説明

インクカートリッジ

【課題】漏れたインクがインク滴となって垂れ落ちることを効果的に防止することができるインクカートリッジの提供。
【解決手段】インクカートリッジ10は、インクが収容されるカートリッジ本体20を備える。カートリッジ本体20の背面102には、カートリッジ本体102の外側へ突出された筒状のインク流通部99が設けられている。インクカートリッジ10の装着状態では、このインク流通部99内にインク流路120が形成される。インク流通部99の外周面63はキャップ95で覆われている。このキャップ95の内面112には、第1溝118が設けられている。インク流通部99の先端155から漏れたインクは、この第1溝118に沿ってカートリッジ本体20側へ導かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク供給装置に着脱されるインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式の記録装置は、画像記録に使用されるインクを供給するインク供給装置を備えている。このインク供給装置にはインクカートリッジが装着される。インクカートリッジは、その本体の内部にインクを収容するインク室を有している。また、インクカートリッジの本体の壁面には、インク室内のインクを外部へ導出するための開口が形成されている。インクカートリッジがインク供給装置に装着されると、インク室内のインクが上記開口を通じて導出されて記録装置へ供給される。記録装置は、このようにしてインクカートリッジから供給されたインクを記録ヘッドから記録用紙へ向けて選択的に噴出する。これにより、記録用紙に画像が記録される。
【0003】
ところで、インク供給装置に対してインクカートリッジが着脱される際に、上記開口からインクが漏れることがある。従来のインクカートリッジには、漏れたインクを上記開口付近に保持する手段を備えるものがある(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に記載のインクカートリッジは、インク室に収容されたインクを外部へ導出するためのインク供給口を備えている。このインクカートリッジは、インク供給口が設けられている部分の周囲に凹凸状部が形成されている。この凹凸状部は、複数の凹部と凸部とから構成されている。インク供給口の周辺には上記凹凸状部が設けられているので、インク供給口から漏れたインクに対して毛管力が作用してインクが凹凸状部に保持される。
【0005】
【特許文献1】特開平9−29993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のインクカートリッジでは、保持されたインクがインク供給口付近に溜まる。このため、例えばインクカートリッジの着脱が繰り返された場合には、凹凸状部に保持されたインクがインク滴となり、インク供給口から垂れ落ちるおそれがあった。
【0007】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、漏れたインクがインク滴となって垂れ落ちることを効果的に防止することができるインクカートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係るインクカートリッジは、本体と、第1孔と、インク流通部と、キャップと、第1溝と、を備えている。本体は、インクが収容されるものである。第1孔は、上記本体の所定の壁面に形成されている。インク流通部は、上記第1孔の周縁から上記本体の外側へ突出されている。このインク流通部は、当該インクカートリッジがインク供給装置の収容部に装着された状態でインク流路を形成する筒状のものである。キャップは、上記インク流通部に装着されて該インク流通部の外周面を覆う。また、キャップは、該インク流通部に装着された状態で上記インク流路と外部とを連通する第2孔を有する。第1溝は、上記キャップの内面に形成されており、上記インク流通部の外周面を覆う第1被覆部位から上記第2孔まで延出されている。
【0009】
インクジェット記録方式の記録装置は、インク供給装置を備えている。インク供給装置は、インクカートリッジに収容されているインクを記録装置の記録ヘッドへ供給するものである。本発明のインクカートリッジは、このインク供給装置の収容部に装着される。収容部にインクカートリッジが装着されると、例えば収容部に設けられたインク供給管がキャップの第2孔を通じてインク流通部に挿入される。これにより、本体に収容されたインクがインク流通部、及びインク供給管を通じて記録装置へ供給可能となる。収容部に対してインクカートリッジが着脱される際に、インク流通部の先端からインクが漏れてキャップの内側に付着することがある。インク流通部の外周面は、キャップで覆われている。キャップの内面に第1溝が形成されている。この第1溝は、キャップの内面のうちインク流通部の外周面を覆う第1被覆部位からキャップの第2孔まで延出されている。キャップの内側に付着したインクは、いわゆる毛細管現象によって第1溝に引き込まれて当該第1溝に保持される。すなわち、キャップの内側に付着したインクが上記本体側へ導かれる。
【0010】
(2) 上記第1溝の延出方向へ延びる第2溝が当該第1溝の内壁に設けられていてもよい。
【0011】
これにより、第1溝に引き込まれたインクが毛細管現象によって第2溝へ引き込まれ、上記本体側へ効率良く導かれる。
【0012】
(3) 上記インク流通部の外周面と上記キャップの内面との隙間を密閉するシール部材を更に備え、上記第1溝は、上記シール部材を覆う第2被覆部位を介して上記第1被覆部位から上記第2孔まで延出されていてもよい。
【0013】
上記構成により、シール部材がキャップの内面に密着している場合であっても、キャップの内側に付着したインクが第1溝に沿ってシール部材よりも本体側へ導かれ、当該第1溝に保持される。
【0014】
(4) 上記キャップの壁面と上記シール部材との間に空隙が設けられており、上記第1溝の一端は、上記空隙に開放されていることが好ましい。
【0015】
キャップの内側に付着したインクが上記空隙に溜まる。キャップの第1溝がこの空隙に開放されているので、第1溝へインクを引き込む力がインクに対して効果的に作用する。
【0016】
(5) 上記インク流通部は、当該インクカートリッジが上記収容部に装着されることにより、当該収容部に設けられたインク供給管が上記第2孔を通じて挿入されるものであり、上記シール部材は、上記キャップの内面、上記インク流通部の先端、及び上記インク供給管の外周面に液密的に密着するシール部材本体と、該シール部材本体に上記インク供給管の外径よりも小さく形成され、当該インク供給管が挿通される第3孔と、を有する円筒形状のものであってもよい。
【0017】
インク供給管は、キャップの第2孔、及びシール部材の第3孔を通じてインク流通部に挿入される。この状態では、インク供給管の外周面とインク流通部の先端との隙間がシール部材によって覆われているので、インクの漏れが防止される。インク供給管は、インクカートリッジの着脱時に第3孔及び第2孔に対して挿抜される。その際、インクが漏れてキャップの内側に付着することがある。このインクは、上述のように、上記第1溝に引き込まれて当該第1溝に保持される。
【0018】
(6) 上記インク流通部に対して上記キャップを所定の姿勢で保持する保持具を更に備え、上記所定の壁面は、当該インクカートリッジが上記収容部に装着される装着姿勢において上記本体の側面を構成し、上記第1溝は、上記装着姿勢において上記インク流通部の下部に配置されてもよい。
