッジ20の幅方向(図2中左右方向)に関して、インクカートリッジ20の幅とほぼ同じ距離だけ延在しており、上面視おいて、インク供給部22の全体と重なっている。
【0028】
また、突出部30の上面及び下面は、互いに鋭角に交差することで谷部33を形成する複数の傾斜面31,32を有しており、複数の谷部33がインクカートリッジ20の幅方向に関して連続して形成されている。つまり、突出部30の上面及び下面は、ジグザグ形状となっている。なお、傾斜面31,32は平らな面となっている。本実施形態における谷部33には、隣接する谷部33の境界線34間及び突出部30のインクカートリッジ20の幅方向の両端に位置する傾斜面31,32の頂線35と境界線34との間に微小間隙38が構成されており、これら微小間隙38の間隔tが最大5mm以下となるように形成されている。このように、微小間隔38の間隔tが5mm以下であると、谷部33には毛管力が生じる。そのため、インク供給部22の先端面22a及びインク供給針17の先端面17aから垂れ落ちてきたインク滴を複数の谷部33で受けつつ保持することができる。加えて、微小間隙38は、1つの谷部33における傾斜面31,32の交差点に近づくに連れてその間隔が小さくなるので毛管力が増大する。そのため、傾斜面31,32の交差点近傍では最も大きな毛管力が生じているので、受け取ったインク滴を谷部33からほとんど移動しないように保持することができる。なお、インクの保持力を強めたい場合は、微小間隙38の間隔tを2mm以下として毛管力を強めることが好ましい。
【0029】
装着部16には、図3(a)及び(b)に示すように、装着部16にインクカートリッジ20が装着されたときにおいて、インク供給口24を通って貫通部23に挿入される円筒状のインク供給針17が形成されている。このインク供給針17の先端面17aは、側面16bよりも若干突出した位置に存在している。また、装着部16の外側側面16cには、チューブ15の一端と接続される円筒状のジョイント部14が形成されている。そして、装着部16には、インク供給針17内の貫通部17bとジョイント部14内の貫通部14aとを連通させる連通孔16dが形成されている。この構成により、インク室21からインク供給針17内に流れ込んだインク(すなわち、インク室21からインク供給方向に供給されたインク)が連通孔16d及びジョイント部14の貫通部14aを介してチューブ15内に流れ、インク室21内のインクがインクジェットヘッド2に供給される。
【0030】
また、側面16bのインク供給針17を囲む領域には、装着部16にインクカートリッジ20が装着されたときにおいて、インク供給部22と嵌合可能な環状溝18が形成されている。環状溝18は、インク供給部22の側面20aからの突出距離とほぼ同じ距離の深さ、あるいは若干大きな深さを有している。また、インク供給針17の先端面17aには、その先端面17aの一部を欠落させる図示しない切り欠きが設けられている。
【0031】
また、装着部16の側面16bには、装着部16にインクカートリッジ20が装着されたときにおいて、突出部30が挿入される挿入部19が形成されている。挿入部19は、図3(a)に示すように凹形状に形成されている。また、挿入部19の開口19a形状は、突出部30の先端面30aの外形形状とほぼ同じ形状であって、大きさもほぼ同じあるいは若干大きくなっている。そして、挿入部19は開口19aと同じ形状で装着方向に延在して形成されている。つまり、挿入部19の内周面形状は、突出部30の断面外形形状と対応している。これにより、インクカートリッジ20を装着部16に装着したときに突出部30が挿入部19内に嵌合されるので、インクカートリッジ20が装着部16において正確に位置決めされる。さらに、装着部16に対して異なるインクカートリッジの誤装着を防ぐことができる。具体的には、カラーインクジェットプリンタなどのように、インク色が複数色(例えば、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラック)必要な場合、インクカートリッジもこれに対応した色のインクが充填された複数のインクカートリッジが必要となる。この場合に、例えば、ブラックのインクが充填されたブラックインクカートリッジと、イエローのインクが充填されたイエローインクカートリッジとが装着される装着部がそれぞれ隣接しているとき、誤って、ブラックインクカートリッジをイエローインクカートリッジが装着される装着部に装着してしまうことがある。そこで、イエローインクカートリッジ及びブラックインクカートリッジの突出部の先端面の形状をそれぞれ異なる形状とする。つまり、各色のインクが充填されたインクカートリッジの突出部の先端面の形状をそれぞれ異なる形状とし、さらに挿入部の内周面形状を対応するインクカートリッジの突出部の断面外形形状に対応させることで、異なる色のインクカートリッジの誤装着を防ぐことができる。その結果、プリンタのインク供給路内において混色を防ぐことができる。
【0032】
また、挿入部19内の装着方向における奥部には、可動片を備えたスイッチ(検知手段)13が設けられている。スイッチ13の可動片は、図示しないバネなどにより挿入部19の奥部の面から突出するように付勢されており、装着部16にインクカートリッジ20が装着されたときに、挿入部19内に挿入された突出部30の先端面30aによって押し込まれる。スイッチ13は、可動片が押し込まれることで検知信号を図示しない制御手段に送信する。これにより、インクカートリッジ20が装着部16に完全に装着されているかどうか、制御手段が判定することができる。そのため、インクカートリッジ20が完全に装着されていない状態でインクカートリッジ20内のインクをインクジェットヘッド2側に供給することがなくなるので、インクカートリッジ20が装着部16に対して半装着状態(インク供給針17がバルブ28を押す直前程度までインクカートリッジ20が装着部に装着された状態)又は装着されていない状態で、インク供給針17からインクを吸い込もうとしなくなる。その結果、インク供給針17から空気をほとんど吸い込まなくなり、インクジェットヘッド2が吐出不良となるような空気溜まりがインクジェットヘッド2内に生じにくくなる。また、突出部30を、インクカートリッ20がプリンタに完全に装着されたことの検知と、垂れ落ちたインク滴の保持とに兼用することができるので、インクカートリッジ20の構造が簡略化される。
【0033】
続いて、インク供給部22の先端面22aからインク滴が垂れ落ちるときの状況及び垂れ落ちたインク滴を突出部30で保持する状況について以下に説明する。図4は、インク供給口からインクが突出部に垂れ落ちるときの状況及びその垂れ落ちたインク滴を突出部30で保持するときの状況の経過を示す図である。装着部16にインクカートリッジ20を装着したとき、すなわち、図3(a)の状態から図3(b)の状態にインクカートリッジ20を移動したときに、インク供給針17の先端面17aがバルブ28をバネ27に抗する方向に押す。このとき、インク供給針17の外周側面とシール部材25とは常に接触しているので、インク室21及び貫通部23の拡径部26内に存在するインクが、シール部材25を越えてインク供給口24側には流出せずに、先端面17aの切り欠きからインク供給針17内の貫通部17bにインクが流れ込む。そして、インク供給針17内に流れ込んだインクがチューブ15を介してインクジェットヘッド2へ流れる。
【0034】
このように最初に装着部16にインクカートリッジ20を装着する場合は、インク供給部22からインクが外部にほとんど漏れ出すことはないが、インク室21内のインクが減少し、インクカートリッジ20を装着部16から取り外す際に、インク供給部22から外部にインクが漏れ出す虞がある。つまり、図3(b)の状態からインクカートリッジ20を装着部16から取り外すときであって、インク供給針17を貫通部23から抜くとき(すなわち、バルブ28が段差面29と当接する位置に戻るとき)に、インク供給口24から微量のインクが漏れることがある。これは、バルブ28の段差面29と当接する位置に戻るときの移動により、拡径部26内のインクがインク供給口24に向けて押し出されること、及び、インク供給針17の先端に纏わり付いたインクが、インク供給針17がインク供給口24から抜け出す際にそのインク供給口24に乗り移って付着すること、による。そして、インク供給口24に付着したインクは、図4(a)に示すように、インク供給部22の先端面22aにおいてインクが表面張力で保持された状態になるが、そのインク量が表面張力で保持しきれないほどに多いときは、図4(b)に示すように、下方にインク滴が垂れ落ちる。また、インク供給針17の先端に纏わり付いたインクがインク供給口24から抜け出した後に、直接落下することも起こりえる。
【0035】