【0019】
インクには重力が作用しているので、漏れたインクはインク流通部の下側に付着しやすい。このため、上記構成により、インクカートリッジが収容部に装着された装着姿勢において第1溝がインク流通部の下部に配置されることが好ましい。
【0020】
(7) 本発明のインクカートリッジは、カバー部材と弾性部材とを備えていてもよい。カバー部材は、上記本体の上記所定の壁面側を内部に収容するカバー本体と、該カバー本体に形成され、上記キャップが挿通される挿通孔と、を有する。カバー部材は、上記所定の壁面から離隔されて上記キャップが上記カバー本体の内側に配置された第1位置と、該第1位置よりも上記所定の壁面に近付けられて上記キャップが上記挿通孔から上記カバー本体の外側に露出された第2位置との間で移動可能である。弾性部材は、上記本体と上記カバー部材との間に設けられ、上記カバー部材を上記第2位置から上記第1位置へ移動させる方向へ付勢する。
【0021】
上記構成により、インクカートリッジが収容部から取り外されると、弾性部材の付勢力によってカバー部材が第1位置に配置された状態が維持される。この状態では、キャップがカバー部材で覆われるので、万一インクが第1溝に引き込まれることなくインク流通部から垂れ落ちても、カバー部材の外にインクが漏れることが防止される。
【0022】
(8) 本発明は、本体と、第1孔と、インク流通部と、キャップと、シール部材と、保持具と、第1溝と、第2溝と、カバー部材と、弾性部材と、を備えるインクカートリッジとして具体的に実現される。本体は、インクが収容されるものである。第1孔は、上記本体の所定の壁面に形成されている。インク流通部は、上記第1孔の周縁から上記本体の外側へ突出され、当該インクカートリッジがインク供給装置の収容部に装着された状態でインク流路を形成する。このインク流通部は、当該インクカートリッジが上記収容部に装着されることにより、当該収容部に設けられているインク供給管が挿入される筒状のものである。キャップは、上記インク流通部に装着されて該インク流通部の外周面を覆う。キャップは、該インク流通部に装着された状態で上記インク流路と外部とを連通する第2孔を有する。シール部材は、シール部材本体と、第3孔とを有する円筒形状のものである。シール部材本体は、上記キャップの内面、上記インク流通部の先端、及び上記インク供給管の外周面に液密的に密着される。第3孔は、該シール部材本体に上記インク供給管の外径よりも小さく形成され、当該インク供給管が挿通される。保持具は、上記インク流通部に対して上記キャップを所定の姿勢で保持する。第1溝は、上記キャップの内面に形成され、上記インク流通部の外周面を覆う第1被覆部位から上記シール部材の外周面を覆う第2被覆部位を介して上記第2孔まで延出されている。この第1溝は、当該インクカートリッジが上記収容部に装着される姿勢において上記インク流通部の下部に配置される。第2溝は、上記第1溝の内壁に形成されている。この第2溝は、当該第1溝の延出方向へ延びるように設けられている。カバー部材は、上記本体の上記所定の壁面側を内部に収容するカバー本体と、該カバー本体に形成され、上記キャップが挿通される挿通孔と、を有する。カバー部材は、上記所定の壁面から離隔されて上記キャップが上記カバー本体の内側に配置された第1位置と、該第1位置よりも上記所定の壁面に近付けられて上記キャップが上記挿通孔から上記カバー本体の外側に露出された第2位置との間で移動可能である。弾性部材は、上記本体と上記カバー部材との間に設けられ、上記カバー部材を上記第2位置から上記第1位置へ移動させる方向へ付勢する。上記キャップの壁面と、上記シール部材との間に空隙が設けられている。上記第1溝の一端は、上記空隙に開放されている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、漏れたインクがインク滴となって垂れ落ちることが効果的に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、本実施形態は本発明を具体化した一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0025】
まず、本発明の一実施形態に係るインクカートリッジ10の構成について説明する。
【0026】
[図面の説明]
図1は、本発明の一実施形態に係るインクカートリッジ10の外観形状を示す斜視図であり、(A)は第1カバー21が第2位置に配置された状態を示し、(B)は第1カバー21が第1位置に配置された状態を示す。図2は、インクカートリッジ10の側面図であり、(A)は第1カバー21が第2位置に配置された状態を示し、(B)は第1カバー21が第1位置に配置された状態を示す。図3は、カートリッジ本体20の内部構造を示す側面図である。図4は、カートリッジ本体20の分解斜視図である。図5は、カートリッジ本体20のインク流通部99付近の構造を示す部分断面図であり、インク供給孔91が閉塞された状態を示す。図6は、弁体31の斜視図である。図7は、カートリッジ本体20のインク流通部99付近の構造を示す部分断面図であり、インク供給孔91が開放された状態を示す。図8は、キャップ95の斜視図であり、(A)はキャップ95の外側を示し、(B)はキャップ95の内側を示す。図9は、カートリッジ本体20の背面図であり、キャップ95付近の構造を示す。図10は、キャップ95の縦断面図であり、第1溝118及び第2溝121を示す。図11は、図8(B)におけるXI部の拡大図である。なお、図4ではアーム150(図3参照)が省略されている。また、図5及び図7では、第2溝121(図8〜図10参照)が省略されている。
【0027】
インクジェット方式のプリンタに代表される記録装置には、インク供給装置が設けられている。インク供給装置は、記録装置の記録ヘッドへインクを供給するものである。インクカートリッジ10(本発明のインクカートリッジの一例)は、このインク供給装置に装着されて使用される。詳細については省略するが、インクカートリッジ10は、インク供給装置が備える不図示の収容部に着脱可能に構成されている。この収容部には、インクニードル49(本発明のインク供給管の一例、図7参照)が設けられている。インクニードル49は、記録装置の記録ヘッドから導出されたインク管の先端に設けられた針状の樹脂管である。収容部にインクカートリッジ10が装着されると、後述するインク供給孔91(本発明の第3孔の一例、図5参照)にインクニードル49が挿入される。これにより、インクカートリッジ10に収容されたインクが記録装置の記録ヘッドへ供給可能となる。
【0028】
図1及び図2に示されるように、インクカートリッジ10は、扁平形状の略六面体として構成されている。詳細には、インクカートリッジ10は、幅方向(矢印51の方向)に細く、高さ方向(矢印52の方向)及び奥行き方向(矢印57の方向)が上記幅方向よりも長い略直方体形状に形成されている。
【0029】
図1及び図2に示されるように、インクカートリッジ10は、大別して、カートリッジ本体20(本発明の本体の一例、図3参照)と、第1カバー21(本発明のカバー部材の一例)と、第2カバー22と、コイルバネ23,24(本発明の弾性部材の一例)とを備えている。インクカートリッジ10の外装は、第1カバー21及び第2カバー22で構成されている。カートリッジ本体20は、内部にインクが収容されるインク室100(図3参照)が形成されている。このカートリッジ本体20は、各カバー21,22で覆い隠されている。なお、本実施形態では、カートリッジ本体20、第1カバー21及び第2カバー22は樹脂材料により構成されている。樹脂材料としては、例えばナイロンやポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0030】