下方に垂れ落ちたインク滴は、図4(c)に示すように、突出部30の上面のほぼ中央で受け止められ、傾斜面31,32に沿って複数の谷部33に広がる。そして、複数の谷部33に広がったインク滴は各谷部33によって保持される。つまり、突出部30の上面及び下面には強い毛管力を発生させる複数の谷部33が存在するため、突出部30全体でインクを保持することができる。そのため、比較的多くのインク滴を保持することが可能となる。さらに、突出部30は、図3(a)に示す状態(インク供給針17と突出部30とが平面視において重なっているとき)において、インク供給針17の先端面17aからインク滴が垂れ落ちてきたときに、突出部30で受け止め、そしてインク滴を保持することができる。また、垂れ落ちたインク滴を受け止める突出部30にインク滴を保持する毛管力が作用しているため、装着部16から取り外されたインクカートリッジ20がどのような姿勢で取り扱われたとしても、インク滴は落下し難くなっている。
【0036】
以上のように、本実施形態におけるインクカートリッジ20は、インクカートリッジ20を装着部16から取り外すときにおいて、インク供給口24及び先端面22aから垂れ落ちてきたインク滴を突出部30で受けるとともに、突出部30の微小間隙38における毛管力によってそのインク滴を保持することができる。そのため、インク供給針17の先端面17a、インク供給口24及び先端面22aから垂れ落ちたインク滴によってプリンタの装着部16が汚れにくくなる。
【0037】
また、突出部30がインク供給部22と同様に同じ側面20aから突出しているので、先端面22aから垂れ落ちてきたインク滴を受けて保持することができるとともに、インクカートリッジ20の構造が単純となって製造しやすくなる。また、突出部30がインク供給部22の下方に存在するので、先端面22aから自由落下したインク滴をより確実に受け取って保持することができる。微小間隙38の間隔tが5mm以下であるため、突出部30で受け取ったインク滴を確実に捕捉することができる。複数の微小間隙38が突出部30の上面側、すなわち、インク供給部22側に形成されているので、垂れ落ちてきたインク滴を受け取ると同時に捕捉することができる。そのため、受け取ったインク滴が突出部30上において移動しにくくなる。したがって、移動に伴う突出部30からの垂れ落ちを防ぐことができる。
【0038】
続いて、第1〜第5変形例について、以下に説明する。図5は、第1変形例によるインクカートリッジ220の概略斜視図である。図6は、第2変形例によるインクカートリッジ320の概略斜視図である。図7は、第3変形例によるインクカートリッジ420の概略斜視図である。図8は、第4変形例によるインクカートリッジ520の概略斜視図である。図9は、第5変形例によるインクカートリッジ620の概略斜視図である。これら変形例によるインクカートリッジ220〜620は、上述したインクカートリッジ20の突出部30が異なる構成を有しているだけでそれ以外は同じ構成となっている。したがって、インクカートリッジ20と同様なものは、同符号で示し説明を省略する。
【0039】
第1変形例によるインクカートリッジ220の突出部230は、図5に示すように、上述した突出部30を、平面視において、90度回転させたものとほぼ同様である。つまり、突出部230の上面及び下面は、互いに鋭角に交差することで谷部233を形成する複数の傾斜面(平面)231,232を有しており、複数の谷部233が装着方向に関して連続して形成されている。本変形例における谷部233には、隣接する谷部233の境界線234間及び突出部230の装着方向に平行な方向の両端に位置する傾斜面231,232の頂線235と境界線234との間に微小間隙238が構成されており、これら微小間隙238の間隔t1が5mm以下となるようなに形成されている。また、突出部230は、平面視において、上述の突出部30と同じ大きさを有している。つまり、突出部230の先端面230aは、インク供給部22の先端面22aよりも側面20aから離れている。このような第1変形例によるインクカートリッジ220においても、上述のインクカートリッジ20と同様に、先端面22a、インク供給口24及びインク供給針17の先端面17aから垂れ落ちたインク滴を受けつつ保持することができる。
【0040】
第2変形例によるインクカートリッジ320の突出部330は、図6に示すように、上述した突出部30の下面に複数の谷部33が設けられていないものと同様である。そのため、下面側においてインク滴を保持することはできないが、下面に複数の谷部33が形成されていないので、その分だけ突出部330の構成が単純となって、製造しやすくなる。なお、突出部330は上面側に複数の谷部33が形成されているので、インクカートリッジ320は、上述したインクカートリッジ20と同様な効果を得ることができる。
【0041】
第3変形例によるインクカートリッジ420の突出部430は、図7に示すように、上面から上方に向かって突出した複数の凸部433がインクカートリッジ420の幅方向に関して並設されている。隣接する凸部433の対向面は互いに平行であり、その間には微小間隙438が構成されている。そして、微小間隙438の間隔t2は、5mm以下となるようなに形成されている。また、突出部430は、平面視において、上述の突出部30と同じ大きさを有している。つまり、突出部430の先端面430aは、インク供給部22の先端面22aよりも側面20aから離れている。このような突出部430が形成されたインクカートリッジ420においても、第2変形例と同様な効果を得ることができる。
【0042】
第4変形例によるインクカートリッジ520の突出部530は、図8に示すように、直方体形状を有している。また、突出部530には、上下方向に貫通した複数の貫通孔533が形成されており、これら貫通孔533の内壁面が微小間隙538を構成している。微小間隙の間隔、すなわち、貫通孔533の直径は5mm以下となっている。このように貫通孔533の直径が5mm以下となっていることで、微小間隙538に毛管力が生じる。また、突出部530は、平面視において、上述の突出部30と同じ大きさを有している。つまり、突出部530の先端面530aは、インク供給部22の先端面22aよりも側面20aから離れている。このような突出部530が形成されたインクカートリッジ520においても、先端面22a、インク供給口24及びインク供給針17の先端面17aから垂れ落ちたインク滴を突出部530の上面で受けつつ複数の貫通孔533内でインクを保持することができる。また、複数の貫通孔533が突出部530に形成されているので、多くのインク滴を保持することが可能となる。さらに、複数の貫通孔533内において保持されたインクは、インク滴が突出部530の上面に落ちてくるとそのインク滴と一体化しようとする。そのため、突出部530の上面に溜まったインクが貫通孔533内のインクによってその移動が保持されるので、より多くのインク滴を突出部530で受け取って保持することができる。
【0043】
第5変形例によるインクカートリッジ620の突出部630は、図9に示すように、直方体形状を有している。また、突出部630には、インクカートリッジ620の幅方向に関して貫通した複数の貫通孔633が形成されており、これら貫通孔633の内壁面が微小間隙638を構成している。微小間隙の間隔、すなわち、貫通孔633の直径が5mm以下となっている。このように貫通孔633の直径が5mm以下となっていることで、微小間隙638に毛管力が生じる。また、突出部630は、平面視において、上述の突出部30と同じ大きさを有している。つまり、突出部630の先端面630aは、インク供給部22の先端面22aよりも側面20aから離れている。このような突出部630が形成されたインクカートリッジ620においても、先端面22a、インク供給口24及びインク供給針17の先端面17から垂れ落ちたインク滴を突出部630の上面で受けることができる。そして、上面において広がったインク滴が突出部630のインクカートリッジ620の幅方向の側面を伝い、貫通孔633内に流れ込むことで、貫通孔633内においてその流れ込んだインクを保持することができる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述した実施形態及び各変形例においては、突出部30,230,330,430,530,630の突出方向が、装着方向に対して傾いていてもよい。この場合、挿入部19を傾いた突出方向と同じ方向に傾くように形成する。また、装着部16にインクカートリッジ20が装着されたときに、突出部30を検知する検知手段であるスイッチ13は、特に物理的に検知する方式に限るものではなく、光や赤外線などによる光学的な検知センサであってもよい。つまり、突出部30を検知することでインクカートリッジ20が完全に装着されていることを検知することができればよい。また、インク供給部22は、側面20aから突出して形成されているが、突出していなくてもよい。この場合、インク滴は側面20aを伝って突出部30,230,330,430,530,630上に垂れ落ちる。この場合においても、突出部30,230,330,430,530,630は上述と同様にインクを受けて保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態によるインクカートリッジが採用されたインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態によるインクカートリッジの概略斜視図である。
【図3】(a)はインクカートリッジが装着部に装着される直前の状態を示す部分断面図であり、(b)はインクカートリッジが装着部に装着されたときの状態を示す部分断面図である。