インクカートリッジ10は、図1及び図2に示された起立状態、つまり、図中の下側の面を底面122とし、図中の上側の面を上面123として上記収容部に対して矢印56(図1及び図2参照)で示される方向(以下「挿入方向56」と称する。)へ挿入される。したがって、後述するカートリッジ本体20の背面102(本発明の所定の壁面の一例、図3参照)は、インクカートリッジ10がインク供給装置の収容部に装着された装着姿勢(上記起立状態)においてカートリッジ本体20の側面を構成する。
【0031】
第1カバー21は、カートリッジ本体20の挿入方向56の前方側の部分(以下「前方部」と称する。)を収容可能な容器形状に形成されている。第2カバー22は、カートリッジ本体20の挿入方向56の後方側の部分(以下「後方部」と称する。)を収容可能な容器形状に形成されている。第1カバー21及び第2カバー22は、カートリッジ本体20の略全体を覆う。詳細には、カートリッジ本体20の前方部が第1カバー21によって覆われ、カートリッジ本体20の後方部が第2カバー22によって覆われる。これにより、カートリッジ本体20の前方側が第1カバー21によって保護され、カートリッジ本体20の後方側が第2カバー22によって保護される。
【0032】
第1カバー21は、カバー本体18(本発明のカバー本体の一例)と挿通孔19(本発明の挿通孔の一例)とを有する。カバー本体18は、カートリッジ本体20の上記前方部を覆う。カートリッジ本体20は、その背面102側がカバー本体18の内部に収容される(図2参照)。カートリッジ本体20の背面102に対応する前壁161の下部に挿通孔19が形成されている。挿通孔19にキャップ95(本発明のキャップの一例)が挿通される。このため、挿通孔19は、キャップ95に対応する位置及び大きさに形成されている。
【0033】
この第1カバー21は、カートリッジ本体20を保持する第2カバー22に対して奥行き方向(矢印57の方向)へスライド可能に構成されている(図2参照)。図1(A)及び図2(A)には、第1カバー21がカートリッジ本体20の背面102に最も近付いた第2位置にスライドされた状態が示されている。図1(B)及び図2(B)には、第1カバー21がカートリッジ本体20の背面102から最も離隔された第1位置へスライドされた状態が示されている。図1(A)及び図2(A)に示されるように、第1カバー21が上記第2位置へスライドされることによって、後述の大気連通バルブ80のロッド84が押圧され、インク供給バルブ90が外部へ露出される。すなわち、第1カバー21が第2位置に配置された状態では、インク供給バルブ90のキャップ95が挿通孔19からカバー本体18の外側に露出される。また、図1(B)及び図2(B)に示されるように、第1カバー21が上記第1位置へスライドされることによって、大気連通バルブ80のロッド84が元の状態(待機状態)に復帰し、インク供給バルブ90が第1カバー21内に没入する。すなわち、第1カバー21が第1位置に配置された状態では、キャップ95がカバー本体18の内側に配置される。
【0034】
図2に示されるように、第1カバー21の前壁161の裏面、すなわち、カートリッジ本体20の背面102に対向する対向面に支持バー168,169が設けられている。支持バー168は、コイルバネ23を支持するとともにその伸縮方向を第1カバー21のスライド方向へ規制するものである。また、支持バー169は、コイルバネ24を支持するとともにその伸縮方向を第1カバー21のスライド方向へ規制するものである。具体的には、支持バー168は、前壁161の上端の裏面であって、バネ収容室130(図4参照)と対応する位置に設けられている。また、支持バー169は、前壁161の下端の裏面であって、バネ収容室131(図4参照)と対応する位置に設けられている。
【0035】
図2に示されるように、支持バー168,169は、前壁161の裏面から本体20の奥行き方向(矢印57の方向)へ突出された棒状の部材で構成されている。バネ収容室130にコイルバネ23が収容され、バネ収容室131にコイルバネ24が収容された状態で、第1カバー21が本体20の前方部に嵌め入れられる。その際、支持バー168がコイルバネ23の内孔に挿通され、支持バー169がコイルバネ24の内孔に挿通される。これにより、各コイルバネ23,24が支持バー168,169で支持される。また、コイルバネ23,24の伸縮方向が支持バー168,169の延出方向、つまり、カートリッジ本体20の奥行き方向に規制される。このように、カートリッジ本体20と第1カバー21の前壁161との間にコイルバネ23,24が設けられる。
【0036】
本実施形態では、コイルバネ23,24は、所謂圧縮コイルバネとして用いられる。つまり、第1カバー21が上記前方部に装着された状態で、コイルバネ23,24が圧縮されてバネ収容室130,131(図4参照)に収容される。したがって、第1カバー21のスライド位置に関係なく、コイルバネ23,24は、常に、第1カバー21をカートリッジ本体20の背面102から離隔する方向へ付勢している。すなわち、コイルバネ23,24は、第1カバー21を上記第2位置から上記第1位置へ移動させる方向へ弾性的に付勢している。
【0037】
[カートリッジ本体20]
カートリッジ本体20は、図3に示されるように、大別して、フレーム110と、大気連通バルブ80と、インク供給バルブ90と、アーム150とを備える。フレーム110は、カートリッジ本体20の筐体を構成する部材であり、カートリッジ本体20の六面101〜106を形成する。したがって、カートリッジ本体20の各面101〜106は、フレーム110の六面に一致する。以下において、カートリッジ本体20の各面に付された符号(101〜106)を用いてフレーム110の各面を示す。
【0038】
フレーム110は、透光性のある樹脂材料で構成されており、例えば、樹脂材料を射出成形することにより得られる。フレーム110は、透光性を有するものであれば如何なる樹脂で構成されていてもよく、例えば、透明或いは半透明の樹脂で構成することも可能である。樹脂材料としては、ポリアセタールやナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。フレーム110は、正面101、上面103、背面102、底面104に概ね沿って環状に形成されている。これにより、フレーム110の左面105及び右面106に開口が形成されている。
【0039】
フレーム110の左面105、右面106それぞれに、透明な樹脂で構成された薄肉状のフィルム(不図示)が貼り付けられている。具体的には、フィルムは、フレーム110の左面105、右面106の外縁部分に超音波溶着されている。このフィルムによって左面105及び右面106の開口が閉塞される。これにより、フレーム110とフィルムとによって囲まれた空間がインク室100として区画される。このように区画されたインク室100にインクが収容される。なお、本実施形態では、フレーム110とフィルムとによってインク室100を形成することとしたが、例えば、フレーム110自体を直方体の容器状に形成することによってその内部にインク室100が形成してもかまわない。
【0040】