【図4】インク供給口からインクが突出部に垂れ落ちるときの状況及びその垂れ落ちたインク滴を突出部で保持するときの状況の経過を示す図である。
【図5】第1変形例によるインクカートリッジの概略斜視図である。
【図6】第2変形例によるインクカートリッジの概略斜視図である。
【図7】第3変形例によるインクカートリッジの概略斜視図である。
【図8】第4変形例によるインクカートリッジの概略斜視図である。
【図9】第5変形例によるインクカートリッジの概略斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 プリンタ
13 スイッチ(検知手段)
19 挿入部
20 インクカートリッジ
20a 側面
21 インク室(インク貯溜室)
24 インク供給口
28 バルブ
30,230,330,430,530,630 突出部
30a,230a,430a,530a,630a 先端面(突出先端)
33,233 谷部
31,32,231,232 傾斜面(平面)
38,238,438,538,638 微小間隙
433 凸部
533,633 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリンタに装着されたときにインクをプリンタに供給するインクカートリッジであって、インクが貯溜されたインク貯溜室と、
前記インク貯溜室に貯溜されたインクを排出する供給口と、
前記供給口を介したインク供給方向に関して前記供給口と交差する方向に突出し、前記インク供給方向に関して前記供給口よりも外側に突出先端を有する突出部とを備えており、
前記突出部には、前記供給口から排出されたインクを毛管力によって保持する複数の微小間隙が形成されていることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
前記突出部が前記インク供給方向と平行に突出していることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
前記突出部が前記プリンタに装着されるときの姿勢である装着姿勢にあるときに側面となる一端面から突出していると共に、前記供給口が前記一端面又は前記一端面から突出した位置に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
前記装着姿勢にあるときに、前記突出部が、前記供給口の下方に位置することを特徴とする請求項3に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
前記微小間隙の間隔が、5mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
前記複数の微小間隙が、前記突出部の前記供給口側に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項7】
前記突出部には、鋭角に交わる2つの平面からなる谷部が複数連続して形成されており、各谷部が前記微小間隙を構成することを特徴とする請求項6に記載のインクカートリッジ。
【請求項8】
前記突出部には、所定方向に配列する複数の凸部が形成され、隣接する凸部の対向面は互いに平行であり、隣接する凸部間の空間が前記微小間隙を構成することを特徴とする請求項6に記載のインクカートリッジ。
【請求項9】
前記突出部には、複数の貫通孔が形成されており、各貫通孔の内壁面が前記微小間隙を構成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項10】
前記プリンタに装着された際に、前記突出部が挿入される挿入部が前記プリンタに形成されており、
前記突出部が、前記挿入部の内周面形状に対応した断面形状を有しており、前記プリンタに装着された際に、前記挿入部の内部に設けられた前記突出部の有無を検知する検知手段によって検知されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項11】
前記供給口からインクが排出される状態と、前記供給口からインクが排出されない状態とを切換可能なバルブをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−268792(P2007−268792A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95662(P2006−95662)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】