図3及び図4に示されるように、フレーム110の正面101にインク注入部15が形成されている。インク注入部15は、背面102からインク室100側に穿設された略円筒状の孔である。インク注入部15は、インク室100に連通している。このインク注入部15は、インクをインク室100に注入するためのものであり、インク注入部15を通じてインクがインク室100へ流入する。
【0041】
図3及び図4に示されるように、フレーム110の背面102の中段付近に検知部140が形成されている。検知部140は、インク室100に収容されているインクの量を視覚的或いは光学的に検知するためのものである。検知部140は、フレーム110と同じ材質、つまり、外部からの光を透過することができる透明の樹脂材料で構成される。なお、検知部140には、インク供給装置に取り付けられたフォトインタラプタなどの発光素子及び受光素子からなる光センサによって検出光が照射される。そして、検知部140を透過した検出光が上記受光素子に受光される。
【0042】
図3に示されるように、検知部140の内部には空間142が形成されている。検知部140のインク室100側には壁は設けられておらず、空間142がインク室100に連続して通じている。この空間142に、アーム150のインジケータ部152が進入或いは退出する。なお、図3には、インジケータ部152が空間142に進入した姿勢が示されている。
【0043】
アーム150は、インク室100に収容されたインクの液量を検知するための部材である。アーム150の一方端に、空間142に進入或いは退出されるインジケータ部152が設けられている。アーム150の他方端に、フロート部153が設けられている。このアーム150は、カートリッジ本体20に矢印61の方向へ回動可能に支持されている。フロート部153は、例えば、内部が中空状に形成されており、インクなどの液体に対して浮力を有する浮力体の役割を担っている。したがって、フロート部153は、インク量の増減に応じて上下に変位する。これにより、フロート部153の変位に応じてアーム150が回動して、インジケータ部152が空間142に進入或いは退出する。空間142におけるインジケータ部152の有無を検知部140の外部からフォトインタラプタなどの光センサで監視することで、インク室100内のインクの液量が一定量あるかどうかを検知することができる。
【0044】
図4に示されるように、フレーム110の背面102の上部、言い換えれば、検知部140の上方に、円形の開口82が設けられている。開口82に連続してフレーム110の内部側に円筒状のバルブ収容室55が形成されている。バルブ収容室55は、カートリッジ本体20の奥行き方向(矢印57の方向)へ延設されている。バルブ収容室55は、その奥部においてインク室100に連通している。バルブ収容室55に、大気連通バルブ80が収容されている。
【0045】
大気連通バルブ80は、開口82からインク室100の空気層に至る経路を開放又は閉塞する弁機構として構成されている。図4に示されるように、大気連通バルブ80は、圧縮コイルバネ86と、バルブ本体87と、シール部材83と、キャップ85とを有している。これらの各部材は、ポリアセタールやシリコンゴムなどの樹脂で構成されている。
【0046】
大気連通バルブ80は、上記各要素(圧縮コイルバネ86、バルブ本体87、シール部材83、キャップ85)がそのその順序で係合されることによって構成される。上記各要素のうち、圧縮コイルバネ86、バルブ本体87がバルブ収容室55に収容される。また、シール部材83、キャップ85は、開口82の周縁に装着される。
【0047】
バルブ本体87は、バルブ収容室55において、カートリッジ本体20の奥行き方向(矢印57の方向)へスライド可能に設けられている。バルブ本体87は、蓋体88とロッド84とを有する。ロッド84は、蓋体88の中心軸から開口82の中心を通って外側へ突出している。開口82の外縁部分にシール部材83を介してキャップ85が取り付けられている。キャップ85及びシール部材83には貫通孔が設けられている。ロッド84は、この貫通孔を通じてバルブ収容室55の外側へ突出されている。
【0048】
圧縮コイルバネ86は、蓋体88をシール部材83に近づける方向へバルブ本体87を押圧している。このため、蓋体88がシール部材83に密着している。したがって、大気連通バルブ80は、常時は、バルブ収容室55から外部に至る通路を閉塞している。上記収容部に対してインクカートリッジ10が装着される過程で、ロッド84がバルブ収容室55の奥部側へ向けて押圧される。これにより、圧縮コイルバネ86の付勢力に抗してバルブ本体87の蓋体88がシール部材83から離隔する。その結果、バルブ収容室55から外部に至る通路が開放される。この状態では、開口82を通じてインク室100内に大気が流入するので、インク室100内の空気層が大気圧と同圧になる。
【0049】
[連通孔98]
カートリッジ本体20の背面102の下部に連通孔98(本発明の第1孔の一例)が設けられている(図5参照)。この連通孔98の周縁に連続して、カートリッジ本体20の外側へ突出する円筒状のインク流通部99(本発明のインク流通部の一例)が形成されている(図4及び図5参照)。図5に示されるように、インク流通部99は、連通孔98の周縁に連続してカートリッジ本体20の内側まで延出されている。このインク流通部99によってバルブ収容室54が構成されている。バルブ収容室54は、カートリッジ本体20の奥行き方向(矢印57の方向)へ延設されている。インク流通部99は、その奥部において奥壁53に貫通孔28が形成されている。バルブ収容室54は、この貫通孔28を通じてインク室100に連通している。このバルブ収容室54にインク供給バルブ90(図4参照)が収容されている。
【0050】
図4に示されるように、インク流通部99の先端155に開口92が形成されている。インク供給バルブ90は、この開口92からバルブ収容室54を通じてインク室100に至る経路を開放又は閉塞する弁機構として構成されている。インク供給バルブ90は、弁体31と、弁座37と、圧縮コイルバネ96と、バルブ本体97と、シール部材93(本発明のシール部材の一例)と、キャップ95とを有している。これらの各部材は、ポリアセタールやシリコンゴムなどの樹脂で構成されている。
【0051】
インク供給バルブ90は、上記各要素(弁体31、弁座37、圧縮コイルバネ96、バルブ本体97、シール部材93、キャップ95)がその順序で係合されることによって構成される。上記各要素のうち、弁体31、弁座37、圧縮コイルバネ96、バルブ本体97がバルブ収容室54に収容される。また、シール部材93とキャップ95は、インク流通部99の開口92の周縁に装着される。
【0052】
図5に示されるように、バルブ収容室54の奥部に弁体31が設けられている。具体的には、弁体31は、第2端44(図6参照)が弁座37に保持された状態で、第1端43(図6参照)が奥壁53に密着するように配置されている。弁体31は、奥壁53の貫通孔28を開閉するバルブであり、例えばシリコンゴムを射出成形することにより得られる。
【0053】
図6に示されるように、弁体31は、筒体33、内壁34、蓋体35、及び貫通孔41を備える。筒体33は、外径寸法がインク流通部99の内径寸法と略等しい筒状に形成されている。筒体33は、弁座37を介して圧縮コイルバネ96からの押圧力を受ける。この押圧力によって筒体33が奥壁53に密着する。内壁34は、筒体33の内部に筒体33の中心線46(図6参照)と交差する方向に延設されている。内壁34は、断面視で屈曲形状に形成されている(図5参照)。この内壁34は、本実施形態ではシリコンゴムが薄肉に形成されたものであるので、可撓性を有している。このため、内壁34は、インクからの動圧を受けて容易に変形する。なお、内壁34には、その表裏面方向(図6における上下方向)に貫通する貫通孔41が形成されている。貫通孔41は、インクの流路を形成するものである。すなわち、この貫通孔41を通じてインクが流れる。内壁34の中央に蓋体35が配設されている。蓋体35は、奥壁53の貫通孔28を開閉するものであり、貫通孔28を閉塞可能な球状に形成されている。
【0054】
弁座37(図5参照)は、弁体31を保持するものであり、例えばポリプロピレン樹脂を射出成形することにより得られる。弁座37は、弁座基部38と弁体受け部39とを備えて構成されている。弁座基部38は、弁体受け部39の裏面の中心部から突出された棒状の部材で構成されている。弁座基部38の外径寸法は、圧縮コイルバネ96の内径寸法よりも若干小さく設定されている。インク供給バルブ90の組み付け時には、バルブ収容室54に弁座37が収容されてから圧縮コイルバネ96が収容される。その際、弁座基部38が圧縮コイルバネ96の内孔に挿通される。これにより、圧縮コイルバネ96が弁体受け部39の裏面及び弁座基部38に支持される。これにより、圧縮コイルバネ96の伸縮方向がバルブ収容室54の延出方向に規制される。
【0055】
弁座基部38の基端に連続して弁体受け部39が設けられている。弁体受け部39は、弁体31を保持するものである。弁体受け部39は、インク流通部99の内面形状に合わせて概ね円柱状に形成されている。弁体受け部39は、弁体31が嵌め入れられる凹陥部36を有している。凹陥部36の内径寸法は、弁体31の外径寸法よりも若干大きく設定されている。また、凹陥部36の深さは、筒体33の軸線方向の厚みとほぼ等しく設定されている。この凹陥部36の底面には、インクが流通する貫通孔(不図示)が設けられている。弁座37は、凹陥部36に弁体31が嵌め込まれた状態で、圧縮コイルバネ96の押圧力を受けて弁体31の筒体33を奥壁53へ向けて押圧する。
【0056】
このように弁体31及び弁座37が構成されているので、バルブ収容室54内のインクが貫通孔28を通じてインク室100へ逆流すると、逆流したインクが内壁34を押圧する。この押圧力により、内壁34が伸張して蓋体35が貫通孔28へ向けて移動する。蓋体35が貫通孔28に当接すると、蓋体35が奥壁53に密着して貫通孔28を閉塞する。これにより、バルブ収容室54からインク室100へのインクの逆流が防止される。また、インク室100内のインクがバルブ収容室54へ流れる場合は、貫通孔28を通じてバルブ収容室54に流入したインクが内壁34を押圧する。この押圧力により、内壁34が収縮して蓋体35が貫通孔28から離隔する。これにより、貫通孔28が開放される。上述のように、内壁34に貫通孔41が形成され、弁体受け部39の凹陥部36の底面に貫通孔(不図示)が形成されている。このため、貫通孔28、貫通孔41、及び凹陥部36の底面の貫通孔を通じてインクが流れる。
【0057】
図5に示されるように、バルブ収容室54に圧縮コイルバネ96が設けられている。圧縮コイルバネ96は、弁座37の弁体受け部39とバルブ本体97の壁78との間に収縮された状態で配置されている。このため、圧縮コイルバネ96は、弁体31の筒体33が奥壁53に密着するように弁体受け部39を弾性的に付勢している。また、圧縮コイルバネ96は、インク経路を形成するインク供給孔91を閉塞する方向(図5における右方向)へバルブ本体97を弾性的に付勢している。つまり、圧縮コイルバネ96は、バルブ本体97をシール部材93へ近付ける方向へ弾性的に付勢している。したがって、インク供給バルブ90は、常時は、バルブ本体97でインク供給孔91を閉塞している。一方、インク供給孔91にインクニードル49(図7参照)が挿入されると、圧縮コイルバネ96の付勢力に抗してバルブ本体97がシール部材93から離隔される。これにより、インク供給孔91が開放される。
【0058】
シール部材93は、カートリッジ本体20の外部からバルブ収容室54にインクニードル49を挿通するものである。シール部材93は、密封性を高めるべく、弾性変形可能なゴムなどの樹脂で構成されている。シール部材93は、インク流通部99の内径、開口92の形状、及びキャップ95の内径に合わせて、円筒形状に形成されている。シール部材93は、シール部材本体75(本発明のシール部材本体の一例)とインク供給孔91とを有する。シール部材本体75は、図5に示されるように、インク流通部99の内周面に嵌め入れられる第1円柱部72と、開口92の周縁に当接される第2円柱部73とを有する。第1円柱部72の外径寸法は、インク流通部99の内径寸法とほぼ等しく設定されている。第2円柱部73の外径寸法は、キャップ95の内径寸法とほぼ等しく設定されている。インク流通部99の先端155にシール部材93が配置された状態でキャップ95が装着されると、シール部材本体75は、インク流通部99の開口92の周縁に押し付けられる。これにより、シール部材本体75は、インク流通部99の先端155に液密的に密着する。また、第2円柱部73がキャップ95とインク流通部99の先端155とによって挟み込まれるよう押圧力を受けるので、第2円柱部73が拡径するように弾性変形する。これにより、第2円柱部73の外周面がキャップ95の内面112(本発明の内面の一例)に液密的に密着する。すなわち、インク流通部99の先端155において、インク流通部99の外周面63(本発明の外周面の一例)とキャップ95の内面112との隙間が第2円柱部73によって密閉される。
【0059】
シール部材本体75には、第1円柱部72及び第2円柱部73の中心を貫通するインク供給孔91が形成されている。上述のように、このインク供給孔91にインクニードル49が挿通される。インク供給孔91は、インクニードル49の外径よりもやや小さく形成されている。したがって、インク供給孔91にインクニードル49が挿通されると、インクニードル49の外周面48(図7参照)がインク供給孔91の内面を押圧して密着する。言い換えれば、シール部材本体75の第1円柱部72がインクニードル49の外周面48に液密的に密着する。これにより、インクニードル49は、バルブ収容室54と外部との密封状態を維持したまま、バルブ収容室54へ挿通される。
【0060】
[キャップ95]
開口92の外縁部分にシール部材93を介してキャップ95が取り付けられている。キャップ95は、シール部材93をインク流通部99の先端155に固定するとともにインクニードル49をバルブ収容室54へ導くものである。図8に示されるように、キャップ95は、大別して、キャップ本体113と、保持具115(本発明の保持具の一例)と、第1溝118(本発明の第1溝の一例)と、第2溝121(本発明の第2溝の一例)を有して構成されている。
【0061】
図8〜図10に示されるように、キャップ本体113は、壁125と、挿通孔111(本発明の第2孔の一例)と、第1側壁126と、第2側壁127とを有する。壁125は、キャップ95の奥面を構成する円盤状のものである。この壁125の中央に挿通孔111が形成されている。インクニードル49は、この挿通孔111を通じてインク供給孔91に対して挿抜される。このため、挿通孔111は、インクニードル49の外径寸法よりも大きく形成されている。上記収容部にインクカートリッジ10が装着されると、挿通孔111、及びインク流通孔91を通じてインク流通部99にインクニードル49が挿入される。インク流通部99にキャップ95が装着された状態では、インク流通部99内に形成されるインク流路と外部とがこの挿通孔111を通じて連通する。このように、インク流通部99は、インクカートリッジ10が上記収容部に装着された状態でインク流路120(図7参照)を形成する。
【0062】
壁125の周縁に連続して円筒形状の第1側壁126が設けられている。第1側壁126は、キャップ95の側面を形成するものである。第1側壁126の外径寸法は、第2側壁127の外径寸法よりも小さく設定されている(図8参照)。また、第1側壁126の内径寸法は、インク流通部99の内径寸法よりもやや小さく設定されている(図5参照)。また、第1側壁126は、第2側壁127に比べて径方向に厚く形成されている。第1側壁126の外周面には複数のリブ124が設けられている。リブ124は、第1側壁126の外周面において周方向に所定の間隔で複数(本実施形態では10個)設けられている。これらのリブ124は、第1側壁126の外周面から径方向外側へ突出するとともに、第1側壁126の軸線方向(図9における紙面に垂直な方向)に延出されている。また、図8(A)に示されるように、リブ124は、その突出端が第2側壁127の外周面と同一平面を形成し、且つ、第2側壁127と連続するように設けられている。これらのリブ124によって、キャップ95の先端側、すなわち、壁125、第1側壁126、及び第2側壁127が補強されている。
【0063】
第1側壁126に連続して、円筒形状の第2側壁127が設けられている。第2側壁127は、第1側壁126とともにキャップ95の側面を形成するものである。第2側壁127の内面は、インク流通部99の外周面63(図5参照)の形状と対応するように形成されている。第2側壁127の内径寸法は、インク流通部99の外径寸法、及びシール部材93の第2円柱部73(図5参照)の外径寸法とほぼ等しく設定されている。このため、インク流通部99にキャップ95が装着されると、インク流通部99の外周面63及びシール部材93の第2円柱部73の外周面76(図5参照)が第2側壁127で覆われる。その際、シール部材93は、キャップ95の第1側壁126からの押圧力を受けて拡径するように弾性変形する。これにより、シール部材93の第2円柱部73の外周面76がキャップ95の内面112に密着する。その結果、インク流通部99の外周面63とキャップ95の第2側面127の内周面との隙間が密閉される。
【0064】
図8に示されるように、第2側壁127の外周面に保持具115が設けられている。本実施形態では、保持具115は、第2側壁127の中心を挟んで第2側壁127の外周面の2箇所に設けられている。保持具115は、図8に示されるように、弾性変形部135及び鉤部136を有して構成されている。弾性変形部135は、第2側壁127の外周面から径方向外側へ突出されてからキャップ95の後端138(図8(B)参照)へ向けて延出された概ねL字形状に形成されている。鉤部136は、後述する被係合部107,109(図5及び図9参照)に係合されるものであり、弾性変形部135の先端から第2側壁127の径方向の外側へ突出されている。弾性変形部135は、鉤部136が第2側壁127の径方向の外側及び内側(図10における紙面に垂直な方向)へ変位するように、第2側壁127の外周面に対して弾性変形可能に構成されている。
【0065】
図5及び図9に示されるように、カートリッジ本体20の背面102には、キャップ95の2つの鉤部136と対応する位置に被係合部107,109が設けられている。被係合部107,109は、保持具115の鉤部136と係合するものである。被係合部107は、背面102に立設された壁108からインク流通部99の外周面63へ向けて下方へ突出されている(図5及び図9参照)。被係合部109は、バネ収容室131を形成する筒体129の外周面からインク流通部99の外周面63へ向けて上方へ突出されている(図5及び図9参照)。
【0066】
図9に示されるように、カートリッジ本体20の背面102には、被係合部107,109と近接する位置にガイド部材67,69が設けられている。ガイド部材67,69は、保持具115を被係合部107,109へ案内するものであり、被係合部107,109よりも背面102から外側へ突出するように設けられている。ガイド部材67,69は、弾性変形部135及び鉤部136が当接するガイド面68,70(図9参照)を有している。
【0067】
キャップ95は、後端138(図8(B)参照)側からシール部材93及びインク流通部99を覆うように装着される。キャップ95が装着される過程では、鉤部136が被係合部107,109に当接する。この状態からキャップ95がカートリッジ本体20の背面102側へ押し込まれると、2つの鉤部136が被係合部107,109に押圧される。この押圧力によって、弾性変形部135がインク流通部99の外周面63に近付くように弾性変形する。キャップ95がさらに押し込まれると、弾性変形部135の弾性力により鉤部136が元の位置に復帰して、鉤部136と被係合部107,109とが係合する(図5参照)。これにより、図5及び図9に示されるように、保持具115がインク流通部99の上部148及び下部149に配置された固定姿勢(本発明の所定の姿勢の一例)でインク流通部99に対してキャップ95が保持される。
【0068】
[第1溝118]
キャップ95の内面112に、概ねキャップ95の軸線方向(図10における上下方向)へ延びるように第1溝118が形成されている。第1溝118は、キャップ95の内面112からキャップ本体113の径方向外側へ凹んだ凹形状に形成されている。このため、第1溝118は、図11に示されるように、対向する2つの側壁117、及びこれらの側壁117と交差する奥壁116によって区画されている。本実施形態では、第1溝118は、キャップ95の軸線方向に沿って第2側壁127の内面に延出されたのち、第1側壁126の内面119(図8及び図11参照)に沿ってキャップ95の中心へ延びるように、断面視で略L字形状に形成されている(図11参照)。内面119は、キャップ95が装着された状態でシール部材93を押圧する押圧面であり、図5に示されるように、シール部材93よりも挿通孔111側に設けられている。図5に示されるように、第1溝118は、第1被覆部位65(図10参照)から第2被覆部位66(図10参照)を介して挿通孔111まで延出されている。ここで、第1被覆部位65は、内面112のうち、キャップ95がインク流通部99の外周面63を覆う部分である。第2被覆部位66は、内面112のうち、キャップ95がシール部材93の外周面76を覆う部分である。第1溝118が第2側壁127の内面112及び第1側壁126の内面119に連続するように形成されているので、シール部材93の第2円柱部73の外周面76が第1溝118で覆われている(図5参照)。
【0069】
第1溝118は、キャップ95の内面112のうち、保持具115と対応する位置に設けられている。すなわち、キャップ95の第2側壁127における保持具115の反対側に第1溝118が設けられている(図10参照)。このため、上記収容部にインクカートリッジ10が装着された装着姿勢(図5及び図9参照)においては、インク流通部99の上部148及び下部149に第1溝118が配置される。
【0070】
図5及び図9に示されるように、インク流通部99にキャップ95が装着された状態では、第1側壁126の内面119(図10参照)によってシール部材93がインク流通部99の先端155(図5参照)に密接される。この状態では、第1側壁126の内側には、壁125の壁面128とシール部材93との間にインク保持部160(本発明の空隙の一例、図5参照)が設けられている。インク保持部160は、インクカートリッジ10の着脱時にシール部材93に付着したインクが保持される空間である。このインク保持部160が設けられていることにより、インク供給孔91から漏れたインクがインク保持部160に一時的に保持される。これにより、漏れたインクがキャップ95の外側へ流れ出ることが抑制されている。キャップ95の内面112に形成された第1溝118は、このインク保持部160まで延出されている。すなわち、第1溝118は、その一端がインク保持部160に開放されている。
【0071】
図8(B)、図10、及び図11に示されるように、第1溝118の奥壁116に第2溝121が設けられている。第2溝121は、第1溝118の奥壁116からキャップ本体113の径方向外側へ凹んだV字形状に形成されている(図11参照)。第2溝121は、その内部空間が第1溝118の内部空間よりも狭くなるように形成されている。第2溝121は、奥壁116の幅方向に複数(本実施形態では5本)並べられている。これらの第2溝121によって奥壁116に凹凸面が形成されている。図11に示されるように、第2溝121は、第1被覆部位65及び第2被覆部位66にわたって、キャップ本体113の軸線方向へ延びるように設けられている。このように、第2溝121は、概ね第1溝118の延出方向へ延びるように設けられている。
【0072】
なお、本実施形態では、内面119の第1溝118には第2溝121が設けられていないが、第2溝121は、内面119の第1溝118の奥壁まで延出されてもよい。また、本実施形態では、奥壁116に5本の第2溝121が設けられているが、第2溝121の数はこれに限定されるものではない。第2溝121は、1本であってもよいし、5本以外の複数本であってもよい。また、第2溝121の形状はV字形状に限定されるものではなく、例えば第1溝118と同じ凹形状であってもよい。また、本実施形態では第2溝121が奥壁116に設けられているが、第2溝121は、奥壁116と交差する第1溝118の側壁117に設けられていてもよい。
【0073】
以下、インク供給装置の収容部に対するインクカートリッジ10の装着過程について説明する。上記収容部にインクカートリッジ10が挿入される過程では、第1カバー21(図1及び図2参照)が収容部から押圧されて、第1位置(図1(B)及び図2(B)参照)から第2位置(図1(A)及び図2(A)参照)へ向けてスライド移動される。その際、まず第1カバー21によってロッド84が押圧されて大気連通バルブ80が作動する。これにより、インク室100と外部との間で大気の流通が可能となる。これに伴い、収容部に設けられているインクニードル49(図7参照)がキャップ95の挿通孔111に挿通される。
【0074】
インクカートリッジ10が更に挿入されると、インクニードル49の先端がインク供給孔91に挿入されてバルブ本体97に当接する。この状態から収容部に対してインクカートリッジ10が更に挿入されると、圧縮コイルバネ96の付勢力に抗してバルブ本体97が押し込まれてバルブ収容室54の奥側へ移動する。これにより、インク供給孔91が開放される。このようにしてバルブ収容室54内(インク流通部99内)に挿し込まれると、バルブ収容室54及びインクニードル49を通じてインク室100内のインクが導出可能となる。インク室100内の圧力がバルブ収容室54内の圧力よりも高い場合、弁体31の蓋体35が貫通孔28から離隔される。このため、図7に示されるように、貫通孔28、貫通孔41、弁体受け部39に設けられた貫通孔(不図示)、及びインクニードル49を通じてインクが流れるインク流路120が形成される。
【0075】
ところで、上記収容部に対してインクカートリッジ10が挿抜される際に、インク供給孔91からインクが漏れる場合がある。キャップ95の内側にはインク保持部160が設けられているので、漏れたインクは、このインク保持部160に保持される。キャップ95の内面112には、このインク保持部160へ開放されるように第1溝118が設けられている。インク保持部160に保持されたインクは、いわゆる毛細管現象によって第1溝118のインク導入部163(図11参照)に引き込まれる。インク導入部163の奥側の第1溝118には、第2溝121が設けられている。このため、第1溝118に引き込まれたインクに対して毛細管現象が生じ、インク導入部163から第2被覆部位66を介して第1被覆部位65へ導かれる。すなわち、インクがインクがカートリッジ本体20側へ導かれる。
【0076】
[本実施形態の作用効果]
以上説明したように、キャップ95の内側に付着したインクは、毛細管現象によって第1溝118に引き込まれて第1溝118に保持される。これにより、漏れたインクがキャップ95の内側(本実施形態ではインク保持部160)に溜まってインク滴となり、挿通孔111を通じてキャップ95の外へ垂れ落ちることが効果的に防止される。
【0077】
また、本実施形態では、第1溝118の奥壁116に第2溝121が形成されている。このため、第1溝118内においても毛細管現象が生じる。その結果、第1溝118に引き込まれたインクが第2溝121に引き込まれ、カートリッジ本体20側へ効率良く導かれる。
【0078】
また、第1溝118が第1被覆部位65から第2被覆部位66を介して挿通孔111まで延出されているので、シール部材93がキャップ95の内面112に密着している場合であっても、キャップ95の内側に付着したインクが第1溝118に沿ってシール部材93よりもカートリッジ本体20側へ導かれて第1溝118に保持される。
【0079】
また、本実施形態では、キャップ95の内側に付着したインクがインク保持部160に溜まる。第1溝118がインク保持部160に開放されているので、第1溝118へインクを引き込む力がインクに対して効果的に作用する。
【0080】
インクには重力が作用しているので、キャップ95の内側のうち、インク流通部99の下側にインクが付着しやすい。第1溝118は、インクカートリッジ10が収容部に装着される装着姿勢においてインク流通部99の下部149に配置されている。このため、漏れたインクが第1溝118に効率良く引き込まれる。
【0081】
本実施形態では、インクカートリッジ10が収容部から取り外された状態では、コイルバネ23,24(図2参照)によって第1カバー21が第1位置に配置された状態が維持される。この状態では、キャップ95が第1カバー21で覆われる。このため、例えばインク供給孔91から漏れたインクが第1溝118に引き込まれなかった場合でも、インクカートリッジ10(第1カバー21)の外にインクが漏れることが防止される。
【0082】
なお、本実施形態ではインクカートリッジ10が第1カバー21及び第2カバー22で覆われている形態について説明したが、第1カバー21及び第2カバー22を有しないインクカートリッジ10にも本発明は適用可能である。
【0083】
また、本実施形態では、インク流通部99の上部148及び下部149に第1溝118が配置される形態について説明した。ただし、第1溝118は、インク流通部99の外周面63の中段付近と対応するようにキャップ95の内面112に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るインクカートリッジ10の外観形状を示す斜視図であり、(A)は第1カバー21が第2位置に配置された状態を示し、(B)は第1カバー21が第1位置に配置された状態を示す。
【図2】図2は、インクカートリッジ10の側面図であり、(A)は第1カバー21が第2位置に配置された状態を示し、(B)は第1カバー21が第1位置に配置された状態を示す。
【図3】図3は、カートリッジ本体20の内部構造を示す側面図である。
【図4】図4は、カートリッジ本体20の分解斜視図である。
【図5】図5は、カートリッジ本体20のインク流通部99付近の構造を示す部分断面図であり、インク供給孔91が閉塞された状態を示す。
【図6】図6は、弁体31の斜視図である。
【図7】図7は、カートリッジ本体20のインク流通部99付近の構造を示す部分断面図であり、インク供給孔91が開放された状態を示す。
【図8】図8は、キャップ95の斜視図であり、(A)はキャップ95の外側を示し、(B)はキャップ95の内側を示す。
【図9】図9は、カートリッジ本体20の背面図であり、キャップ95付近の構造を示す。
【図10】図10は、キャップ95の縦断面図であり、第1溝118及び第2溝121を示す。
【図11】図11は、図8(B)におけるXI部の拡大図である。
【符号の説明】
【0085】
10・・・インクカートリッジ(本発明のインクカートリッジの一例)
18・・・カバー本体
19・・・挿通孔
20・・・カートリッジ本体(本発明の本体の一例)
21・・・第1カバー(本発明のカバー部材の一例)
23,24・・・コイルバネ(本発明の弾性部材の一例)
48・・・外周面
49・・・インクニードル(本発明のインク供給管の一例)
63・・・外周面
65・・・第1被覆部位
66・・・第2被覆部位
75・・・シール部材本体
76・・・外周面
91・・・インク供給孔(本発明の第3孔の一例)
93・・・シール部材(本発明のシール部材の一例)
95・・・キャップ
98・・・連通孔(本発明の第1孔の一例)
99・・・インク流通部
102・・・背面(本発明の所定の壁面の一例)
112・・・内面
111・・・挿通孔(本発明の第2孔の一例)
115・・・保持具
116・・・奥壁(本発明の内壁の一例)
118・・・第1溝
121・・・第2溝
120・・・インク流路
149・・・下部
155・・・先端
160・・・インク保持部(本発明の空隙の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが収容される本体と、
上記本体の所定の壁面に形成された第1孔と、
上記第1孔の周縁から上記本体の外側へ突出され、当該インクカートリッジがインク供給装置の収容部に装着された状態でインク流路を形成する筒状のインク流通部と、
上記インク流通部に装着されて該インク流通部の外周面を覆い、該インク流通部に装着された状態で上記インク流路と外部とを連通する第2孔を有するキャップと、
上記キャップの内面に形成され、上記インク流通部の外周面を覆う第1被覆部位から上記第2孔まで延出された第1溝と、を備えるインクカートリッジ。
【請求項2】
上記第1溝の延出方向へ延びる第2溝が当該第1溝の内壁に設けられた請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
上記インク流通部の外周面と上記キャップの内面との隙間を密閉する筒状のシール部材を更に備え、
上記第1溝は、上記第1被覆部位から上記シール部材の外周面を覆う第2被覆部位を介して上記第2孔まで延出されている請求項1又は2に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
上記キャップの壁面と上記シール部材との間に空隙が設けられており、
上記第1溝の一端は、上記空隙に開放されている請求項3に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
上記インク流通部は、当該インクカートリッジが上記収容部に装着されることにより、当該収容部に設けられたインク供給管が上記第2孔を通じて挿入されるものであり、
上記シール部材は、上記キャップの内面、上記インク流通部の先端、及び上記インク供給管の外周面に液密的に密着するシール部材本体と、該シール部材本体に上記インク供給管の外径よりも小さく形成され、当該インク供給管が挿通される第3孔と、を有する円筒形状のものである請求項3又は4に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
上記インク流通部に対して上記キャップを所定の姿勢で保持する保持具を更に備え、
上記所定の壁面は、当該インクカートリッジが上記収容部に装着される装着姿勢において上記本体の側面を構成し、
上記第1溝は、上記装着姿勢において上記インク流通部の下部に配置される請求項1から5のいずれかに記載のインクカートリッジ。
【請求項7】
上記本体の上記所定の壁面側を内部に収容するカバー本体と、該カバー本体に形成され、上記キャップが挿通される挿通孔と、を有し、上記所定の壁面から離隔されて上記キャップが上記カバー本体の内側に配置された第1位置と、該第1位置よりも上記所定の壁面に近付けられて上記キャップが上記挿通孔から上記カバー本体の外側に露出された第2位置との間で移動可能なカバー部材と、
上記本体と上記カバー部材との間に設けられ、上記カバー部材を上記第2位置から上記第1位置へ移動させる方向へ付勢する弾性部材と、を備える請求項1から6のいずれかに記載のインクカートリッジ。
【請求項8】
インクが収容される本体と、
上記本体の所定の壁面に形成された第1孔と、
上記第1孔の周縁から上記本体の外側へ突出され、当該インクカートリッジがインク供給装置の収容部に装着された状態でインク流路を形成し、当該インクカートリッジが上記収容部に装着されることにより、当該収容部に設けられているインク供給管が挿入される筒状のインク流通部と、
上記インク流通部に装着されて該インク流通部の外周面を覆い、該インク流通部に装着された状態で上記インク流路と外部とを連通する第2孔を有するキャップと、
上記キャップの内面、上記インク流通部の先端、及び上記インク供給管の外周面に液密的に密着されるシール部材本体と、該シール部材本体に上記インク供給管の外径よりも小さく形成され、当該インク供給管が挿通される第3孔と、を有する円筒形状のシール部材と、
上記インク流通部に対して上記キャップを所定の姿勢で保持する保持具と、
上記キャップの内面に形成され、上記インク流通部の外周面を覆う第1被覆部位から上記シール部材の外周面を覆う第2被覆部位を介して上記第2孔まで延出され、当該インクカートリッジが上記収容部に装着される姿勢において上記インク流通部の下部に配置される第1溝と、
上記第1溝の内壁に形成され、当該第1溝の延出方向へ延びる第2溝と、
上記本体の上記所定の壁面側を内部に収容するカバー本体と、該カバー本体に形成され、上記キャップが挿通される挿通孔と、を有し、上記所定の壁面から離隔されて上記キャップが上記カバー本体の内側に配置された第1位置と、該第1位置よりも上記所定の壁面に近付けられて上記キャップが上記挿通孔から上記カバー本体の外側に露出された第2位置との間で移動可能なカバー部材と、
上記本体と上記カバー部材との間に設けられ、上記カバー部材を上記第2位置から上記第1位置へ移動させる方向へ付勢する弾性部材と、を備え、
上記キャップの壁面と、上記シール部材との間に空隙が設けられており、
上記第1溝の一端は、上記空隙に開放されているインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−132104(P2009−132104A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311732(P2007−311732)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】